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降る
ああ、今日もゆっくりが降ってくる。
大学を卒業したものの、就職活動に失敗し、私は数年間フリーター生活を送っていた。
しかし初夏のある日、田舎に住んでいる叔父のから、仕事を手伝わないかと誘われた。
彼は山一つと、その麓にある畑を所有しているのだが、最近畑の仕事が忙しくて、山の方が疎かになっているらしい。
私には、山の管理をして欲しいとの事。
叔父の家に住まわせてもらえるし、美人な叔母が作る、美味しい手料理も食べられるという破格の条件。
当然、二つ返事で了承した。
衣食住が確保されるし、都会の喧騒から離れ、のんびりとした田舎生活もいいな、と思っていた。
しかし、現実はそんなに甘くなかった。
「ゆ゛……ゆ゛……」
「みゃみゃぁ……いぢゃいよぉ……」
「どぼじでっ何もみえないの゛っ」
「ゆぐぼっ、ごぼぁ、ゆ゛っぐり゛ぃ!」
「頭痛がする。は……吐き気もだ……」
何故かごっそりと、すり鉢上に削られた山頂。その中央に、ゆっくりの山が出来ていた。
無事な個体は一匹もいない。どれも傷だらけで、爆ぜていた。
だが、それでも死に切れない多くのゆっくり達が、うめき声を上げていた。
そして、それらの中に時々、
「ゆべっ!」
という悲鳴が、何かがぶつかる音と共に鳴る。
何かが落ちてきている?
私は空を見上げた。
真っ青な夏の、雲一つない快晴。だが、ぽつりぽつりと、黒い点が何個か見える。
少しずつそれらが大きくなる。段々それが何なのか分かってくる。
黒い髪が見えた。黒い帽子が見えた。カチューシャも。後は……ぺにぺに。
「ゆぶっ!」
「ゆぎゃっ!」
「とかいはっ!」
三匹のゆっくりがほぼ同時に落ちた。
下の数多のゆっくり達がクッションになり、中途半端に爆ぜた。そして、彼女達はうめき声を上げるだけになった。
れいむの目は飛び出し、まりさは舌を噛み千切り、ありすの陰茎は折れて飛んだ。
「半年くらい前にな、突然山の天辺から二十メートル程が消失してな」
叔父が、にわかには信じられない事を、さも当然であるかのように言った。
「ゆ゛にゅっ!」ちぇんが降ってきた。
「朝、目を覚ましたら、こんな風に削り取られてたんだ。ごっそりと。理由は分からない。ただ、その日から、天からゆっくりが落ちてくるようになった。放っていたらこの様だ。」
「ちんぼっ!」みょんが降ってきた。
「今までひょっとしたらと思っていたが、どうやらこの辺りのゆっくり達が減らないのは、こんな風にゆっくりが突然出現してたからなんだろうな。
あいつらが忽然と現れる場所。そこが元々頂上があった場所だ」
今まではゆっくりの被害も微々たるものだったので、無視を決め込んでいたらしい。
「むぎゃ!」ぱちゅりーが降ってきた。
だが、こうも大量に見つかっては、さすがに放っておくわけにもいかなくなったようだ。
「じゃおっ!」めーりんが降ってきた。
私の仕事は、ここで苦しんでいるゆっくり達の息の根を、完全に止める事のようだ。
「ぶびゅぅ!」れみりゃが降ってきた。羽があるのに。
このまま同族を喰って生き残って、麓に逃げられても困るのだろう。そこには、叔父だけでなく、近所の住民の畑もある。それらが被害に遭うかもしれない。
そして現在に至る。
作業の詳細はこうだ。
準備する道具は、スコップ、ヘルメット、タオル、飲み物、そして叔母の作った美味しいお弁当。
ヘルメットをかぶるのは、落下してくるゆっくりから、頭部を守るためである。
初日に二度もぶつけられ、三日間程頭と首の痛みが取れなかったから、二度とそのような事の無いようにするための処置である。
