ふたば系ゆっくりいじめ 960 Can ゆー defend? 中編

Can ゆー defend? 中編 20KB


虐待-普通 悲劇 理不尽 ツガイ 野良ゆ 姉妹物 赤子・子供 現代 虐待人間 愛、おぼえていますか 大分間が空いての投稿です

書いた人 ヤリまむあき



『Can ゆー defend? 中編』




一、
 傍らにはありすの亡骸、そしておうちの外には人間さん達。
 つい先刻までゆっくりしていたとは思えないほど、まりさの顔は青褪めていた。

「こいつらもやるんだろ?」
「当然。宇宙生物は倒さなきゃ」

 少年達は、バットやハサミなどを手に持ちながら物騒な会話をわざとまりさ達へ聞かせていた。
 そうする事でより恐怖感を煽る為である。

(……このにんげんさんたちが、ありすをゆっくりできなくさせたんだね!!!)

 ありすが死の間際に言った言葉は彼らを指していたのだ。

(まりさたちは、ゆっくりしてただけだったんだよ……。ありすも、とってもゆっくりできたいいゆっくりだったのに……。それをっ!!!)

 眉を寄せ、普段は笑顔を絶やさないその顔が怒りで歪んだ。

「れいむ!! ゆっくりしないでおちびちゃんたちをおうちのおくに!!!」
「わかったよ!!!」

 ゆっくりらしからぬ深刻さは家族にも伝染し、妻のれいむもできるだけ子供達を奥へと避難させる。
 出口が抑えられている以上、逃げられはしないからだ。
 更に自身は巣穴の入り口でありすだった物を背に、膨れて威嚇をする。

「ぷくぅうううううううううううっ!!!」

 全身全霊の力を込めたぷくー。
 その体は入り口を防ぎ、愛する家族を凶悪な侵略者達から覆い隠した。

「奥へ逃げたか」
「ぷくぅううううううううううっ!!!」

 肺活量が続く限り、いや、何度でもぷくーをしてやる。
 まりさは己が人間に劣るとは欠片も思っていないが、あのありすですらぼろぼろにされた相手だ、自分が戦っている間に家族が殺されてしまうかもしれない。
 だから自慢の体を盾にして家族を守るのだ。
 こうすれば絶対に安全、そう思ったのである。
 膨らんだまま少年達に立ち去るよう警告した。

「こ、これでもうれいむたちはあんぜんっだよ!! だから、はやくあきらめてどこかいってね!!」

 相手が諦めて何処かへ行くのを待つのは、非力なゆっくりが野生生物を相手にする時には上策だっただろう。
 捕食目的の野生生物は体積の大きい成体ゆっくり一匹を食らい尽くせば大概は満足し、残された家族を己の命と引き換えに守る事ができるからだ。
 しかし、まりさの相手は遊びが目的の人間の子供だった。
 彼等はあらゆる手段でまりさ一家を甚振り、目的を遂行しようとするだろう。
 まりさが人間にとっては全く意味の無い威嚇をした事により、彼等の嗜虐心という火に油を注いでしまったのだ。

「生意気だよな、ナマクビマンジュウのくせに」

 軽く腕を振りかぶって、まりさの額を平手で打つ。
 すぱぁん、と小気味良い音がした。

「ゆ゛……!!」

 打たれた所がじんじんと痛み出し、赤く染まる。
 目元に光る物が見え始めたが、それでもまりさは耐えた。
 叫んでしまったらぷくぅーの姿勢が解けてしまう、そうなれば家族はどうなるのか。

(……こんなの、ぜんぜんいたくないよっ! まりさは、おとうさんなんだよ!! いっかのだいこくばしらとして、かぞくをまもるんだよっ!!)

