ファーストコンタクト

「お帰りなさい、兄さん。毎度ながら僕の代わりに戦場に赴いてもらって本当に申し訳ない」

「別に気にすんなってよ。まぁ、少しは負い目を感じてもらわないと俺も困るが……お前だって死んだ親父の分まで国を治めているからな」


 パリス。兄に兜輝くヘクトールを持つトロイアの王は玉座の間にて、戦場から帰還した兄を迎え受けた。
 透明に近い蒼の髪を持ち、軽鎧を纏う彼は俯きながら兄へ手を伸ばす。
 ヘクトールは半分笑いながらもその手を受け取り、視線を後方へと誘導する。そこにはパリスにとって初めて出会う存在がいた。

「兄さん、新しい特記戦力が召喚されたんだね」

「俺もまだ話を聞いちゃいないが、忍者が拾ってきたからな。問題は無いと思うぜ」

「アサシン殿が……お初にお目にかかります。こちらへどうぞ」


 トロイア軍とアカイア軍が入り乱る戦局は天上からの雷により、中断。
 道中に兵士達へ問いかけた所、この戦が始まってから雷の度に戦争が止まると言うのだ。
 疑問に感じた藤丸は更に聞き出したのだが、風魔小太郎からワイバーンの襲来を思い出せと告げられる。
 どこからともなく放たれる魔物を相手にしていては、両陣営に発生する被害は膨れ上がるだろう。
 しかし、アーチャーはならばその隙を狙えば優勢になるだろうと指摘するも、風魔小太郎はお茶を濁すように話題を逸らす。
 結局、天上の雷についての詳細は分からぬまま。そして藤丸とアーチャーはトロイア城へと案内される。

 特記戦力と称されるは平たく云えばサーヴァントである。
 混沌極める戦争に招かれた歴史に混ざらぬ異物。歴史を歪める程に強力な力を持つ単騎ながら一旅団に通ずる兵器の類。


「此方こそお初にお目にかかります。私はアーチャー、名乗るにも烏滸がましい無銘の英霊です」

「そんなかしこまらなくても結構です。サーヴァント……という方々の実情は知っているつもりです」

「……実情?」

「お前さん達は名前を知られちゃ弱点を攻略されるんだろ? だから必要以上に詮索しないって訳よ」


 弓兵は礼を言う、と小さく呟き、やはりかと息を呑む。
 パリスとヘクトールはサーヴァントに非ず。この時代の人間である。
 オケアノスで出会ったドレイクと同じように、サーヴァントの力を持たない存在だ。
 彼女は聖杯を持ち合わせていたため、正面からサーヴァント相手に戦う力を持っていた。けれど、彼らはどうだろうか。
 戦場に出向くヘクトールはそれに近い力を持っているのかもしれない。後に英雄と讃えられる男ならば、一般の兵士よりかは強い筈。
 アキレウス等の実力者を相手に持ち堪えているのだから、彼もまた運命に立ち向かう存在なのだろう。


「抗うか……お前は」

「どうしたのアーチャー。少し顔が怖いけど?」

「む――気にするなマスター。心配させたようだが、どうやら疲れているようだ」

「そちらの方も……サーヴァント?」

「いえ、此方は藤丸君。アーチャー殿を補佐する方です。サーヴァントに詳しい指揮官とでも認識していただければ」


 弓兵の顔を覗き込む藤丸の存在に気付いたパリスへ、どこからともなく現れた風魔小太郎が進言し、素性を明かす。
 サーヴァントに詳しい指揮官。その表現に偽りは無いのだが、指揮官という響きに藤丸は感動したのか若干顔を赤らめる。
 曲がりに何も数多くの特異点に趣き、人理を修復し、消し去られた未来を世界へ取り戻した男だ。

