「ベーダ―卿から作戦の概要が届きました。」
ブラックハウスの艦橋、各部署の責任者とパイロットが集まったのを見て、あずにゃんが切りだした。
「ブラックハウス以下第二連合艦隊の残余はこれより、
黒の騎士団と呼ばれる敵反乱部隊を鎮圧に向かいます。」
「反乱部隊?聞きなれないわね。」
ハルヒが口をはさむ。何人かが彼女の言葉に賛同してうなずく。
「連邦政府とジオン共和国政府は、ゼロ及び黒の騎士団の行動を国家に対する反逆と位置づけて対処するようです。ゼロの演説放送は機密回線を使って行われたので、両軍の中でも一部の者しか聞いていません。もちろん一部とはいえかなりの人数にはなりますが、秘密裏に処理することは可能なようです。」
あずにゃんはそこでいったん言葉を切った。皆の反応をうかがっているらしい。誰も何も言わないので、あずにゃんは説明を再開した。
「私たちは鎮圧部隊の先遣隊として、まずは敵の位置と規模をできるだけ正確に割り出します。そのあとで第六艦隊を主力とする本隊が敵陣に突入、ソーラ・レイを使用不能にします。」
「まずはオレ達を突っ込ませて様子を見ようってわけか。」
いかにも気に入らないという口調でナガモンが言った。怒っているというよりはあきれているようだった。
「その通りです。」
あずにゃんは表情を変えずにそれに答える。
「それで艦長、鎮圧部隊の行動はいつになりますか?」
カントーが手を挙げて訊いた。
「日付変更とともにア・バオア・クー宙域を発進、ソーラ・レイが準備されていると思われる区域、通称『マハル宙域』までノンストップで走り抜けます。接敵したら即座に戦闘に入り、そのあとは本隊の到着まで敵を叩き続けます。」
「艦長、ブラックハウスの修理とMSの整備はそれまでにはとても終わりそうにないよ?」
MK Ⅱが腕組みした姿勢であずにゃんを見た。次から次へと懸念事項が浮かび上がってくる。
それら一つ一つについて、あずにゃんは忍耐強く対処法を探していった。人手不足は
アースラから収容したクルーで賄う。
作戦の不備はクロノに対策を講じさせる。医薬品などの補給物資は輸送艦ダンボールに運んできてもらう。
そして医務室を埋め尽くし、今も阿部軍医が必死の治療を続けている多数の負傷者は、そのままダンボールに引き取ってもらう。
「捕虜を後送する余裕もないな。後方へ向かう味方の船は負傷した連邦兵でいっぱいだ。そんなところへジオンの捕虜を引き渡したら、なにをされるかわかったもんじゃない。」
クロノが言った。彼は捕虜の取り扱いについてとくに慎重になっていた。
一通り作戦の打ち合わせが終わると、あずにゃんは艦長席から立ち上がった。
「ゼロの言葉を信じれば、ソーラ・レイは明日1月1日の午前9時に発射されます。私たちは断固としてそれを阻止します。これが今次大戦における、ブラックハウス最後の戦いになるでしょう。みなさん、今まで本当によくやってくれました。払ってきた犠牲はあまりにも大きいけれど、私はいま、皆さんがこうしてそばにいてくれることに感謝しています。
立ちはだかる敵はこれまで私たちが何度も戦ってきたあの黒の騎士団です。はっきり言って、敵はあまりにも強大です。
でも、私はもう誰も失いたくないんです。これ以上散る命があってはならない。もうこんな殺し合いは終わりにしなければならない。だから私たちは、勝たなきゃいけないんです!それがどんなに辛くたって、怖くたって、勇気を振り絞って、懸命に闘わなければいけないんです!
