俺ァ、あんまし科学だとかそう言うの、十全に信頼しねぇ事にしてるんだ
……って言うと、胡散臭い陰謀論だとか、スピリチュアル的なお呪いに傾倒する、情弱に聞こえちまうのかな。
違う違う。そう言う事じゃねえんだ。これでも現代っ子だぜ。スマホから発信される電波が身体に悪いだとか言う噂も信じねぇし、人工地震? あるわけねぇだろそんなもん。
異能が世界にはびこる前、超人社会の萌芽よりも更に前。それこそ、20世紀よりも前の時代の、偉大なる科学者たちが発見し、体系化して来た諸々の法則。
そう言うものじゃ、説明が出来ねぇような、『何か』。そう言うものが、あるんじゃねぇかと俺は思う。
例えば第六感だとか、霊感だとか呼ばれてる奴だ。
とは言え、超感覚だとかは勿論の事、テメェの身体を2倍に増やせるような奴だったり、身体を透明にするような連中が当たり前の世界じゃ、
今更そんなものはオカルトの内にもならないだろうよ。当然、俺の言いたいのはそう言う次元のものじゃない。
異能とか能力とかに依拠しない、感覚的なもの。直感って言った方が良いだろうな。
特に根拠はない、実際に見た訳でもない。当てずっぽうのヤマカンで、そいつの人間的な良し悪し、善悪を判断して、それが事実その通り……と言った、風の事だ。
そんな、ある種のシックスセンスが、人間には備わっているか、後天的にでも、ついてくるんじゃねぇのかと、思う事がある。
と言っても、俺だって目鼻がそれ程利く訳じゃねぇぜ?
解るとすれば、人並みに、だ。あん? 何が、だって? そりゃお前、決まってるだろうよ。
――そいつが人殺しのゴミかどうかが、って事だよ。
「……」
究極的に言えば、殺し方って言うのは二種類に分けられるもんだと思ってる。
苦しませずにとっとと殺すか、痛みや苦しみを与えてじっくりと嬲り殺すか。この二つだ。
初めて見た時、俺は、その殺し方が、どんな理論に沿って行われたのか、全く理解が出来なかった。そして次に思ったのは、その死に方が、殺られた側にとって痛みがないものなのか、違うのか、っつう事だ。
「安酒と……安い情婦。安い薬。それで自分の小ささと、現実の恐れを誤魔化そうとする人生は、有意義だったのかしら……?」
その女は、涙を流しながら、譫言のように口からクソみてぇな言葉を垂れ流し続けていた。
美人だと、俺は思う。日本人の顔立ちと身体つきじゃない。ココアみてぇに褐色の、肉感的なプロポーションの女だ。
顔立ちは、アジア人のようなそれとも、ヨーロッパ、中東、アフリカ。どの人種のものとも遠い。ラテンアメリカ風のものだった。
毛先のくるまった黒髪を長く伸ばした、長いまつげにやや厚めの唇。俺は好みじゃねぇけども、他の奴らなら、唇を舌で割り入らせて、蹂躙してやりたい程なんだろうよ。
いつか見た教科書に載ってた、聖母マリアの付けるような、黒いヴェールを被った、ボディラインが浮き出るタイプのブラックドレスを、そいつは身に纏っている。
見事なまでに黒一色なもんだから、まるで喪に服しているようにも見える。一方で、これから男に股を開きにでも行く娼婦みたいな装いにも見える。露骨に主張された胸元、露出された生の脚。
或いは、それらの思惑を一緒にしているのかも知れない。良く分からねぇよ。『右手に頭蓋骨を持って、その額に優し気にキス』する女の胸の内なんてよ。
女の……アサシンの奴が手にしている頭蓋骨は、彫刻でもなけりゃ模型の類でもなかった。
正真正銘の、生の骨。墓場から棺桶でも掘り起こして、其処から手に入れた……何て経緯だったら、どれだけ可愛げがあった事だろうな。
アサシンがその手で身体に触れた瞬間、『頭蓋骨だけが触れていない側の手にそっと乗っかっていた』。だなんて言って、誰が信じるんだ?
