先行してきた最後の一騎の幽鬼兵がライダーの双剣の二振りによって搭乗した騎馬もろとも切り伏せられる。
「カルデアのマスターに侵略者の小僧、そして彼方に見えるのは五虎将の軍勢か。随分と大勢の客を連れて来たな、ライダー」
「すまぬな、ジェロニモ殿。本来であればビリー殿と立香殿だけの筈だったのだが」
すれ違い様に立香とビリーに笑いかけながら、騎乗したジェロニモがライダー同様に迫りくる騎馬に備える様に前に出る。
その手に槍を携え、彼を守護するコヨーテの精霊が彼の側へと立った。
ライダーはこの助っ人の存在を承知していたようだが、ビリーには何も知らされていなかったらしい。彼もまた立香同様に目を丸くしている。
「ライダー、ジェロニモとも知り合いだったの!?」
「彼はこれから向かう予定だった魏に協力しているサーヴァントの一騎さ」
「そしてライダーも協力者の一人という訳だ。現地のサーヴァントであり土地勘もあるらしい彼に敵地の密偵を依頼していたのさ」
『なるほど、複数のサーヴァントを相手に魏が持ちこたえていたのはそういう理由だったからか!』
「詳しい話は後にしよう、今はあれを迎え撃たねばな!」
ジェロニモの参戦。
これで彼我のパワーバランスは僅かばかり立香に傾いた事になる。
血濡れの悪魔という戦闘スキルにより、ジェロニモはキャスターでありながら接近戦もこなせる稀有なサーヴァントだ。
近接戦に特化したサーヴァントには劣るものの、サーヴァントにも至らぬ相手であれば互角以上に渡り合える。
彼の使役するコヨーテも含めて幽鬼兵を迎え撃つだけの戦力は十全に整ったと言っても過言ではない。
再度の衝突の合図は一発の銃声。
立香目がけて放たれた弓矢がビリーの撃った銃に迎撃され、勢い殺がれて転がった弾丸と矢が地響きを鳴らす騎馬の蹄に踏み荒らされて大地に埋まる。
迎え撃つサーヴァント達と騎馬の集団が激突した。
突き出された槍をライダーが右手の剣で跳ね上げて、馬の突撃をかわすように右回りに跳躍しながら一回転。
すれ違い様に馬上の幽鬼兵の胴を左手に持った剣で薙ぎ払うと、腹を裂かれた幽鬼兵が力なく地面に転がる。
主のいなくなった馬にライダーが飛び乗った。
幽鬼兵と同様に死霊の馬であるが、高い騎乗スキルを持つライダーであれば操ることなど造作もない。ここからが騎乗兵のクラスの本領である。
馬に乗ったジェロニモが槍を振るうと幽鬼兵が騎馬から突き落とされた。
1対1では不利と感じた幽鬼兵が2騎がかりで襲い掛かる。
だが2本の槍がジェロニモに届くよりも早くその片方の首筋にナイフが突き立ったかと思うと、周囲に稲妻が走り運悪く近くにいた兵士を巻き込みながら吹き飛ぶ。
腰元に差していたナイフに精霊の力を込めて投擲したジェロニモは、目論見を果たせなかったもう一人の幽鬼兵を槍で穿ちながら次の騎兵へと向かっていった。
そんな中、幸運な幽鬼兵が二人きりの防衛網を潜り抜け、その先に進もうとする。
だが、それが叶う事はない。横合いから飛びかかったコヨーテの爪に切り裂かれ、塵となって霧散していく。
機動力のあるコヨーテは遊撃担当といった所だ。騎兵隊の槍も剣もコヨーテの更に後ろに控える二人に届くことはない。
そうして形成された安全圏にいるビリーと立香の仕事といえば前衛で戦う三人の援護だ。
三連射で放たれた弓矢に対し、リボルバーのハンマーに右掌を添えファニングショットで同様に三連射。その悉くを撃ち落とす。
この状況で一番警戒すべきことは乱戦エリアの外から放たれるサーヴァントの攻撃だ。それに対する妨害にビリーが全神経を傾ける。
