キィキィ。キィキィ。
蜘蛛が笑ってる。
傷ついたひーちゃんと情けないわたしを見て。
牙を噛み合わせて、体を擦らせて、笑い声をあげている。
蜘蛛の言葉はわからない。
でもわたしには、それが伝わってきた。
手を叩いて笑うみたいに牙を鳴らしながら、蜘蛛はあざ笑っている。
弱いね、弱いね。
馬鹿だね、馬鹿だね。
つまらないね、つまらないね。
どうしてそんなに弱いんだい?
私なら恥ずかしくて死んでしまうよ。
くだらない、くだらない。
きみもその子も、本当に、くだらない。
「……るさい」
頑張る必要なんてどこにもないのに。
自分が特別な何かにでもなれると思った?
自分より弱いものを守ればすごい?
ありきたりだ、ありきたりだ。
ありふれていないのは――
「うるさい!! うるさい、うるさい!!」
わたしは叫んだ。
考えるな、考えるな!
こんな蜘蛛、こわくない!
こんな、人を指差して笑うしかできないやつなんかより――
てけてけや、あの化け物の方がずっとこわかった!
そして、何よりわたしが頭に来てるのは!
「ひーちゃんを、わるくいうな!!」
ひーちゃんはわたしを助けてくれた。
一回二回じゃない、何度だって助けてくれた!
わたしが何度どん臭い失敗をしたって、怖がったって。
ひーちゃんはわたしを見捨てずに、手を引っ張ってくれたんだ!
がっとひーちゃんを抱き起こし、肩を貸してわたしは歩き出す。
蜘蛛は相変わらずキィキィ何か言っていたけれど、相手になんてしてやるもんか。
だってこいつは、わたしたちに何もしてこない。何も出来ないんだ。
最初からそうだった。てけてけの時も、こいつはただ道を塞いでただけ。
わたしたちを襲おうとすらしなかった。
わたしは思う――こいつは、こわくない。
ただ人を馬鹿にして、邪魔して、げらげら笑ってるだけの意気地なしだ。
そんなやつに、何度も邪魔されてたまるもんか。
とりあえず、どこか建物に入ろう。
さすがに、わたしも疲れた。
ひーちゃんが起きるまでどこかで休んで……
起きたら、また歩きだそう。
トンネルにさえ辿り着ければ、どうにでもなるんだから。
ふとわたしは顔をあげた。
道路標識の裏側に、妖怪じゃない、普通の蜘蛛が巣を張っていた。
じっと待ってる蜘蛛の周りで、きれいなちょうちょがぐるぐる巻きにされて死んでいた。
■
あれこれ迷ってる時間はない。
どうせお化け以外は誰もいない町なんだから、よその家に勝手に入ったって怒られたりはしないはずだ。
わたしは蜘蛛からしばらく離れたことを確認して、目についた適当な家にひーちゃんを連れて入ることにした。
鍵がかかっているかどうかをとりあえず確認。
すると、扉は簡単に内側へ開いてくれた。
やっぱりわたしたち以外は完全に無人みたいだ、この町は。
「おじゃまします……」
誰もいないと分かっていても、ついそんなことを口にしてしまう。
足音をなるべく立てないように家に上がると和室があったので、そこにそっとひーちゃんを寝かせる。
そしてわたしも、ようやく一息。
手足の力が抜けて、ぐっと肩が軽くなった。
疲れた。本当に、疲れた。
こんなに疲れたのは、生まれて初めてかもしれないくらい。
「……とりあえず、ひーちゃんがおきてからかんがえよう」
伊佐貫を目指さない選択肢はない。
あそこしか、この如月を抜け出せる道はないんだから。
けれどそこまでの道のりは、まだまだ長い。
もう、誰にも会いたくない。
まともなのはわたしたちだけ。
ひーちゃんだって、何かと会ったらまた傷ついてしまうかもしれない。
静かに、ひっそりと、内緒のおでかけみたいにゴールできたらいいのにな。
そんなことを思いながら、わたしはスポーツドリンクを喉の奥に流し込む。
もうだいぶぬるくなった水分が喉を潤す――
『あー、あー。聞こえるかい、聞こえるかい?
