ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ジョルノ+ポルナレフ 第二章-03-02

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匿名ユーザー

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(今更な話だが、)パッショーネ所有かポルナレフ所有かあやふやな亀ココ=ジャンボはスタンド能力を持っている。
背中の甲羅に嵌っている鍵に触れれば小さくなって甲羅の中にある部屋へと入ることができる。
この亀が何故背中に鍵なんて嵌めてるのかは誰も知らない…

ジョルノがその細胞を使って生み出した亀にもその能力は引き継がれており、亀の中の部屋にその亀がいてその亀の中の部屋にも亀が延々といる。
隠し棚的な場所の中にも亀がいて、取り憑いているというか住み込んでいる幽霊のポルナレフにも一体どのくらいいるのかは把握できていない。
亀を生み出しその亀の世話をする設備を用意しているジョルノは知っているのかもしれないが、何度か映画やアニメの入っている亀の場所を聞いた辺りから必要そうな場所を書いた地図を渡されそれっきりだ。

今亀は、地球から来た学生のサイトの腰につけられていた。
最初持っていたジョルノが亀の中に引きずり込まれてしまい、他に持つ人間がいなかった。
同じ地球出身の枢機卿に与えられた『ヴィンダールヴ』の能力でアズーロという美しいドラゴンの騎手となったサイトは、一見その亀の存在を忘れているように見えた。
その姿形や脈動する筋肉の動きにうっとりしながら風竜をアルビオンへと向かわせている。
ただ目的地へ向かってまっすぐに飛ぶだけだったが、空を飛ぶ楽しさが遮るものがなく直に吹き付ける冷たい空気にも笑みを見せていた。
上空の冷たい空気が容赦なく体温を奪っていても、ファンタジーな世界の楽しみを満喫し、興奮と共に上がっていく体温を冷やすのには丁度いい按配だとでも言うようだった。

腰につけられた亀の中から女性の怒声が聞こえ、何かがぶつかり合う音を聞かないようにしてサイトはアズーロを飛ばす。
亀から氷の塊が飛び出し、巨大な塊となってサイトの横を後ろへと下がっていく。
一瞬ブルっちまったサイトは見なかったことにして…中では何も起こってないんだと自分に言い聞かせる。
初めて飛ぶ空を満喫することに没頭しようとするサイトを見て、デルフリンガーはため息をついた。
次の瞬間、そのデルフリンガーも亀の中へと引きずり込まれる。
「ホラー映画かよ」サイトは歯をガダガタ鳴らして、アズーロにしがみ付いた。

その亀の部屋の中では今、氷と土がぶつかり合っていた。
発端はジョルノのせいだった。
カトレアなどとばかりいちゃついてるジョルノに切れたマチルダがジョルノを亀の中へ連行し、気合を入れてやろうとしたところ今回同行していた。
だがそこにペットショップが立ちはだかって、マチルダに襲い掛かった。

それを眺めるジョルノは、ペットショップがジョルノの扱いにブチ切れたわけじゃあないらしいと気づいていたので止めずに二人を見ていた。
そしてこれから行くアルビオンについて考えていたが、浮かぶ風景はこれから向かう戦場ではなかった。
興味深い動植物達に囲まれた不便で素朴な村に悪ガキ達や今傍にいる彼女がいた。
多少美化されているように感じたジョルノは薄く笑った。

そうする間に二人の戦いも、過激になっていてペットショップが押しているようだった。
マチルダも土くれのフーケとして名を馳せた盗賊だが、ペットショップ相手には相性が悪い。
この亀の中の備品を錬金で砂に変えたりしてして対抗しているが、そもそも土の量が足りない上にポルナレフが泣きそうになるのでマチルダは遠慮していた。
とある理由で土系統のメイジが嫌いなペットショップはそんなマチルダに氷のミサイルを撃ち、かわしたマチルダは少ない土を巧みに操ってペットショップを覆い、包み込もうとする。
だが、マチルダの土は水分を凍らされ、動きが鈍ってしまいペットショップは悠々と逃げていく。
姉か母親同然のマチルダが追い込まれていくのを見るテファの顔は青くなっていった。

