ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アヌビス神-1

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匿名ユーザー

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 青く澄み渡っていた空ももう赤く暮れようとしている。
 貴族の集う由緒あるトリステイン魔法学院の荘厳なその一角は今似つかわしくないクレーター、つまりは穴ぼこだらけと化していた。
 更に言えば神聖な使い魔召喚契約の儀式に相応しくない状況である。
「こ、今度こそぉーーーーっ!!
 ぜぇっぜぇっ
 お願い!でてきて、 私 の 使 い 魔 !!」
 何度目だろうか、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは気合を入れて杖を大上段から振り下ろした。
 その”一撃”?は、
 ドグォォォォォォンーッ!!!!
 かつて無い程盛大に大爆発を捲き起こす。
 立ち込める爆煙を前にして、
「またかよ!」
「いつになったら終わるんだよ!」
「ぷッ、ゼロのルイズだけど消費する無駄な時間だけは無限大だな!」
 等と笑い声とブーイングが聞こえる。
 いや、少し前までは多かった笑い声が減り殆どブーイングと化している。
 しかし何よりルイズが腹立たしく思うのは、自分の呼び出したサラマンダーを散々自慢してきた乳ばかりでかいツェルプストーの女が明かに同情を通り越した心配の眼差しを向けるようになった事だ。
 大体72爆発ぐらい前から!!
 見るからに真剣に心配してやがる。
 そんな態度見せるなら最初に自慢なんかしてくるんじゃ無いってのと言った怨念地味た視線でギロリと睨み返していると、周囲が少しざわめいた。

 ふいっと視線を戻すと爆煙の中に何か影が見える。
「や、やった!ついに召喚成功したの!?」

 いい加減に終わりにして欲しい面々も固唾を飲んで見守る。

 ゴクリ……


 剣だ。
 剣が転がっている。

「剣ね」
「ああ剣だ」
「ゲラゲラゲラゲラゲラ」
「生き物ですらNEEEEEEEEE!!!!!!」
「剣だよ剣!しかも半壊してるよ」
「メイジを止めろって天啓だよ是は。剣の道に生きろルイズ」
「ルイズ『サモンサーヴァント』で壊れた剣を呼び出してどうするの」

 ブーイングの一切無い周りの大爆笑の中ルイズは眼を擦り深呼吸して再度見てみる。
 剣です。
 間違いなく剣ですね。
 しかも刀身は見事にぽっきり折れています。

「ミスタ・コルベール!!」
 判定は!?
 と言った表情でルイズはU字に禿げた男をキッと見る。

「セーフ!」
「はィ?」
「ミス・ヴァリエールそれが貴女の使い魔です。
 ……多分」
「ミスター・コルベール、今多分って最後に小さく付けましたよね多分って、
 も、もう一度やらせてください!!」
何故か知らないが両手をぱっと広げて謎のジェスチャーをしたコルベールにルイズは食い下がる。
「一度呼び出した使い魔は変更する事はできないのです」
「で、ですが今多分って!それに明かにただの壊れた剣です」
「いえ、例外は有りません。さあ契約を」
「で、ですけどただの剣の使い魔なんて聞いた事がありません!
 たまたまそこに埋まってた剣が今の爆発で掘り返されただけかもしれないし。ほ、ほら折れてるのも多分爆発でぽきっと」
 ルイズは必死に食い下がるが、コルベールはじめとしてもうみんなうんざりなのだ。
 正直お腹も空いた。神聖な儀式でなけりゃとっくにブッチなのである。

 なんだか視線が痛い。
 ひとつだけ妙に暖かい視線があるがそれは個人的に他より腹立たしい。

「うぅ……なんで……なんで
 こんなのだったらまだその辺歩いてる平民でも出て来た方がマシだったわ」
 涙が出そうになるのを我慢して渋々と剣の側に歩み寄る。

 剣をじぃーっと良く見る。
 ぼろぼろでそして折れた刀身……しかし何処か美しい。
 吸い込まれそうな程に妖しく美しい。濡れたような輝きであるが、何故か本当に少し濡れている。
 何処に契約のキスをすれば良いのかとも思ったが『取り合えず刀身で良いかな』『汚くないわよね?』等と考え、ルイズはその剣を躊躇いながらも手に取った。



 妖刀に宿るスタンド、アヌビス神。
 彼は混乱していた。スタープラチナにオラオラされ刀身をバラバラに折られナイル川に叩き込まれ沈んでゆく……と思ったら爆煙に包まれていた。
 スタープラチナにこの様な能力が?とも考えたが、近距離パワー型のスタンド攻撃にしてはあまりに常軌を逸している。
 考え思い出してみれば水中できらきらと輝く鏡に誘われてナイルパーチ等の魚が集まっていたのを見た気もする。では別のスタンド攻撃だったのか?