力を貸してください。みなさんの力が必要です。みんなが生き残って、笑って明日を迎えられるように。すべての戦いに終わりを告げるために。私は戦います。だからみなさんもどうか、わたしについてきてください。今まで私は、頼りがいのある艦長ではなかったけれども、そんな私だったからこそ、みなさんがしっかりと支えてくれたのかな、とも思っています。だからお願いします。もう一度、あと一度だけ、みなさんの力を使わせてください。
そして、すべてを終わらせたら、必ず私のところへ戻ってきてください。必ず生きて、帰ってきてください。私はもう、誰を失うことにも耐えられないから…」
あずにゃんはそういって溢れてきた涙をぬぐった。弱気になっているわけではない。ただ単に怖いだけだ。
これ以上誰かが傷つくことが、誰かと二度と会えなくなることが、怖い。
だからと言って自分にできるのは、こうしてみんなに「生きて帰ってきて」と願うことだけなのだ。最初から本当に何も変わらない。
自分は無力な艦長だった。
「必ず帰ってくる。」
ナガモンが言った。意志に満ち溢れた声だった。
「ゼロとの決着をつけて、必ず帰ってくる。だからあずにゃんは、帰ってきたオレ達を笑顔で迎えてくれ。とびっきりの笑顔で、オレ達を迎えてくれ。」
「ナガモンさん…」
「そうそう、泣き顔で迎えられるよりそっちのほうがいいもんね。」
黒猫が無邪気に言った。
「黒猫さん…」
あずにゃんは感謝の気持ちでいっぱいだった。この人たちはまだ自分を信じてくれている。
まったく成長できなかった自分だけど、それでもみんなは自分を信じてくれる。私は一人じゃない…
それに気づいた分だけ、あずにゃんは成長していたのかもしれない。
なぜなら彼女は、みんなの信頼にこたえたいと思うことで強くなれたからだ。絶望的な作戦に邁進していけるだけの強さ。
今のあずにゃんはそれを手に入れた。たとえ一人では無力でも、自分の背中を押してくれるみんなを想えば強くなれる。
それだけの使命感はある。やらねばならない。
「…行きましょう、マハル宙域に。すべてを終わらせましょう。私たちの未来を、この手に取り戻しましょう。」
今度こそ万感の思いを込めて、あずにゃんはそう言った。
「艦長殿に対し、全員敬礼!」
クロノが凛々しく叫び、一同の挙手の礼がそろった。あずにゃんもそれに答える。覚悟は決まった。
「つい何時間か前までは友軍だった者が、反逆者になるとは…」
連邦軍の輸送艦ダンボールの一室で、
グラハム・エーカーは感慨深げに言った。
「ゼロの反逆が事実だとすれば、戦争はまだ終わらないのでしょうか?」
彼の正面に腰かけたダリル・ダッジが疑問をあらわにした。これから先の展開を不安に思っているようだった。
「どんなことをしてでも、共和国政府は戦争を終わらせようとするだろう。今頃は鎮圧部隊が編成されているはずだ。『公軍相撃つ』の事態は避けたいだろうが…」
連邦軍のサイド3侵攻が現実味を増してきたいま、公国軍の中には何としても戦争を終わらせたいと願うものがかなり多くなってきていた。グラハムもすでに自分にとっての戦争は決着がついていると考えていた。
ガンダムBlackCat。あの機体に敗れ捕虜となった今、グラハムはもうこの戦争を続ける意味などないと思っていた。彼にとって戦争はもう終わった出来事だったのである。
不意にドアがノックされ、この輸送艦の艦長、ダン・ボールが部屋に入ってきた。
「ジオン共和国政府からきみ宛に特別命令が出たようだ。ジャブローを経由してこの船に電文が回ってきた。」
ダン・ボールはそういって一枚の文書をグラハムに渡した。
「これは…黒の騎士団の鎮圧命令?私にも参加しろというのか!」
驚愕を隠そうともせず、グラハムはダン・ボールを見た。