 その手腕。彼一人の力で無かったとしても、誇るべき経歴である。


「特記戦力の対策は僕達にとっても重大課題の一つです。これは心強い味方が生まれました……頼みましたよ、藤丸さん」

「そ、そんなそんな僕なんて……出来ることがあったら、何でも力になります?」

「ん……まぁ疲れただろうし、今日は休みな。部屋は沢山あるからな。事情聴取その他諸々は明日でいいだろう。なあ、パリス?」

「兄さんの言うとおりだ。アーチャーさんに藤丸さん、今日の所はゆっくりとお休みください」

「ありがとうございます! よかったね、アーチャー! みんな良い人達みたいだ」

「……見張りも無し、という訳にはいかんだろうな」


 明るい藤丸とは真逆に真剣な表情でアーチャーはヘクトールを射抜くように見つめる。
 その視線にヘクトールは笑いながら、参りましたと云わんばかりに答えた。


「今更、聞くことかいアーチャーさんよ。そりゃあ付けますって話だ。俺やローランが見張ってるからな? おかしなことをしたら……」

「に、兄さん。藤丸さん達はまだ内情を知らないんだからさ」

「演技かもしれないぞパリス王。我々がアカイアのスパイという可能性もある」

「そゆこと。パリス、他人を信じるように変わる努力をするのは結構だが、甘さとは違うからな」












「……豪華ですね」

「僕にも同じような部屋が与えられました。きっと客人用はどこもこのレベルを保っているようです」


 アサシンに案内された客室は想像よりも遥かに豪勢だ。
 僕の目の前に広がるのは本で見たような、お伽噺に出てくるような貴族の一室だ。
 ふかふかなベッドに掛かる貴族特有のカーテン、毛並みが美しい絨毯、天から灯されるシャンデリア、とにかく高そうな壺。
 これさえ対策すれば問題無しと言っても過言では無い豪勢貴族のオンパレードに僕のテンションが上がる。

 ベッドにダイブするも痛みは感じない。これは本物だ。
 ごろごろと転がるも服に羽毛等の付着は無い。朝には気持ち良いの日差しが入ってくるように位置も調整されている。
 パリスさんは気まずそうな顔をしていたがとんでもない。素晴らしい部屋だ。


「お気に召したようでなにより……」

「は、はは……ちょっとテンションが上がりすぎたかな?」


 アサシンが僕へ向ける目線は冷たかった。
 ちょっと引いてるのかもしれない。これは失敗したかなあと思う僕であった。





(会話パートは基本的にテンポ重視サクサク地の文ばっさばさで行こうと思います)















【藤丸の自室】


 シャワーを体験したが、この時代にシャワーは存在していたのか。 
 浴び終えた僕は窓を開け、夜風に当たりながら誰も答えない疑問を頭に浮かべる。
 あまり気にしていなかったが、特異点にはサーヴァントの介入により文明の著しい発展をする場合もある。
 アメリカでのエジソン大量生産社畜工場機械兵が正にそうだ。あんなものが僕達の歴史にあってたまるか。
 兵器的な意味合いもだが、あれによって多くの生命が失われた。それもあのザイズから中に入っていた人間は――うん。

 僕達の戦ったことは人理が修復されても無かったことにはならない。
 バビロニアで英雄王から語られたことを思い出す。ティアマトを倒しても彼女に殺された生命は蘇らない。
 歴史から除外されたティアマトの代わりに新たな仕掛け人が配置されるだけ。例えば猛獣に殺されたと置き換えられる。
 この時代ではどうなるのか。明日になったらアーチャーに聞いてみよう。

 アーチャーは歴史に詳しい。きっとトロイア戦争のこともぺらぺら喋ってくれると思う。
 僕はこの時代についての知識が乏しい。オジサン……ヘクトールのことも。


「――そうだ!!」










【廊下】


ローラン「君は……藤丸君、だったか」


藤丸「貴方は……アキレウスと戦っていた勇者!」


ローラン「勇者か……そうだな、勇者と言われるのも慣れたよ。俺はローランだ、よろしく頼む」


藤丸「握手……こ、こちらこそ! 不束者ですがよろしくお願いします」


ローラン「はは、不束者ときたか。未来の人間はユーモアセンスも俺達の先をいくか」


藤丸(そう云えばアキレウスにユーモアがなんとかって弄られたような気がするなあ)


ローラン「む、もしかしたら傷付けてしまったか? ならば謝ろう。俺も悪気は無い」


藤丸「そんなことないです! ただ、ローランさんは冗談が通じる人でよかったなあって」


ローラン「冗談が通じない人間もいるからな。今はサーヴァントか」


藤丸「そうですね……はは……」


ローラン(目が笑っていない。どうやら本気で冗談が通じないサーヴァントの相手をしたことがあるようだ)


藤丸「ローランさんは何処かに行こうとしていたんですか?」


ローラン「いや、ただの見回りさ。城の巡回は仕事の一つ……と言っても俺が勝手に行っているのだがな」


藤丸「お勤めご苦労であります!」


ローラン「なに、勝手にやっていることだからな。君も敬礼をする必要は無い。外出するなとは言わんが、不用意に動き回れば悪い噂が飛び回るから注意しろよ」


藤丸「ありがとうございます。ローランさんのことはアストルフォから聞いていたけど、話よりも良い人そうでよかった」


ローラン「…………………………………アストルフォ? 待て、君は彼を知っているのかい、そして俺のことを聞いた? その話を詳しく聞かせてもらえないか、どうやら君は私について何か重要な勘違いを――――いない」











