ふたば系ゆっくりいじめ 592 コールド・ソング

コールド・ソング 18KB


悲劇 観察 理不尽 自滅 家族崩壊 野良ゆ 赤子・子供 都会 現代 独自設定 六作目

「コールド・ソング」

 ・ふたば系ゆっくりいじめ 582 ビルディング・フォレストの続編という形をとっています
 ・人間視点ですが主軸はゆっくりです
 ・駄文注意
 ・いくつかの独自設定を使っています
 ・実質的に自滅
 ・善良なゆっくりがひどい目にあいますご注意を

冬、どんよりとした雲が低く垂れこめ、時折肌を刺すような冷たい風が私と羽付きの頬をなでていた。
まだ昼下がりだと言うのに外はうす暗く、明日にでもこの世が終わりそうな、そんな雰囲気を感じさせる。
だが、人の営みに終わりはない。にぎやかな声と雑踏と人混み、そして大衆料理の空腹を誘うような匂いがアンバランスな活気を醸し出していた。

ここは街の中心部。私はここであるゆっくりの過酷な生活を垣間見る事となった。
羽付きがキョロキョロと回りをうかがないながら跳ねている。
何かと思えば路地裏の通りを見ている様だ。

そしてある料理店の裏通りの前に立つと、ゆっくりと進んでいった。
私も歩を進めていく。
路地裏や裏通りなんて基本的には広い所は荒涼としているか、汚いものだ。
人が二人横に並んで通れるほどの狭い路地裏を歩いていく。
地面が油カスの様な黒くススが付いて、そして湿っていた。歩いていて感触のいいものではない。
パイプが壁を這い、ガスタンク類が雑多に置かれたその狭い空間にポツリとボロボロのダンボール箱が横にして置かれていた。
所々シミの様な物があり、じっとりと湿っている部分がある。端の方はよれよれで所々千切れていた。
ゆっくりが「おうち」にするにはずいぶん痛んだ物だが…私はそう思いながらも羽付きの後ろに立ってダンボール箱を遠目に覗き込む。
確かにそこには二匹のゆっくりが小麦粉の皮を寄せ合って「ゆっくり」としていた。

バスケットボールサイズ…よりは一回り小さいが恐らく成体であろう「ゆっくりありす」とその子ゆっくりだろうか?ソフトボールサイズの「ゆっくりまりさ」だ。
通常ゆっくりの「おうち」なら古タオルや食料を入れる空き缶などが置いてあるはずである。だがそれがなかった。
直接ダンボールに底部をおろし、本当に何もないダンボールの中でいるだけといった感じだ。
見た感じであるが標準的な街ゆっくりの風貌だ。

小麦粉の皮は何か脂(砂糖水か水飴であるが「脂」の様に見える)の様な物がテカテカと光っている。
さらに生傷だらけだ。底部の方も皮が厚くなってひび割れながらもガチガチとした触感を思わせ、砂糖細工の髪もホコリやゴミのきれを巻き込ませて全体的にボサボサだ。
ありす種は飾りが比較的小さいので結構丁重に手入れしてあるのかまだ綺麗な方だが子まりさの方は帽子の上の尖った部分が無くなって上に穴が開いており、ツバの方もボロボロでいくつか切れ込みが入っている。
巻きつけてあるはずの白いリボンもなかった。どこかで落としたのだろうか?