立香の方はと言えば、乱戦から外れた幽鬼兵目がけてガンドを放っていく。先の様に突撃してくる対象の動きを急に止めてしまえば転倒し負傷は免れない。
仮に動ける場合だとしてもそれはコヨーテの格好の獲物だ。
戦局は極めて有利。端から見れば、誰もがそう答えるような展開だった。
そう、ここまでは。
『先輩! 前方で魔力の増大を確認! これは間違いなく宝具が……!』
魔力が膨れ上がる気配がした。通信機から流れるマシュの警告。
兵士に比べてあまりに消極的な行動をとっていた二騎のサーヴァント。
何かがあると警戒しながらも襲い来る幽鬼兵達に対処せざるを得なかった立香やサーヴァント達の悪い予感が的中する。
妨害をしなければと考えるも、それは叶わない。
遠距離を狙える攻撃手段はビリーの射撃とジェロニモの宝具の二つ。
だが、ジェロニモは乱戦に巻き込まれて宝具を解放する余裕が与えられず、ビリーはアーチャーの放つ矢への対応を余儀なくされ、宝具を使うつもりであろうもう一騎のサーヴァントへの対処が行えない。
ライダーが乱戦を突破する手はどうか。彼の騎乗能力であれば不可能ではない。
とはいえそうなると残った兵士をジェロニモとコヨーテだけで受け持たなくてはならなくなる。そうなれば障害の一つ減った幽鬼兵達は立香らに殺到することは明白だ。
二騎のサーヴァントが前線を張っているという状況だからこそ、彼らはここまで戦えているのである。
今の戦線をこの配置で維持する以上、敵の宝具を防ぐことは不可能だった。
「いいぞアーチャー、その調子であの白人を釘付けにしておいてくれ」
「OK、そっちもしっかり決めてよね」
五虎将のキャスターの言葉に応える様に、
五虎将のアーチャーが立て続けに弓を射る。その全てがビリーが対応せざるをえない位置に放たれた矢だ。
時は少し遡る。
ジェロニモが参戦した時点で彼の真名に見当のついた五虎将のキャスターは宝具の開帳を決めた。宝具を使用しなければここで彼らを仕留めきれないと判断したのだ
サーヴァントが3騎にマスターが1人、魔力の消耗に比べれば十二分にお釣りのくる戦果となるだろう。
懸念すべき事柄は遠距離攻撃による宝具の妨害だ。
藤丸立香のガンドには乱戦を抜けてこちらを狙い撃つだけの技量はない。
ビリー・ザ・キッドの射撃はアーチャーの射撃の対応に回す事で封じられる。
ジェロニモは前線に留まらなければならない状況を作り出すことで魔術の使用を封じた。
ライダーの宝具は未知数だが、彼もまた乱戦に巻き込んでしまえばこちらの宝具を防ぐ事は難しいだろう。
そしてその条件は満たされた。
後は宝具を解放し、眼前の障害を骨の欠片すらも残さずに吹き飛ばすだけである。
いつのまにかキャスターの傍らに白い少女が姿を現す。
ジッと見上げてくる少女に向かい、感情の読み取りがたい厳めしい表情のまま、キャスターは頷いた。
後は宝具を解放するだけ。
その時だった。
「なあっ!?」
驚愕に満ちたアーチャーの叫びに、何事かとキャスターの意識が逸れる。
視線は自然と敵のいる場所――前方の乱戦地帯――に動き、そして彼女が驚いた理由を知った。
先ほどまでジェロニモの乗っていた馬に、ビリー・ザ・キッドが乗っていた。
曲撃ち染みた銃撃によって近づこうとした幽鬼兵が撃ち抜かれていく。馬の扱いも巧みなもので意図的に暴れさせる事で他の騎馬が容易く近づけない様にしているのだ。
だが、そんな事は重要ではない。
ビリー・ザ・キッドがジェロニモのいた場所にいるというのであれば、本来そこにいたジェロニモはどこ行ったのか?
前線を放棄してまでこの状況で何をするつもりなのか?
