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カダラ遺跡の探索を終えたジャンたちを待っていたものは、 ボルス連邦の突然の裏切りの報せだった。 |
ロン公国・オルメカ帝国・ボルス連邦の三国で協力して 修復と真相究明にあたっていた聖杯が、ボルス連邦に奪われたのだ。 |
アベル 「悪いけど… 俺たちはこのままオルメカに戻らなければならない」 |
ジャン 「ああ、わかってる。 皇帝によろしくな」 |
ロン公国にとっても、オルメカ帝国にとっても、 状況がはっきりしない今、ボルス連邦と全面衝突することは、 出来るだけ避けたかった。 |
ジャンたちと別れ、オルメカ帝国に帰還するアベルとネシェル。 一方ロン公国は、 聖杯返還をもとめ、ボルス連邦に使者を送ることを決定した。 |
グラウコとともに連邦領の砂漠付近に滞在していたジャンたちは、 ロン公国より新たに来訪する使者の到着を待つことになった。 |
その頃、ボルス連邦では…。 |
ニノ 「あたしたちが連邦の裏切り者? どういうことなのよ!?」 |
ラウラ 「納得がいきませんわ。 大統領は、いったい何を考えているんですの?」 |
ボルス連邦の聖杯奪取に異を唱えたクローチェ隊は、 連邦の裏切り者として、追われる身となっていた。 |
果たして、聖杯を奪い去った大統領の真意とは。 大陸に再び蒔かれた争いの火種。 それを絶やすことは、出来るのだろうか。 |
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【第一話 警備機械兵メッソ】 ロン公国から使者として派遣された枢機卿グレースたちと、ジャンたちはボルス連邦入り口で落ち合った。 ジャン 「一体どういうことなんだよ? 連邦の奴らは何を考えてるんだ?」 ジャンの言葉に、ボルス連邦クローチェ隊の一員であるグラウコは無言で首を横に振るだけだった。 ジャン 「だから、何が言いたいかわかんねーっての!」 アンリ 「兄さま。グラウコさんにも事情がわからないんじゃないかな」 グレース 「連邦との交渉には、私とリュシアンとであたります。アリシア、あなたはロン公国に帰りなさい」 アリシア 「冗談じゃないわ! こんな状況で帰れるもんですか!」 聖杯は、自分の素性を知るたったひとつの手がかりでもあるのだ。頑なに帰還を拒むアリシアに、グレースは渋い顔でため息をついた。 グレース 「仕方ありませんね…。あなたがたは、私たちが戻るまで連邦の様子を見ていてください。そして何かあれば、すぐに本国に連絡を」 ジャン 「オレたちは待機かよ!」 グレース 「ジャン。…アリシアは、あなたが必ず守るのですよ」 いつもならふたり揃って即座に反発する言葉だった。だが、それを許さぬほどグレースの眼差しは真剣だった。 グレースとリュシアンを見送り、残されたジャンたち。 アリシア 「…黙って待ってなんかいられないわよっ。」 ジャン 「そもそも、ボルスの奴ら聖杯を奪ったっつーけどよ、まだ修復も済んでねーんだろ? そんなぶっ壊れたモン持ってって、どうするつもりなんだ?」 アンリ 「兄さま。何か…ボルスにも、僕らの知らない事情があるのかもしれない」 アンリの言葉にしばし考え込むジャン。すぐに、にっと笑って口を開いた。 ジャン 「グレースは『連邦の様子を見てろ』と言ったけど、おとなしく待ってろとは言わなかったよな」 その言葉に、アリシアも顔をあげる。 何が起きているのか、自分たちで確かめよう。連邦の町へ足を踏み入れたジャンたちに、ほどなく、何者かが争う激しい音が聞こえてきた。 アンリ 「兄さま、あれ…!」 見れば、見知った顔が巨大な機械と戦っているところだった。 ジャン 「いくぞ! アンリ、アリシア!」 アリシア 「ええと、この場合、倒すのはメカの方でいいのよね…!?」 |
