真夜中のノックスの街。
時刻は午前零時を回り、中央に聳え立つボストニア城は静寂を保っている。
しかし……その静寂は突如、鳴り響いたサイレンの音と城の外観を照らすサーチライトが掻き消した。
ナイトキャップを被り、フリル付きのパジャマ姿のグエン卿が慌てて廊下に出る
「このサイレンは何か!?」
警備主任のミハエル大佐が部下に確認を取りながら、事態の確認を急ぐ
「ハッ!今、調べてる最中でして……ん、何?宝物庫のアラームなのか?」
廊下の向こうからヤーニが走ってくる
「ミ、ミハエル大佐……、ゼェ…宝物庫に…ハァ…この、カードがぁ!」
「見せろ!……何だというのだ?」
グエン卿がヤーニから奪い取ったカードの表は、骸骨と交差する骨の絵柄がプリントされていた。
裏には文字が綴られていた。その文字を読み上げると……
「CROSS-BONES!?」
グエン卿の隣り立つミハエル大佐はその単語を聞き、青ざめる
「………キンケドウ=ナウだと!!」
同時刻、ノックスの城下町をパトカーのサイレンが響き渡る。
ボストニア城からの通報を受けて出動したシロー以下、08分署のパトカー数台がノックスの街の大通りを走る。
シロー「今夜も早速、ご登場かよ…」
警察無線を聞くミケル「ハイ…了解!…シロー隊長、キンケドウはボストニア城から未だ出ていないようです!」
シロー「よし、城の出入り口に固めるんだ!手配急げよ!!」
シーブックは、ボストニア城の外壁を照らすサーチライトを避けて走る。
「ミリシャの出足…思ったより早いんじゃないの?」
その姿は全身黒づくめの特殊スーツを着て、顔を黒いアイマスクで隠し
全身を覆う程の大きなマントを靡かせながら、時たまサーチライトに照らされるその黒いシルエットは……
キンケドウ=ナウその人だった。
「…毎回、いいもんじゃないよ……夜、徘徊するのは。
不良になっちまう…(イヤホン越しの通信を聞いて)……08分署に通報した?了解」
シーブックこと、キンケドウ=ナウは宝物庫から盗み出した箱を抱え、ボストニア城の外壁を走り抜ける。
ボストニア城門前では、08分署のパトカーが数台横付けされ、
ミリシャ(ノックス領内施設警備隊)と警察が小競り合いを繰り返していた。
シロー「通報したのはそっちだろ?なんで現場に入れない?」
ヤーニ「通報なんぞしておらん!そもそもボストニア城は治外法権だ!ミリシャの領域なんだよ!
お前等よそ者が立ち入っていい場所ではないんだ!」
サンダース「隊長!キンケドウです!!」
シロー「何!?」
サーチライトが交差する夜空をキンケドウはマントを羽根のように広げ、軽やかに舞っている。
ヤーニ「ようし!目標を捕捉し、各自発砲を許可す……わっ!?何をする!!」
シローはヤーニの構えたライフルを手で抑える「発砲は止めろ!キンケドウを捉える事が先決だ!!射殺なんかさせやしないさ」
ヤーニ「何を…離せ!このを!」
キンケドウは下の騒ぎを見ながら夜空をグライダーの如く滑空している。
下からのサーチライトが照らす闇夜の中、ボストニア城内を抜け、ノックスの市街地へと飛んでいく。
「シロー兄さん……ご免ね。利用しちゃって…」
ボストニア城内には
「ミリシャは何をやってる!?アレはローラに贈るモノなのだぞ!!」独り、激昂するグエン卿が居た。
「方角から言って……この辺、の筈……よね?」
ノックスクロニクルの新聞記者フランは数ヶ月前から怪盗キンケドウ=ナウの事件の取材を続けていた。
今夜も警察無線を傍受して、キンケドウが逃げ込んだと思われるノックスの市街地へ向かい
写真の一枚でも撮れれば……と、カメラを構えている。
治安が特別に良い街では無いノックスを、女性が深夜に独りで出歩くのは危険が伴う。
が…フランは記者として、世間を騒がせている怪盗キンケドウを追わずには居られなかった。
世間、マスコミ全般の評判は……
『闇夜を舞う義賊、富める者から奪い、貧しき者を助ける、法の裁きを逃れる悪を正す者』
噂に尾ひれが付き、若干の誇張もあるだろうが、大方は庶民の味方。一部分においてはヒーロー視されていたりもする。
そのような評判の立つ怪盗キンケドウの真の姿を暴き、ジャーナリズムの元、白日の下に晒そうという志なのだ。
そんな気負いが彼女に無茶をさせているのかもしれない。
「もしかして…そこの裏通りに居たりして……」裏路地に入るフラン。
ガチャ!カラ~ン!…カラ~ン… Σ(゚д゚;三;゚Д゚) 「きゃあ!?」
自分の足で路地に落ちている空き缶を蹴ったようだ…薄暗い路地なので足元が見えていなかったようだ。
「……ふ~~ぅ…何だ、空きか…ん!?」
暗闇の中から突如、怪盗キンケドウ=ナウがフランの目の前に現れた!
