「アバッキオ-1」(2007/09/25 (火) 20:45:36) の最新版変更点
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ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、春の使い魔召還の儀式で一人の使い魔を呼び出した。
そう一人。一匹ではなく一人の人間を。
その男はハルケギニアでは見られないような、変わった衣装を纏っている男だった。
男は気性の荒い人間のようで召喚されたての頃は、よく命令を無視して行動していた。
ルイズの命を聞かずに自分の好きな行動をとり続け、食事抜きとされることは何度もあった。
しかしそれでも男はルイズの命令を聞くことはなかった。
業を煮やしたルイズは、何故自分の命令を聞かないのか。
自分は貴族でオマエは平民、自分は主人でオマエは使い魔だと言い放った。
そんなルイズに男は言った。
自分のリーダーはたった一人だけだと。
中途半端な自分を拾ってくれたリーダーの命令以外は聞く耳を持たないと。
何よりルイズが自分のリーダーとして相応しくはないのだと。
そう言ってのけた。
ルイズは怒り、罵声を浴びせ、そしてボロボロと泣いた。
自分の実力を馬鹿にされたのだと、魔法が使えないメイジだから、主人とは認めないとそう言われたと思ったからだ。
一晩中泣き明かしたルイズは食事もとらずに、ベッドに伏して物思いに耽っていた。
悔しい、悔しい、悔しい、悔しいっ、悔しいっ!、悔しいっっ!
平民に馬鹿にされた。使い魔に馬鹿にされた。皆と同じように馬鹿にしたっ!
何故自分はこんなに魔法の才がないのだろうか。
何より自分の無能が悔しかった。
そんな思いに耽っていたルイズの耳に、部屋の窓から騒々しい物音が聞こえてきた。
心身ともに疲れきっていたルイズだが、その空っぽになった心が興味を引かれた。
一体なんだろうと窓から学院の広場を見下ろすと、そこには生徒の群れが円になっている。
そして何と、その中心には青銅のギーシュと、自分の使い魔の男が睨みあっていた。
ギーシュは随分と怒っていた、周りが見えてもいないように。
すわ何事かと、ルイズはパジャマに軽くマントを羽織って階下に急いで駆けた。
そして広場に辿りついたとき、青銅のギーシュが言った。
「諸君、決闘だっ!」
もちろんギーシュの相手は目の前にいる、ルイズの使い魔だ。
人垣を掻き分けてルイズは円の中心へと飛び込む。
一体何をやっているのかと。使い魔のくせに勝手なマネはするな、と。
平民が貴族に、メイジに勝てるわけがないでしょうと。
男はそんなルイズの話は聞かずに、一言だけ言った。
「大切なのは真実へ向かおうとする意思だ」
その言葉にルイズは、自分より長く生きた男の人生を感じた。
そして決闘がルイズの止める間もなく始まる。
ギーシュはワルキューレを操り、男に攻撃を仕掛けた。
しかし男は素早くワルキューレの剣から身を捻り、攻撃を避ける。
何度もそれ続き、ギーシュは焦りを感じてワルキューレを更に6体練成。
合計7体のワルキューレを現して布陣を引いた。
確かに今のままでは、男は7体のワルキューレからの攻撃を避けきることは出来ない。
ギーシュが男に「ここまでだなっ!」と挑発する。
しかし男は無言のままでギーシュの言葉に反応はしない。
それどころか男はギーシュを見ていない。
男が見つめているのはギーシュよりももっと向こうの、何か輝くようなものであった。
それを理解したギーシュは更に怒り狂った。
つまらない挑発を繰り返し、ある一言を言った。
「さすがゼロのルイズの使い魔、口数もゼロとは徹底しているよ」
そこで男の眉がピクンと反応した。
それに気付いたギーシュはさらにルイズをけなす。
曰く、魔法がゼロと。曰く、使い魔もゼロと。曰く、貴族の中のゼロと。
男はいかにも不機嫌そうに、ギーシュに向かって一歩踏み出す。
踏み出す、と思いきやその前に壁が出来た。
ルイズであった。ゼロのルイズ。
小さな彼女は男とギーシュの間に立ちふさがった。
自分の使い魔が悪かった、わたしが謝るからどうか許してやってくれ、と。
そうルイズは言ってのけた。
何度も何度も自身が侮辱されたにも関わらず、そう言ってのけた。
男の眉がますますに不機嫌そうに歪んだ。
しかしギーシュが止まるわけがない。
自分を視界に捉えない、ナマイキな平民を教育してやろうと鼻息荒く構えた。
ルイズは必死に訴える。
自分の命令を聞かない使い魔だろうと、自分の召喚した使い魔をみすみす見捨てるようなまねは、
自分の貴族としての、自分の心が許さないから。
そんなルイズを男は引っつかんで、後ろに放り投げた。
何をトチ狂ったのだろうかと、男を見つめるルイズ。
「退がりな、ルイズ」
男がルイズの名前を呼んだ。
一瞬ポカンとして、言われたことを反芻するルイズ。
いま自分は初めて名前で呼ばれたんじゃあないだろうか?