「それ、それ!」

 すぱぁん、すぱぁん。

「ゆぶっ! ゆびっ!!」

 ただ脹れる事しかできないまりさの顔に何度も平手が落とされ、幾つもの紅葉が散らされる。
 呻き声が歯の隙間から漏れるが、まりさは未だに膨らみ続けていた。

「やめてえええええええ!! まりさ、まりさあああああああっ!!」
「おとーしゃんをいじめりゅなああああああ!!」
「れいみゅのおうたでげんきになってにぇ!! ゆ~っくりしていってにぇ~!!」

 まりさが打ち据えられる音は巣の中にも届き、れいむが思わずまりさの後姿から目を逸らしてしまうほど苛烈な物だった。
 子まりさは尊敬する父親が痛めつけられているのを見ている事しかできない自分に苛立つ。
 子れいむはせめておうたで父親を勇気付けようと涙声で歌いだした。
 家族の声を聞き、改めて譲れない物を背負っていることを自覚するまりさ。

(まりさは、つよいんだよっ!!)

 何度打たれても。

(ぜったいに、みんなをゆっくりできないにんげんさんからまもるんだよ!!)

 折れそうな心を奮い立たせて耐え抜く。
 顔から赤く染まっていない部分が無くなるまで、まりさはぷくぅーをし続けたのだ。
 腫れ上がった瞼が邪魔をして碌に見えなくなっていたが、僅かに映る人影を睨みつけるのを止めない。

「こいつ意外と根性あるな。すぐ諦めて泣き出すと思ったのに」

 まりさを叩いていた少年が忌々しそうに言い捨てる。
 腕をぶらぶらと揺らして、疲れを取っているようだ。

「こ、これでわかったでしょ!? まりさはにんげんさんなんかにまけないんだよ!! まりさのおうちだってにんげんさんにこわせないくらいがんじょうなんだよ!! よわいよわいにんげんさんはれいむたちにゆびいっぽんふれられないんだよ!! まりさは、みんなをまもるんだよ!!!」

 少年の疲れを感じ取って畳み掛けるように言葉を叩きつけるまりさ。
 自分を強く見せるためだ。
 まともに戦えば自分の方が強いと思っているのでその口調は無駄に自信に満ちている。
 そんな頼もしいまりさの背中を見た家族は安堵した。
 ああ、やはりまりさは強いのだ、恐ろしい敵から自分達を守ってくれる。

「「「「おちょーしゃんちゅよーい!!!」」」」

 既に勝った気分で巣穴の中をゆんゆゆんゆと飛び跳ねる赤ゆ達。
 彼女達の顔に人間への恐れは今や見当たらない。

「あかちゃんたち、しずかにしててね! まりさはとってもつよいからあんしんだけど、それでもあのゆっくりできないにんげんさんがどこかにいくまでがまんするんだよ!!」
「そうだよ! おとーしゃんはいまたたかってるんだよ!!」
「ゆ~、ゆゆゆのゆ~!!!」

 そんな浮かれている赤ゆ達を嗜めるれいむと子まりさ。
 勝って兜の緒を締めよ、という事を言いたいのだろう。
 子れいむはまだ歌い続けている。
 敵がいなくなるまで、例え喉が枯れても歌い続けるつもりだ。

「いい加減遊ぶのは止めたらどうだ?」

 俄かに活気付いた一家が癪に障るのか、隊長役の少年がまりさを叩いていた少年に話しかける。

「そうだな」

 そう言って、まりさの金髪を掴むと無理やり巣穴から引っぱり出した。
少年はまりさを屈服させられなかったのではない、あえて手加減して弄んでいただけだったのだ。
 本気で叩かれていたならば今頃まりさの歯は砕け、目は潰れ、下膨れの形を保てなくなるまでに追い込まれていたことだろう。