いくら柔らかいゆっくりであろうと、上空二十メートルからぶつけられたら、ちょっとした凶器になる。
基本的な手順は単純で、ひたすら、体育館くらいの広さはあるんじゃないかという、ゆっくりの山をぐるぐる回るだけである。
「ゆ……ゆ……ゆぐぅ……」
生きているゆっくりを見つけたら、
「ゆばっ!」
スコップで叩いて潰す。それを延々と繰り返すだけだ。叩くだけでは飽きるので、たまに突き刺して殺す。
昼休みを一時間くらいとっても、のんびりと十周もすれば夕方になる。日が沈んだら帰宅。
叔母の美味しい夕食を食べて、次の日に備えて寝る。
最初は彼女達の断末魔、痛みに悶える苦痛の声がとても辛かった。
何百もの潰れたゆっくりに囲まれ、襲われる夢を見た程だった。
だが、今ではすっかり慣れてしまった。むしろ、ゆっくりの声を聞くのが心地よくなってしまった。
一か月程経った。夏本番。
仕事にもすっかり慣れ、肌も陶器のような純白から、綺麗な小麦色になった。
「ゆぎゃぁぁぁぁぁ!!!いだいぃぃぃぃぃ!!!」
昼の三時頃、いつもの場所で作業をしていると、村中に響く大音量で、ゆっくりの悲鳴が聞こえてきた。
しばらくすると、山頂に叔父が登って来た。
「何ですか、あのゆっくりの悲鳴」
私は彼に質問した。
「ああ、あれはこの村に昔から行われている夏のちょっとした行事だよ。何なら、仕事を早目にに切り上げて、一緒に見に行くか?」
と叔父は言った。
この頃にはすっかり、ゆっくりの悲鳴に魅了されていたので、私はほいほいと彼についていく事にした。
村の公民館の前。そこは大勢の人が集まっていた。
そして、彼らの視線の先には、直径が二メートル近い大きさの巨大なまりさがいた。こちらに底面を向けているが、帽子があったので判別できた。
「これはドスまりさだよ。これから、お盆の恒例行事が行われるんだ」
と叔父は言った。
そういえば、確かに今日はお盆だ。叔父に言われるまですっかり忘れていた。毎日同じ作業の繰り返しなので、完全に日付の感覚が無くなっていたのだ。
「毎年な、八月の初めに、みんなで山狩りをしてな。ドスまりさを捕まえてくるんだ。近くにいない場合は、近所の村の人たちにも協力してもらうんだ」
だが、お盆と、今目の前にいる巨大なまりさは、どのような関係があるのだろう。どうしてそこまでして、ドスまりさを捕まえてこないといけないのか。
そう思っていると、周りの人々が、手に竹の棒を持っている事に気付いた。
そして、それをドスの底面に叩きつける。
「いだいぃぃぃぃぃ!!!あんよ叩かないでぇぇぇぇぇ!!!」
鼓膜が破れんばかりの大音量で、彼女は悲鳴を上げた。全身の皮膚がビリビリと震える。
「こうやって、ドスの底部を叩いて、悲鳴を上げさせて、ご先祖様の霊が道に迷わないようにするんだ。この悲鳴の方向に村がありますよ。と知らせるわけだな。
まあ、ドスまりさの、近くにいるとゆっくりできるという特徴にあやかるって意味もあるね」
何とも不思議な行事があるものだな、と思った。
私が悲鳴を上げるドスまりさを見ている間に、叔父は近くにいた村長と話し始めた。
「村長。今年はどんなドスなんです?」
「ああ、最近丸さんの山で見つかったドスだよ。こいつちょっと変わっててな。後ろ髪を埋め尽くす程、大量のゆっくりの飾りを付けているのに、群も作らずに一匹でひっそり暮らしてたんだよ。
だから、小さいゆっくりに邪魔されずに、楽に持って来れたんだ」
この後、ドスは何百回も底部を叩かれ、皮は赤黒く腫れ上がり、自分では移動する事が出来なくなった。
イベントが終わった後、彼女はトラックに積まれた。秋の行事にも使われるので、大切に保管されるらしい。
そして、そのまま走り去っていった。
「も"うおうぢがえるぅぅぅぅぅ!!!」
という言葉を残して。
秋。
