部屋に響くかん高い音色。
暁美ほむらは、携帯端末でセットにしていた目醒ましタイマーを停止させた。
念の為、彼女は確認した。彼女は一人くらしだ。両親はここにいない。

装飾である天井の歯車が回転し続けるリビング。
空間にある多数の立体映像には『今日まで』回収し終えたウワサなどの情報が表示されている。
誰も居ない。セイヴァーの気配はない。
いつものことだった。彼は滅多にほむらと共に行動せず、見滝原の町を徘徊するのが常だ。
それにも……一応理由はある。ほむらも理由を『最近』知った。

「……うん」

むしろセイヴァーが不在で助かった。現在の時刻は、聖杯戦争開始手前。
ほむらは、学生鞄に書類を入れる。主催者から配られたものと聖杯戦争に関与、しているであろう情報のものと。
身を整え、見滝原中学の制服に着替えた。
それから魔法少女に変身する。

「鹿目さん……」

彼女は――鹿目まどかの自宅に向かおうとしている。
主催者が用意した『偽物』か。もしくはマスターではない『本物』か。あるいは……マスターの場合も。
なんであれ、ほむらは親友の安否を確かめ。同時に守る為に仮眠を取っていた。
朝まで何も起きなければ、何事も無く学校へ登校出来るように制服へ着替えておいたのだ。

このような行動をセイヴァーが許すだろうか?
最も、セイヴァーはほむらの存在そのものに興味がないのだろう。
であれば、放置などしておかない。
……とは言え。敵サーヴァントに狙われても可笑しくない状況で放置するのは、ある意味。ほむらの時間停止を見込んだ上の行為か。

ほむらは製作しておいた爆弾を盾に収納する。
爆弾は簡易的なものだが、作りなれてしまったというか。魔法少女時代から馴染みのものだ。
あと拳銃やそれ以上の銃火器が数点。これは警察署から盗み出したもの。
シャノワールに妨害され、威力ある銃火器を入手できなかったのは割と痛手だ。拳銃など、サーヴァント相手にどこまで効くか……
念の為、接近用のゴルフクラブも用意してあったが、こちらは拳銃よりも最終手段であろう。

夜の街は静かだ。比較的に。
魔法少女に備わっている魔力感知を行うが、少なくとも周辺には何も居ない。
荷物を確認する中、チラリと、ほむらは例の『情報』の中にある『鹿目まどか』の顔写真を目にした。

「…………」

この『情報』は――ほむらが集めたものではない。
夢、いいや。あの時の、悪夢染みた光景を思い出す。故にほむらは感じるのだ。
鹿目まどかは……きっとマスターなのだと。

「いかないと」

決心を固めたほむらは、夜の街を駆けてゆく。親友の元へ辿り着く為に。






「あれ、意外に少ないや。ひょっとして誰かに先越されちゃったかな」

白無地の長袖長ズボンを纏うだけの少年が、相反する血みどろの『箱』のようになった警察署内を『観察』しながら言う。
怪盗X。
彼が手っ取り早く『目的』を叶える為に、意図も容易く犯罪を為す。
間違ってはならないのは、今回Xはアヤ・エイジアのような一定の獲物を定めた訳じゃあなく。
手段の為『ついで』に深夜に配属されていた警察関係者を虐殺した。
それっぽちの動機であり。それっぽちの結果に、拍子抜けな反応を示していた。

Xが観察する通り、警察署内にも拳銃他。犯罪者から押収した危険物だって幾つか保管状態にある筈。
強いて、麻薬など軽犯罪系で押収された証拠品だけで、銃火器類はほとんど残ってない。
誰かが盗み出した―――という事。
Xのサーヴァントであるカーズが押収品の中にある『銃弾』に注目した。
拳銃はないのに、銃弾には手をつけていない。安直な無能の仕業か、余裕のなさで生じたミスか。

「銃弾、なにかに使えるの? サーヴァントに効かないんでしょ」

「私は魔力放出を使える。それで拳銃の真似事くらいは可能だ」

生前、という表現は間違っている。
本来のカーズには、魔力放出……光の魔力など持ち合わせていなかったが、サーヴァントの特性上でそれを会得した奇妙な現象が起きている。
彼が言うよう、魔力放出で魔力を付与すれば、サーヴァントにも攻撃は通用するだろう。
興味深くXがカーズの話に耳を傾けつつ、一台のノートパソコンを血で汚れてないテーブルに置いた。