「ゆゆゆ!?」

 確かに通用していた筈の渾身のぷくぅー、その効き目がなくなった事に焦るまりさ。
 空気を吐き出して己の疑問を口にする。

「どうじでまりざのぷくぅーがきかないのおおおおお!? ぷくぅーはすごいんだよ!? ゆっくりしてないどうぶつさんもにげだすはずなんだよおおおお!?」

 前に住んでいた危険な所でも、小型の野生動物は簡単に追い払えた。
 少なくともまりさの目の届く範囲内なら捕食によるおちびちゃん達の死は無かったのである。

「地球防衛軍にはあんなもの効かないのさ」

少年はまりさを引きずり出すと、入り口の辺りに転がっていたありすの死骸を掴んでそれも巣穴の外に出す。
これでれいむ達を守る物は何も無い。




二、
 邪魔者を無力化した少年達は

「網使うぞ」
「よし、邪魔なでかい赤リボンからだ」

 子供達を庇うように巣の奥で震えているれいむをすっぽりと網に収めると、先程戯れに殺したぱちゅりーを捕獲した時のようにずるずると手繰り寄せる。

「おかーしゃあああああん!! れいみゅもうやぢゃああああああ!!」
「おかーしゃんをつれてかないでにぇ!! まりしゃがせいっしゃいっしゅるよ!!」
「おちびちゃんたち!! こんどはおちびちゃんたちがあかちゃんたちをまもるんだよ!! おかあさんはだいじょうぶだよ!!」

 最早おうたを歌うことも忘れて泣く子れいむに、網に噛み付いてなんとか母親を助け出そうとする子まりさ。
 そんな姉達に母れいむは赤ちゃんを守るように言いつけるが、子まりさは網から離れようとしない。

「いやだよ!! まりしゃがおとーしゃんとおかーしゃんをたしゅけるんだよ!!」

 姉妹の中でも父親に似て屈指の身体能力の高さを誇る子まりさは、自分しか両親を助ける事ができないのだと思った。
 子れいむは当てにならない。

(こんなときにおうたなんてなんのやくにもたたないよ!! まりしゃじまんのしゅんそくで、いっきににんげんしゃんからにげるしかないよ!!)

 暗に子れいむを非難しているのは仕方ないだろう。
外に出たら、隙を見て網から母親を助け出す。
 そしておうちの中にいる子れいむと妹達を連れ、父まりさと一緒に何処か人間の目の届かない場所へと逃げるしかない。
 自分より強い父親が倒された強敵、それに自分が勝てる可能性はとても低い。
 だが、妹達の誰もが追いつけない俊足が自分にはある。
 足の遅い妹達はお父さんとお母さんのお口の中に入れば安全だ、速度を落とさずに逃げる事ができる。
 入り口が近づくと、少年の一人が子まりさを捕まえようと手を伸ばした。

(……いまだよっ!)

 網から離れて地面にあんよがついた瞬間、大地を蹴って少年の手を掻い潜る。

「あ」

 子ゆっくりにしては中々速い速度だったので少年は子まりさを捕まえられず、思わず声が出てしまった。
 人間に捕まらなかった事で子まりさはますます自信を深める。

(やっぱりにんげんしゃんはまりしゃをつかまえられないんだにぇ!!)

 所詮人間など力が強いだけだ。
 子まりさは目標を捕まえられなかった少年の手に噛み付く。

「痛っ」

 そしてすぐに離脱する。
 ずっと噛み続けていればダメージを与えられるだろうが、子まりさは一度捕まればゲームオーバー、リセットができない戦いだからだ。

「にんげんしゃんはゆっくりしてないにぇ!! いろいろ、そしてなによりもぉ、はやさがたりにゃい!! まりしゃのしゅんそくはむてきなんだよ!!!」

 勝ち誇る子まりさは父親の元へ駆ける。

(のろまなにんげんしゃんなんかに、まりしゃはまけにゃいよ!!)

 自分の進路を塞ぐように人間が立つ。
 捕まるものか、まりさはお父さん譲りのスプリンターなんだ。

(まりしゃのかれいなすてっぷをみせてあげるよ!!)

「おそいにぇ!!」
「ちょこまかしやがって!」

 迫る少年の右手をバックステップで避けて着地し、再び前に進む。
 股の間を抜ければ人間とてそう簡単に自分を捕まえられない筈だ。
 だが、子まりさは忘れていた。
 人間には、腕が二本あるということを。

「ゆゆっ!?」

 着地硬直を狙った少年の左手が、子まりさの柔らかな肌にがっしりと食い込む。
 今にも勢いに任せて子まりさを握りつぶしかねない形相の少年は、子まりさに噛み付かれた少年へと獲物を手渡す。

「血とか出てないか? 宇宙生物に毒がないとは言い切れないからな。雑菌とかが入ったら厄介だぜ」
「大丈夫、ちょっと抓られたぐらいの痛さだったし怪我は無いよ。でも、かなりむかついたからこいつ殺していい?」

