黒井先輩と愉快なオカルト研究部


Possibility


選択肢を経て↓

放課後は部活にいこう
体育祭の練習なんてかったるくてやってられない
「大体、練習ってなんだよ……
 バリスタなんてあいつがいれば他何もいらないだろ」
魔法使っていいなら全員焼き尽くすけど
……ウソ、そんな魔法力もないし、炎はまだ扱えてません
黒井先輩…………まさかな。
魔法は見せる為のものじゃないとかいってたし
あれ、でもバリスタならその使用は正当化されるのか?
6つの魔法を駆使し、バリスタに参加する先輩を想像してみる
地面は揺れて、風は接近を拒み、水は押し流し
落雷は足を怯ませ、その足は凍結され、グラウンドに死の業火が降り注ぐ
「…………いやいや、洒落ならないから。人が死ぬから」
うふふ、と火の海で微笑む先輩を頭からかき消す
「あーーー遊佐君、ダメだよー。
 今日はみんなで作戦会議なんだからーー」
「悪いましろ。どうせ俺なんか居ても大して役に立たないし
 それにこの学年の作戦なんて一つでいいだろ?」
「?名案があるのねっ!?」
「ああ、聖を突っ込ませるだけでいい」
「ええっ?」
「それはどういう意味だ貴様」
「だからその拳を有効活用しろってことだよ
 ……いや、今はいいから」
「お前は鉄砲玉にしてやるからなっ!!」
「はいはい。ま、どうせそのくらいが適任だろうな」
当然その鉄砲玉は、途中で失速して方向を変える予定
「怪我したらすぐに手当てするからねっ!」
「おう、サンキュなー」
バイバイっと手を振る
(茜立ち絵)
はいはい、もう慣れましたよっと……

「今日はここでするんですか?」
「ええ、貴方はどうやら教室より
 外での方がコツをつかみやすいみたいだから」
今日の活動もやっぱり中庭
前回とは違い、芝の手入れの行き届いたテラスに先輩と出る
「うわ、俺転校してからここ来たの初めてですけど……綺麗ですね」
ベンチや小さな噴水まで設置されている。公園の様だ
……なんでこの学校はこんなに中庭に力を入れてるんだろう?
聞いた話だと、生徒間で「ボヤーダ」と呼ばれる謎の空間まであるそう
近づいたら行方不明になるとかなんとか……
黒井先輩が新たな特訓場所に選ばない事を祈るばかりだ
「ええ……私もここは好きです
 今は生徒もちらほらいますけど……
 授業中のここは本当に静かで、癒されるんですよ」
「…………あの、授業中に……」
先輩はどうしてここに居るんですか?と聞いていいのだろうか
「はい?」
「いや、なんでも。それで今日は何の魔法の練習ですか?」
俺が習得している魔法は、今のところ水だけ
それもかなり苦労した末の、ギリギリセーフといった感じのものだ
残る元素は雷、土、風、炎、氷の5つだ
「ええ、私から課題を出すより
 貴方が何か感じたものをたよりにしてみてはどうでしょう?」
「む……難しいですね」
むーん、と目を閉じてみる
うーん、いきなりそんなこと言われても
漠然としすぎてていまいちイメージわかないな
「いや、やっぱり課題みたいな……目標ないとちょっと無理かもです」
「そうですか……それでは、そうですね。……氷はどうでしょう?
 今貴方が使える水と似た所がありますし、取り掛かり易いのではないかしら?」
「氷ですね、わかりました」
また目を閉じる。むーーーーん
「…………そうだ、先輩。」
「はい?」
「明後日って体育祭じゃないですか。
 先輩ってバリスタでるんですか?」
「?どうして?」
「いや、その……もしでるんなら、魔法とか使っちゃうのかなー、とか……」
「あら……ふふふ。遊佐君、前にも言ったでしょう?
 この力はむやみに振りかざしていいモノではないのです
 ……それに、体育祭で死者を出したら大変な事になるでしょう?」
これが冗談じゃないから困る
「いや、何かこう……相手を混乱させたり、幻みせたり、みたいな
 精神的な攻撃とかするのかなー、とか……」
「最初に言った通り、私の魔法は6つの元素だけ。
 そういった魔法も存在するようですけど、私は一切使えないの
 ……そうね、茜さんならそういう魔法も知っているかも知れないわね」
「うーん。なんか先輩は人を操る魔法とか、知ってそうな気がしたんですが」
「そういう時には薬を使います。
 以前のクッキー等がそうですね、調理の途中で薬を混ぜるの」
「以前?」
何のことだろう?……以前のクッキーって、あのお茶会の時のか!?
何ともなかったけど、自覚がないだけなのかも知れない
「あ、いえ、私の勘違いでした。クッキーのことは忘れて」
「…………そっすか……」
腑に落ちないけどまあいいか……
「あら、遊佐君はそういう魔法の方が好みだった?」
探る様な、からかう様な微笑み
「あ、いや……そうじゃなくて……」
首を傾げてたのを勘違いされたらしい
「洗脳して、ペットにしたい子でもいるのかしら」
「うぃ!?ぺ、ぺっと……?」


