DecoGuild -ElegantAngel- Wiki
The best things carried to excess are wrong(Deco Online private story)
最終更新:
cols
-
view
ビーッ、ビーッ、と異常を告げる警告音をさせながら、そのモンスター、ガロンファイターは倒れこんだ。その警告音はあまりにも機械的すぎて、生物から発せられる音とは思えなかった。
フォロン『えー?』
ここは人間の居住には向かず、鉱物資源などがあるわけでもないことから人がまったく寄り付かなくなった険しい山岳地帯を、更に越えたところだ。前人未踏という言葉通りに、クライス大陸の二大国家とされるレイン、ミレナですら地図に載せることが不可能な地域であり、冒険者でさえ遅々として前進しにくい状況から挑むことが少ないところだ。
そんなわけで、どのような生物が居るのかさえ不明となっているが、少なくてもガロンファイターの生息地域ではない。ミレナに居るガロンファイターの生息地域とは、明らかに環境が違うから断言できた。
クルエル『えぇい、強制停止! パイロットはどうなの!?』
しかし、前人未踏だからこそ地図に記載がないはずなのに、確かに人が居た。
そのガロンファイターから5mぐらい離れていたところで観察していた彼女クルエルが、隣に居る男に命令してから慌ててモンスターに駆け寄る。
フォロン『くっ、また射撃兵装か!』
バグンッ、と倒れたガロンファイターが左右に開いて、女性が飛び出てくる。
どうも、そのガロンファイターは着ぐるみのようなものらしい。魚の“開き”のようにされて見えるようになった中身は、まるで宇宙服の中身のようになっていた。
フォロン『てめぇ、クルエル! また射撃兵装で詰まったじゃねぇか!』
飛び出た勢いそのままに、その女性フォロンは近寄ってくるクルエルに噛み付いた。
フォロンはクルエルの襟首を掴んで、その顔を殴ろうとした。
クルエル『だから私の責任?! あんたらの持ち込んだフレームの問題でしょ! 何が「即日お届け その場で使用可能 ラクラクキット」よ!』
バキィッ、とクルエルはフォロンの鳩尾を思いっきり、打ち抜く。あまりの衝撃だったようで、フォロンはクルエルを殴れなかった。
フォロン『ギィッ!?』
どちらも女性なのに、女性とは思いにくい肉体言語を使う。といっても、クルエルからの一方的なものだが。
クルエル『フザけてないかなぁ?! 何よ、内蔵火器とかてんで使えないし! 万に一つでも撃てば低火力! 鎧を破砕する程度の威力しかない! メインアームが干上がってるのかと思って調整してもダメ! 擬態装甲としてモンスターの毛皮で覆ってみると今度は内蔵火器とか関節がごっつんこ! ねぇ、ナメてるでしょ? あんたたち、まともに動かない玩具で戦争するわけ? ねぇ!』
最初の一撃でダンマリになっているフォロンを靴の踵で蹴り飛ばす。
クルエル『ヴェータ! 今のは?』
そのままフォロンを蹴り飛ばしながら、さっきまで一緒に観察していた男の方に近づいていく。
ヴェータ『クルエル殿…。いくら甲殻生物と混ざっているからって、あまり乱暴にされては…。』
そう言って、ヴェータは蹴られ続けるフォロンを見る。
クルエル『知らないわよ。それに、殺せたらそれでデータになるし。』
フォロンはモンスター軍の中でも稀有なハーフだ。モンスターの身体能力と人間の知能を併せ持つ存在を作り出す目的によって行われた、モンスターと人との交配実験の被験者であり、甲殻生物と人との交配である。ある国で行われていた人体強化計画の産物だ。
フォロンの見た目こそ普通の人だが、皮下と骨の間に甲殻類の持つ硬い殻が存在するのだ。蹴り飛ばそうが剣を突き刺そうが、そう簡単にダメージが行くことはない。
クルエルが蹴り飛ばしても、その感触は「人を蹴り飛ばす」というのものではなく、「空き缶を蹴飛ばす」感触に近い。
