ふたば系ゆっくりいじめ 1319 ゆっくりと寒の戻り


作:しがないあき



『ゆっくりと寒の戻り』



私はしがない虐待お兄さん。
現在は冬物のコートをクローゼットから引っ張り出し、愛犬・ミニチュアダックスのポチと夜の散歩中である。
ここ数日は寒の戻りだと天気予報が言っていた通り、四月だというのに寒い日が続いている。
だが、寒いからといって散歩はお休みにはならない。
犬は喜び庭駆け回りとは雪の事だが、この程度の寒さでもやはりポチは元気一杯なのである。

「ゆゆっ! じじい、れいむはしんぐる(ry」
……ゲスが沸く事に定評がある近所の公園付近を散歩コースから外すべきか本気で迷う。
何せ、最近は今のように野良のゆっくりから絡まれる事が少なくないのである。
私一人なら即ヒャッハータイムに突入なのだが、如何せん私の隣には尻尾を振ってれいむを歓迎モードのポチがいる。
お陰で私は攻撃出来ないのだが……むしろ最近は、ポチを連れている時を狙ってきているのではないかとすら思う始末である。
「じじい、むししないでね! れいむはしんぐる(ry あまあまを(ry」
それにしても、相も変わらず脳内お花畑な饅頭である。
ここ数日は冬に逆戻りしたみたいな気候だというのに、頭の中が春真っ盛りとは羨ましい事この上ない。
「……テンプレ台詞はもう聞き飽きたぞ。ていうか寒いのによくそんなに動けるな、お前」
「ゆっ? なにいってるの? いまははるさんなんだよ? ふゆさんはもうおわったんだよ? じじいはばかなの? しぬの?」
今の台詞もそうだが、こいつの声のトーンからさり気ない嘲笑を含めた表情まで、もう全てがムカついて仕方がない。
ポチがいなければ即刻ミンチにしてやりたいくらいである。

……それはともかく、こいつはまさか寒さを感じていないのだろうか?
「はるさんはとてもゆっくりしているんだよ! ぽかぽかしてあったかくてしあわせーなんだよ!」
「いや、確かに今は春だが、ここ数日は普通に寒いだろ。天気予報でも気温が五℃とか言っていたし……」
「ゆゆっ? ……いわれてみれば、なんだかさむくなってきたよ……」
……まさかこいつ、春が来たと思い込んでいる為にここ数日の寒さに気付いてなかったのだろうか?
「……ゆわわわわ! さっさささ……さぶいいいいいいいいいいい!」
「こいつ、本当に寒さに気付いてなかったのか……」
恐らくは、ゆっくり特有の"思い込み"の作用だろう。
ゆっくりは人間に比べても凄まじく思い込みが激しく、それがモロに自身に影響するものである。
ご飯を十分に食べていても餓えを感じれば途端に餓死するし、逆に明らかに致命傷を負っていてもそれに気付かず生きている事もある。
まあ、要するにいい加減な生物なのである。
だから、即凍死するような氷点下という訳でもない現在の寒さ程度なら、素で気付いてなくても不思議ではないのだろう。
何せこいつは今の今まで、"もう春が来ているのだから寒い筈がない"と思い込んでいたのだから。
「どっどぼじで!? れいむはさくらさんをむーしゃむーしゃしたよ!? たんぽぽさんだってむーしゃむーしゃしたんだよ!?」
「春は来てるけど寒さが戻ったって事だろ……冬が戻ってきたと言うべきか? まあ、今まで気付かなかったのがすごいな」
「さ、さむいよぉ……どうしてふゆさんかえってきたの……? れいむ、もうおうちかえる……」
ガチガチと歯を鳴らし、れいむは近所の公園の中へ撤収していく。
いつもながらの饅頭のアホさを楽しんだ私は、ポチを連れて帰路に着いた。


※ ※ ※


亡きまりさの忘れ形見である子れいむと子まりさのご飯を探しに出たれいむは、結局何も手に入れる事なく公園の住処へと帰ってきた。
しかも、まるで真冬のようにガタガタと体を震わせながらである。
「ゆ、ゆっくりただいま……」
「「ゆっくりおかえりなさい、おかあさん!」」
「お、おちびちゃん……きょうはごはんはないけど、おかあさんとすーりすーりしようね……」
ダンボールを横倒しにしただけの簡素極まりない自宅に入り、両脇に子れいむと子まりさを侍らせるれいむ。
「すーり、すーり……おかあさん、あったかいね!」
「すーり、すーり……ゆゆーん! ごはんがなくても、まりさとってもしあわせーだよ!」
二匹の子ゆっくりは、最愛の母とのスキンシップに幸せ全開である。
……が、二匹の真ん中に陣取るれいむの方はというと――
「お、おちびちゃん! もっとおかあさんにくっついてね! もっとすーりすーりしてね!」
「「ゆっ……ゆゆっ?」」
と、更なるすりすりを要求する始末。
「お、おかあさんどうしたの?」
「おかあさん、なにかゆっくりできないの?」
明らかに通常に比べて過剰な……まるで、真冬の一番寒い頃のようなその要求は、二匹の子ゆっくりを困惑させ始めていた。
二匹がスキンシップの為でなく、むしろ摩擦熱を生じさせんが為にすりすりを繰り返し始める中で、歯をカチカチと鳴らすれいむ。
なにか、ゆっくりできない――その思いは、確実に伝染していく。