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【第二話 暴走した刺客リタ】 ティーナ 「あーっ! ジャンだ! グラウコもおかえり~♪」 機械兵メッソと戦っていたのは、かつてオルメカの城で共に戦ったクローチェ隊のメンバーだった。 ジゼラ 「何故あなたたちがここに?」 ジャン 「それはこっちの台詞だぜ。いったい何がどうなってんだよ」 ティーナ 「あのね、いろいろ大変だったんだよ」 ボルス連邦に帰還するなり、突然ロン公国から聖杯を奪ったことを知らされた。それが納得できずに大統領に説明とロン公国への聖杯返還を求めたところ、ボルス連邦より裏切り者の指名手配犯として追われることになったのだ。クローチェ隊のメンバーは、ジャン達にそう説明した。 ジャン 「…それをそのまま信じろって?」 ティーナ 「ほんとだもん! ティーナ嘘なんか言ってないもん! あんなに一緒にがんばったのにジャンのばかばかばか!」 頬をふくらませてぽかぽかと叩くティーナ。その姿に、ジャンもアリシアも笑顔になる。 ジャン 「いててっ。しゃーねーなぁ。ティーナがそう言うなら、信じてやっか!」 アンリ 「それにしても…。大統領は何故壊れた聖杯を…?」 ウーゴ 「それは俺たちにもわからない。どうしてこんなことになったのか…。俺達は、いったいなんのために戦ったんだ…」 その時、響き渡った鋭い声が、ジャンたちの会話を遮った。 リタ 「見つけたわよ、裏切り者!」 ジゼラ 「我々は、裏切ってなどいない。盟約を破ったのは、そちらの方でしょう」 リタ 「黙れ! 兵団長を裏切った挙句、ロン公国の者なんかと通じるなんて! お前だけは絶対に許さない! 団長のためにも、あたしがこの手で倒す!」 ジゼラ 「…あなたがどう思おうと勝手だけど、そんなことを言われる筋合いはないわね。」 今にも飛び掛りそうな勢いのリタに、冷ややかにジゼラが返す。睨み合うふたりの間で、激しく火花が散っていた。 ジャン 「な、なんだ? 何が起こってんだ?」 ニノ 「ここだけの話だけど、ティターノの兵団長とうちの隊長は付き合ってるってウワサ。そんで、リタは兵団長のことが好きなワケ」 ラウラ 「要するに、嫉妬ですわね」 ジャン 「…女の嫉妬…こえぇ~…。」 小さく呟いたジャンたちの前で、激しい女の戦いの火蓋が切られた。 |
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【第三話 万能サポーターニコロ】 凄まじいほどの女の戦いは、かつてティターノ最強の魔導士の名を持っていたジゼラの勝利で幕を閉じた。 リタ 「これで終わりと思わないことね…! 首を洗って待ってなさい!」 ジゼラ 「何度来ても同じことよ」 捨て台詞を残して立ち去るリタを、冷たく見送るジゼラ。 その場にいた誰もがふたりの迫力に立ち入る隙もなく、遠巻きにその様子を伺っていた。 アリシア 「よくわからないけど、ジゼラさんは自分の恋人に指名手配されているの…?」 ジャン 「…あんなおっそろしい隊長が恋人だなんて、噂の兵団長とやらはよっぽどの大物だよな」 ぼそりと呟いたジャンに、ごっ!と音を立ててアリシアの拳が飛ぶ。 アリシア 「そういう失礼なことを言わないの!」 ジャン 「いってー! 本気で殴ったろ!! そうやってすぐ暴力に訴えるから嫁のもらい手がなくなるんだ!」 アリシア 「まだいう気!?」 ジャン 「やめろって…! ほら、ウーゴも呆れてるだろっ!」 ウーゴ 「……」 ジャンに話をふられたウーゴ。だが、まったく反応がない。 ジャン 「…ウーゴ?」 ウーゴ 「ああ、悪い…。…なんだ?」 ジャン 「わざわざ聞き返されるほどの話じゃねーけど…。どうかしたのか?」 