◆
何かを話そうとして、ガボガボと血だけが口の中から溢れ出た。
言おうとした言葉の数だけ、何度も何度も、ガボガボと、溢れ出た。
戦いは未だ、始まったばかりだというのに――未だ、何も自分は成していないというのに。
倒したかった敵も、救いたかった人も、守りたかった世界も、
何一つとして――この手に収めることは出来ていない。
涙の代わりに、つうと口から血が垂れて地面に落ちた。
「――!!」
アナタは叫んだ。
誰かに助けを求めるように、自分の言葉が届くように、
人に祈り、神に祈り、運命に祈って叫んだ。
だが、誰にも声は届かない。
「――!!」
アナタは願った。
自分の令呪に対し、目の前の少女が再び生きる力を取り戻すことが出来るように。
しかし、令呪は輝きを失ったまま――何の反応も示さない。
死の淵からサーヴァントを再生させるには、令呪の力を全て注ぎ込まなければならない。
奇跡はもう、品切れている。
アナタはジャンヌ・アシェットを抱きかかえ、走った。
安静にさせなければならない、しかし――携帯電話は無く、医者を待つ時間も無い。
月が嘲笑うかのように、其の光で照らしている。
それでも、大病院はまだ開いているはずだ。
アナタは砂浜を走った。
杉沢村は消え、邪魔をする者はいないというのに、砂が妙に足を取った。
身体が重たかった。
温かい血が、アナタに降り注ぐ。
超常的な力を持っていようとも、
血は赤く、身体は温かく、心は優しい。
決して死なせたくない。
もしも無限の願望機が目の前にあったならば、それを願っただろう。
アナタは走る。
砂浜を抜け、丘を上り、公道へ。
車は一台も走っていない。
市街地へ向けて、走る。
自分がどう見られるか、であるだとか、
本当に医者に見せれば助かるのか、だとか、
そういうことは全て頭から抜けて、助けることだけを考えて、走った。
「……ァッ」
血を吐き尽くして、言葉が生まれる。
本当に掠れた声で、囁く様な声でしか、ジャンヌ・アシェットは喋ることが出来なかった。
それでも、伝えたいことがある。
「……最後に、言っておきたいことが」
聞きたくない。
アナタはそう思った。
しかし、頭ではそう思っているのに、
身体は泣きながら、一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてていた。
心が覚悟を決めてしまっていた。
「……アナタはボクのことを知らないけど…………ボクは、アナタのことを知っているの。
ボク、いつもアナタの話を聞いていたんだ……ボク達は会うことはなかったけれど……同士みたいなもの……だったから……」
走る。
決して、足だけは止めない。
諦めを良しとすることだけは許されなかった。
「アナタは……アナタの守った世界を守って……絶対に……諦めないで……
あの男は……支配する者……抗うことだけが……力になるわ……」
少しずつ、アナタにかかる負荷が軽くなっていく。
命が、この手の中から、失われていく。
「……ふふ」
ジャンヌ・アシェットは、どこかおかしくて笑う。
今更死ぬことなど怖くはない、一度目の時は、子どもに囲まれて盛大に死んでやった。
二度目は、残念ながら一人しかいない――けれど、悪くはない。
自分のために顔をぐしゃぐしゃにして泣いている人間がいる。
「……ふふ、嫌だなぁ……死にたくない、死にたくないよ。
未だ、戦えるんだよ……未だ、やらなくちゃいけないことがあるんだよ……
未だ、約束を守ってない……嫌だ!」
ジャンヌ・アシェットは最後の力を振り絞って、アナタの名前を叫んだ。
「この世界を守って……私には、出来なかったことだから」
アナタは、サーヴァントを失った。
◆
「かくして、
プロローグの幕は閉じる。
ダンテはベアトリーチェを失い、しかし地獄に堕ちたまま。
今更、後戻りは出来ない……駆け抜けるしか無いのさ、地獄をね。
いつか天国に辿り着くと信じて。
さて、彼は……何時気づくんだろう、其の手には既に、戦うための力が握られていることに」
◆◆
"憐憫"の名を冠する獣の願い。
人類史全てを用いた世界創世。
未来を焼却した大いなる偉業。
―――諸君らは"ソレ"を食い止めた。
おめでとう。
未来は取り戻された。
明日は君達の手の中にある。
だが。
しかし。
私にはそれが出来なかった。
だから。
君の手の中にある未来を。
私が取り戻す。
「たくさんの屍の上で私達は暮らしています、生憎……その屍の一番槍が私でしたがね」
「自分の弱さを認めるぐらいなら、死んだほうが良い……いえ、死ぬぐらいなら世界を滅ぼしたほうが良い。
呆れましたか、私が一番自分に呆れていますよ……今更止められませんがね」
「うそよ、うそ、ぜんぶうそよ。
おかあさんはあなたをあいしているわ。
あいしていないだなんて、きょうみがないだなんて、うそよ」
「少女はとっくに売り払った、妻はとっくに賞味期限切れ、
残っているものは女と復讐だけ、ええ、母親だなんて忘れていたわ」
「田舎娘に頼らなきゃ勝てない戦争、私じゃなくったって笑うでしょうよ」
「君たちにわかりやすく言うなら、たったひとつ。
死人の願いなんて、安らかに眠ることぐらいしかないからさ」
「さぁ、最終戦争を始めよう……ラッパ吹きは私の役目ではないがね」
「真面目すぎるんだよ、マスターは。だから……だから、こんなことになる」
大日信仰
杉沢村 救世主の復活
支配者の降臨 狂気山脈
キリストの墓 ピラミッド
神罰を受けし者 2012年 世界滅亡説
フレンド
Fate/Grand Order
"Epic of Battle royal"
最終更新:2017年06月19日 23:46