多分大丈夫だとは思うんだが……奴らに盗み聞かれてないことを祈ろうか』
その瞬間を見計らったように声がした。
空中から。何もない虚空から女の人の声がした。
心臓を直接つつかれたみたいに身体が跳ねる。
首をひねるんじゃないかと自分でも心配になるくらいの勢いで、わたしは声の方を見つつ、目を覚まさないひーちゃんを抱き寄せた。
「だ……だれ……? おばけ? ようかい?」
声の主は空にいた。
四角形の光は、テレビの映像のように女の人の顔を写し出している。
どこかで見たことのある、綺麗な顔だった。
確か、図工室で見た絵の人だ。
名前は、たしか――。
『妖怪ではないが……そうだね。
キミ達基準で言うのなら、確かに私はお化けの一種かもしれないな』
「やっぱり!」
『だがお化けはお化けでもいいお化けだ。
サーヴァント……という名前には、既に聞き覚えがあるだろう?
私は、それさ。レオナルド・ダ・ヴィンチという。気軽に、ダ・ヴィンチちゃんと呼んでくれたまえ』
「さーばんと……」
それって、てけてけと同じ?
わたしは思わず警戒を顔に出してしまうけれど、この人からは怖い雰囲気は全然感じない。
すごく親しげで、安心できる。
人間じゃなくてお化けらしいことだけ残念だけど、信用してもいいのかな――って、思ってしまう。
『さて、いきなりだが質問だ。
まず、キミの名前を教えてくれるかな?』
「ふじまる……ふじまるりっかです」
『ふむ、やっぱりそういうことなのか』
?
お化け改めダ・ヴィンチちゃんは、わたしの名前を聞くと興味深そうに顎に手を当てる。
なんだろう。わたし、そんなおかしな名前してるかな?
「あの――」
『ああ、すまない。こっちの話だ。
それはそうと、質問責めにするのも忍びない。
……何せこんな唐突に出てきた、正体不明の美女なんだ。
キミの方だって、私に聞きたいことの一つや二つ抱えてるんだろう?
遠慮せずに聞いてごらん。分かる範囲で答えてあげよう』
自分で美女っていうんだ。
なんだかこのサーヴァント、人間より活き活きしてる気がする。
とてもじゃないけど、お化けだなんて思えないな。
感心しながら、わたしは質問を考える。
聞きたいことはいくつもあるけど、やっぱり一番はダ・ヴィンチちゃん、彼女自身のことが気になった。
「いいおばけのダ・ヴィンチちゃんは、どうしてわたしにはなしかけてくれたの?」
『何しろいいお化けだからね、私は。
困っている子どもは見過ごせないんだ』
「……」
『おっと小粋なジョークだ、ジト目で見るのはやめたまえ。
そうだな……話せば少し長くなるけど、大丈夫かい?』
わたしはこくりと首を縦に振る。
校長先生のお話とかはねむくなるけど、今なら長い話もばっちり聞けそうだ。
『そうか。実はだね――』
ダ・ヴィンチちゃんは、わたしに分かりやすく話してくれた。
自分が《カルデア》という研究所みたいなところから、この如月に通信を飛ばしていること。
だから自分の本体は今もカルデアの中にいること。
人間がいない筈の如月の中に人の反応があったから、こうして話しかけたこと。
そして、ダ・ヴィンチちゃんはわたしたちが町の外に出るまで、ナビゲートしてくれるらしいこと――。
『とまあ、こんな具合だ。
覚えられなかったら、カルデアのダ・ヴィンチちゃんはわたしたちの頼もしい味方だ、ってことだけ覚えてくれれば十分だよ』
「ほんとにたすけてくれるの? ほんとにほんと?」
『もちろん。嘘をつく理由もないだろ?』
「……ありがと、ダ・ヴィンチちゃん!」
心が毛布で包んだみたいにあったかくなっていく。
ああ、わたしは今、安心しているんだ。
ようやく――ようやく。
お化けではあるけど、助けてくれる大人と出会えたんだから。