「ジョルノ、ペットショップを止めて!」

テファに言われ、喧嘩をするには狭い部屋の隅にソファごと移動していたジョルノは少し困った顔をした。
サイトの操る竜アズーロが飛び立つより早く。
というよりその背中に乗った瞬間首根っこ掴まれて亀の中に連行された理由は、亀の中にいる者達が皆わかっているくらいにはジョルノも理解していた。

「…できれば怒鳴りつける元気がなくなるくらいまで遣り合って欲しいんですが」
「どうして! 早くしないとポルナレフさんが…わっ」

マチルダへと放たれた氷が幾つかテファへと向かいテファは身を引いた。
だがテファへと向かうはずの氷は全てテファには見えないジョルノのスタンドによって砕かれる。
かわそうとしたままの体勢で礼を言うテファの視線を追って、ジョルノが見てみるとそこには秘蔵の漫画を土にされ凹み、うな垂れるポルナレフがいる。
さっき引きずりこまれて隣に置かれたデルフリンガーが慰めの言葉をかけていたが、それも効果がないらしい。
自慢の髪に氷の刃が一本串刺しになっているが、それを取る気力さえもない。
少し考えるそぶりを見せてから、ジョルノは何事もなかったように図鑑を取り出して描かれている絵を見せた。

「見てください。(今向かっている)アルビオンは面白いところで、普通ならもっと寒々しい風景が広がっていてもおかしくないんですが動物も植物も完全に適応していて」
「そ、そうなんだ。でもそれより、早くしないとポルナレフさんが…」

テファに言われてジョルノはもう一度、今度はペットショップの放った氷がその漫画から作られたゴーレムの手を粉砕するのを呆然と見ているポルナレフを少しだけ見る。
ワキガ臭いミスタとミント臭いフーゴの衝突とかを見て馴れているジョルノは何事もなかったように開いているページをもう一度見せる。
咎めるような目でジョルノを見るテファの肩に、ラルカスが召喚したハツカネズミがちょろちょろとソファを駆け上って移っていった。

「ジョル…「ジョナサンさん、わたし宇宙人だから彼らの関係はよくわからないんですが、貴方が早く止めるべきです」

もう一度止めてと頼もうとしたテファを遮り、ジョルノ達が座っていたソファの影から学生服を着た青年が顔を出し、ジョルノに言った。
二人の争いを避け、いち早く安全そうなジョルノ達が寛ぐソファの陰に逃げ込んでいたその学生は、今朝このハルケギニアに来たばかりだった。
ジョルノ達と顔を会わせるもの今日が初めてだったが、ジョルノ達の視線にも動じた様子は無い。
二人より少し年上っぽく見えるその学生は後ろへ流した長い髪を揺らし、ジョルノを見返していた。
鼻ピアスと片方の耳にだけ開けたピアスが繋がっていて、尖っている耳に注意が行く。
テファほどではないが、フツーというにはちょっぴりだけ尖り過ぎている耳に…ジョルノはラルカスから教えられた奇妙な点を確かめようと尋ねた。

「…まだ自己紹介をされていませんが、お名前は?」
「ヌ・ミキタカゾ・ンシって言います。ミキタカと呼んでください「ジョナサンさんって言うのは語呂が悪いから、ジョナサンでいいですよ」
「あの、ジョルノ達の住んでるところってチキュウじゃなかったの?」

テファの素朴な質問に、ミキタカは嬉しそうな顔をした。
ミキタカはラルカスが召喚した使い魔のハツカネズミを鞄の中で飼っていたせいでこの世界に迷い込んでしまった所謂フツーの日本の学生…見た目も整っているが奇妙な人物だった。

「ええそうです。私はマゼラン星雲からそのチキュウに住むためにやってきたんです」

ラルカスからミキタカの名前などについて聞いていたのだが、確かめたのはこういうわけだった。
自称宇宙人。ラルカスの嘘じゃあないことはこれでわかったが、ジョルノもどう扱えばいいのか少し困っているような顔を見せる。

