☆
「マスター!」
マルタが杏子に対し爪を振りかざそうとしていた大型の恐竜に拳を振るい、恐竜の体が人間に退化し
地面に転がったのを見届けて、一息つく。
杏子の足元に、ゾッとする数の蛆虫が乱雑に踏み潰されていた。
生物を『恐竜』に変化させる能力。
恐らく、蛆虫ほどの微細な生物すら恐竜に出来るのだろう。マルタは杏子に声かける。
「ソウルジェムは大丈夫?」
意識せずとも自然とマルタは、そちらを尋ねていた。
彼女は、ソウルジェムが如何なる悪意ある産物か理解し、それが穢れる重大さを最も不安視する。
杏子の表情は俯いて伺えない。
ただ、無言で魔法少女の変身を解けば、教会の周囲に展開していた防御壁は消え去り。
杏子の掌に赤い宝石が収まっていた。穢れはあるものの酷い状態じゃない。
どことなく疲労感に満ちた声色で、杏子は「平気だよ」と短く答えた。
マルタも確認し「そのようね」と安堵をついた。
教会に立てかけてあった杖を手に改めて咳払いして、マルタは言う。
「後の事は任せて下さい。今は体を休めた方がいいでしょう」
「……悪い」
杏子の様子は気だるげだった。
素直にマルタの言葉に従うほど疲労困憊で杏子は、教会の中へと戻って行く。
一方で、マルタはこの現状の処理と同時に。教会が捕捉されている事態を重く受け止めていた。
最も。
杏子の家族ごと狙い、無関係な人間を恐竜にする輩だから、ぶっちゃけたり自重せずともシメあげて然るべきだろう。
しかし、相手は非道な判断を意図も容易く下せるサーヴァント。
今回以上の規模で恐竜を仕掛けられては、恐らくマルタも宝具の竜を召喚するしかない。
だが、竜は竜だ。
戦闘で発生する規模では、本当に杏子の家族を巻き込みかねない。
何よりも――今回のようではなく、マルタの『杖』での攻撃を発動可能な隙を作ってくれる『仲間』がいれば別だ。
他の主従との同盟……
☆
結局のところ、マルタが一人で『恐竜化』が解けた人々の介抱を務めていたが。
騒ぎや動揺の様子から、杏子の両親が起床し、様子を伺いに来るハメになってしまった。
こればっかりは有難味を感じるほど収集がつかなかったと言うべきか。
『恐竜化』された彼らの中に、警察関係者。
即ち警官がおり、この事態を警察署に報告しなければならないと電話を貸して貰うよう頼んで来たのである。
杏子の父は人々の為に教会を開けて、混乱する彼らに杏子の母が食事などを即席にだが用意してくれた。
マルタは彼らが再び『恐竜化』しないかを警戒しつつ。
彼らから情報を聞き出すことに成功していた。
全員『恐竜化』していた間の記憶がなく、また『恐竜化』した原因も曖昧の様子で、意識を奪われた時期も場所も違う。
けれど。
警察官を含めた何人かが『ガードナー』という外国人夫婦の自宅に尋ねようとしたのが判明した。
数日前から職場を無断欠勤していたらしい。
尋ねようとしていた者は、職場関係者で。様子見のつもりだったようだ。
……マルタが耳を傾ける限り『ガードナー夫妻』の評判いいウワサは聞かない。
娘。中学生くらいの娘が居るらしい。
少女について、詳細な情報は得られなかったが、マルタには気がかりだった。
一方で。
緊迫気味だった最中。署に連絡を取ろうと試みていた警官から、驚くべき話が聞かされる。
警察署内に誰も電話を取る者が居なかった。
確かに、居なかったのだ。
『赤い箱』。
つまりは怪盗Xと自称した猟奇殺人鬼。
警察署内は、夜間に配属されていた者の血肉によって染められていた。
頼るべき地が『安全』でもなく『事件現場』と化していたのだ。
何故、警察署が狙われたのか。理由は一つ。間違いなく『情報』であろう。
事件の詳細な情報。警察という立場で得られる量も他の調査と比較すれば圧倒的な差だ。
問題は。事の重大さは。
単純に忍び込んで情報を『盗め』ばいいのに、情報を得るついでに『殺した』彼らの残虐性。