だが、実際にそれは俺の目の前で起きた事だ。目で見ただけじゃない。アサシンの足元に転がってる、頭が、しぼんだ風船みてぇに、平面に限りなく近い状態になってる男の死体がそうだ。
比喩じゃない。頭の厚みが、2㎝程度しかそいつにはなかった。アサシンに頭蓋骨を奪われた瞬間、前のめりに倒れ込み、その衝撃のせいで、その男は顔中の穴から。
耳、鼻、口、目。そんな所から、血やら脳やら、訳の分からない黄色い液体やらを、ギャグマンガでも見られないような有様で噴出させて即死した。
死体は、それだけじゃない。至る所に、アサシンが手掛けた死体が転がっている。
俺の足元に転がるアロハシャツの男は、脊椎を奪われて殺された。胴体が自重に耐え切れず、ストンと、面白いように厚みを失い潰れてしまい、その直後に聞いた事もない悲鳴を上げて即死した。
頭蓋骨を奪われた男の彼女と思しき、17歳程度の年齢の女は、骨盤を奪われ、若い女が上げるとは思えぬ、獣の絶叫を上げて苦悶の内に死んでしまった。
アサシンは、いろんな奴から骨を奪った。肋骨、肩甲骨、大腿骨、胸骨……。奪われた奴らは軒並み、拷問にでも掛けられたみてぇな悲鳴を上げ、それでも即死が出来なかった奴は、アサシンが持っている大鎌で、首を斬り落とされ殺された。
そりゃ確かに、家が欲しいとは言ったぜ。
俺のいた世界とこの世界とじゃ、共通点は日本と言う国家があって首都が東京である、ぐらいにしか見当たらない。
うじゃうじゃうじゃうじゃ、コバエみてぇに数の多いヒーローは、この世界は何処にもいやしない。この世界でコスチュームを纏ったところで、送られる目線は狂人でも見るような冷めた目だろうよ。
尤もヒーローなんて、コスチュームを纏ってなけりゃただの人だ。普通に市井に溶け込めるが、俺はそうは行かねぇ。
何せ俺の風体は、バカみてぇに良く目立つ。元居た世界ですら目を引く姿なのに、異能もヒーローも存在しないこの世界じゃなおの事目立つに決まってる。
況して、俺に課されたロールとやらは、孤児院から巣立つも定職に付けてないフリーター、と言う余りにもクソなそれだ。自由度、と言う面で終り過ぎている。
だから、「隠れ蓑になれるような家が必要だな」、程度の事は方針として口にはしたよ。
その結果が、御覧の有様だ。
違法ドラッグの流通と、援助交際をしている中高生の女達の斡旋で、金を稼いでいる、まぁ、死んで当然のゴミ共の半グレ共の事務所だった。
事務所と言っても、オフィスビルのレンタルスペースを使っているだとかそんな上等な所じゃねぇ。東京湾の一角に置いてある、コンテナの一つ。
経緯なんて興味はないが、とにかく、そんな所を借り上げるなり脅して手に入れるなりして、活動の拠点に改造してあるらしかった。
――この辺りなんて、丁度いいんじゃないかしら?――
無理やりアサシンに連れられ、この場所にやって来た俺は、この女が何をするのかをよく見る事にしていた。
その後に繰り広げられた光景が、先程までの残虐なショーである。生きたまま骨を抜かれ、苦悶と絶叫を上げ、普通に生きていれば御目にもかかれないような怪死を遂げる奴らを生で見る。
ヴィランだって、竦み上がるような恐ろしい殺し方をする女は、喜ぶでもなし、終始、悲しそうな目で、狂行をやり遂げた。
「辛かったでしょう、苦しかったでしょう」
「こんな恥ずかしい生き方でしか食べていけなかったのよね? 可哀そうに、可哀そうに」
「暗闇の中で何を縋れば良いのか、解らないのね? 祈るべき神の名を、誰も教えてくれなかったのね?」
「母の名を、唱えなさい」
「堕ちた地獄のその先で、せめて我が名を拠り所にして頂戴」
人を殺した奴にはな、第六感が備わるんだよ。
そいつも自分と同類なのかが如何かが。人殺しの屑なのか如何かが、な。
――テメェの事を、『
サンタ・ムエルテ』と称するこのイカレ女は。
俺が見て来たどんな女よりも破綻した、クズで、エゴイストで、強くって…………。そして、誰よりも母性のある、直視したくもない最低下劣の女だと言う事が。
俺は、コイツを召喚したその時から、分かっていたんだな。
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今焼けて出来上がったばかりの、炭の臭いのする青年だと、ムエルテは思った。
自分の姿が目立つから、アシの付かないようなアジトが欲しい。成程、そうと呟くのも納得だ
肌色の割合が、極端に少なかった。
勿論それは、青年が服を着用しているから、と言うのもある。服を着ているのであるから、肌を露出している部分の方が少ないのは当たり前の話である。
そんな印象を抱いてしまうのも、しかし、無理のない事だった。青年の顔面には、皮膚が殆どなかった。
そう言うマスクが存在して、販売されていると初め勘違いしてしまった程である。だが茶色に焦げ付いたそれが、真皮に至るまで完全に燃え尽きてしまい、結果、
外部に露出するしかなくなった筋肉部分であると気づいた時、さしものムエルテも驚いた。下唇より下には皮膚が存在しておらず、見えるのは、剥き出しになった焦げた筋繊維。
それが両耳まで走っており、うなじに至るまで、キッチリとそうなっているのである。目元の辺りの皮膚も焼け落ちていて、筋肉が剥き出しになっている。
火事に巻き込まれて負った後遺症? そうと解釈するのが、本人にとって慰めになるのだろうか。
だが、ムエルテは知っている。違うのだと。その傷が悲劇によって刻まれたものではない事を。そして、青年自身、この姿を恥とも思っていない事を。
彼女は、理解しているのである。
「不思議な名前ね、坊や」
「あ?」
「『荼毘』って名前、火葬って意味でしょう?」
やおら、と言った風に、ムエルテは懐から、一つの棒を取り出した。
純金で出来たパイプで、よく見るとパイプのヘッド部分が、頭蓋骨の意匠になっている。火はいつの間にかつけられていて、それを彼女は煙らせた。
……臭いが、タバコのそれじゃない事に、荼毘と呼ばれた青年は気づき、露骨に嫌そうな態度を取った。大麻の、香りであった。
