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Fairytale in Blood(Deco Online private story)

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男『今回は難民軍の要撃を排除し、陣地構築が目的である。本格的な、大規模追討の前作戦ということだな。以後は各小隊、想定通りに行動するようにしろ。と、いうことだ。貴様の小隊は自由編成しても構わんが、その作戦想定に従え。』
命令口調で、偉ぶっている感じの男性だが、それが嫌味にならない程度の威厳を感じさせた。
戦闘に耐えるような服装でもないし立ち居でもないのだが、実戦を続けていた人間だけが持つ気を放っているのだ。すぐに命令する立場になったようなエリートではなく、戦績からその地位に居るのだろう。
その彼は、手元のファイルを、机の上に滑らせて目の前の女性に渡す。
纏理『了解しました。』
それに応える女性は華奢で、こちらも戦闘できるような人には見えなかった。
命令されているのだから、軍人なのであろうが、軍よりはどこかの上品なダンスパーティーに居る方が自然に見えた。
それぐらい、育ちの良さというものが、何気ない動作ひとつからも感じられる女性だった。
女性の方は律儀なのか、相手をからかっているのか、右の肩当に「根無し草の纏理(マツリ)・ケシュウォルネ・ドークル」などと、自分の名前を掘り込んでいた。
男『ではな。』
音を立てて席を立ち、男は部屋を後にした。
その動作は、見送ろうとした女性、纏理を寄せ付けないような力があったから、纏理は席も立たずに頭を下げるだけにした。
彼の声は、口調の所為でも声音の所為でもなく、ただ「何となく」彼女の気に障るものもあったから、軽い反発も含めている。
纏理『…本格的な追討、ですか。今まで手を抜いていたわけでもないでしょうに…。』
レイン正規軍所属のプリーストとして、纏理も何度か難民追討には参加している。
その都度思うのが、難民軍の兵士個人が、急速に熟練度を増してきていることだった。
それも当たり前で、レインとミレナ、強大国ふたつから狙われ続け、かなりの頻度で戦闘が続けば、強い人だけが生き残るようになってしまう。
強い生き残りが更に戦闘を続け、更に強い人だけが生き残り、また戦闘があって…。と日常的に続けているのが難民軍だ。その研鑽はレインに所属する来訪者の一人、纏理から見ると異常なものだった。
もちろん、難民軍でも新兵は居るのだが、実戦ばっかりで演習する余裕がないのが難民軍だから、何日もすればそれなりに強くなる。強くなれない奴は、やはり淘汰されるのだから、生き残っている難民軍というのは、単純に強い証明になった。
その異様な戦況を背景に、今までの追討だって困難を極めていた。
それに、難民軍の余裕の無さから来る、狂気にも似た戦意が恐ろしい。それこそ、絶命させなければ、血を吐きながらでも魔法の詠唱を止めないとか、死ぬ直前まで戦意が消えないのが普通だ。中には絶命しているはずなのに、殺気を放ってくるような人も居た。「難民を守る鉄塞」という強固な自覚から、そういう戦気を持ち得る連中だ。
だから今更、“本格的に”と言われても、困るのである。結局、前線に立つような人間からしてみれば、この命令なんかは現実を知らない上層部の暴走だ、としか思えない。
難民軍は自分たちが相当危ない橋を渡っているつもりだろうが、それはレイン軍だって変わりはしない、というのが本当のところだった。ミレナ、難民を相手に疲労しているのがレイン軍の実情なのである。
それに最近は、モンスターまでもがうるさくなっている。徒党を組まないはずの種類であるモンスターまでもが一部、徒党を組む事態となっては、この世の終わりか、と終末思想が語られるほどだ。
レインの実態は、難民、ミレナ、モンスターの3勢力を相手にするのは国力を潰しながらやっていることになる。