「署長室にあったノートパソコン。これで漸く情報が手に入れられる」

「最初からやれば良かったものを……」

「ある程度、時間を置かないと分からないもんだよ。そういう訳で後はよろしく!」

完全な人任せならぬ怪物任せ。されどカーズは挑戦状を受け立つように満更でもない様子だ。

彼、カーズの持つ『文明理解』について。
『柱の男』なる生命は、食物連鎖・生態系の頂点にいる人間の更に上に位置する。
生体などは全ての生命を凌駕した性能を誇っており、当然知能は優れているのだ。
瞬時に言語を使いこなし、見たこと無い文明を理解したり……
特にカーズに関しては『柱の男』の中で研究者に属す。
ある種『キャスター』のクラスの可能性も見出せるほど、探究心に満ちた存在であったのは確か。

バーサーカーのクラスである以上、物の作成に優れてはおらず。どちらかと言えば戦闘特化。
されど『文明理解』の性能は低下していない。
戦闘においては的確な判断を下す『直感』の性質を持っていた。

故に、彼が次に行おうとするものとは―――『ハッキング』である。
パソコンを操作し、厳重なセキュリティだろうが情報を引き出す為に。
カーズらも今日まで下準備を行わなかった訳ではない。
怪盗Xとしての注目度を上げるパフォーマンス以外にも、カーズはかつて目覚めた頃よりも更に経過した現代の知識を吸収していた。

「大した事は無かったな」

セキュリティというパズルを解き明かしたカーズは、退屈そうな感想を告げたが達成感ある表情をしている。
これにはXも、目を丸くさせていた。

「もう終わっちゃったの? 『アイ』よりも早いね」

元居た世界で組んでいた相方の名は覚えているらしいXを傍らに、カーズはそそくさとデータを調べていく。

「逆に肩透かしを喰らったザルセキュリティだ。……この辺りの行方不明者は、お前が殺した連中だな」

「え、よく覚えてるね」

「………」

カーズは突っ込むのを止めた。
問題はXが『ついで』感覚で殺した類以外のもの。

「中には違うのも混じっている。どれも規則性はないが、かなりの数だ。全てお前の仕業扱いになっている」

「魂食いだっけ。サーヴァントが魔力を確保する手段。全員食われちゃってそうだよね」

「恐らくな。だが……当たりはついた」

有象無象にある行方不明者の中、一件。カーズが注目したのは職場を無断欠勤している夫妻に関する相談である。
どうやら職場関係者も家に赴いたが、その後は行方知らず。
警察官が自宅訪問したらしいが、その警察官も行方不明となった。
この――ガードナー夫妻。
否、どうやら娘がいる。『レイチェル・ガードナー』という少女。皮肉にも見滝原中学の生徒だ。

「ふむ、次はコレか」

大方予想通り。しかし確証のなかった情報の一つだ。
カーズは最近の報告書に目を通していくと『:-)』なる顔文字の存在が目につく。
SNSでは頻繁に見かけ、カーズも実際に特定の廃墟でペンキで描かれた顔文字を発見している。
顔文字くらい対して珍しくは無い。現代じゃむしろ見かけない方が珍しい。

ただ『日本』では別だ。
日本の顔文字は『縦向き』が主流である。『:-)』のような『横向き』の顔文字は欧米などが主流で、日本では珍しい。
では何故『:-)』の顔文字を使われているのか。
これは――暗号である。
一種の合言葉とも言える。……『麻薬の取引』においての。

『:-)』。
麻薬に関与している合図に使用されるようになったのは最近のこと。
取引現場に『:-)』を目印にしたり、SNS上で手軽に売人と取引をする為に用いられる印に『:-)』をプロフィールに掲載したり。
……この麻薬事件に英霊が関与しているか定かではない。
格別、関与せずともヒントとして流行しているなら―――間違いなく英霊のウワサの一つ。
さしずめ『麻薬の英霊』か。


更に地図上で『D-2』とされるエリア内で暴漢の乱闘。死者もいるらしい。
単純な乱闘事件ならば良いが、十数人以上の悪たちにが棒状の――丸太的な凶器で撲殺された。
元より評判の良くない部類の人間共の集まり。
死んでも当然……そう過言しても良い。そのせいか捜査もXの犯罪より大分進んでいない。
これが英霊の仕業として……この付近にマスターが居るか……?