私がメモ帳にその様子を書き入れている傍らで羽付きがポツリポツリと説明を始めた。
曰く、飲食店の裏と言うのはゆっくりがよく集まるところらしい。食べ物のにおいにつられてやってくるのだ。
当然路地裏にはビールケースや色々な物が雑多に積まれているので「おうち」にするには事欠かない。不衛生な事を除けば最高の立地条件と言える場所だと。
だが、ずっといられるかというとそうではない。当然だがゴミ袋を破りゴミ箱をぶっ倒すような迷惑な行為をする饅頭を置いておくほど気前のいい人間などいる筈がないのだ。
大概はあっという間に見つかり追い出されるか潰されるかしてお終いという話である。
「…あのありすとれいむはたぶんごはんさんのにおいにつられてきたとおもうんだぜ、あのようすやまわりをみてもあんまりゆっくりできているとはいえないとおもうんだぜ」
そう推測を立てる羽付き、私は詳しいその説明に相槌を打ちながらそのありすと子れいむに目を向けた。

「ゆ~んゆゆ~♪」
「おちびちゃんはおうたさんがじょうずね!とってもとかいはよ!」
子まりさが小麦粉の皮を上下にのーびのーびさせて歌を歌っているのをにこやかに眺めるありす。
その様子を見てだから断定はできないが「ゲス」ではないかもしれない。
番いのゆっくりは子まりさを見るにまりさ種だったのだろうか?だが今となってはそれも確信があるというわけでもない。

「ゆゆ!ありすもいっしょにうたうわ!ゆっくりあわせてね!」
「ゆ!わかっちゃよ!」
今度は二匹が同時に体をくっつけて歌い始めた。
「「ゆ~♪ゆゆ~♪」」
見つかれば即叩き出されると言うのに緊張感がないゆっくりの様だ。

十分近く歌い通してひと通り歌い終わると子まりさはありすにくっついて上下を伸び縮みさせて小麦粉の皮を擦りつける。ありすもそれに呼応するように上下に体を擦り合わせ始めた。
「ゆゆ~ん♪おきゃあしゃんしゅーりしゅーり!」
「ゆゆ!すーりすーり!」
感動的な光景なのだろうが薄汚れたボロボロのゆっくり同士がすーりすーりをしているのを見ればそんな事は思い浮かばない。
何と形容していいのだろうか。下品な言葉遣いかもしれないがしいて言うなら「鼻糞同士を練り合わせる」ような光景として私の目に映った。

暫くすーりすーりを繰り返していたありすと子まりさ。二十分程経った頃にありすが子まりさに何かを話しかけていた。
「おちびちゃん!これからごはんさんをもらいにいくわよ!」
「ゆっきゅりわかっちゃよ!」
狩りにいくのだろうか?だが「もらう」?少し他の街ゆっくりとは違う方法があるようだ。
すぐに飛び出しかねないので羽付きが合図をして先に急いで路地裏から出ていく。私も出来るだけ足早に路地裏を抜けた。
遠目に眺めていると、路地裏の壁から少し身を乗り出すようにヒョコっとありすが顔を出す。辺りをキョロキョロと窺うと、飛び出して跳ねだした。その後ろには子まりさも付いてきている。
「ゆ!ゆ!おちびちゃんゆっくりついてくるのよ!」
「わかっちゃよ!ゆ!ゆ!」
ゆっくりにしては結構なハイペースで道の端を低く跳ねながらどこかへと向かっていく。
街の中心部からほんの少し外れた人通りが多い歩道の端にやってきたありすと子れいむ。
何をするのだろうか?私には想像できない。だが羽付きの方がため息をつきながら憐みの目線をありすと子まりさに送っている。

私はその真意を聞くために羽付きに尋ねた。
「あのありす達は何を始める気だろうか?」
その言葉に羽付きは寂しそうに笑うとこう言った。
「"おうた"ってやつだぜ」
それを聞いて私はあのありす達が何をしようとしたのかようやく理解できた。そうか…お歌、「おうた」を歌うのか。
街を歩くとよく目にする光景だ。ゆっくりが路上で「おうた」を歌うというもの、前には大体空き缶やまりさ種の帽子などが置かれる。
ゆっくりと言うのは「歌」を歌う習性がある。何か意味めいたものがあるのだろうかどうかは未だ定かではない。
それを歌ってゆっくりさせるからあまあまか金を出せ、というのだ。こう言った弁をストレートに言うのはゲス気質の多いゆっくりだが。本質的には意味は変わらない。
街ゆっくりでこれをするという事はよほど「狩り」がヘタなゆっくりと言う事だ。
あのありすと子まりさを見れば分かる事だが番いの片方をなくしたゆっくりは当然食料調達能力が低下する。
おまけにあのありすは通常のゆっくりより一回り小さい。冬の過酷な競争にはかなり不利だろう。
そんなありすが苦肉の策で編み出したのが「おうたを歌う」と言う事なんだろう。憶測ではあるが大体はあっているはずである。

