アットウィキロゴ

光る宇宙 その2

BlackCatの整備に追われながら、オレはずっと妙な頭痛に悩ませられていた。どこか遠くから、呼んでいるような声が聞こえる。そんな感覚なのだ。
「なあ、さっきからなにかおかしくないか?頭が痛いんだが…」
オレと同じく顔をしかめている黒猫を見つけて、そう声をかけた。
「うん。感じる。なんだろう、これ…」
やはり黒猫も何かを感じているようだ。二人してその感覚の正体を確かめようとしていると、MkⅡとLv.57が心配そうな顔をしてやってきた。
「どうしたんだい?躰の具合でも?」
「二人とも顔色よくないですよ?」
口々にそういう二人を見て、黒猫が訳を話す。
「うまく言えないけど…なんか変なんだよ、このコンペイトウの周り。すごく…」
「変…?そりゃ、殺気みたいなものは感じるけどねぇ。」
「僕的には、二人とも医務室で休んでたほうが良いと思いますよ。まだ昨日の戦いの疲れも残ってるでしょ?」
「…そうだな…黒猫、一緒に医務室に行こう。これじゃ作業に集中できないしな。」
「だね。じゃあ整備士長、レベッカ、あとはよろしく。わたしのRXちゃんと直しといてね。」
「まかせな。ダンボールがパーツは届けてくれたし、星一号作戦には間に合わせるよ。」
「修理のことは心配しないでください♪」
そんな訳で、オレと黒猫は医務室へと向かった。途中でハルヒとキョンが話しているのに出くわした。
「どうしてもあの機体を直したいのよ!あれはいいものよ!ジオンのMSをいじれる機会なんてそうないでしょ!」
「だからって無い物ねだりしても始まらないだろ?ジオンMSのパーツなんてダンボールは持ってきてないぞ。」
「だからコンペイトウの中を探してきなさいって言ってるの!使えるパーツは片っ端から集めてきなさい!さもないと死刑!!」
「無茶いうなよ…」
どうやらハルヒがまたよからぬ思いつきをしたみたいだ。キョンの表情がそれを物語っている。
「おいハルヒ、また悪巧みか?」
「楽しそうだね。」
オレと黒猫が声をかけると、二人とも我が意を得たというような顔になった。
「二人とも協力してちょうだい!」
「二人ともこいつを止めてくれ!」
ほぼ同時にそう叫んだハルヒとキョンを見て、オレと黒猫は思わず吹き出した。二人はいがみ合うような視線を互いにぶつけている。
「ちょっと、二人が私をとめる訳ないでしょう!?」
「あのな、軍規違反に大事なパイロットを巻き込むな!」
「あんたはいいって言うわけバカキョン!」
「お前のわがままに振り回されるのは慣れてるよ。」
「二人だってそうよ!」
「お前なぁ…」
いつまでたっても口論が続きそうだ。とりあえず事情を聞いてみる。なんとなく予想はつくが。
「落ち着けハルヒ、キョン。いったい何の話をしてたんだ?ジオンのMSがどうとか言ってたが。」