不意を突かれたフランは、声が出せなかった……
キンケドウは咄嗟にフランを羽交い絞めにして、口を塞ぐ。
「な…、キ、キンケ……ぐ……は、離しなさ……」
フランは手足をバタつかせて力の限り抵抗するも、女の力では敵う筈もなく…成すがままにされ……
(私…どうなるの!?……キンケドウは人殺しをしないと聞くけど……)
これで最後?…とフランが半分、諦めかけたその時。
「こっちに降りていったぞ!!探せ!!カレンは向こう側を頼む!」
シローの掛け声の下、08分署の警官達がフランとキンケドウが鉢合わせしている裏路地の直ぐ脇を
駆け足で通り過ぎて行った。
キンケドウは警官達がこの付近を走り去ったのを確認すると、フランを放し、
「驚かせて悪かったね…」と言い残すと。路地の奥、暗闇の中へと走って行ってしまった。
フランは腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
兎に角、最悪の事態は脱したのだ……ホッとして、一息つき
「はぁ……助かった…………………………ん……これは?……」
フランの手には銀のロケットが力強く握られていた。
どうやら、先程のキンケドウと遭遇した際、羽交い絞めにされないよう、
無我夢中で暴れた時にキンケドウの胸元を掴んだ時に首に架けてあったモノを引きち切り
結果として握っていたモノらしい。
「……キンケドウ……の、持ち物?……」
裏路地から移動したキンケドウは警察の追跡を交す為、
民家の屋根に登り、屋根から出ているエントツの影に隠れていた。
携帯スキャナを取り出し、宝物庫から盗み出した宝石のデータをモバイルで送信する。
「キッド。トレースした情報を送る、確認してくれ………」
通信待ちをしていたキンケドウにサーチライトが当る
サンダース「隊長!居ましたぁ!!あの赤い屋根の家、エントツの側です!!」
シロー「よし、左右から行くぞ!!カレンとテリーは左、サンダースは俺と右からだ!!」
シロー達は屋根に登り、左右からキンケドウを追い詰める作戦だ。
「そうか……これも違うのか……どうする?返すか?」
シドが無線に割り込み「wwヘ√レvv─今月も色々物入りでな……必要経費として貰っておこう─wwヘ√レvv─御曹司もこれ位で腹は痛まんだろう」
「分った……」シーブックは左右を見回し、ジリジリと警官達が迫っているのを確認出来る。
「今だあ!捕まえろ!!」シローの号令の元、左右から一斉にキンケドウに飛び掛る警官達。
「けど…」ブーツの底に仕込んでるアポジモーターが噴射。足元が光り、
「店の売上には入れてくるなよ!」
アポジモーターの推進力で警官達の頭上を飛び越えるとマントを羽根のように両腕で開き、再び闇夜に飛び去る。
キンケドウのシルエットが月夜に浮かび、それを苦々しく見るシロー
「チィ!!又、逃げられたのか……」
CROSS-BONESアジトにて、薄暗い照明の中、山積みされている機器のランプが点滅している。