 深い思考を止めて見ると周囲に沢山の人の気配を感じる。そしてその中の一つが此方へとゆっくりと近づいてくるのを感じた。
 妙に疲れ果てたピンク色の長い髪の少女がぶつぶつ言いながら此方へと歩んでくる。
 ともあれ新たなる本体を手に入れるチャンスだと判断した、全てはそれからだ。
―さぁ……私を手に取れ……そして―
 少女は躊躇いながらも手を伸ばし刀身を手に取った。

―おまえはわたしの本体にな……―
 とか語りかけようと思ったが少女がぶつぶつと『キスをする』だの、『汚くないわよね』等と言いながらいきなり唇を近づけてきたので躊躇ってしまった。
 正直乙女にキスを迫られた経験は500年生きてまだ無い、それも自らの意思でキスを迫られるとか。少し様子を見ても良いかもしれないと思った。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」
 言葉と共に柔かい唇がアヌビス神の刀身に触れる。

 ズギュゥゥゥン

 反射的にアヌビス神は叫びを上げた。
「今のキッス、憶えたぞ!!」



「はぁ!?」
 ルイズは驚いた様に唇を離し剣をみる。
 いや、ルイズだけでは無い、その場にいた全員が注目する。
 だが最も驚いたのはアヌビス神当人だ。聞こえている。何者もを通さずに己の声が聞こえている?

「インテリジェンスソードか!」
「良かったなゼロのルイズ、ただの剣じゃ無くて」
「ちょっ
 待てよ
 あの剣キッス憶えたとか叫んでなくね?」
「ぷくくくくくくっエロインテリジェンスソードだ」

「違う!断じて違う!習慣だ、ちょっとした習慣で間違えただけだ!」
 アヌビス神は野次を聞いて大声で反論する。

 ぽいっ
 ルイズはアヌビス神を放り捨てた。
 何か汚い物を見るような目でアヌビス神を見る。
「何を憶えたよ何を!
 この不潔不潔不潔!」
そして踏みつけるようにして蹴りつける。
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「なっ!何するダァー。
 誤解だ、だから憶えたのはごか……がぁぁぁぁぁ」
 突然柄部分に熱が走る。『使い魔のルーン』それが刻まれアヌビス神は熱さに思考を吹っ飛ばされる。

ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
「はぁっはぁっ。消えて無くなれぇーっ」
 だがルイズはそれにも気付かずに踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む踏む。
 踏みつけるだけ踏みつけた後拾って遠くへ投げ捨てようとする。

「刀身に直接触れたな!
 おまえはわたしの本体になるのだ……
 お前が本体だ……
 ってアレ?」
 アヌビス神を拾いあげ振り被ったルイズがぴくっと一瞬止まるが、思い通りに洗脳し操る事が出来ない。柄ではルーンがより一層眩く輝く。
 そしてアヌビス神は何かの力が己の洗脳能力に干渉するのを感じる。

「いきなりご主人様に命令する使い魔があるかーーーっ!!」
 遠投はされなかったがまた地面に、しかも激しく叩きつけられた。
 そして再び、
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ

「どうやらミス・ヴァリエールもあの剣を己の使い魔として認めた様ですな
 じゃあ教室に戻る……と言いたいところだがもう遅いので解散!」
 コルベールは柄で輝いたルーンを珍しいものだなとも思ったが、あまりに時間が遅くなっている事も考慮しさっさと切り上げた。
 激しく興奮して地団駄を踏むルイズを嗜めるのも正直面倒だった。っていうか腹減った。

「え?ちょっと……」

「あー腹減ったー」
「もう眠いよ……」
「風呂入って寝んべ」
 生徒達もからかう気力も体力も尽きさっさと帰ろうとふらふらと赤らんだ空へと飛び上がり帰って行く。

 殆どの生徒はルイズをからかうのも面倒になり一直線に飛び去ってゆく。しかしその中でも時々振り返りながら送られる心配げな熱い視線に腹が立った。
「とっとと帰れー!」
 踏むだけ踏んだアヌビス神を視線に向けて思いっきり蹴り付けた。



 ルイズは部屋に戻ると剣を床に放り捨て、そのままぽふっとベッドにつっぷす。
 流石に疲労が大きい。
「朝になったら起こしなさい。折れたスケベな剣でもそれぐらい出来るでしょう?」
 聞きたい事も色々あったが疲労が勝り面倒になり眠る事を選んだ。
 なにやら抗議を受けた気がしたが五月蝿さに眠気が勝り其の侭夢の世界へと沈んで行った。


 アヌビス神は考えていた。
 先ほどの能力の不発。
 突然の環境の変化。
 そして己の身の変化。

 特に能力の不発は深刻な問題だ。肉体とも言える刀身を削られた事によるスタンドパワーの減少かとも考えたが、折れた身でポルナレフを意のままに操れた事を踏まえれば関係は無いだろう。
 極度なダメージによるスタンドパワーの一時的な減少と考えることが自然なのかも知れない。
 正直洗脳能力の消滅は考えたくなかった。
 それはアヌビス神に取ってあまりに致命的だからである。
 物質透過能力も憶える能力も全てはそれありきだ。つまりは只の刀。いやただの折れた刀、スクラップ以下、望むままに人を斬る事も出来ずに再起不能-完-

 キスをされその身に走った熱さの関連性を考慮し思い出してみる。
 が、
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
ゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッゲシッ
 何度も激しく踏みつけ蹴られた事しか思い出せなかった。

 アヌビス神は朝まで考えるのを止めた。
 その刀身が二つの月の輝きを映し妖しいまでに光る……事はルイズの足跡で汚れているせいでそんな事は無かった。


 そして熟睡してるルイズは知らない。もう少しで体長1.4メイル程のナイルパーチを使い魔にするところだった事に。




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