「望んで火でも潜ったのかしら? それとも、世を儚んでの事? だとしたら、坊やはとても哀れな子。私を愛して求める資格があるわ」
「大麻をタバコ代わりにする女に縋る程、終わっちゃいねぇんだよ、惚け女」
荼毘ならぬ、唾棄。文字通り吐き捨てるように、ムエルテの愛を拒絶した。
「愛を知らない子が好き。愛に餓えているから、愛を与えてあげると泣きそうな顔して喜ぶの。可哀そうな子が好き。自分の境遇を理解してくれて、救いの手を差し伸べられた時の顔が情けなくてかわいいから。悪い子が、とっても好き。理由なんて、要らないぐらいに」
「テメェ程のクソ女、見た事も聞いた事もねぇ」
「人が好きなだけよ。坊や、私が何か、貴方の癪に障る事でもした?」
「全てだ」
「酷い子。でも愛してあげる」
何を言ったとて、暖簾に腕押し、糠に釘。そうであろうと荼毘は理解した。まともにコミュニケーションをとるだけ、疲れるだけだ。
「ねえ、貴方、本当に自分で火に潜ってそうなったの?」
ムエルテが話を蒸し返す。うるせぇな、と荼毘は舌打ちをする。反抗期の子供のようで、ムエルテは寧ろその反応を面白がった。
「ちょっと体系は違うけど、御近所のイシュタムちゃんのお宅みたいに、自殺する事が誉れって訳じゃないのでしょう?」
「何が何でも、知りてぇのかお前は」
「深く知れたら、深く愛せるから」
「その愛は、テメェの自己満足だろうが」
「そうね」
いけしゃあしゃあ、とでも言う風にムエルテは言った。
一切、自分の欲望を隠しもしない物言いに、荼毘は怒るとかよりもむしろ、呆れた。エゴイズムの化身過ぎる。
「この世界は、地獄。この世界で私が出来る事、成せる事なんて、ささやかなものよ。そして、私が何かをするでもなく、既にこの世界は終わっていたの」
大麻を燻らせながら、ムエルテは言葉をなおも続ける。
大麻の臭いと、死体の死臭が入り混じった部屋の臭いは、吐き気を催す程酷いものであった。ムエルテが骨を抜いた事で死んでしまった骸は、今もそのまま掃除をしないで残されていた。
「愛は全て、自己満足よ坊や。キリストが十字架にかけられて、全人類の罪を背負った事。あの自己犠牲ですら、自己満足で片付けられるの」
不機嫌そうにソファに座る荼毘に対し、ムエルテは、後ろからしだれ掛かる様に抱きしめて来た。
むせ返る程に、彼女の匂いは、女のそれだった。芳醇な、齧りつきたくなるような媚肉の香りと、香水のフレーバーが綯交ぜになったそれが、直に、荼毘の嗅覚に訴え掛かって来る。
「私の愛は自己満足だけれど、自己満足の対価に私は何かを求めないわ。私が好きで愛しているだけだもの、好きでやっている事に供物を求めてしまえば、汚らわしい程醜いものに堕してしまうの」
「しゃらくせぇ哲学だ」
「美学と言うのよ、坊や。違いの分かる大人になりなさい。その暁には、貴方の火傷、ふやける程に舐めてあげるわ」
沈黙の時間が、流れた。二十秒程、だったであろうか。
気まずい時間だと、他人は思おう。その間流れていたのは、コンテナ内に設置された、工事現場用のスポットクーラーの排気音だけで、それ以外の環境音は、絶無であった。
「俺の人生は、自己満足から始まったんだよ」
何処か、楽しそうに、荼毘は言った。
「越えてぇ山を見たら、越えたくなる親父でよ。そこに山があるから、みてぇな感じでさ、たっけェ山を登ろうとしたのさ」
オールマイト。
それは、AFOとの死闘によって再起不能級の傷を負うまでは、生ける伝説、絶対死なないし挫けもしない神話の住人のような認識の存在であった。
彼の活躍は、それこそ、文字にすれば分厚い百科事典数十冊分ほどにはなるであろう。オフィシャルなもの、個々人が勝手に撮影した私的なものまで含めれば、動画として、ピクチャーとして、数テラバイト分程の容量に容易く上り詰めるであろう。
荼毘も勿論、見ていた。もとい、オールマイトの活躍を何らかの形で目にしないまま、人生を終える事など、彼の生きている時代の日本では不可能ごとであった。
凄かった。早かった。鮮やかだった。――圧倒的だった。万民がヒーローとは何か、と呼ばれる要素(もの)、これを全て、あの男は最高も最高のレベルで保有していたのだ。
ある者は、彼に近づこうとヒーローを目指した。ある者は、彼に憧れ彼のようになりたいとヒーローを目指した。
ある者は、彼と同じ目線にいつか辿り着こうと己を磨き続けた。ある者は、どれだけ努力しても勝てっこないのだからそこそこの路線を模索した。
荼毘の父は……。轟炎司は、オールマイトをも超えるヒーローにならんと、邁進を続けた。どれだけの時間を、鍛錬に費やしたのだろう。人助けに割いたのだろう。
タバコも吸わない、酒も飲まない。人生の彩り、潤いになるような趣味など殆ど持たず、不純物だと切り捨てて。求める物は、ただ強さ。
ストイックを越えて、最早偏執狂の域にある努力を経て勝ち得たのは、オールマイトに次ぐナンバー2のヒーローと言う立ち位置。
そうだ、越えられなかったのだ。勝てなかったのだ。勿論、比較対象が比較対象だ。活躍と言い実力と言い、比較対象がオールマイトの時点で、それは最早賞賛すべき事柄である。
見る者が見れば確かにそうなるだろうが、何も知らない一般市民の目からすれば、そうはならない。
万年ナンバーツー。オールマイトの取りこぼしたヴィランの掃除人。オールマイトがいない時のスペア。そんな心ない言葉、男は幾度も投げ掛けられた。
それが、炎司、もとい、エンデヴァーには、悔しくて悔しくて、仕方がなかった。
どれだけ努力しても差は埋まらず、寧ろ、エンデヴァーが頑張った分だけ、どんどん差が開いていくような気がしてならなかっただろう。
そして、人間の宿命として、年を取る。オールマイトを超えた、と言う評価をただの一度として賜る事無く、中年に差し掛かる。
オールマイトを、越えたい。その夢を叶えるには、何をするべきか。彼を殺して繰り上がりを目指す者もいるであろうし、夢を誰かに託す者もいるだろう。
エンデヴァーは、野心に溢れていても、ヒーローだった。夢を、次世代の子供に託す事にしたのである。そしてその、燃え盛る灼熱の夢を担わされた子供こそが――――――