「ゆ!おちびちゃん!おぼうしさんをそこにおくのよ!」
「ゆっきゅりわかっちゃよ!」
ありすがそう命じて子まりさが舌で帽子を取り払い。逆さにして地面に置く。かなり傷んでいるのだろうか。ベシャっと潰れるように帽子が落ちた。
「じゃあ、おちびちゃんはありすにくっついてね!とかいはなおうたをいっしょにうたうわよ!」
「ゆゆ!わかっちゃよ!ちょかいはなおうちゃをうちゃおうにぇ!」
そんなやりとりを経てピタっと小麦粉の皮をくっつけて。小麦粉の皮をのーびのーびと上下に伸ばしてくねくねと動きながら歌い出す。
「ゆ~♪ゆゆ~♪ゆ~っくり~してい~って~ね~♪」
「ゆ~ゆっきゅり~ゆゆゆ~♪しちぇ~いっちぇね~♪ゆっきゅり~♪」
私は音楽の事に詳しくは無いし、ましてやゆっくりの中での歌がどういった質がもてはやされるのか分からないが、少なくともありすと子まりさの歌う「おうた」と言うのはお世辞にも上手とは言えなかった。
音程も合っていないし(そもそも合わせていない)各々が好き勝手に歌っているといった感じだ。
小汚いゆっくり大小が海で海藻が揺れ動く様な動きでクネクネと体を動かしているのはハタから見ても気分がいいものには映らない。
私は羽付きに尋ねる「あれはうまい方なのか?」と
羽付きは苦笑しながらこう答えた。

「はっきりってへたなんだぜ。ゆっくりどうしならまだしもにんげんにきかせるにはむりがあるんだぜ」
同じゆっくりの目からしても下手な方だそうだ。
それでもありすと子まりさは歌う。その歌声が届いたのか、どんよりとした空から白い雪がヒラヒラと少し舞い降りていた。
「雪の中で歌うゆっくりの親子」――これだけ聞けばロマンティシズム溢れるかもしれないが現実は全く違っていた。
通行人はまるでありすと子まりさがその場に存在しないように一斉に無視して足早に通り過ぎる。
あたり前だろう。変に反応を示せば「あまあまをおいていけ」だのと言われるのだ。それに汚いゆっくりに靴越しに触っても汚れが付いてしまう。
そういった心理が働いているのか、とにかく何の反応も示さない。

その内諦めてどこかへ行くだろうと思って眺めていた私と羽付きだが、その時ちょっとしたアクシデントが起こった。少しだけ強めの風が吹いたのだ。
風んはありすと子まりさにも噴きかかり、子まりさの目の前に置いてある小さな帽子が宙に舞った。ソフトボールほどのまりさ種帽子なのだ。当然かなり軽い。
風にまかせてヒラヒラと雪と一緒に舞いゆく帽子を見て子まりさが声を上げる。
「まりぢゃのおぼうじぢゃんがあああああ!!」
「ゆゆ!おちびちゃんどごいぐのおおおおお!?」
ありすの声を振り切って風に舞う帽子を必死に跳ねて追いかける子まりさ。
風は右に左に地面に落ちてはズズズと動いてさらに宙に舞い上がる。飛んで行ったのは遥か車道の真ん中であった。
「まりじゃのおぼうじじゃん!ゆっきゅりまっぢぇね!ゆ!ゆゆ!?」
「あぶないわ!あそこはくるまさんがとおるのよ!?」
車道に飛び出しそうになる子まりさを間一髪でおさげを口にくわえて止めるありす。

