帰り道を歩いているとようやく冷静になってきた。
よく考えると、さっきの面接。全然アルバイトとは関係のないような質問だった。
遊佐「やっぱりよくわからん」
とは言え明日からはあの人の下で働かなきゃいけないしなにかと仕事も覚えなくてはいけないだろう。
まぁ、大丈夫だろう。

家に帰って親に連絡した。
俺の予想とは別に社会勉強に丁度いいし何よりお金が浮くと言われた。
遊佐「……心配してくれよマイペアレンツ……」
いいんだけどさ。お金振り込もうかくらいの一言があってもいいんじゃないの。
許可(?)が下りたので偽装する必要も無くなったので堂々と保護者の欄を書く。
とりあえず印鑑は持ってきたこれで……あれ朱肉はどこだ。
遊佐「ハンコ式にすればよかった……」
朱肉を見つけるのに30分はかかってしまった。
遊佐「あとは理由を書くだけか」
理由:生活費が無いから
遊佐「とてもじゃないが高校生とは思えない理由だな」
ここまで書いて思案する。
理由:生活費が無いから自分で稼ぐことで自立する
遊佐「こんな感じでいいや」
うん、これなら何かに負けた感じがしない。
申請書をカバンに入れて俺は寝ることにした
遊佐「店長って真面目そうだけど、よく考えたらあのメイド服っぽいのは……」
他人の趣味をとやかく言うつもりは毛頭ないが、イメージに合わない。
でも男用もなんというか執事っぽいっていうのかタキシードってやつ?
遊佐「凝ってるなぁ」
では、おやすみなさい。

遊佐「くぁあぁー」
目が覚めると体が少し重い気がした。
遊佐「眠いなぁ」
遅刻するわけにも行かないので気合をいれて洗面所へ。
遊佐「目覚めろ俺!」
一人でむなしく叫びながら顔を洗った後準備を整える
ではいざ出陣。今日この部屋に戻ってくるのは夜の9時頃になるだろう。
遊佐「行ってきますー」

もう見慣れたこの道。始めは新鮮だったけど慣れて来るとそれも失われていくものだ。
でもそれはこの道が変わらないんじゃなくて俺が変わっているんだろうな。
だから慣れるのではなく、見方を変えればきっと違ったものが見えてくるはずだ。
空を見上げる。
遊佐「俺ってやつは朝から詩人だな」
霞「せーんぱっい!」
どんっ!!
遊佐「ぐぁ!」
この流れはまさか
遊佐「霞ちゃん……」
いつものように背後からのご登場。いちいち背中に一撃入れないで欲しいのだが
遊佐「いつも背中痛いんだけど……」
霞「あちゃー、ごめん。今度は手加減するね」
遊佐「それ以前に止めて欲しい」
霞「それは私のアイデンティティだからねー、やめるわけにはいかないよ」
アイデンティティ=自己の存在証明。
わけのわからんことを……
遊佐「あーもう、何がアイデンティティだ……」
おっと。不意打ち騒動で忘れてた
遊佐「そうえいば昨日教えてもらった喫茶店いったらあっさりバイト決まってしまった」
決まっていいんだけど
霞「えへへー、そっかそっか」
やけにうれしそうにする霞。
遊佐「やけにうれしそうだな」
霞「うーうん、そんなことないよ」
……いや、めっちゃうれしそうです。
遊佐「まーいいけど。ありがとうな霞ちゃん」
霞「いえいえ、どういたしまして」
霞「よーし、今日もがんばろうね!」
霞がガッツポーズをする。その姿を見ているとつい胸の方に視線が行ってしまった。
それにドキッっとしてしまう。……慣れないよな俺も。結局変われないようだ。
霞「おっとと、いけないいけない」
自分で気付いたようで前を直す霞。
遊佐「自分で直したのって初めてじゃない?」
霞「そうかな?」
多分ね。いつもはだけてるイメージしかない。
霞「別に減るもんじゃないし誰もこんなの見て無いよ。あ、でもー」
いや、男子はきっと必ず見てます。穴が開くほど見てると思います。
霞「遊佐先輩と早乙女先輩だけはよく注意してくるね」
遊佐「そ、そうなの?」
誰か注意しようよ。
遊佐「女子同士は?」
霞「別に何も言わないよー?」
遊佐「そっか……」
男の俺には女子はどう思ってるのかなんかわかんないしな。
遊佐「まぁ、痴漢とかに襲われないようにな……」
霞「あはは、大丈夫だってばー。私なんて誰も襲わないしいざとなったら走って逃げるよ」
いや、俺は盛大に心配だ……。自分の魅力を知らないってむしろ恐ろしい。
最終更新:2007年01月28日 00:36