[削除][編集][コピー]
10/16 02:44 Windows(PC) [401]エルザス
400
「バルディッシュよ、バルディッシュ!」
「バルディッシュって、フェイトの機体?」
黒猫がハルヒに訊いた。ハルヒは腕を組んで自信満々にうなずく。
「そう。ジオンのMS技術をふんだんに取り込んだ傑作よ。あれをこのまま格納庫に放置しとくなんてもったいないわ。なんとか損傷を直して実戦で利用すべきよ。」
「誰が操縦するんだ?」
キョンがもっともな質問をする。ハルヒは無頓着な調子で答える。
「さあね。捕虜のフェイトって娘に操縦させるわけにはいかないし…黒猫中尉、どう?」
「わたしは嫌だよ。RXがいい。」
「いっとくがオレもBlackCatは降りないぞ。」
「じゃあシンかしらね。ディステニーは一番ひどくやられたから、ひょっとしたら作戦に間に合わないかもしれないし。」
「やっぱりそんなにひどいのか?」
「動いてたのが信じられないくらいよ。今はアースラに行っちゃってるからあまり詳しくはわからないけど、見た目だけでも酷いものだったわ。アララギ君とツンデレちゃんが見てるけど、このあとキョンが応援に行くわ。」
ハルヒがヒタギ・センジョウガハラのことを「ツンデレちゃん」と呼んでいたのは意外だったが、とりあえず事情は呑み込めた。
「それでキョンにアースラへ向かう途中でコンペイトウをうろついて、使えるパーツを持ってこいって言ってたんだな?」
「その通りよ。そしたらキョンったら気が進まないなんて言っちゃって。だらしないわね。」
「そういう問題じゃないだろ?勝手に敵の機体を直してどうするって言ってるんだ。」
「ハルヒ、オレもバルディッシュを直すことには反対だ。投降したとはいえ、やはりあれは敵のMSだ。いっそ完全に破壊してやりたいくらいだ。」
語気を強めてそう言った。自分でも熱くなりすぎてるのはわかっていた。だが、あれはジオンのMSなのだ。ジオンは敵だ。憎い敵だ。
「ナガモン中尉、あなたが考えてることはわかるは。あなたはジオンを憎んでる。だからあの機体も憎いのね。」
「当然だ。バルディッシュは黒猫やシンやナノハや、このブラックハウスまでも沈めようとしたんだぞ?」
ますます冷静でなくなっていく。自覚はしている。黒猫が猛るオレの腕にそっと手を触れる。ハルヒはそんなオレに対して硬い表情のまま淡々と言葉を紡ぐ。
「わかってるわ中尉。わかってる。でも中尉だって、それがあの機体やフェイトのせいじゃないってことくらい理解してるでしょ?彼女は責務を果たしただけだもの。」
あぁ、理解はしてるさ。だけど…
「それでもオレの感情は変わらない。ジオンは憎い。フェイトは偉いとは思うよ?たった一人で敵陣に飛び込んで、最後まで戦おうとしたんだ。尊敬もする。だが、それとこれとは別だ。彼女は敵だ。」
「それを、本人の前で言える…?」
一番嫌な質問がきた。そう、オレはそれを一番恐れていたのだ。彼女と面と向かって出会うことを。彼女はシンやナノハと一緒にアースラにいる。オレはまだ直接会ってはいない。ちょっと前まで本気で殺し合ったいた相手とどんな顔をして会えばいいのかまったくわからない。シンとナノハはどうやってフェイトと会話しているのだろう?不思議ですらある。
だけど…
「言ってやるさ。お前はオレの敵だってな。」
そう言った瞬間、ハルヒは急に寂しそうな顔になった。黒猫がオレの腕を掴んでいるところからも、急に悲しみが流れ込んで来るみたいだった。それで、オレは一抹のむなしさをおぼえた。いつまでも憎しみあっていたって、どうしようもないじゃないか。そんな考えが頭をよぎった。
だけどそれは、思い出された屈辱の記憶にかき消された。そうだ、ジオンは汚い。口先だけの正義で汚いことを平気でやってのける。やっぱり憎い敵だ。
「言ってやるとも!フェイトにはっきりと、お前はオレの敵だってな!!」
今度は叫んでいた。そうだ。それがオレの戦う理由なのだから。ジオンの奴らを少しでも苦しめられれば、オレはそれでいい。
「わかったわ。行きましょう、キョン。」
ハルヒは組んでいた腕をほどき、足早に立ち去った。キョンまでもが、オレを憐憫の目で見ているようなきがした。だがオレには関係ない。そう自分に言い聞かせる。
気がつくと、黒猫がオレの腕にほとんど抱きつくようにすがり寄って来ていた。
「…ナガモン、恐い。」
「別に、いつも通りさ。」
言い放って、医務室へ向かって歩き始める。黒猫はオレの腕に掴まったままついてくる。
二人分の足音だけが廊下に響く。無言。