ウーゴ 「別に…」 短く答えると、ふいと背を向けたウーゴに、ジャンとアリシアが揃って首を傾げる。 その空気を破るように、涼しげな声が響いた。 ニコロ 「見つけた。指名手配のクローチェ隊…と、ロン公国の方々も一緒だね。ちょうど良かった。全員まとめてご同行願おうかな」 いかにも人がよさそうに微笑んでいるニコロの背後には、ジャンたちが見たこともない機械が無数に浮かんでいた。 ジャン 「なんだあれ?」 ウーゴ 「全方向に攻撃を放つ魔導機械だ。…俺が行く」 前に出ようとするウーゴを、ジゼラが鋭く制した。 ジゼラ 「待ちなさい。今のあなたで、戦えると思っているの」 ウーゴ 「…! 隊長…!」 ジゼラ 「隊長命令よ。下がりなさい。 …ニノ、ラウラ!」 ジゼラの指名に、ふたりが前に進み出る。 ニノ 「ウーゴ、安心して。こんなヤツ、ちょろいもんよ。あたしにお任せ♪」 ラウラ 「せいぜい、わたくしの足をひっぱらないことですわね」 |
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【第四話 アンナ新兵器開発】 悪態をつきながらも、ニノとラウラの絶妙の連携に、ニコロの魔導機械は完全に粉砕された。 ニノ 「ざっとこんなもんよ♪」 軽くウインクをしてみせるニノとラウラに、ウーゴが沈んだ表情で悪い…と一言謝った。 ジャン 「ウーゴのヤツ…いったいどうしたんだ?」 ニノ 「オルメカから戻ってから、ずーっとあんな調子」 ラウラ 「…アージェを倒すしかなかったことを、自分のせいだと責めてるんですわ」 ジャン 「あの騎士団長に言われたことをまだ気にしてんのか? しょうがねーだろ。お前のせいじゃねーんだから! 済んだことをいつまでもくよくよすんなって!」 軽い口調でウーゴを励ますジャンに、ニノとラウラが凄まじい剣幕で詰め寄った。 ニノ 「簡単に言わないでよ! バカ!!」 ラウラ 「あなたのような単純な人と、ウーゴを一緒にして頂きたくありませんわ!」 ふたりの形相にたじろぐジャンの前に、アリシアが割って入る。 アリシア 「ちょっと待ってよ! 確かに、ジャンはバカで単細胞で、どーしようもない考えナシで超絶無神経のトーヘンボクだけど…! そんなに言うことないじゃない!!」 ニノ 「……。あたしたち、そこまで言ってないけどね?」 ジャン 「アリシア…、喧嘩うってんのか?」 アンナ 「騒がしいなぁ。こんな状況で内輪モメなんて、あんたたちズイブン余裕だね」 突然割って入った声に振り返ると、奇妙な機械を携えアンナが立っていた。 アンナ 「じゃーん! アンナさん登場! 見てよこの兵器。カッコいいっしょ? 指名手配犯を捕まえるにはうってつけだよね。ちょいとテストに付き合いなよ!」 ジャン 「…てーか、当たると死ぬだろ、アレ…」 ジゼラ 「悪いけど、こんなところで捕まるわけにはいかないのよ」 |
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【第五話 強襲アタッカーロゼッタ】 アンナ 「あっちゃー、こんなに簡単に破壊されちゃうなんて。…もっと強度をあげないとダメか」 勝敗がついたと見るや、ロケットランチャーを下げてアンナは両手を挙げた。 アンナ 「降参降参。やっぱ実働部隊にゃ敵わんわ」 ジャン 「随分あっさりしてんだな」 アンナ 「だってねぇ。最近の大統領はちょっと変だし、なーんか中央はキナ臭いし。ほらまぁ、あたしも雇われの身だからさ? 義務は果たさなきゃならんわけよ。でも、命まで賭ける義理はないじゃない」 アリシア 「大統領が変…? どういうこと?」 アンナ 「んーまぁ、気になるなら直接会って話をすれば? んじゃっ! あたしゃこれで」 言うだけ言うと、アンナは飛行機械で飛び立ち、見えなくなった。 アンナの姿を見送り、ジゼラが考え込む。 