今日はお祭りだから、休んでいいと叔父に言われた。
夕暮れ。私は自分の部屋の畳の上で寝転がる。開け放たれた窓から、涼しい風がそよそよとやって来る。
至福のひと時。
そして、風に混じって、音が聞こえてきた。
「ゆーっしょい!ゆーっしょい!」
チン、ドン、チン、ドン。
「ゆーっしょい!ゆーっしょい!」
チン、ドン、チン、ドン。
威勢のいい掛け声と共に、摺鉦と太鼓の音色も聞こえてくる。
窓から外を覗いてみる。
法被姿の村の男達が、大きな神輿を担いで、道を練り歩いていた。
長い紅白の細い縄が、神輿の前にずっと伸びていて、それを村の子供達が引っ張っている。
摺鉦と太鼓を鳴らすのも、子供の仕事である。
神輿は通常、木組みの上に神殿が乗ったものであるが、この村の神輿はそうではなかった。
神殿の代わりに、大きなドスまりさが乗っていた。
動けないように底部を焼かれ、縄で木の土台に縛り付けられている。
秋に使うというのは、このためであったのか。私は妙に納得した。
神輿が私の住んでいる家の近くまで来たので、祝儀袋を持って玄関の前に出た。
「ゆーっしょい!ゆーっしょい!」
チン、ドン、チン、ドン。
私の目の前で神輿が止まる。
神輿を担いでいた村長が、私の前にやって来た。
祝儀袋を渡すと、日本酒の入ったコップを手渡された。
飲み干す。さすが大吟醸。美味しい。
「わーっ!」
私が日本酒を飲んでいる間、歓声とともに、神輿が大きく上下された。
「やべでね!?もう揺らさないでぇ!えれえれえれ……」
ドスはすでに何回も同じことをさせられたのだろう。何度もやめてくれと懇願し、餡子を口から吐いた。
大きく揺さぶられながら、餡子の雨が降ってくる。彼らの法被は、すでに茶色なのか、青色なのか、分からないほどぐちゃぐちゃに色が混じっていた。
冬。
「はふっ!はふっ!しまふっ!しまふっ!うっめ!これめっちゃうっめ!ぱねぇ!」
仕事仲間が増えた。例のドスまりさである。
毎年村人に捕まえられるドスは、底部をとことん痛めつけられたストレスで、ほとんど年明けまで生きる事ができないらしい。
だったら、せめて私の仕事に使わせて下さいと、村長に頼んだ。
彼も、この山のゆっくりについて、困っていたみたいだったので、すぐに許可してくれた。
彼女の仕事は、ゆっくりを食べる事。
スコップでゆっくりの山を掘り、それをドスの口に投げ入れるのである。
最初は頑として口を開けなかったが、歯を一本折り、そこにゆっくりの死体をねじ込むと、たちまち餡子の甘みの虜になった。
次の日からは「はやくあまーま食べさせてね!」と言ってくる始末である。
彼女は体の大きさに見合う大食漢で、一日に何百ものゆっくり達を食べる。
「ドスぅぅぅぅぅ!!!いたいよぉぉぉぉぉ!!!たすけゆべらっ!」
「おねがいだから噛まないでぇゆぼあっ!」
「無敵のドスパークでなんとかしてくださいよゆっぼぉ!」
「しまふっ!しまふっ!がつがつ!」
彼女は、自分の身の上話を、勝手にペラペラと喋った。
自分はかつて、大きな洞窟の中で、何十匹ものゆっくりを束ねていた群の長だったとか。
後ろ髪の飾りは、事故やれみりゃのせいで死んだ彼女達の形見だとか。
その死臭のせいで、群から追い出されたとか。
とにかくマシンガンのように喋りまくった。そのほとんどは、咀嚼音と混じって、聞くに堪えない騒音でしかなかったが。
彼女はこの村で、初めて自分に危害を加えない人間に出会って、寂しさを紛らわしたかったのだろう。
私もずっと一人で仕事をやって来ていて、寂しかったので、相槌を打ち、時に質問してみたりもした。
雪が降っても、降ってくる量は減らなかった。
むしろ、家族単位で一気に落ちてくる事が多くなった。
向こうの世界も、こっちと同じ季節なのだろうか。冬眠中に落ちてくるのかもしれない。