「そのようだ。ダリル・ダッジ中尉にも同様の命令が出ている。共和国政府は何としても黒の騎士団によるソーラ・レイの発射を阻止したいらしい。そのためには戦闘を終えたばかりの公国軍部隊…いや、もはや共和国軍部隊といったほうがいいのか。とにかく戦える熟練パイロットはどんどん投入するつもりでいるらしい。」
「しかし…ダリルはともかく、私には機体がない。」
「それは問題ない。君の機体は現在
ツィマッド社のビリー・カタギリ氏が修復中だ。完全に直るわけではないが、パーツを撃破され遺棄された
ゲルググから流用して何とかするとのことだ。」
「では、戦わせてもらえるのだな?」
「あぁ。ただし、条件がある。」
ダン・ボールはグラハムの眼をしっかりと見据えた。
「君が公国のためでなく、共和国のために戦うと誓えるなら、君は鎮圧作戦に参加できる。どうだ?」
「できる。」
グラハムは即答した。もともと彼は公国軍の正規兵ではい。ツィマッド社の社員だ。反逆部隊鎮圧に任が彼に回ってきたのもそのせいに違いない。
「もともと私は過去の因縁に縛り付けられる性格ではある。とくに仲間の仇や、そういった勝負の事柄に関してはな。しかし、私も未来を見ていないわけではない。ジオンの未来を担うのは共和国だ。その平和の礎となれるなら、私は喜んでこの身を差し出そう。」
「自分も同じ考えです。」
グラハムの言葉にダリルも同意した。彼らは理想に燃えていた。今一度、新たなる正義のために立ち上がる。戦士としてこれ以上の名誉はない。
「そうか…わかった。」
ダン・ボールはそういうと、身をひるがえして部屋を出た。と、廊下へ一歩踏み出したところで、二人を振り返った。
「諸君の気持ちはよくわかった。本船はこれよりブラックハウスの補給へ向かう。鎮圧部隊の出発は午前零時。新年を迎えるまでに準備をしなければならん。ほとんど時間はないが、二人とも今のうちに機体を見ておいたほうがいい。格納庫へ行きたまえ。作戦の詳しい内容は追って知らせる。」
「感謝します。」
グラハムとダリルが敬礼し、ダン・ボールは答礼して去って行った。
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12/06 00:19 Windows(PC) [525]エルザス
524
「後方よりダンボール近づきます!」
カントーが補給艦の到着を告げ、ブラックハウスはにわかに忙しくなった。
「左舷に接舷、5分前!」
「負傷者をダンボールに移すのが先だ。武器弾薬はそのあと!」
「炊事班で手が空いている者は右舷最上甲板に集合!船体の修復作業を手伝え!」
あらしのような忙しさに怒号が飛び交う中、Lv.57はなにやら秘密の会話をしているらしいハルヒとキョン、そしてユーノを発見した。格納庫の片隅である。
「フェイトはいまゼロと黒の騎士団に関する事情聴取を受けてる。それが終わったらシンとナノハが独房へフェイトを連れて行くことになってる。」
ユーノが真面目な表情でそう言っているのが聞こえた。
「その時にここへ連れてきてもらえればいいわ。キョン、バルディッシュの整備状況は?」
「ほとんど終わってる。武装の最終チェックはまだだが、アララギとセンジョウガハラがいまやってる。すぐに終わるはずだ。」
「タイミングを間違えてはダメよ。MS隊の発進命令が出るまでは絶対に気取られるわけにはいかないわ。」
「3人とも、なにしてるんですか?」
あまりに怪しかったので、Lv.57はそう声をかけた。
「げぇっ、レベッカ!?」
ユーノが圧倒的に驚いた声をあげた。キョンとハルヒもかなり驚いた様子だったが、ユーノほどではなかった。
「そんなに驚かなくても…それよりなに話してたんですか?手が足りないんだから、手伝ってくださいよ。」
「あぁ、悪い。それじゃハルヒさん、キョンさん、あとは頼みます。」
ユーノはそういってLv.57の手を取ると、彼女をハルヒたちから引き離した。
「ちょっ、どこ行くの~?」
「手が足りないんだろ?手伝うよ。」
「だったらあっち、カタパルトだよ。あんまり狭いからディスティニーはカタパルトに乗せたまま整備してるんだ。」