キャスターの脳裏に浮かんだ疑問から生じた推測は、前方から高まる魔力によって正解であること証明されてしまう。
ジェロニモが宝具を展開する準備に入ったのだ。
不測の事態に自身の宝具の展開を中断してしまった、己の迂闊さにキャスターは歯噛みする。
だが、それを悔やむだけの時間はない。
一縷の望みかけてキャスターは己が宝具を解放した。
「精霊よ、天なる恵みよ」
「精霊よ、太陽よ」
街道に二つの声が木霊する。
「今ひと時」
「今ひと時」
迸る魔力がコヨーテと少女に、それぞれ流れ込む。
「我に」
「我に」
コヨーテの全身が総毛立ち、少女が純白のアメリカバイソンへと姿を変えた。
「その大いなる裁きを!」
「その大いなる悪戯を!」
シャーマン達は朗々と、己の宝具の名を宣言する。
「大いなる神秘の先駆け!」
「大地を作りし者!」
これは精霊たちの逸話の再現。
伝承に曰く、白いバッファローの仔牛の少女は邪な思いを抱いた男を罰する為に竜巻と稲妻を起こした。
猛牛の嘶きが暗雲を呼び、雷光と竜巻を作り出して進路上の全てを薙ぎ払いながら進む。
伝承に曰く、コヨーテは煙草を盗み、それに気づいた太陽はコヨーテを追いかけた。
コヨーテの遠吠えが雲間を晴らし、陽光を迸らせて立香らの周りにいた幽鬼兵や死霊の馬を灼きながら前方の敵へと降り注ぐ。
交差するは熱波と風雷。
稲光と陽光が弾けては明滅して視覚を奪い、雷鳴と風切り音が聴覚を塞ぐ。
敵対者を滅ぼす自然の猛威は拮抗し侵食するようにぶつかり合う。
遠目から見れば太陽と暗雲が喧嘩をするようにせめぎ合っている様に見えただろう。
五虎将のサーヴァント達に向かって放たれる陽光は暴風と雷光に阻まれ、微かに視界を晦ます程度。
立香らに向かって放たれた竜巻と稲妻は熱波に妨げられ、強風に視界を塞がれる程度。
灼熱の日差しが五虎将のサーヴァントを焼き払う事はなく、また暴威の嵐が立香らを粉砕する事もない。
精霊達が起こした自然の猛威はそうして相手へとその牙を届かせる事なく、威力を衰えさせていく。
一際大きな音を立てた後、二人のシャーマンの放った宝具は互いに致命傷を与えることも無く対消滅した。
嵐と白光が消えて失せた後、暴風に散らされた木々が転がる街道に蜀の軍勢の姿はとうにない。
そこには3騎のサーヴァントと立香の姿だけがあった。
「仕留められぬと見た瞬間、即座に撤退を選んだか」
立香の横で荒い息を吐きながら、青白い顔をして地べたに座り込んだジェロニモが呟く。
既に発動の準備を整えていた五虎将のキャスターの宝具に対抗する為、現界する為のリソースを宝具を使用する魔力にあててまで急速充填した結果だ。
守護獣であるコヨーテもいつの間にかその姿は消えている。それ程までの消耗であり、暫くの間は宝具の行使にも支障は出るだろう。
とはいえ、それに見合うだけの結果を手に入れた事でジェロニモは安堵の溜め息を吐いた。
どのようにしてジェロニモを前線から下げ、宝具を撃たせる事に成功したのか。
そのタネは立香にあった。
彼が今回のミッションで装着している魔術礼装のカルデア戦闘服に搭載されているオーダーチェンジと呼ばれるスキル。
霊子でサーヴァントが構成されていることを利用し、味方として霊基を登録したサーヴァント2騎を霊体化させ、瞬時に互いの位置を入れ換える機能である。
サーヴァントという膨大かつ複雑な情報体を転移・置換する以上は負荷が酷く、乱用も出来ない文字通りの切り札と言えるスキルだ。
敵の宝具を止める為にジェロニモが宝具を使用する状況を整える事と、その為に前線を崩壊させない事。
その両方を満たす事ができる唯一の手だった。
「助かったよジェロニモ」
「それはこちらもだ。よく機転を利かせてくれたな、立香」