そしてもう一つ。
『姫河小雪』という少女が住んでいたアパートの一室が破壊されたという通報。
彼女の部屋は物が全て破壊されつくし、肝心の彼女も行方不明。安否が心配されている。
最も、事件よりも前から学校を無断欠席してたらしい。
学校――見滝原高校である。
現場写真を流し見しても、これ以上の情報を得られる事は無かった。
仮に、彼女がサーヴァントを暴走させ、コントロール出来てないのなら『バーサーカー』クラスを召喚したのだろう。

サーヴァントのクラス。
Xは一部血みどろになってる書類に目を通しつつ、語った。

「さっきの麻薬マークを含めたら、ウワサは合計『24』だ。聖杯は最高3つ作れちゃうなんて、安く感じちゃうよ」

見落としがなければ、最高3つの聖杯を望める。
実に安価な奇跡に成下がった訳だが、カーズは幾つかの考察をしつつ。
他の情報を取り残していないかパソコン内のデータを確認する。

「キャスタークラスは召喚されているか怪しい。少なくとも陣地と成りえる箇所を一通り巡ったが痕跡はなかった。
 同じく『麻薬のサーヴァント』が実在するなら麻薬工房の一つありそうだが……必要としない部類か」

念の為、麻薬関連のデータを探るが。
サーヴァントの召喚時期に麻薬売買に変動は見られない。
裏組織とも関与してない。逆に狙い目が定まらない結果を得てしまった。

そうでなくとも、セイヴァーのような積極性あるアクションを起こす類以外に、派手な痕跡や現象を残すものがいない。
下準備の必要性ないサーヴァントが多いのだろう。

「なんだこれは」

カーズはある異常を発見した。
興味持ちXが液晶画面を覗きこむと、映し出されているのは見滝原中学の在学生リストである。
勿論、そこに情報であがった『レイチェル・ガードナー』『暁美ほむら』もいる。

「捜査で使ってたんじゃない?」

「使った形跡はない。それどころか――」

『姫河小雪』が在籍している見滝原高校のリストまで……否、それだけに終わらない。
監視カメラの映像、捜査資料、細かな通報内容など全てを――ある特定のアドレスに送信されていた。
これを行ったのはXが『ついで』に殺した警察署署長本人だ。
だが、それを誘発させた主犯は

「セイヴァーか!」

厳密にはセイヴァーのマスター、暁美ほむらのアドレスに送信されているのだろう。
合点がいく。『全てはこのような時の為』!
今日の今日まで適当にセイヴァーが都内を徘徊していた訳ではなく。利用できる人間に接触していたとしたら。
例えば――警察署署長! 他にも権力関係や、ひょっとすれば『テレビ局関係者』にも……!!
タチの悪い話だ。悪趣味な洗脳であればいいものを『表面上』何一つ異変もない変化など。

「吸血鬼の分際で舐めた真似をしてくれるわ」

『人脈』だと? 下らん、実に下らん。
そう感じるカーズは既に行動へ移していた。ピアノの鍵盤を叩くが如く操作する。
吸血鬼など彼にとっては捕食対象でしかない。そんな存在に翻弄される運命など御免なのだ。
故にカーズが取った行動。
それは――暁美ほむらのパソコンへのハッキングだった。




回想 ~聖杯戦争開始2日前~


セイヴァーが行っていたのは単純な手駒を増やすだけではない。
情報収集だ。無論、接触した相手側から送られてくるもの。
例の銃火器密輸の情報もそうだが、少なくとも警察関係者やマスコミに情報網があるらしく。
暁美ほむらのメールアドレスに次々と情報が送られ、逆にどれから手をつければいいのか分からない状態と化していた。

(というか……勝手にパソコンが使われてる)

使用しない訳でもないが、携帯端末だけでもある程度の事件やウワサを集められたので。
ほむらがパソコンを勝手に使われている事を知ったのも、つい最近のこと。
詳細なウワサの情報を検索しようと開いて気付いた。これを見ても良いのだろうか。

良く見れば、膨大な量の情報の中で開封されたメールはごく一部。ほんの一握りだけ。
恐る恐るほむらが目を通して見れば、見滝原中学の在学生リスト。同じく見滝原高校のも。
だが、ダウンロードされたファイルは十数件。

ダウンロードフォルダに移動してみると、その中には鹿目まどか他の、ほむらの友人たちの情報が。
彼女らに関しては、ほむらが友人であることを打ち明かしてしまった為、注目したのだろう。
見滝原中学に関しては……不登校の『ラッセル・シーガ―』の他。
格別異常もない生徒たちが複数。
だけど……ほむらは胸騒ぎを覚えて他も確認する。見滝原高校のリストも。こちらは中学より少なめだが……ウワサに聞く大食い探偵の姿が。

あとは―――監視カメラの映像。
見滝原内に設置されている駅構内や、繁華街などの映像。
映像を見ただけでは、何も感じないが……? ほむらがメールを再度確認したところ、映像に映っていた人間を複数ピックアップし。
身元調査を依頼する内容があった。
中には……