[削除][編集][コピー]
10/16 02:44 Windows(PC) [402]エルザス
401

黙っていると自分がフェイトのことを本当はどう思っているのかを考えてしまう。もし彼女がもっと大人で、あるいはもっと醜い姿をしていたら、こんなことで悩みはしなかったのだ。オレはただ単に彼女を憎めばよかった。だが、彼女は美しかった。その戦う姿は儚くて、それでいて芯があった。自らの身は顧みず、崩れそうになる自分に仲間のためだからと言って鞭をうつ、どこか無茶な、いや無鉄砲な彼女。
そんな彼女がバルディッシュのパイロットだったからこそ、オレはこんなにも惨めな気持ちで廊下を歩いているのだ。自分の言ってしまったことがむなしい。なぜ彼女を受け入れられないのか、自分が恨めしい。
黒猫に目をやる。うつむいて歩く彼女は泣いているのかも知れない。フェイトと直接戦ったのは彼女なのに、黒猫はフェイトを受け入れようとしていた。昨日、宇宙にただようRXをオレと魔理沙が回収したとき、気を失っていたはずの黒猫は確かにつぶやいた。「フェイトを許してあげて」と。
一歩踏み出す時が来ているのかも知れない。
そう思った。過去に別れを告げ、今とそして未来を生きるために、オレは乗り越えなくてはならないのかも知れない。
今までにもそう思ったことは何度かあった。だけどそのたびにオレはあの恥辱を思い出して、ジオンへの復讐の思いを新たにしていた。答えのない毎日が続いた。
それが変わるときなのかも知れない。今度こそオレは自分と向き合わなければいけないのかも知れない。本当の自分がどっちなのか。ジオンが憎いか、本当はそれを忘れたいのか。
答えは自分で探すしかない。自分の中にしか答えは無い。それを探すのがどれほどつらいか、オレはわかっているつもりだ。だから逃げ出したい。だけど…
オレはうつむいたままの黒猫に目をやる。彼女をこれ以上悲しませたくない。いや、黒猫だけじゃない。ハルヒやキョンだってオレのことを心配してくれてるだろう。MkⅡやLv.57だってそうだ。
「黒猫。」
呼んでみると、黒猫は涙に濡れた瞳をこちらに向けた。
「フェイトに会ってみる。そのときオレが彼女を許せるように、力を貸して欲しい。」
「ナガモン…?」
「オレは変わらなきゃいけないんだと思う。これ以上お前を悲しませたくないしな。本当はオレがどうしたいのか、フェイトに会ったら確かめられると思う。だから…ついてきて欲しい。」
「うん、わかった!」
黒猫はそう言って、涙を流しながら微笑んだ。
「わたし、ついていくよ。どんなにつらいことがあっても、ナガモンがそれを乗り越えたいと願うなら。そして、わたしがその役にたてるなら。」
「ありがとう。」
「ううん。ごめんね、わたしはナガモンの痛みを分かち合うこともできなかった。」
「そんなことはない!」
「嘘はナガモンらしくないよ。わたし、ずっとナガモンの力になりたかったんだ。だから嬉しいんだ。フェイトと出会うことで、ナガモは運命を変えられるかもね。」
「すべては神様がご存じさ。」
「そうだね、二人に幸あれだね。」
黒猫が言った「二人」が誰をさすのか、オレにはよくわからなかった。オレとフェイトのことか、それともオレと黒猫のことか。どっちだっていい。良い結果になることを祈るのは悪いことじゃない。

[削除][編集][コピー]
10/16 02:44 Windows(PC) [403]エルザス

† † † † †

突然、光が瞬いた。その光は一隻のマゼランを貫いて、マゼランは火玉に呑み込まれて爆発した。場所はコンペイトウのすぐ外側だった。
つづいてやはり要塞の表面にいたジムが光に貫かれ、爆発した。爆発はあちこちで起こった。砲台、輸送艦、戦艦、そういったものが次々に光に貫かれていく。
レビル将軍は要塞の中央司令室でその報告を受け取っていた。だが、報告には敵がどこにいるのかわからないと記してあった。副官の一人が要塞表面の監視棟と連絡を取り合っていた。
「現場なら敵が見えるだろう!?こっちはまだ電気系統の整備が終わっちゃいないんだ!見えるわけがないだろう!…おい、どうした?38エリア?38エリア?…将軍…」
副官がレビルを振り向き、連絡が途絶えたことを伝える。レビルは各部隊へ状況を連絡し、見えない敵に対して警戒態勢をとるよう指示した。
ブラックハウスからは魔理沙、アリス、パチュリーの三人が緊急発進して要塞周辺の索敵にあたることとなった。ブラックハウス隊の中では、この三人のMSがいちばん無傷に近かったのである。とはいえ、アリスのストロードールは先の戦闘でAI制御のボール「シャンハイ」を失っていたし、他の二機もジークフリートとの戦闘で弱冠の損傷を負ってはいた。それでも彼女たちが出撃したのは、それだけ他の機体の受けた傷が大きかったことを表していた。
「ミノフスキー粒子がえらく濃いから、レーダーは役に立たないわね。自分の目だけが頼りよ。魔理沙、アリス、周囲の警戒を怠らないで。」
リトルデーモンに乗るパチュリーがすばやく状況を確認する。
「あそこ!マゼランがまた一隻やられたぜ!」
マスパを操る魔理沙は光に包まれてゆくマゼラン級から目をそらさない。
「魔理沙!周囲を警戒してっていってるでしょ!ちゃんとやってよ!」
アリスがすかさず注意する。魔理沙は「わかってるって」などとぼやきながら辺りに異常がないか目を光らせる。だが、なにもおかしなところはない。敵の姿が全然見えないのだ。
「おかしいわね。ほんとに敵影が見えないわ。いったいどこから…?」
パチュリーがつぶやいた途端、さらに一隻のサラミスが艦橋から火を噴いた。
「何隻やられてるんだ!?」
あきれたような口調で魔理沙が叫ぶ。そのとき、アリスが一機のMSを発見した。
「後方斜め下、白いMSよ!パチュリー、確認して!」
「了解!」
パチュリーが素早い手つきでパネルを操作し、捉えたMSのデータを照合する。
「あら、ガンダムね。アムロ・レイのガンダムだわ。」
そう、彼女達が発見したのは敵機ではなくガンダムだった。アムロ・レイの操縦するガンダムは、一度立ち止まって何かを感じ取っているかのようにじっとしていた。かと思うと、今度は何かを見つけたかのように一気に加速し、コンペイトウから離れていった。
「なにか見つけたのかな?」
アリスがガンダムを見ながら言った。
「あとを追いましょう。敵機かも知れないわ。」
パチュリーがそう宣言し、三機は並んでガンダムを追っていく。パチュリーは念のために機体に搭載されているカメラで撮影を始めていた。肉眼で確認できなくても、なにかが映りこむかも知れないと考えたのだ。レンズは最大望遠に設定してある。
ガンダムはしばらく進んだかと思うと、おもむろに停止してしまった。

[削除][編集][コピー]
10/16 02:48 Windows(PC) [404]エルザス
403
「あらら、止まっちゃったぜ?」
「見失ったみたいね。どうする?パチュリー?」
「もう少しだけ進んでみましょう。レーダーに少しだけ反応が現れたわ。たぶん、ゲルググって機体だと思う。」
パチュリーの言葉通り、リトルデーモンのレーダーは小惑星の上にたたずむゲルググを捕捉していた。しかし、小惑星にしては反応がおかしい。
「11時の方向に何か見えない?」
正体を確かめるべく、パチュリーが具体的な方角を指示する。魔理沙とアリスが必死に目をこらし、二人は同時に赤い点のようなものを発見した。
「ひょっとしてあれがMSか?」
「ずいぶん遠くだけど、そのようね。その横に緑色の大きなものが見えない?」
「確かに。コムサイ…じゃないし、MAかな?パチュリー、確認できたか?」
「そう簡単にはいかないわ。まだ遠すぎる。あっ、引き返していくわ!」
「あとを追うか?」
「…ダメ、もうレーダーの外に出たわ。すばしっこいわね。」
「私たちも戻りましょう。ソロモン…じゃなくて、コンペイトウからだいぶ離れたわよ。」
「そうね。どうやらカメラには写ったみたいだし。どうやらあの緑色のは、小惑星なんかじゃなくて新兵器らしいわね。」
「お手柄だな、パチュリー!見えない敵の写真を撮るなんて。」
「まだこれが見えない敵の正体と決まった訳じゃないわ。だいたい問題は見えないところからの攻撃をどう避けるか、よ。写真だけでは意味がないわ。」
「ほめてやったのに。」
「ありがとう。協力してくれて感謝してるわ。」
「へへっ、どういたしまして。」
「二人とも、そろそろ無線封止しなさい。無駄話しは後回し。」
「「了解。」」
アリスのつっこみに魔理沙とパチュリーがおとなしく従い、三人はコンペイトウへの帰途についた。
この時パチュリーが写真に納めた敵機こそ、ララァ・スンの駆るMA「エルメス」だったのである。そしてエルメスに付き添っていた赤いゲルググがシャア・アズナブルの乗機であったのは言うまでもない。