「本当はフツーの日本人ですよね?」

元々可能性は0じゃあない上に、『何言ってんです? SFやファンタジーじゃあるまいし異世界や宇宙人なんてあるわけないじゃないですか』とは言えない状況だったが、ジョルノは尋ねた。
メイジが魔法で戦う横でエルフとソファで寛ぎながら言うことじゃあないが。

「最初カラハッキリ言ッテルジャアナイデスカ。ワタシハ宇宙人デスヨ」

一方ミキタカに教えられても、そうした考えがまだ生まれていないハルケギニアの住民であるテファはよくわからずにいた。
ガリアからトリスティンに移り住むのとは違うんだろうな、というのはミキタカとジョルノの態度からなんとなく察したが、そこまでだった。
今の二人のやり取りも、というよりどうしてジョルノが宇宙人であることを疑うのかよくわからずにテファは曖昧に笑った。
ミキタカはスタンド能力を持っていなかったが、知り合いに結構そういうのがいるのか目の前で魔法やスタンド能力なんてものを使われても動じずない。
むしろいたって落ち着いた態度でテファの肩に乗ったハツカネズミの背中を撫でてやる。

「カワイイデショウ?」
「そうでしょうか?」

間を置かずに返されたミキタカは、一度手を止めてちょっぴり眉を寄せジョルノを見た後、気を取り直し何事も無かったかのように使い魔のルーンが刻まれたハツカネズミの背中を撫ぜる。
よく撫でてやるのかハツカネズミもテファの肩の上で気持ち良さそうに撫でられるのに任せている。

「こうやって背中なぜるととても喜ぶんです…背中なぜたいですか?」
「え? えっと…じゃ、じゃあ少しだけ」

マイペースなミキタカに押し切られ、テファもなぜようとするとハツカネズミはミキタカの手のひらに移っていく。

「「うりうりうりうり」」

二人してハツカネズミをなぜ始めたのでジョルノは読書に戻ろうとする。
だがそうすると、ミキタカはハツカネズミの背中をなぜるのを止めた。

「…あ、! それでさっきの話ですけど、ジョナサンさんがテファさんが自分のこと好きなのを分かってて他の女に手を出してたらマチルダさんが怒るのは当然です」
「ミキタカさん…わ、私は別に」

恥ずかしがったテファが口を挟もうとしてもミキタカは穏やかな口調でジョルノに指摘を続ける。

「口説いておいて面倒ならほったらかすなんて、まるでnice boatじゃあないですか。だからマチルダさんを止めるのはジョナサンさんがやるべきです」
「うん、なるほど…確かにそれはそうですね。心が痛むことです」

何の話か良くわからないが、ニュアンスだけは伝わったような気がしたジョルノは同意したような態度を示した。
ミキタカはジョルノの返事と頷く態度に杜往町で出会った二人を思い出し笑みを見せた。
ギャングというものはよくわからないし牛とかは怪しいが、微かに感じる面影のせいでミキタカはこのギャング達に好感を感じていた。

「はい。だからさっさと止めて謝るべきだとおもいます」

ジョルノがそうですか、と言うと部屋の隅で凹んでいるポルナレフがスタンド『マジシャンズ・レッド』を呼び出し、座ったままの姿勢で飛び跳ねた。
スタンドの見えないテファやミキタカ、マチルダまでもが驚いてビクッと震えた。
膝を曲げ、ジャンプしたままの体勢でジョルノ達が座るソファに突っ込んできたポルナレフは叫んだ。

「そうだぞッ、お前がさっさと謝っちまえばとりあえずこの場は「とりあえず。今とりあえず、って言ったのかい?」

驚いて動きを止めていたマチルダがそれを聞いてポルナレフを睨んだ。
棘のある声を聞いて、ポルナレフの動きが空中で止まる。
尻の穴に氷柱を突っ込まれたような顔でポルナレフは慌てて大げさな身振りで自分がこの問題に関しては問い詰める側であるという態度

