●7月19日(木) 朝 通学路
天気は快晴。
朝日は容赦なく大地を熱し、早朝とはいえ流石に夏である。
既に暑い。
しかし、俺はそんな暑さを感じる暇も無いほど浮かれていた。
かつて、これ程までにわくわくした朝があっただろうか。
朝食をあっという間に食べ終わると、俺は勢い良く家を飛び出した。
片手には鞄。
そして、もう片方の手には帯で締めた道着をぶら下げている。
そう、これだ。この感じ。
これこそが、武道を志す者の基本形!
きっと今の俺は輝いている!
自然と気が引き締まるのを感じ、俺は学校に向かって走り出した。
~~~~※久々津好感度○○以上で発生 バッドエンドルート回避~~~~~
≪発生しない場合、そのまま教室へ≫
俺は浮かれながら走っていると、背中にひっそりとした気配を感じ、
立ち止まりゆっくりと振り返ってみると、久々津さんがニコリと笑顔を向けていた。
【舞】「パリパリの真新しい道着担いで、何ニヤニヤしてはります?」
やはり、そうきたか。
【俺】「おはよう。折角良い気分で歩いてたのに……」
久々津さんは、ニッと笑うと
【舞】「おはようございます、先輩!
新人君が緊張しながら歩いてるみたいで、おもしろーどしたえ?」と言った。
【俺】「良いじゃないか、形から入っても……。
村崎先輩だって形から入ることも重要だって言ってたし」
【舞】「誰も悪いなんて言うてないどすえ?
新しいランドセルを買ってもらった小学生みたいって言ったんどす」
【俺】「……確かに気分はそんな感じだった気がするから、
何も言い返せないな」
【舞】「気にする必要はありまへんえ?その気持ちは大切どす」
久々津さんは再びニコリと笑う。
その笑顔に悪意は感じられなかったから、
俺は素直に「わかった。大切にする」と返した。
その後、他愛も無い世間話をしながら二人で登校した。
●同日 朝 教室
教室は既に登校してきた生徒達が楽しく談笑を始めていて、
わいわいがやがやといつも通り賑わっている。
教室に入り、適当に挨拶を済ませ席に着くと、
道着に気がついた中島が話しかけてきた。
【中島】「おはよう。お?道着買ったのか?」
【俺】「ああ、武僧先輩に案内してもらってね」
中島はニヤリと笑う。好奇心に満ちた顔が気持ち悪い。
【中島】「なに?デートとかしちゃったわけ?」
【俺】「言うと思ったよ。
そんなんじゃなく、本当に案内してもらっただけだよ」
【しのぶ】「そりゃ、聞き捨てならないねぇ。
都はデートのつもりだったかもしれないってのに」
【俺】「……何故そんなにいつも突然湧き出すように現れるんですか?」
俺の質問に甲賀先輩はやれやれとため息をつき、「あんたが気付かないだけ」と答えた。
【しのぶ】「都があんたに好意を抱いているのは一目瞭然!
それを何も無かったで済ませるのは、あんまりじゃない?最低っ!」
【俺】「そんなつもりは……」
聞き耳を立てていたのか、ましろちゃん達が興味を示し首を突っ込んでくる。
聖は「最低な男だな」と俺を罵り、
ましろちゃんは「女の子はね、そうは見えなくてもとってもデリケートな生き物なの」と俺を諭す。
何も悪い事してないつもりだが、それにしても随分と酷い言われようだ。
が、言われているうちにそうなのかもしれないと思うようになり、
だんだんと罪悪感が湧いてきた。
すっかり気落ちした俺を見て、みんながニヤニヤとしている気がした。
ひょっとして苛められてるの?
なんだか悲しくなってため息が自然と漏れた。
【しのぶ】「くっくっく!あははははははははっ!
ごめんごめん!そんなに落ち込まなくてもいいよ。
あれでデートって思う方が難しいからね」
【俺】「あれでって……。見てたんですか?」
【しのぶ】「あ……。ううん、なんのことかな?
