裁くのだ


裁くのだ

雷の属性を膝下に置く男、摂政マイスナー
アーサー帝都脱出から帰還、その後の帝都攻防戦といった
第二次文明戦争の裏側で繰り広げられてきた王宮の派閥闘争における反皇帝派の筆頭として、
そしてユグドラシル軍総司令官として世界の覇権を狙う男。

帝都攻防戦以降、皇帝派の動きは沈静化していたが、前線にて指揮を執っていた大将軍イザベルの突然の戦死を受け、
アーサーの差金によるものである、と確信したマイスナーは
前線の指揮系統を回復させるためにも手ずから護衛のD3兵器を引き連れ 、
既にユグドラシル海軍により制海権を確保していた太平洋を渡り、一路ユグドラシル軍が包囲を進めるメルシュテルへと向かった。

イザベルの死により浮足立ったユグドラシル軍は、
この機を逃さず攻勢に打って出たソレグレイユ軍に押されながらも、辛うじて戦線を維持していた。
到着したマイスナーは連れ立ったD3兵器たちを用い、後退した前線を回復させることに成功する。
その後、残存するDシリーズを結集させ、圧倒的な火力による敵防衛戦力の撃滅を目的とした作戦
「オペレーション・ドネルシュラーク」を発動。
メルシュテル防衛戦、別名「カスティラン峡谷上空戦」の戦端が開かれた。

D2兵器を主力とした陸空戦力を駆使し、ソレグレイユの首都郊外にまで迫る。
地上と上空の両面で激闘が繰り広げられる中、
後方で指揮を執るマイスナーに肉薄する部隊があった。

次々にユグドラシルの将兵を薙ぎ倒しながら後方戦力を無力化していくそれらの武装集団は、
遂にマイスナーの眼前に現れる。

その正体は――

「こうして相見えるのも久しいな、マイスナー」
「ほぉ……思ったより早い登場だなアーサー。貴様が舞台上に姿を現すのは、もう少し後だと思っていたぞ」

 彼は嘗て自らが挫いた皇帝に対して感嘆の言葉を零した。
 だが、その顔はすぐに余裕あるものに変わってゆく。

「しかしどうする? たかが悪魔祓いと魔術師だけで、我の娘たちとどう戦う?」
「――聖剣・解放――」
「――!」

 瞬間、金色の斬撃がマイスナー目掛けて一線される。
 あまりに突然の事態、聖剣から放たれた光速と見紛う魔力の斬撃の前に護衛のD3兵器たちは満足に反応することも出来ず、
 攻撃対象であったマイスナーのみが辛うじて防御に転じられた。

 周囲を自慢の私兵で囲み、揺るぎない勝利を確信していたマイスナーは、完璧に不意を突かれながらも
 咄嗟に自身の前方に拙いながらも魔術障壁を展開させる。

 この障壁は聖剣より放たれた光の斬撃を打ち消すも衝撃まで殺すことは出来ず、
 彼の体は僅かに仰け反った。
 そして、マイスナーの態勢が崩れたその瞬間を彼女は見逃さなかった。

 ――それだけあれば、私が引き金を引くには十分よ。

「ただ一太刀……。貴様の隙を作るために唯の一太刀浴びせられれば、それで十分だった。
 ――私がいつまでも一騎討ちを望むと思ったか?」
「やってくれる……アー、サ――」

その一瞬の後には多くのことが起こった。
目の前で”父”の頭が吹き飛ぶさまを目撃し、錯乱するD3兵器たち。

所属を問わず消し炭と化す兵士、そうして悪魔の力を暴走させ自滅した哀れな少女
公には、『マイスナーは護衛に付けていたD3兵器の暴走に巻き込まれ、
アーサー帝が事態を収束させるためにその手腕を振るった。
ソレグレイユの大反攻、悪魔の再臨、ソユ両軍の共闘と勝利、その後の停戦協議へと至る』というのが
一般的に知られる「歴史」である。

そのため、マイスナーの死の真相とその裏に暗躍していた一人の少女のことを知る者は極一部を除いて、存在しない。

最終更新:2016年02月24日 21:53