「すーり、すーり……さっささままままままま……」
「すーり、すーり! おかあさん、そんなにふるえてだいじょうぶ!?」
「すーり、すーり! おかあさん、ゆっくりしてね!?」
目を見開き、歯茎を剥き出しにして強張るれいむの両脇で、二匹の子ゆっくりの懸命のすりすりは続いていた。
だが、家がフタもしていないダンボール箱では、隙間風どころか冷たい風がもろに直撃する。
たかが子ゆっくりのすりすり程度でれいむの体温が上昇する筈も無く、むしろ益々下がっていくばかりなのである。
「さ、さむいよぉ……」
「おかあさん、ゆっくりしてね!? いまはもうはるさんだよ! さむいさむいふゆさんはもうおわったんだよ!?」
「おかあさん、きのういっしょにさくらさんをむーしゃむーしゃしたよね! ゆっくりしてね!?」
「お、おちびちゃん……いまはね、またさむくなってるんだよ……ふゆさんがかえってきちゃったんだよ……」
「「……ゆ?」」
れいむの告げた衝撃の一言に、ただでさえ絶望的に動作不良の餡子脳が完全に停止する子れいむと子まりさ。
だが、目の前のれいむの震え方は……今にして思えば、寒がっているのか……は、やがて今の一言と結ばれていく。
「……そういえば、なんだかれいむもさむいきがしてきたよ……」
「ま、まりさも……さむいよ……」
冬型の気圧配置に逆戻りしてから二日目を迎え、ようやくれいむ一家は世間の反応に追い付いた。
……勿論、それは破滅の始まりを意味するのであるが。

ヒュオオオオオ……
「さっさっさっさまままままままままあ!?」
「さむいよおおおおおおおおおおおおお!?」
「さむいいいいいいいいいいいいいいい!?」
今までに無い強く冷たい風が公園を吹き付け、ダンボールの家の中で飛び上がるれいむと子ゆっくり二匹。
"春だから寒くない"という思い込み……言わば彼らの最初で最後の盾が粉砕した今、もはやこの場は地獄と化した。
「お、おちびちゃん! すりすりしてね! おかあさんをすりすりしてね!」
「おかあさん、まりさ! れいむのよこですりすりしてね! れいむさむくてしにそうだよ!」
「まりさをすりすりしてね!? まりささむいのいやだよ!」
狭苦しいダンボールの中で彼らが取った行動は、傍から見れば押し競饅頭。
……よく見てみれば、三匹の真ん中を陣取り、風除け確保&両脇ですりすりさせての体温確保を狙って押し合っているだけなのだが。
「おちびちゃん、おかあさんはさむいさむいでつらいんだよ! ゆっくりりかいしてすりすりしてね!」
「なにいってるの!? れいむはさむいんだよ! かわいそうなんだよ! だかられいむをすりすりしてね!」
「まりさはさむくておなかまですいてるよ! おかあさんはごはんをもってきてね! れいむはまりさをいっぱいすりすりしてね!」
「ゆゆっごはん! おかあさん、れいむにきょうのごはんをはやくもってきてね! たくさんでいいよ!」
「こんなにさむいのにごはんなんてさがせるわけないでしょおおおおおおおお!? ゆっくりりかいしてねええええええ!?」
「「ごはんもさがせないなんておかあさんはげすだね! こどもがかわいくないの!?」」
「どぼじでぞんなごどいうのおおおおおおおおおおおおおお!?」
ヒュオオオオオ……
「「「さっさっさっ……さむいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」」」
互いに温めあう事すら忘れて罵り合う親子には、なおも冷たい風が吹き付ける。
風は喧嘩を一時仲裁し、そしてその直後に再び争いを生み出すのだが……幸いな事に、この風はこの晩、休む事無く吹き荒ぶ事になる。