「あー、いや……そういう意味じゃあなくてだな。一度落ち着いて、心の底から反省して今後は身を慎むべきだよなっな!?」

さっきまでの様子はどこかに置き去りにし、今は必死なポルナレフに調子を合わせるようにして、そうですねと言ったジョルノはペットショップにいい加減にしておくように軽く手を振る。
主人の合図を見たペットショップは、即座に攻撃の手を止め、肩で息をしながら釈然としない様子のマチルダから離れていく。
それを確認したジョルノが尋ねた。

「それでミキタカ。アンタは何故僕らについて来たんです? ラルカスから説明は受けたはずですが」
「コイツを連れて行くって言われたら僕もついていくしかないじゃあないですか」
「それは結構ですが、安全は保障できません」
「テファさん達もいるんですから、どうにかなるでしょう?」

その皮肉にポルナレフは少しだけミキタカに対する見方を変えた。
まさかそんな危険な所に彼女達を連れて行きませんよね?などと言われるとは思っても見なかったからだ。
ハツカネズミをなぜてやりながら全く不安そうな様子を見せないミキタカの背中をポルナレフはマジシャンズ・レッドで叩いた。
恐らくフツーの高校生であるはずのミキタカの度胸が気に入ったのだろう。
その行為に親愛の情が篭っていたのはポルナレフの表情からわかったが、それがスタンドの腕でやられるとなると別だった。
人間よりは遥かに強い力に吹っ飛ばされそうになったミキタカが、痛みに耐えながら咳き込んだ。

「ポルナレフ…あんたねぇ、ちょっとは加減ってもんを知らないのかい」

そう言ったマチルダが杖を仕舞いながらため息をつく。
ミキタカと息を切らしているのに気づいたのでマチルダへ、ポルナレフはタルブ産のワインを用意する。
ここ何日か一緒に亀の中で暮らしていたお陰でポルナレフにはマチルダの好みがある程度わかるようになっていた。
照明に照らされた、まだ開けられていない瓶の中で揺れる赤い色、ワインのラベルを見たマチルダが眉間に寄せていた皺を少し和らげる。
瓶を見せる陽気なフランス人が、自分の好みを覚えていることがなんだかおかしくなり、軽く笑みが広がった。
安堵したポルナレフが、それを見ると同時に軽口を叩く。

「いいじゃねぇか。なぁ?」
「はい、億康さんで慣れてますし…」

背中をさすり、眉を寄せたミキタカの言葉はちょっぴり皮肉気に聞こえてテファが曖昧な笑みを浮かべた。
幸いポルナレフは冷蔵庫から取り出したワインをお得意のマジシャンズ・レッドで開けていたので気づかなかった。
ミキタカは両肘をソファに乗せてもたれかかり、ふう、とため息をつく。
その間に、少しは機嫌を良くしたマチルダが彼等の所に割り込んでくる。

「で、ジョルノ。私としちゃいい加減アンタがどういうつもりなのかはっきりさせときたいんだけどね」

そう言って、ソファのテファとジョルノの間に割り込んでくるマチルダを見て、ジョルノは本を閉じる。
取り囲む皆にそのゆっくりとした、この場においては些かもったいぶった動きは反省してる様子にはとても見えなかった。
口を開かないジョルノを軽く睨みながら、再び機嫌を悪くしたであろうマチルダを宥めるため、ポルナレフがワイングラスを取り出した。
取り出したワイングラスは縦に細長く、ガラスはとても薄かった。
無色透明なガラスで作られたグラスの口は厚さ2mm程度、『厚さが薄いワイングラスほどいいんですよ』とミント臭い組織の幹部に聞いたポルナレフが、組織の伝手で手に入れた自慢の品だ。
その分とても壊れやすく扱いにも困っていたのだが、マチルダと知り合ったお陰で固定化の魔法がかけられている。
どのくらいかはわからないが、多少手荒く扱っても大丈夫、という安心感が加わったグラスはポルナレフの自慢のアイテムだった。
それをマチルダに渡そうとして、手を伸ばしているとジョルノがテファへと目を向けて口を開いた。