 窮鼠猫を噛むと言うが、子まりさの反抗など全くの無駄であった事が証明された上に少年の怒りを煽る結果になったのだから、おとなしく捕まっていたほうが幾らかましな最期を迎えられたかもしれない。
 必死に生きようとするゆっくり達にとっては酷な話だが、彼女達により良いゆん生を過ごす為の貴重なアドバイスをこの場で言わせて貰おう。
 何事も諦めが肝心、この一言に集約される。

「好きにしな。でも後でだぞ」

 仲間からの許可を得て、噛まれた少年は嬉しそうに笑った。
 そうこうしている間にも他の少年が一家を全て捕獲したようだ。
 ゆ質の子まりさ以外は一箇所に集められ、少年達が逃がさないよう円になってそれを囲む。
 一家にできることは、ただ震えることだけだった。




三、
 子れいむはここからすぐにでも逃げ出したかった。
 元々、子れいむは荒事に向いた性格ではない。
 ただ家族の誰よりもおうたが上手い以外は取り柄の無い、平凡なれいむ種の子ゆっくりでしかないのだ。

「かえしてね! れいむのかわいいかわいいおちびちゃんをいじめないでね!!」
「苛めではない、村を守る為だ」

 れいむが子まりさを解放するよう少年に言うが、彼は聞き入れない。
 それどころかますます手に力を入れて子まりさを締め付ける。

「ゆんやぁああああああ!!! まりじゃぐるぢいからやめでええええええ!!!」
「さっきは速さが足りないとか言ってくれたな。ご自慢の俊足(笑)とやらもこの状況じゃ役立たずだし。それだけ騒げるならもっと強くしてやる」

 泣き喚く子まりさが痛がる様子を楽しむ少年達。
 文字通り地に足が着いていない状態では、逃げることも叶わない。

「まりしゃ……」

 子れいむはかけっこが速いまりさが羨ましかった。
 おうたは確かに自分達の心をゆっくりさせ潤してくれるが、それだけで生きていけるわけではない。
 その点、かけっこといった身体を使うレクリエーションは将来の狩りの訓練にもなるのだ。
 おうたは、何の役にも立たない。
 それでも、子れいむにはそれしかできないのだ。
 子まりさを、大好きな姉妹を助ける為に。

「れっ……、れいみゅのおうたをきけぇえええええっ!!!」

 吃音気味になったが、その声は響いた。
 子まりさを苛めていた少年も手の力を緩め、少し楽になった子まりさが荒い息を吐く。

「ゆひぃ、ゆひぃ……。れ、れいみゅ……?」
「「お、おちびちゃん……?」」
「「「「おにぇーちゃん……?」」」」

 その場にいる者全てに注目され、緊張する子れいむ。
 家族はともかく、少年達に高くから見下ろされるのが怖い。
 しかし、ここが子れいむ一生一大のステージ。
 子まりさを持った少年を見上げると、高らかに歌い始めた。

「ゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆゆ~っくり、ゆっくりぃしてよぉ~♪」

 ビブラートをきかせ、喉の奥からメロディーに乗せた音を発する。
師である母をも凌ぐおうた。
今は亡きありすお姉さんからも褒められた都会派なおうた、それで少年達の荒んだ心をもゆっくりさせる作戦だ。

「ゆわぁ~! おにぇーちゃんのおうた、しゅっごくゆっくちできりゅよぉ~!!」
「れーみゅしあわしぇーでちーちーしちゃったよ……」
「なんだきゃぽんぽんがぽかぽかしてきたにぇ!!」
「おにぇーちゃんはちょーじくーゆんでりぇらだよ!!」