「俺さ」
熱を帯びた声で、荼毘が言った。
「奴は俺に夢を確かに託したんだ」
エンデヴァーが何を思って自分を産んだのか。荼毘は、全て知っていた。
オールマイトを越えて貰いたかった、それをこそ自分に果たして貰いたかった事など、とっくの昔に知っていた。
それで良いんだと、荼毘は思ったのだ。だって自分には、それが出来るのだと本気で、荼毘自身が思っていたから。そしてその夢を、エンデヴァーは確かに、応援してくれていたから。
「色々、工夫とかして、努力もしたんだけどなぁ……。体質的にな、親父の能力と合わなかったんだよ。才能がねぇって言うのかな」
自分の夢を子供に託す、と言うだけならば。よくある話、よく聞く話であろう。珍しい、話ではない。
珍しい話だったのは、荼毘と言う子供は、炎熱を操る父と、氷雪を操る母との間に生まれた子供である、という事。
所謂、政略結婚であった。これ自体もまた珍しい話ではないのだが、母方の実家に貰って欲しいと言われた女を、エンデヴァーが望んで求めた形での結婚であった。
世に言う、個性婚と呼ばれる婚姻である。個性は人によって千差万別だが、研究の結果、程度の差はあれ親の能力は遺伝する事は、黎明期の折より確認されている。
これを利用し、同じ特質の個性の者どうしで結婚して、より強まった親元の個性の子供を産んだり、異なる個性のハイブリッドを産み出そうと言うのが、個性婚である。
禁忌である事は、言うまでもない。
古典的なSFの考えで言えば、デザインベビー。やっている事は、これに当たらずとも遠からず、である。
とは言え、個性婚を禁じる法律は制定されていない。やっている事は道義上間違いなく許される事ではないが、所詮は、男女の営みの延長線である。禁ずる事など出来はしない。
炎だけでは、ダメだとエンデヴァーは考えた。その反対となる概念。水か、氷。このどちらかの能力も操れる、次世代のハイブリッドヒーローを彼は望んだ。
人道上は兎も角、考えは、理に適っている部分はあった。但しそれは、本当に、その様なヒーローが産まれていれば、の話である。
都合よく、親の性質の良いとこどりなど、出来はしないのだ。生まれた子供は炎を操れこそすれど、身体の方は氷の個性を操る母の血を強く受けた男の子だった。
結果、個性の出力を上げれば上げる程、身体にやけどを負う、歪な能力の子供が出来上がる事となる。その子供こそが荼毘であった。――轟燈矢、であった。
「愛は、自己満足。言ったよな、お前」
「ええ」
「俺も、そう思う」
そもそも、エンデヴァーが何故オールマイトを超えようとしたのか?
メディアの前では、尤もらしい、当たり障りのない理由を付けただろう。本音をある程度打ち明けられる家族やサイドキックには、より生の感情を曝け出す事もあるだろう。
しかし、その理由がどれだけ正当性に満ちたものであろうとも、個人的なわがままに溢れたものであろうとも。これが自己満足の発露であろう事は間違いない。
大抵のヒーローなら、エンデヴァー程の高みに登れば、それで満足する。であるのにあの男が、これに満足しなかった理由とは、何か?
単純明快、自己満足だ。今のポジションに、己の今の力量に。不満を抱いていたからに他ならなかろう。だから、より上を目指したのではないか。プラスウルトラを、実践したのではあるまいか。
「子供心に解ったよ、親父が俺に求めてた事が何なのかなんてな。『俺に出来なかった事を代わりに成し遂げて欲しい』、笑っちまうだろ。究極の自己満の一つだ」
「――でもよ」
「俺はそれで良かったんだよ。親父が、最強になれるって認めてくれてたんだから。俺を、見ていてくれてたんだからな。だから、鍛錬なんて平気だったんだぜ?」
この世に産まれた意味も、成すべき事も、全て荼毘は理解していた。
轟燈矢は、轟炎司の自己満足、自己表現の為に生れ落ちたのだ。だが、それでも良かったし、悲観もしなかった。
エンデヴァーの理想を叶えられると言う自覚があったから、自慢の息子だと、褒め称えられると確信していたのだから。
「だが結局は、出来損ないだったな。個性を使えば使う程に、眠んのだって苦しい火傷を負っちまうし……。出来の良い、弟も生まれちまったしな」
末の弟の焦凍は、燈矢の目から見ても、凄いヒーローであった。
昔からそう思っていたし、今ですらそう思っている。自分に、勝っている部分など、一つとしてない事だとて、今更言うのは野暮だと怒る位には理解していた。
エンデヴァーが求めていたものを、全部。焦凍は持っていた。この世に焼き尽くせぬものなど何もないと思わんばかりの、超高火力の炎。
そして、その炎によって昂った身体の熱をクールダウンさせるだけでなく、一瞬にして周囲の環境を北極のような氷の景色に変貌させる、氷の能力。
ヒーローとしてのエンデヴァーの求めていたものが結実すれば、どうなるのか。成程、この一点に於いて彼は間違いなく正しかった。
円熟すれば、間違いなく、無敵のヒーローだ。オールマイトに届く、あわよくば、越えるヒーローになると言う夢物語が、一気に、現実味を帯びるばかりか、射程圏に収まる。
出来の悪い子ほど、とはよく言うが、実際には違うと荼毘は思っている。
焦凍が産まれ、その才能に比類ないものがあると解ると、途端に炎司は、燈矢から遠ざかった。見て、くれなくなった。
ヒーローの道を諦めろ、別の道を行け。そんな尤もらしい、指導者面した言葉を言っていたが、幼い燈矢にとってこの台詞は、お前はいらないと言われたも同然であった。
「テメェみてぇな終わってるクソ女にはな、同じような、終わってるクソ男が宛がわれる」
ケケッ、と自嘲しながら、荼毘は上を向いた。色気もクソもない、鉄板一枚の天井。其処にぶら下げられた、裸電球。
「とっくの昔に俺はイカレてんだよ。自分でもようく、解ってる。テメェの頭の中に、ネジなんてもう一本も回ってない事がな。ずいぶん昔に焼き切れちまったさ」
俺は――何処から狂ってたのだろうかと、荼毘は思う事がある。
エンデヴァーが自分を最強のヒーローにする夢から遠ざけようとした時か? 焦凍が産まれた時からか?
