ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!?-51

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
魔法学院の正門をくぐって、王女の一行が現れた。
整列した生徒達が一斉に杖を掲げて、歓迎の意を表す。
本塔の玄関にはオスマン氏が立ち、王女の一行を出迎えた。
呼び出しの衛士が、緊張した声で王女の登場を告げる。

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおなりであるッ!」

枢機卿のマザリーニに続いて現れた姫殿下の姿を見て、
生徒達は歓声を上げた。
アンリエッタはニッコリと微笑を浮かべて、優雅に手を振った。
誰も彼もが、緋毛氈の絨毯を進む一輪の華に釘付けかと思われたが、
いつの時も、例外はある。

「ねぇ、ルイズ。
さっきの授業……少しばかりやりすぎじゃなかった?
そりゃあ、胸がスッとしたのは確かだけど」
観衆達より一歩引いた場所にいたルイズ御一行である。
キュルケは、最初こそ異国トリステインの王女を物珍しげに眺めていたが、
あらかた値踏みをすると、瞬く間に興味を失っていた。

「言及無用よツェルプストー。
あのゲス、思い返しただけでムカムカするわ。
あんなのがのさばってたら、貴族の格が落ちるっての。
殺したいほどだわ……!」
物騒なルイズの返答に、キュルケは空恐ろしいものを感じた。

皆王女に夢中なので、今現在話し相手がルイズしかいないキュルケは、
自己憐憫に終始することとなった。
タバサは……まだ帰ってきていない。
心配といえば心配だが、まさか取って食われたりはしないだろう。
そう考えて、この場にいない親友の無事を祈りつつ、
キュルケは再びルイズを見た。
先程まで、キュルケと同じように暇そうな空気を纏っていたルイズが、
途端に真面目な顔つきで一点を見つめている。
何事かと思い、キュルケはルイズの見ている方に目を凝らした。
その先には、見事な羽帽子をかぶり、これまた見事な髭をたくわえた、
凛々しい貴族の姿があった。
特に、髭のもたらすダンディーな雰囲気が、
キュルケにとってストライクであった。
久方ぶりに己の胸に去来する微熱を感じつつ、
キュルケはしたり顔で笑った。
ほほぅヴァリエールめ、近頃妙に豪儀に見えたが
やはり色事には弱いと見える―――
そう思い、早速からかってやろうとしたが、
ルイズの真面目な表情は、
次第に苦虫を噛み潰したようなそれへと移り変わった。
そして、見ているだけで不安になってくる程真っ青になって、
ブルブル震え始めた。

「ロ、ロードローラーが……」
などとブツブツ独り言を言い出す始末。
少なくとも、好いた惚れたといったような反応ではない。
どう声をかけてやればよいか分からず、その場に立ちすくむキュルケをよそに、
ルイズは踵を返して、寮の方へと帰っていってしまった。
そして、のっしのっしと肩を怒らせて歩み去るルイズと入れ替わるように、
タバサがキュルケの方に歩いてきた。
ミスタ・コルベールによる教育的指導が終わったのだ。
本を片手に俯いているので、どんな顔をしているのかは分からなかったが、
大丈夫なようだ。

「あらタバサ!
お勤めご苦労様といったところね。
心配してたわよ!」
そう労って、キュルケはタバサの頭をガシガシと撫でた。
綺麗な空色の髪がボサボサになったが、
いつものことながらタバサは無反応だった。

「ま、これでわかったでしょ?
あの先生の前で、頭の話は禁句なの」
キュルケのからかい半分の言葉に、タバサの肩が僅かに揺れ、
ゆっくりと顔を上げた。
顔を上げたタバサの目には、
光が全くなかった。
虚ろな、死んだ魚のように黒く澱んだ瞳が、
ぼんやりと虚空を捉えている。