【廊下】


ヘクトール「おっ、藤丸……って言ったけか。お子様はそろそろ寝る時間だぜ?」


藤丸「もう、そんな年齢でもないですよオジ……ヘクトールさん」


ヘクトール「言うねえ、俺にはまさ酒も飲めない年齢に見えるけどな」


藤丸(オジサンって言わないオジサン……これは☆4ぐらいのレアかもしれない)


ヘクトール「まあ、アレだ。うろちょろしてたら変に疑いを掛けられるからな。最近は妙な泥棒も湧いてるみたいだしな」


藤丸「泥棒ですか……うーん、流石に泥棒扱いは傷付くかも」


ヘクトール「おっと、誰もお前さんを疑ってないさ。アサシンからの報告じゃ今日、こっちに来たんだろう? なら今の段階じゃ白よ」


藤丸「これから僕に疑いに掛かったとしても捕まえてみせますよ!」


ヘクトール「お! 元気ある若者じゃないか。泥棒ってのはどうやらアカイアにも足を運んでいるようでな。盗み先に必ず一輪の花を置く謎の存在ってことで民達の間で話題になっている。
      まあ、お前さんが捕まえたら名誉トロイア市民ってところかな。俺は大いに歓迎するが、今日はもう部屋に戻れ。明日になったらこの時代の説明をしてやるから、な? お休み、マスターさん」











【吹き抜け】


藤丸「城と云えど夜は静かだなあ。さっきまで戦っていたからみんな休んでいるのかな……せっかくだから色々と話を聞こうと思ったのに」


???「誰かそこにいますか?」


藤丸「はいっ!? あ、えっと……驚かせてしまってすいません」


???「ふふっ、別に気にしていませんわ。貴方は……見ない顔ですけど、新しい特記戦力の方ですか?」


藤丸「綺麗な人だなあ……はい、藤丸と申します。この度はパリスさんとヘクトールさんに甘えさせてもらってます」


???「そうですか……これはお散歩中の邪魔をしてしまってごめんなさい」


藤丸「そんなことないですよ! こっちこそ……えっと、お花の世話ですか?」


???「ええ、なんだかこの花を見ていると心が温まるんです」


藤丸「綺麗な花ですね。月明かりにも負けないぐらい」


???「強く咲いています。でも、見つめているとなんだか悲しい気持ちにもなってしまう」


藤丸「……えっと」


???「あ、困らせてしまったようですね。ごめんなさい。今日は冷え込みますから、お早めに部屋に戻ることをおすすめいたします。私のことは、明日にでも」












【アーチャーの部屋の前】


藤丸「アーチャーはもう寝てるかなあ」


藤丸「いや、身体を鍛えているのかもしれないし、日記を付けているのかもしれない。日記を書いているかなんて知らないけど」


藤丸「流石に寝てるってことは無いよなあ。お爺ちゃんみたい。でも、今日は疲れていたようだしなあ。邪魔しちゃ悪いよなあ」


アーチャー「お爺ちゃんは休ませるべきだと私は思うがな」


藤丸「そうだよね! アーチャーもお爺ちゃんは休ませる――――――こ、こんばんわ。今晩は冷え込むとお聞きしたので、早めに部屋に戻りまああああああああああああああす!!」

















 マスターが部屋の前に立っていたため、声を掛けたアーチャーだったがタイミングが悪かった。
 彼の存在に気付いた藤丸は一目散に駆け出し、脇目も振らず自室に辿り着くと飛び込むように消えてゆく。
 その様子を見届けたアーチャーは我が子を見るように優しい表情だった。


「私の見張りは君か」


 一瞬にして真剣な顔付きへ切り替えると


「……悪く思わないでください。戦乱の最中であれば何もおかしいことはありません」


 廊下に不釣合いな旋風が吹き上がれば其処に立つは風魔小太郎。
 気配を殺し、アーチャーの呼びかけによって現れた彼は見張りとしての役目を彼に告げる。
 カルデアの存在は伏せられているものの、彼らはトロイア軍にとって謎の存在。敵と味方の区別すら付いていないのだ。


「部屋を与えられているだけ有り難いと思っているさ。それよりも、一つ、いいか?」


「僕に答えられることであれば――――――――――貴方の言う通り、トロイアの王でありパリス・ヘクトール兄弟の父であるプリアモスは何者かによって暗殺されています」






(このように時折、台本形式も織り交ぜる形で進めようかと思います)






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最終更新:2017年05月14日 23:37