1、ましろかな
2、意表をついて青島さん
3、まさかの黒井先輩

    ↓

ましろだったら、どうなるかな……
「うーん……クラスの、隣の席の子、とか……」
「まあ、きっと可愛らしい子なのね」
「あ、いや……まあ、そっすね。すごくかわいいと思います」
想像してみる
「ゆ、遊佐君……こんなカッコ、恥ずかしいよ……」
「よく似合ってるよ、ましろ。さ、おいで。
 それと俺の事はご主人様って呼ばなきゃダメだろ?」
「うぅ……ごめんなさい、ご主人様」
「後でお仕置きだな。じゃあ行こうか」
「うう、本当にこんなので学校行くんですか?
 せめてネコ耳だけでも……」
「ダメだ。あんまりごねると四つん這いで登校も追加するよ?」
「ううぅ……恥ずかしいよぉ…………」
……何を考えてるんだ俺はっっ!でも、もう少し…………
「……そろそろ戻っていらっしゃい」
「ハッ!?いやっ……違いますよ?」
先輩に苦笑される
「わたしが隣にいると遊佐君あまり集中できないようね……
 少し散歩してきますから、私が戻るまでに何か感じ取ったら
 ちゃんと覚えておいてくださいね」
「あ……はい、すんません……」
先輩はふわふわと奥の道へ歩いていった
「はぁ……。先輩が戻るまでに、何とかしないとな……」
……………………
………………
…………

太陽の色が変わってきた
俺は相変わらずうーんとかむーんとか言ってる
「むーーーー、ダメだ。さっぱりだな……」
はぁ、と顔を上げた先には、見知った女の子がいる
「あれ、青島さん、何してるの?」



青島さん、だったらどうなるだろう
「青島さん、とか……。どうなっちゃうんでしょうね」
「あら、まりなちゃん?遊佐君ったら、ペットに年下の子なんて
 なんだか当たり前の選択ね」
そうなのか?生憎、人間をペットにした事がないのでわからない
想像してみよう
「旦那様、御食事の用意が整いました」
「うむ、って青島さん何て格好してるのーーー!」
「?旦那様の御趣味に合わせたつもりですが
 それと、わたくしめの事はマリーとお呼びつけ下さい」
「それじゃ、マリー。そんなアニメのロボットみたいな格好は止めなさい
 俺は連邦とか公国とか赤とか白とか特に好きじゃないから」
「申し訳ありません。参考にするアニメを間違ったようです」
「いや、アニメとかでもう間違ってるから。
 ……それで、今日の夕飯はなにかな?」
「はい。深海魚と庭掃除の幸による闇鍋で御座います」
「マリィイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
…………何だこれ。やけに生々しいな
というかこれはペットというよりメイドじゃないか
「……そろそろ戻っていらっしゃい」
「…………………はい」
先輩が困った顔で首を傾げる
「わたしが隣にいると遊佐君あまり集中できないようね……
 少し散歩してきますから、私が戻るまでに何か感じ取ったら
 ちゃんと覚えておいてくださいね」
「あ……はい、すんません……」
先輩はふわふわと奥の道へ歩いていった
「はぁ……。先輩が戻るまでに、何とかしないとな……」
……………………
………………
…………

太陽の色が変わってきた
俺は相変わらずうーんとかむーんとか言ってる
「むーーーー、ダメだ。さっぱりだな……」
はぁ、と顔を上げた先には、見知った女の子がいる
「うお……」
「うお、とは、随分ですね」
「あーいや、ごめんこっちの問題で。青島さん何してるの?」



目の前で悪戯っぽく微笑む女の子
……………………ちょっと、試しにいってみるか
「黒井先輩、かな」
ピシッと空気の割れた音が聞こえた、気がする
「……あら」
にっこりと笑う先輩
「いや、冗談ですよ?そんな、俺なんかが」
「遊佐君、私をペットにしたいの?」
先輩はとてもにっこりしている
にっこりにっこりしているのに
その笑顔は、この夏の気温をどんどん奪っていっている
「いや、先輩。すんません、冗談です
 ……せ、先輩、怒ってます?」
「あら、どうして?」
笑顔はいよいよ周囲の気温を奪い
本気で背筋が寒くなってくる。足は固定された様に身動き一つ……
「………………いや」
視線を落とす。本当に足元が凍っている
その蔦は這うように、徐々に上を目指しだす
「先輩っ、ホントごめんなさいっ!
 マジ反省してま……いや、しますんで、あ、足、足がっっ」
「遊佐君、私もね?遊佐君の事、気になるの……
 このまま時を止めてしまいたい。なんて、少し気障かしら?」
「いやーーーーーーーー!、気障ではないんすけど、やめましょーーー!?
 ちょ、氷がもうっ、胴まで、心臓に上る……!」
魔法はむやみに振りかざすモノじゃないんだよーーー!!
「遊佐君、おやすみなさい」
「ひやぁああああああーーー」
こんな、所に、BADENDが潜んでいるとは……ギャルゲじゃなかったのかょ
……………………
………………
…………