離れていくLv.57とユーノを見ながら、キョンはハルヒに耳打ちした。
「ユーノに協力させたのは正解だったのか?ばれるとしたらあいつが原因になりそうだが。」
「悪巧みに慣れてないだけよ。かわいいじゃない。」
「悪巧みに慣れてるような言い方だな。」
「あら、キョンはいつも共犯者じゃない。あんたも同罪よ。」
「俺はお前に振り回されてるだけだ。」
「だとしても同罪よ。私とあんたは…運命共同体なんだから。」
「いまなんて?」
キョンはハルヒの顔を見た。どことなく、頬を赤らめているようだった。
「…ッ!運命共同体って言ったの!そんなこともわからないの!バカキョン!!」
ハルヒはいきなり激昂して叫ぶと、ぷいとそっぽを向いて行ってしまった。
キョンはやれやれとでもいうようにため息をひとつつき、彼女の後を追った。
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12/06 00:19 Windows(PC) [526]エルザス
525
「補給作業と負傷者の収容、まもなく完了します。」
あずにゃんのもとへアークが報告にやってきた。あずにゃんはいま、自室でクロノ、シン、ナノハといっしょにフェイトから黒の騎士団について詳しく聞いていたところだった。
「そうですか。予定の時刻にはマハル宙域へ向けて発進できそうですね。」
「はい。ダン・ボール艦長もそのようにおっしゃっていました。」
「わかりました。ご苦労さまです。アークさんもすこし休んでください。」
「ハッ、失礼します。」
アークが退室し、あずにゃんはフェイトに向きなおった。
「では、ゼロにはなにかほかの狙いがあるというんですね?」
そう問いかけるあずにゃんの言葉に、フェイトは小さくうなずいた。
「そうとしか思えません。あの人は私にとってもよくしてくれました。とても優しい人です。そのことは、私だけでなくカレンさんもよく知っているはずです。」
「カレンさんというのは、タチバナさんが捕虜にとったあの赤いMSのパイロットですよね?」
あずにゃんがクロノに確認するように言った。
「はい。現在は独房に入れてあります。ゼロの反逆についてはすでに話してあります。彼女からも話を聞きますか?」
「そうですね…後でこの部屋に呼んでください。」
「了解しました。」
「あ、あの…」
フェイトが弱弱しい声を上げ、あずにゃんは彼女を見た。
「なにか?」
「これからブラックハウスは、ゼロの作戦を止めにいくんですよね?」
「そうです。」
「あの…私にも、戦わさせてください!」
「…え?」
「彼を止めたいんです!お願いします!」
フェイトはそういって、実際に頭まで下げて見せた。しかし、頼まれたあずにゃんは当惑していた。
「そう言われても…捕虜をそうやすやすと解放するわけにはいきませんし、まして戦わせることなんてできないです。つまり、MSで出撃したいということなんですよね?」
「はい…無茶を言ってるのはよくわかってるんです。でも、彼がそんなことをやろうとしているのを知って、黙ってみているだけなんてできません。こんなこと、ゼロ自身のためにもならないんです。彼を止めなきゃ、私が止めなきゃいけないんです。お願いします。」
あずにゃんはますます困惑してしまった。いかにも無茶だ。正気の沙汰ではない。
「と、とにかくフェイトさんは休んでください。独房で休んでもらうしかないのが申し訳ないんですが。」
「お願いします!お願いします!」
「そういわれても…」
あずにゃんは助けを求めるようにナノハとシンを見た。ナノハはフェイトの肩に手をまわした。
「私が独房まで送ります。行こう、フェイトちゃん?」
「…うん…」
フェイトはふらふらと立ち上がり、ナノハに支えられるようにして部屋をでた。
「俺もついていきます。ナノハだけだと心配だから。」
シンがそういって二人に続き、あずにゃんはクロノと残った。