そんなルイズを尻目に男は歩み始めた。
ギーシュが号令を下す。
その号令に従ってワルキューレが構え、突撃を開始するための体勢を整えた。
だが遅い。
男は自分の分身の名を叫ぶ。
『ムーディー・ブルースッ!』
そして男から抜け出るように、人型が現れた。
のっぺりとした、表情のない人形のような存在。
突如現れた存在に周囲の人垣はどよめきを上げる。
「ムーディー・ブルースッ、俺を召喚したルイズを「リプレイ」しろォォォッ!」
さらに叫ぶ男に応えるように、人形の様な者の体がブレた。
何かヤバイと感じ取ったギーシュは、ワルキューレ達に攻撃するように指示する。
だがもうムーディー・ブルースは再生を始めている。
そして人形がルイズになった。
正確にはこの男を召喚したその日のルイズだ。
この広場でルイズは男を召喚した。その過去の事象が再生されているのだ。
呪文を唱えるルイズ。迫るワルキューレ。
そしてワルキューレの剣がルイズを模った人形の目の前に辿りついたとき、呪文が完成した。
ドゴゴオオオォォンッッ!!
ルイズのサモン・サーヴァントの呪文で生まれた爆発がワルキューレを粉々に吹き飛ばす。
その残骸と爆発の余波を受けて、ギーシュも吹き飛び気絶した。
ルイズがギーシュを倒したのだ。
正確には男が動かす人形が、ルイズの力でギーシュを倒したのだ。
過去のルイズがフッと掻き消え、もうそこには誰もいない。
男は呆然とするルイズの前に立ち、その手を引っ張り上げて立たせて言った。
「まぁまぁ……やるじゃあねえか」
男はそれからルイズを名前で呼び、言うことも多少聞くようになった。
もちろん全ての命を聞くようになったわけではないが、それでもルイズにしてみれば格段の進歩であった。
何より魔法の使えない自分を、使い魔は認めるようになったから。
自身をつけたルイズは、男に魔法の使えない自分をどう思うか聞いてみた。
そしてその答えはルイズにしてみれば意外なものだった。
どうもない、と男は言ったのだ。
魔法が使えない主人でも、別に構わないと言ってくれた。
ルイズは嬉しかった。照れるように、怒って、ボロボロ、泣いた。
嬉し泣きをした。その日は自分の人生でも数少ない、とても幸福な日となった。
その後、土くれのフーケと名乗る盗賊相手に学園は襲われ、破壊の杖が奪われる。
ルイズはその捜索に真っ先に志願して、それに選ばれた。
そのルイズに負けじと微熱のキュルケと、その友人である雪風のタバサも手を挙げる。
当然ルイズがいるなら使い魔の男も一緒についてくる。
任務と聞いて、何か少しやる気を見せている様子であった。
準備をしてから行くと男は言って、次の日に馬車で出発。
男は道中でも無口で、何も言わずに目的地まで無言を貫き通していた。
そして目的の小屋に辿りつき、男は何の躊躇もなく小屋の扉を開く。
ルイズたちは止めようとしたが間に合わずに、スッと小屋に入っていく男。
それを慌てて追って小屋に飛び込んだルイズは、男が持っている物を見た。
破壊の杖である。男は興味深げにその杖をいじっていた。
そして左手のルーンが光を放っている。
手に破壊の杖を持ち、小屋の外に出ていく男をまたルイズは追った。
同行者のキュルケ、タバサ、ミス・ロングビルはあまりにもあっさりしすぎた結果に呆然としている。