「ハッ!!!!」
全身が汗びっしょりだ
服までびっしょりで、夏なのに寒い
「うー……何だ俺、倒れたのか?
 すごい寝汗……さぶっ」
「いえ、それは汗ではありません。あなたは凍っていました」
「うぇっ!?あ、青島さん」
隣にはいつの間にか青島さんがいた
「あ…………夢じゃなかったんだ……はは」
青島さんの脇にやかんがある
「溶かしてくれたんだ。ありがとう
「涼み方は、もう少し選んだほうがいいですよ」
「あー……うん、そうだね。気を付ける」
ホラー映画とかってレベルじゃなかった。マジで身が凍るんだもんな
「青島さん、何してたの?」

以下共通


見ると、青島さんは子犬を3匹連れている
ハッハッとお互いじゃれあう子犬達。和むなあ
「明後日の体育祭に向けて、バリスタ用の新魔法を研究中なのです」
あっさりと魔法使用を宣言する青島さん
「へ、へぇー……魔法って、むやみに使ったり
 人の目に付かせたりしたらダメなんじゃないっけ……?」
「それは、黒井先輩のポリシーです。
 わたしはそんなこと気にしないのです」
「そうなんだ。ちなみにどんな魔法の予定なの?」
青島さんが魔法を成功させた所は一度も見たことないけど、一応
「……冥王の門を開いて、滅びの炎で、辺り一体を灰塵に帰します」
「そ、それは止めた方がいいんじゃないかなー
 ほら、たかだか体育祭で大切な友達とか死んだら嫌でしょ?」
初めて見る成功が起こり得ない、とは言い切れない。ここは阻止しておこう
その時、3匹の子犬が同時に首を上げて吼えた
「「「ワオォーーー」」」
カッと目を見開く青島さん
「……きた!、キタキタキタキタ……!
 今ならっ…………!!」
「ダメーーーー!!!」
肩を掴んで揺さぶる俺
「…………」
じとーっと睨まれる
「はぁ……そんな顔してもダメだって……
 黒井先輩だってきっと同じことするから」
「そうでしょうか?」
いや、そうじゃないかもね……
先輩なら何が起こっても平然と対処しそうだし
「そ、そうだヨ!」
「…………」
気を落とした様に俯く青島さん
そうだよな、方向性は間違ってるとしても
頑張ってるのを止めろっていったんだから
魔法を使うってのは、ぶっちゃけて難しい
全てをお膳立てされた俺でさえこんなに悩んでるんだ
黒井先輩でさえ「アドバイスしかできない」という
青島さんの魔法の難易度は、きっと俺の比じゃないはずだ
それでも毎日、雲を掴む様に手を伸ばし続ける彼女を、俺が阻んでいいのか?
………………いや、まあ今だけは正解かな……
と、そこで疑問が浮かぶ
黒井先輩は、どうだったんだろう?
「そういえば黒井先輩って、魔法すごいよね」
「???」
何を言い出すんだ、とこちらを凝視する青島さん
「いや、俺先輩から魔法力分けてもらって感じたんだけど
 先輩って魔法力ずば抜けてるんだよね…………
 先輩も、前の先輩に魔法習ったのかな?いや、だとしても……」 
1年から学び始めたとして、1年半であそこまでなるものなのだろうか?
それに非論理的だが、先輩が苦悩に顔を歪め訓練する姿がまったく想像出来ない
「……先輩の使う魔法は、この"世界"に存在しなくてはならないモノ
 使役者は、後継者への引継ぎの義務を持ち……
 もし、その引継ぎが途絶えてしまっても、
 それは"世界"になくてはならない、から……予定調和が生まれる、のです」
「????世界が引継ぎに予定調和……?」
「……例えば、の話ですが」
半眼で呆れた様に話し出す青島さん。一個上なのに馬鹿でごめんっ
「もしも、過去へ侵入して、偉業を遂げた人物を暗殺したとしても
 必ず同じ様な存在が出現し、未来は殆ど変わらない
 ……というのを聞いたことはありませんか?」
「ああー、あるある。何をしようと同じ結末に向かう、とかなんとか」
「……乱暴ですが、そんな感じです」
「てことは……?」
「"世界"は6元素の存在を失くす訳にはいかない。
 だから、引継ぎが途絶えてしまったのなら
 "世界"の力で、問答無用で魔法の知識を人に与えればいい。」
話は俺の頭ではとても難解なモノになっていってるが、つまり
「つまり先輩は、"世界"に問答無用で
 魔法を使える様にしてもらった、ってことか」
なるほど、だからあの年であの知識、あの魔法力を持つ訳だ
…………な、なんかずるいな
青島さんは「はぁ」とため息をつくと立ち上がる
「今日はもう帰ります。少し疲れました」
「あー……ごめん、邪魔しちゃって」
邪魔しないとえらいことになったかも知れないけど
「ですが、私はあきらめません」
「へ?」
「経験も、体力も劣る1年が上級生に勝つには
 この力が必要なのです…………!」
「え、えぇ、そこは諦めておこうよ……」
青島さんはそのまま、振り返らず去っていった
な、なんかかっこいいなその背中!
「……と、そんな場合じゃないんだよ……」
こっちはこっちで、問答無用の大魔法使いに弟子入りの身
「先輩が戻るまでに、なんとか感じだけでも……」
「────やっと、一人になりましたね」
「へ?」
声の方へ振り返る
「こんにちは、遊佐。用件は口で言ったほうがいいですか?」
そこに、強く俺を見据える茜さんがいた

