406 名前:許したその後でねだる永遠[sage] 投稿日:2011/04/10(日) 12:45:45.93
一度抱きしめた温もりを手放すことは出来なかった。
彼女の舞台以上に、というと、彼女は桜色の唇を曲げて怒るかもしれないが
彼女自身にも中毒性があった。
舞台が終わってしまえば、御見物は現実に戻ることができるが
彼女は俺を絡め取ってしまって、俺はもう元には戻れない。
彼女から貰ったイヤリングを胸に確認して、今日もバジュラとの戦闘に向かう。
俺は、フロンティアを守る。
彼女たちの歌う、このフロンティアを。
修羅の刻を越えて、移民船へと帰って来た俺は、不安定なフロアを踏みしめてドラッグストアへ向かった。
そろそろ、アレがなくなるからだ。
いつかの更衣室で俺がイヤリングを胸に下げ直すのを見てミシェルに押し付けられたアレが
たまたま、俺に合っていて良かった、と思う。
(ミシェルと同じくらいかと思うと複雑な心境だ)
使う機会があったらいい、浅ましい下心を見ないふりして、ズボンの中に入れていた。
ズボンを洗濯しても、ポケットに戻すのだから見え見えの欺瞞だった。
初めの一つを使ってから、俺はどんなものがあるのかを勉強し、今日も人目を忍んで調達しに行く。
仕事は忙しいから、まとめ買いをするべきなのだろうが、
俺たちは何の約束をしたわけではないのだ。
ただ、きっと俺たちは互いを欲している。
「じゃあね、シェリル。そこのパイロットさんといい子にしてるよ?」
「グレイス!」
これからの甘い出来事を仄めかされ、二人で赤面する。
当然のように俺たちが情を交していることは知られてしまっているのだが、
グレイスは今までと変わりなく俺をシェリルの護衛に置いていた。
それどころか、「今夜は二人でゆっくりなさい」などと言って出ていくのだ。
・・・しかし、それで気づいたことがある。
グレイス・オコナー(グレイス・ゴドゥヌワと言った方がいいのか)とブレラ・スターンは
俺とシェリルがこういう関係になる前から、頻繁にどこかへ出かけていた。
軍人だという、もはや隠す様子すらない、あいつらの身のこなしは間違いなく、プロだ。
つまり、銀河横断ツアーに身をひそめてきた、あいつらは間違いなく黒。
シェリルとは別に、あいつらは何かをしている。
でも、シェリルは。
こいつは、歌に、舞台に全てを捧げている女だ。
「スパイかどうか分からない」と言ったが、俺は、スパイだとは思っていない。
少なくとも、こいつの本望は歌うことにあると思っている。
あいつらが行動を起こすことを止められればいいが、
今でも何の手がかりも得られない、末端の俺では難しいだろう。
最悪、事が起こった時、どうすればこいつを守ってやれるのか、いつもそれを考えている。
「あいつら、お前以上に忙しいんだな」
少なくとも俺よりは状況が分かっているだろうにシェリルに当てつけるが、さらりとかわされた。
「そうよ、舞台は私一人で作ってるんじゃないもの。
シェリル・ノームは私だけれど、彼女たちと作り上げてるんだもの」
シェリルの誇らしげな表情から、グレイスへの全幅の信頼が感じられた。
が、ふと一瞬、陰る瞳がアルトの心に突き刺さる。
(ひとりぼっちにしないで)
シェリルの心の奥底に抱える気持ちを思い出し、胸がぎゅっと締め付けられる。
姉妹のように見える彼女たちはやはりどこか、ドライで、歪に感じる。
言葉を濁すことはあるが、シェリルの話に矛盾はない。
佐官の女が、どうしてデビュー前からシェリルのマネージャーをしているのか。
シェリルを守るために、もっとシェリルの真相に迫らなければならない。
・・・しかし、詮索することで遠ざけられるのが何よりも怖い。
そのことが分かっていて、あの女は俺を泳がせているのかもしれない。
*****
「グレイス達が頑張ってるんだもの、私もぼんやりしてられないわ」
シェリルは、スポーツウエアに着替え、柔軟体操を始める。
豊かな体のラインが分かるこの服には何度見ても、ドキリとさせられる。