[削除][編集][コピー]
10/16 02:49 Windows(PC) [405]エルザス

† † † † †

オレは黒猫とともに、アースラのフェイトを尋ねていた。フェイトは黒いパイロットスーツのまま独房に入れられていた。相変わらず沈んだ表情でいる彼女は、オレが憎んでいた卑しいジオン兵の姿とは似ても似つかないものだった。庇護が必要だと思った。彼女はまだほんの子供だ。
「シン・ナガモン、こっちは黒猫。サイド6で会ってるよな。」
独房の中に入ってにそう声をかけた。黒猫も入ってきたが、監視役のクロノは外から扉を閉め、鍵をかけた。まだフェイトを警戒している様子だ。
「はい。お久しぶりです。ナガモンさん。黒猫さん。」
「わたしは昨日話したけどね。戦いながら。」
黒猫が言った。驚くことにこいつは笑顔だ。
「フェイト、強いんだね。わたしMS戦であそこまでやられたの初めてだよ。」
黒猫はなおも明るい口調で話し続ける。緊張しながらも、フェイトはすこし照れたような様子でそれに答えた。
「そんな…私はあの時必死だったから、無我夢中で…」
「ほんとに大したもんだよ。たった一人で仲間のために時間稼ぎなんて。わたしには真似できないなぁ。」
「大切な人がいるから…みんなを守りたかったから…」
「うんうん、わかるよその気持ちは。でも、その気持ちをきちんと行動にうつせるところが偉い。」
「…だけど、そのせいでみなさんを危ない目に遭わせてしまいました。一度は一緒に食事もしたのに…」
「気にすることないよ。たまたまわたし達とフェイトが違う陣営にいただけ。運命ってときどき残酷ないたずらするから。わたしだってフェイトと本気で戦おうとしてた。フェイトに罪があるとしたらわたしも同罪だよ。ね、ナガモン?」
突然オレのほうに話しを振ってきた。オレはすこしびっくりして言葉に詰まる。
「う、あぁ…そうだな。同罪というか…まぁお互いに軍隊にいるから仕方ないってことかな…」
「じゃあ…ナガモンさんは、私を許してくれますか…?」
核心の問題をフェイト自らが持ち出してきた。オレはますます言葉を失う。そうだ、オレは彼女を許すためにここへ来た。だけどこれじゃあんまり急だ。まだ心の準備ができていなかった。自分と向き合わなければいけない時がこんなにはやく訪れるとは思ってもみなかった。だが、彼女を前にして、「許さない」とはとても言えない。そこにいる少女はあまりに可憐で、儚くて、美しいからだ。
だけど、言葉が口をついて出てこない。頭では彼女を許しているのに、彼女を憎んだって仕方ないとわかっているのに、言葉にできない。まるで自分の口がオレの意志に反乱をおこしたみたいだ。プライドとかメンツの問題じゃなかった。そこでまた蘇る屈辱の記憶。
忘れられない恥辱。なんども悪夢で繰り返し見た汚い男達の卑しい笑い。手足を押さえれれ、服をはぎ取られ、躰中に何本もの手が伸びてきて、それが肌を這い、オレをおもちゃのようにさんざんに犯して、オレが泣きわめいてもまだ犯して、気を失うまで犯して、オレは最後には理性すら失いかけて、それでも犯すのをやめない男達。そういったことが頭の中でグルグル回って、オレはいま自分がどこにいるのかすらわからなくなる。

[削除][編集][コピー]
10/18 23:13 Windows(PC) [406]エルザス
405
目の前には捕虜になったジオンの少女。同じ女の捕虜なのに、なぜこいつはオレのような目に遭わない?不公平だ。お前も同じ苦しみを味わえばいい。
オレをじっと見ている少女の顔に恐怖が浮かぶ。そうだ、もっと怖がれ。オレを恐れろ。泣きわめけ。理性を失うまで。
オレは少女に腕を伸ばす。乱暴に髪を掴み、ぐいと引き寄せる。少女は痛みと恐怖で声もでない。片手で少女の首を絞めながら、真っ黒なパイロットスーツをナイフで切り裂く。ナイフの切っ先は時々少女の肌をも傷つける。破れた黒のスーツから透けるような白い肌がのぞき、そこをしたたる鮮血が綺麗なコントラストを描く。スーツの裂け目に手を突っ込み、乱暴に引き裂いていく。あらわになる少女の躰。いやがる彼女を押し倒し、馬乗りになる。すべて壊してしまいたい。この少女のなにもかも、すべてを。

「ナガモン!!」

黒猫に呼ばれて、オレは我にかえった。頭を抱えて下を向いていた。手にはナイフなんて握っていない。顔を上げれば、心配そうにこちらを見る黒猫とフェイト。フェイトのパイロットスーツは傷一つ無く彼女の素肌を包んでいる。
幻覚、あるいは妄想だった。
「よかった…」
心からそう思った。オレはまだ彼女に手をかけていなかった。どっと疲れを感じた。同時にほっとしたような気持ちになる。まだ大丈夫、彼女とは仲直りできる。それがうれしかった。
「ナガモンさん、大丈夫ですか?」
フェイトは真剣な眼差しでこっちを見ていた。オレはその瞳をまっすぐに見返し、彼女の手を取った。
「すまなかった。オレが間違っていた。君に罪はない。悪かったのはオレのほうだ。君にはなんの罪もなかったんだ。ほんとうにすまなかった。」
一気にまくし立てた。彼女はあっけにとられて、なんのことかわからないという表情をしていた。それはそうだ。
「オレは…君のことを憎んでいた。ただ、君がジオンだっていうそれだけの理由で。だけど、それは間違ってた。君は君だ。ジオンだとか連邦だとか、関係ないんだ。君は君なんだ。かけがえのない存在なんだ。」
思うがまますべてを口にしていた。さっき言葉に詰まったのが嘘みたいだった。まとまりはなくても、思いが次から次に言葉になって、口をついて出てくる。
「君はもっと自分を大事にしなきゃいけない。君はみんなを守るって言ったけど、みんなに守ってもらって良いくらいだ。だけど君は強いから、そういう不器用な生き方しかできないんだよな…」
そういって、オレは彼女を抱きしめていた。ぎゅっと強く、抱きしめていた。彼女は誰かに似ていると思っていた。今ようやくわかった。
オレ自身だ。
守りたいけど守って欲しくて、けどそれは絶対に表には出せないで、不器用に、それはもう不器用に生きている。そうだ、彼女はオレに似ていたんだ。
だからオレは彼女を許そう。そうすれば、オレは自分さえも許すことができる。汚されて、たくさんの人を殺して、仲間を守れなかったオレだけど、オレはこれからそんな自分を許してやれると思う。それはとてつもない救いで、その救いを運んでくれたフェイトに、オレは精一杯の感謝の気持ちを伝えた。
そして、それを黒猫が見守っていた。そうだ。こいつもオレに救いを運んでくれた。こいつがオレを呼んで目覚めさせてくれなかったら、オレは本当にフェイトに酷いことをしていたかも知れない。思えば、オレがくじけそうな時、黒猫はいつもそばにいてくれた。自分だって悲しいだろうに、黒猫はオレを励ましてくれた。
なんで今まで気づかなかったんだろう。こいつのことが好きなのはとっくにわかってたのに。オレはこいつのことはちっともわかってなかった。とにかく確かなのは、オレにはこいつが必要不可欠ってこと。こいつなしの未来なんてオレは嫌だ。
一番守りたいもの、それってつまり一番愛してるものなんだろう。黒猫。オレはお前を守りたい。だからお前を愛してる。
† † † † †