『ところでさっきから聞きたかったんだが、そっちの子は?』
「このこ? このこはね、ひーちゃんだよ。わたしのともだちなの」
『ひーちゃん』
「ほんとのなまえはあんまりすきじゃないんだって」
『……ふむ』
ダ・ヴィンチちゃんは、また顎に手を当てる。
『……まあ、それは一旦置いておこう。
それよりも、キミ達がこれまで辿ってきた道のりについて聞きたい。
というより――キミ達が何に出会って、何に追われたか、だね。
まさか子ども二人でこの町を彷徨いて何もなかったなんてことはないだろう。
此処は如月。永劫に酩酊する無間の町。
あるべき形を忘れたものだけが迷い込む地獄の一風景。
無間地獄に死はない。無間地獄に死はないんだ』
死に行き着けなかった者は皆、狂おしく生ける者を追いかけるからね。
ダ・ヴィンチちゃんの言葉に、背筋がぞわりとする。
死にたくても死ねないお化けたち。
死にたいとすら思えない彼らは、どんな思いでわたしたちを追いかけていたんだろうか。
「えっと……まず、てけてけ」
『それはまた、面倒なのにいきなり捕まったね。
……それよりよく知ってるな、てけてけなんて名前。
昔ならともかく、今の子どもの間じゃ廃れた怪談だと思ってたが』
「ん、このほんにかいてあったから」
そう言って、わたしは《真・日本妖怪大全》をダ・ヴィンチちゃんに示す。
この本、便利なのはいいんだけどとにかく分厚い。分厚いってことは重いってことだ。
逃げてる間、何度捨ててしまおうか悩んだか分からない。
それでも捨てなかったのは……なんとなく、そうしてはダメだと思ったからという、すごく漠然とした理由なんだけど。
『ちょっとページをめくってみてくれるかい?
へえ、すごいな。大枚叩いてでも手に入れる価値のある名著だよ、これは』
ダ・ヴィンチちゃんは、続ける。
『ただ、これを著したのはまともな人間ではないだろうね』
「どうして?」
『初歩的なことさ。
そっちの分野に詳しくないキミには分からないかもしれないが、この如月は世間一般に広く知られてる場所じゃない。
異世界というのは少し違うけど、まあその認識でも不便はしないだろう。
如月について記した文献なんてものは存在しない。ただ一つ、インターネット上に漏れた《体験談》を除いてはね。
つまり――如月の名前を知っているのは、如月の関係者だけなんだ。この街に落ちていたのなら、尚更そうとしか考えられない』
わたしが思い浮かべたのは、さっきの男の人だ。
腕がなくて、片目が体の外に出てる、不思議な人。
もしかして、あの人が落としたのかな?
『それで、てけてけ以外にはどうだった?』
「ええと……」
大きな女郎蜘蛛。
目と腕のない男の人。
顔のない女の人。
全身が水面色をした、剣の妖怪。ひーちゃんをいじめたひどいやつ。
それと――全身が出来ものだらけの、皮膚の化け物。
元を辿ればわたしたちは、あれから逃げてきたんだ。
その途中で、あのよく分からない男の人に出会った。
そのことをダ・ヴィンチちゃんに話してみると。
『全身が出来ものだらけの、化け物ね』
「……すっごく、こわかった。
めもはなもくちもないのに、うごくたびにできものがぐじゅぐじゅって……うえ」
思い出すとちょっと気持ち悪くなる。
そんなわたしに、ダ・ヴィンチちゃんが信じられないことを言った。
『それはひょっとすると、神様かもしれないな』
「へ? かみさま?」
いやいや、そんなこと。
あんなこわい神様がいるわけがない。
まして、わたしたちを思いっ切り襲ってきたし。
『神様に幻想を抱くのはやめた方がいい。
聖人君子じみた性根の神なんて、ごく一部だよ。むしろ少数派かもしれない。