持ち上げられた子まりさは小麦粉の底部をグネグネと動かしそれでも行こうとする。
飾りと言うのはゆっくりにとっては命に等しいもの、危険を冒してまで取りに行くのは当然の行動だ。
「ばなじでえええええ!ばぢぢゃのおぼうじじゃんがあああああ!!あれがにゃいちょゆっきゅりできにゃいよおおおおお!!」
「ゆ!もうとりにいけないわ!」
「じょんなああああああああ!!ゆびぇえええええええん!!まりぢゃのおぼうじぢゃんがあああああああ!!」
帽子は行き交う車に踏みつぶされ二転三転と車道の真ん中を行き交う。遂にはペシャンコになって道のど真ん中に固定されるようになってしまった。
それなりに車の通りが多いのでもう取りに行くのは実質不可能だろう。
ありすの方は砂糖水の涙を滝のように流す子まりさをなだめる。子まりさの方はうわ言のように「ゆっくりできない」とか「いなかものになる」と言っていたのを私は微かに聞いた。
「ゆ・・・しかたないよ…おうたさんをうたうのはやめにしてきょうはおうちさんにかえろうね…」
「ゆううう…おぼうし…まりしゃのちょかいはぢぇきれいにゃおぼうししゃんがぁぁ…」

ありすがゆっくりち跳ねだす。何度も帽子があるところを振り向きながらも子まりさはそれについていった。
私は再びありすと子まりさの後を追う。どうやらあの路地裏に戻るようだ。
「ゆ・・・ゆ・・・いにゃかもにょになっちゃったんだじぇ…」
まりさ種にしては珍しく「とかいは」「いなかもの」の概念を持っている様だ。ありす種が親だからだろうか?
べそをかく子まりさをすーりすーりしながらありすはこんな事を言っていた。
「たとえかざりがなくなってもありすのおちびちゃんだよ!りっぱなとかいはなゆっくりになるわ!」
「ゆゆ…ゆっくりありがとうね…!」
互いにすーりすーりし合い寒天の両目に涙を貯めているありすと子まりさ。
感動的な光景ではないだろうか。私がそう思っていると。

「虫がよすぎる」とそれを見てただ一言羽付きがそう言った。
羽付きはまるで汚いものでも見るかの様な目つきになっていた。明らかに先ほどとは違う。怒りに満ちた目だ。
続けてつぶやくように羽付きが話す。
帽子が無くなった時のたち振る舞いやその後の言動を見るにあのありすは子まりさに「かざりのないゆっくりはいなかもの」とか「かざりのないゆっくりはゆっくりでない」とでも言っていたのだろう。
それ自体を否定する気はないが、帽子が無くなった直接的な理由は帽子の代わりの入れ物を用意すらしていなかったあのありすだ。帽子がなくなる危険性を考慮せずに無くなれば「かざりがなくてもとかいは」等とほざいている。
結局は自分が原因なのを隠していい恰好しただけでないか。羽付きはそう吐き捨てた。
怒っている羽付きは以前見たことがあるが、ここまで怒りを剥き出しにしている羽付きは見たことがなかった。今にも飛びかかりそうな勢いだ。
「…あんなゆっくりはぜったいいきのこれないんだぜ」
だが羽付きは相違行った直後にすぐに平静を取り戻し、ただ淡々とありすと子まりさの様子を眺めていた。
まるで「もう興味すら失せた」といった感じで…