シドはインカムを外して
「アイツも痛い処を突いてくる……しかし、こっちも準備には何かと金が掛かるんじゃがなぁ……」
ディスプレイの光りに照らされているキッドはキーボードを素早く叩きながら「シーブックは真面目なんだよ!」
シド「真面目な……盗賊か、アイツらしいと言えばらしいかもな……」
明け方。
キンケドウは自宅の塀を飛び越え、庭に入ると
素早く黒ずくめの衣装を脱ぎ、キンケドウからシーブックに戻り、道具一式をバックに詰める最中に
「あれ?…ロケットが無いや……どっかで落としたのかな?……後で探しにいかないと」
そんな事を気にかけながら、シーブックは窓から自分の部屋へ入った。
相部屋のシローは未だ、夜勤から帰って来てはいない。
自宅に入る処さえ気をつけていれば、後はスンナリと蒲団の中に戻れるのは何時もの事だった。
見当たらない銀のロケットの事を考えながらも
2,3時間したら学校に行かねば成らないシーブックはそのまま深く眠る。
朝の食卓。
夜勤明けのシローが帰宅。
ロラン「シロー兄さん、ご苦労様です」
ノックスクロニクル誌を広げるアムロ「昨日も又、キンケドウ=ナウが暴れたってなぁ…」
シロー「ふわ~~ぁ……そうなんだよ、俺の夜勤の時を狙って出てくるんだよな~」
シーブック「 (;゚ -゚) ……ぐ、偶然でしょ?」
シロー、食卓を見回して「あれ?カミーユとウッソは?…」
ロラン「カミーユは部活の朝練でもう、出ちゃいましたよ。ウッソも朝の当番とかで…」
ギンガナム「コウ君。好き嫌いはイカンなぁ~!どれ小生が…」
コウ「や、止めてくださいよぉ…」自分の皿を身体毎、庇う。
ヒイロ「……」
キラは自分をギンガナムの絡む対象から逸れてくれている事に感謝しながら黙々と食べている。
(ドモン兄さんは海外の試合に出かけてるし…カミーユも居ない、ギンガナムさんを止める人が居ないんだよな…)
「ふ~ん……」朝の食卓の風景と化しているギンガナムは無視して…
ロランの淹れてくれたお茶を啜り、夜勤明けのシローはホッと一息入れていた。
TVが報じる朝のニュース。
昨晩のボストニア城の事件を現場中継で流しているの見て……
アル「ねぇ、キンケドウってカッコ良いよね!シーブック兄さん」
シーブック「え!?……ああ、そうだな」
シロー「カッコ良い、ってなぁ……そんな奴を持ち上げるマスコミもマスコミだ!」
アル「でも、キンケドウは悪人からしか盗まないんだよ!それで困ってる人を助けるんだって
正義の味方だって、そうなんでしょ?」
シーブック「え?……う、うん……そうだな…」
ギンガナム「まぁ…義賊とか言われているよなぁ…小生はよく知らんのだが……
ロラン君!御代りを所望である!」
シロー「アル……ドロボーはドロボーなんだよ!良いも悪いも無いんだ」
アル「そうなの?」
ヒイロ「……俺には分らない、何が正義なのか…」
コウ「怪盗とか…カッコ良く言われてるけどねぇ…実際はどうなんだか?