妹達はその美声(ゆっくり基準)に聞き惚れ、ゆっくりし始める。
赤れいむ達は感動してうれちーちーを漏らし、赤まりさ達は心が温かくなるのがはっきりと分かった。

「おちびちゃん、とってもゆっくりしたおうただよ! やっくでかるちゃーだよっ……!!」
「さすがれいむにのじまんのおちびちゃんだよぉ……」

 まりさは愛娘のおうたに感激し、よくぞここまで育ってくれたと嬉し涙を流す。
 れいむも自分似の娘の気高い行為に満足そうだ。

「ゆゆゆゆゆぅ~ゆゆ~ゆぅ~♪ ゆっくりぃしてぇ~たとぉ~きをぉおおお~♪」

 おうたがサビの部分に入り、ビブラートをきかせる。
 今の子れいむが持てる最高の歌唱技術を駆使した一曲だ。

「れいみゅ、すごいよ……。かっこいいよ!!」

 子まりさは頼りないと思っていた子れいむがこんなに凄いゆっくりだと知って驚いていた。
 自分の俊足は人間相手に惜しくも敗れ去ったのに、どう見ても戦闘能力が低い子れいむがおうたという武器で人間の心に訴えかけようとしている。
 おうたなんて、と内心馬鹿にしていた自分ですらこれほど感動できるおうたなのだ、何の先入観もなく聞く人間さんはもっと感激すること間違いない。

「「「「……」」」」

 少年達は一言も喋らずに佇んでいる。
 それを見た子れいむは自分のおうたが彼等の心を癒したのだろうと勝手に解釈した。
 そして、おうたがクライマックスを迎える。

「あいらぁ~びゅ~ゆ~♪」

(かんぺきっ、だよ!!!)

 しん、と周囲から物音が消え、家族が一斉に子れいむを褒め称えた。

「おちびちゃんさいこうだよ!! かがやいてるよ!!」
「もうれいむがおしえられることはなにもないよ!!」
「「「「ゆんこーりゅ! ゆんこーりゅ!!」」」」
「れいみゅはまりしゃよりすごいよ……!!!」

 家族からも今のおうたの素晴らしさは保障され、黙ったままの少年達に子れいむは宣言する。

「さあ、まりしゃをはなしてあげてにぇ!! おとーしゃんとありすおねーちゃんにひどいことしたこともどげざしてあやまってにぇ!!! それからゆっくりしないでかえってにぇ!!! そうしたられいみゅたちはこころがひろいからゆるしてあげるよ!!!」

 子れいむからすれば当然の要求だった。
彼等は愛する家族を傷つけただけでなく、お世話になったありすお姉さんを殺したのだ。
その罪は重いが、自分のおうたで改心した彼等を断罪するのは忍びない。
聖母のような優しさで、子れいむは最低限度の罰で済ませてあげるつもりだった。

「「「「は?」」」」

 そんな事を言われた少年達はどうして今の流れからそういうことになるのか分からない。
 いきなり耳障りな騒音を聞かされたと思ったら、土下座しろだの帰れだの言われたからだ。
 寧ろ、あんなものを聞かされた自分達に謝ってもらいたい。

「そのおみみはかざりなにょ? それともきこえてるのにれいみゅのいったことがりかいできないにょ? りかいできるんならおへんじしてにぇ」

 少年達の様子を変に思ったのか、子れいむは返事をするよう促す。
 隊長役の少年の額に青筋が浮かんだが、なんとか我慢した彼は優しげな口調で子れいむに話しかけた。

「なあ」
「ゆ! やっぱりきこえてたんだにぇ!!」
「どうして俺達がお前の言うことを聞かなきゃいけないんだ?」

 そう聞かれた子れいむは、溜め息をつくと肩を竦めるように、いかにもやれやれといった仕草をした。

「りかいできにゃいだにぇ……。おばかなにんげんしゃんにもりかいできるようにれいみゅがわかりやすくせつめいしてあげるよ。れいみゅはうたひめなんだよ!!」
「歌姫?」
「うたひめなれいみゅのおうたはすごくゆっくりできるんだよ。にんげんしゃんもれいみゅのおうたをきいてゆっくりできたでしょ? だからおれいにあやまるのはとうぜんなんだよ!! れいみゅは、おうたでかぞくをまもったんだよ!!!」

 なんという三段論法。

「隊長、自分はこの宇宙生物の思考回路が理解できません……」
「人間同士でさえ分かり合えないこともあるんだ。我々とこいつ等は、未来永劫に分かり合うことはないだろうな」