緊張から額に噴き出ていた汗を袖口で拭いながら、立香が傍らに座り込むジェロニモに手を差し出す。
ジェロニモが僅かに口角を上げて立香の手を取り立ち上がる頃には、ビリーとライダーも二人の元へと戻って来ていた。
「やあ、まさかこっちでも君と手を組む事になるなんてね」
「それは私も同意見だ。しかもあの大陸とはかけ離れたこの地、この時代に我々が揃って召喚されるとはな」
ウエスタンショーさながらの大暴れを見せた馬から降り、にっこりと笑うビリー。
ジェロニモもそんな彼に何とも言えない表情で返す。
「それにしても、ライダーが魏に協力してるなんてね」
「一応は密偵の様なものだったからね。どこに監視の目があるかも分からない以上、少なくともジェロニモ殿と合流するまでは明かす訳にはいかなかったのさ。申し訳ない」
『ジェロニモと君が魏に協力しているということは分かったが、他にも協力しているサーヴァントはいるのかい?』
「ランサーとアサシンの2騎がいる。我々の取り纏めを行っているのはランサーだな」
「もともと有能な将だったのだろうね、普段の言動に覇気はないが魏がもっているのは彼が指揮を執っているところが大きいと私は見ているかな」
「アサシンは少々扱いづらい気性の持ち主だ。彼女は魏を守るためというよりは五虎将と敵対しているから私達に協力しているといった方が正しいだろう」
ライダーとジェロニモから明かされた、2騎の新たなサーヴァントの存在。それは立香にとって光明だ。
五虎将のサーヴァントに対し、こちらも5騎のサーヴァント。頭数だけでいえばこれで戦力は互角となった事になる。
『構図としてはランサーの取りまとめる魏軍に私たちも協力して新生蜀軍と対決する。という事になるのかな』
「そうなるだろう。今、魏軍の前線部隊は五丈原と呼ばれる場所に布陣している。ライダーが連れてきたという事は君たちも協力してくれるものと思っているが相違はないか?」
「まあ、元々僕も立香もライダーには協力するつもりだったし、断ったところで蜀の奴らからは命を狙われてる訳だからね」
「うん、一緒にこの特異点を解決しよう」
立香とビリーがジェロニモの確認に対して快く返答する。
「心強い味方が増えたものだ。もっとも収穫はそれだけではないが」
「収穫って?」
「敵のサーヴァント、恐らく五虎将のキャスターだろう。彼の真名が分かった」
敵の真名の判明。ジェロニモの口から出た言葉にその場にいる全員がそれぞれの反応を見せる。
「多分、ジェロニモと同じインディアンのサーヴァント、だよね?」
「ふむ? あの距離とこの乱戦の状況から遠くにいた彼の姿が見えていたのかね?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
立香の言葉に興味深そうに尋ねるジェロニモ。
それを否定し立香はこの特異点に来る前、ワカン・タンカと呼ばれる場所で彼に宣戦布告をしてきたキャスターの事を告げる。
先の戦闘で立香は敵のサーヴァントの姿を目視する事はできなかった。だが、彼の耳は宝具同士の衝突が起きる前にバイソンの嘶きを聞いている。
この中国でバイソンと関係のあるサーヴァントが2騎も召喚される可能性がどれだけ低いものだろうか。
立香は、自分達の追撃にやってきたサーヴァントの1騎があのキャスターであると推察していた。
「ワカン・タンカに白い少女、恐らく私の予想と立香の推察しているキャスターは同一人物だろう」
ジェロニモが立香の推察を肯定する。
「動物達と語らい、大いなる神秘へと至ることが出来る程の優れたシャーマン。私と同じ時代を生き、場所は違えど同様に白人達に抵抗した戦士にしてバッファローの加護を受けた男」
ビリーがハッとした表情を浮かべた。同郷であるが故に、ジェロニモの説明で誰が召喚されたのか予想がついたのだろう。