日は暮れ始め。小さな噴水を挟んで対峙する
「う、うん……そりゃ、口の方がいいかな
 何事も平和的に解決するのが一番だし……」
「では。私に魔法の継承権を譲ってください」
「へ?それってつまり……オカルト研究部辞めろってこと?」
「貴方の言い方ですと、そうですね。
 私はその為にここにきたのです。あんな終わり方は、納得できません」
ザァァァと、茜さんの心情を表現する様に木々が音を立てる
彼女の態度は、真摯で、本気だ。けど……
「いや……それは出来ないな」
正直、そんな申し出はもっと早くやってくれ
あの初めの階段の時点でそう言われたのなら、
俺はきっと二つ返事でウンといっていただろう
けど、今の俺は非力ながらも魔法を実行できるし、
(無理矢理)命をかけたおかげで残りの知識も全て得ている
こんな状況で手放せと言われても、頷けるはずがない
それに……
「何故です?初めに出会った時、貴方からは何の魔法力も感じなかった
 貴方は、偶然あの空間に迷い込んだんでしょう?
 おそらくまだ何の魔法も使いこなせていない」
そんなお前にその力は相応しくない、と目が語る
「……一応、少しなら出来るもんね。
 それに、もうこれは俺だけの問題じゃない
 俺が途中で投げ出すのは、先輩を裏切るのと同じだろ」
「貴方が辞退を申し出れば、受けるはずです。その力は貴方には相応しくない」
あ、口でもいいやがった
「勝手にいってろ。俺は降りないからな」
乱暴な口調になる。その理由は、話の内容のせいもあるけど
「ーーーーそうですか。では、私と勝負しましょう、遊佐
 貴方が負けを認めたら、降りてもらいますから」
そう、今日の彼女は俺を呼び捨てている
その敵意が、残念な事に単純な俺の頭に熱をやっている
「ハッ、いいぞ、何の勝負にする?」
いっとくけど、俺のじゃんけんは普段は弱いが、必要なときには必ず勝つ
早食いもそこそこ自信があるし、足だってそこそこに……
「……貴方馬鹿?魔法を賭けて勝負をするっていったら
 ──────魔法勝負しかないでしょう」
「い”!?」
不意に肩まで上がった彼女の手が俺を捉える
「な、ちょ、ちょっと待て。いきなりはずるいぞ!」
「関係ありません、これで終わりなのですから……!」
その掌が、夕暮れに新たな赤を加える
「なーーーーーーーっ!」
左腕で顔をかばうように半身を逸らし、衝撃に備える
…………あれ?チロチロいってるな、なんか
「うあつっっ!、アチッアチッ!」
制服の、袖の端がほんの少しだけ燃えている
「……っ!」
顔をしかめる目の前の女の子
「ふーー……って、なんだこんなもんかよ……」
火を手で払って消す。正直もっとすごいのを想像してただけに安堵が込み上げる
だが俺のそのため息は、奴の慈悲や、正気を奪ってしまった様だ
「っ……そうですね、私には元素の魔法を扱う知識が足りない
 …………ですから、今出来る全力を尽くす事にします」
「へ?やっぱやるのか!?」
しょうがない、適当に後ろ手でも取って……あれ?
肩から水平に伸びた彼女の手から出た、「何か」が俺に当たった
「な……!?」
途端、体が痺れる。続いて放たれた「何か」で、体が重くなる
マズい、これは
────茜さんならそういう魔法も知っているかも知れないわね────
俺や黒井先輩の使う6元素の具現じゃない
彼女が今まで研究し、自身を魔法使いと自信付けたその魔法は───
「負けたら、約束通りちゃんと降りなさいよ」
掌から新たな何かがまた飛んでくる
「ぬああああーーー動け!、俺!!ふぁい、おー!!」
叫んで、逆方向へ走り出す。気合も中々捨てたもんじゃないな
「な───そんな、動けるなんて……!」
あれを受け続けたら俺に勝ち目はない。戦術的撤退という名のとんずらだ
……あれ、逆だったかな
「待ちなさい!逃げるな!卑怯者!!」
「おまっ……お前のほうこそ、いきなりすぎるぞ!
 それとこれは戦術的撤退だっ」
「っ貴方にお前呼ばわりを許した覚えはない!」
「俺だって呼び捨てを許した覚え、は……はっ、ないけど
 お前呼んでるじゃ、ねえかっ」
「────減らず口を……!」
ただでさえ体が重いのに、走りながらしゃべるから変な声が出た
「…………はっ、けど────」
彼女は俺に追いつけない
男女の基本身体能力差故か、俺達の全力疾走は拮抗している
「でも、このままじゃ、はっ、ダメだ」
いずれハンデのある俺が負ける
それに、この中庭を抜けて開いた場所に出れば
彼女は足を止め、今度こそ俺の脚を停める
「はっ、はっ、なら…………!」