まして日本の八百万は特にろくでなし揃いだ。下手すると、妖怪の方がまだ聞き分けがいい』
「そうなんだ……」
『で、だ。キミが出会ったのは、《疱瘡神》の可能性がある』
ほうそうしん。
包装紙? いや、絶対違う。
聞き慣れない言葉だったけど、わたしはそこである言葉を思い出す。
水ぼうそう。――水疱瘡。
……そういうことか。
『お察しの通り質の悪い悪神なんだが、しかしこいつは地域によって解釈の分かれる神性でもある。
その辺一から話してもいいが……多分、キミの妖怪図鑑を開いた方が早いだろう』
ダ・ヴィンチちゃんに促されて、わたしは分厚い図鑑のページをめくる。
目次のとても細かい文字の中から探すこと何十秒――あった。
疱瘡神。妖怪図鑑の、448ページ。
――真・日本妖怪大全、第448ページ
疱瘡神。
疱瘡、主に天然痘を擬神化した悪神で、疫病神の一種。
天平七年に朝鮮半島から伝わり、根拠のない流言飛語と共にその伝承が拡散された。
源為朝が八丈島にて決闘の末これを破り、二度とこの地には入らないと宣言させたという記録が存在するものの、真偽は不明である。
それ以前に、これが風説通りの悪神なのか否かすら、地域によって解釈が一致していないからややこしい。
新潟の一部地域を始めとした各地では人の内に溜まる悪いものを外に出すことを助ける善神として信仰している場合も存在する。
総括するなら、この神は兎角伝承が多岐に渡り、決まったあり方というものが存在しない。
しかし確かなことがひとつある。この町におけるかの神は、善悪の彼岸より隔絶された狂神だ。
解けることのない狂気の縛鎖。
触れればたちまち意識は激痛に解け、疱瘡は全てを埋め尽くす。
人を汚し、膨れ殺す疫病神。
ここは《如月》。永劫に酩酊する無間の町。
これもまた、無間を彷徨う虜囚の一。
終わらぬ夜の住人。瞳曇る狂乱の迷い子。
バーサーカーの霊基を持つ、サーヴァントである。
「……ま、まえにもましてむずかしい」
文章が小難しいんだ、この本。
そのくせ申し訳程度にふりがなは振ってある。親切なのかそうでないのか分からない。
と、それはさておき。
ダ・ヴィンチちゃんの言ったことは、どうやら本当のようだ。
『善であり悪、悪であり善。
伝承体系が分岐することは別に珍しくないが、解釈する側としては一番面倒なパターンだね』
「でも、ここの《ほうそうしん》はあぶないんだよね?」
『間違いないだろう。
何せクラスはバーサーカー。キミにも分かるように言うと、手綱の付いていない暴れ馬だ。
話は通じない、施しは無意味だ』
手綱も鎖も付いてない、馬小屋になんて当然収まっていない暴れ馬。
躾も受けたことがないそんな馬をおもむろに解き放てば、どうなるか。
わたしにも分かる。誰にだって分かる。
無理矢理止められるまで、辺り構わず暴れ続ける。壊しまくる。
そんなのが、神様だなんて。
そんな神様もいるなんて――わたしは思わず、息を呑んだ。
身体が熱くなってきた。喉を、カリ、と引っ掻く。
『何より、神様だ、ってのがまずいね。
強いとか弱いとか、そういう以前の問題だ』
「……それ、は。どういう、こと?」
『しつこいんだよ、神様って連中は。
特に八百万の奴らはとびきりだ。
奴らは狙った獲物を逃がさない。
祟ると決めたら地の底まで追いかける。
どんなに知恵を凝らしても、防御策を用意しても。
神ゆえの理不尽さで乗り越えて、必ずやってくる。
そいつを取り損ねたなら次の世代。
猫は七代祟るというが、神は下手すりゃ末代さ。
血筋のすべてが断絶するまで、ご丁寧に何百年と追いかけるヤツだって珍しくない!』
頭が痛い。
体がだるい。
わたし、こんなに疲れてたんだ。
少し休まないと。
