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恐怖!機動ビグ・ザム その3

「なんとしてもこいつを沈めろ!!ブラックハウスまで行かせるな!!」
急旋回を繰り返しながら、タチバナは列機にそう叫んでいた。
タチバナ小隊は、ソロモンからア・バオア・クー方面にやや離れたところで、敵のムサイと一機のMSを迎撃していた。そのMSは碧色のリック・ドムⅡで、パイロットはパトリック・コーラサワーだった。そして、ムサイはマネキンの指揮するクロメルである。
連邦軍の追撃部隊として、誰よりもはやくこの宙域にさしかかったタチバナ小隊は、全速力で突っ込んでくるクロメルとリック・ドムⅡに遭遇した。クロメルは瞬く間にサラミスの一隻を沈め、そのままソロモン方面へと突破しようとしたのである。そして、タチバナ小隊とマネキン戦隊との死闘が幕を開けた。
たった一隻で突っ込んできたにもかかわらず、マネキンのクロメルは死をも恐れぬ勢いで追撃艦隊を駆け抜けつつあった。行く足を乱された追撃艦隊は思わぬ損害を被り、友軍艦どうしでの衝突さえ起こった。タチバナはそんな味方戦艦群の間を縫って飛ぶ。列機を務めているのはPJだ。急激な機動を繰り返すタチバナにしっかりとついてくる。たいした腕だ。
「敵ムサイに対して、後方斜め下から攻撃をかける!碧のドムに気をつけろ!」
PJにそう告げ、タチバナは機体を一気にダイブさせた。敵のほぼ真下にまで潜り込む角度だ。ちらと後ろを見れば、PJは寸分も距離を置かずについてきていた。やるようになった。
クロメルの艦底部がどんどん小さくなり、豆粒ほどの大きさになったとき、タチバナは愛機の機首を起こした。猛烈なGが体をシートに押しつける。常人ならば首の骨がへし折れてもおかしくはない。機首がクロメルにまっすぐ向き、タチバナはレールガンの発射ボタンに指をかけた。

「後方斜め下から敵機!セイバーフィッシュ2機が急速接近!」
クロメル艦橋では、荒れ狂う戦場を目の前にしながら、オペレーターが正確な報告を行っていた。
「バレルロール!敵にこちらの腹を見せるな!対空砲火、弾幕が薄いぞ!!」
マネキンの命令も、いつにもまして力が入っている。マネキンはすでに死期が近づきつつあることに気づいていた。だがその前に、なんとしてもフェイトのもとまでたどり着きたい。もっとも、まだフェイトが生きていればの話ではあるが。
クロメルは進みながら真横に回転し、船体上部にある無数の対空火器がタチバナ達を狙い始めた。そこへさらにパトリックのリック・ドムⅡが駆けつけ、ジャイアント・バズーカを乱射し始める。
「オラオラオラァ!!クロメルはやらせないぜぇ!!」
あまりの弾幕の激しさに、タチバナはこのまま攻撃することを諦めた。
「ダメだ!一度離脱!!」
「了解!」
PJを従えたまま、右へ急旋回して弾幕から抜ける。そうしている間にも、クロメルのメガ粒子砲は近づいてくる連邦軍の艦船に対して斉射を繰り返し、あらたに一隻のマゼランがその餌食となった。
「なんて奴だ…!」
クロメルを睨みながら、タチバナはつぶやく。すでに追撃艦隊は、その進撃を阻まれただけでなく、クロメルのさらなる攻撃によって完全にパニックに陥っていた。各々の戦艦は勝手な方向へと逃げ回り、追う側だったはずの連邦軍は追われる側に成り下がっていた。
「あ~あ、取り乱しちゃってまあ…」
不意に起こったその声に、タチバナは上空を振り仰いだ。クロメルを見下ろす位置に、ペング・ウォルフのGファイターとピクシーのセイバーフィッシュが並んで飛んでいた。
「ペング・ウォルフ曹長!ご無事で!」
「ちょっとミサイルの補給に戻ってただけだ。ピクシーは借りてた。すまんな。」
「いえ。それよりごらんの有様です。はやくなんとかしないと。」
「ふむ、二正面攻撃だ。お前とPJはクロメルを挟んで俺たちの反対側に回り込め!PJ!小隊長のケツにしっかりついて行けよ!」
「簡単です!」
「言うじゃねえか。」
ペング・ウォルフが微笑むと同時に、タチバナが再びのダイブに入った。PJも慌ててそれについていく。
クロメルは、連邦軍追撃艦隊の群れを完全に抜け、いよいよブラックハウスに迫りつつあった。クロメルのレーダーが未だに飛び続けるバルディッシュの反応をキャッチしたとき、マネキンはその孤独なパイロットに心から尊敬の気持ちを持った。
「生きていた…!生きていてくれたか!!」
片肺でここまで走ってきたクロメルの、最後の疾走が始まった。