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路地裏に戻っていったありすと子まりさは突然声を上げた。その声に私と羽付きは驚く。
「どうじでおうぢざんがなぐなっでるのおおおおおおお!?あでぃずのどがいばなおうぢがあああああああ!?」
「ゆびええええええええええええん!!おうぢぢゃんがにゃいよおおおおおおおおお!!ゆっぎゅりできにゃいいいいいいいい!!」
「とかいは」かどうかはさておいてあのダンボール箱が綺麗サッパリなくなっていた。恐らく住み着いたとわかった店主がどけてしまったのだろう。
飾りもなくし、食料も得られなかった、その上このアクシデントだ。都合よく淡々と最悪の事ばかり起こっている。
だが驚きはしない。羽付きが最初に話してくれた事を考えればこうなる確率(少なくとも帽子が飛ぶという事は除外してだが)が非常に高いからだ。
さて、「とかいはおうち」とやらもなくなってしまったありすと子まりさ。日が沈むまでにはまだまだ時間がある。これからどうするのだろうか?

「ゆ”…!しかたないわ…あたらしいおうちをさがしにいくわ…」
「ゆぅぅ…まりしゃもうちゅかれちゃんだじぇ…」
「わがままいうなんていなかもののすることよ!ゆっくりがまんしなさい!」
「いなかもの」つい先ほど「とかいは」なんて言った癖にもうこんな事を言っている。
当然アイデンティティーを揺るがしかねない様な事を言われれば従わざる負えないだろう。
子まりさは寒天の両目に涙をためながらぐっとこらえて無言で付いていく。
その表情は「結局は自分はいなかものか」と言ったような無言の抵抗があると私は感じていた。

路地裏を飛び出して再び大手通りを跳ねるありすと子まりさ。
普通に考えて周りにある雑多な物を積み上げて巣代わりにすれば事足りると言うのにわざわざ少ないとはいえ雪の降る外の見つかるかどうかも分からない新たな巣を探して跳ねていく。
それを見れば嫌がおうにもこのありす達は長くはないと感じさる。
「ゆ!ゆ!あんよしゃんがちゅめちゃいよ…」
五分も跳ねた頃だろうか、子まりさが不満を漏らし始めた。ただでさえ寒い気温の中を飛び跳ねているのだ。
子ゆっくりには冷たいアスファルトは堪えるのだろう。
「ゆ!おちびちゃんはゆっくりありすのおくちのなかにはいってね!」
「ゆっくりわかっちゃよ!」
それに対してありすは口をあんぐりと開けて中に子まりさを入れると再び跳ねだす。
どこへ向かうのだろうか?街の中央から離れていっている。

二十分ほど跳ねると大きな公園の前までやってきた。どうやらここを新たな拠点とするつもりらしい。
ありすは口から子まりさを吐き出す。子ゆっくりを口に入れたまま二十分も跳ねるのはさすがに疲れたらしい。目的地まであと僅かなのだから跳ねさせていかせる気だろう。
「ゆ!あそこのこうえんさんならきっととはいはなおうちさんがみつかるわ!もうすこしだからゆっくりがんばってね!」
「ゆゆ!まりしゃがんばりゅんだじぇ!」
公園の入り口まであとはこの道路を横断すればいいだけだ。交通量は案外少ないがよく見ていかなければ車にひかれかねないのでありすと子まりさが渡るまで時間がかかるだろう。
体が少し冷えた私は近くに置いてある自動販売機に向かい羽付きの分と合わせて温かい飲み物を買う事にした。
どうせすぐ追いつく。羽付きだってここまで跳ねて疲れただろう。暖かいお汁粉でも買って飲もうと考えて硬貨を入れてボタンを押す。
丁度ガタンと缶が落ちてきたのと同時だっただろうか。「ブゥゥーン」という音にまぎれて何かの音が聞こえた気がした。
二本の缶を取り出して振り向くと、羽付きが目を見開いていた。いったい何があったのか?ただ事で無いようだ。
「に、にんげんさん…あのありすが…」
まりさの視線の先を見て驚いた。