一先ず、『恐竜化』に巻き込まれた彼らは、もうしばらく教会に留まるハメになった訳である。
傍らでマルタは思案していた。
彼らが警察で情報を仕入れたのならば、尚更『ガードナー家』に足を運ぶ可能性は高い。
一応『犯行予告』をしたアヤ・エイジアに手を出さない前提なら。
「………お姉ちゃん?」
ふと、マルタは幼い少女の声に気づく。
教会内が騒がしいせいか、寝ぼけた様子で目をこすっている杏子の妹。
マルタが優しく声をかけてやった。
「騒がしく目を覚ましてしまったのですね」
「ううーん……お姉ちゃんがいない」
「……え?」
意識がハッキリし始めた幼子は、不安そうにマルタへ伝える。
「起きたら、お姉ちゃんがいなくて……みんな起きてるの?」
「…………!?」
杏子がいない。そんなワケがないとマルタは疑わなかったのだ。
彼女は死んだ家族やこの教会に、居心地の悪さやわかだまりを覚えている。
聖杯戦争開始前に杏子がここから離れようと行動を起こした事は度々あった。が、しかし。
どう考えたって、アレから教会を飛び出す風には思えない。焦りが込み上げつつ、マルタは幼子に言う。
「わかりました。私が探します」
「……大丈夫?」
「ええ、勿論。さぁ、明日も早いですから寝ましょう」
念の為、マルタが姉妹の部屋に向かって、幼子を寝かしつけたついでに確認したが。
杏子のベッドは冷たい。
一度、ここに戻った痕跡は無かった。念話で呼びかけるが、やはり返事もなく。魔力を感知を行うが……それにも反応が無い。
魔法少女たる杏子の魔力は特徴的だ
それを感知出来ぬまま一気に距離が離れたというのか?
教会内を捜索し続けたマルタは、裏口が僅かに開かれたままなのを発見した。
★
幾度も繰り返すようだが、ディエゴ・ブランドーはセイヴァーと何ら因果関係は無い、と彼自身は認識している。
世界に自分とそっくりな赤の他人が三人いる。
天文学的確立のおとぎ話は、実在するとディエゴ自身が理解している。自分が当事者なのだ。
そんな赤の他人との偶然や運命といった懐疑な事象を深く追求する必要性すら無駄。
……とは言え、間に受ける者も登場した。
例えば、ディエゴの眼前で恐竜に体を押さえつけられ、ディエゴの手刀が喉元で停止された相手。
神父のサーヴァント。
どうやら、彼はセイヴァーに纏わる者らしい。似ているだけでディエゴに対し、藁にも縋る姿勢なのは滑稽だ。
セイヴァーが討伐令にかけられ、相当参って余裕が無いのか。動転しているのか分からない。
嘲笑うかの如く、ディエゴが問いかけた。
「要は命乞いか?」
皮肉が込められている声色を理解していないのか。
神父のサーヴァントに迷いが無かった。ディエゴとセイヴァーが酷似している事に動揺していただけか。
彼は真っ直ぐ見据え、告げる。まるで罪を告白するかのように。
「私のマスターは……丁度、彼女ほどの少女だ。名は『
白菊ほたる』と言う………」
不思議そうに光景を傍観するレイチェルを差して、神父は話す。
ディエゴは眉を潜めた。
つまり、見滝原中学に潜入できると?
暁美ほむらと接触が可能な立場にある――そう交渉に持ちかけるのか。
どこぞの大統領の如く『正当な取引』を持ちかけようと。
だが、神父が続けた言葉はまるで違った。
「――ホタルを『恐竜』にしても構わない」
神父は果たして、意表をつく狙いだったのか?
いよいよ、ディエゴは『違う』と察した。神父の内面を『理解』したのだ。
理解をしたからこそ、思わずディエゴの口から笑いが零れた。
それにレイチェルが目を丸くさせた。『本当の意味』で彼が笑ったのを初めて見たから。
ディエゴが聞き返す。
「おいおいおいおい、正気か? お前はたった今、自分のマスターを売ったぞ」
「そうではない。私は君から『信頼』を得たい。それと同時に君を『信頼』するからこそホタルを委ねるのだ」
神父が純粋な眼差しでハッキリと申し出するものだから、ディエゴは再び笑いを零す。
信頼だって?