あたしが覗きなんてするわけないじゃな~い」
怪しすぎる。
明らかに動揺してるじゃないか。
【中島】「で、どうだったんです?二人の様子は」
【しのぶ】「う~ん、帰りの公園では良い雰囲気に見えたけど、
デートって感じには見えなかったなぁ。
尾久日おじさんのとこ行くまでにも、なぁんもなかったし。
……って、な~~か~~じ~~ま~~~!!!!
全部喋っちゃったじゃないの!!」
【中島】「ぎゃああああああああああああああああああ!!!」
甲賀先輩は中島に飛び掛りボコボコにした。
【俺】「……」
なにも言うまい。
【聖】「手くらい繋げば良かったじゃないか」
【俺】「だから別にそんなんじゃないってば。
道着の売ってる場所なんて、知ってる人じゃないとわからないよ」
【聖】「……まあ、たしかにそうだが」
【ましろ】「ふふ!でも、先輩と一緒で楽しかったでしょ?」
【俺】「え?あ、うん……、まあ……楽しかったけど……」
【ましろ】「ならデートで良いんだよ」
……この人は俺にどうしてほしいんだろう。
【しのぶ】「あんたの事を気に入ってるのは間違いないからさ、
大事にしてやってよ。
まあ、あたしがどうこう言う事じゃないのはわかってるけれど、
あの子達にこれ以上……、ん。とりあえず、仲良くして頂戴」
【俺】「……ええ、それは勿論そのつもりですけど」
甲賀先輩は何か言いかけた気がしたけど、なんとなくそれを聞けなかった。
そして、始業のベルがなった。
各々が席に着きHRが始まる。
昔、空手部に何かがあったことは知っている。
どんなことがあったのかまでは知らないが。
ただ、それは俺には関係の無いことだ。
むやみに掘り返したら関係が悪くなったり、
嫌な事を思い出させてしまう事になるかもしれない。
何より、自分の居場所がなくなってしまう気がして、
その恐怖から何も聞けないでいた。
いや、聞かなくて良いことだ。知らなくて良い。
けれど、一度気になったらそれがどんなに小さな事でも確実に頭に残り、
何かあるたびにその事を思い出させてしまう。
俺は頭を振り、頭の中に広がった波紋を掻き乱した。
●同日 昼 教室
気だるい午前中の授業も終り、教室の生徒達は昼食の準備をしはじめる。
俺も昼食のパンを取り出すが、いつもなら開けて齧ったあたりで
久々津さんがお誘いに来るから、なんとなく待ってみる。
しかし今日に限ってそれは無く、ちょっと期待してた俺涙目状態。
仕方が無いのでパンを開けて一口齧った。
【舞】「遊佐せんぱーい、おいやすかー?」
……狙ってやっているのか、この子は。
俺は開けたパンをしまい久々津さんに連れられ中庭に出た。
●同日 昼 中庭
【村崎】「ほお、それで良い道着は見つかったのかい?」
【俺】「ええ、おかげ様で。まあ、すこしブカブカですが」
【都】「にゃはは!すぐ丁度良くなるで?
ちゃんと真面目にやっとればなー」
【舞】「朝、大事に道着担いどりはりましたなぁ」
【俺】「うっ……」
俺達はいつも通りに中庭にてお昼を頂いていた。
いつもの場所のいつもの木陰で、いつものメンバーがいつも通り集まっている。
武僧先輩が作ってきてくれたお弁当を皆で突き、
午前中の授業の話などの世間話をするのが日課となっている気がする。
冷房の効いた室内も良いが、やはりお弁当は外で食べるのが一番美味しい。
少し暑いが、この木陰が日を遮ってくれているので大分マシだった。
時折吹くそよ風がとても心地よい。
【村崎】「では、今日から部活が一層楽しみになるな」
【俺】「ええ、気が引き締まって頑張れる気がします」
【舞】「ほなら、今までは頑張っとらんやったんか?」
【俺】「そんな事は無いよ!?今まで以上に頑張れるってことさ!」
久々津さんはじっとりとした疑いの目を向け、
ぼそっと「みぃ姉の胸ばかりみてただけじゃないの?」と言う。
武僧先輩は困った顔でにゃははと笑った。
【村崎】「ふふ。なぁ、遊佐君」
【俺】「は、はい。何でしょう?」
村崎先輩は珍しく含み笑いをしていた。
【村崎】「たまには舞の胸も見てあげたらどうだ?」
【俺&舞】「……え!?」
【舞】「な、何言ってるんです!?村崎先輩!