「どう思いますか、クロノ副長。もし彼女が本当にゼロを止めたいと思っているのなら…」
「その可能性は否定できませんが、だからと言って捕虜をMSに乗せて解放するなんて論外です。艦長と自分が処罰を受けるだけでは済まないかもしれません。」
「そうですよね…」
「普通に考えれば、あれは捕虜が脱走したいがためのでまかせです。しかし、それにしては理由があまりにぶっ飛んでる。かつて味方だったゼロをとめたいから、なんて。あまりにも不自然だからこそ、逆に真実なのかもしれないという気にもなる。艦長のお気持ちはわかります。」
「…私もまだまだ甘いですね。捕虜の言葉に乗せられそうになっていました。」
「いえ、そこが艦長の艦長らしいところです。その優しさがあったから、ブラックハウスのクルーはあなたについてきた。もっと自信をもってください。」
「ありがとうございます。」
あずにゃんは深呼吸をしてからクロノに向きなおった。
「タチバナさんに連絡して、カレンさんを連れてきてもらいましょう。収容されてからずっとだんまりとのことですが、どうにかして情報を引き出したいですね。」
「了解しました。」
クロノはタチバナに連絡するために出ていき、あずにゃんは一人になった。
「…これが終わったら、センパイは褒めてくれるかな?」
なんとなくそんな独り言をもらし、あずにゃんははるか地上にいる大好きな人たちに思いをはせた。
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12/06 00:20 Windows(PC) [527]エルザス
526
「これに着替えて。バルディッシュのところへ行こう。」
廊下の片隅でいきなりシンにそう言われ、フェイトは面喰った。差し出されたぶかぶかのノーマルスーツに言われるがままに着替え始めると、シンは赤面して目をそむけた。
「シン君、ちゃんと人が来ないか見張っててよ。」
ナノハがじとっとした視線をシンにむけ、シンは「わかってる!」と答えた。しかし、その視線がちらちらと自分に向けられるのにフェイトは気づいていた。
「あの…これはいったい…?」
フェイトはナノハに尋ねた。なのが起こっているのかさっぱりわからない。バルディッシュのところへ行くとは、どういう意味なのだろう。
「フェイトちゃんの願いをかなえてあげる。ゼロを止めたいんだよね?ナノハも協力するよ。シン君も協力してくれる。みんなフェイトちゃんの味方だから、安心して。」
「バルディッシュに乗って戦えるってこと?!」
「しっ、声が大きいよフェイトちゃん。」
「あ、うん。」
「そういうこと。フェイトちゃんの想いが本当だってナノハたちにはわかるから、だから一緒に戦おう、フェイトちゃん。みんなでゼロを止めて、この戦いをおわらせようよ。」
ナノハの瞳は真剣そのものだった。本気でフェイトの言葉を信頼し、そしてフェイトの力になりたいと思ってくれているのがはっきりとわかった。
「…ありがとう、ナノハ…それにシンも。」
「あぁ…あ、いや。」
一瞬こちらを向きかけたシンが慌てて視線をそらす。
「でも、私が独房にいないのがばれたら…」
「大丈夫だよ。身代わりになってくれる人がいるから。」
「身代わり…?」
「うん。フェイトちゃんの力になりたいって思ってる人は、フェイトちゃんが思ってるよりいっぱいいるんだよ。だから、フェイトちゃんは安心して自分のなすべきことをして。」
「……」
思いがけないことだった。連邦軍の捕虜になってどんなひどい仕打ちを受けるか、フェイトはずっと怖れていた。しかしこのブラックハウスのクルーは想像していた連邦兵とは違った。だれもが優しくて、ジオンを憎んでいると言っていたナガモンですら自分を認めてくれた。
フェイトは胸がいっぱいだった。ツィマッド社特務隊のみんなが冷たかったわけでは決してない。だが、安らぎの時間がなかったことも事実だ。自分をここまで思っている人たちがこんなにもたくさんいる。その事実が彼女の心を温めていた。堪えきれず、熱いものがこみあげてきた。