……あ!ギンガナムさん、それ僕の卵焼きぃ!!」
ギンガナム「ん?…モグモグ……イラナイのかと…モグモグ……思ってな。
う~~ん、ロラン君の焼いてくれた卵焼き。美味しいよ!」
コウ「最後の楽しみに残しておいたのにぃ!!」
ギンガナム「食卓でな、自分の好物を残しておくというのはな、独りっ子が甘ったれて言うセリフなんだよ」
何時の食卓だと、ここで話も収まるのだが…今日は少し違っていた。
シーブックが独り、キンケドウの話を蒸し返す
「けどさ……人助けはしてるってぇ!噂は聞くよ…」
シロー「そんなの噂だけのでっち上げだろ?シーブック……。お前、いい歳なんだから…モノの判別を…」
シーブックはさらに食い下がる「キンケドウは人殺しだってやっちゃいないんだぜぇ!!」
シロー「確かにそうだけど……それもどーだか?その内にボロも出てくるだろう…」
シーブック「…そんな奴じゃない!!」
シロー「シーブック。お前、何、熱くなってるんだよ?……相手はドロボーなんだぞ?」
アルは二人に挟まれ、怯えていた「……… ))))) 」
二人は睨み合い、和やかな朝の食卓が一辺、険悪なムードに変る。
シーブックが兄に噛み付くのは珍しい事で、食卓に居る誰もが途惑っていた。
アムロ「二人とも、その辺で止めておけ!」
ロラン「そ、そうですよ!朝っぱらから……」
シロー「ああ、俺はもー寝るよ」立ち上がると機嫌悪そうに居間を出る。
アムロ、新聞を折りたたみ「シーブック。お前が悪いぞ!シローは夜勤明けで疲れてるんだ…あとで謝っておけ」
シーブック「…うん、分った(ムキになり過ぎたか?……)」
シーブックとシローの思わぬ衝突で重苦しくなった朝食の空気を散らすように
各人、他所他所しく朝の時間を過した。
ロラン「あ!もーこんな時間だ!!ジュドー達を起してこないと!!」
キラ「僕、起してくるよ…」
ヒイロ「……食事完了。出るぞ」
ギンガナム「…仕方ない…卵焼きの代わりに小生の納豆をあげよう…」
コウ「……今日はそれで、我慢しますよ」
同日の朝。新聞社にて、
フランはデスクに座りキンケドウの落としていった銀のロケットを眺めて考え事をしていた。
カイ「よう!キンケドウ番になって暫く…何かネタは掴んだのかい?」
フラン「そうですねー……、掴んだと言えば掴んだような……」
ボンヤリと銀のロケットの中身を観ている。
カイ「なんだい?これ…写真?」
ロケットの中にはシーブックとセシリーの2ショット写真が切り抜かれて入っていた。
カイ「これ、アムロんとこの弟だろ?隣の女の子は…その知り合いか?」
フラン「そうなんですよ……そこまでは、前のアムロ=レイ汚職事件の取材で分ってる事で……」
カイ「どれ、貸してみなよ……(銀のロケットを手に取り)
ん?…このロケット、蓋の裏にプリクラが張ってあるな……大分、汚れてるけど……小さな女の子かな?…これは」
ロケットの蓋の裏には、薄汚いプリクラ写真が張られていた。
顔の輪郭で幼い少女と分る位で、写真だけでは誰だか、検討もつかない。
フラン「…何故…
シーブック君の写真の入ったモノを……キンケドウが……謎だわ……」
思考を纏める為に暫くブツブツ呟いているフラン。カイの話も話半分で聞いているようだ
カイ「ま、程々にな~……」
同日午前中、学園での授業中
シーブックは昨夜の活動が祟り、寝不足気味のようで机に肘を突き、居眠りをしていた。
ポゥ「そこ!私の授業中に寝るとは何事か!!このぉ!!」とチョークを投げ
シーブックに当る「いてぇ~……」
後ろの席のミリアリア「又、グライダー作りで徹夜でもしてたんでしょ?」
シーブック「ま、まぁ…そんな処かな……(本当は…)」
斜め後ろの席のサム「ポゥ先生。お前に目ぇつけてるぞ」
シーブック「分ってるよ…」
「シーブック=アノー!!貴様……、毎回、寝てるな……そんなに……私の授業が退屈なのか?……」
涙目のポゥ。震えている。
他の科目での授業態度がさして悪くもないシーブックは何故だか、ポゥの授業では堂々と寝ているのである。
そんなシーブックの授業態度に……
舐められている?や、他の教師よりも劣ると見られている? 等の疑問が湧き出て、
怒りの感情よりも
教師としての自分の無力さを感じ、悔しさの余り零れた涙のようだ。
ポゥ「……暫く、自習だ」泣きながら教室を出て行く。
シーブック(ヤバ、泣いてた……ポゥ先生の科目が連続で入る日に限って、前日に仕事が入るからツイツイ寝ちゃうんだよな……)
アーサーはケラケラ笑いながら「シーブック。ポゥ先生を虐めるのも程々にしとけよ~」
カミーユ「そうだ!授業が進まないじゃないか…」
シーブック「そ、そんなんじゃ…(苦笑)」
後でポゥ先生に謝りに行かねば……と、気が重いシーブックだった。
ボストニア城の事件から二日が経ち、
新聞記者フランはシーブック達の通う学園に取材で訪れていた。
フラン「貴方、セシリー=フェアチャイルドさんですよね?」
セシリー「はい…そうですけど…」
フラン「セシリーさんに見て貰いたいモノがあるんですが…」
フランは怪盗キンケドウと遭遇した晩に現場で拾い上げた銀のロケットをセシリーに見せた。
「中身の写真、貴方とシーブック君。ですよね?…」
「…ええ、そのようですけど……」
セシリーはフランの持っている銀のロケットも、中に入っている写真の事も、全て初めて見るモノで…答えようもなかった。
そもそも、持ち主であるシーブック自体、銀のロケットの事は他人には秘密にしていたし
アクセサリーを身につけている事自体、男の癖にチャラチャラして…との気恥ずかしさから
他人には殆ど見せびらかずに黙って持ち歩いていた為、
シーブックと親しい友人達も…勿論、セシリーすらもシーブックの持ち物だとは知らない。
ロケットの中に入れてある写真にしても、修学旅行の際にクラスメート等、
大勢と撮った写真をシーブックが勝手に切り抜いたモノで、セシリーにとっては特別記憶のあるモノでも無かった。
その二人の様子を遠くから見つけたシーブックは、校舎の角にすぐさま隠れる。
シーブック(この前の新聞記者!?何でセシリーと……あ、アレ……ロケットを見せてるぞぉ!!
あの記者が持ってたのか…厄介な事になってきた……)
フランが去った後、シーブックはセシリーに事情を尋ねると
さぁ?と、セシリーもまるで要領が掴めないようで……
「怪盗キンケドウの事を私に聞いていたけど、そんなの知る訳無いのにねえ?……おかしな記者さんだったわ」
「……へぇ~…そ、そうなんだ。本当、変だね……」
平静を装うシーブック。しかし、心臓の鼓動は激しさを増す一方だった…
それ以来、度々、学園に入り浸り、シーブックの周辺で取材を続ける新聞記者フラン。
家の周りでも張り込み取材を続けていた。
フラン「最近、シーブック君に変った事ありませんでした?」
コウ「え?……さぁ……」
フラン「シーブック君の様子、変じゃりませんか?」
アムロ「う……ん(少し考え)や、別に変った様子は…」
フラン「シーブック君のバイト先での様子なんですが…」
カロッゾ「ふはははは!彼は真面目に働いてくれているよ。朝パン主義への理解も早いしな…」
フラン「朝パン主義!?…」
カロッゾ「丁度いい!記者さんにも朝パン主義を理解してもらおうか、マスメディアの力は馬鹿に出来んからな」
小一時間、カロッゾの熱弁は続き…フラン記者も熱心に聞き入りながらメモを取り、
カロッゾ「どうだね!素晴らしいと思わんか!?朝パン主義の示す思想は!!凄かろう!!」
フラン「私はご飯党なので殆どパンは食べないんですよ……先程の続きですが、シーブック君の事で…」
カロッゾ「……」
フラン「シーブック君って、宝石とか貴金属類って好きなのかな?」
ジュドー「…(なんでもそんな事聞くんだか?)どっちかと言うと…興味無いみたいだけどね」
フラン「アル君にだけは特別よ(小声で耳打ちして)怪盗キンケドウ。この辺で観なかったかしら?」
アル「え!?…キンケドウが居るのを? Σ(゚Д゚;≡;゚Д゚) 何処?何処?」
ロラン「フランがシーブックの事をご近所中に聞き回っているよ。何かあったの?」
シーブック「……へー、そうなんだ…」
新聞記者フランの度重なる取材により不安に駈られたシーブックは