ああでも、ダ・ヴィンチちゃんがまだ話してる――
『……気を確かに持ちたまえ。
キミに出来ることはただ一つだ、藤丸立香』
なにを、いって。
でも、それは。
『――早くするんだ! キミはもう祟られてるんだよ、八百万のろくでなしに!!』
わたしは、ふと自分の手を見た。
ぶつぶつが、浮かんでいた。
蕁麻疹なんかとはわけが違う、禍々しいもの。
祟られているとダ・ヴィンチちゃんは言った。
その前には、神様はしつこい、とも。
狙った獲物は絶対逃がさない、と。
手を見た次に、天井を見る。
やけに赤く、まだら模様をしていた。
壁を見る。
やっぱり赤くて、壁紙は肌色だ。
家全体が神様になっていた。
いつからなのか。
いや、きっと始めから。
神様は回り道をして、わたしたちを待ってたんだ。
痛い。
身体中が痛い。
怠い。
肉という肉が溶け落ちそう。
苦しい、辛い、息が出来なくなってくる。
考えたことが片っ端から泡みたいに消えていく。
死んじゃいそうだ。いや、多分、わたしは死んじゃうんだろう。
このままなら。死にたくないなら、起こすしかない。
あの子を。でも、それは。あの子のために、やっちゃいけないことで。
『典型的な疱瘡、天然痘の症状が爆発的に進行している!
このままじゃあと数分保つかも分からないぞ、キミは死にたいのかい!?』
祟られているのは多分わたしだけだ。
その証拠に、ひーちゃんは全然具合悪そうじゃない。
むしろ、あの剣妖にやられたときより顔色がよくなってる。
もしわたしが起こさなかったら、神様はひーちゃんまで傷つけはしないかも。
……でも、起こしたら。あの子も、逃げられない。
「だ、うぃ、ち、ちゃん」
『――』
でも、わたしは死んじゃう。
殺されてしまう。
祟り殺されて、しまう。
それが恐くて、こわくて。
わたしはもうろくに出せない声を振り絞って、ダ・ヴィンチちゃんに言った。
「ひーちゃんがおきたら、たすけてあげてね」
これでいい。
■
『キミは――』
肉の塊に飲み込まれていく立香を、ダ・ヴィンチはただ見ている。
その表情は驚きに満ちていたが、やがて納得に変わっていった。
そうだろうな、とでも言いたげな顔。
『……いや、キミならそうするか。
私も随分と愚かなことを言ったものだ』
ダ・ヴィンチには立香を助けることは出来ない。
ただ見ているだけだ。ああやって助言を飛ばす程度が、精々。
立香もそれは分かっていた筈。けれど彼女には助かる手段がある。
自分の友人を、
《ひーちゃん》を起こせば、死の淵に落ちることはなかったろうに。
『刻限まではあと数分が精々かな。
彼女が人より丈夫ということを加味しても、相手は病を司る神だ。
永くは保たない。数秒でも遅れれば、見るも無残なグズグズ死体の――』
「――煩い黙れ」
ダ・ヴィンチの台詞を遮って、冷たい声が響く。
その声は幼かったが、怒りに満ちていた。
あどけなさを凌駕する執念の灯った、声だった。
もしも藤丸立香の意識が残っていて、この声を聞いていたのなら。
彼女は、声の主が誰かわからないだろう。
それほどまでに、立香の知る《彼女》と、ダ・ヴィンチの見る《彼女》はかけ離れた存在だった。
「よくもやったな。
よくも、よくも。
ぼくの立香に、手をあげたな」
許さない。
相手が神など知ったことか。
八百万の端役ごとき、恐れるにも値しない。
「押し流してやる――根の国の底まで。
お母様の膝下で眠り、国産みの夢を見るがいい」
荒れ狂う水槍を構えて。
扉だったもの、壁だったものを不気味に蠢かせながら膿を吹き出し嗤う神へ、怒れる
《ひーちゃん》は殺意を吠えた。
真名判明
如月のバーサーカー 真名 疱瘡神
最終更新:2018年05月10日 20:59