ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

DIOが使い魔!? 親友-1

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
トリステイン魔法学院の屋根の上。
全てを包み込むかのような闇の中、キュルケは無二の親友であるタバサと独り対峙していた。
勿論、世間話をするような緩い空気は流れていない。
タバサの冷気と、キュルケの熱気。
お互いがお互いを飲み込もうと、獰猛に牙を剥いていた。
夜の学院上空に吹く風は、肌を刺すように冷たい。
キュルケの燃えるように真っ赤な髪すら、芯から冷たくなってしまうようであった。
しかし、驚異的なバランス感覚の持ち主であるタバサは、揺らぐことすらなくぬぼーっと棒立ちになっている。

「………誰?」
ふと、沈黙を破ってタバサがキュルケに質問をした。
『一体誰がキュルケをここに連れてきたのか』と聞いているらしい。
それを直ぐに看破したキュルケは、努めて普段通りの調子で答えた。
伊達に付き合いは長くない。

(お願いキュルケ!
お姉さまを止めてなのね、
きゅいきゅい……!)
そう言って自分に縋り付いてきた、依頼主の顔が目に浮かぶ。
気づけばキュルケの言葉には、抑えきれない悲しみと憤りが含まれていた。

「あんたの使い魔のシルフィードよ。
あんた、使い魔を哀しませるなんて、ご主人様失格じゃなくて?
泣いてたわよ、あの子。
きゅいきゅいって」

「そう」
タバサは普段通り、どうでもよさげに呟いた。
普段通り、その口調には一切抑揚がない。
いつものキュルケなら、そんなタバサの口調の微妙な変化を読み取れたものだが……
……今は彼女の感情が全く読めない。
完璧なフラット。
つまるところ、タバサは本当に何とも思っていないのだという事実に思い至り、
キュルケはギリッと唇を噛み締めた。
今のタバサはまるで幽霊だ。
皮肉なことに、幽霊はタバサが最も毛嫌いしているものであった。
彼女をこんな復讐鬼に仕立て上げたDIOに、改めて怒りがこみ上げてくる。
キュルケは両腕を広げて、タバサの行く手を遮った。
タバサのマントが、夜風に靡いた。

「邪魔」

「するに決まってるじゃない!
あんたを行かせはしないわ!」
タバサは最後の最後、キュルケに警告した。
しかし、キュルケは断固としてその場を動かない。
タバサの顔つきが、徐々に冷たくなっていく。

「どうしても行くと言うのなら………!」
「押し通る」

「掛かって来なさい!」

キュルケは不敵な笑みを浮かべて、タバサを挑発した。
タバサの目が、完全に温度を失う。
人形のような澱んだ目で、タバサは自身の身長よりも大きな杖を構えた。
途端に、膨大な魔力が蒸気のようにぶわっと全身から溢れ出し、オーラとなってタバサを包んだ。
"ドドドドド……!!"

彼女の周りの空気が歪んで見えるような錯覚が、キュルケを襲う。
その圧迫感に息苦しさを感じつつ、キュルケは杖を構えた。

(こ、こりゃあ、ちと骨が折れそうだわ……)
内心ぼやくキュルケに、氷の嵐が吹き付けた。
広範囲に渡って荒れ狂う氷嵐(アイス・ストーム)は、どう動いても避けきれるものではない。
キュルケは杖を構え、呪文を唱えた。
炎のバリアが彼女の目前に現れ、氷の嵐を溶かし防いだ。
荒れ狂う風雪を防ぎきり、キュルケはニヤリと笑って見せた。
無論、これが小手調べに過ぎないことはお互いに分かっていた。
それでも、キュルケの立っている場所以外は、散々に破壊されてしまっている。
その惨状をチラリと横目で見やり、キュルケは"フライ"の魔法を唱えた。

これ以上ここで暴れたら、学院は滅茶苦茶だ。
これは私情丸出しの個人的なケンカなのだから、周囲に迷惑をかけるわけにはいかない。
そう配慮しての、キュルケの行動だった。
フワリと宙を待ったキュルケは、ワザとタバサに追いつけるスピードで学院郊外の森へと飛んでいった。
誘い出して戦う場所を移すつもりであった。
それを見たタバサも、同じく"フライ"の魔法を使って飛翔した。
あっというまに二人の距離が縮まる。
タバサがしっかりと追いかけてきたのを確認し、キュルケは全力で"フライ"を使った。
風圧で目が開けられないほどの高速飛行に、周囲の景色がグングンと後ろに流れてゆき、
タバサの姿も小さくなってしまった。
だが、それでもタバサは余裕……といっても無表情だが……
の表情で加速し、キュルケを追撃してきた。
徐々に、徐々にその距離が再び縮まっていく。
そして、学院郊外の森の上空で、ついに二人は並んだ。
平行に飛行してくるタバサを見て、キュルケは唖然とした。
相変わらずタバサのメイジとしての実力には舌を巻く。
しかし、今は無駄なスピード比べをしている状況ではない。