「え?」

中にはセイヴァーと雰囲気の似た少年の姿があった。
どういうことだろう? あれは――サーヴァントではなく……メールの返信を確認したところ、やはりマスターだ。
ディオ・ブランドー』……まさか。いや、偶然が過ぎるにもほどが。
後は、ホテルに宿泊中の『ブローノ・ブチャラティ』。会社員の『吉良吉影』……『ホル・ホース』なる外国人………
何を思って彼が目につけたのか。
しかし、ほむらの予感が一つ的中した。

彼女が集めたウワサの数。それからセイヴァーが注目したマスター候補数と有名どころの歌手と怪盗を合わせて。
24だ!
数が合致する。これはまさか―――

「ただの勘だ」

いつの間にか、ほむらの背後に存在していたセイヴァーが告げた。
彼女が息を飲み。体を膠着させる一方。彼は至って平静に言葉を続ける。

「少なくともスタンド使いに関しては間違わない」

と。背後より液晶画面と指差すセイヴァー。学校関係者ではない、例のセイヴァーに酷似したマスターを除いた三人。
ブローノ・ブチャラティ』。『吉良吉影』。『ホル・ホース』。
スタンド使い。
セイヴァーの宝具『世界』のようなビジョンを持つ精神の具象化を保持する者。
彼らは本当にそうなのだろうか。

ほむらが『セイヴァーに酷似したマスター』を尋ねる前に、彼は姿を消してしまっていた。





直感というスキルが高度になれば未来視すら可能と言えるが、決して頼るべき要素ではない。
第六感が優れているとはいえ、確固たる確信や証拠もない。
何となくや、そんな予感がするだけで。人間のタロット占い的な、不確定要素だ。『真実』なんかじゃあない。

故に他のスキルで独自の経験を組み合わせ、マスター候補を絞ったのだろう。
カーズは、ハッキングしたほむらのパソコンデータを把握し。判断する。
なら、セイヴァーは目立つ主従であるアヤ・エイジアを置いて、他主従に狙いを定めているのだろうか?

表面上の情報だけで、少なくともマスター候補を絞れたが『誰がどのようなサーヴァントを召喚したか』までは恐らく捕捉してまい。
仮に、そうであれば自分の不利になる敵を始末している。
セイヴァーが愚かだったとしても、凡ミスは犯さないだろう。

ならば……Xが一通りリストを『観察』し、目をつけたのは

「ここ――鹿目まどかの家。乱闘事件があった現場近くにあるんだよね。あと、暁美ほむらと同じクラスだ」

無難な位置だが。
これはセイヴァーの『直感』を抜きに捉えても注目するべき場所だ。
現時点で、鹿目まどか自身に目立った動きは無い。行動があるとすれば今夜からだろう。

「そうじゃなくても、暁美ほむらを動かす為に『見滝原中学の誰か』を狙ってみようか。
 どうせ『誰か』になって中学には侵入するつもりだから」

アヤ・エイジアへの犯行時刻は『まだ』大分ある。
通常、下準備は必要だろうが。Xの場合は必要不可欠な特異性を持ち合わせる以上、用心せずとも構わない。
強いて。Xの脅威を対処しえる存在がいるとすれば―――
唯一、Xの能力と正体を把握している大食い探偵・桂木弥子……





【B-3から移動中/月曜日 未明】

暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]健康、魔法少女に変身中
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]見滝原中学校の制服
[道具]学生鞄、聖杯戦争に関する資料、警察署から盗んだ銃火器(盾に収納)
[所持金]一人くらし出来る仕送り
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得。まどかを守る。
1.まどかの家に向かう
2.学校には通学する
3.セイヴァーに似たマスターは一体…?
[備考]
※討伐令を知りません
※セイヴァー(DIO)の直感による資料には目を通してあります。



【A-4 警察署/月曜日 未明】

【X@魔人探偵脳噛ネウロ】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]大振りの刃物(『道具作成』によるもの)
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯も得たいが、まずは英霊の『中身』を観察する。
1.鹿目まどかの自宅へ向かう
2.見滝原中学の『誰か』になって侵入する
3.アヤ・エイジアの殺害は予定通り行う
[備考]
※アヤ・エイジアの殺害予告は実行するつもりです。現時点で変更はありません。
※警察署で虐殺を行いました。
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
※前述の情報を一応記憶していますが、割とどうでもいい記憶は時間経過と共に忘却する恐れがあります。


【バーサーカー(カーズ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]実体化による魔力消費
[ソウルジェム]無
[装備]
[道具]警察署で得た銃弾
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯獲得
1.日が昇るまでの間にサーヴァントを倒す
[備考]
※警察で捕捉可能な事件をある程度、把握しました。
※セイヴァーが『直感』で目をつけたマスター候補を把握しました。
最終更新:2018年07月13日 22:14