Have
選択肢を経て↓
そうだな、放課後は……………………部活にいくか
前回の活動、俺は「魔法」に直面した
いやあ、御伽噺の産物かと思ったら、ホントにあるんだね
というか未だ俺はその事実を受け入れきれていない
だってそうだろ?
顔を上げて、目で教室を見回す
隣のましろは今必死で黒板の文字をノートに写しているし
聖は時折こちらを、正確にはましろの様子を伺いながら
自分は写す必要等ないのか、教科書にマークや線引きをしている
その双子の妹、杏は机に突っ伏して寝ている。あ、ちょっとよだれ出てる。
視線を前に移すと
教科書の城塞に篭り、弁当を食べている井草さんがいて……ベタだなこの子
そしてちらっと窓から外を覗けば、
斜め前方の木から引き締まった太ももが垂れている
…………
………………
……………………
は?
毛森さん、あんなとこで寝てるのか……よく寝れるな
っていうか見つかるだろそこじゃ
こっちからじゃ木からはみ出た片足しか見えないが
本体自体には何かカモフラージュをしているのか?
……まあ少し普通じゃないのが混じってたけど、この日常はひどく平凡だ
この教室にも、教室の外にも、俺の許容キャパシティを超える常識は存在しない
と、そこで刺すような視線を感じる
チラリ、と目だけで振り向く
氷の様に冷たく燃える眼
茜さんのこのレーザービームの様な視線は
あの日の出来事が事実であり、真実であることを俺に訴える
「貴方にこの知識と、使い方を教えるのが、今後の活動です」
あの日、動くことも出来ない俺に黒井先輩はそう言った
俺にあの「魔法」を伝授するのが、
部活動内容だと
…………なんで?
選別基準がわからない
俺って勇者属性でもあるのだろうか
もしかしてこの世界、闇の王とかいるんじゃねーだろうな……
「フハハハハ、よく来たな勇者遊佐!だがしかし、いやしかし姫は余のモノだ!」
「遊佐……!お願い助けて!そして抱いて!!」
涙に頬を濡らすマシロ姫
当然闇の王はあいつ (聖立ち絵表示)
それを俺は……ああ、でもそういや魔法使いって、勇者キャラじゃないな
てことは俺が姫を攫うのか?まあそれならそれで
なんて考えてる間にも茜さんビームは容赦なく俺をメッタ刺し、現実に引き戻す
んー、我ながらアホだな俺。ちゃんと授業でも受けるか。
…………何が一番馬鹿かって、俺が攫う姫の顔がましろではなく
黒髪の上級生だった事だ
授業が終わり、掃除とHRを通過する
一日中突き刺さった視線から逃げる様に教室を出る
にらまれても……俺にはどうしようもないんだけどなぁ……まだ見てるし
さて、じゃあいきますか。
とんでもない事ではあるが、
正直に言えば魔法を使える様になるというなら、そりゃ使いたい。
俺だって水の花とか、炎のアーチとか、出来るならやってみたいもんね
特別棟に入り、階段を上る
「こんちはー」
「こんにちは、遊佐君。今日はまりなちゃんより早いのね」
にっこりと微笑む先輩。やる気が到着時間にまで反映されてしまったのだろうか
「まあ……この前のあれで、ちょっとその気になってしまいましたから
……で、今日俺はどんな感じのことするんでしょう?」
この間は水の花を見た後、簡単な講習を受けた
魔法という物を使うには
実行に至る知識と、実行に足る魔法力の二つが必要なのだとか
「そうね、貴方によりわかりやすく説明するなら……
ゲーム等で使われる言葉でいうと、巻物とMP、といった辺りのものですね」
ゲームの魔法使いは、巻物を解読し、MPを使って魔法を発動させる
その巻物の役目を先輩がしてくれる、というわけだ
では早速、とその知識を授かろうとした時
保健室へいったはずの
青島さんがカブトムシを捕まえて戻ってきたので
彼女を保健室へ連れて行こうと説得するのに時間を食ってしまい
その日はそのままお流れになった
顔はやたら冷静なのに、湯気が出るほど興奮した青島さんをなだめるのは
俺では役不足にも程があった
……黒井先輩はにこにこしながらレンガを積み出すし
あれ止めなかったらどうなってたんだ?