 それぞれの役柄に準じて、少年達は正直な感想を吐露しあった。
 あながち、ゆっくりが宇宙生物だというのも思想的な意味で間違いではないかもしれない、と。
 そして、地球防衛軍が宇宙生物に対してすることは決まっている。
 彼等の心が一つになった。
 頷き合うと、一人の少年が子れいむを持ち上げる。

「おそらをとんでるみたい!!」
「「「「赤リボン……」」」」
「れいみゅはれいみゅだよ!! へんななまえでよばないでにぇ!!!」
「「「「マ○ロスと音楽を冒涜すんな!!! 全世界の女性アーティストに謝れ!!!」」」」

 子れいむの下顎と舌を掴むと、力任せに引っ張って引き千切った。

「あ゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛っ!?」

 子れいむは突然の理不尽な仕打ちに目を剥いて絶叫した。
 声にならない声が、音を構成することなく溢れ出す。
 何故だ、自分は人間をゆっくりさせた筈。
 彼等だって感動していたじゃないか。

(れいみゅになんでこんなことするにょ!? あいとおうたはせかいをゆっくりさせるんだよ!?)

 そう言いたくても、発声の為に重要な部位が失われていては自分の意思を伝えることすらできない。

「さっきの騒音より今の方がよっぽど良い『おうた』だぜ」
「同感。こいつ等の叫び声って凄く胸がすかっとするよな」

 ゆっくりのおうたで人間が感動するなどまずありえない。
 感性が根本的に違うのだ。

「おちびちゃああああああん!! おちびちゃんのきゅーとなおがおになにずるのおおおおおお!?」

 自分が守ると誓った家族、それが今危機に晒されている。
 愛妻のれいむに似たとても可愛い顔立ちの子れいむ、父親の贔屓目もあっただろうが、誰からもゆっくりしてかわいいと言ってもらえた子だった。
 自分に似たハンサムな子まりさ同様、何時か一人前になった時は思わず泣いてしまうのだろう。
 そう考えていたほど、目に入れても痛くない子だった。
 その愛らしい顔が見るも無惨に崩れている。

「あ゛ー!! う゛あ゛ー!!」
「お前、守るとか言ってたよな」

 今度は子れいむの揉み上げの片方が引き抜かれた。

「!!」

 痛みで身をよじる子れいむはまた叫ぶ。

「守ってみろよ」

 言われなくても守るつもりだ。
 さっきはされるがままだったから不覚を取ったが、自分の体当たりなら人間を倒せる筈!

「ゆっくり、しねぇえええええええ!!!」

 子れいむを甚振る少年の足に体当たりをするが、びくともしない。

「ゆ? なんできかないの? やせがまんしないでさっさとしんでね!! おちびちゃんをいじめるやつはまりさがぜったいにゆるさないよ!!!」

 ぽすっ、ぽすっ、と弱弱しい音と共にまりさは体当たりを繰り返す。
 蟷螂の斧、といったところか。

「分かったろ?」
「ゆへぇ、ゆへぇ……」

 まりさが疲れ切った所で、少年は子れいむへの虐待を再開した。
 下顎だった部分の傷口から餡子をゆっくりと穿り出し、子れいむの身を少しずつ削っていく。

「やめろおおおおおおお!! れいみゅをはなしぇえええええ!!!」

 子まりさは目の前で子れいむへの虐待の一部始終を見せ付けられた。
 目を逸らそうとする度に、そうすれば子れいむをすぐに殺す、と脅迫され現実から逃げることもできない。
 まりさ同様、家族を守れない無力さに打ちひしがれているのだ。

(ゆ……)

 子れいむは、朦朧とする意識の中で自分が二度とおうたを歌えないことを理解した。
 物理的な意味でなく、もうおうたの歌詞すら忘れてしまうほど餡子が身体から失われているのだ。

(おとーしゃん、おかーしゃん、まりしゃ、かわいいかわいいれいみゅのいもうとたち……)

 家族を見ると、誰もが自分を見て泣いていた。
まだ目は見えるが、直に視覚すら奪われるだろう。
 少年が片手間に指を子れいむの目元に近づけた。

「え゛っ」

 寒天の目玉は容易く圧力に負けて押し潰される。

(れいみゅのつぶらなおめめが……!)

