12月・冬。

 いわゆるクリスマスシーズンである。
 浮かれる世の中を恨むもよし。
 愛する人と聖夜を祝うもよし。
 商戦に乗じて、あるいは気心の知れた仲間たちとイベントを企画するのもいいだろう。

 そしてここにも一人、来るクリスマスに備えて一計を案じる者がいた。




 12月に入った昼下がり、子ども達しかいない家の中で、威勢のいい号令が響く。

「隊長!」

 切り出したのはミレディだ。
 何の流れもなく唐突に、である。
 そもそもリビングの上でそれぞれ遊んだり宿題をしている中、ミレディも急に思いついたのだ。
 しかし、思い立ったが吉日というものである。こういうものは勢いが大事だ。

「何だね副隊長!」

 そしてミレディが期待したとおり、弟分たるチェダーも彼女の芝居に乗ってきてくれた。
 隊長(何の部隊なのかは全くわからないが、とにかく隊長)になりきってふんぞり返るチェダーに気をよくしたミレディが、これ以上ない名案とばかりに進言する。
 もちろん、姿勢を正し、右手を水平にして額に添える典型的な敬礼も忘れない。

「このクリスマスに、おばちゃんにプレゼントをあげる計画を提案します!」
「許可する!」

 おばちゃんとは、二人の保護者であるヴィダスタのことだ。
 悲しきかな、本人は全力で否定し続けているにも関わらずこの愛称が定着している。
 当然ヴィダスタの前でこの愛称を使えばその都度彼女から叱られるが、彼女は今掃除婦の仕事で家にいない。

「んで、具体的にはどうするの?」

 ものの数秒でごっこ遊びに飽きたのか、素に戻ったチェダーがとことことミレディのそばへやってくる。
 言われて、ミレディは考え込んだ。
 なにせたった今思いついたことだ。何をプレゼントするのかすらまず考えなければいけない。

「そうやな……おばちゃんって何が一番好きなん?」
「えっとねー……」

 今度はチェダーが考え込む。

「甘いお菓子とね……、かわいいものとね……、あとお絵かきに……」

 指折り数えながら、チェダーが思いつく限りのヴィダスタが好きなものを挙げていく。
 ミレディはそれを宿題に使っていたノートの端に書き込むと、いくつかに丸を付けた。
 額を寄せるように、チェダーもそれを覗き込む。

「絵具とかよさそうやな。あれ意外と高いねん」
「うんうん」
「けどもうちょっとなんかつけたいな」
「リボンとかー?」

 ミレディから離れ、チェダーが壁にかかっていたヴィダスタの上着を頭から被る。
 そしてフード付き外套のように首元を絞り、くるくると回って長い上着の裾をひるがえす。

「包むんはちゃんとやるけど……」

 ふと、ミレディの視線がチェダーを追いかけて止まる。
 見られていることに気付いたチェダーが、ミレディの方を見て回るのをやめる。

「んー?」

 そしてかわいらしく両手を顔の前で合わせ、くりっと首をかしげて女の子のようなポーズをとる。
 それを見たミレディが再びひらめいた。

「あれや! かわええ服も買おう!」
「服もするの?」
「そうや」

 くりっ、くりっとチェダーはまだ左右に揺れて女の子の真似をする。
 ミレディの方ではもう考えがまとまったのか、広げていた勉強道具をあわただしく片付け始めた。

「だっておばちゃんいっつも同じ服やろ? ワンピースくらいあった方がええって絶対!」

 ばたばたと教科書やノートをしまい、よそ行きの服をひっぱり出してきて着替えるミレディ。
 チェダーは不思議そうな顔でそんな彼女を目で追った。

「まずはお小遣いやな。それはみんなの手伝いして稼ぐで!」
「え~!」
「おばちゃんからもらったら意味ないやろ! ほら、チェダーは布とペン探してきい! のぼり作るで!」


 かくして、小さな二人によるクリスマス大作戦が始まった。





 『おつかいいたします!』と書かれたのぼりを掲げ、街中や知り合いを手当たり次第にあたること数週間。

「時は満ちた(キリッ」
「誰に向かって言うてんの」

 クリスマスイブも目前となった夜。ミレディの部屋に二人は集まっていた。
 ドアの外には『立ち入り禁止』の貼り紙をしてある。人払いも完璧だ。
 自然と、話し声も小さくなった。

「だってあとはこれをプレゼントするだけだし」
「まあそうやけどな」

 ヒソヒソとチェダーが指さしたのは、ミレディが大事に抱えている包みだ。
 クリスマスツリー柄の包装紙に、ピンクのリボンがあしらわれている。

「クリスマス前に間に合ってよかったわほんまに」

 プレゼントの形が崩れないように、そして埃がつかないように、ミレディは包みを大事そうに紙箱の中にしまってベッドの下へ押しやった。

「明日渡さないの?」

 まだプレゼントを隠すミレディに、チェダーが首をかしげる。

「ふふん、この作戦はここからが本番やで」

 興奮気味に鼻を鳴らすミレディ。
 彼女の意図がわからず、チェダーはさらに首をかしげた。

「チェダーは、サンタさんからプレゼントもらったら嬉しいやろ?」
「うん」

 頷くと同時に、合点がいったのかチェダーがハッとなる。

「つまりそういうことや」
「なるほど!」

 にぃっと見合わせた二人の顔に笑みが広がる。
 二人の壮大な作戦も、いよいよ大詰めであった。



 そして翌日。

「そうかー、今年のクリスマスは楽しみやな」

 おばちゃん、もといヴィダスタは、顔をほころばせるとミレディの頭を撫でた。
 もう片方の腕にはチェダーがしがみついており、ミレディと同じくにこにこしながらヴィダスタの腕を揺らして遊んでいる。