ま、それはともかく。
そんなこんなで今日は実質、俺の初の活動だ
やる気もでるってもんだろう。
そんな俺に彼女はにっこりと微笑み
「お茶でも飲みながら、お話しましょうか」
優しい声で、そのやる気をへし折った
…………………
…………
……
7月の日は長い
4時半を回ってなお、窓の外は昼のように明るい
夕日、までにはもうしばらく時間がいるなぁ
紅茶を啜りながらそんなことを考える
「そう、じゃあ普段のご飯とかはどうしているの?」
「基本的には自分で作ってますよ。といっても
自炊っていう自炊は米炊くくらいで、後はほとんどレトルトなんですけど」
向かい合わせて並べた5列の机に
カップと茶菓子を広げて、俺と先輩はたらたらと雑談をしていた
「でも一人暮らしだと寂しくはない?」
「いや、まあどっちかっていうと自由で俺はこっちの方が合ってるかな……
先輩は寂しいですか?」
「私は……そうですね、私も一人の方が気が楽、かしら」
「ゴミとか、気を抜くと恐ろしくたまっちゃいますけどね」
「ふふふ……あら、その指輪、かわいらしいわ……見てもいいかしら」
「ああ、これは……露店で300円で売っていたんです」
「これは猫かしら。面白いデザインね」
安物の指輪をはずして見せる
猫と思わしき動物の頭が模してある、銀色の指輪
「でもこれ不吉じゃないですか?
目のとことか、やけにくすんだ石使ってますし
……まあそれが面白いから買ったんですけど」
「確かに不吉そうね……
よろしければ、どこで売っていたのか教えてもらえますか?」
「引っ越す前に住んでた辺りの、商店街の通りの露店です
これ気に入ったんですか?」
「あら、残念……ええ、この呪う様な瞳には
作り手のセンスを感じますわ」
俺は作り手のセンスを疑ったが……
まあ買ってるんだから、文句言えた義理じゃない
「じゃ、あげますよこれ。どうせ300円でしたし」
「あら、ごめんなさい、いいのよそんな気にしてくれなくて」
「いや、俺は冗談で買っただけですから。
本当に気に入ってくれた人につけられた方が
こいつも呪い甲斐があるでしょう」
指輪を外して、先輩の中指に嵌める
「まあ……ふふ、
ありがとうございます」
嬉しそうに左手をかざして笑う先輩
「でも手を取って指に嵌めるのは少し気障よ?
それとも慣れているのかしら?ふふふ……」
「あっ、いや……そういうわけじゃなくて……すいません」
思い返すと、確かに何をやってるんだ俺は
「いえいえ。なんだかお姫様にされた気分で、少し酔っていました
遊佐君は、知らずに色んな子を酔わせていそうね」
くすくすと笑われる
「いや、そんなことないですって!
……ホント、今のは自分でも思い返して恥ずかしいっす」
「あら、遊佐君、真っ赤よ?」
ぐあーー。今の俺がどんな顔してるのか、考えたくもない
熱を冷まそうと、紅茶をガブ飲みする
ついでに氷もガリガリ食べる
7月はただでさえ暑い。自分の体温で茹ってる場合じゃないのですよ
というか俺は何でこんなことをしてるんだろう?
「あのー、今日はどうしてこんなお茶会をすることになったんでしょう?」
「部長として、遊佐君のことを知っておきたかったから、でしょうか」
「なるほど、つっても特に大した人柄でもないんですが
……俺からも聞きたいことがあります、いいですか?」
これを聞いていいものか、わからないが
「ええ、私に答えられることだといいのですけれど」
「うーん、根本的な質問なんですが、何で俺をこの部に誘ったんですか?
それも一人しかない定員枠を埋めてまで」
「まあ、今になってそんなことをいうなんて、遊佐君ったら酷いわ」
拗ねた様に目を逸らして少し頬を膨らませる先輩
芝居がかったその仕草はどこまで本気なのかわからない
「あ、いや、不満があるとかじゃなくて……単純な疑問です」
はてな?と首を傾げられる
「そのー、俺って魔法使う素質みたいなの、あるんですか?