舞の胸なんて見たって……!
ってそうじゃなくて!」
久々津さんの慌てぶりを見て村崎先輩はお腹を抱えて大笑いをしている。
薄っすら涙も浮かべて。
まあ、たまには弄られる側にまわってもらうのも良いだろう。
【村崎】「あははははははは!すまんすまん、舞……くくっ!
いや、なに。いつも都か私の話ばかりだからな。
たまには良いだろう。……くくくっ!」
【舞】「うぅ……。遊佐先輩!言われたからって見ないで!」
むむむ……、つい目が行ってしまったがどうだろう。
ぺたんこ、というには少し大きめのふくらみが確認できる。
まだまだ成長過程のその小ぶりな胸は、なんとなく清楚な感じを漂わせている。
今後の成長に期待したい。
と、久々津さんの胸をじっくり見ていると、突然目の前が暗くなった。
そして眉間に圧力が加わるとそのまま勢い良く押し倒された。
つまり、久々津さんにグーで殴られた。
その後、お昼休みの間はずっと俺に背を向けたままの久々津さんだったが、
なんとなくその表情は穏やかであった気がする。
午後の授業が終り、用事のない生徒は足早に帰宅の準備を始める。
俺も更衣室にて道着に着替え、活動場所へと急いだ。
活動場所にはまだ誰も来ていなかったが、
準備運動をして待っていると程なくして皆が集まり、部活動が始まった。
体作りから始まり、今日は基本的な型を教えてくれるようだ。
まずは体の動かし方、突きの出し方、蹴り等の全ての基本動作を習った。
勿論、ただ習っただけでは上手く出来るわけも無く、
これからはこれらを練習していく必要があるだろう。
そして、武僧先輩と久々津さんが型を披露する。
見よう見真似で良いからと俺も一緒にやることになり、
二人に混じって先輩の指導を受けつつ少しずつ型を行った。
当然出来るわけも無く、一人謎の踊りを踊るおかしな男子生徒Aに成り果てた。
【舞】「全然なっとらんどすなぁ。くす」
【俺】「今さっき教えてもらって、すぐにできるかああ!」
久々津さんは俺を嘲笑した後にとても綺麗な型を俺に見せて、「こうどすえ?」と教えてくれた。
自分と比べるのも申し訳ないほどだったが、見よう見真似でそれに続くがどうにも上手くいかない。
【都】「にゃはは!初めっから出来る人はおらん。
少しずつで焦らんでええで?
でも、遊佐君は目も感もええから、すぐ出きるようなる」
暫くの間、俺は二人に指導してもらい、型を覚える事から始めた。
【都】「ほな、今日はこれまでや!」
【舞】「はーい」
おしまいか。
しかし、もう少しで何かコツが掴めそうな気がしていた。
疲れてはいるが、忘れないうちに何とか物にしておきたい。
【俺】「あの、もう少しでコツを掴めそうなんで、少し自主練していきます」
【都】「ふむ。ほなら、あたしも付き添うで?
見れる人がおったほうがええやろ」
【舞】「え~、下校時間も過ぎてはるし、遊佐先輩も疲れてはるし、
今日はもうしまいにしといたほうがええんちゃいますか?」
【※選択肢分岐検討中ポイント 】
【久々津シナリオに突入? 】
【武僧シナリオのきっかけが起きなかった場合のシナリオとか。】
【俺】「けど、もう少しなんだ。もう少しで何か掴めそうで」
【都】「せやなぁ。その気持ちはわかるで?