ドスは相変わらず元気だった。彼女ほどの巨体になると、芯まで凍えないから、冬眠は必要ないのかもしれない。
この頃になると、彼女はもう飲み込むようにゆっくり達を食べていた。噛む事すらしない。
山の大きさが、最初の半分程になって来た。この調子でいけば、五月頃には山が無くなるだろう。
「ゆぼぉ!」
突然、ドスが悲鳴を上げた。とっさにそちらを見る。
彼女の皮が、ぐねぐねとうごめいていた。
そのうねりが、皮の柔軟性を突破した瞬間、餡子の濁流とともに、ドスが破裂した。
餡子の中に、大量のゆっくりがいた。
「ゆぜぇ……ゆぜぇ……でいぶたちを食べる、ドスは……しねぇ……」
「こんなゲス……しんでとうぜんだよ……」
「ドゲスはゆっくりしないで……えいえんにゆっくり、しろぉ……」
ああ、あんなにがっついて、よく噛まずに食べるから。
彼女達が下山するのは困るので、私は手に持ったスコップで処理をした。
れいむを叩く。
「ゆっぼぉ!」
天辺が陥没し、目玉が飛び出し、舌は閉じた歯で噛みちぎられた。
まりさを刺す。
「のぜぇ!」
さあお食べなさいのように真っ二つになった。増えることはなかった。
ぱちゅりーをつつく
「えれえれえれ……」
吐餡してすぐ死んだ。
この日は、何十匹ものドスの中身を処理するだけで終わってしまった。
夜。破裂して皮だけになったドスを埋葬した。
破片が方々に飛び散ってしまったので、かき集めてもバケツ一杯分にしかならなかった。
また、一人ぼっちになった。
いまだにゆっくりは降ってくる。
既存作
SS
絵
ゆっくりSAW、ゆっくりサバイバー、10億分の1のゆっくり
自作SSの挿絵、各種一枚絵
作者:ゲームあき
「ドスの飾りは不名誉の証」の感想に、
「善良なドスが助かってよかった」とか「幸せなゆん生が送れそう」とか書いてあったので、
意地でも不幸せな最期を送らせたくなった。
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このSSへの感想
※他人が不快になる発言はゆっくりできないよ!よく考えて投稿してね!
- これ希少種も降ってくるのかな。だとしたらオレンジジュースかけて売って金儲け・・・無理かな -- 2015-07-16 19:13:37
- >ゆっくりをほめる感想の何処が良い感想だよ.
意味不 -- 2012-02-22 20:04:25
- たまにはこう言う淡々と虐殺していくSSもいいね -- 2011-11-16 21:49:25
- めーりんだけは仕事でも潰したくないな
あとは金払ってでも潰したいけど -- 2010-08-22 00:14:00
- 他の人の感想にコメントつけて話そのものに対する感想をつけない奴とか
ゆっくりになりきってわけわからん事言ってる感想よりかはまだ良い感想なんじゃない?
ゆっくりを褒める感想もそのSSの内容に合っているんならそれはそれで良い感想だと思うけど?
降って来た時点で全員即死しないところを見るとこのゆっくり達は中々頑丈だなあ
ドスの体がいきなり破裂はさすがに展開とかに無理がある気がするけど……
無理してでもドスを殺したかったんだろうしなあ、仕方ないんだろうか -- 2010-07-23 14:03:55
- ゆっくりをほめる感想の何処が良い感想だよ -- 2010-07-23 02:21:38
- 希少種は降ってこないのかな?めーりんが降ってくるぐらいだから… -- 2010-07-08 00:51:47
- いい感想→意地でも悪い方向に=いい感想を言いにくくなる
マゾ? -- 2010-02-26 22:20:30
最終更新:2009年10月21日 16:18