……恐らく、きっと。生まれたその時から、狂ってしまう運命であったのかも知れない。コンプレックスに狂った父親から、コンプレックスに狂った息子が産まれる。
物珍しい所が何処にある? トンビが、トンビを産む。カエルの子は、カエル。これは、それだけの話だったのではないか?
そりゃあ、そうだよな、と荼毘は自嘲する。
普通は、テメェの能力を使い過ぎれば痛い火傷を負う事が解るのなら、ヒーローを目指す事なんてやめるよ。別の道を模索する。
幾ら自分より越えられない壁2つ分位の才能ある個性の奴がいたからってさ、まだミルク飲んでるような子供を殺そうとしねぇよ。
何処からダメかと言われれば、これでは、産まれた時からダメだった、としか言いようがない。救いようがない程に俺は、逸脱しているんだろう。
「……見て欲しいよなぁ」
遠い目だった。距離的にも、時間的にも。遥かに遠い何かを眺める時のような目で、荼毘は言葉を続けていく。
「他の誰かにじゃなくて良い。アイツだ。アイツだけ見てれば良いんだよ。自分が産み出した者が何だったのか、そして何をするのか。確りと、全部受け止めた上で――絶望しながら、見て欲しい」
普通にやっても、嘗て轟燈矢と呼ばれた男は、遥か年下の轟焦凍に勝ち目がない。
だから、能力のリミッターを外すしか、最早、今で言う荼毘と言うヴィランは対抗出来なかった。そして実際、彼はそうしていた。
もう自分は長くない。一年、ないであろう。
氏子と呼ばれる闇医者は希望を持たせる為なのかは知らないが、黙して語らなかった。とは言え、他ならぬ己の身体だ、自分が一番理解している。
瀬古杜岳の山火事から生き延びられていた時点で、自分の命の刻限が、一月生き延びられれば御の字な程、燈矢は消耗していた事を。
それを、今日まで生き繋がせた。気合い、根性。そして、恩讐と執念。これらを、彼はくべ続けた。まるで古の昔に存在していたとされる、火守り番のように。
科学でも、医学でも、説明出来ない奇跡。
この世の全ての理屈や体系ですら説明出来ない、轟燈矢の復活は、人類の叡智を超越した、正真正銘の奇跡とすら言えるであろう。
――これを、荼毘は、エンデヴァーに。轟炎司に、見て欲しい。
貴方が産み出し、目を逸らし続けた者が、昔確かにいたんだと言う事を。己の命を顧みず個性を行使して、人間の松明(ヒューマン・トーチ)の如き有様になろうとも。
貴方と全く同じ能力で、世界を破壊させ、貴方の成果の全てを焼き尽くすスペクタクルを、特等席で、見て欲しい!!
その為なら、己の命だって惜しくない。焦熱が、己のなけなしの寿命と運命を焼き尽くす感覚が、寧ろ心地良い。最高の満足は、地獄の痛みを凌駕して余りあるのである。
オール・フォー・ワンの野望? あの陰気くせぇ手野郎の過去? ヴィラン連合?
知らねぇよ、好きにやってろや。俺が意識するのはただ一人だよ、その一人に向かってレールを敷いた手伝いをしてくれたことは感謝してるよ、アリガトウ。
お膳立てが整いつつあって、俺の望む最高のラストシーンまでもう少しだったってぇのに……何だって俺は、こんなところにいるんだ?
長くねぇんだよ俺も、一秒だって時間が惜しい。早く元の世界に返せよ、クソが。
「お父さんが好きなのね」
「そうだよ。先が長くねぇからこの際言うがな、ファザコンなんだよ」
客観的に考えれば、自分は、そうなのだろうなと言う自覚は荼毘にはある。
父親に病的なまでに執着していると言う事は、解っている。それはきっと、氏子や、AFOも理解している事だろう。
それが、どうした。何が悪い。好きでもねぇ者に、人は此処まで執着しない。荼毘は、開き直っていた。
「ねぇ、坊や」
耳元で、囁くようにしてムエルテは尋ねる。
「お父さん、私が貰(殺)っちゃっていい?」
それを言った瞬間、荼毘の体温が、人体では到底達し得ない程の高音にまで瞬時に高まって行く。
個性を行使している様子はない。ただ、怒り。嚇怒の念である。無粋者の、無遠慮な発言に、本気で、激怒している。
「殺すぞ」
「冗談よ、坊や」
そう口にするムエルテの表情には、薄い微笑みが、張り付けられていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
可哀そうな子が好き。
悪事を働く子が好き。
光に餓える子が好き。
救われない子が好き。
そんな子供達が最後に求めて縋るのは私だから。祈りを捧げる神は、私になるから。
祈られたのなら、救ってあげないと。煩わしいだなんて言って、振り払う事なんて出来ないわ。
か弱い人の身で、この地獄のような世界は生きづらかったでしょうに。息苦しくて仕方がなかったでしょうに。愛してくれる誰かが必要だと思うのは自然だわ。その役割、私が引き受けてあげる。
坊やは、特に救ってあげたい子。
身体が此処まで焼けて焦げて、可愛かった筈のお顔がひどく引き攣るまでになっても、お父さんの事を好きな、坊やが好き。努力家な、頑張り屋さんが嫌いな母はいないわ。
今も地獄の炎に焼かれてる筈だろうに、そんな事よりも、お父さんの気を引く事に一生懸命な坊やの姿に、心を打たれたわ。
だから私、殺してあげたくなったわ。坊やのお父さん。憎いからじゃないわ。彼も苦しいだろうから。
実の息子に此処まで憎まれるだなんて、相当の事をしたのよね? 他所の家庭の事情だもの。それに対する是非を問うつもりはないの。
ただきっと、坊やが焦がれているのと同じくらい、お父さんもまた罰を欲していると、思っただけ。逢えるのなら、聞いてみたいわね。坊やのお父さんに。どうして、そんな事をしちゃったの? って。
……ああ、この国じゃ、有名なのよね。
ヒノカグツチと言う坊やと、それを斬り殺したイザナギって言うお父さんの神話。なんだか貴方達の関係、
それにそっくりね。尤も、今回は、殺された赤ん坊の方が、お父さんの方を殺そうとしているようだけれど……。些細な違いよね。それに、そうなる事もないわ。
だって、私がやっぱり、救ってあげるのだもの。今から、楽しみね。坊や。貴方が無理してお父さんを殺す事はないわ。私に、任せて頂戴な。
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◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
私は一人の無辜の人をころした身体であった。
同胞に会ったため、生還の希望を持ち、さらにその延長として、降服によって救命の手段を求めているが、そうだ、私はたとえ助かっても、
私はあの世界で生きることは、禁じられていたはずであった。任意の状況も行為も私には禁じられていた。
私自身の任意の行為によって、一つの生命の生きる必然を奪った私にとって、今後私の生活はすべて必然の上に立たねばならないはずであった。
そして私にとって、その必然とは死へ向っての生活でなければならなかった。
――大岡昇平、『野火』より
.