ジゼラ 「確かに…。言われてみれば、今回の聖杯奪取の件は、今までの大統領からすれば、あまりに強引な…」 その時、ばっと、アリシアが振り向いた。 アンリ 「アリシア、どうしたの?」 アリシア 「今、誰かがこっちを見てた…!」 アリシアの言葉に応えるように、二丁の拳銃を携えたロゼッタが現れる。 ロゼッタ 「へーぇ。アタシの気配に気づくなんて、アンタなかなかやるじゃない」 アリシア (…! 違う、さっきの視線はもっと深くて鋭くて… なんだろう、このカンジ) ロゼッタ 「うふふ、大統領の行動がおかしいワケ、教えてあげよっか」 アリシアの考えをよそに告げられるロゼッタの言葉に、その場にいた全員の表情が引き締まる。 ロゼッタ 「そうね。この中で一番強いヤツ。やっぱそこの隊長かな? アタシを満足させてくれたら、教えたげてもいいよ」 言いながら、楽しそうに両手の愛銃を構えるロゼッタ。 ジゼラ 「戦いに喜びを感じるトリガーハッピー(射撃狂)…面倒な相手だけど、やるしかなさそうね」 |
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【第六話 立ちはだかる闘将カルロ】 ジゼラとロゼッタの戦いは、激しい攻防の末、ジゼラの勝利で幕を閉じた。 ロゼッタ 「ちっ…あわよくば抹殺しちゃおうかと思ったのに…そううまくはいかないか」 ジゼラ 「なに?」 ロゼッタ 「いえ、こちらの話。…まぁ、約束だからさ。実のところアタシも詳しくわからないけど、最近、大統領邸に見慣れない怪しい人物が出入りしてるってウワサがあるのよね。それって、どうもクサくない?」 ジャン 「怪しい人物?」 ロゼッタ 「そ。アタシが知っているのはそれだけ。せいぜいがんばりなよ、指名手配の皆さん!」 立ち去るロゼッタを見送り、ジャンが呟く。 ジャン 「やっぱり、大統領に会うしかなさそうだな」 ジゼラ 「その前に、会わなければならない人物がいるわね…」 立ちはだかる機械兵たちをなぎ払い、大統領官邸の奥へと進んでいく一行。その行く手に、ボルス連邦最強のティターノ兵団を統べる兵団長カルロが立ち塞がる。 カルロ 「追われる身でありながら、随分派手にやってくれたものだ」 ジゼラ 「カルロ。きちんと説明して。一体、何が起こっているの」 カルロ 「たとえ君が相手でも、何も語ることは出来ない。真実を知りたければ、俺を倒して先へ進むことだ」 ジゼラ 「やるしかないのね…」 カルロ 「残念だが、そのようだな」 静かに精霊銃を構えるジゼラ。ジゼラの照準がカルロに合わせられるより先に、ウーゴが動いた。 ウーゴ 「隊長だけは、絶対に兵団長と戦っては駄目だ…!」 どちらが残っても、待っているのは悲劇だけだ。たとえ自分では歯が立たなくても、大事な者同士が戦うことだけは、食い止めなければ。 ジゼラの制止を振り切り前に進み出ようとするウーゴの肩を、ジャンが掴んだ。 ジャン 「俺が戦うぜ」 ウーゴ 「ジャン…!」 ジャン 「外部の人間の方がいいだろ。それに、聖杯を奪われた俺たちには、戦う理由がある!」 アリシア 「とーぜん、わたしたちもよね」 ぱしっと拳を合わせるアリシアの隣で、アンリが杖を携えてうなずく。 カルロ 「遠慮はいらない。本気でこい」 魔導にも剣技にも優れる兵団長は、ゆっくりと軍刀を抜き払った。 |