キュルケが男の持つ破壊の杖を怪訝そうに言った。
「これが破壊の杖なの?」
男が無言で頷き、何事も無かったように馬車へと戻る。
一体この展開は何なのだろうと全員が思って馬車へと向かおうとすると、
突然馬車の荷台が叩き壊された。
ハッ、として皆が上を見上げると、巨大な土のゴーレムが仁王立ちをしていた。
ゴーレムは先行していた男をその手で掴み取り、破壊の杖ごと男を奪う。
男が捕まえられているために、攻撃できない彼女達を尻目にゴーレムは男を握り潰さんと力を込める。
誰もが男の死を連想したときに、男の姿がブレた。
男はそのまま運動を開始。
拳が、脚が、男を握りつぶさんと強力を込めるゴーレムの手を破壊してゆく。
ボロボロの土くれと化したゴーレムの手の中にいたのは、あの決闘のときに見た人形であった。
表情のない人形のような存在。決闘のときあの存在は男の体から現れるように出現した。
ならば男はどこにいるのだろうか。辺りを見回すルイズ。
その間にも人形は拳を繰り出して、ゴーレムを破壊していく。
だがゴーレムは破壊される傍から再生され、強いパワー持つらしい人形でも破壊しきることが出来ない。
援護にキュルケがタバサが魔法を放つ。
しかしそれでもゴーレムの勢いは止まらない。
ゴーレムの拳が、宙に浮く人形を叩き落さんと唸りをあげる。
それを回避して人形は更に唸りをあげて拳を突き出す。
僅かにゴーレムがよろめいた。
隙が生まれ、瞬間また人形の姿がブレ、宙に浮いたまま男の姿を模る。
そして模られた男の左手には破壊の杖。それを突き出すように構える。
ゴーレムの操作者が危機に気付いたのか、ゴーレムが太い腕で自身をガードする。
そして次の瞬間。
宙に浮く男の破壊の杖から轟音がしたと思ったら、何かがゴーレムに向かって飛んでいった。
何かはゴーレムの腕に命中。そして轟くような爆音。
しかし腕は破壊したが、ゴーレム本体までは攻撃がとどかなかった。
危機をやり過ごしたゴーレムは、腕を再生させ再び攻撃を仕掛けようと構える。
だが、危機はまだ終わってはいない。
それは背後から飛んできた。
凄まじい轟音がルイズたちの耳を破壊せんばかりに鳴り響く。
ゴーレムの背に命中したそれは、無防備のゴーレムを跡形もなく破壊しつくした。
舞い立つ土煙で全員咳き込む。
土煙が落ち着いた後、ゴーレムの背後のほうをルイズは見た。
そこには探していた者がいた。
男は破壊の杖を左手に、こちらに向かって歩いて来ている。
「よう」
何の気負いもなく、男は軽くそう言った。
心配していたルイズはそれを聞いて気持ちが爆発し、男に向かって飛び込んだ。
重そうに右手一本でルイズを受け止める男。
そんな二人にキュルケ、タバサ、ミス・ロングビルが駆け寄ってきた。
全員何が起こったのか分からないが、とにかく何か男がしたことだけは分かるため男を讃える。
そんな男の元に人形が帰ってきた。
青い色をした向こう側が透けて見える、幽霊のような人形。
タバサは杖を握り締め、キュルケは近寄り、ルイズは興味津々で見る。
そしてミス・ロングビルは男に近寄り、何気なく破壊の杖に手を伸ばした。
その手が触れるか触れないかのところで、人形が突然に動き出す。
人形の両の手はミス・ロングビルの首を掴んで、更に連撃を叩き込むッ!