「いだいいいいいいいい!!あでぃずの!あでぃずのどがいばながおがああああああああ!!」
「おぎゃあじゃああああああああん!?」
そこにはタイヤの跡を半分つけて後ろ半分が潰れてカスタードクリームが飛び散っているありすの姿であった。
羽付きがしどろもどろになりながらも説明をする。それによればもう少しで渡り終えるところで大きな車に巻き込まれたそうだ。
ありすは「ゆぎいいいいいい!!ゆぎぇえええええええええ!?」と言いながらカスタードクリームの後を引いて苦しんみながらも歩道の方に移動していた。
「おきゃあしゃんゆっきゅりよくなっちぇね!ぺーりょぺーりょ!」
子まりさがありすの後ろ半分を舐めている。その度に
「ゆびいいいいいいい!!なべないでええええええ!!」と声を上げるのだ。

私はありすの方に駆け寄った。その様子を見る。
「ゆぎっ!ゆぎぃぃ…!」と呻いて苦しんでいる
右後ろ半分が斜めに潰れていた。カスタードクリームがボトボトと落ちている。砂糖細工の髪の毛がカスタードクリームに交じって点々と残って印の様についてそれが痛々しさを演出していた。
中のクリームの圧力がかかったのか、寒天の右目が飛び出していた。
子まりさがすーりすーりをしながら寄り添って泣いている。
その様子を見てありすはこう言って宥めていた。
「ゆひゅー・・・ゆひゅー・・・ゆ”…!ありずはだいじょうぶだよ…おぢびぢゃんゆっぐりなぎやんでね…」
「ゆびえええええええん!!きょわいよおおおおおお!!」
口ではそう言っているものの長くはないだろう。ぺーろぺーろするにしても場所が場所だしどうしても公園内まで移動しなければならない。
それだけ移動すればクリームが流れ出てしまう。かといってここでとどまるわけにもいかない。つまりは完全に詰みと言う事だ。
離れていると言っても結構近い私と羽付きがいるのに全く気付かない様子だ。それほど周りが見えていない程に動揺しているのだろうか、それとも相手をする暇もないのかどれかは知らないが話を進めている。
「どにがくごうえんざんまでいごうね…ゆ”!…ゆ”!」
「ゆっきゅりてちゅぢゃうよ!ゆ!ゆ!」
ここでありすはやはりというかなんというか、公園内まで移動する事を選んだ。
ずりずりと這いずって移動するありすを手伝うように子まりさが後ろを押して手伝っている

羽付きが私に語りかける。「もういいだろう。帰ろう」と
その目は何か悲しく、そして憐れみをかけているような目をしていた。
私は二本の缶をもったままその場を離れた。羽付きは決して振り返らなかったが最後に私は振り返ってあのありすと子ありすを見た。
既に見えなくなっていたがカスタードクリームの後だけが点々と続いているのをこの目に今も鮮明に記憶している…



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次の日、私は一人であの公園まで来ていた。
羽付きを誘ったが別の仕事があると言って断られたのだ。
無理もないかと私は思う。目の前でゆっくりが轢かれたのを見たのだ。いくらそんな事は珍しくないとはいえ何度見ても見慣れるものではないだろう。

公園に入って辺りを見回す、昨日のありすと子まりさはすぐ見つけることができた。
端の塀の一角に既に物言わぬ饅頭となってだが。
ありすの方は小麦粉の皮が余ってダボダボになったまま舌をだらんと投げ出して寒天の白目をむいて動かなくなってた。砂糖細工の涙や涎の後を見るに、かなり苦しんだようだ。
もう一方の子まりさの方はデロデロに溶け出していた。恐らくだがしーしーをかけられたのだろう。
潰れるように溶け出しているため表情はもう分からない。やられたのは公園に入ってすぐだろうか、それともその夜だろうか?今となっては定かではない。
私はありすと子まりさだった饅頭に手を合わせて目をつぶると、そのまま振り向いて歩き出した。
公園には多種多様のゆっくりがいる。見かけたかぎりではベンチの前に何かが置いてあるのか固まって何かを熱心に食べているゆっくりの集団を見た。
木の下で寄り添うようにすーりすーりしている番いもいる。
冬だと言うのに外に出るゆっくりが多いようだ。それほど余裕があるのか、食料を今でも集めなければならないほど逼迫しているのか、それすらも分からない。
私は振り返らずに公園を出ていった。