ナガモンの胸に顔をうずめながら、フェイトは眠りの底へ落ちていった。極度の緊張から解き放たれ、たまっていた疲れがどっと押し寄せてきたからだ。ナガモンが自分を許してくれたらしいこともなんとなくわかった。ナガモンに抱き寄せられて安心できたのはそのせいに違いない。
気がつくとフェイトは幻想を見ていた。幻想の中ではやさしい母がフェイトと、フェイトの姉のアリシアとを抱き寄せていた。
アリシア――――フェイトの母プレシア・テスタロッサの最愛の娘にして、5歳にしてプレシアの実験に巻き込まれて命を落とした悲劇の少女。彼女を失ったプレシアは狂的なまでに嘆き、ついにはアリシアのクローンを生み出した。そのクローンこそが、フェイト・テスタロッサであった。フェイトはプレシアからガンダムの捕獲を命じられ、ツィマッド社特務隊に同行していたのだ。以来、プレシアは精神の均衡を失ったかのようにフェイトを虐げ続けてきた。フェイトが危険に身を晒しながらもガンダムの打倒に全力を挙げていたのは、ガンダムを倒せばプレシアからやさしい愛をうけられるかもしれない、という儚い希望があったからだ。だが、プレシアのフェイトに対する冷たい仕打ちは変わることはなかった。
いまフェイトが幻想に見ているプレシアは、そんな冷酷な人間とはまったく違う、優しく暖かい母の姿であった。その母の胸に抱き寄せられて、そばには本来生きているはずのないアリシアもいて、フェイトは幸せだった。だが、彼女は気づいていた。これが幻想にすぎないことに。それから冷めてしまえば、また冷たい現実が彼女に襲いかかってくることに。それでも、フェイトはその現実に立ち向かわなければならないと思っていた。
幻想の中のアリシアが、フェイトの顔をまっすぐに見た。二人を抱き留めていたプレシアの姿が消え失せて、二人は太い幹の大きな木の下に座っていた。雨が降っている。二人の容姿は当然よく似ていた。だが、わずか5歳で命を落としたアリシアの姿は幼い。フェイトはアリシアに話しかける。
「ねぇ、アリシア。これは、夢…なんだよね?」
「……」
「私とあなたは、同じ世界にはいない。あなたが生きてたら、私は生まれなかった。」
「そう…だね…」
「母さんも、私にはあんなに優しくは…」
「優しい人だったんだよ。優しかったから、壊れたんだ。死んじゃった私を、生き返らせるために。」
「…うん。」
「ねぇ、フェイト。夢でも良いじゃない。ここにいよう?ずっと一緒に……私、ここでなら生きていられる。フェイトのお姉さんでいられる。皆で一緒にいられるんだよ?フェイトが欲しかった幸せ、みんなあげるよ?」
フェイトの表情は晴れない。雨は降り続ける。
「ごめんね…アリシア。だけど、私は行かなくちゃ。もう…」
アリシアの表情に悲しみが広がる。寂しそうな、でもどこかその答えを待っていたかのようなアリシアは、黙ってフェイトに抱きつくと、そっと目を閉じた。それだけでフェイトはアリシアが自分を理解してくれたとわかった。
「ありがとう…ごめんね、アリシア…」
震える声でフェイトは絞り出す。
「いいよ。私は、フェイトのお姉さんだもん。待ってるんでしょ?優しくて強い子達が。」
「うん…」
「じゃあ、いってらっしゃい、フェイト。」
「うん…」
二人はほんの一瞬、互いに見つめ合う。
「現実でも、こんな風にいたかったなぁ…」
アリシアの躰が消えていく。フェイトは手から、幼いアリシアの感触が消えていく。その最後の光が消えたとき、フェイトは現実へと帰って行った。

[削除][編集][コピー]
10/18 23:14 Windows(PC) [408]エルザス

† † † † †

わたしは、感情の流れを感じていた。ナガモンとフェイト、二人の思いが流れ込んでくる。二人とも、自分の迷いに一つの答えを見出したみたいだった。わたしはこの時初めて、自分がニュータイプかも知れないと考えていた。他人の幸せを感じ取れる存在、それがニュータイプなのだとしたら、それはどんなに素敵なんだろう。
だけどそれと同時に、わたしは二人の悲しい気持ちも感じ取っていた。二人とも悲しい過去を背負ってここまで来たんだ。似たもの同士抱き合って、涙なんか流してる。独房の外のクロノは、そっぽを向いて見て見ぬふりを決め込んでいた。だからわたしも二人を抱きしめてみる。ますます思いが伝わってきた。これがニュータイプ。そうなのだ。
わたしは、この力をみんなが幸せになるために使おうと思った。一人でも多くの人が悲しい過去を乗り越え、新しい自分になるために一歩を踏み出す、そのために役立てようと思った。それがニュータイプの力だ。