「ありがとう…ナノハもシンも…みんなありがとう…」
「あーあ、フェイトちゃん、泣いてる場合じゃないんだよ。急がなきゃ。」
「うん…」
涙を流しながら、フェイトは手早く着替えを済ませた。ノーマルスーツはやはりサイズが合っていない。
「それで、私の身代わりになってくれる人って…」
「あぁ、それならもうすぐ…あ、来たよ。」
暗い廊下の向こうから現れたのは、不慣れな金髪のカツラをかぶったミクル・アサヒナであった。
「空母
ミドロ、所定の位置に配置完了!」
黒の騎士団の旗艦、
ダモクレスの艦橋に報告が入った。ゼロは即座に全部隊に指示を飛ばす。
「部隊の初期配置急げ!敵が現れる予想時刻まであと2時間だ!先遣隊が偵察を出して来ればさらに早くなる可能性もある!急げ!」
マハル宙域に展開する公国軍の数はしだいに大きくなっていた。あちこちの戦場から退却してきた部隊が次々にゼロのもとへと馳せ参じ、黒の騎士団と運命を共にすることを宣言していた。彼らはまだ自分たちが負けたと認めていなかった。いや、負けを認めていたからこそ、絶好の死に場所としてこのマハル宙域を選んだのかもしれない。戦争が終われば、戦う武人としての矜持は永久に失われる。ならば、今次大戦最後の戦場となるこのマハルで、この命を散らそう。多くの兵士たちはひそかにそう誓っていた。そしてともに銀河の海に散る仲間たちを得て、ますます士気を高めていた。
ダモクレスの上方にいたスザクは、目の前に展開する公国軍最後の戦闘部隊を見てひとり感慨にふけっていた。
思えば、長い戦いであった。まるまる1年の間、人類は血で血を洗う戦いに明け暮れてきた。失われた者はあまりにも大きく、得られたものはあまりにも小さかった。
それでも。
闘う戦士たちの姿は、常に美しかった。スザクは戦場の中で激しく命を散らしていった戦士を幾人も見てきた。彼らはことごとく崇高であり、美しかった。信じる者のために文字通り命を懸けて戦った者たちは、スザクにひとしく感動を与えた。
その姿が美しいからこそ、気高いものであるからこそ、人類はいつまでも戦争をやめられないのかもしれない。確かに戦争は醜い。人間だけが行えるもっとも恥ずべき愚行に違いない。
だが、それを差し引いてなお胸を動かされるなにかが戦争にはあった。軍人だけにわかる自己満足的な精神性かもしれない。のちの歴史家には決して理解されない刹那的な感性なのかもしれない。しかし、スザクは戦争の中に確かな美しさを見出していたのだ。
誰かが何かに真剣に取り組んでいる様は美しい。
それは取り組んでいるものが芸術であれスポーツであれ戦争であれ変わらないのではないだろうか。戦士たちが真剣に戦いに望み、勝ち、そして散っていく様は、何者よりも儚く可憐だった。なによりも彼らの魂が素晴らしかった。
いかなる犠牲を払ってでも戦いに勝つ。守りたいものを守る。そんな決意のために命を懸ける戦士たちを、いったい誰が侮辱できようか。いや、戦士たちは讃えられなければならない。未来永劫、真の勇者として語り継がれなければならない。これはそのための戦いだ。
「だが、ルルーシュの狙いは違う。」
足元のダモクレスを見下ろし、スザクは言った。
そうなのだ。ルルーシュの狙いは戦士たちの無念を晴らすことでも、
ジオン公国軍の栄光を世界に示すことでもない。より悲劇的な、カタストロフィーに満ちた結末を彼は望んでいる。スザクはそれを知ったうえで、この作戦に従事していた。
「ゼロ・レクイエム」。その作戦がはらむ本当の意味を知っている者は、まだほとんどいない。
時刻は午前零時になるところだった。人類史上最大の殺戮が行われた忌むべき年、U.C.0079は終わり、いま新たな一年がまさに始まろうとしていた。
最終更新:2010年12月24日 02:46