"フライ"を使いながら別の魔法を使うことは出来ないので、
キュルケはすぐ下の森へと高度を落とそうとした。
―――そんな無防備なキュルケの背中めがけて、タバサは杖を構え呪文を詠唱し始めた。
空気が震え、パチンと弾ける。

「"ライトニング・クラウド"」
馬鹿な!? と思った瞬間には、キュルケの全身を紫電が駆け巡っていた。

「キャァァアアァアアッッ!!」
焼きゴテを当てられたような熱さが背中を焦がしながら、キュルケは木の葉のように森へと墜ちていった。
電撃で意識がしばらくアッチの世界にトんだキュルケだったが、
地面に激突するギリギリのところで持ち直し、着地した。
地に足がついた途端に、キュルケはたまらず膝をついた。
まだ全身の筋肉がビクビクと痙攣している。
荒い息づかいを必死で整えながら、キュルケは空を仰いだ。
タバサが悠々と、キュルケから少し離れた場所に着地をしているところであった。
"フライ"を使用しながらの他の魔法の詠唱。
不可能ではないと聞いていたが、想像を絶する修業と精神力を要するとも聞いていた。
スクウェアクラスでも、出来る人はそうそう聞かない。
それをタバサは、事も無げにやってのけたのだ。

ふと、タバサと目が合い、キュルケは彼女の視線に戦慄した。
十五歳という幼い身でありながら、一体彼女はどこまで登り詰めたというのか……。
キュルケは急に怖くなった。
果たして自分は、タバサを止められるのだろうか?
早くも挫けそうになってしまう己の心を無理矢理奮い立たせて、
キュルケは"フレイム・ボール"の魔法を唱えた。
直径数メイルにも及ぶ巨大な火球が、唸りを上げてタバサに襲い掛かる。
間髪入れず、タバサの"アイス・ストーム"が火球を迎え撃った。
炎と氷が激突し、目映い光を周囲に放つ。
キュルケはこの時、自分の心に着実に根を張りだした恐怖という名のヤドリギを、
自覚してはいなかった。
しかし、一瞬でも生まれた心の弱さは、己の魔法の威力に確実に反映される。
気が付けば鉄が軋むような音と共に、キュルケの炎が"凍り付いていた"。
それを見たキュルケが、驚愕で目を見開いた。
物理的には有り得ないことだが、キュルケの操る炎は魔法の炎だ。
魔法とは、精神の強さである。
心のイメージが鮮明に映し出されれば、炎も凍りつくだろう。
つまり、精神力の面で、キュルケはタバサに負けてしまっているのだ。

そんなはずはない、と否定する一方、心のどこかで妙に納得している自分が嫌だった。
冷酷な現実が、キュルケの焦りを加速させる。

凍り付いた炎ごと、氷嵐がキュルケを襲い、キュルケは慌てて"ファイヤー・ウォール"の魔法を唱えた。
キュルケの前に出現した巨大な炎の壁が、氷嵐を辛うじて防ぐ。
氷が蒸発し、水蒸気があたりに広がり始め、二人の視界を遮った。
マズいわね……! とキュルケは毒づいた。
水分が空気中に満ち満ちている場所でタバサに勝負を挑むのは、自殺行為と言えた。
どこから氷の刃が飛んでくるか、分かったものではないからだ。
ましてや相手は『風』属性のメイジ。
自分のちょっとした衣擦れの音でも、すぐさまこちらの位置を把握してくるだろう。
キュルケは森の奥へとかけだし、仕切り直すことにした。
それを確認したタバサは、即座に杖を構えた。

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」
呪文が完成すると体がぶれ始め、タバサは分身した。
一つ……、二つ……、三つ……、四つ……、五つ……、
本体と合わせて、都合六人のタバサが並び立つ。
自身に限りなく近い分身を生み出す風魔法、風のユビキタス(遍在)であった。

六人のタバサは、お互いの姿を確認しあった。
ふと、一番端にいたタバサAが、その隣にいるタバサBに近づいて、
マントのズレを直した。

「ありがとう」

「……どういたしまして」
どっちもタバサで、どっちも無表情。
これが遍在の力なのだ。
一陣の風が吹いたと思ったら、三人のタバサをその場に残して、
三人のタバサの姿が幻のように消えていた。
残った三人のタバサは、お互いの顔を見合わせて頷くと、調子を合わせて一つの魔法を詠唱し始めた。
三人のタバサの詠唱に従って、透明な細い氷の線が無数に出現し、
キュルケが駆けていった方向の森全体に伸び始めた。
あたかも蜘蛛の巣のように。

to be continued……

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー