誰よりも早く戦場に辿り着いた黒スーツのライダーは藤丸一行の到着と同時にホルスターからリボルバーを引き抜く。
挨拶代わりだ――風に掻き消されたその一言と同時に放たれた弾丸は先頭を走るキメラの眉間に叩き込まれた。
鮮血が舞い、キメラの咆哮が戦場たる平原の地平線彼方遙か先にまで轟いた。
「うるせえなあ!? 眉間に弾丸ぶっ込まれたんだからおとなしくしてろ!」
片耳を塞ぎつつ、文句を述べるライダーを追い越すように十二頭の馬が風を切る。
トロイア兵十人、アサシン、アーチャーの駆ける馬だ。キメラの群れへ目掛け一斉攻撃に移行した。
剣が、槍が、矢がキメラへ放たれるも、合成獣は止まらない。鋭利な牙を口から覗かせ、一頭の馬へ噛み付いた。
咀嚼の必要も無い。馬は無残にも首元を抉られ、生命を失い身体のコントロール系統も失っては倒れるしかあるまい。
馬上から投げ出された兵士は鎧の影響もあってか、受け身を取る間も無く大地を転がり回った。
直ぐさまに立ち上がるも、鎧は削がれ、兜も外れている。そして頭部からの出血。立っているのもやっとだろう。
「く、来るな……来るなあああああああああああああああああああ!!」
馬の頭部を食い尽くしたキメラが更なる餌を求め、トロイア兵を標的へ定める。
口元から垂れるは鮮血、足下には砕かれた骨であろう滓が散らばっていた。
馬さえ容易く噛み砕く牙と顎。兵士の脳内には食い散らかされる己の未来しか浮かばず、迫る恐怖へただただ叫ぶしか無い。
キメラが一瞬で距離を詰めようと、跳んだ。
太陽の光に反射する牙が儚くとも美しく見える。しかし、それは地獄へと誘う悪魔の牙。
兵士は腕で目を隠し、依然として叫び続ける。周辺の兵士は各々がキメラの相手で手一杯。
「させん――っ!」
風を斬り裂く一矢がキメラの首を貫く。
空中での不意打ちに呻き声を上げるも、着地と同時に狩りを邪魔したアーチャーへ標的を変える。
「此処は私が引き受ける! 君は別の仲間と合流しろ!」
馬の尻を叩き上げ、自ら的となったアーチャーは倒れた兵士からキメラを引き離す。
「おい、無事か!?」
「あ、あぁ……あの特記戦力に助けられたな」
キメラの速度は馬のソレを遙かに上回る。
アーチャーがどれだけ馬を走らせようが、追い付かれるのは時間の問題である。
「アーチャー、もう追い付かれる! ここは牽制して!」
「それはいい判断だ――だが、私に考えがある」
「……ん?」
「手綱を頼んだぞマスター。私が合図したら旋回してくれ」
弓兵は後方に座るマスターへ手綱を渡し、空いた両腕を解放するように空へ。
投影開始――彼の腕に握られるは対の双剣。
藤丸律花は馬術の心得など持ち合わせていない。
キャメロットでの旅ですら今回と同じようにサーヴァントと同乗していた。
故に急に手綱を渡された所で、何かが出来るという訳では無く、転倒させないだけで精一杯である。
(アーチャーが頼ってくれたんだ――やってみせる)
手綱を握る腕に力が入る。流されるがままに身を任せるのも悪くは無いだろう。
だが、サーヴァントが、アーチャーが己を頼ったのだ。応えてみせる。
藤丸の気合いが伝わったのか、馬の足並みも揃い始め、弓兵の声が響く。
「今だ! 旋回しろ、マスター!」
「頼むよ! 回れえええええええええええええええ!」
手綱を引き寄せ、動きを止めた馬は勢いを殺し切れずに足裏を滑らせる。
大地の表面をめくり続けるも、やがては動きを止め、踵を返した所で視界に飛び込むはすれ違う寸前のキメラ。
上出来だ。弓兵が主へ賛辞を送ったその刹那、風を斬り裂くように双剣が振るわれる。
鮮やかな剣筋は時を忘れる程だった。藤丸が振り返った場所には斬り裂かれたキメラが倒れていた。
「さっすがアーチャー! これで討伐数1だね」
黒スーツのライダーを囲むキメラの数は六。
じりじりと距離を詰めており、包囲網を無傷で切り抜けるのは不可能だろう。
対するライダーは帽子を深く被り、片目でキメラ達を見渡していた。
ひーふーみー……念入りに数え、六体以外のキメラは別に行動していることを確認。
リボルバーに魔力を注ぎ、正面に立つキメラへ照準を合わせ、帽子を空へと投げ捨てる。
「殺されてえ奴から掛かって来い……まずはお前!!」
迫るキメラに自ら距離を詰めると的確に瞳へ弾丸を放ち、潰す。
狼狽えるキメラを簡単に追い抜くと、背後に回り込み尻尾を両腕でがっしりと掴み――不敵な笑みを浮かべた。
「ぶっ飛べえええええ! ってな!」
踏ん張った大地が陥没する程、豪快にキメラを持ち上げ、群れの中心へ放り込む。
キメラがキメラを巻き込み、累計三体の合成獣が団子の状態となっており、絶好の的となる。
リボルバーを構えたライダーは惜しみなく魔力の弾丸を放ち続け、気付けばキメラの残骸が風によって運ばれていた。
「ラスト一頭、こいつで終わり――――っておいおいおい」
最期のキメラへ銃口を向けた瞬間だった。
前触れ一つ無く合成獣は爆発四散。異臭を風に乗せ肉片が飛び散る。
魔力の風化により塵となって消滅するのだが、やはり鼻を襲う異臭からは逃れられない。
帽子を払うように動かすライダー。
最期の一頭を取られたためか機嫌の悪い顔を浮かべている。