空き缶、と表現したように潰す気になれば潰せるのだが、そこまでやる気はない、というのがクルエルだ。手加減しているのでもないし、情けをかけているわけでもなく、単純に「そこまでがんばるのは面倒くさい」だけだ。
ヴェータ『少々お待ちを。…最初から最大速度で連射しようとしたみたいでしたね。そもそも射撃兵装試験の前、格闘兵装試験の前に、動力源であるシステマアウグストゥスの出力も、クルエル殿の注意したクォータードライブを超えて、ハーフドライブに行っています。出力過多からやっていたので、今回の試験は問題解決…の試験としても駄作です。』
アラートが始まったのは、どうやらフォロンがあの着ぐるみガロンファイターを無理に扱ったことが原因のようだ。
クルエル『全く…!』
ズドンッ、と今度は本気の蹴りをフォロンに入れる。
フォロン『ゲェッ!?』
多分、胃壁をぶち破ったかもしれない…。そうクルエルは思い至るが、それでも気にせずに手加減して蹴り続ける。
クルエル『バカでしょ。この前にベルガフレームの調整だって時間がやばかったのに、今だって引きずって量産型のモンスタースーツを制式にしないといけないって。何でテストパイロットはこんなんかなぁ。ちょっと、聞いてる?』
モンスター軍として、レイン、ミレナ、難民に宣戦布告するまではもう少し時間がある。モンスター軍は名前の通りにモンスターが主力だから、人間はあまり大事ではない。精々、知力の足りないモンスターに指示をするぐらいだ。
そのため、モンスター軍で人間が活躍するための方法として考えられたのが、さっき着ぐるみ紛いなガロンファイターのように、モンスターに擬態できる筋力増強スーツである。
通称、モンスタースーツ。来訪者の一部が、自身の世界であるホルン=ベトスから取り寄せてきた科学技術であり、そのためにクライス大陸では完全なオーバーテクノロジーなのだが、何とか動くようにしなければならない。
だが、オーバーテクノロジーなだけに、モンスタースーツを着込んで戦うのはド素人でもできる程の高性能なのに、それを量産化するための準備に携われる人材は数が限られていた。モンスタースーツをメンテナンス等ができる人間は限られてしまい、その結果はホルン=ベトス出身であり、記憶を取り戻した人間でしか、量産化の準備に携われなかったのである。少ない人数で遅々として作業をしていたのだが、おかげで、モンスター軍の宣戦布告に間に合いそうになかった。
モンスタースーツを着込む人間、パイロットの育成は進んでいるのに、その肝心のモンスタースーツだけが遅れているのが重大な問題なのだ。
また、ベルガフレームというのは、最初期のモンスタースーツであるが、とにかくクライス大陸でも動くように、という試験も踏まえて採算度外視で作ったために、そのスペックは量産型のモンスタースーツを凌駕しているもので、モンスター軍に居る人間の中でも最高位に居るバグス=メルヴィ・キーシェの専用機になっていた。正常稼動さえできれば、それこそ小規模国家の軍事力に並ぶほどの性能があるのだが、このクライス大陸ではやはり今ひとつ実力を発揮できず、正常稼動した量産型モンスタースーツといったぐらいの能力しか出せないのだが。
ヴェータ『無理ですよ。流石に、あんな蹴りを入れられたら…。とかく、再起動には問題がありませんし、モニタリングは私でもできます。クルエル殿、モンスタースーツに乗りませんか?』
クルエル『言っておくけど、私はライダー志望よ?』
モンスター軍には、モンスタースーツで戦うパイロットともうひとつ、人間の部隊がある。
それがライダーで、モンスターに騎乗して戦うタイプだ。
ヴェータ『ですが、ホルン=ベトス出身ではないクルエル殿は、モンスタースーツをかなり理解していますし、パイロット訓練もしていましたよね。私はパイロット訓練していないので操れません。モンスタースーツの動作原理を知っている人が操ってみて問題点を理解するのが早いと思います。』
クルエル『…う。何よ、今日は饒舌ねぇ。フォロン、大人しくしてなさいよ、ね!』
最後の吐息と一緒に、最後の一撃とフォロンを蹴り飛ばして放置する。
フォロンもダメージが大きすぎて、反論すらしてこない。
クルエル『再起動はモンスタースーツ自体でやるわ。緊急時のテストにもなるしね。外部リンク、パターンは緊急接遇戦。クォータードライブキープは私がやるから、モニタリングはエネルギー配分をチェック。使用火器は内蔵もん、全て。火器管制は全てフルオートで120秒。』
細々と試験内容の項目を挙げるクルエルと、それをひたすらメモに取るヴェータ。
クルエル『あと、ナノマシンワークシステムもテストするわ。後でハイエクスプロージョンでも投げつけてね。で…。修復終了まで万全なら、ブラックボックスワークシステム…、BBWSも使って、この子は破棄するわ。』
ヴェータ『え、いいんですか?』
BBWSは、モンスタースーツの非常用措置のことだ。
クルエル『BBWSの事後処理、ちゃんとやるのか確認しとかなきゃね。ベルガフレームでは試験してないし。量産型試作用のモンスタースーツは、あと5機もあるし。』
ヴェータ『5機…しかないのですが。』
どうやら、クルエルは大らかというか大雑把な性格で、ヴェータは細かいというより心配性らしい。これで男女が逆転していたら、結構な組み合わせと見られることもあるだろうが、これではカカァ天下もいいところである。
クルエル『ちっさいなぁ、ヴェータはぁ。何ならベルガフレーム潰して、簡易生産型にしたらいいんだし。』
ヴェータ『…バグス殿は構わないかもしれませんが、問題ですよ?』
メルヴィは専用機であるベルガフレームを大事にしておらず、乗りもしなければ整備もせず、埃を被っている状態だ。メンテナンスフリーに近いから、その状態でも乗ればすぐに稼動できるのだが…。
クルエル『まぁ、納品さえしたらあの婆さんも文句は…!?』
ブシューッ、とガロンファイターのモンスタースーツが、パイロットをコクピットに取り込む音がする。
クルエル『誰だ! 私の愛しい人に乗るのは!!』
ヴェータ『クルエル殿のものではありません。…っ、内部ロック?!』
2人とも、言っていることがおかしいのだが、状況確認だけはすぐに行おうとする。
フォロン『ぬぅっ、クルエルーッ! 今度という今度はコレで貴様を潰すーッ!!』
モンスタースーツに乗り込んだのはフォロンのようだ。
あれだけ蹴られて、胃壁も蹴破ったのだから激痛で動けないはずなのに、よくやる。などとクルエルは褒めたくなったが、今は褒めるわけにもいかない。
どうやら、外部リンクでヴェータの脳波とモンスタースーツを繋げていたのを、フォロンが乗り込んで解除したらしく、今はフォロンの脳波とモンスタースーツがリンクしている。
パイロットの脳波とモンスタースーツをリンクさせることは普通なのだが、さっきのフォロンの試験のときみたいに、試験時はモンスタースーツで起きた問題を確認するためにリンクはパイロットとではなく、外部監視員とするのが慣わしだ。
クルエル『…好きになさい。外部リンク! ルート権限、コード! 第9で! 早く、ヴェータ!』
ヴェータ『は? ト短調ではなく?』
クルエル『いいから!』
脳波リンクできる機能を持つモンスタースーツは、パイロットの脳波とリンクするのが通常であるが、ルート権限を使えばパイロット以外の脳波とリンクできる。例え内部ロックで外部リンクを絶ったとしても、ルート権限でなら内部ロックを無視できる。
今回ならコードはト短調にすべきなのだ。ト短調は強制停止させるコードで、パイロットも強制的に排除する。普段もクルエルがルート権限を使うときはト短調が多い。
今回の第9となると、ヴェ-タはどういうものか知らなかった。
…知っていたら、入力なんてしなかっただろうが、知らなかったために入力してしまう。