違うな、コイツ。マスターが『どうなろうが』心底知ったこっちゃない訳だ!
セイヴァーがコイツを信頼してたかはともかく、関わりを持ったのはコイツの本性を理解してたからだ。
自らの言葉に迷いすら感じさせない神父は、酷く落ち着いた様子で続ける。
「私は君を『信じる』。ホタルを生かし『恐竜』にし続ける事を。
これならば、私は君を裏切れない。――君は、私を信用する事ができる筈だ」
「へぇ、成程? ただ、マスターの方はどうだ?」
「問題は無い。彼女はこれを『試練』として受け入れるだろう」
本気か? いや、本気だ。
俄かに信じ難いが『こんな事』を提案した上で、本気で俺からの信用を得ようとして、マスターを曲解に信じてる。
マスターに同情どころか罪悪感もない。自分が間違っちゃいないとすら考えない。
レイチェルとは別の意味で、本物のクソ野郎だな。
内心で罵倒しながらも、愉快になったディエゴは手刀を神父の喉元から離した。
「お前を『信用』するかはともかく―――『提案』は気に入った。生かしてやるよ」
ぐるぐる。
レイチェルの中で何かが渦巻いている。何か、何かを言いたいのに。
そんな彼女のところに現れたのは『赤い恐竜』だった。
厳密にはレイチェルの背後側にある路地より、前兆なくのっそりと現れた赤の色彩が特徴のソレに。
レイチェルが、恐怖も無い。濁った蒼い瞳で興味深そうに眺めた。
恐竜は、主とするディエゴに近づこうと歩んでいるのだろう。
ただ……彼女は、恐竜の肉体で不自然な形で浮かびあがった『宝石』に目を丸くさせた。
「ライダー。これ……」
小さなレイチェルのか細い声に反応したディエゴが気付いたのは、恐竜の肉体に食いこむ
『赤色の宝石』――即ち『ソウルジェム』だった。
☆
島村卯月が教会の方へ足運ぼうと決断したのは、大した理由ではない。単純に、位置的に足を運びにくい場所だったから。
彼女のサーヴァント・アサシンが提案する事なければ、卯月も注視せずに終えただろう。
教会方面に足先を向けた頃。
卯月の居る位置からでも、教会方面で発生している火の手の煙が夜空を穢す。
あれも、サーヴァントの仕業なのかと卯月は不穏を覚えていた。
卯月の居た繁華街から橋を渡って、教会側に向かうルートを通っていく。
教会近くには鉄道路線があるのと同じく、都心より離れた場所であるからか。
木々が他より生い茂った自然豊かな箇所が見られた。
そこは外灯が点々と設置されてるだけ、静寂のせいで余計に不気味な雰囲気が漂う。
何も無ければ、それで良いのだが………
強張った卯月を茶化すように、ぐるぐると嗤うアサシンが言う。
「ほら。卯月ちゃん。あそこに誰かいるぜ?」
「ひぃっ! お、お化けッ!?」
「本末転倒だけどサーヴァントって解釈次第じゃお化けみたいなもんだろ?」
「そ、それは違うかなって……あっ」
目を凝らすと、設置された公共のベンチに誰かが横たわっているのに卯月は気付く。
こんな随分遅い時間帯で。
しかも、少女だ。
遠目からだけども、卯月は赤髪が特徴的な、自分よりも年下に見える少女であると分かる。
寝ている……にしても。何故こんなところで?
微動だにしない少女に卯月は戸惑い、アサシンに助けを求めた。
「あ……あの子に声かけてもいい……ですか?」
「ん~……サーヴァントじゃないけど」
卯月よりも幼い少女がサーヴァントであったとしたら、逆に驚きではあるが。
一先ず、安心したところで卯月は控えめに近付く。
少女は接近する卯月にも無反応で、不穏がより一層増す。卯月は息を飲みつつ、恐る恐る声をかけた。
「あの……あ、あの! 大丈夫………」
一瞬だけ卯月が大声で呼びかけたのに、少女はまるで反応が無い。起きる気配も無い。
なんで? どうして?
卯月の困惑に、アサシンがシルクハットを浅く被りながら告げた。
「卯月ちゃん。その子―――死んでるよ」
「………………………………………………………え………?」
死んでいる?