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【第七話 フラビオ鋼鉄の大軍勢】 不意に、カルロが刀をひいた。 カルロ 「それだけの力と覚悟があれば、大丈夫だろう」 ジャン 「なんだと?」 カルロ 「真実は、お前たちの目で見極めろ。…俺には、それしか言えん」 刀を鞘に収めるカルロの背を見つめ、ジゼラが隊員に号令をかける。 ジゼラ 「クローチェ隊進軍! 後のことは、カルロに任せる。行くわよ!」 執務室には、大統領その人がただひとり立っていた。 フラビオ 「なんだお前たちは。…カルロはどうした」 他に怪しい人物は? 辺りを見回すアリシアの横で、ジャンがフラビオに叫ぶ。 ジャン 「おいおっさん、どういうつもりだよ! 壊れた聖杯なんか奪いやがって! あれがどういうものだかわかってんのか?」 フラビオ 「…ふん、ロンの田舎騎士か。わかっておらぬのは貴様の方だ。ボルスの技術力があればこそ、聖杯を真に生かすことができる。その力で、今こそ大陸に強力な統一国家を築くのだ…!」 ウーゴ 「…そんなことのために、俺たちは…アージェは、戦ったのか!」 フラビオ 「アージェ…? あの裏切り者か。馬鹿な男だ。オルメカからの誘いにのって、命を落とすなど」 フラビオの言葉に、ウーゴが鎌を振りかざす。 ウーゴ 「アージェを愚弄するな…!」 ジゼラ 「ウーゴ、やめなさい!」 フラビオに刃を向けるウーゴを、グラウコの言葉が止めた。 グラウコ 「ウーゴ。…お前に背負わせたものの重さを、アージェ自身もわかっている」 ウーゴ 「…!」 グラウコ 「お前ももう、わかっているだろう。お前ならきっと乗り越える。…アージェは、お前に想いを託したんだ」 フラビオ 「私に歯向かうというのか。よかろう。大陸を統べる支配者の力を思い知るがいい…!」 フラビオの言葉に、背後の扉がすべて開け放たれた。 そこには、数え切れないほどの機械兵の大軍が並んでいた。 アンリ 「兄さま!」 ジャン 「ただの機械だろ? 数だけ揃えたって、どーってことねぇよ!」 ウーゴ 「…甘く見るな。大統領専用の警備兵だ。そこらの雑魚とはわけが違う」 冷静に告げて、ウーゴが雷光を帯びた鎌を構え直す。いつものウーゴだ。ジャンがにっと笑う。 ジャン 「やれるか、ウーゴ」 ウーゴ 「…当たり前だ」 ジャン 「さぁ、とっとと片付けようぜ!」 |
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【第八話 魔女の第二指イェール】 機械兵の残骸が転がるホールの奥に、ジャンたちを見下ろすように、少年が座っていた。 無邪気に笑うその様子は、誰が見ても、ただの少年にしか見えないことだろう。そう、その背の竜の翼と異形の角さえなかったならば。 イェール 「なんだ、もう終わったのか。大統領だっていうから、もう少し使えると思ったのに、案外呆気なかったな」 ジャン 「お前…! 竜騎士か!」 アンリ 「…あなたが、大統領に聖杯のことをそそのかしたんだね?」 アンリの言葉に、イェールはくすくすと声を立てて笑った。 イェール 「ほーんと、馬鹿だよね。人間に聖杯が扱えるわけないじゃん。まぁでも、感謝はしているよ。お陰でこうして聖杯も、神の血筋も手に入ったし」 ジャン 「なんだと!?」 イェールの指の先を見上げると、宙に浮かぶ光の中にアリシアが閉じ込められていた。 アンリ 「アリシア!」 ジャン 「ふざけるな…! アリシアを返せ!」 剣を抜き、走り寄るジャン。だが、イェールから投げかけられた次の言葉に、その足が止まった。 イェール 「へぇ…あの男の息子にしては、ずいぶん血の気が多いんだね」 ジャン 「…なに!?」 アンリ 「父さまを…父さまを知っているの!?」 イェール 「ああ、そっちのちっこい方はちょっと面影があるな。…いいよ、気が変わった。僕に勝てたら、返してあげるよ」 どこまでも余裕の笑みを崩さないイェールを、ジャンは睨みつけた。 ジャン 「畜生…ふざけやがって」 アンリ 「兄さま…相手は手ごわいよ」 ジャン 「わかってる。けど、やるしかねーだろ! アリシアは、絶対に取り戻す!」 |
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