日の沈む中庭を二つの影が駆ける
先を往く影は直線を嫌い、木々を縫うように、
後を追う影はそれを直線で辿ろうとし、それが適わず距離を離され、
差を埋める為走りに専念する
「─────けど」
しかし追う者に焦りはない
このレースは勝負がついている
この敷地を出て、追っ手から逃れたければ
先往く影は今とは真逆に走らなければならなかったのだ
「逃げられるのは、想定していた。
 だからこそ、こっちから声をかけたのよ」
この道の先に出口はない
あるのは生徒達が家庭科や芸術学を学ぶ際に利用する、特別棟だけ────
今度こそ、と神経を集中する
この時間なら他の生徒はいまい。居たとして、助けを呼ばれる前に黙らせる
「────はいった……!」
そして、ついに兎は校舎へ逃げ込んだ
カギをかけようと立ち止まれば、今度こそ足止めの魔法を使うつもりだったが
理解してかせずか、脇目も振らず階段を駆け上がる
「……ふん、それでも、貴方の負けには───」
はっ、と呼吸を乱す
そうだ、ここは特別棟。
4階は、自分が100人束になろうと及ばぬ存在の住処ではなかったか
彼女ならこの時間に残っていてもなんら不思議はない。何故なら────
「しまった!助けを求める気ね……!」
追い手はここでようやく焦りを見せる
なんとしても、彼女に介入されてはいけない
階段から隅の教室に走りこむ為の直線を渡り切れぬ程、兎に肉薄しなければ
「─────卑怯者っ!」
追い手は走りに全力を尽くす