時が止まったかのような感覚に陥る卯月が、脳内にグルグルとあらゆる感情をかき混ぜながら、眼前の光景を眺めた。
少女は仰向けに横たわり、目を見開いた状態で夜空を鑑賞している風に見えなくないが。
瞳孔が開き切って。生気は完全に失われている。
魂のない『がらんどう』の状態だ。
全てを理解した卯月は、普通に絶叫していた。
『死体』を目にして叫ばぬ人間が居れば、それは『見慣れた人間』か『壊れてしまった人間』であろう。
普通は、残虐な世界と無縁の少女だったら、卯月のように錯乱に近い叫びを上げるのだ。
血や酷い痕跡は無い、比較的に綺麗な状態とは言え。
完全に死に絶えた――しかも、卯月よりも年下の少女が放置されている。
卯月はショックでへたり込んで涙を浮かべながら、口元を手で覆っていた。
一方で、彼女の傍らで笑う悪魔は『死体』に平然とする。
彼が果たして『見慣れた部類』に属するかはさておき、悠々と面白可笑しく語った。
「おいおい、しっかりしなって卯月ちゃん。別に『知り合い』が死んだ訳じゃねぇんだから気にすんなよ」
「う……うううう…………!」
「令呪があるな。マスターだから殺されちまったんだろうぜ、かわいそうになぁ」
分かりやすく、アサシンは『死体』の手の甲に刻まれた令呪を、卯月に見せつけてやった。
普通に『死体』に触れるアサシンも大概で。
卯月の方は、一刻も早く離れたかった。少女と卯月は、確かに知り合いじゃあないけども。
どうして?
何で、彼女は死んでしまったのか。
こんな少女を聖杯戦争のマスターだからという理由だけで………
「あなた達……!?」
混乱する卯月の前に登場したのは、修道女のサーヴァントだった。
卯月は、恐怖と混乱でパニック状態に陥っていた。
少女の死体と現れたサーヴァントの存在。一体どうすればいいのか、逃げるべきなのか、自分は無実だと主張するべきか。
第一、彼のサーヴァントに言葉は通用するのだろうか?
修道女らしい風貌だが、卯月とアサシンに向ける眼差しは憤りに満ちていた。
このまま殺されるんじゃ――もしかして……このサーヴァントが少女を殺したのかも――
「早とちりは勘弁して下さいよ!」
飄々とした態度ながら卯月の代わりに、アサシンが大げさなホールドアップをしてみせる。
「俺達が来た時には、もーこんな状態で……って古典サスペンスの台詞になっちまったよ。
でもホラ。サーヴァントは誰も倒しちゃいないぜ。これ証拠ね」
いつの間にか。
卯月が所持していた『ソウルジェム』を見せびらかすアサシン。それは、色彩もない無色透明な宝石だった。
修道女のサーヴァントも、気が粗ぶっていたが。冷静になり、咳払いをしてから言う。
「……申し訳ありません。彼女は――私のマスターです」
「んー? アンタ、マスター不在でも無事なワケ」
「いえ。少々事情があります。……マスターの『魂』だけが敵サーヴァントに奪われたのです」
修道女……マルタも直ぐに気付いた。
ソウルジェム。杏子の『魂』が入った赤い宝石の気配がそこにはない。
肉体が死亡状態にあるが、あくまで魔力は『ソウルジェム』と繋がっている。
マルタの現界は、首の皮一枚で繋がっている。
『あえて』死体状態になった杏子を残した。
悪意ある行いに、恐竜使いのサーヴァントはシメ……説伏してやろうと、マルタが誓う一方で。
何故、ソウルジェムだけを奪ったのか? という疑問が浮上する。
しかし、考えれば『魔法少女のソウルジェム』の存在は他サーヴァントにとっては、謎めいた産物なのだ。
マルタも、杏子と共に。聖杯戦争における『ソウルジェム』に関して疑念を感じてはいたが……
一方で。
シルクハットをかぶる悪魔が不敵な笑みを浮かべた。
「へぇ?『魂』だけ、ねえ……さァて、どうしたもんかな。俺のマスターちゃんも大丈夫じゃないしさ」
まるで卯月を試すかのようなアサシンの態度に、マルタも今は目を瞑る。
未だにショックで放心している少女。
