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DIOが使い魔!?-50 - (2007/07/21 (土) 22:09:10) の編集履歴(バックアップ)


その日は『風』魔法の授業であった。
教室の扉がガラッと開き、ミスタ・ギトーが現れると、
生徒達は一斉に席に着く。
長い黒髪に、漆黒のマントを纏ったミスタ・ギトーの姿は、
何とも不気味である。
その不気味さと、冷たい雰囲気のせいか、
彼は生徒達に人気がなかった。
まだ若いのに、損な人である。

「では授業を始める。
知っての通り、私の二つ名は『疾風』。
疾風のギトーだ」
教室がシーンとする。
その様子を満足げに見つめ、ギトーは続けた。

「最強の系統は何だか知っているかね、ミス・ツェルプストー」
突然槍玉に挙げられて、キュルケはぶっきらぼうに答えた。

「『虚無』じゃないんですか?」
「伝説の話をしているわけではない。
私は現実的な答えを聞いているのだ」
いちいち引っかかる言い方をするギトーに、キュルケはちょっとカチンときた。

「それなら、『火』に決まってますわ。
全てを焼き尽くす炎と情熱。
最強の名にふさわしいと思いませんこと?」
不敵な笑みを浮かべて、自らの属性である『火』を推すキュルケ。
だがギトーは、フンと鼻を鳴らし、
キュルケの主張を切って捨てた。

「残念ながらそうではない」

腰に差した杖を引き抜き、ギトーは傲慢な声色で言い放つ。

「試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ。
本気でね。」
あからさまな挑発に、キュルケは目を細めた。
この教師はいきなり何を言い出すのだと思ったのだ。

「どうした、その有名なツェルプストーの赤毛は飾りなのかね?」
キュルケの顔から笑みが消えた。
胸の谷間から杖を引き抜き、呪文を詠唱する。
すると、キュルケの目の前に小さな炎の玉が現れた。
キュルケの詠唱が続くにつれて、その玉は膨れ上がる。
直径1メイルほどの大きさにまでなると、
キュルケは杖を振るって、炎の玉を押し出した。
空気を裂きながら飛来する火球を、しかし、
ギトーは避ける仕草も見せない。
杖を構え、ギトーはそれを剣を振るうようにして薙ぎ払った。
烈風一閃、たちどころに火球は掻き消え、
キュルケは吹き飛ばされた。
悠然としてギトーが生徒達に向き直る。

「今見たとおり、答えは『風』だ。
風は全てを薙ぎ払う。
残念ながら試した事はないが、
我が風は『虚無』すら吹き飛ばすだろう」
これ以上はないほどふんぞり返って勝ち誇るギトーに、
一同揃って眉をひそめる生徒達。

立ち上がったキュルケは、不満そうに両手を広げた。

「……ふむ。
その様子では、ミス・ツェルプストーだけでは
完全に納得してもらえないようだな」
生徒達の白い視線にさらされて、ギトーは妙な勘違いをした。
いや、それとも分かっていて知らぬ振りをしているのか。
いずれにせよ、ギトーによる実験台が、
新たに1人増えることになるのは確かだった。
ギトーはニヤニヤとした笑みを浮かべて、
窓際で頬杖をついている生徒を指さした。

「そこの君。
……ミス・ヴァリエール、君のことだ。
立ちなさい」
ギトーによって白羽の矢を立てられたルイズは、
面倒くさそうにゆるゆると立ち上がった。
昨夜の夢見が悪かったせいであまり眠れなかったルイズは、
睡眠不足で頭がボーッとしていたのだ。
ルイズの体が、右に左に危なっかしくフラフラと揺れる。
その脱力しきった態度が癪に障ったのか、
ギトーの声に少しだけ鋭さが増した。

「君の得意な魔法を、私に放ってみなさい。
……フン、使える魔法があれば、だがな
『ゼロ』のルイズ君」
油断と傲慢から、ギトーは言ってはいけない一言を
ポロッと口に出してしまった。
ルイズの体の揺れが、ピタリと止まった。

眠気に緩んだ目が、ギラギラと危険な光を放ち始める。
周りの生徒は、もうとっくに机の下に避難して
身を守る姿勢を取っている。
慣れた手つきで杖を取り出して、
ルイズは高らかに詠唱を始めた。
その魔法は、ギトー達『風』を司るメイジにとって、
馴染み深いものであった。
その証拠に、ギトーだけでなく、机の下のタバサも怪訝な表情をしている。
やがて呪文の詠唱が終わり、ルイズはゆっくりと杖を振った。

「『ウインド・ブレイク』」
もちろん風の壁など発生するはずもなく、
代わりにギトーの足元で大爆発が起こった。
反応する間もなくギトーは天井まで吹き飛び、
頭を強打した。
そしてそのまま重力の法則に従って落下し、
床に激突してまたもや頭を強打した。
自慢の『風』を披露することなく、
ギトーはうつ伏せに伸びてしまった。
ルイズはギトーの背中を踏みつけ、桃色の髪をかきあげた。