「はっ、はっ、くっあ……」
無我夢中で特別棟の階段を上る。速度を保ちつつ走るのはそろそろ限界だ
けど、ここで足を止める訳にはいかない。止まれば負けてしまう
雀の涙程度の俺のプライドが、それは嫌だと見栄を張る
「はっ、あと2……」
4階にいけば、黒井先輩がいるかも知れない
この状況を収束できるとしたら、それは先輩の介入しか有り得ない気がする
2階に着くや、手すりを掴みすぐさまターンして階段を上る
「っ!!いっ……!」
体が上手く動けず、折り返しで脛をぶつけてしまった
「こ、ん、じょ……!!」
男のプライドは、こういうとき中々役に立つ。と思う
そのままズキズキ痛む足で階段を走り続ける。けれど
「─────卑怯者っ!」
こんな声が聞こえてしまった
吐く様な、階下の女子の声。
走りつつ今の状況を簡単におさらいする
同学年の女の子に勝負を持ちかけられ、
了承するも歯が立たず、上級生の下に逃げ込もうとしている……
「……………………」
プライドってのはこういうときに厄介だ
……いや、プライドとか関係なく、果てしなく情けないな俺。トホホ
悩んでいる暇はない。もうすぐ3階半の踊り場にでる
彼女との距離は正直微妙。
4階へ上り、隅の部屋まで走りこむ距離かと言うと、微妙。
だが助けを求めるのなら、教室に近づいて声を出すだけいい
いや、辿りつくまでに足を停められようと、口を塞がれようと
その騒ぎに中の者は気付くだろう。けど
「けどそれでいいのか?」
4階が見える、俺は────
階段をそのまま上り続けた
「え────?」
下から意外そうな声が聞こえる
チクショー、ああそうだよ先輩のとこに逃げ込もうとしてたよ
自分のしようとしていた事を予想されていた、
というだけなのに、侮辱された様な気分
……いや、まあこの屈辱感は全部俺のせいなんだけどさ
「……けどまあ、4階を蹴ったからには、こうするしかないな」
屋上へのドアを開け、外にでる。
そしてそのままドアを閉め、もたれ掛かる様に背中でドアを押さえつけた
「っ!、この……開けなさい!!」
ドンドンと衝撃が響く
「はっ……はぁ……はぁ……やだね
 このまま時間切れを目指しちゃうぜ」
「……では、逃げた貴方の負けですね。
 負けたのですから、継承権を譲りなさい」
「は?俺はまだピンピンしてますけど?
 勝負は勝ち目が残ってる限り諦めない性質なんで
 いったろ、今は戦術的撤退あんど篭城中だ」
ピンピンはうそだけど、大分体の痺れが取れてきた。動きも軽くなってきている
「ただ、正面切って戦えないというだけでしょう……負けるから」
「そうだな、だから正面切って負ける相手に
 正面から戦うわけないだろ。お前馬鹿?」
「っ……!」
さっきのカリは返しておいた
そして予想通り、あいつの魔法は障害物を越えられない
これが先輩相手なら、ドアごと焼き尽くされているところだ
「っの、開けなさい!この卑怯者根性なし腰巾着間抜け面木偶の坊
 不細工魔法もロクに使えない癖に過ぎた力等貴方が持ったらきっと
 この世界の犯罪率が上がるだけだわ大体干渉されておきながら
 私一人に勝てないなんてそんなの継承者失格よ私なら貴方なんて
 3秒で焼き殺してやるんだから!」
一気に捲くし立てられる。聞くのもめんどい
返事の代わりに後ろ手でドアを叩く
「文句があるなら蹴破ってでもこっちこいよ
 俺は今日一晩くらいずっとこうしてても平気だもんね」
フーフーと息を荒げるドア越しの猫
その息をすぅ、と整えて彼女は
「────そう。わかりました、そうします」
「……へ?」
ドアから距離を置く気配に、俺は衝撃に備えて足を踏ん張った
ドロップキックでもする気か……?
まあお互い消耗戦なら、俺のほうが性別的に多少有利なはずだ
しかしキックもヘッドバットもしてくる気配はない
「む……?」
その時、夕闇を裂く閃光が、ドアの隙間から漏れた
「な……なんだ……?」
ドアに異変はない。あいつが何かしたのは間違いないが……
「いいでしょう。その持久戦、受けてたちます」
その自信に満ちた声に、不安になる
「お、おおい、なんだよ今の光は」
見えないのは承知で、振り返る
…………?あれ?このドア、なんだか
「侵食の魔法……ええ、蹴破ってそちらにいきます
 ────このドアが腐り果ててから」
「なぁ!?」
違和感の正体に気付く
新しく見える青い鉄の扉は、その端から少しずつサビに侵され始めていた
「お前……こんなに魔法できるんなら、もういらないんじゃない……?」
「それとこれとは話が別です
 6元素の魔法は、独学では限界がある」
サビの侵食はひどく緩慢だが、一晩やり過ごせる様には見えない
今の内にネゴシエイトでもするべきだろうか
「…………茜、暇だからお話でもしようか」
「話す事はありません。いえ、あるとしたら貴方の降伏宣言だけです」
即失敗。
チクショウ、交渉の基本は
"相手のファーストネームを呼び捨てること"って聞いてたのに
「まあまあ、どうせドア腐るの時間かかるんだしいいだろ」
「時間があっても話題がないと言っているんです」
「話題……話題かぁ……
 んじゃ、魔法を見つけたキッカケとか
 何で6元素の魔法使えたいのか、とか」
「言い間違えました。話す理由がありません、でした」
「ブホッ、それじゃ会話にならねぇだろ!」
「する気はないといったはずです」
どうやら超本気で敵対視されているらしい
仕方ない、こうなったらドアが破られた後のことを考えて
今出来る事をやろう
……………………
………………
…………