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09/29 01:15 Windows(PC) [384]エルザス
383

唐突に、ブラックハウスが動き始めた。黒猫とフェイトは一瞬格闘をやめ、その巨体に目をやった。
「動き出した…黒猫さん、これまでです。私は、あの船を沈めます。」
「行かせない。たとえ刺し違えてでも、あなたを止めて見せる。」
また戦いが始まった。もう両方ともボロボロだった。フェイトの機体は身軽だが装甲は薄いらしく、黒猫の攻撃がかすっただけでも装甲板が吹き飛んでしまった。一方黒猫のRXはそれ以上に生傷だらけだ。すでに左腕は失っている。もともと攻撃を受け流す戦法の黒猫は、致命傷さえ避けられれば多少の損害は仕方ないと思っている。さもなければ徒手空拳などという戦い方はできないのだ。
それにしても、ビームスピアーを持ったフェイトの戦い方は厄介だった。すこし距離を置いてから、信じられない速度と機動力で一気に接近し、強烈な一撃を繰り出してくる。
「行きます!!」
「受けて立つ!!」
全身全霊を賭けた戦いに、終わりはあるのか。

そこまでブラックハウスに恨みがあるのか、それとも絶対に逆らえない命令なのか。
ナノハは、フェイトがこうまでしてブラックハウスに執着する理由がわからなかった。
「フェイトちゃん、どうして…?」
なおも戦い続けるフェイトと黒猫を前に、ナノハは涙を止めることができなかった。ブラックハウスを守るためには、戦わなければならない。だけど、戦いたくない。
「友達だって、言ったのに…」

泣き崩れる寸前のナノハを横目に、シンは拳を握りしめていた。ジオンには復讐するつもりだった。なにがあっても、妹と家族の仇を討つと、心に誓ったはずだった。だが、この光景を前にした自分の姿はいったいなんだ?フェイトがジオンであることは、サイド6でもうわかっていたじゃないか。なぜ、自分は戦えずに、こうして見ていることしかできない?敵なのに。フェイトは敵なのに。
「あぁ…」
握りしめていた手をほどいたとき、シンは答を見つけた。見れば、シンの手は小刻みに震えていた。
俺は、恐いんだ…
簡単なことだった。目の前の戦闘があまりにも人間離れしすぎていて、自分が割って入っていける気がしないのだ。
「俺は、…なんて弱い…」
そのとき、大きな破裂音がして、シンは黒猫とフェイトの戦闘に視線を戻した。シンは息をのんだ。黒猫のRXが、右腕を切り落とされていた。一瞬の隙をつき、フェイトの渾身の一撃が炸裂したのだ。

両方の腕を失ったRXのコックピットで、黒猫はすでに意識を失いつつあった。衝撃で頭を強く揺さぶられ、脳震盪を起こしていた。薄れゆく意識の中、黒猫は必死で機体を操作した。言うことを聞かない腕が恨めしい。バルディッシュはRXに背を向け、進んでいくブラックハウスを見下ろしていた。
「行っちゃ、ダメだよ…フェイト…」
そこで、黒猫の意識がとぎれた。


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09/29 01:17 Windows(PC) [385]エルザス
384
ついにやった。あまりにも強い敵を、自分は倒した。
フェイトは、そこで一度深く息をついた。見下ろしたブラックハウスには、シンのディステニーとナノハのレイジングハートがとりついたままだ。だが、こちらに向かって来る気配はない。ならば…
バルディッシュのバーニアが火を噴き、目の前のブラックハウスへと突っ込んでいく。

「来る…!!」
バルディッシュが動き始めたとき、シンはついにディステニーを駆った。横にはナノハがいて、後ろにはブラックハウス。フェイトの背後には黒猫がいるからブラックハウスの砲は使えない。つまり、自分が彼女を止めるしかない。
―――できるか?
自問する。
―――わかるもんか。
自答する。
それでも、やらねばならない。結果がどうあれ、自分が戦うしかない。追い詰められた自分の境遇を実感しながら、なぜかシンは自分が喜んでいることに気がついた。戦いの舞台に上がれることが嬉しい。自分の覚悟が、誇らしい。
「シン君?」
動き始めたディステニーを見て、ナノハがつぶやく。
「ナノハ、ごめん。すこしだけナノハの友だちを傷つけるかも知れない。」
「そんな!?」
「でも、約束する!」
「!?」
「彼女は俺が止める。この命に代えても…」
「命って、シン君、死んじゃだめだよ…!」
「ごめん…でも、行かなきゃ。ナノハは下がってろ!」
「シン君!待って!二人が戦うことなんかないよ!どうして二人が戦わなきゃ…シン君!」
シンはもう答えなかった。きっとナノハにはわかるまい。男って時々、命を賭けてでもかっこつけようとするものだ。たぶんそれが、名誉のために戦うってことなんだろう。
シンにもう迷いは無かった。対峙したバルディッシュを前に、シンの中で何かが弾けた。神経が研ぎ澄まされ、全身の感覚が一気に鋭敏になっていく。
「勝負だ!フェイト!!」

「次はあなたなのね。」
フェイトは疲れていた。実際、黒猫を相手に激闘を繰り広げた結果、彼女の集中力は限界を迎えつつあった。それでも…
「ブラックハウスは沈めなきゃいけない…」
なにかの呪詛であるかのように、フェイトはそうつぶやいた。
「行くよ、バルディッシュ。」
時間をかけている暇はなかった。戦いが長引けば弱っている自分に不利だ。一気にたたみかける。
「フェイト!聞こえていたら答えろ!なんで君は、そこまでしてブラックハウスに執着する!」
戦いながら、シンの声が聞こえてきた。せっぱ詰まったような声だ。それもそうだろう、ディステニーも右腕と左足を失っているのだから。ゆえに、勝機はある。
「それが、約束だから。ゼロとの。」
「またゼロか!だれなんだよそいつは!」
「とっても孤独で、たった一人で苦難に立ち向かうひと。だから私は、あのひとを支えてあげなくちゃいけない!」
ゼロを思うと、フェイトの中にまだ力がこみ上げてきた。そうなのだ。自分は負けるわけにはいかない。ゼロの夢を実現するために。そのためなら、自分は喜んでこの身を捧げよう。だがその前に、この船は沈めなきゃいけない。
気づけば、フェイトは泣いていた。なぜ泣いているのかわからない。負けるとは思っていない。きっと任務を果たせると信じている。それでも…
「この船は沈めなきゃいけない!!」
悲鳴にも似たフェイトの叫びがこだまし、バルディッシュのビームスピアーがディステニーの胴体を切りつける。
「だああああああああああああああ!!」
衝撃がシンを襲い、その瞬間にバルディッシュがディステニーの直近まで間合いを詰める。
「ゼロは戦います。昨日よりずっと、今日よりずっと、強くなっていけるようにって。だから私は!」
「そんなのに、君がつきあう必要はない!!」
「違う!彼が目的を果たせるように、私は戦わなきゃ!」
ビームスピアーを振りかざし、バルディッシュはディステニーにとどめを刺す。
「それが私に命をくれる!!」
ビームスピアーがコックピットを貫くかと思われたその瞬間、シンは全力全開で叫んでいた。
「なら、なんで泣いてんだよぉぉぉ!!!」
「!?」
ビームスピアーがすんでの所で止まり、同時にコックピットのハッチが開いた。中からシンが飛び出てくる。シンはそのままバルディッシュに飛びつき、なおも叫んだ。
「自分をそんなにいじめなくていい!そんなつらい役目を買ってでなくてもいい!もっと、もっと自分を大事にして…
生きろ!!」


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09/29 01:22 Windows(PC) [386]エルザス
385
一瞬の静寂があった。遙か遠くで爆発がおこり、シンがそちらを向いたとき、バルディッシュのハッチが開いた。
「フェイト…」
華奢な躰を漆黒のノーマルスーツに包んだフェイトは、おそるおそるシンを見上げていた。
「おいで。こっちへ。もう大丈夫だから…」
「シン…」
一歩、フェイトが足を踏み出した。シンは彼女に手を差し出す。
「もういいんだ。フェイトが抱え込む必要はない。一人にならなくていい。」
「シン…!」
フェイトはシンの手を取り、そのままシンの懐へ飛び込んだ。
「恐かった…寂しかった…つらかった…苦しかった…」
シンの胸に折りたたんだ両腕を押しつけながら、フェイトは一気に心情を吐露した。同時に涙が視界をぼやけさせる。涙は先ほどからとどまることを知らない。
シンはそんなフェイトをやさしく抱きしめつつ、やさしい言葉で彼女を包む。
「フェイトは真面目で一途だから、そうなっちゃうんだよな…だけどもういいんだ。フェイトは、俺が守る。」
「守る…?」
「そう、守る。」
「シンが、守る…」
その言葉を繰り返しながら、フェイトは自分の胸に暖かいものがわき上がるのを感じていた。初めてのようで懐かしい、不思議な感覚だった。
「フェイトちゃん…」
気づくと、ナノハのレイジングハートがすぐ目の前まで来ていた。そのハッチが開き、ナノハも飛び出してくる。
「ナノハ…」
フェイトはナノハに気づき、そちらに向き直った。フェイトに抱きとめられたナノハは、フェイトの顔をまじまじと見てから、ゆっくりと口を開いた。
「…なんだかいっぱい話したいことあったのに、変だね、フェイトちゃんの顔見たら、忘れちゃった。」
「私は…そうだね。私もうまく言葉にできない。…だけど嬉しかった。」
「え?」
「まっすぐ向き合ってくれて。」
そういってフェイトは、シンとナノハを交互に見た。
「私は、ジオンの人間だから、連邦軍のひとは、きっと私のことを憎んでると思ってた。だけど二人は違った。二人とも、私のことを受け入れようとしてくれた。私は、二人を危険な目に遭わせたのに…」
「…フェイトだけのせいじゃないさ。それが戦争なんだ…」
ジオンに殺された妹のことを思い出しながら、シンが言った。
「…こんな私でも、まだ友達と思ってくれる?」
シンを殺めようとした我が手を見ながら、フェイトが言った。
「もちろん。」
シンとナノハの声が重なった。それだけで、フェイトの瞳にまた涙が溢れる。
「…ありがとう……でも、どうすればいいの?私、みんなを殺そうとしたんだよ?どうやって償えば…」
「償う必要なんて無い。簡単だよ…」
フェイトの瞳をまっすぐに見つめながら、ナノハが言った。
「名前を呼んで。」
「名前…?」
「それだけでいい。ただ名前を呼んでくれさえすればいいんだよ。」
「なのは…」
「…うん。」
「なのは。」
「うん!」
「君の手は温かいね、なのは。」
フェイトを見つめていたナノハの目にも、すでに涙が浮かんでいた。
「…少しわかったことがある。友だちが泣いていると、同じように自分も悲しいんだ…」
「フェイトちゃん!」
ナノハはフェイトに抱きついた。大粒の涙をこぼしながら、二人はお互いの躰を強く抱きしめる。シンは黙ってそれを見ていた。

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09/29 01:24 Windows(PC) [387]エルザス
386

「バルディッシュ、敵に拿捕された模様です!」
「なんてこと…!」
クロメルの艦橋で、マネキンが絞り出すように言葉を発していた。フェイトを助けにここまでやってきたのに、その懸命の努力は水泡に帰した。
がっくりとうなだれるマネキンを、オペレーターの報告がさらに追い詰めていく。
「後方より敵戦闘機編隊!前方からは黒い木馬が接近してきます!」
「いよいよ万事休すか…」
クロメルを追ってやってきたのはタチバナ小隊の戦闘機であった。そしてクロメルの行く手を阻むかのように、前方からはすでにバルディッシュとレイジングハート、そしてディステニーを回収しつつあるブラックハウス。マネキンはここが潮時だと感じていた。
投降する意志はない。だからといって部下達を自分の心中につきあわせるつもりもない。
「全艦に、総員退艦を発令しろ。」
「艦長!?」
オペレーター達が一斉にマネキンに視線を注いだ。ここまで来て何を言うのか、そんな顔をしていた。
「無意味に命を散らすことはない。今のジオンには死んでいく者がたくさんいる。だが大事なのは生き残る者だ。貴様らは生きて戦争から生きてかえれ。」
「ちょっとちょっと、何言ってんですか大佐ぁ!」
突然、パトリックにリックドムⅡがクロメル艦橋の前に現れた。パトリックは迫り来るタチバナ小隊に牽制射撃を続けつつ、マネキンに呼びかける。
「今更水くさいですよ!ここまでついてきたんです!最後くらいご一緒させてください!」
ジャイアント・バズの弾が切れ、パトリックは武装をシュツルム・ファウストに持ち替えた。この武器は使い捨てだから、リックドムⅡはあと一撃しか放てないことになる。
「自分は大佐のためなら喜んで死ねます!!」
「パトリック…」
戦場のまっただ中にいることも忘れ、マネキンはモニターのパトリックを凝視していた。ずっと彼の面倒を見てきたつもりだった。だけどいつの間にか、守られているのは自分になっていた。それが嬉しいような悔しいような不思議な気持ちがして、マネキンは思わず微笑んでいた。
「他の者も、気持ちは一緒か?」
艦橋を見渡すと、オペレーター達が一斉に首を縦に振った。
「大佐とご一緒できるなら、本望です。」
パトリックが改めてそう言い、マネキンはいよいよ覚悟を決めた。
「貴様らの命、確かに受け取った。もう戻れないと思え。いいな?」
「ハイ!!」
男達の声が揃い、パトリックはタチバナ隊の迎撃へと向かっていった。
「クロメルはこのまま全速前進!!黒い木馬の進路を阻め!たとえスクラップになってもだ!!ひるむな!!」
絶叫に近いマネキンの号令とともに、もうボロボロのクロメルが身をよじるようにもだえながら進んでいく。幾筋もの火線がその船体を襲い、あちこちから装甲板が吹き飛ばされていくが、クロメルは決して止まろうとはしなかった。


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10/07 00:13 Windows(PC) [388]エルザス
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「また突っ込んで来る気か?ジオンめ、同じことを何度も!!面舵いっぱい!左舷弾幕であいつを沈めろ!」
ブラックハウスで指揮をとっているのは京であった。あずにゃんは一時的に救護室で休んでいる。阿部軍医があずにゃんのショック状態を治してくれれば良いと思いつつ、京は迫ってくるクロメルから目を離そうとはしなかった。すでに乃人を失った段階で、ジオンの将兵は船をぶつけてでもこちらを沈めようとしてくることはわかっている。同じ轍を踏むつもりはなかった。
「これがソロモンでの最後の戦闘だ!すべて撃ち尽くせ!」
京の命令通り、ブラックハウスからは視界を覆うほどの弾幕が張り巡らされ、それらすべてがクロメルめがけて飛翔していった。ブラックハウスの攻撃はクロメルの舳先に集中していた。そこにはコムサイが格納されている。先ほどの戦闘では、沈めたと思った敵艦からコムサイが飛び出してきて乃人が犠牲になってしまった。そのあやまちを繰り返すまい。京の明確な意志の現れだった。

「とんでもない弾幕だな…」
クロメルを上空から見下ろしながら、タチバナはつぶやいた。あまりの弾幕のすさまじさに、タチバナ小隊は味方に撃たれるのを避けるため一時的に退避していた。碧のリックドムⅡが追いかけてきたが、途中でクロメルへと引き返していった。よほどあの船が大切らしい。
「いつまでもこうしてる訳にはいかない。もう一度攻撃を仕掛けよう。残ったロケット弾とミサイル、すべてをあの船にたたき込むんだ。とどめはタチバナ小隊でさしてやる。」
タチバナは列機にそう告げ、機体をクロメルの右舷側めがけてダイブする。すぐあとからPJ、ピクシー、そしてペング・ウォルフが続き、各々が残っている武装を確認した。
「敵艦真横より雷撃!ペング・ウォルフ曹長、合図を任せます!」
「了解。全機俺に続け。」
ペング・ウォルフのGファイターがずいと前にせり出し、旋回を始めた。セイバーフィッシュ3機が続いて旋回し、クロメルの真横からその船体を狙う位置についた。
「何があってもまっすぐ飛べ!慣性に引きずられたら雷撃は当たらん。いいか、なにがあってもだぞ!!」
言いながらペング・ウォルフは、Gファイターの速度を上げていった。弾幕にがんじがらめにされたクロメルはみるみるうちに迫ってくる。と、クロメルがこちらに気づいたらしく、対空砲火の灯りがチカチカと瞬いた。直後にそれらは実弾となってタチバナ小隊に飛来し、コックピットのすぐ横を何発もの曳光弾やビームが通過していった。操縦桿を引き起こしたくなるのを必死にこらえつつ、タチバナ小隊は耐えていた。もうすぐ発射地点に到達する。そこまでまっすぐに飛ばなくては、直進するだけのロケット弾はクロメルには命中しない。永遠のような数秒間。ひときわ大きなビームがタチバナのすぐ横を過ぎ去ったとき、ピクシーが異変に気づいた。

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10/07 00:14 Windows(PC) [389]エルザス
388
「前方にさっきの碧のリックドムだ!こっちを狙ってやがる!!」
見れば、クロメルへ向かって邁進するタチバナ小隊の真正面にシュツルム・ファウストを構えたパトリックのリックドムⅡがいた。シュツルム・ファウストの向く先には、一番目立つGファイターの姿があった。
「退避しろ!曹長!!」
タチバナは声を荒げて叫んだ。だが、かえってきた声は異様に落ち着いていて、そして陽気だった。
「バカ言うな、絶好の雷撃コースだ。」
「ペング・ウォルフさん!!」
彼の隣を飛ぶPJの絶叫が無線に混じる。次の瞬間、リックドムⅡのシュツルム・ファウストが火を噴き、「鉄拳」の名を冠した無骨な弾頭はGファイターの左翼を直撃した。
「曹長!!」
タチバナが叫ぶ中、Gファイターはまだ飛んでいた。爆発は機体の一部をえぐったのに、抱えている大型ミサイルは無事だった。リックドムⅡはきびすを返してクロメルへの最短距離をとった。
「曹長、今のうちにミサイルを捨てて離脱するんだ!」
「まだいけるさ…見ろよ、敵さんは柔らかい腹を晒してくれてる。」
ほんの一瞬、タチバナはクロメルのほうへ目をやった。ついに両方のエンジンが停止したクロメルは、ほとんど慣性の力だけでなおもブラックハウスへと向かいつつあった。パトリックのリックドムⅡはもうすぐクロメルに到達する。
「戦艦にミサイルをぶち込めるとは、雷撃屋冥利に尽きるな…」
照準器いっぱいに敵艦の姿が迫ってくる。もはや傷ついた僚機に目をやっている暇はない。
「行くぞ。雷撃用意!!」
凄味をましたペング・ウォルフの声。タチバナは発射ボタンに指をかける。安全装置は解除してある。
「ってぇぇぇぇぇ!!」
ペング・ウォルフの合図で、4機の戦闘機が一斉にミサイルを発射した。重いミサイルを放った反動で機首が跳ね上がるのを押さえつつ、タチバナは再びGファイターに目をやった。
「小隊長、冥土の土産に、スカートつきを一機もらっていくぞ。」
Gファイターは煙を吹き出していた。飛んでいる機体からバラバラとあらゆるパーツが抜け落ち、それでもペング・ウォルフはまっすぐ飛んでいた。
「やめろ!やめろ!やめろ!」
Gファイターの向かう先にはリックドムⅡの姿があった。もはやよけられる距離は残されていない。
「よせ――――――ッ!!!」
タチバナの絶叫は、リックドムⅡに機首をめり込ませ、四散したGファイターの爆発音にかき消された。直後にセイバーフィッシュがクロメルを飛び越え、ついでミサイルがクロメルを直撃した。

「敵艦、轟沈!」

カントーが戦果を報告したがその声色は決して明るくなかった。

「ペング・ウォルフ曹長…」

アークがその名をつぶやいた。京は制帽を被り治し、わき上がってくる様々な思念を押しやった。

「後方からナガモン中尉達が戻ってきている。黒猫中尉も一緒だ。彼女らとタチバナ隊を収容し次第、ブラックハウスは第二連合艦隊に合流する。別命あるまで戦闘態勢を維持。」
「アイ、マム!」

カントー、アーク、はちゅねが応じるが、仕事が手につかない様子なのがはっきりとわかった。無理もない、と内心に思いつつ、京はこの激戦に生き残った奇跡を噛みしめていた。
ブラックハウス隊が、この一戦でどれだけの傷を負ったのか、想像もつかない。おそらくその傷はこれからその深さをまし、兵士達の心を締め付けるのだろう。
それでも、兵士たちの心とは関係なしに、この無慈悲で凄惨な戦いは続いていく。破滅の色合いを強めてきたジオンはいよいよ狂的な抵抗を見せるだろう。これからさき、どれほどの殺戮が繰り広げられるのか、見当もつかない。
それでも、と京は思う。それでも今この戦いを生き抜いたことを、自分は素直に喜びたい。散っていった仲間達に申し訳ないと思う気持ちはある。
だが、それにもまして、自分が生きていることの喜びをこれほど強く感じたことはいままでなかったのだ。
艦長席に座り直した京は、そこから戦場を見渡した。無数のMSの残骸。戦艦のスクラップ。かろうじて見えるヒト型のものは宇宙を漂う死体か。
戦いはまだ続いていく。大義も名分も失ってなお、人の争いへの本能はとどまるところを知らない。

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最終更新:2010年11月03日 17:29
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