入力と同時に、モンスタースーツは身体を丸め込んだ。これでは乗降口にあたる胴体部が抑えられて、パイロットが出ようにも出られないし、周囲に攻撃もできない。
ヴェータ『なるほど。無力化ですか。』
その様子から、ヴェータはお気楽すぎる予想を言った。
クルエル『まさか。BBWSと強奪対策の試験を行うのよ。』
言い様、クルエルは逃げるように駆け出した。
ヴェータ『は?』
と、そこでモンスタースーツのパイロットへのアナウンスと同じ内容のものがヴェータの頭の中に入ってくる。ルート権限を使った影響で、モンスタースーツとヴェータがリンクしている。
ヴェータ『は!? 爆砕?!』
アナウンスは、自爆装置も兼ねるブラックボックスワークシステムがあと15秒で起動する、というものだ。しかも、その自爆の理由が、モンスタースーツの強奪に際する緊急措置、というもので。
クルエル『そっ。早く逃げるわよ。』
ヴェータ『今から逃げても! あれの爆破半径って広いんですよ?!』
と言いながら、ヴェータも逃げ出した。
フォロンのことを考えている余裕はない。なるべく自分が死ぬ確率を減らすためには、そんな余裕は捨て去らなければならないからだ。
ホルン=ベトスの住人であり、記憶も8割近く取り戻しているヴェータは、BBWSの爆発に巻き込まれる範囲を具体的に知っている。
先に逃げ出していたクルエルさえも追い抜いて、ヴェータが逃げる。
クルエル『バカねぇ。機動不全の原因さえわかっていれば、どうってことないのよ。…こんなところかな。』
急ブレーキをかけて立ち止まると、クルエルは後ろ、モンスタースーツとフォロンの居る場所を向いた。
爆発までは5秒ぐらいか。
ヴェータ『クルエル殿?!』
クルエル『んっんー。まぁ、私の期待値を超過するなら私もフォロンもデッドエンドってところね。私はともかく、フォロンを殺すのはどうだろうね? さぁ、どうしてくれるのかしら? “ ”?』
最後のクルエルの言葉だけは聞き取れなかった。まるで人に訊くような声音だったのに、ヴェータには肝心の部分だけが何者かに、聞くな、と言われたかのように殺ぎ取られた感じがした。
それと同時に、ヴェータは前に転がりながら頭を両手で庇う。
直後、モンスタースーツ、ガロンファイターが爆発した。
フォロン『えー?』
ここは人間の居住には向かず、鉱物資源などがあるわけでもないことから人がまったく寄り付かなくなった険しい山岳地帯を、更に越えたところだ。前人未踏という言葉通りに、クライス大陸の二大国家とされるレイン、ミレナですら地図に載せることが不可能な地域であり、冒険者でさえ遅々として前進しにくい状況から挑むことが少ないところだ。
そんなわけで、どのような生物が居るのかさえ不明となっているが、少なくてもガロンファイターの生息地域ではない。ミレナに居るガロンファイターの生息地域とは、明らかに環境が違うから断言できた。
クルエル『えぇい、強制停止! パイロットはどうなの!?』
しかし、前人未踏だからこそ地図に記載がないはずなのに、確かに人が居た。
そのガロンファイターから5mぐらい離れていたところで観察していた彼女クルエルが、隣に居る男に命令してから慌ててモンスターに駆け寄る。
フォロン『くっ、また射撃兵装か!』
バグンッ、と倒れたガロンファイターが左右に開いて、女性が飛び出てくる。
どうも、そのガロンファイターは着ぐるみのようなものらしい。魚の“開き”のようにされて見えるようになった中身は、まるで宇宙服の中身のようになっていた。
フォロン『てめぇ、クルエル! また射撃兵装で詰まったじゃねぇか!』
飛び出た勢いそのままに、その女性フォロンは近寄ってくるクルエルに噛み付いた。
フォロンはクルエルの襟首を掴んで、その顔を殴ろうとした。
クルエル『だから私の責任?! あんたらの持ち込んだフレームの問題でしょ! 何が「即日お届け その場で使用可能 ラクラクキット」よ!』
バキィッ、とクルエルはフォロンの鳩尾を思いっきり、打ち抜く。あまりの衝撃だったようで、フォロンはクルエルを殴れなかった。
フォロン『ギィッ!?』
どちらも女性なのに、女性とは思いにくい肉体言語を使う。といっても、クルエルからの一方的なものだが。
クルエル『フザけてないかなぁ?! 何よ、内蔵火器とかてんで使えないし! 万に一つでも撃てば低火力! 鎧を破砕する程度の威力しかない! メインアームが干上がってるのかと思って調整してもダメ! 擬態装甲としてモンスターの毛皮で覆ってみると今度は内蔵火器とか関節がごっつんこ! ねぇ、ナメてるでしょ? あんたたち、まともに動かない玩具で戦争するわけ? ねぇ!』
最初の一撃でダンマリになっているフォロンを靴の踵で蹴り飛ばす。
クルエル『ヴェータ! 今のは?』
そのままフォロンを蹴り飛ばしながら、さっきまで一緒に観察していた男の方に近づいていく。
ヴェータ『クルエル殿…。いくら甲殻生物と混ざっているからって、あまり乱暴にされては…。』
そう言って、ヴェータは蹴られ続けるフォロンを見る。
クルエル『知らないわよ。それに、殺せたらそれでデータになるし。』
フォロンはモンスター軍の中でも稀有なハーフだ。モンスターの身体能力と人間の知能を併せ持つ存在を作り出す目的によって行われた、モンスターと人との交配実験の被験者であり、甲殻生物と人との交配である。ある国で行われていた人体強化計画の産物だ。
フォロンの見た目こそ普通の人だが、皮下と骨の間に甲殻類の持つ硬い殻が存在するのだ。蹴り飛ばそうが剣を突き刺そうが、そう簡単にダメージが行くことはない。
クルエルが蹴り飛ばしても、その感触は「人を蹴り飛ばす」というのものではなく、「空き缶を蹴飛ばす」感触に近い。
空き缶、と表現したように潰す気になれば潰せるのだが、そこまでやる気はない、というのがクルエルだ。手加減しているのでもないし、情けをかけているわけでもなく、単純に「そこまでがんばるのは面倒くさい」だけだ。
ヴェータ『少々お待ちを。…最初から最大速度で連射しようとしたみたいでしたね。そもそも射撃兵装試験の前、格闘兵装試験の前に、動力源であるシステマアウグストゥスの出力も、クルエル殿の注意したクォータードライブを超えて、ハーフドライブに行っています。出力過多からやっていたので、今回の試験は問題解決…の試験としても駄作です。』
アラートが始まったのは、どうやらフォロンがあの着ぐるみガロンファイターを無理に扱ったことが原因のようだ。
クルエル『全く…!』
ズドンッ、と今度は本気の蹴りをフォロンに入れる。
フォロン『ゲェッ!?』
多分、胃壁をぶち破ったかもしれない…。そうクルエルは思い至るが、それでも気にせずに手加減して蹴り続ける。
クルエル『バカでしょ。この前にベルガフレームの調整だって時間がやばかったのに、今だって引きずって量産型のモンスタースーツを制式にしないといけないって。何でテストパイロットはこんなんかなぁ。ちょっと、聞いてる?』
モンスター軍として、レイン、ミレナ、難民に宣戦布告するまではもう少し時間がある。モンスター軍は名前の通りにモンスターが主力だから、人間はあまり大事ではない。精々、知力の足りないモンスターに指示をするぐらいだ。
そのため、モンスター軍で人間が活躍するための方法として考えられたのが、さっき着ぐるみ紛いなガロンファイターのように、モンスターに擬態できる筋力増強スーツである。
通称、モンスタースーツ。来訪者の一部が、自身の世界であるホルン=ベトスから取り寄せてきた科学技術であり、そのためにクライス大陸では完全なオーバーテクノロジーなのだが、何とか動くようにしなければならない。
だが、オーバーテクノロジーなだけに、モンスタースーツを着込んで戦うのはド素人でもできる程の高性能なのに、それを量産化するための準備に携われる人材は数が限られていた。モンスタースーツをメンテナンス等ができる人間は限られてしまい、その結果はホルン=ベトス出身であり、記憶を取り戻した人間でしか、量産化の準備に携われなかったのである。少ない人数で遅々として作業をしていたのだが、おかげで、モンスター軍の宣戦布告に間に合いそうになかった。