「彼ノ頭ハ素晴ラシイ」「へ?」

突如口を開いたタバサ。
キュルケはタバサの声を聞いて、ようやく彼女の異変に気づいた。
彼女の形相はまさに、邪教徒が教祖を崇めるそれであったのだ。

「彼ノ頭ハ、コノ黄金ニ輝ク太陽ヨリモ明ルク、
私達ノ道ヲ照ラシ出シテイル……」
まるで無理やり合成して絞り出したかのような無機質な声である。
キュルケの目から、ポロポロと涙が零れた。
―――あぁ、何ということか。
あまりにも過酷な仕打ちに、このか弱い少女の心は
耐えきれずに押し潰されてしまったのだ。
流れる涙を拭いもせず、キュルケはタバサを抱きしめた。
温かな胸の中で、タバサがもがいたが、
それは余りにも弱々しいものだった。

「彼ノ頭ハ……!」

「えぇ……えぇ!
分かったわ。
分かったから、私達も行きましょう、ね?」

譫言のように繰り返すタバサの手をそっと取って、
キュルケは学生寮へと向かった。
おぼつかない足取りのタバサだが、それでも握った手は離さない。
2人の手は固い何かで結ばれているかのように、
しっかりと繋がれていた。
……まぁ、一晩したら治るだろう。多分。

その日の夜、ルイズはベッドに腰掛け、
枕を抱いてぼんやりと自分の使い魔を見つめていた。
ソファーに横たわるDIOは、相変わらず本を読んでいる。
もう殆どトリステインの言語体系を身につけたのか、
本のレベルが近頃上がっている気がする。
明けても暮れても本本本なこの使い魔、図書館をコンプリートするつもりだろうか。
ルイズは思う。
これまでの立ち振る舞いで分かったが、
元いた世界では、DIOはかなり身分の高い者だったのだろう。
実際はジャイアニズムの体現みたいなことばかりやってるくせに、
文句一つ言われないのがいい証拠だ。
みんな自覚の有る無しは別として、無意識下で認めてしまっているのだ。常に人を使役する者のみが身に纏うオーラ。
DIOからはそれが痛いほどに伝わってくる。
だからこそ不思議だった。
そこまで唯我独尊な奴が、どうしてホイホイ私の使い魔なんかになってくれているのか。
そしてそれよりも、DIOがこれまで送ってきた人生に強い興味を持っている自分がいた。

「そういえば、アンタってば召喚された時、
バラバラのグッチョグチヨだったのよね……」
何の気なしに声を掛けられて、
DIOは本から顔を上げた。

「何があったのかしら?
よければ教えて頂戴。
興味があるの」
DIOは深い苦悩のため息をついた。
およそ自分を帝王と名乗るような男には不釣り合いな行動に、
ルイズは少し眉をひそめた。
DIOは暫く言うべきかどうか悩んだ後、
ようやっと口を開いた。
「……ルイズ、君は『運命』を信じるか?」
何を急にロマンチックな事を言い出すのかと思ったが、
DIOの顔は真剣そのものである。
部屋を支配し始めた緊張に、ルイズは背筋を伸ばした。

「運命……?」
「そうだ。
どれだけ絢爛な路を歩んでいようが、
ふとした瞬間、何の間違いか道端に転がる石に躓いてしまう。
……神が本当にこの世にいるとして、
そうした采配を司る運命というものの存在を、
君は信じるか?」
言われて、ルイズの脳裏には、仇敵であるツェルプストーの顔が浮かんだ。
何代にもわたって紡がれてきた因縁の歴史。
殺し殺された一族の人数は、双方とももはや数え切れないほどだ。
領地も隣同士で、その上魔術学院では部屋も隣同士。
なるほど、運命と言っても過言ではないかもしれない。
ツェルプストーの胸が豊かなのに比べて、
私の胸が、その、お世辞にも大きいとは言えないのも。

私が魔法を使えない『ゼロ』なのも、
ひょっとすると運命なのだろうか。

「私が若い頃……まだ人間だった頃……
ジョースターという一族の男と争うことになった。
ジョナサンという名でな。
叩けば叩くほど伸びる、爆発力を持った男だった。
奴との争いの日々の中、私は吸血鬼となり、
人間という枠を超えた生物となったが……」

