Should
「む」
放課後、玄関へ向かう足を止める
「よ、何してるの?」
何やらよくわからない物を大量に抱えた
青島さんが首だけで振り返る
「……
部活動、です」
「へえー、なんかすごいねその荷物。何部なの?」
青島さんは口を開きかけ、ほんの少し首を傾げた後
「そういえば、部ではありませんでした」
と、新事実を見つけた様に、しかし抑揚のない声で答えた。
「んん……部じゃない?、何か秘密めいててミステリー」
「秘密めいててミステリーとは、中々やりますね、いい語感です」
え、そう?自分でいっといてなんだけど今のはあんまり……
と思いつつ言葉を繋ぐ
「んじゃ、ちょっとついてってみようかなー。持つよ、それ」
言いつつ青島さんの両手いっぱいの荷物を、上から少しずつ取っていく
ちょっと強引かなってうお、なんか変な匂いしてるぞこれ。しかも結構重いな。
「……………それでは、こちらへ……」
青島さんは特に嫌がるでもなく、荷物を俺に預けていった
青島さんに案内されて、4階の端っこの教室まで来た
1階で会った青島さんについて、4階まで来た
荷物はそこそこ重くて、3階くらいで俺は息が上がっていた。
いやあ、こんなの女の子に運ばせたらダメだろ!
部員が筋肉モリモリの危なそうな人じゃなかったらちょっと抗議しようか
等と考えている内に、青島さんはドアを開けて俺を中へと促す
「
ありがとう……この辺りへおいて下さい」
「はいよっと……でここって一体…」
どういう活動をしてるとこ?と聞こうとした時
「あら、マリナちゃん、今日はお付きの方がいるのね」
開けっ放しの窓から射し込む夕日に染まる教室、その光を背に
声の主はゆっくりと俺達の方へ振り返った
「あ、ええと……」
「クラスメイトの○○君です、短期間の使い魔になってもらいました」
「そうそう使い魔にえぇええええ何ですかその単語ォオ!」
「まあ、そうでしたか。中々使い勝手が良さそうですね」
くすくすと笑う彼女の長い黒髪は、風で穏やかに揺れている
しかし、夕焼けを吸い込む様なその髪と対照的に、素肌は病的な程に白い
眼鏡越しの瞳は髪と同じく黒く、暗く、けれど不快ではない
その瞳が俺をずっと捉えている
「う────ええと、暇だったからちょっと手伝っただけで……
何ですか?使い魔って」
何だかとても良くない単語の気がしてつい聞いてしまう
「ああ、気にしないで、軽い冗談でしょうから」
「そ、そうですか」
なんだ俺、声が上ずってるぞ。
いや、なんていうか、この人にじっと見つめられてると何か……
焦るというか、落ち着かないというか、照れてるのか?
でも目は逸らせず、少しの間見つめ合う感じになってしまう
「ではお礼にお菓子でもどうぞ、大した物ではありませんが…」
おかけになって、と椅子を勧め、
夕焼けの君は俺の前に菓子箱を取り寄せる
なんで夕焼けの君かっていうと、俺がこの人の名前をまだ知らないからだ
「あ、いや、別にそういうのは」
と、断りかけた俺の口を、夕焼けの君が満面の笑みで塞ぐ
その笑顔はとても綺麗なのに、
なんだか"清楚"とか"純粋"の対極にある気がした
他意は籠められてないがNOと言う事は絶対に適わない、そんな笑顔だった
大人しく席につく俺、なんか情けない
「…どうもです、ええっと……なんて呼んだら」
「お食べになって、名前は、恐らく必要ありませんから」
むむ?意味不明だがとりあえず菓子箱の中のクッキーを一枚手に取る
「えーと、じゃいただきます」
パキッとクッキーをかじると、チョコの味が口の中に広がる。普通に美味い
「それじゃマリナちゃん、荷物は奥にお願いね」
夕焼けの君が青島さんに指示を出す
「イエッサー」
「あ、いや、俺が……」
やります、と立とうとして立てない俺
あれ?
なんだこれ?
その異変に気付いた直後、強烈な眠気が襲ってくる、なんだこれ!
ゴトッと頭がテーブルにぶつかった、いやこれ伏せったんだな俺が
テーブルを挟んだ向かいに座っている夕焼けの君が微笑んでいる
「ふふ、だめですよ、そんなに簡単に人の勧めに従っては」
もやがかかりまくった俺の頭にそんな声が届く
ああーそうかー、ダメなのかー、クッキーは……ダメなんだな……
意識が途切れる前に考えられたのはそのくらいだった
「ん…………ん?」
目が覚めた時、俺は自分の部屋のベッドで寝ていた
「ん、あれ……?俺いつ寝たんだ?」
寝たんだ?というか、学校の授業が終わってからの記憶がない
「俺……夢遊病か!?」
まいいや夢遊病でも、とか思って服も着替えずまた寝る俺
ただ、放課後に何かが、いや、誰かと会った気がしてならない
ま、いいか、たぶん夢だ。おやすみなさい
最終更新:2007年03月13日 11:55