ジェロニモの表情は複雑だ。
かつて、肩を並べることはなくとも同じ想いの元、白人への敵対行動をとっていた謂わば同志とも言える相手が敵となった心境はどんなものか。
「シッティング・ブル。それが五虎将のキャスターの名前だ」
スー族の戦士。
座する雄牛。
白人達に日常を脅かされ、最後の一瞬まで抗い続けた男の名をジェロニモは口にした。
真名判明
五虎将のキャスター 真名 シッティング・ブル
◇
漢中から成都へと向かう街道を騎馬が駆ける。
五虎将のアーチャーとキャスター、2騎のサーヴァント。
北へと向かっていた時には十数騎の兵士を伴っていたが、その悉くが先の一戦で塵へと還ってしまった。
宝具を解放までしたというのにカルデアのマスターもはぐれサーヴァントを倒すことも能わず、只管に馬を走らせる。
その様は敗北と形容する以外に何と表現すればいいだろうか。
「すまない、私の落ち度だ」
ポツリとキャスター、シッティング・ブルがアーチャーに向けて謝罪する。
絶好の機会だった筈だ。だが、それを一瞬の不注意でフイにしてしまった。
戦力が無かった筈のカルデアのマスターは今や3騎のサーヴァントの協力関係にある。
だが、事態はそれだけでは終わらないだろう。
立香やはぐれサーヴァントは異変の中心地である蜀の成都に向かわず北上していた。それが意味する事は。
恐らく、蜀と敵対している魏に向かうつもりなのだろう。単純に蜀と敵対しているからか魏に所属しているサーヴァントの存在を認知しているからかまでは定かではないが、まず両者が手を組むであろう事は予想できるものだ。
ここで、それを何としてでも防ぐべきだったのだ。それを果たせなかった以上、戦局は彼らの望ましくない方向へと転がっていくだろう。
「むざむざ宝具を撃たせちゃったって意味じゃ、僕も同罪だよ。僕があの時に変な声をあげなきゃキャスターは宝具を撃つのを中断しなかったでしょ」
アーチャーがシッティング・ブルに対して言葉を返す。
慰めようなどという感情はこもっていない。彼女は彼女で、自分の落ち度を認識しているのだ。
打てる手としては最善であったという認識は二人ともにあった。
ただ、一手。
たった一つの想定外の一手が二人の目論見を破綻させてしまった。
間が悪かった。言葉にすればなんとも単純な結論だろうか。
「でも、まだ負けてない」
強い口調でアーチャーが続けた。
前を見据えるその瞳に、諦めも自棄の色も存在しない。
まだ、彼女の闘志は挫けてなどいないのだ。
「僕と君は失敗しちゃった。でも、まだ負けてない。そうでしょ?」
「無論だ」
アーチャーの質問にシッティング・ブルは当然の様に答えた。
五虎将のサーヴァントの心はこの程度の敗走で折れることなどありえない。
敵の戦力は看過できない程に膨れ上がったことだろう。
兵も失った。だが、五体はまだ満足だ。
打てる手も戦うだけの力もまだ十二分にある以上、この様なところで消沈している暇など存在はしない。
「なら、まだ勝てるさ。そのためにはどうしたらいいかな?」
「セイバー達の元に向かおう。ランサーが合流したとはいえ、サーヴァントが5騎に増えれば彼らとて旗色は悪い。漢中王への報告は私の使い魔に行わせる」
シッティング・ブルの打ち出した方針にアーチャーが頷く。
2騎のサーヴァントは馬首を返し、漢中の山へと馬を走らせる。
五丈原。
かつて諸葛亮孔明と司馬懿仲達が激突し、蜀の運命を決定づけたと言っても過言ではない戦の舞台となった戦場。
そこにまた数多の将星が集まっていく。
五虎将率いる蜀とそれに抗する英雄達が集結した魏。
凍える春の風吹く五丈原、落ちる将星は果たしてどちらのものになるのか。
その答えを知る者は、この地にはいない。
最終更新:2018年08月16日 00:15