「そやで! めっちゃすごいプレゼント頼んどいたからな、おばちゃんにもサンタさん来るで!」
「ママにもね、来てくれるんだよ! 俺達が呼んだんだよ!」

 矢継ぎ早に二方向から話しかけられても、むしろ話しかけられるたびにヴィダスタはにこにことして二人を抱きしめた。

「なら今日はみんなで早く寝んとな」
「いややー、うちらはサンタさん見るねん。な?」
「うん、うん」

 頷きあう二人を抱き上げ、「あかんやろー」とヴィダスタは笑った。
 三人でじゃれあうようにミレディの寝室へと向かい、二人をベッドに降ろした。
 ここ最近は三人一緒にヴィダスタの部屋で寝るのが恒例となっていたが、今日だけは「サンタに会うから」とミレディとチェダーが言ったからだ。
 もちろん、それもこっそりヴィダスタにプレゼントを渡しに行くための二人の作戦である。

「夜更かしするような子にはサンタさん来うへんでー」
「寝たふりするからええもん!」
「いいもん!」
「寝ーなーさーい」

 布団にもぐりこみ、形だけ寝る体勢になった二人の頭を、ヴィダスタはもう一回撫でた。

「ほな、おやすみー。ちゃんと寝るんやで?」

 そして何度も二人がベッドにいるか確認して、ヴィダスタは自分の寝室へ戻った。
 もちろん、二人が素直に寝るわけはないのだが。

「ねえ、ミレディ?」

 ヒソヒソと、チェダーがミレディに話しかける。

「なんや?」

 同じくヒソヒソ声でミレディが返事をする。

「……こっそりさ、ベッドを抜けてプレゼント置きに行くんだよね? ……俺達のサンタさんとすれ違ったりしない?」

 うーんとミレディが考え込む。その事態は想定していなかった。

「……その時は謝ったらどうにかなるんとちゃうかな」

 ヒソヒソと内緒話をしながら、イブの夜は更けていく。





 さらに翌朝。

「あああああ!?」

 窓からの日差しを感じると同時に、ミレディの眠気は吹き飛んだ。
 掛布団も吹き飛んだ。
 チェダーも吹き飛んだ。

「うわあああああかーん! 寝過ごした! ってかうちらのサンタさん来てるやん!?」
「わー! ラジコンきたー!」

 ぐしゃぐしゃと頭をかき乱すミレディの枕元には、小さな包みが置いてある。
 さらにチェダーには彼が抱えるには苦労するほど大きな箱が。
 速攻で封を開けて、喜びに部屋を駆け回るチェダーを尻目に、ミレディは頭を抱えた。
 ベッドの下を確認する。
 自分たちが用意したプレゼントは、当たり前だがちゃんとそこにあった。

「……しゃあない、ここは」
















「で、それからどうしたの?」

 お茶のカップをテーブルに置いて、メルルティアが話の先を促す。
 いつも穏やかに微笑している彼女だが、今はとりわけ顔がほころんでいる。
 テーブルを挟んで向かいに座るヴィダスタも同様だ。

「ミレディが頼んだサンタさんは寝坊したんやって。次の朝ちゃんとプレゼントが来たわ」
「まあっ」

 二人してくすくすと小さく笑いあう。外ではメルルティアの娘のルルティと、ミレディとチェダーが遊びまわっている。
 大声で笑い合って話を聞かれてしまうわけにはいかなかった。

「ごめんな、あんたのとこにもお手伝い押しかけてきたやろ?」

 少しだけ苦笑して、ヴィダスタが申し訳なさそうに言う。
 ミレディとチェダーは隠していたつもりだが、大人であるヴィダスタが何も察しないわけはなかった。
 今日フィーク家に訪問したのも、表向きは遊びに来たことにしてミレディの作戦に付き合ってくれたことにお礼を言うためでもある。

「ううん、二人ともよく働いてくれてすごく助かったわよ」
「面倒増やしてへんかったらそれでええんやけど」
「全然そんなことないわよ。プレゼントはなんだったの?」

 聞かれて、ヴィダスタはどこか気恥ずかしそうに、それをごまかすように一口お茶をすすった。

「画材のセットと、可愛いワンピースやったわ」
「だったら今日着て来ればよかったのに」

 メルルティアは上から下へとヴィダスタに視線を向ける。青いバンダナ、長そでシャツ、青いオーバーオールと、目の前の相手はいつもの服装だったからだ。

「夏物やったんよ。多分セールで買うたんちゃうかな」
「あらあら。じゃあ夏が楽しみね」

 ほがらかに期待を膨らませるメルルティアとは対称的に、ヴィダスタは気が進まなさそうだ。
 もともと、あまりおしゃれをしない気質なのだ。それなのに着飾るというのは、彼女にとって恥と照れをもたらすのだろう。
 しかし、

「……そう、やな。暖かくなったらみんなでどっか行こか」

 娘のプレゼントである。着ないわけにはいかなかった。

「そうね、ぜひ。どこがいいかしら」

 まるで少女のように顔を輝かせて今から夏のことを考えるメルルティアに、ヴィダスタはあきらめたように笑った。
最終更新:2013年12月27日 04:53