【クラス】アサシン
【真名】
サンタ・ムエルテ。或いは、ミクトランテクトーリ
【出典】
サンタ・ムエルテ信仰、カトリック、アステカ神話
【性別】女性
【身長・体重】168㎝、57㎏
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力:C 耐久:B 敏捷:C 魔力:A 幸運:EX 宝具:EX
【クラス別スキル】
気配遮断:B
サーヴァントとしての気配を絶つ。完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。
【固有スキル】
対秩序:EX
社会を維持する為に必要な秩序、規範、法観念、掟。そう言ったものに対するアンチテーゼ、それこそが、アサシンである。
売春、麻薬売買、密猟、密造、殺人、誘拐、臓器売買……。人間社会に於いて罪であり、悪徳とされる、ありとあらゆる悪事を司るアサシンは、このスキルを規格外とも言うべき値で保有する。
属性が秩序、或いは善属性の物に対しては、己の保有する攻撃の全てに特攻がのるようになり、各種精神干渉・状態異常の付着率が向上する。
但し、このスキルは決して秩序の側に対してアサシンだけが有利に立ち回れると言うだけのスキルではない。
反秩序の究極系、象徴として著名なアサシンは、特攻対象である秩序或いは善属性の者による攻撃に対しても、特攻となってしまう。
――それもまた、善し。愛しき者達、それが坊や達の愛と言うのなら。
聖人:E-
聖堂教会の流れを汲む宗教によって、祝福され、聖なる者として列せられているかどうか。
アサシンは中南米メキシコに端を発する、土着の聖人、フォーク・セイントに相当する存在である。
教会は基本的にはその土地独自の聖人を、列聖する事に対しては消極的である事が多いが、上述のようにアサシンは司るものが司るものであり、教会は猛烈に彼女の存在を否定している。
勿論、聖書に記されるような奇跡の諸々を引き起こす事は出来ないし、洗礼詠唱すらアサシンは行使する事は出来ない。申し訳程度に、スキル欄に記載される事を赦された、その程度のものでしかこのスキルはない。
悪婦のカリスマ:A+
闇を愛し、陰に生き、影を抱く魔性の女の持つ、人間的な魅力。
カリスマとしてのランクは実を言うとD~Cランク相当に過ぎないが、アサシンの場合は特に、此方のシンパにさせる力に特化している。
特に、混沌属性、悪属性の者には、アサシンの姿はとても魅力的な存在に映る。
死神の神格:C
死後の世界を管理する神、死を司る神であるかどうか。
同ランクの神性として機能する他、即死・スリップダメージの無効化、魂に直接作用する形の干渉を極限まで抑える。
アステカの神話に語られる著名な冥府の神であるアサシンは、本来的には規格外のスキルランクを保有していたが、化身での召喚である為か、ランクが下がっている。
罪への加護:A
罪人に対する祝福。或いは、これから罪を犯そうとする者に対する加護。
アサシンは任意の人物に、行おうとする悪事の成功率を高めさせる祝福を授ける事が出来る。
その悪事が成功するまで、当該人物にはステータス的なボーナスや、各種判定に有利な要素を得る。
【宝具】
『きかせてちょうだい、あなたのゆめ(セニョーラ・デ・ラス・ソンブラス)』
ランク:B++ 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
信徒がアサシンに対して叶えて欲しい、聞いて欲しい夢に対し、その内容に応じた色の衣を着ると言うエピソードが宝具になったもの。
有体に言えば権能の入れ替えであるが、勿論実際にはそんな器用な事は出来ず、神霊の化身、かつ、サーヴァントとしての枷に当てはめての召喚に際して、
この宝具は『任意のスキルを習得し、そのスキルに纏わる事柄に対して上方修正を掛ける』と言う内容になっている。発動すると、ドレスの色が変わる。
最も基本形が、相手を殺して欲しい、復讐の手助けをして欲しい、死の呪いを跳ね除けて欲しい、と言う死神の側面であり、この状態のアサシンのドレスの色は黒。
この状態が肉弾戦に一番適したスタイルになっており、サーヴァントとしての召喚では常にこのスタイルを維持している。
任意で、毒性の浄化やカウンセリングに適した白いドレスを纏う事もあれば、黄金律スキルを獲得し会社運営に適したスキルを会得する黄金のドレスを纏うし、
重度の麻薬中毒すらも根治出来る程の医術スキルを会得する琥珀色のドレスを纏う事もある。全局面で万能な宝具であり、隙らしい隙があるとすれば、局面に応じて自分の意志で状況に適したそれに変えねばならないと言う点である。
『しゃぶってみたいわ、あなたのほね(ツォンテモック)』
ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:1 最大補足:1
アサシンが有する、死神としての絶技。能力は単純明快で、素手或いは鎌で触れた所から『骨を簒奪』すると言うもの。
触れずして心臓を潰す絶技などに比べれば地味に見えるであろうが、最大の特徴は、奪える骨はアサシンの自由である事。
