始まりの終わり


何かを話そうとして、ガボガボと血だけが口の中から溢れ出た。
言おうとした言葉の数だけ、何度も何度も、ガボガボと、溢れ出た。
戦いは未だ、始まったばかりだというのに――未だ、何も自分は成していないというのに。
倒したかった敵も、救いたかった人も、守りたかった世界も、
何一つとして――この手に収めることは出来ていない。

涙の代わりに、つうと口から血が垂れて地面に落ちた。

「――!!」
アナタは叫んだ。
誰かに助けを求めるように、自分の言葉が届くように、
人に祈り、神に祈り、運命に祈って叫んだ。
だが、誰にも声は届かない。

「――!!」
アナタは願った。
自分の令呪に対し、目の前の少女が再び生きる力を取り戻すことが出来るように。
しかし、令呪は輝きを失ったまま――何の反応も示さない。
死の淵からサーヴァントを再生させるには、令呪の力を全て注ぎ込まなければならない。
奇跡はもう、品切れている。

アナタはジャンヌ・アシェットを抱きかかえ、走った。
安静にさせなければならない、しかし――携帯電話は無く、医者を待つ時間も無い。
月が嘲笑うかのように、其の光で照らしている。
それでも、大病院はまだ開いているはずだ。
アナタは砂浜を走った。
杉沢村は消え、邪魔をする者はいないというのに、砂が妙に足を取った。
身体が重たかった。
温かい血が、アナタに降り注ぐ。
超常的な力を持っていようとも、
血は赤く、身体は温かく、心は優しい。
決して死なせたくない。
もしも無限の願望機が目の前にあったならば、それを願っただろう。

アナタは走る。
砂浜を抜け、丘を上り、公道へ。
車は一台も走っていない。
市街地へ向けて、走る。
自分がどう見られるか、であるだとか、
本当に医者に見せれば助かるのか、だとか、
そういうことは全て頭から抜けて、助けることだけを考えて、走った。

「……ァッ」

血を吐き尽くして、言葉が生まれる。
本当に掠れた声で、囁く様な声でしか、ジャンヌ・アシェットは喋ることが出来なかった。
それでも、伝えたいことがある。

「……最後に、言っておきたいことが」

聞きたくない。
アナタはそう思った。
しかし、頭ではそう思っているのに、
身体は泣きながら、一言も聞き漏らすまいと耳をそばだてていた。
心が覚悟を決めてしまっていた。

「……アナタはボクのことを知らないけど…………ボクは、アナタのことを知っているの。
ボク、いつもアナタの話を聞いていたんだ……ボク達は会うことはなかったけれど……同士みたいなもの……だったから……」

走る。
決して、足だけは止めない。
諦めを良しとすることだけは許されなかった。

「アナタは……アナタの守った世界を守って……絶対に……諦めないで……
あの男は……支配する者……抗うことだけが……力になるわ……」

少しずつ、アナタにかかる負荷が軽くなっていく。
命が、この手の中から、失われていく。

「……ふふ」
ジャンヌ・アシェットは、どこかおかしくて笑う。
今更死ぬことなど怖くはない、一度目の時は、子どもに囲まれて盛大に死んでやった。
二度目は、残念ながら一人しかいない――けれど、悪くはない。
自分のために顔をぐしゃぐしゃにして泣いている人間がいる。

「……ふふ、嫌だなぁ……死にたくない、死にたくないよ。
未だ、戦えるんだよ……未だ、やらなくちゃいけないことがあるんだよ……
未だ、約束を守ってない……嫌だ!」

ジャンヌ・アシェットは最後の力を振り絞って、アナタの名前を叫んだ。



「この世界を守って……私には、出来なかったことだから」


アナタは、サーヴァントを失った。



「かくして、プロローグの幕は閉じる。
ダンテはベアトリーチェを失い、しかし地獄に堕ちたまま。
今更、後戻りは出来ない……駆け抜けるしか無いのさ、地獄をね。
いつか天国に辿り着くと信じて。
さて、彼は……何時気づくんだろう、其の手には既に、戦うための力が握られていることに」




◆◆

"憐憫"の名を冠する獣の願い。

人類史全てを用いた世界創世。

未来を焼却した大いなる偉業。

―――諸君らは"ソレ"を食い止めた。

おめでとう。

未来は取り戻された。

明日は君達の手の中にある。

だが。

しかし。

私にはそれが出来なかった。

だから。

君の手の中にある未来を。

私が取り戻す。


「たくさんの屍の上で私達は暮らしています、生憎……その屍の一番槍が私でしたがね」

  「自分の弱さを認めるぐらいなら、死んだほうが良い……いえ、死ぬぐらいなら世界を滅ぼしたほうが良い。
    呆れましたか、私が一番自分に呆れていますよ……今更止められませんがね」

     「うそよ、うそ、ぜんぶうそよ。
       おかあさんはあなたをあいしているわ。
        あいしていないだなんて、きょうみがないだなんて、うそよ」

          「少女はとっくに売り払った、妻はとっくに賞味期限切れ、
            残っているものは女と復讐だけ、ええ、母親だなんて忘れていたわ」

            「田舎娘に頼らなきゃ勝てない戦争、私じゃなくったって笑うでしょうよ」

               「君たちにわかりやすく言うなら、たったひとつ。
                 死人の願いなんて、安らかに眠ることぐらいしかないからさ」

                   「さぁ、最終戦争を始めよう……ラッパ吹きは私の役目ではないがね」

                      「真面目すぎるんだよ、マスターは。だから……だから、こんなことになる」



                       大日信仰
           杉沢村               救世主の復活
                支配者の降臨                 狂気山脈

                      キリストの墓                  ピラミッド
        神罰を受けし者              2012年 世界滅亡説 
                                              フレンド


                           Fate/Grand Order
                          "Epic of Battle royal"

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最終更新:2017年06月19日 23:46