骨董屋シド’sショップへと脚を運んだ。
看板娘であるリィナが迎える「いらっしゃませぇ~」
シーブック「…シド爺さん、居ます?」
リィナ「ええ、奥に居ますけど、何か御用ですか?」
シーブック「シーブックが来た。って伝えて下さい……」
店に居た常連のジョゼフはシーブックの事を観察した。
余り店で見ない顔だ。ノックスの街の者でも無さそうだし、余所者?…等と詮索をしていると
店の奥からシド爺さんが酷く慌てながら、シーブックと名乗る者を奥へと引っ張り込んで行く。
リィナ「あの人は?……」
ジョゼフ「さぁな?……シド爺さんは顔が広いから…大方、
黒歴史のモノ売り込みに来たジャンク屋だろう」
店の奥座敷、骨董品、黒歴史と言われている機械部品のジャンクパーツ等が積み上げられており、
雑然としている。半ば店の在庫品の倉庫と化している更にその奥……
店の者も立ち入り出来ない場所に、地下に降りるエレベータがあり、その地下深く降りた場所に…
CROSS-BONESの、怪盗キンケドウ=ナウのアジトが在った。
骨董屋シド’sショップの地下深い場所。
薄暗い場所で唯一、灯っているハロゲンランプの明りの下、向かい合うシド爺とシーブック。
シド爺「吃驚したぞぉ!シーブック……お前、正気か?…正面玄関から気来おって……」
CROSS-BONESのメンバーは普段、店には訪れないようにしている。
シド爺はシーブックがその禁を破った為、慌てたのだ。
シーブック「分かってるよ!けど…、緊急事態なんだ」
キッドが脇から机を転がして顔を出す。
横で作業をしていたようだ「なんだよ?その緊急事態って!?」
シーブックは二人に新聞記者フランの連日の行動を話す
シド爺「う~ん……そりゃ、やっかいじゃのぉ……」
キッド「ヘマしてくれちゃってぇさぁ」
シーブック「御免、俺のミスだよ。けど……どうしたらいい?」
キッド「その記者、どうする?」
シド爺「シーブックに付き纏う記者がどこまで掴んでいるのか知らんが……下手に動くのは不味いな、
暫くは相手の様子を見るしかあるまい……」
同じ頃、ノックスクロニクル社にて、
取材資料を山のように積んでいるデスクで作業していたフランは「掴んだ!!これよ!!」
と叫び、拳を握って立ち上がって周囲を驚かせていた。
フラガとカイはコーヒーを飲みながら顔を付き合わせると、フランの様子を恐る恐る観察する。
フラガ「な~に燃えているんですかね……フランは?…」
カイ「さぁねぇ?…」
翌朝のノックスクロニクル、
フラン「編集長、今日は一大スクープを上げてみせますよ!明日の1面は空けておいて下さいね!!」と、デスクを立つ。
スレッガー編集長「お嬢ちゃん、鼻息粗いねぇ~…おい、お前、何か知ってるか?」
フラガ「さぁ~~……けど、最近は連日、熱の篭った取材を続けてましたからね……
なにか大きなネタを掴んでるような気配はありますよ。それが何か、までは……」
スレッガー「じゃ、お嬢ちゃんの掴んだネタ。それに期待してみましょうか(ニヤリ)」
同日昼間、
フランは、学園内にある校内放送用の放送室に居た。
横には放送委員のファがインカムをつけて座る。
「……え~ここで、我が、学園の放送部にスペシャルゲストです!
ノックスクロニクル誌の記者。フラン=ドールさんに来て貰いましたぁ!」
フラン「どうも…始めまして」
ファ「今日は何か、この学園に関連したお知らせが有るとか…」
フラン「そうなんです!単刀直入に言うと……私の綿密な取材の成果により、
この学園の生徒の中に……怪盗キンケドウが紛れている事が判明したんですよ!!」
ファ「え!?……キンケドウって、あの…キンケドウ=ナウが?…この学園に、生徒の中に、ですか?……」
フラン「そ~なんです!今、世間を騒がせている怪盗キンケドウの正体を
私、ノックスクロニクルのフラン=ドールが大発表しちゃいます。興味のある生徒諸君は放課後、体育館に集って下さい」
ファ「凄い!!…それ、凄いです!!皆さん、放課後は体育館に要、集合ですね!」