帰り道で歌を歌っているゆっくりに出会った。家族づれだろうか、れいむ種とまりさ種の番いと3匹の子れいむが新聞紙をひいたうえで体をくねらせて歌っている。
私はポケットの中から飴玉を取り出すと、前に置いてある空き缶の前にひとついれた。
ゆっくり達は「ゆっくりありがとうね!」と言うと再び歌い始めた。
また私は振り返らずに歩きだす。どんどんゆっくりの歌が遠くなっていき、ついには聞こえなくなった。
家路につくと中に情景が頭をもたげる。別の事を考えてもふとした拍子にまた思い浮かんでしまうのだ。これはどうしようもないのかも知れない。
あのゆっくりの歌とありすと子まりさの歌声、そして舞うように降っていた雪の光景はいつまでも、いつまでも私の記憶から離れない―――



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感想

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  • ↓たしかにその通りだな! -- 2013-06-18 03:48:55
  • 主人公が最後に飴玉あげたけどやっちゃダメでしょ
    おうたを歌えばあまあまもらえるって学習しちゃったら、そこに居着いて迷惑行為をやり
    続けちゃうでしょ -- 2013-04-11 23:21:26
  • 嫉妬かなんかしらんがいつもキチガイが出るな。 -- 2013-03-25 18:40:15
  • ↓6 でお前は何で見てるのかな?キチガイ君w -- 2012-10-02 00:35:40
  • つーか、ゆっくりが街に住むのはデメリットが多すぎるんだよな
    -- 2011-10-29 20:49:42
  • ↓↓↓↓ハゲェェェ吹いたwww -- 2011-08-11 14:11:34
  • ステアウェイトゥゆっげえってなんですか? -- 2011-07-09 23:10:56
  • なんだとっ!?羽根突きは死なんぞ!
    あれは私の道具だ!私が師の意思を継ぎ、ステアウェイトゥゆっげえを完遂するための道具なのだっ!
    だから私の許可無く死ぬことなど許されぬっ!道具は道具らしくしていればよいのだっ! -- 2011-07-09 19:56:34
  • ↓一応、ここに収録されてない話で死んだからね -- 2011-03-01 18:27:47
  • んで羽付きとかいうキモい厨二ゆっくりはいつ潰すの?
    なになに?僕の考えた強くて賢くて格好良い羽付きは潰さないだって?
    キモいんだよハゲェェェ!!! -- 2011-03-01 15:51:40
  • このドキュメンタリーは名作だなぁ。
    物悲しさが出てて素晴らしい -- 2010-10-17 22:18:04
  • ちぇんはらんしゃまといるからさみしくないんだよー
    わかるよー -- 2010-09-27 22:11:52
  • ゆっくりは街では絶対に幸せにはなれないという何か暗黙の空気を感じます。 -- 2010-09-01 01:02:18
  • 街でゆっくりが生きていくことがどれだけ大変かわかる -- 2010-07-18 13:38:24
  • かなしい。 -- 2010-07-15 18:38:40
  • 終末感というか絶望感がいい感じにゆっくりしてますね。 -- 2010-06-15 19:12:50
  • ドキュメント物いいなあ -- 2010-06-09 01:13:23
  • 良作発見! -- 2010-05-17 22:21:25
  • ぢのぶんさんがしっかりしててくおりてぃさんがたかいよ!!よみやすくてゆっくりできるよ!! -- 2009-12-21 01:24:20
最終更新:2009年12月18日 21:02
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