[削除][編集][コピー]
10/18 23:14 Windows(PC) [409]エルザス

† † † † †

コンペイトウ要塞の一画にある倉庫で、ユーノ・スクライアがナノハとたたずんでいた。彼の目の前には山積みにされたジオン製MSの部品があった。
「これを、使えないかな?」
ユーノはナノハにそう切り出した。彼はハルヒと同様、フェイトの愛機であるプロトタイプケンプファー「バルディッシュ」の再建を目論んでいたのである。
「使えるんじゃないかなぁ。でも勝手に持って行っちゃっていいの?」
「戦術アドバイザーの権限なら、敵のMSを回収して研究するくらいのことはできるよ。問題はバルディッシュがブラックハウスにあることなんだ。」
ユーノもナノハも、アースラの一員であった。しかし、バルディッシュが保管されているのはブラックハウスの左舷格納庫なのである。バルディッシュを直すには当然ブラックハウスの整備士の力を借りることになる。しかし、この部隊に配属されてまだ日の浅いユーノは、ブラックハウスのクルーとはほとんど面識を持っていなかったのだ。
「ん、おまえらなにしてるんだそこで?」
不意に背後から声をかけられて、ユーノとナノハは飛び上がって驚いた。振り向くと、ぶっきらぼうな顔をした男が一人、ユーノとナノハを交互に見ていた。
「キョンくん!」
ナノハが男の顔をみて声をあげた。彼女は宇宙にあがるまで、短い間ではあるがブラックハウスで勤務していた。そしてSOS団の整備士キョンもまた、一時的にアースラで勤務していたのである。だから二人が顔見知りであることは不自然ではなかった。
「ナノハか。こちらは戦術アドバイザーのユーノさん、だったな。」
「ユーノ・スクライアです。どうぞユーノと呼んでください。」
「じゃあ、ユーノ、それにナノハ、ここで何してたんだ?パイロットは艦内待機じゃないのか?」
二人とも一瞬返答に詰まった。正直に答えて良いか迷ったからだ。そのまま黙っていると、キョンが深くため息をついた。
「はぁ~。まぁだいたいわかっちゃいるがな。どうせバルディッシュを直すためのパーツ集めだろ?」
図星だったので、二人は互いに顔を見合わせた。どうやらここにも同じ考えの者がいたらしい。
「じゃあ、じゃあ、キョンくんもバルディッシュを直すつもりなんだね!?」
ナノハが嬉々としてキョンに訊いた。バルディッシュは今まさにSOS団の管理下にあるのだ。
「俺の意志じゃない、ハルヒが直そうとしてるんだ。まったく、こっちはそのわがままにつきあって倉庫あさりだ。」
キョンがぼやくと、彼の背後から一台の小型トラックが倉庫に入ってきた。運転台には笑顔を絶やさない優男が座っている。
「おぅ、来たか、コイズミ。こっちだ。」
キョンがコイズミを迎え、山積みのパーツのそばに駆けていく。ユーノとナノハもそれを追った。コイズミはトラックから降りるとうずたかく積み上げられたパートを隅々まで観察していた。
「大変な量ですね。この中からバルディッシュにあうパーツを選ぶのは、かなり骨が折れそうです。」
顎に手を当て、いかにも思案中といった仕草でコイズミが言った。
「だいたいの見当はつけてある。問題は見つかったときどう言い訳するかだ。勝手に倉庫に入っただけでもやばいってのに…」
言いながらキョンは、黙々とお目当てのパーツ類を探し当てていた。倉庫内は半無重力だから、重い装甲板でも軽々と運ぶことができた。ユーノはどんどんパーツを選ぶキョンを見ながら、案外彼も乗り気なのではないかと考えていた。協力できそうだった。
「あの、それなら問題ないです。僕の研究材料と言えば、たいていの器材は持ち出せるはずです。」
キョンとコイズミがさっとこちらを向き、ユーノはおもわず一歩後ずさった。なにかまずいことを言ったか…?
キョンはコイズミとアイコンタクトを交わすと、互いに頷き合った。
「ひとつそれで頼む。こっちはハルヒの命令だから達成できないと厄介だ。」
キョンがユーノに言った。あっさりと協力者が見つかって、ユーノは拍子抜けしたような感覚だった。ハルヒがそこまで執心というのなら、バルディッシュも修理はSOS団主導でやって貰えるだろう。自分は解析したバルディッシュのデータをもとに、その方法を指導すればよい。
「喜んで協力させてもらいます!」
ユーノは嬉しくて、キョンに頭まで下げて見せた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2010年11月03日 17:41
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。