このやり取りは校内放送を通して全校に流れ……校内が一斉にざわめき立った。
ジュドー「マジかよ!?」
イーノ「……お、面白そうだね」
エル「ね、行こうよ!放課後、体育館へ!」
ルー「キンケドウ=ナウの正体。放課後が楽しみね…」
放課後、体育館に向かう廊下の途中でキッドとシーブックが他人行儀に歩きながら雑談している
シーブック「……いよいよだよ」
キッド「シド爺さんには既に伝えてあるよ。こっちの様子も既にモニターしてるから…」
シーブック「……キンケドゥを続けてりゃ、何時かは……と覚悟してたけど…」沈み込んだ表情。
兄弟達に掛かる迷惑。社会的責任等、で頭が一杯になりそれがグルグル回っている感覚だ。
キッドはシーブックの尻を叩き「その時はその時さ!クヨクヨしたってしょーがねぇーじゃん!」
シーブック「ああ……」
キッド「足が付くモノはシド爺さんが始末するようになってる。何もしないで捕まるのを待ってる程、
阿呆じゃないよ…心配すんなって」
シーブック「それはそうだけど……CROSS-BONESを止めるって事は………リィズ、リィズはどうなるんだよ!?」
それまで感情を押し殺して話をしていたシーブックは突如、周囲に響く程の声を荒げる。
「え!?……それは……」
それまで空元気を絞り出していたキッドもシーブックの迫力に途惑う
確かにその通りで、CROSS-BONESの活動の停止は……リィズの事と密接に関係していた。
白昼、廊下で秘密の会話をしていた二人だったが、シーブックの大声に反応して人が近寄って来る。
ガロード「あれ?……キッド。それにシーブック兄さん!」
ガロードの姿に驚く二人
キッド「Σ(゚Д゚;) ガ、
ガンダム棒や!!」
シーブック「Σ(゚Д゚;)ガ、ガロード!!」
ガロード「ヘェ~二人って、知り合いだったんだぁ……」
シーブック「え?……あ、あ…そうそう!新型グライダーの設計をね……どうしようか?とか…
相談に乗って貰ってんだよ」
キッド「そ、そうだよ!」
夜の仕事の関係性を少しでも悟られない為に、シーブック、キッド、シド爺は
普段は接触を断っており、今回のような事態はさておき
シーブックとキッドの二人は学園内で大っぴらに接触もしていなかったので
ガロードが親しげな二人を見て、意外に感じたのは当然であり…
ガロード「ふ~ん……そうなんだ……あ、早く行かないと、放課後の大発表会に間に合わないぜぇ!
あのキンケドウ正体が分るんだ。行くだろ?」
シーブック「う、うん……先に行ってくれよ……」
キッド「後から行くからさ…」
ガロード「あ、そう。じゃ~先、行ってるよ!」
(兄貴とキッドって知り合いだったのか…あれで兄貴もグライダー好きなヲタっぽ処があるから
キカイ好き同士で気が合うのかもね……って、そうそう、キンケドウの正体。誰なんだろう?楽しみ。楽しみ!)
元気良く走り去るガロードの後ろ姿を見て
キッド「……俺達も、体育館に行こうか?」
シーブック「ああ…」
放課後。
ほぼ、全校生徒に近い人数の生徒達が体育館に集った。
教職員の面々はその様子を見守る。
マリュー「凄い人数ね、ほぼ全校生徒。と言った処かしら?……」
ハマーン「俗物どもが……大体、誰があの新聞記者に体育館を貸したのだ?」
カテジナ「私ですよ……。あの記者(壇上に上がっているフランを指し)とは知り合い……と言うよりも
中身の人が一緒なので…生徒の中に犯罪者が居るかもしれないと分れば、放ってはおけません。校長の許可は取ってあります」
ファラ「お嬢ちゃんも粋な事してくれるじゃないかぃ?
ま、私の教えてる生徒の中にあの、キンケドウが居るとしたら
ギロチン100発のお仕置きじゃ~済まないけどねぇ…」
マリュー「し、しかし……表沙汰になるのは……」
カテジナ「分っています。が……不心得モノにはそれなりの処罰を下すべきです。
キンケドウ本人、もしくは窃盗団に関っている輩が生徒が居るならば、どう繕っても新聞沙汰にはなりますよ」
マリュー「そ、それは、そうだけど……生徒達の事を思うと……もう少し穏便に…」
カテジナ「盗みをして犯した罪はつぐなわなければならないのです!