それに疲れとる時の方が、余計な力が抜けて上手くいくかもしれんなぁ。
せやから舞、先に帰っといてくれへん?」
久々津さんはぷーっと頬を膨らますと「二人きりになりたいだけでしょ!?」と言って、
そっぽ向いてしまった。
武僧先輩は顔を赤くしながら慌てて言い訳をしている。
俺はというと、武僧先輩と二人きりになれるのはうれしくもあるけれど、
それよりも久々津さんの反応が気になっていた。
怒っていたと思ったら、一瞬だけ表情が消えた気がした。
しばらく武僧先輩とやり取りした後、久々津さんは不機嫌が治らぬうちに去ってしまった。
【都】「にゃはは……、怒らせてしもた。
ほな、少しやってみよか?」
【俺】「あ、はい。お願いします!」
武僧先輩は暫く俺の自主練に付き合い、指導をしてくれた。
でも、少し上の空のような気がした。
久々津さんを怒らせたことを気にしているのだろうか。
久々津さんが帰ってから十分と少しくらい経った時だった。
【都】「遊佐君、やっぱ帰るわ。
舞のこと心配やし……」
【俺】「了解です、行ってあげてください。
もう十分過ぎるほど教えて貰ったし、
後はそれを意識して実践するのみですから、
先に帰ってもらっても大丈夫ですよ。
ありがとうございました」
武僧先輩は堪忍なと一言言うと、大急ぎで着替えに行った。
去り際に「あんまり長い間やってると、しぃちゃんに怒られるでー!」との忠告も頂いた。
生徒会長に怒られるのはよろしくないな。
俺もそろそろ帰るとしようか。
●同日 放課後 帰路
着替えた後の
帰り道。
俺は一人で帰路についていた。
武僧先輩は久々津さんに追いつけただろうか。
……いや、流石に無理か。
【村崎】「今日は一人で帰宅かい?」
【俺】「あ、村崎先輩。こんばんは、今お帰りですか?」
村崎先輩は、うむと頷いた。
【村崎】「インターハイも近いのでな。少し居残り自主練をしていた。
あまり遅くまでやっていると、しのぶに怒られてしまうがな」
先輩はニコリと笑う。
インターハイ。
そうか、村崎先輩は陸上部のエースだったな。
【村崎】「部活のある日はいつも3人で帰っていたのに、
今日は珍しいな」
【俺】「ええ、まあ……。実は……」
俺は村崎先輩に部活での出来事を話した。
すると、「ふむ」となにやら考え込み、納得したように頷いた。
【村崎】「ふふ!なるほど、なるほど。
君も罪な男だな」
【俺】「え?それはどういう……」
【村崎】「あはは!なんでもないさ、気にするな」
【俺】「はぁ……」
村崎先輩が何を言っているのか理解できなかった。
【俺】「村崎先輩も一人でお帰りですか?」
【村崎】「ん?そうだなぁ……。
普段なら、しのぶと帰りが一緒になる事が多かったのだが、
ここ最近は忙しいらしく、一人で帰る事が多いな」
【俺】「この間、自分家の近くで見かけましたけど、
それですかね?」
俺は自分家の方向を指差した。
【村崎】「ふむ?あっちに何かあっただろうか。
……案外、君に用があったのかもしれないな」
そう言うと村崎先輩は「ふふっ」と笑った。
相変わらず要領を得ない俺は首を傾げることしか出来なかった。
俺の反応を見て村崎先輩は、また「なんでもない。気にするな」と言った。
【村崎】「綺麗な夕焼けだ。明日も暑くなりそうだ」
【俺】「ええ、そうですね」
俺達は他愛も無い世間話をしながら一緒に帰った。
●同日 夜 自宅
今日は武僧先輩のおかげでなんとなく型がはまってきた気がする。
でも、やっぱり三人で帰る方が良かったかな。
結果的に自分が原因で久々津さん怒らせちゃったし、明日あったら謝っておこう。
最終更新:2009年06月15日 02:30