モンスタースーツを着込む人間、パイロットの育成は進んでいるのに、その肝心のモンスタースーツだけが遅れているのが重大な問題なのだ。
また、ベルガフレームというのは、最初期のモンスタースーツであるが、とにかくクライス大陸でも動くように、という試験も踏まえて採算度外視で作ったために、そのスペックは量産型のモンスタースーツを凌駕しているもので、モンスター軍に居る人間の中でも最高位に居るバグス=メルヴィ・キーシェの専用機になっていた。正常稼動さえできれば、それこそ小規模国家の軍事力に並ぶほどの性能があるのだが、このクライス大陸ではやはり今ひとつ実力を発揮できず、正常稼動した量産型モンスタースーツといったぐらいの能力しか出せないのだが。
ヴェータ『無理ですよ。流石に、あんな蹴りを入れられたら…。とかく、再起動には問題がありませんし、モニタリングは私でもできます。クルエル殿、モンスタースーツに乗りませんか?』
クルエル『言っておくけど、私はライダー志望よ?』
モンスター軍には、モンスタースーツで戦うパイロットともうひとつ、人間の部隊がある。
それがライダーで、モンスターに騎乗して戦うタイプだ。
ヴェータ『ですが、ホルン=ベトス出身ではないクルエル殿は、モンスタースーツをかなり理解していますし、パイロット訓練もしていましたよね。私はパイロット訓練していないので操れません。モンスタースーツの動作原理を知っている人が操ってみて問題点を理解するのが早いと思います。』
クルエル『…う。何よ、今日は饒舌ねぇ。フォロン、大人しくしてなさいよ、ね!』
最後の吐息と一緒に、最後の一撃とフォロンを蹴り飛ばして放置する。
フォロンもダメージが大きすぎて、反論すらしてこない。
クルエル『再起動はモンスタースーツ自体でやるわ。緊急時のテストにもなるしね。外部リンク、パターンは緊急接遇戦。クォータードライブキープは私がやるから、モニタリングはエネルギー配分をチェック。使用火器は内蔵もん、全て。火器管制は全てフルオートで120秒。』
細々と試験内容の項目を挙げるクルエルと、それをひたすらメモに取るヴェータ。
クルエル『あと、ナノマシンワークシステムもテストするわ。後でハイエクスプロージョンでも投げつけてね。で…。修復終了まで万全なら、ブラックボックスワークシステム…、BBWSも使って、この子は破棄するわ。』
ヴェータ『え、いいんですか?』
BBWSは、モンスタースーツの非常用措置のことだ。
クルエル『BBWSの事後処理、ちゃんとやるのか確認しとかなきゃね。ベルガフレームでは試験してないし。量産型試作用のモンスタースーツは、あと5機もあるし。』
ヴェータ『5機…しかないのですが。』
どうやら、クルエルは大らかというか大雑把な性格で、ヴェータは細かいというより心配性らしい。これで男女が逆転していたら、結構な組み合わせと見られることもあるだろうが、これではカカァ天下もいいところである。
クルエル『ちっさいなぁ、ヴェータはぁ。何ならベルガフレーム潰して、簡易生産型にしたらいいんだし。』
ヴェータ『…バグス殿は構わないかもしれませんが、問題ですよ?』
メルヴィは専用機であるベルガフレームを大事にしておらず、乗りもしなければ整備もせず、埃を被っている状態だ。メンテナンスフリーに近いから、その状態でも乗ればすぐに稼動できるのだが…。
クルエル『まぁ、納品さえしたらあの婆さんも文句は…!?』
ブシューッ、とガロンファイターのモンスタースーツが、パイロットをコクピットに取り込む音がする。
クルエル『誰だ! 私の愛しい人に乗るのは!!』
ヴェータ『クルエル殿のものではありません。…っ、内部ロック?!』