あまりにも唐突な出来事で全員が反応できない。
が、男は構わずにミス・ロングビルの懐に手を入れた。
ようやくそこでルイズが復活し怒声を浴びせるが、男はお構い無しで更に懐をまさぐる。
そうして男は目当ての杖を取り出して、それをベキリとへし折った。
まだまだ男は体中をまさぐり続け、二本、三本と杖をへし折る。
男が五本目の杖をへし折った時点で、全員さすがに何も言わなくなった。
普通のメイジが杖をこんなに大量に隠し持っているはずがない。
もちろんフーケ討伐という任務の観点から見ると、予備の杖を持つことは考えられるが、
ここまで大量に杖を持ってくるメイジはいない。
すると、どうだろう。答えはおのずと見えてくる。
「まさか、土くれのフーケ?」
ルイズは正解へと辿りついた。男が「ああ」と気のない返事をする。
ようやく全ての杖を破壊しつくし、男はフーケの手足を拘束して更に猿轡を噛ませた。
一体どうしてミス・ロングビルがフーケだと分かったのか。
ルイズは聞いたが男は答えてはくれなかった。
学院へとタバサのシルフィードで帰還したルイズたち。
オールド・オスマンの言い訳じみた話を聞いて、男はとりあえずオスマンをボコボコにしておいた。
容赦はなかった。ルイズはオスマンに哀れみを感じることもなかった。
フリッグの舞踏会はフーケを退治したため予定通り決行となった。
男は端で酒を飲みながら、軽くつまんでやっている。
ルイズは学生からのダンスの誘いを断って、男の下へと近寄る。
ルイズに気付いた男は、珍しく満ち足りたような顔をしていた。
「何でミス・ロングビルがフーケだって分かったの?それに、いつ気が付いたの」
聞くルイズに男は、考える素振りを見せて話し始めた。
あの青い人形のような者は、男の分身で人の過去を再生する能力を持っている。
ゴーレムは自身が破壊の杖を使い、分身に自分の行動をリアルタイムで追跡させ、破壊の杖の二連発で吹き飛ばした。
決闘では自分を召喚したルイズを再生して、その魔法の爆発でギーシュを吹き飛ばしたらしい。
男はその能力を駆使して、決闘もフーケとの戦いも勝利したのだ。
いつフーケに気が付いたのかは、もう小屋に行く前からだったそうだ。
すでに盗みに入られた宝物庫で盗賊を再生し、それがミス・ロングビルであったのも知っていた。
なぜ盗んだ後、逃げずに学院へ戻ってきたのか、その理由を確かめるまではなるべく慎重に行動するようにしていたそうだ。
だから小屋へ一番に入って破壊の杖を男が持ち、分身に自分を再生させてミス・ロングビルを欺いた。
そしてルイズは気になっていることを、一つだけ聞いてみることにした。
「ねぇ、あの分身の名前はなんというの。アバッキオ」
「………『ムーディー・ブルース』だ」
それからアバッキオとルイズは更に親密になった。
端から見ると分からないぐらいの変化だが、感情表現の下手な当人達にとっては大きい変化であった。
二人はよく会話をするようになり、いろいろなことを話した。
好きな食べ物、好きな事、自分の憧れ、自分の身の上などたくさん話した。
その中でアバッキオが語った、自分のリーダーのことも少しだけ聞いた
そして話の中でルイズに召喚される直前、アバッキオは夢のようなものを見ていたと知る。
どんな夢だったのかルイズは聞いてみたが、アバッキオは答えてはくれなかったが、
いつか話してくれるかもしれないな、とルイズは思いそのまま聞かなかった。
アバッキオはどこか物憂げな顔をしていた。
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