目を奪う適度に引き締めた肢体が柔らかくしなる様は彼女の鍛錬の証だ。
シェリルは自分のすべきことに向かって、確かに歩んでいる。
なのに、俺は、こいつを守っるための事を、何もしていない今の時間が歯がゆかった。
俺は確かにシェリルを守ることが今の任務だが、所詮は形だけの護衛なのだ。
「・・・この前の、あのダンス、形になりそう。ありがとね、アルト」
「あ、あああ、そうか」
俺が側にいない間も、シェリルは俺を置いて先へ行ってしまう。
なんとも言えない焦りが、俺の中で広がった。
袋小路に陥っていた思考を、アラームの音が遮った。
シェリルが入浴する時間に設定していたはずだ。
「うふふ、覗いちゃダメよ」
「ダ、ダレガ!」
***
風呂のTVで聞いてきたのか、ご機嫌にランカの新曲、「虹色☆くまくま」を口ずさみながら
シェリルが髪を乾かしている。
俺の。
時を遡ること15分前。
シェリルに促されるままに、浴室を借り(護衛はどうした!)、さっぱりとした俺を待ち構えていたのは
ドライヤーとブラシを持つシェリルだった。
「だって、グレイスの髪は一瞬で整っちゃうし」
「??そうなのか??」
「そうなのよ、首を振れば一瞬なの。インプラントってやっぱり全然違うのよ」
声のトーンにシェリルの淋しさがにじみ出ていた。
そうして、俺の髪は、シェリルのおもちゃとなっていた。
「つやつやで鏡みたい。でも、まずはタオルドライよね、え~~い」
「おま、絡むだろ」
『乙女心♪勇気出して♪』
結局はきちんと髪をパーティションして、ドライヤーをかけるシェリルの歌は朗らかだ。
シェリルはけっこうおおざっぱだが、こういったことはきちんと躾られているようだった。
「・・・ねえアルト、ランカちゃん、元気でやってるの?」
シェリルのランカ好きはなかなかのもので微笑ましい。
ランカもアイドル冥利に尽きるだろう。
「やってるんじゃないか?」
シェリルみたいなファンもできるくらいだからな。
「はぁ?」
「はぁって、なんだよ」
こいつはおれに何を期待しているんだ。
「もしかして、まだ、ランカちゃんのこと狙ってるって疑ってるの?」
シェリルの声に静かな焦りの色がこもる。
「違う」
思いもよらなかったシェリルの疑念を即座に否定した。
「じゃあ、どうして」
「知らないものは知らないんだよ」
「何で知らないのよ」
ブラシをかけるシェリルの手が荒くなる。
「痛いだろ、何怒ってんだよ」
シェリルの手が離れるタイミングを計って振り向いた。
「まだ終わってないわよ!」
「そんなのは後で良い。何怒ってんだ」
「怒ってなんかないわよ、呆れてるだけ」
風呂上がりで桃色の頬が、心なしか紅潮している。
つい、売り言葉に買い言葉を返してしまうのは、俺の悪い癖だ。
「ランカも忙しいだろうし、俺だって忙しいんだよ。お前のお守でな」
「すべきことをしてないのは、あんたの自身のせいでしょう」
シェリルの言うとおりだった。
ランカもアイドルへの道を一直線に走りだした。
俺は、確かに、フロンティアを守っているのに、なにが違うことをしているように感じていた。
「ああ、そうだな」
例え戦いの空でも飛ぼうと、あの時、誓ったはずだった。
命に代えてもバジュラからフロンティアを守る、と。
一人取り残された俺は、半乾きの髪で重い頭を垂れた。
***
「シェリル・・・」
扉の向こうのシェリルが、応えてくれたらいいと、声をかけた。
「なに?」
扉を挟んで聞こえる声には軽蔑の色が含まれているように思える。
それでも、返事をしてくれたことに、ほっとした。
「俺は・・・」
扉にシェリルが近寄ってくる気配がする。
「なに、焦ってんのよ」
扉を開けてくれたシェリルの苦笑が優しかった。
「俺は、多分、守りたいものがあるんだ」
一瞬はっとしたシェリルは悲しげに、でも、とても優しく美しくほほ笑んでくれた。
「うん」
その柔らかな一言で、俺の緊張が緩むのを感じだ。
「だけど、どうやったら守れるか、分からない」
「フロンティアを守って、戦うのではダメなの?