2人とも、言っていることがおかしいのだが、状況確認だけはすぐに行おうとする。
フォロン『ぬぅっ、クルエルーッ! 今度という今度はコレで貴様を潰すーッ!!』
モンスタースーツに乗り込んだのはフォロンのようだ。
あれだけ蹴られて、胃壁も蹴破ったのだから激痛で動けないはずなのに、よくやる。などとクルエルは褒めたくなったが、今は褒めるわけにもいかない。
どうやら、外部リンクでヴェータの脳波とモンスタースーツを繋げていたのを、フォロンが乗り込んで解除したらしく、今はフォロンの脳波とモンスタースーツがリンクしている。
パイロットの脳波とモンスタースーツをリンクさせることは普通なのだが、さっきのフォロンの試験のときみたいに、試験時はモンスタースーツで起きた問題を確認するためにリンクはパイロットとではなく、外部監視員とするのが慣わしだ。
クルエル『…好きになさい。外部リンク! ルート権限、コード! 第9で! 早く、ヴェータ!』
ヴェータ『は? ト短調ではなく?』
クルエル『いいから!』
脳波リンクできる機能を持つモンスタースーツは、パイロットの脳波とリンクするのが通常であるが、ルート権限を使えばパイロット以外の脳波とリンクできる。例え内部ロックで外部リンクを絶ったとしても、ルート権限でなら内部ロックを無視できる。
今回ならコードはト短調にすべきなのだ。ト短調は強制停止させるコードで、パイロットも強制的に排除する。普段もクルエルがルート権限を使うときはト短調が多い。
今回の第9となると、ヴェ-タはどういうものか知らなかった。
…知っていたら、入力なんてしなかっただろうが、知らなかったために入力してしまう。
入力と同時に、モンスタースーツは身体を丸め込んだ。これでは乗降口にあたる胴体部が抑えられて、パイロットが出ようにも出られないし、周囲に攻撃もできない。
ヴェータ『なるほど。無力化ですか。』
その様子から、ヴェータはお気楽すぎる予想を言った。
クルエル『まさか。BBWSと強奪対策の試験を行うのよ。』
言い様、クルエルは逃げるように駆け出した。
ヴェータ『は?』
と、そこでモンスタースーツのパイロットへのアナウンスと同じ内容のものがヴェータの頭の中に入ってくる。ルート権限を使った影響で、モンスタースーツとヴェータがリンクしている。
ヴェータ『は!? 爆砕?!』
アナウンスは、自爆装置も兼ねるブラックボックスワークシステムがあと15秒で起動する、というものだ。しかも、その自爆の理由が、モンスタースーツの強奪に際する緊急措置、というもので。
クルエル『そっ。早く逃げるわよ。』
ヴェータ『今から逃げても! あれの爆破半径って広いんですよ?!』
と言いながら、ヴェータも逃げ出した。
フォロンのことを考えている余裕はない。なるべく自分が死ぬ確率を減らすためには、そんな余裕は捨て去らなければならないからだ。
ホルン=ベトスの住人であり、記憶も8割近く取り戻しているヴェータは、BBWSの爆発に巻き込まれる範囲を具体的に知っている。
先に逃げ出していたクルエルさえも追い抜いて、ヴェータが逃げる。
クルエル『バカねぇ。機動不全の原因さえわかっていれば、どうってことないのよ。…こんなところかな。』
急ブレーキをかけて立ち止まると、クルエルは後ろ、モンスタースーツとフォロンの居る場所を向いた。
爆発までは5秒ぐらいか。
ヴェータ『クルエル殿?!』
クルエル『んっんー。まぁ、私の期待値を超過するなら私もフォロンもデッドエンドってところね。私はともかく、フォロンを殺すのはどうだろうね? さぁ、どうしてくれるのかしら? “ ”?』
最後のクルエルの言葉だけは聞き取れなかった。まるで人に訊くような声音だったのに、ヴェータには肝心の部分だけが何者かに、聞くな、と言われたかのように殺ぎ取られた感じがした。
それと同時に、ヴェータは前に転がりながら頭を両手で庇う。
直後、モンスタースーツ、ガロンファイターが爆発した。