頭蓋骨を奪う事が出来れば心臓を潰すまでもなく即死であるし、脊椎や骨盤もそれに同様。肩甲骨を奪えば最早腕など機能しないし、大腿骨であれば動く事すらままならない。
そしてその通りの事をアサシンは実行する事が出来る。また、任意で、骨を抜かれた痛みをも味合わせる事が出来、拷問としての面も有している。
骨がない相手には効かないのか、と言われればそうではなく、この宝具の本質は『動く為に必要な要素を奪い取る』と言う事にあり、
例え相手が骨の一本もない軟体の生物であろうが、ガス状・霧状の生命体であろうが、それが動く為に必要な部分や要素が何であるかをアサシンが理解しているのなら、それを体外に弾き飛ばせる。
対抗手段は神性スキル或いは粛清防御のみであるが、これらの方法で防いだとしても、実際に防げるのは骨を奪い取ると言う事実のみであり、
『アサシンが取ると決めた部分の骨を奪い取られた事で与える筈だったダメージ』は、そのまま、アサシンの行った接触或いは攻撃のダメージに加算される形となる。
『獄骨地底(ミクトラン)』
ランク:EX 種別:固有結界 レンジ:- 最大補足:-
アサシンが有する固有結界。アステカ神話に語られる、嘗て地上に存在したあらゆる生命体の骨を収納している冥府・ミクトランを心象風景として展開する宝具。
内部の風景は、床や壁、天井に至るまで全て、人体や動物の骨を組み合わせて構築された宮殿と言う様相で、しかもその全てに隙間なく、目に痛い原色の塗料が塗られていると言うものである。
発動すれば、アサシンの攻撃が因果を無視し、距離や障壁の有無などもすっ飛ばして、必中となる。有体に言えば領域展開。
この必中効果の恩恵には、アサシンの第二宝具も含まれており、発動してしまいかつ、範囲内に神性および特殊な防御スキルなどを有していないサーヴァントがいるのなら、その時点で勝負あり。
一秒経たず、全身の骨と言う骨を体外に弾き飛ばされ、消滅に至ってしまう。固有結界と言う内容上、消費する魔力量は膨大であり、アサシンとしてもあまり使いたくない秘中の秘の宝具。
【weapon】
無銘・大鎌:
アサシンが保有する大鎌。特別な逸話はなく、サーヴァントとの戦闘に耐えられる頑丈さの大鎌である。実際の
サンタ・ムエルテ像も、持物としてこれを持つ事がある。
【解説】
サンタ・ムエルテ(Santa Muerte)とは、16世紀のスペイン人による征服以降、先住民の死神信仰とカトリックの聖人とが融合して生まれた民間信仰である。
その姿は黒い女性用の法衣を纏った骸骨の姿で表象され、その手には持物として、鎌や地球儀、オイルランプなどを持つ事があると言う。
サンタ、とは聖人を呼ぶのに使われる『聖〇〇』と同じ意味であり、ムエルテ、とは現地の言葉でそっくりそのまま『死』を意味する単語となる。死の聖人、と言う意味であろうか。
上述のように事の起こりは1500年代の事であるが、本格的に文脈上に出て来るのは20世紀の事であり、このころには細々とではあるが、死の聖人として民間では信仰されていた。
信徒の数は推定で、1億2000万人と言う説が存在し、これはイエスや仏陀などの規格外の世界宗教の開祖及び、一国で人口十数億をカバーするインドで信仰されているヴィシュヌやシヴァ等の、
トップクラスの例外を除けばまず間違いなく、世界で最も信仰されている神格の一つである。
此処まで信仰が広まった理由は、一説に曰く、刑務所や麻薬カルテルにおける崇拝であるとされ、「死」が日常である世界に生きる犯罪者達は死を司る存在の庇護を求めたのだと言う。
国家や警察に追われる麻薬組織が政府の捕縛を恐れ世界各国に散ってしまった為、ムエルテ信仰がここまで広まったのでは? と言う噂も実しやかにささやかれている。
彼女はキリスト教の神や天使や聖人たちのように道徳や倫理、正義を求めたりはせず、犯罪にもご利益を与えてくれる存在である、という事が最大の特徴。
健康祈願や商売繁盛、交通安全などの明るい目的を助ける事もあるが、多くの場合、敵の死や復讐等のどす黒い目的の為祈りを捧げられる事の方が多い。
聖人とは言うが、勿論カトリック教会は
サンタ・ムエルテを聖人として認めておらず、
サンタ・ムエルテ信仰を強く非難し、神を冒涜する偽宗教としている。
それでもなお信仰が増えるばかりか、あろう事か彼女を批判せねばならないクリスチャンの間ですら信仰が広まっている為に、彼らにしてみれば頭の痛い問題となっている。
サンタ・ムエルテを信仰するのは犯罪者ばかりではなく、大多数は市井の一般人である。現在メキシコではネット上でも広く知られている程に治安の悪化が深刻になっており、街中で銃声が響く最悪かつ不安定な社会情勢において、善男善女も死がもつ恐怖と力を意識し、
サンタ・ムエルテに惹かれていった国民も多いと言う。
その正体はメキシコの神話に語られる、地下の冥府・ミクトランを統治するとされる死神、ミクトラン・テクトーリ……ではなく。
過去に彼が乗り移った人間の一人が、名代として召喚されているに過ぎず、これが
サンタ・ムエルテのオリジンとなっていると言うのが真相。