「その、ジョースターって奴に?」
「…うむ、不覚を取った。
私は敗れ、海中に逃れ、百年の眠りにつく羽目になった。
そして目覚めた後も……そう、一度ならず二度も、
私は同じ一族の末裔に敗れたのだ。
まさに運命の巡り合わせによる皮肉と言えるだろう」
ルイズは目を見開いた。
信じられない。
負けたというのだ、このDIOが。
それも二度も。
どんな傷だって治るし、
どんな貴族だってかなわないほどエレガントなこのDIOが。
変な能力だって持ってるし、
目からビームだってだせるのに。
敗れたというのか。
最初こそ何てキモい使い魔かと思ったものだが、
今ではすっかり慣れたものだし、慣れればなかなか役に立つ奴だ。
何を考えているかとんと分からないが、
強いし頼りになる。

俄かには受け入れられない話だった。

「それが、あんたの人生で、
取り除かねばならない汚点……!!」
唇を血が滲むほどに噛み締め、ルイズは震えた。
我が事のように、ルイズは怒りを覚えていたのだ。
見たことも、聞いたこともない一族に対して、
メラメラと黒い炎が燃え上がる。
それは、ルーン越しに伝わってくるDIOの感情なのか、
それともルイズのシンパシーなのかは最後まで分からなかったが。
怒りに打ち震えるルイズの前に、DIOが立ち上がった。

「ルイズ、覚えておけ。
君が覇道を進むにおいて、いつか、何らかの形で障害が現れるだろう。
それは試練のようなものだ。
君はそれを乗り越えねばならない。
あらゆる恐怖を克服しろ……
帝王にはそれが必要だ」
もちろん、彼の話は他人事として聞き流すことが出来ないものであった。
得体の知れない怒りの中であっても、ルイズの心の冷静な部分が、
DIOの話を一つの教訓として刻んでいた。

「……って、ちょっと待ってよ!
それじゃまるで、私が世界征服でも目論んでるみたいじゃない!!」
ルイズの突っ込みに、DIOはさぞ驚いたというような顔をして笑った。

「じ、冗談じゃない!…………………かな?
い、いや、私の言いたいことはそういうことじゃなくって!」
否定しきれないところが、ルイズの迷いの現れだった。
モニョモニョと指をいじくりながら、
恥ずかしそうに俯くルイズだが、意を決して顔を上げた。

「……やっぱり私は『運命』なんて受け入れない。
信じるとしても、良い運命しか信じないわ。
例え崖から突き落とされたって私は諦めない。
最後の最後まで、ロープが垂れてくるって信じてる。
悪い運命なんて、それこそ叩き潰してしまえばいいんだわ。
あんただってそうするでしょう、違う?」
DIOはルイズの目を覗き込んで、笑みを深めた。
そして、ルイズの頭をクシャクシャと撫でた。
綺麗な桃色の髪がボサボサになったが、
ルイズは思わず目をつむってされるに任せた。
カトレアに抱き締められるのとはまた違った安心感が、
ルイズを包む。

「ハハハハハ……だからこそ君は私の
『マスター』なのだよ、ルイズ」
DIOの手は冷たくて、死人のように温度を感じなかったけれど、
ルイズは確かな温もりを覚えていた。

「な、何笑ってんのよこのバカ!!」
慌てて頭に置かれた手をはねのけて、
ルイズはDIOの胸をバシバシと叩いた。
本当は頭を叩いてやりたいところだったが、
悲しいかな、ルイズの身長ではどれだけ背伸びをしても、
胸のあたりで精一杯だった。
羞恥心で真っ赤になりながら叩くルイズだが、
DIOはそれでも笑っていた。
子供扱いされている気がして、ルイズの羞恥は頂点に達した。

「ッッ~~~笑うなァ!」
とうとう蹴りを入れはじめたのであった。

そんな風にルイズが一人相撲をしていると、
ドアがノックされた。
初めに長く二回、それから短く三回と……。
規則正しく繰り返されるそのノックの仕方に覚えがあるのか、
ルイズがはっとした顔になった。
いそいそと乱れたブラウスを正してドアへと駆けより、
ルイズはドアを開いた。そこに立っていたのは、
真っ黒な頭巾をすっぽりとかぶった少女だった。

to be continued……


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