そして、日に日に削られる国費を鑑みれば、レインもまた領土拡大をせざるを得ない。損失が起こるなら、どこかで補填しなければならず、そうしなければ国が国として機能しなくなる。
だから、レインはミレナと難民を相手にして、またモンスターさえ敵にしてでも戦争を続けるしかない。
それはわかる。国なんていうものは、そういうものだ。平穏なんてものは、人の生活にはあるのだろうが、国というものには存在しない。国は常に不安定なものでしかなく、表では安定しているように見えるだけで、裏では酷いもので、不安定なところを見せないように綱渡りをしているだけだ。
纏理『はぁ。全く…。インテリジェンスのカケラも感じないわ。』
問題のひとつである難民を生んだ理由は、相手国からの亡命者を、レインもミレナも認めなかったことだ。
亡命できなければ、難民になるしかなかった。
難民になれば、今度は亡命を受け入れなかった両国が有り得ない行動を取ったのも事実だ。相手国の情報を得ようとして、相手国の難民を生け捕りにするような命令が発せられたのである。
何故、亡命してきた時点で“情報源”として確保することをしなかったのに、難民になってから情報源として見るようになったのか…。
まして、今度はただの実力行使である。知性を感じられるわけがない。難民を確保したいのか、したくないのか、どちらなのだろうか。
だが、そういうことを言ってみたところで、命令があるのなら、纏理たち軍人が正式に意見できるものではない。
わざと難民を作って、それを取り合うような展開になっているのは、何かの意思を感じないわけでもないが、その疑問を持ってからすぐにこの討伐命令である。上層部で何か問題でも起きているのか、と揶揄したくなる。
それでも纏理は、それを頭の隅に追いやるだけの理性を発揮できた。理性というよりは、来訪者特有の「別に私の世界じゃないし」という投げ遣りな態度だったのかもしれず、纏理はそれ以上のことを考えるのをストップしていただけかもしれない。
来訪者の考え方は概ね、そのような感じで、この世界とかこのクライス大陸の出来事には無関心になりやすい。
纏理『さて、編成はどうしたものでしょう…。』
レイン軍の中で、纏理のポジションは小隊長クラスのものだ。
4人1小隊なので、纏理が出撃のときには3名引き連れて行動することになっている。普通の小隊長は、自分の部下として3名を固定メンバーにすることが多いのだが、来訪者である纏理は固定メンバーを取る権限が無い。随時、編成しなければならなかった。
纏理『サイキーを2人、プロミナス1人で行きますか…。』
もちろん、そこにはプリーストである自分が含まれている。
補助と回復は纏理一人で事足りる。そんなわけで、あとのメンバーに求めるのは攻撃力だけ、という部隊編成になってしまう。
纏理『…大海さん、何してるかなぁ。』
人員を借りる手続きの用紙に書き込みをしながら、このクライス大陸に来てからまだ一度も会っていない人のことを思い出してた。
クライス大陸に来る前、「元々住んでいた世界」に関する記憶で、何よりも真っ先に思い出していた男性だ。
纏理『あんまり感じないと、寂しいのですが…。』
どれだけ離れていても、何をしていても、前の世界では大海の存在を感じられた。ここに来てからも、その感覚はあった。そのおかげで、異世界での生活というプレッシャーを大分和らげた気がする。
なのに、ある日を境に、大海を感じられなくなってしまっていた。
こんな異世界に居て、安心できる存在が感じられなくなってしまえば、いろいろとキツい。「大海が居る」という感覚だけが、纏理にとっては異界での生活に耐える基盤だったのだから、それが無くなったという意味は非常に大きい。
纏理『…はぁ。』
それで塞ぎ込めたらまだ楽だが、纏理の立場ではそうもいかなくなっていた。
相談相手でも居れば良かったが、「誰かの存在を感じる」ことを、誰が信じてくれるだろう。魔力探知の応用であれば、相談できるかもしれないが、そうではないのだから、レインでも信じてもらえないだろう。