「テファ、僕は「私はジョルノを独り占めしようなんて思ってないわ」

ソファに深く腰掛けたままで、何か言おうとするのを遮ってテファは柔らかな笑顔を浮かべてジョルノを見ていた。
だが部屋をその部屋の雰囲気も圧迫感を少しでも感じさせぬように明るくするはずの照明の光の加減は、どういうわけかマチルダに追いやられてソファの隅に移動したテファを悲しげに見せていた。
ソファの背もたれから続くやわらかクッションに包まれた手すりにもたれかかるテファは、両手を豊かな胸の前でくみ、細い指が薬指に嵌めた指輪に触れた。

「こんな私だし…」
「僕が生まれで誰かを卑下したことはない」

卑下するテファを悔しそうで、それでいて労わるような表情をマチルダがする横で、不機嫌さを隠さない声だった。
あまりポルナレフの前では出さない部下達を恐れさせる声音に、ミキタカは驚いていた。
テファは労わろうとする姉の手を断り、手を強く握った。

「うん。ラルカスさんを見てるから、それはわかるわ。でも皆はそうは言わないと思うの。ジョルノが周りの人に一目を置かれるには、私じゃ駄目なの」

はっきりと自分の考えを言うテファの目は彼女を大事に思うマチルダに考えを否定させない頑なさを溢れさせ、光っていた。
怯んでしまって何も言うことができなかったマチルダは、そんなテファに困惑した表情を見せていた。
村でずっと隠れ住まわせてきた妹であり、娘でもあるようなテファが変わってしまったことがショックだった。
自分の意思よりも他人を尊重しすぎるところが気に掛かっていたが、ジョルノの仕事にまで気を使い身を引くようになったテファのことを考えるととても不憫だった。
そして同じくらい、大公の娘という生まれを考えると…こんな考えもするようになったことを、心のどこかでは喜んでいた。
矛盾した感情に心をかき乱されたマチルダの顔は暗く沈んでいった。
だがそれを目に入れてもテファは言うのを躊躇わなかった。

「ジョルノが連れて行ってくれた貴族の集まりに参加して、それくらいのことはわかったわ。ジョルノは何時かこの耳がばれて、追い立てられるかもしれない私を何時でも切り捨てられるようにしておくべきなんだわ」
「耳…綺麗な耳ですけど、何かあるんですか?」

我に返ったミキタカが口を挟んだが、誰もそれには答えられなかった。
マチルダとポルナレフが悔しそうに唇を噛んだ。
マチルダは元貴族としてよく知っているから。
ポルナレフは、よく知らないからこそ口を挟むことができなかった。
悔しさを誤魔化して、次第に重くなっていく空気をかき乱そうと伸ばした腕が、イタリア産のワイングラスにハルケギニア産のワインを注ぐ。

「あ、ご…誤解しないで? 私、他の女性とだって仲良くできると思うし…って、こんなこと言うなら、アルビオンに連れて行ってなんて頼んじゃいけなかったわね」

自分が言ったことをおかしそうに笑うテファに、ジョルノは何かを思い出していた。

「貴族…? ああ、そうだ。夢を見ることってあります?」
「あ?」

場の空気を軽くする意図などない、空気をまるっきり読んでいない言葉に不機嫌なマチルダのまだまだ張りのある肌に皺が刻まれた。
ポルナレフにはもうジョルノがわざとマチルダを怒らせようとしているようにしか見えなかったが、注意を逸らそうと慌ててワインを注ぐ。
それには今の空気やこんな重たい話題を新参のミキタカ達がいる場所でしたくないっていう気持ちからでもあった。

「と…唐突になんだ? そりゃ見る日もあるが。なぁミキタカ」
「いいえ宇宙人ですから」

マチルダの起源の悪さなんて気にした様子もなく、未成年ですからとワインも拒否したミキタカはそう返した。
そんなミキタカのジョークには付き合えないと、敷き詰められた絨毯の上にポルナレフは安堵と共に胡坐をかく。
話が進まない。テファも話を変えようと首を傾げて、続きを促す。
ジョルノは隅に照明が吊られている壁を見つめて話し出した。