実際のミクトラン・テクトーリは彼とある様に男性神であり、彼もまた、原作であるFGO同様ケツァルコアトルのように、宇宙から来訪した細菌である。
サンタ・ムエルテと呼称される当該個体が活動していたとされる時代は、エルナン・コルテスの制服を受けて滅び去った直後とされ、
カトリックに改宗したと言う現地人の美しい女性に乗り移ったと言う。現地の神格の伝手で、酷い有様になっている事を聞いたミクトラン・テクトーリは何とかしようとするが、
久方ぶりに現世に姿を現し、当世の世界の有様を見て彼は愕然とした。地上は最早黄金時代と言う言葉が過去のものであったと確信する程には荒れ果て、腐敗し、死病に満ち、
わけても人心の退廃振りは目に余る程であり、最早如何なる悪神・邪神が来臨するまでもなく、地上は悪徳の時代に変貌していた事を知る。
それも、スペイン人によって虐げられていたアステカの民のみならず、当の征服している側のスペインの民もまた、地獄に組み込まれた人物である事を理解してしまった。
――これが……人の生きる時代か……――
――酷い時代と解っていてもなお、お前達は生きねばならないのか……――
――ならば拠り所と愛がなければ、この地獄では生きて行けなかろう。お前達の行いを全て肯定しよう。悪も善も赦そう。好きに生きるが良い――
こうしてミクトラン・テクトーリは主導権を自らの意志ではなく、憑依した女性に譲り、与えた力と権能をそのままに、好きに生きさせる事にした。
この後の行為には、最早ミクトラン・テクトーリは何も関係していない。彼の力の一部を引き継いだアステカ人女性の話になる。
人の悪と善とを全て許し、如何なる者の祈りや願いをも聞き入れ、祝福を与え、また時には自ら鎌が絶技を披露して人に死を与える、そのカトリックの少女は、
聖堂教会の追跡をも振り切り殺し返し、また時には味方に引き入れ自らの仲間として――。その後の行方は知れず、書にも記されず。ただ、口伝として、当時の人物に様々な形で残るだけであったと言う。
【特徴】
褐色の、肉感的なプロポーションの、ラテンアメリカ風の美女。毛先のくるまった黒髪を長く伸ばしていて、長いまつげにやや厚めの唇がチャームポイント
聖母マリアの付けるような、黒いヴェールを被った、ボディラインが浮き出るタイプのブラックドレスを身に纏っていて、与えられる印象は喪服。
またその服自体も改造されていて、胸元は大きく開かれていて、かつ生足を太ももの辺りから露出している状態となっている。
扇情的な仕草と声音が特徴的な、大人の余裕を持った母性的な女性。人間が大好きで、老若男女分け隔てなく優しく接する、それだけなら慈母そのもののような女性。
問題は、反社会的な性格や側面を有した存在をも愛する事にあり、窃盗や殺人、強姦や詐欺などに傾倒する人間にも、慈愛の精神で接してしまう。と言うか、本質的には此方の方が好き。
また、元が死神由来の神格のせいか、人を殺す事にも何らの躊躇いがなく、赤子ですらも微笑みを浮かべて惨殺する。
但し本人は、残酷な事をしていると言う自覚は一切なく、苦しい世界から安らぎの世界に送ってあげてると言う認識。だって私が慈悲で殺しているのだから、地獄に堕ちる訳はないでしょう?
――これも本人が自覚している事ではないが、凄まじいまでのエゴイストであり、殆ど人類社会の敵そのもののような存在である。
自分がその事に対して危害を加えられたとしても、彼女は怒らない。それでもまた良いと思っている。だって、愛しき子供の癇癪位、許してあげないと。まぁキチガイ。
【聖杯にかける願い】
人々の営みが何時までもこのままでありますように。あ、坊やのお父さんも殺してみたいわ
【マスター】
荼毘(轟燈矢)@僕のヒーローアカデミア
【マスターとしての願い】
元の世界に戻せや
【weapon】
【能力・技能】
個性・炎熱系:
作中での名称は不明。恐らくは、父であるエンデヴァー同様、ヘルフレイムの可能性が高いが、荼毘の場合は炎の色は青色になる。
その出力は桁違いのそれであり、親元であるエンデヴァーのそれに、威力だけなら上回っていると言われる程。
人体に放てば一瞬で消し炭に出来るし、木々の密集地帯などで放てば、即座に森林を火の海に変えてしまうレベル。
実際には元からその威力だった訳じゃなく、今の荼毘は瀬古杜岳の山火事で大火傷を負う以前の状態に比べ、能力の出力が弱体化している。
これを荼毘は、『己の命など一切顧みず死を覚悟をしてまで出力過多の状態で放っている』に過ぎない。
当然、極めて無茶苦茶な使い方であり、実際エンデヴァーはこれを恐れて、燈矢を個性訓練から遠ざけていた。
元々が長く生きられる状態ではなかったのに、この無茶苦茶な個性の使用により、荼毘の寿命はもう一年持たない状態になっている。
【人物背景】
捨てられた『過去』。何があっても、事実をなかった事には出来ないし、許さない。
その事だけを思い知らせようと、地獄から蘇って来た青年。意思を持った松明。生まれついての、ヴィラン。
ダビダンス後から参戦。
【方針】
下らねぇから元の世界に返せよマジで
最終更新:2022年05月07日 21:03