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エキシビジョンマッチなのだ。人理修復には関係のない旅。
大美術館ルーヴルに僕は踏み入っていた。
初めてくらいは、観光目的で来たかったかな。

「贅沢は言えんさ。ほら、あんたのお里だろ」
「いや、どちらかというと勤務先ね。生まれはミロスだから」

同行をしてくれる芸術のアーチャー芸術のキャスターは呑気にだべっている。

「何がルーヴルよ。特異点にしては狭すぎるじゃない。見飽きてるっての」
「それでマスターさん、通信は繋がったのか?」

いいや、うんともすんともいわない。

「まあでも通信が切れるのには慣れっこなんだろ? なんとかなるさ」

そんなことはない。通信がない僕なんて、片腕をもがれたようなもんだ。サーヴァントがいるというのがもう片腕。

「まさかいつかのように、魔神柱がそう設定したってわけでもあるまい。魔神柱はいないって事前にわかってたじゃないか」

その通りだが、与えられた情報を鵜呑みにするのも危険だろう。

「ポンペイでは特異点全体がセーレの野郎が造ったフィールドだったからできた設定で、今回のルーヴル美術館は元からある場所だから――」
「ごたごた考えるのはあなたの悪い癖よ」
「……」
「案ずるより産むが易いっていうじゃない。まず足で調べましょう」

そうしてこの回廊を散歩して三十分だ。ルーヴルを歩き回るなんて素敵な体験だと思われるが、今は気を張ってないといけないし、そもそも照明が点いていない。

「待って。誰か来る」

回廊で三人立ち止まる。会敵だ。
暗闇の奥がチカッと光った。次の瞬間、キャスターが目の前で煙を上げていた。敵の光線からかばってくれたようだ。

「久しぶりね。なかなか光ってるフェイスじゃない」
『どうもね』

妙に響く声が聞こえた。

『落ち着かないのね。頭があるってのは』
「マスター、下がれ」
『正直なんでもよかったの。でもどうせならイケてるのがいいなって』

声の主が見える。彼女は、キャスターと同じ。
白い肌、薄いヴェール、翼。そして、それらの特徴と全く噛み合わない、首の上に乗った髑髏。

『ねえミロビちゃん、デートしよ』

 真名判明
ライダーの芸術幻霊 真名 サモトラケのニケ

『イメチェンしてみたの』
「はあ?」
『芸術幻霊』

幻霊。その名前には聞き覚えがある。

『ジェームズ・モリアーティのやってたやつはマジでおもろかった。あと天草四郎とかいうやつもイケてた。だから芸術幻霊を七人造ったの』

幻霊。英霊に満たない霊基。モリアーティ教授が新宿でしていたのはそれを融合して召喚する試みだ。しかし芸術幻霊とは?

『芸術を合成したの。あたしは、あたしと、水晶髑髏』

狂ってる。

『ほんとはフォーリナーがよかったんだけどね』

彼女の双眸が再び煌めく。横っ飛びに躱した。

「話の最中にビームを撃つのはお行儀が悪いぞ」

アーチャーが突っ込み、弓を振るう。ライダーはひらひらと舞うように避けて、笑う。骸骨がケタケタと音を立てる。

『ねえ音楽さんなんでしょ。かっこいい。なんか聞かせてよ』
「音楽が音楽やるなんて聞いたこともない。CDでも流してろ」
「あなた、そんなのだったかしら。動けるようになってちょっと調子に乗ってるんじゃない?」

ミロビちゃんは既に両手を三対生やし、サブマシンガンを六丁持っている。余程危険な相手と認識したのだろう。轟音と共に弾丸の雨を垂れ流す。

『えへへ、そうかな』

ニケちゃんはなんと翼を広げて飛行する。反則だろ。

『お客さん、あたしニケです。ニケちゃんって呼んで』

ニケちゃんはふふふと微笑む。骸骨水晶という点を差し引いても、それは妖しく美しく見えた。いや、骸骨水晶だからこそかもしれない。

『芸術幻霊七番勝負よ。あたしの他に六人いるわ。あたしはラスボスだから、頑張ってあたしのとこまで来てね』

ニケちゃんはふわりとどこかへとんでいき、僕達三人が取り残される。

「逃した」
「参ったな」

だから、エキシビジョンマッチなのだ。ふざけた設定の。

+ 現状見取り図
マスター 藤丸立香
芸術のアーチャー エロイカ
芸術のキャスター ミロのヴィーナス
セイバーの芸術幻霊
アーチャーの芸術幻霊
ランサーの芸術幻霊
ライダーの芸術幻霊 サモトラケのニケ(with水晶髑髏)   
キャスターの芸術幻霊
アサシンの芸術幻霊
バーサーカーの芸術幻霊



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最終更新:2018年03月06日 12:54