彼女の中に垂らされた、悪意の一滴が何かを齎すのだろうか……
【D-8 郊外/月曜日 未明】
【島村卯月アイドルマスターシンデレラガールズ】
[状態]精神的ショック(大)
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]女子高生の小遣い程度
[思考・状況]
基本行動方針:友達(
渋谷凛)を死なせないため、聖杯戦争に勝ち残る
1.どうしよう……
2.マスターを殺すチャンスがあったら……
[備考]
※ライダー(マルタ)のステータスを把握しました。
【アサシン(杳馬)@聖闘士星矢 THE LOST CANVAS 冥王神話】
[状態]無傷
[ソウルジェム]有
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争をかき回す
1.マスターを誘導しつつ暗躍する
2.機会があれば聖杯を入手する
[備考]
※杏子が完全に死亡していないのを把握しました
【
佐倉杏子@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]肉体死亡
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争に乗り気は無いが……
0.―――
[備考]
※ソウルジェムが再び肉体に近付けば意識を取り戻し、肉体は生き返ります。
【ライダー(マルタ)@Fate/Grand Order】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]無
[装備]なし
[道具]なし
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯戦争への反抗
1.卯月が落ち着くのを待つ
2.杏子のソウルジェムを取り戻す。恐竜使いのサーヴァントはシメ……説伏する。
3.アサシン(杳馬)は何か気に食わない。
[備考]
※杏子のソウルジェムが破壊されない限り、現界等に支障はありません。
※警察署でXの犯行があったのを把握しました。
※卯月とアサシン(杳馬)の主従を把握しました。
※ディエゴの宝具による恐竜化の感染を知りません。ただディエゴの宝具に『神性』があるのを感じ取っています。
★
見方によっては厄介な事態に発展したかもしれない。
だが、ディエゴからすればむしろ好都合だった。彼は、最初から聖杯戦争が公平なゲームとは考えちゃいない。
当然だろう。
聖杯戦争の主催者側に相応の『見返り』がなければ、奇跡の願望機を見逃す寛容さの欠片も無い。
「一つ聞くが」
ディエゴが手元の赤に輝くソウルジェムを弄びながら尋ねる。
「俺達はこうして『魂』と繋がりがある『本来の肉体』から距離を取っているが、果たしてどうなると思う?」
問いかける相手は、不思議そうにディエゴの機嫌を傍観するレイチェルではなく。
もう一人、神父のサーヴァント……プッチ。
彼は、他愛ない会話にどことない奇妙な懐かしさを感じつつ。全うに意見を述べた。
「ソウルジェムに『魂』は残り続けるだろう。いや、最初から少女の肉体から『魂』は切り離された状態にある。
肉体に令呪があったとしても、魔力が繋がっているのは『魂』の方……
……となれば。恐らく、肉体は抜け殻となるだけで、契約したサーヴァントは消滅する事は無い」
「だろうな」
彼の解答にディエゴは不敵な笑みを浮かべる。
彼は『楽しい』んだろうか、レイチェルは変に真剣な眼差しをディエゴに向けていた。
一方。プッチが言う。
「修道女のサーヴァントを生かすつもりなのかね」
「生かすも何も、事実上。奴は『生かされている』だけで聖杯戦争においては脱落したようなものだ」
重要なのは――ソウルジェム。
佐倉杏子の心臓に等しい宝石の利用価値、ではなく。
根本的な問題。このソウルジェムが如何なる手段に利用されていたのか?