M……魔法力?が人より多いとか」
胸が鳴る。ああ、と彼女は頷いて
「ありませんわ」
ぃよっしゃあああああ!想像通りの答えきたぜーー!!
目頭が熱いのは夏のせいなんだぜ?
「元々、魔法力を持って生まれる方なんて、いないと言っていい位ですから
普通の人は、例え知識があろうと魔法力がなくて魔法を使えないのです」
「てことは俺の魔法力ってのは……」
「いわゆる、0です」
そこでにっこりと微笑まれてもな……っていうかそれじゃダメじゃねえか!
「ですから、通常ならまずは
その魔法力を身に付ける所から始めなければならないのです
……そうね、この前の茜さんの様に、
独学で多少の知識と魔法力を身に付けている方もいますが」
何ー!?茜さんは最初からここがどういう所かわかった上で来ていたのか
…………あれ?だったら
「なら何で……」
スタートの早い茜さんを迎えなかったんだ?
「そうですね……先着順、でしょうか」
そうきたか
「恐らく、彼女が最初からこの学園の生徒なら
一年の頃にここを見つけて、部員になっていたでしょう
彼女は自分の意思でここにきましたから」
そうだ、俺と茜さんは転校生
彼女はその転校が俺より一日遅かったが故に
1名というこの部の定員数を取られてしまったのだ
……意思もなくふらりとここに立ち寄った俺に
「……怒るわけだな」
これも縁でしょうか、と笑う黒井先輩
にしても、もう一人くらい定員増やしても良さそうなのにな……
「でも、貴方で良かったわ。私にはもう時間があまりありませんから」
「えっ……?」
「ええ、私はもう3年ですから。
部活動は1学期の終わり頃まででしょう?どこも」
「あ……確かに。受験勉強とか就職活動とか、
色々ありますもんね、先輩は進学ですか?」
「それは、……秘密です。」
「む……答えられることなのに」
「ふふふ……いいえ、答えられないことかも知れませんよ?」
な、何ぃ!?まさか卒業後は闇の結社にでも内定取ってるのか……?
「まあいいっすけど。先輩が進路に困ってる場面想像できないし」
「まあ、そんな風に見えるんですか?」
「この前の水の花作って見せるだけでも
色んなとこから需要ありそうじゃないですか」
サーカスとか、マジシャンとか……まあ本当の魔法使いだけど
「魔法は……人に見せる類の物ではありません。
これは貴方にも大切な事ですが……
軽々しく、間違っても見世物にしていい力ではないのです。」
にこやかに、しかし力強く断言される
「あ……はい、気をつけます」
某暴力ガードマンのスカートを常時風でめくるという俺の野望は潰えた
「でも、じゃあこんなお茶飲んで話し込んでる場合じゃないじゃないですかっ
早速特訓みたいなことしないと!」
そうだ、時間がないなら、クッキーとかほおばってる場合じゃない
「あら、だって遊佐君、全然リラックスしてくれないんですもの
このままだと苦しいかもしれませんよ?」
「へ……?」
苦しい?ちょ、ちょっと待て。それって一体……
と、先輩の手が俺の手に触れる
「え、せ、先輩?」
「ほらまた……もう、知りませんから」
すぐ目の前で微笑まれる、その直後
「う?あ、あああああああああああ”あ”あ”ちょっ……!!
いた、痛い痛いいたいたいたたたたいや痛いっていうか!!!」
苦しい!まじで苦しい!
先輩の触れた手から全身に溶けた鉛が流れ込んでくる様に
不快で、熱くて、痛くて、息苦しい
なんてことしやがる!!
「ちょ、せんぱイタタタタタタタちょっとスト、ストップ!