「先日、プッチ枢機卿の所で休んでた時に変わった夢を見たんです」
「…それが何か関係があるんだよ? ていうかお前、そのプッチって俺会ってねぇぞ」
「ポルナレフさんがお仲間と遊んでたからでしょう。で、古い不気味な仮面とかの美術品とかが飾られた貴族の屋敷の中でどうみても中世辺りのイギリス野郎が出てきて、僕の祖父を名乗ったんです」

ポルナレフ以外の、ミキタカも腑に落ちない顔をする。
相変わらず関係なさそうだったしミキタカも見ただけでと言われてもよくわからない。
「イギリススーツでも着てやがったんだろうさ」とポルナレフが言うと、ジョルノは頷いてそれを肯定した。
体型がちょっとでも崩れてしまうと途端に切れなくなりそうなところとか、典型的なシルエットだったらしい。

「お茶を飲みながら2,3話してたら(どうしてそーなっていったのかとかは全く思い出せないんですが)いつのまにか悩み相談になりましてね。夢だったからかなんとなく、女性関係が上手くいかないと答えました」

そう聞いて、テファの表情に影が差したがジョルノだけが気付いていないような態度で、ミキタカの代わりに一杯もらおうとミキタカが返したグラスと手に取った。
ワインを注いでやりながら、ポルナレフは先を促す。

「その紳士は僕に詳しく状況を説明させた後…『なんだってジョジョ。周囲にいるご婦人方が魅力的過ぎて一人を誠実に愛することができないだって?
それは一人を幸せにしようとするからそうなるのさ。そんな時は逆に考えるんだ…皆幸せにすればいいさって考えるんだ』と」

それを聞いたマチルダは何も言わずにジョルノに飲もうとしていたワイングラスの中身をブチ撒け、ゴールド・エクスペリエンスが流石近距離パワー型スタンド、というスピードを発揮して襲い来るワインを全て拭き取る。
空気が変わる所かかなり最悪な、これから向かうアルビオンも真っ青な重苦しい雰囲気へと亀の中は突入しようとしていた。
その空気はアズーロを駆るサイトにまで伝わったのか、アズーロをもっと急がせようと声をかけるのまでが聞こえてきた。

「ね、姉さん。ワインを粗末にしちゃ…」
「テファ…アンタもう魔法でコイツの記憶を消しちまいなよ」
「ええっ?」

ジョルノの話はまだ少し続くようで、何故か皆の頭の中に立派な口ひげを蓄えた老紳士が、諭すように相席するジョルノに語っている姿が見えたような気がした。

その紳士によれば、『保護した高貴な女性(テファとイザベラ)に優しくするのは紳士として当然のこと。
商売上世話になっている家のご令嬢(モンモランシ)が失礼な輩に傷つけられたと聞かされたなら、紳士として何かして差し上げなければならん。
勿論、それが病に苦しんでこられたご婦人(カトレア)ならば尚の事だ。紳士として誰恥じぬ態度で臨まなければならない』と、その老紳士は語り、『私は妻一筋だがね』と聖人のような台詞を吐いた後まだ若い同じくイギリス紳士らしい男に連れ去られたらしい。

「騒々しい二人でしたが、一理ある考えですよね。祖国で周りの学生達のとっていた行動もやっと理解できましたよ(だからどーだっていうわけじゃあありませんが)」
「私宇宙人ですから詳しいことはわかりませんけど、それって紳士じゃあないと思います」

ミキタカのさめた返しに、ジョルノよりもテファが困ったような顔をする。
誤魔化すような笑い声が唇から洩れて、ポルナレフはワインを煽った。

浮遊大陸アルビオンへの玄関口、ラ・ロシェールが見えたと、サイトが亀の中へ報告してきたのはそんな時だった。
サイトの目には、古代の世界樹の枯れ木をくり抜いた立体型の桟橋に、枯葉のような多数の船が係留している様が見えていた。
スクウェアクラスのメイジが岩から切り出して作った建物群がもうすぐ見え、そこの宿でルイズが待っているはずだった。

「俺、忘れられてね?」

一先ず任務へと戻ろうとする人間達の傍らで、部屋の片隅でデルフリンガーが泣いていた。


To Be Continued...

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