「ちょっと失敗したみたいね」
わざわざ『風』魔法を使ったのは、
ギトーに対する単純な当てつけだった。
ギトーに対する粛清を終え、ルイズの顔から険が取れていった。
危機が去り、1人また1人と生徒が机の下からはいでてくる。

いつもならルイズの失敗を冷やかすところだが、
今回は違った。
誰も彼もが、心なしかすっきりした表情だ。
皆、ギトーの傍若無人な振る舞いに辟易していたので、
彼をやっつけたルイズは今、ちょっとしたヒーローだった。
最後に机の下から出てきたタバサが、
ギトーを指差してポツリと呟いた。

「三日天下」
ちなみに、マリコルヌはいつものようにDIOによって身代わりにされていた。
その時教室の扉がガラッと開き、
緊張した顔のミスタ・コルベールが現れた。
いつもと違って、頭に金髪ロールのカツラを乗っけていて、
かなり珍妙だった。
珍妙なのは何もカツラだけではなかった。
ローブには、レースの飾りや刺繍が躍っている。
大層なおめかしをしたコルベールは、
床に転がったギトーを目にすると飛び上がった。
「ややや、ミスタ・ギトー!!
こ、これは何としたこと!」
コルベールは床のギトーとルイズを交互に眺め、
大体の経緯を掴んだようである。
落ち着きを取り戻し、重々しく告げる。

「……おっほん。
今日の授業はすべて中止であります!」
教室から歓声が上がるが、その歓声を抑えるように両手を振って、
コルベールは言葉を続けた。

「えー、皆さん。
本日はトリステイン魔法学院にとって、
よき日であります」
コルベールは横を向くと、後ろ手に手を組んだ。
「恐れ多くも、我がトリステインがハルケギニアに誇る可憐な一輪の華、
アンリエッタ殿下が、
本日この魔法学院に行幸なされます」
教室がどよめいた。

「粗相があってはいけません。
急なことですが、今より全力を挙げて、
歓迎式典の準備を行います。
本日の授業は中止。
正装をして、門に整列すること」
生徒達は、緊張した面持ちになると一斉に頷いた。
コルベールは重々しげに頷くと、思いっきりのけぞった。
「諸君が立派な貴族に成長したことを、
姫殿下にお見せする絶好の機会です。
御覚えがよろしくなりように、しっかりと杖を磨いておきなさい!」

コルベールがのけぞると、
その拍子にカツラがとれて、床に落っこちた。
コルベールのツルツル頭が、余すところなく披露される。
おかしくて、思わず笑い出さずにはいられない光景だが、
不思議なことに誰もが無視をした。
ただ1人、一番前に座ったタバサが、
コルベールのツルツル禿げ頭を指差して、ポツリと呟いた。

「滑りやすい」

「ば、バカ、タバサ!」
教室が爆笑に包まれるかと思われたが、
逆に静まり返った。
皆真っ青になって震えている。
キュルケが慌てて止めたが、もう遅かった。

タバサが言い終わるや否や、タバサの座っている机がベッコリと凹んだ。
瞬速のコルベールの拳が、机にめり込んでいたのだ。

「……あ?」
顔面に無数の青筋を浮かばせて、
コルベールがタバサにガンを飛ばした。
いつも穏やかなコルベールの突然の豹変に、
タバサは珍しく冷や汗をかいた。

「……私、の頭、が、何だって?」
噴火寸前の火山のような静かな問いに、
タバサはブルブルと頭を振った。
必死にさっきの言葉を取り消そうとしたが、
恐怖で声が出なかった。
……それが命取りだった。

「私の頭が
フランシスコ・ジャッコア・アルピルクエルタ・エチェベリーアみたいだとォォオオオッ!?」
つまりはザビエルのことである。
コルベールがタバサの頭を鷲掴みにして、
そのまま持ち上げた。
プラ~ンプランと足が揺れるタバサの前に、
その二つ名の通り、蛇のような冷たい目をしたコルベールの顔があった。

「これはこれはミス・タバサ。
先ほどの発言、貴族としては少々慎みに欠けますぞ?
教育的指導が必要なようだ………」
シュルル、と蛇のような舌なめずりをするコルベール。
ギリギリと頭を締め付ける握力が、
彼の怒りを如実に示していた。

「ああああぁぁぁ………」
憤怒のコルベールにズルズルと引きずられて、
タバサは廊下の奥の闇へと消えていった。

ジャン・コルベール。
勤続二十年を越える、トリステイン魔法学院のベテラン教師。
性格は穏やかで、人当たりがよい。
生徒の面倒見もよく、絵に描いたような優しい中年教師だったが、
頭のハゲをバカにされると途端にキレ出し、
手がつけられなくなるという爆弾を背負っていた。
二つ名は、『炎蛇』。

to be continued……


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