 痛くても、騒ぐ元気すら残っていない。
 口から出るのは先刻までの歌声とは似ても似つかない濁声だ。

(れいみゅ、もういきててもしょうがないんだにぇ)

 唯一の取り柄すら失い、可愛いと密かに自負していた顔も二目と見られなくなってしまった。
 おまけに、しっかりと発音できない為、さあおたべなさいをして自殺することすら許されない。
 少年が飽きるか、中枢餡が破壊されるか。
 子れいむが責め苦から解放される可能性はその二つしかなかった。

「飽きた。返してやるよ」

 少年が子れいむを横たえると、まりさは急いで子れいむを治療しようとするが、すぐに手の施しようがない事を理解してしまった。
 なまじ状況把握ができるだけに、結果が絶望的だと。

「お゛……」
「おぢびぢゃん!! しゃべっぢゃだめだよ!!」

 涙声で子れいむを少しでも苦しませないようにするまりさ。
 子れいむもまりさの気持ちは知っていたが、あえて何かを伝えようとする。

(おとーしゃん)

 「お゛」

 だが、少年の足が、言葉を紡ごうとする子れいむを無慈悲に踏み潰した。

「ご対面~」

 足をどけると、靴跡と、餡子だけが地面に残っていた。
 まりさとれいむの愛の結晶は、こうして死んだのである。

「おぢびぢゃああああああああああああああんっ!!!」

 まりさの慟哭が響き渡る。
 子れいむの美しい歌声は、二度と聞こえないのだ。
 遊びはまだ、終わらない。








明らかに前編より長い中編です。今回は子れいむだけ殺りました。
ゆっくりのおうたやまもるよっは死亡フラグ。
まだ七匹残っていますが後編にて。
ヤリまむあきでした。


トップページに戻る
このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
感想

すべてのコメントを見る
  • 最初善良と普通のゆっくりかと思ってたが、本性を見たからか今にもひゃっはー!したくなりました!!!
    続編楽しみや! -- 2025-07-13 16:06:30
  • ふぅーー最高の展開だよー!!!
    後編が楽しみ過ぎるZEぇぇ!! -- 2011-11-16 05:30:48
  • >>何事も諦めが肝心、この一言に集約される。
    ワロタww

    語りが上手いなぁと思いました。
    良いねぇ、自信過剰な奴を叩き潰す所にキュンキュンします! -- 2010-11-30 20:32:21
  • マクロスだけにまさにイツワリノウタヒメだったな
    おうたで家族が救えるわけないでしょ?馬鹿なの?死ぬの? -- 2010-09-28 23:43:32
  • なにが「うたひめ」だっつーの。よくもまあここまで自身を過大評価できるよなあゆっくりってのは。でもここまで堂々としてるとなんか羨ましくもなる。こんな自信どこからくるの? -- 2010-08-27 22:35:27
  • 普段はド低脳なのに泣き叫ぶ時の無駄な比喩に吹くw -- 2010-08-26 14:13:31
  • 親まりさに平手を食らわせているところがとてもゆっくりできたよ
    子供のこんな軽い暴力でも、ゆっくりにとっては絶大な脅威なんだね~
    いとも簡単に制圧されてしまうゆっくり家族にわくわくするよ~ -- 2010-08-18 03:37:22
  • 子れいむの虐待されるとこすごくいいね!!こんな自意識過剰なやつは実際人間でもムカツクもんな。 -- 2010-08-17 10:02:06
  • いいぞ子供達!!GJ!! -- 2010-08-06 10:23:18
  • こういう無邪気な残酷さ自分を思い出すわー -- 2010-07-24 00:11:30
  • ざまぁwwwww -- 2010-06-26 17:19:00
  • うわぁ、えぐい -- 2010-06-22 16:08:26
  • すばらしいwwまだまだつづくZEw楽しみだ。


    -- 2010-04-27 19:44:49
最終更新:2010年03月08日 20:28
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。