爆発四散の芸当などこの戦場に於いて仕掛け人は一人しか思い浮かばず、自然と小言はいつの間にか隣に立っていた彼に向けられる。
「今は俺がかっこよくキメる場面だったよなあ?」
「別に討伐数を競っている訳じゃありませんよ」
「そんなこと言いつつ三頭もパクったろ。俺を囲んでたキメラは六、俺が殺したのは三」
「僕が三体倒したので足したら六……何の問題もありませんね」
「へいへい、そうでござんすよ」
風魔小太郎。キメラの体内に火薬を仕込むなどこの男でしか不可能である。
彼の塩対応をあっさりと流し、ライダーは空を見上げた。
「今日も一段と太陽が輝いているねえ……」
帽子を深く被り片目を隠す。
視線を横に流せば藤丸とアーチャーが駆け寄っており、背後には兵士達が並んでいた。
「藤丸君達も無事だったみたいですね」
「お勤めご苦労さん……ってキメラ相手に戦死者零人か」
「俺はもう少しで喰われそうだったが赤い兄さん達に助けられてな。ありがとう、お陰で助かったよ」
「それにこの坊主もすごいぜ? なんたって俺達に的確な指示を飛ばしてくれたからな!」
「そ、それほどでも……」
「素直に礼を受け取るべきだぞマスター。君は頑張っている」
「そうかな……へへ」
ライダーが零した不吉な言葉であるのだが、キメラの群れ相手に戦死者が発生しないのは本当に珍しい事だ。
熟練された兵士であれど合成獣相手では分が悪く、少なからず生命を落とす者がいた。
此度の遠征は藤丸律花の適切な指示により、誰一人欠けること無く任務達成となる。
二十にも満たない子供だと侮っていた兵士達だったが、彼の力を認めるしかあるまい。
出発前に一言も交わさなかった彼らであるが、今は自然と会話が発生していた。
「やるじゃん、カルデアのマスターは」
「流石は藤丸君ですね。僕もファンになってしまいそうです」
「ファンってなんだよ、アイドルかな?」
「――っ、いえ。なんでもありません。それよりライダー。帰還の合図を」
「しゃあねえなあ……おい!」
馬に跨がり数歩進ませ舞台の戦闘に立つと、ライダーは声を張り上げた。
「今日はお疲れさん! お前達の活躍によりキメラは街へ到着する前に全滅。俺達はトロイアの明日を守ったのだ! さぁ、胸を張って帰還するぞ!!」
ライダーが任務へ赴いた際に最早恒例となっている発破掛け。
言葉は少々悪いものの、兵士達を高揚させるには充分過ぎる宣言である。
彼の信条として、必ず任務終了時に宣言しており、戦時中であれど明日へ向かうための原動力として兵士達へ闘志が注がれている。
「……反応無しって珍しいな」
普段ならば兵士達が呼応し、馬を走らせるのだが今回は一切の声が聞こえない。
言葉の選択を間違っていないと確信するライダー。兵士達の地雷を踏んだのだろうかと思案するも、違うだろう。
黙る兵士達にはアサシンも驚いており、何があったのかと振り返る。
それに釣られ藤丸とアーチャー、ライダーも振り返り――其処には兵士の姿など無い。
彼らが存在していた場所には――同じ数だけのキメラが牙を光らせていた。
「み……ん、な?」
「私から手を離すなよマスター! 少々荒く行かせてもらう!」
「チィ! こいつらをキメラに変えた張本人がどっかに居るはずだ!」
信じられない光景を目の当たりにした藤丸の顔が青褪める。
逸早く状況を理解したサーヴァント一同は馬の尻を叩き、即座に距離を取る。
アーチャーは矢を、ライダーは弾丸を、アサシンは手裏剣を放ちキメラ達を牽制する。
そしてアサシンがキメラの後方に笑う人影を発見した。
「あれは……サーヴァント」
「ふふっ、私の可愛いキメラを殺したのは貴方達かしら?」
木陰に身を寄せる女の声は彼らの耳に、離れる距離を感じさせない程にクリアに響いた。
布を纏っただけとも云える姿、豊満な胸、白い肌、長い黒髪。そしてサーヴァントの反応はキャスター。
突如として現れた彼女の素性は不明だが、発言と状況から一つの答えを導く。
『兵士達はキメラとなった』『私の可愛いキメラ』
思考の処理が追い付かない藤丸は、己の頬を叩き意識を鮮明させる。
狼狽えるな、今までどれだけの死線を潜り抜けたと思っている。足を止めるな、手を動かせ、最善の答えを弾き出せ。
「アーチャー、それにライダーとアサシンも。まずはキメラの――処理を優先して。可能なら足止めで頼む」
「――へぇ、了解したよ」
「その後であいつから話を聞こう」
口笛でも吹きたい気分であるが、茶化さずにライダーは藤丸の言葉に従う。
この期に及んで泣き言に綺麗事を重ねたらどうしたものかと思えば、現実を見れる人間と判明し感心している。
兵士達を開放するのは方法も不明なキメラ化の解除では無く、その生命を絶つこと。
最善の策を瞬時に弾き出した藤丸を評価し、ライダーは手綱を強く握りリボルバーに魔力を装填した。
「私は別に戦う気は無いけど……いいわ、来たるべき終焉の前哨戦として遊んであげましょう。
カルデアの者達よ、私を弟子と同じだと思うなよ――神々と切り離されたこの世界で、天に立つ我が力、その身で感じるがいい」
#center(){サーヴァント反応}
#center(){アカイアの魔女:顕現}
最終更新:2017年06月12日 20:09