フロンティアで皆、生きてる。
あなたは皆で命をかけて、十分、守っているんじゃないの?」
そう、皆で守っているこの艦。
「だけど、それだけじゃ、守りきれない」
フロンティアは誰にでも守れる、だけど、お前を守ってやれるのは俺しかいないんだ。
「全てから守るなんて、誰にも出来ないわ」
「でも、多分俺にしか出来ないことなんだ」
苦しげにシェリルが顔を歪める。
そんな顔をさせたくないんだ。
守りたい人をぎゅっと抱きよせた。
シェリルの身体がぎゅっと緊張するのが分かった。
「・・・私に出来ることは、護衛任務から外してあげることくらい。
それで時間を・・・」
「それは意味がない」
外からお前たちに近づく方法を俺は持っていない。
顔を伏せていても、かすかに震える彼女が泣きそうになっているのが分かる。
弱みを見せまい、枷になるまいとして、体を突き放し俺から逃げようする。
「離しなさい、アルト」
シェリルは、とても臆病だ。
そんなだから、放っておけないんだ。
泣くなら、俺の腕の中で泣いてほしいと思った。
「逃げるなよ」
意地悪な俺は、顎に手をかけ、上を向かせた。
今にも泣きそうな空色の瞳が、俺の心をつかんで離さない。
こみ上げた愛おしさが、胸に広がった。
気の強い彼女は首を振って振り切ろうとするが、女の力ではどうすることもできない。
涙をこらえてた青の瞳が帳に閉ざされた。
瞼を開けて、どうか、その心の鎧を脱いでくれ。
願いを込めて、唇をふわりと重ねた。
驚いたシェリルの瞳が開き、ホロリと涙が零れた。
「どうして・・・」
ひとりぼっちなんかじゃない。
俺がいるから。
零れた雫を見て、それだけ伝えられたら、それで今は良いと思った。
今の俺に出来るのは、それで精一杯だ。
ぎゅうっと想いの限りシェリルを抱きしめた。
「ひとりぼっちじゃないんだ」
どんな事があっても、俺だけはお前の心の傍にいる。
俺はお前を守れる強さが欲しいよ。
そうしたら、お前はすべて、打ち明けてくれるだろうか。
「どんな事があっても、お前を一人ぼっちになんかしない」
応えるように、抱き返してくれた。
****
俺たちは、多分、互いを欲している。
少なくとも、俺はお前が欲しくてたまらない。
ふっくらとした唇を啄ばみ、涙で赤くなった鼻を食んだ。
閉じていた瞳がふと微笑むのを見て、頬が緩んだ。
この温もりを失いたくない。
頬を両手にはさみ、深く深く口づけた。
「アルト、重い」
彼女に思いっきりのしかかって、その滑らかな肌を頬に感じる。
両手で豊かな曲線をなぞり、鼻を甘い香りのする谷間に埋める。
ふわりとした感触に至福を感じる。
シェリルも幸せを感じてくれているだろうか。
彼女の顔を伺うと、恥ずかしそうにほほ笑んでくれた。
照れくさい俺は、喜びを唇に込めて口付けを送った。
俺が預かっているイヤリングがかつてあった場所を唇で弄んで、
ぎゅうっと背中から体を密着させて、体温を伝えながら
柔らかな肌をまさぐった。
少しずつ、彼女を隠す布を剥ぎ取っていき、己の布も取り去ると
二人を隔てるものはなく、しっとりと体温を感じあった。
「あ、んぁ」
ふるふると震える肢体を抱きしめて、吐息で潤していった。
嬌声を押し殺す唇をこじ開けて、指をくわえさせると、
滴り落ちる涎とともに、甘い歌声が心地よく響いた。
どくどくと欲望が煽られて熱の発散場所を求めている。
ぬかるんだ淫泉を舐めとって十分に溢れさせて、
結局、今日も使ってしまうんだな、と、人目を忍んで調達してきたアレを装着すると、
くったりとした彼女の両足を肩に抱えて、深くシェリルの中に沈んでいった。
背筋を上る快感を感じながらぬかるみを押し広げて彼女の奥にたどり着くと
彼女がびくびくと痙攣し、更に底なしの衝動が湧きあがった。
甘く締め付ける彼女に溺れながら、彼女が啼き枯れないように、
しかし、彼女も溺れるようにと体を揺らした。
境界を失った俺たちは、体中を濡らす愉悦に二人で溶けていった。
こうして二人で一つだったら、こんなに苦しまずに済むのにな。
彼女と出会わなければ、知ることのなかった、静かな激情に俺は身を任せた。
どんな事があっても、俺を忘れないように、俺はシェリルを何度も何度も抱きしめた。
*******
ヘリへと向かう彼女はなんの抵抗もしなかった。
俺は、出来なかったのだと悟った。
彼女の心に寄り添うことも、彼女を守る強さを得ることも。
最終更新:2011年05月14日 21:50