恐竜化した杏子と共に帰還した『蛆恐竜』の報告によれば、彼女はこれで『変身』し戦闘を行っていたらしい。
幾分、魔力耐性があったようで、変身が解除されるまでは『恐竜化』の進行が微弱程度で済んでいた。
夢と希望に溢れたロマンある変身機能を得る為に『魂』を抜き取ったとは考え難い。
少なくとも『ソウルジェム』と呼ばれる共通の異物が、主催者との関連を現していた。
「膨大な魔力と化した『サーヴァントの魂』が結集すれば、相応のエネルギーとなって『願いを実現させる』んだろうぜ。
聖杯の原理に関しては疑わない。だが連中はどうだ? 魂を宝石に収める悪趣味な連中がソレを見逃す訳がない」
「……君はソレを信用しない、と」
「むしろ『信用』する方が馬鹿だろ」
ディエゴは、先ほどの敵意をむき出した様子とは変わって、レイチェルも見たこと無い愉快な微笑を浮かべている。
プッチは、しばしの沈黙を保っていた。
ディエゴの瞳だ。彼はやっぱり『信用しない瞳』のまま。主催者に向けたものじゃあない。
チラリと杏子の死体を放置したであろう方角に視線を向けるディエゴ。
幾分、距離は取ってある。
恐竜化を保ったまま杏子を自分の傍らに置かなかったのは、何らかの衝撃で恐竜化が解除されては都合が悪いから。
戦力にはもってこいだが、場合によってはそこらに居るNPC以下の邪魔者だ。
だから、ディエゴは『邪魔』な事を利用した。
佐倉杏子は『抜け殻』だろうが『死体』になってようが、魂もなく動けない『邪魔なもの』に成下がった。
ソウルジェムに魂があり、生きていなくない状態であっても。
持ち運ぶのも、隠すのも面倒な『邪魔』に過ぎない。
それから先の判断は、サーヴァントの性格次第だ。
子供の遊び相手を演じる『善良』な修道女は、少なくとも死体をバラバラにし、海に捨てる真似はしない。
生き返る可能性が0ではない以上。死体を雑に扱う事も出来まい。
早ければ『抜け殻』を発見している頃合いか。
……とは言え肝心のソウルジェムを解析する手段は皆無である。
それを出来なければ、主催側を『出し抜く』事は叶わない。
「……………」
レイチェルは何も――ただ無言でいるしかいなかった。
(ライダー………楽しいの?)
自分と一緒に居た時は、楽しくなかったんだろう。きっと。
彼の本当の笑みを、レイチェルは今日まで知らなかった。自分は何も知らなかった。
彼女の中で、濁り腐った感情がグルグルと渦巻き続けていた。
【D-6 住宅街/月曜日 未明】
【
レイチェル・ガードナー@殺戮の天使】
[状態]健康、???
[令呪]残り3画
[ソウルジェム]無
[装備]私服、ポシェット
[道具]買い貯めたパン幾つか、裁縫道具、包丁
[所持金]十数万程度
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯を手に入れる。
0.ライダー……楽しいの?
1.自分で考える。どうするべきか……
2.ライダーの過去が気になる。
3.セイヴァーは一体……?
[備考]
※討伐令を把握しました。
※ライダー(ディエゴ)が地図に記した情報を把握しました。
※ライダー(プッチ)のステータスを把握しました。
【ライダー(ディエゴ・ブランドー)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]携帯端末、杏子のソウルジェム(穢れ:小)、蛆恐竜
[所持金]なし
[思考・状況]
基本行動方針:聖杯の獲得
1.神父(プッチ)のマスターの所に向かう
2.どこかでレイチェルを切り捨てる
3.あのセイヴァーについては……
4.神父(プッチ)は信用しないつもり、使い潰す。
5.ソウルジェムを調べたいが、どうしたものか。
[備考]
※真名がバレてしまう帽子は脱いでいます。
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※プッチの情報を全て信用しておらず、もう一人の自分(アヴェンジャー)に関して懐疑的です。
【ライダー(エンリコ・プッチ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]魔力消費(小)、精神的ショック(回復傾向)
[ソウルジェム]有
[装備]
[道具]
[所持金]
[思考・状況]
基本行動方針:『天国』を実現させ、全ての人類を『幸福』にする
0.セイヴァー以外の『
DIO』――これはどういう運命なのだろうか。
1.セイヴァー(DIO)ともう一人のディエゴを探す。
2.一旦マスターの元へ戻る。
[備考]
※DIOがマスターとしても参加していることを把握しました。
※ランサー(
レミリア・スカーレット)の姿を確認しました
※魔法少女が持つ『ソウルジェム』の存在を知りました。
※アサシン(杳馬)の姿を確認しました。彼が時を静止する能力を持つ事も把握しております。
※アサシン(杳馬)自体は信用していませんが、ディエゴの存在から
アヤ・エイジアのサーヴァントがもう一人のディエゴ(アヴェンジャー)である事を信じています。
※ディエゴ(ライダー)に信用されていないのを感じ取っています。
最終更新:2018年07月14日 17:32