会話が途切れて何時間かたった
空には見事な満月が浮かんでいる
ドアの腐敗はいよいよ激しさを増し
もたれ掛かって大丈夫なのかと疑ってしまう程だ
「…………」
今俺にできること。この後、俺に取りえる方法。
それは、たった一つ身に付けた水の魔法で、彼女に対抗する
という、これまでやってきたことを全否定するような真っ向勝負だった
「……アホくさっ……」
んじゃ最初からテラスでやってろよ、という話だ
でも、あのときはまだ心の準備とかできてなかったし
先制攻撃までうけていたんだから、これが正しいのかも知れない
ただそのせいで舞台は屋上
俺の今の全魔法力でどの程度の奇跡を起こせるのかはわからないが
万が一威力が強すぎたら、彼女はリングアウトしてしまう
……………………まあ、その可能性は俺にもあるが
水の公式を体の中で何度も再確認する
「ふぅ…………」
知らずため息が漏れた
「…………あの」
「え?」
数時間ぶりの会話
「…………貴方は、覚えていますか?
 ……子供の頃の事…………」
「子供?っていうと、幼稚園とか、小学生とか、そんな頃の?」
「はい……」
うーん、突然口を開いたと思ったら何なんだこの質問は
緊張の糸が緩んでしまった
でもまあせっかくだし答えよう
「んー、俺はあんまり覚えてないかな……
 まあ、今より馬鹿なことばっかりやってたんだろうけど。茜は?」
「…………………私、は…………」
弱々しく、思いつめた様な声に思わずドアを振り返る
「お、おい……?」
その時、「パリッ」とドアの内部で開戦の笛が鳴った
「「─────────!」」
床を蹴って前へ飛ぶ。直後、ドアが破られる
振り返って彼女と対峙する。その顔には強く意志の篭った眼が二つ
「……遊佐、これが最後です。継承権を譲ってください」
仕方ない。緩んだ糸を引き締める
「……出来ない。俺からも一つ確認するぞ
 ここは屋上だ、落ちればどうなるかわかるよな?」
「…………」
わかっている、と彼女は無言
「そうか。つまりお前、俺に殺される覚悟も、俺を殺す覚悟もあるんだな」
ビクッと、彼女が一瞬強張る
しかしそれを振り払うかの様に
「……ええ、わかっています。出来るだけそうなりたくありませんが
 遊佐、このまま間違い続けるというのなら、ここで死んでしまいなさい!」
……まいったなー。最後のポーズまで突破された。
しかもはっきり死ねって言われたぞ。
こうなったら、やるしかないな……
「そっか。なら、もういうことはねえよ」
集中する。
嫌と言うほど準備したそれは、体中に蠢く数多の群れから難なく汲み出される
…………あれ?でもなんか違うような
敵が手をこちらに向ける
考えてる暇はない。違和感を無視して、式に魔法力を流し込む
早速相手に先制される、けど、怯んではやらない。根性だ
「いくぞコノヤローーーー」
式から導かれた力が、右手の上に収束する
「…………あれ」
「っ、なっ……!」
茜が絶句する。俺も左に同じ
俺の右手に集まったソレは、
月にかかる雲をもかき消さんばかりの強大な暴風だった
水を出したと思ったのに、さっきの違和感はこれか。
いや、そんなのはまだ後回しだ。問題は
「なん、だ、これ。デカ過ぎる……っ」
右手に抑えきれないほどの魔法力。俺の中にこんな力があったのか??
驚きは興奮に変わり、気分が高揚する。
得体の知れない何かが湧き上がる。
衝動の様な、下衆な何か
狂った様に顔が笑うのを抑止出来ない
「あ……そ、そんな……」
茜は魔法を撃ちもせず、愕然と風を見上げる
そうだ、これが俺の力。
相応しくないだって?いいさ、止められるものなら
「止めてみろ……!!」
手を彼女に向けようと、力を解放しようとしたその時
「──────あっ……」
怯えた子猫の様な茜と目が合った
「っ!、いや、いやいやいや…………!」
ストーーーーップ俺!!
こんなの放ったら、ここわ屋上なんですよーーー!!
「っっぐあああアアイタタタタタタタちょ、ウェイトウェイト!!」
何で英語?いや、そうじゃなくて止まれ俺!
「セイセイセイセイセイ!!あーーいてぇーーー!!」
左手で右手を滅茶苦茶に掴んで、発動を止める
風はなんとか、俺の右手から空へと消えていった
「はぁ…………ビックリしたなおい……」
な?と茜に顔を向ける
彼女は足をガクガクに揺らしながらも、なんとか立っている
「……そんな、そんな力、今まで感じなかった……っ
 いえ、そうじゃない、何故止めたんですか!!」
「へ?なんでって」
情けない事に、俺には殺される覚悟も、殺す覚悟もなかったのだ
「いや、やっぱ平和的なアレがですね。一番じゃないか」
しかしその事はちょっと黙っておこう
「……っ、そんなの、今更────
 遊佐、貴方にその気がなくても、私は……!」
完全に意地になってやがる
「いや、落ち着けよまじで!面倒くせえなあもう!」
「臭いですって!?これでも毎日手入れしてる体よ!
 そんな距離で曖昧に判断しないで!!」
「いや、ちが……」
「────そこまで。遊佐君、また一つ成立させたわね」
はっと声の方に顔をやる
俺達が数時間の背中合わせをやった屋上ドア口の上
この高所において更に一番の高所。
そこに、満月を背にして微笑む魔女がいた
……そうか、そっきのデカ過ぎる魔法力は
なんのことはない、彼女が俺に分けただけだった
軽く落ち込む俺と対照的に、茜は先輩に喰ってかからんばかりの視線を送る
「こんばんは、茜さん。貴女の魔法も素晴らしかったわ
 今日はお互い良い勝負でしたね」
その視線を平然と受けて笑う先輩
茜はその笑みに気圧されつつも、口を開く
「……さっきの遊佐の魔法力は貴女ですね?
 そんなの、卑怯です。貴女がその気なら、私は───」
「おいおい、ちょ、やめろって!」
意地になっているのか、茜は再びやる気モードになっている。それを
「お止めなさい(ひかえなさい)」
冷たい、魔女の笑みが停めた
「うっ───────」
夕焼けの君、と。どこかの馬鹿が彼女を呼んでいた
堕ちゆく太陽に、暖かく包まれた姿が似合っていると
有り得ない。
本当の彼女は今ここに。
月の光に濡れて冷たく笑う彼女は、この夜に
そう、正に──────