死ぬ死ぬ死ぬ何してるんですかこれええええええええ
くるしっ……いき、息がう、ウホー…………っっっ」
ウホーとかいっちまったよ、恥ずかしいだろこんなの
「ええ、ごめんなさいね……。
でも、言った通り時間がないの、だから……」
頭の中のマイモーグリがツインテールのお子様にボコボコにされている
右フックからブロー、ストンピングとやりたい放題だ
ついには死神が持つ様な大鎌を振り回してモグを切り刻もうとしている
甲高い笑い声が心底ムカつく
体を真っ二つに裂く横薙ぎ
突き上げる様な一閃
首元を狙う刹那の4連撃
そしてとどめとばかりに大きく振り上げた後の横払い
俺のモグはその全てを受けてバラバラに……
いや、立てモグよ
こんなオホホホとかいってるガキに負けていいのか?
俺がお前だというのなら、せめて一撃入れるまで死ぬ訳にはいかないでしょう?
心の底からモグを応援する
その俺の視線を受けてモグは……
高笑いを続ける幼女の顔面にゲロを吐いた
意識が白くなる中で、ギャアアアアアアと老婆の悲鳴が聞こえる
「っっぅぐあ……たたた……う~~……」
意識が戻る。体が倒れた様に机にうつぶせている
目の前には穏やかに微笑む黒髪の女子
正直今だけはこの笑顔も受け付けない
死ぬほど気分が悪い、モグと同じ事してやろうかな……
「やっぱり、少し苦しそうね」
眉を寄せる、謝るような笑顔
「さいっ……うおぇ、最悪ですよ、何なんですかこれ……」
出来るだけ強い視線を送る
「ええ、強引だとは思ったのですけど……
私の持つ知識を貴方に全部移したの
本当は、こんな事いきなりしたら死んでしまうか、
もっと悪いと味覚を失ってしまうのだけど……
貴方はこういった事への抵抗力が非常に強い様でしたから」
余計な突っ込みは省いておく、とりあえず今言うことは
「そんな……死んでしまう様な事いきなりは酷いですよ!
それで本当に俺が死んだらどうする気だったんですか!!」
先輩は、ここで笑顔を変える。
これは確かなことよ、と我が子の頭を撫でる様な笑みで
「その時は、私も一緒に死にますから」
「っ……いや……そんなの、俺には何の救いもないっていうか……」
というか、真顔でいうのはやめてくれ
ああ、ほら見ろ。その一言でこの馬鹿はもう気分を直しかけてる
ホント、救い難い馬鹿だな俺……
「ぐぅ……いや、でも、もうこういうのはなしにしてください
それは約束してもらわないと。これは引き下がりません」
「ええ、大丈夫。今ので貴方の頭の中には、
全ての方程式が詰め込まれましたから。
あとは今後、どこでどの式を使うのか、を教えるだけです」
「え?…………あ、はぁ……」
そういえばさっきから頭の中で変なモノが浮かび上がっては消える
言葉では何とも表現し難いそれは、確かに方程式のようであり
使い方のわからない今の俺では有効利用できそうにない
「……てことは、死ぬか生きるかみたいなのはこれで最後なんですね?」
「それは……そうね、先程の様な理不尽な状況はもうありません」
なんか引っかかる言い方だけど。まあ、それならいいか
「今日はこのまま少し休んで、解散にしましょう
使い方はまた次に……あら、こんにちはまりなちゃん」
ガラガラと教室のドアが開く
「こんにちは先輩方。クラスの用事で遅れました」
「ええ、今日はこのままお茶会にしようと思うの
まりなちゃんもカップをお取りなさい」
コクンと頷いて棚から蒼い花柄のティーカップを取り出す青島さん
「遊佐君も、少し落ち着いてから帰った方がいいわ」
ね?と空になった俺のコップにアイスティーを注ぐ先輩
「はぁ……まあ確かに。んじゃもうちょっと休んでいきます」
外はやっと夕日色
「ええ。……はい、まりなちゃん」
「……ありがとうございます」
ぼんやりと、倦怠感に任せてイスにもたれ掛かる
「そういえばまりなちゃん、演劇をするんですって?」
こうして、3人きりのカフェは夕闇まで続く
………………………
…………………
…………
最終更新:2007年03月13日 11:57