※ ※ ※


私はしがない虐待お兄さん。
先日の寒い一日から一夜明け、早速今朝もポチとの散歩中である。
出勤前のこの散歩にもすっかり慣れた物だ。朝早くに散歩とは少々年寄り臭い気もするが、今や私の生活の一部になっている。
――おっと、近所の公園の入口に行き倒れゆっくりを発見。
ポチが近寄らないようにリードを短く持ってゆっくりに近付いていく……成体のれいむと、子ゆっくりのれいむとまりさのようだ。
三匹とも見るからに色が白くなっている……間違っても美白ではなく、顔面蒼白という意味で。
恐らくはここ数日の寒さにやられ、公園から逃げ出そうとして力尽きたと言った所か。
「……たす、け……」
おお、成体のれいむはまだ息があるらしい。とは言っても虫の息だが。
「……きのうの、じじい……さむいよ……」
……何だ、こいつはどうやら昨夜の散歩で出会ったれいむらしい。
この分だとあの後、たっぷりと寒の戻りを満喫出来たようだ。
「じ、じい……れいむのさむさをなんとかしてね……あまあまもだよ……そこのげすにはなにもあげなくていいから……」
……昨日れいむはシングルマザーだよ(キリッっとか言っていたのを見るに、横の子ゆっくり二匹はこいつの子供なのだろう。
母性溢れるれいむ種らしいほのぼのとしたお願いである。
ここはれいむの目の前で子ゆっくりをたっぷり厚遇してやるのが適切なのだが……
「まあ、お前の子供には何もやらんよ。そいつらもう死んでるし……」
「ゆ? ……ゆへへ……げすはしんだんだね……れいむをゆっくりさせなかったけっかがこれだよ……」
うーむ、台詞を聞くだけで昨晩の一家の奮闘ぶりが目に浮かぶようである。
それによく見ると三匹とも体のあちこちに傷がある。
わざわざリスクの高い寒い時に親子で血みどろの喧嘩をするとは、さすがはゆっくりだ。

「……じじい……あまあまを……れいむ、さむいよ……」
それにしても余程寒いのだろうか? 何でまだ生きているのか不思議な位に色が白い。
饅頭である事を考えれば皮膚の色として適切な気もするが、それでも欠片も食欲が沸かないのが不思議である。
「……フーッ」
「ゆっぴぉおおおおおおおおお!?」
れいむの前に屈み込んで、口から思いっきり息を吹きかけてみたのだが……凄い悲鳴である。
ポチが怖がらないかと慌てて振り返ったが、ポチは頭上のモンシロチョウを尻尾を振って見つめていたのでセーフだった。
しかし、寒がっているので嫌がらせのつもりで息を吹きかけてやったのに、下手な虐待より凄い悲鳴を聞けるとは予想外である。
「さ、さむさむさむさむさむ……」
「フーッ!」
「ゆっぴっぷっ!?」
もう一度、さっきより強く息を吹きかけてやると、今までに聞いた事がないような悲鳴を上げて硬直するれいむ。
……そのまま全然動かなくなってしまった……まさかとは思うが……やはり、死んでいた。
氷漬けにされたような白さ、顔のあらゆる場所を刻み込んだ深い皺、見開かれた両の眼……れいむの最期は、あまりに壮絶な物だった。
単に冬場に凍死したゆっくりに比べても、実に無残なその姿。
春を謳歌している最中に真冬同然の寒さに晒されたという落差の結果なのか……これは、今後の虐待で試してみたいと思う。
何にせよ、息を吹きかけただけでゆっくりが死んだというのは、虐待お兄さんとして箔が付くのではないだろうか。

私がれいむ親子に別れを告げた時、ポチもまた、頭上のモンシロチョウとお別れの時間を迎えていた。
ヒラヒラと去っていく蝶を少し寂しそうに見ているが、私が歩くのを再開すれば、途端に走って横をぴたりと行進する。
ポチの姿を見ていると、今日もまた、夜の散歩まで一生懸命働こうと思えるものだ。

それにしても、ゆっくりの思い込みがこれ程の面白い事態を引き起こすとは……私は内心声を出して笑いたいのだが、必死に堪えていた。
子ゆっくりがいつ死んだのかは定かではないが、少なくとも今この場で死んだれいむはもうアホとしか言いようがないのである。
ゆっくりの"春なのに寒くなった"という思い込みの酷さは……本当に笑うしかない。

ちなみに、現在の気温は十五度。凍死するには程遠い、実に穏やかな晴れの天気だった。



【完】


このSSへの感想 ※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
 ◆SS感想掲示板
 10作品未満作者用感想スレへ
  ※書き込む時はSSのタイトルを書いて下さい。 コレをコピーしてから飛びましょう→『ふたば系ゆっくりいじめ 1319 ゆっくりと寒の戻り』

最終更新:2010年07月22日 15:00
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。