─────────────この夜に、君臨している

声が出たのは俺だったのか、茜だったのか
動くことすら出来ない。
先輩から漏れ出る冷気にこの場が丸ごと凍らされた様に
茜が(俺も)戦意を喪失したのを確認して、満足げに微笑んだ先輩は
…………ドア口脇の梯子から、おっかなびっくりと降りてきた
「……………………カッコよかったのに…………」
「しょっ、と……はぁ、高い所は怖いですね」
だったら上るなよ、とか思うけど言えない。きっと演出好きなんだろうな……
「二人とも、喧嘩はダメよ?
 せっかく同じクラスなんですから、仲良くね」
保母さんの様な窘めに、脱力が加速する
「……見てたんなら、もっと早く止めてくださいよ……」
はぁ、とため息をつくと、足元がふらついた
「うわっ、わっ……」
黒井先輩が「あら」と駆け寄るが間に合わない
よろよろと前にいた茜に軟着陸してしまった
「っっなっ!」
「あ、いや……悪い、そんなき」
「何するの!!」
パーンと、いい音が屋上に響く
吹っ飛ばされて今度は先輩にダイブしてしまう
先輩は勢いを殺ぎつつ、ゆっくりと尻餅をつく
結果、俺は先輩に膝枕されている様な体制になる
いや、もうちょっと体が寄りかかってるから、頭を抱きかかえられている様な
「あーいや、あのですね。何か足に力が」
「ええ、少し力を回しすぎた様です。体が疲弊しているのね」
「あ、そうなんすか……すんません」
怒ってないようでよかった。今先輩を怒らせたら、えらいことになりそうだ
そ、それにしても……先輩、着痩せする方ですね。いや、悪い意味じゃなくて!
「─────ふんっ」
それを見て一層機嫌を損ねる茜
「茜さん、貴女には申し訳ないですけど、私の継承者は遊佐君です
 第一、もう遊佐君には全ての知識を継承してもらったのよ」
「え、なっ……」
「そう、全て。貴女は一週間足らずで全て継承し切れたかしら?」
「そんな、そんな事出来る訳が……どうやってっ」
んー…………。茜の驚きようからして
あのやり方はやっぱり通常じゃ有り得ない方法だったらしい
ホント何してしてくれんだか、この先輩は
「茜さん、もし良ければ……一度断っておいてで言い難いですね
 ……良ければ、私達の部に入部しませんか?」
「……っ!」
「へ?定員2名とかは……いやまあ別に嫌だとかじゃなくて」
「ええ。6元素の魔法は、貴方にしか教えられないわ、遊佐君。
 ですが、魔法を学び合う者が集まれば、もしかしたら
 貴女のその、元より研究してきた魔法技術の助けになるかもしれません」
「ああ、そっか。青島さんみたいに……」
…………青島さん、成功したとこ見たこと……いや、止めておこう
「要りません。6元素を継承出来ないのなら、貴女に用など有りませんから」
それをきっぱりと断る茜
「おまっ、何かそれすげぇ失礼だぞ」
「そのままの事を言っただけです。
 私は自分の立ち位置を見失う気なんてありませんから」
「そう。残念ですけど、貴女がそういうのなら仕方がないわ
 けれど、貴女に継承は出来ない。これは理解してもらえたようね」
「────────ええ」
悔しげに唇を噛む金髪の少女は、足早に屋上を去った
「あの、先輩。6元素の魔法、やっぱあいつにも教える気とかないですか?
 あいつ、なんか頑張ってたし。もう一人くらい……」
「……あら。遊佐君たら、もう私に飽きたんですか?」
「い、いやっ。何言ってるんですか先輩!、俺はただっ」
「ふふふ……。いえ、これは決まりですから
 私が勝手に破ってしまえる事ではないのです」
「はぁ……なんか、変なルール多いんですね、魔法って」
「そうですね……本当に……」
寂しげな笑みで俺を見つめる先輩。その顔が何だか酷く儚げで
「そういえば、綺麗な満月っすね、今日。
 ちょっとここで見て帰りません?」
何とかしたくて、こんな事を言ってしまった
顔を上げる先輩
「そうね……綺麗。けれど、あの光は太陽の物
 …………偽りの光を美しく思う事は、正しいのかしら」
そう呟いて、彼女はしばし月に魅入った

最終更新:2007年03月13日 11:57