下手をすると、「悪魔の儀式」と言われて異教徒弾圧のような拷問まで受けるかもしれない、というのはレインに現れて1年も経過していない纏理でもわかった。このレインでは、魔法に長じる代わりに、その魔法に関してはいろいろと厳しい。
魔法に限らず、説明できないような事象を起こすと、それだけで魔女裁判を執行しかねないぐらいに厳しい。纏理の大海を感知する能力も、魔女裁判の対象になるかもしれず、誰にも相談できないのが本当のところだった。
纏理『…ふぅ。』
出来上がった部隊編成の手続き用紙を持つと、纏理は椅子から立ち上がった。
纏理『…大海さん以外なんて、どうでもいいのに、私はこんなところで何をしているのでしょうか…。』
記憶のほとんどを失っている中でも、強く記憶に残っていた男性の大海。そこまで思い入れが強いのであれば、大海が好きだったのかな、と思う。
纏理(でも、それだけではないはずですし…。)
好きなだけなら記憶には残らないはずだ。このクライス大陸に来て、来訪者が失う記憶というものは実に様々であり、「感情を伴う記憶」ほど忘れやすいらしい。そうであるなら、「好き」という感情を持つ記憶は忘れているはずだ。
纏理(でも生存に必要な記憶は残りやすい、です…。常識、言語、身体の扱い方なんてものは残りやすいんでしたか…。)
生きるために必要な知識は、何故か覚えていた。纏理もそうであるし、この世界で出来た友人の来訪者も全員がそうだった。
そうであるなら、この大海の記憶と、彼を知覚できる能力には意味があるのだろうか。
纏理が生きるために“必要な何か”なのだろうか。そういう疑問だけが、いつも頭の中にあった。
纏理『本当に、私は何をしているんですかね…。』
来訪者の多くは、第一声が「ここはどこだ」という類の質問らしいが、纏理は「大海さんはどこですか?」だった。これは纏理自身も覚えているし、それを聞いたクライス大陸の人は明らかに面食らっていた間抜け顔も覚えている。
纏理(はぁ…鬱になりそうですね…。)
いっそのこと、鬱にでもなったら大海さんの方から来てくれるのではないか、と思ってしまう。
そんなことはない、ということも同時に思い浮かべてしまうから、まだまだ纏理は鬱になれるほどには追い込まれていないことも自覚できた。
纏理(とにかく生き残って、早めに元の世界に戻りたいですが、ここで大海さんと合流もしたいですね…。)
大海とこの世界で合流できる可能性があるのは、難民軍に纏理も大海も参加することだろう。
あるいは、大海なり纏理なり、片方が片方を誘拐するぐらいで、そんなことは纏理はやらないし、できない。そんな能力はない。大海が攫(さら)いに来てくれるなら面白いだろうし、嬉しいかもしれないが、大海にもそんなことはできない。どうも、今の大海は前に居た世界のころよりも弱体化してしまっているような気がする。
纏理(地道に記憶を取り戻しながら…、頑張るしかないですか…。)
やる気が出ませんねぇ…、そんなことを呑み込んだ。
???『汝、鉄塞足るや?』
纏理『はい?』
自身の背後から声が聞こえた気がして、纏理は振り向いた。先程の男と纏理自身以外は、誰も居なかったし、入れてもいないはずだ。
そして、やはりそこには誰も、何もない。
聞こえてきた声は女性のもののようだが、それを発したと思えるようなものは皆無だった。
纏理『…疲れてる…ということでしょうか?』
幻聴があるようでは、と纏理はもう眠ることにした。

仮眠室に向かうために、部屋を出る。

???『妖精祭まで…あと…。』

纏理『…。精神科にでも行きましょうか。』

ドアを後ろ手で閉じるのと同時に、また声が聞こえたが、それだけだった。

5,6秒ほど立ち止まって耳を澄ましたが、幻聴は止んだようで、もうあの声は聞こえない。

纏理(ようせいさい…? …いえ、幻聴を気にするのは良くないですか。)

溜息を吐いて、今度こそ纏理は仮眠室に向かった。

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