これは仕方の無い事なのに。何故、それを分ってくださらない!!」
マリュー「……カ、カテジナ先生」
ハマーン「……そろそろ、始まるようだぞ」
フランが体育館の舞台上から説明。
「この数ヶ月。私、ノックスクロニクルの記者フラン=ドールは世間を騒がせている
怪盗キンケドウ=ナウの事件を追ってきました……(略)」長い講釈が始まる
キラ「誰なんだろうね?」
カミーユ「シュドー、お前等の事じゃないのか?」
ジュドー「ちょ、ちょっとぉ~!?冗談キツイよぉ。兄さん、俺達もそこまで大胆な事してないてぇ……」
カズィ「本当にこの中に居るのかな?……」
サイ「さぁね?しかし、驚きだよな~あのキンケドウが俺達に混じってた、なんて」
ミリアリア「怖いわね……」
トール「そう?カッコ良くない?」
トビア「CROSS-BONESを掲げる盗賊。どんな人なんだろう……」
ベルナデット「トビア、興味あるの?」
セシリー「誰なのかしらね?シーブック、わくわくして
来ない?……シーブック?」
シーブック「……」青い顔をしている。
フラン「丁度、今、ここに来ているようだし…皆さんに紹介して宜しいかしら?キンケドウさん?(ニヤリ)」
シーブックの鼓動が激しく為る。頭がカッカして、冷静を保つのがやっとだった。
「そう……貴方が怪盗キンケドウ=ナウの正体よ!」
フランが指した先に、生徒達の視線が集中する……
フランの指差した先にはドワイトが立っていた。
ドワイト「な!?……生徒会長である僕がぁ…何でキンケドウなんですか?…」
フラン「え……(違うの?……彼の動揺の仕方、本当に知らないようね…)
あれ!?え~と……ドワイト=カムリは×と……。じゃー、今のは無しで」
手元にあるレポートにペンでチェックを入れてから再度、マイクを通して発表する。
「アーサー=ユング君。君でしょ!!」
アーサー「え!?俺がキンケドウ??」
フランは名前を挙げた生徒の反応を見ながら、次々にキンケドウの正体と思われる候補の名前を挙げていく。
取材レポートには、綿密な取材で選出していった候補者の数、108人分の名前が
学年別、出席番号順ビッシリと書き込まれていた。
フラン「え~……と、じゃー……87番目……ウッソ君!君でしょ!?」
ウッソ「嘘を言うな!!…………そんなのを、おかしいですよ!カテ…フランさん!!」
次々と告げられていく108人の中に、シーブックは含まれていなかった。
(因みにジュドー、ガロード、カミーユはリストアップされていた)
新聞記者フランは端からシーブックを犯人とは思ってないようだ…
新聞記者フランは初歩的な処で勘違いをしていた。
セシリーとシーブックの仲を密かに妬んでいた怪盗キンケドウが
シーブックのアクセサリーを盗み、持ち歩いていた。と
……なので、その仲を妬む可能性のある人物達、
セシリーとシーブックどちらかに親しい周辺の人間関係をを徹底的に洗い出し、聞き込みしていたらしい。
フラン「…(略)と、いう訳でしょう?シーブック君」
「あ、そうそう!僕。怪盗キンケドウに盗まれたちゃったんですよぉ!ははははは……」
シーブックの乾いた笑いが虚しく響く。
フラン記者の勘違いと分り、心底安心すると共に、腰砕けになるシーブック
フラン「でしょう!怪盗キンケドウはセシリーさんに惚れていたのよ!
それで仲がいいシーブック君が付け狙われているんじゃないか?と私は張っていたわけなのよ!!
(ふふ~~ん。と、腰に手を当て、得意げになる)
けど、流石のキンケドウも敏腕記者で鳴らしている私、フラン様がマークしていると気付いてか?
ここの処、シーブック君には手を出せず仕舞いだったけどね!!」鼻息荒く捲くし立てる。
後日、フラン記者は怪盗キンケドウの正体を解明する
108人の容疑者をデッチ上げたレポートを08分署に提出したが……
リリ署長、ココアを飲みながら、
「この記者さんは小説家にでも転職なされた方が宜しいんじゃありません?」
フラン記者のレポートの内容の不確かさに、突き返される嵌めに……
怪盗キンケドウ=ナウは、今夜も闇夜に紛れて……世間を騒がせている。(終。続くかも?…)
最終更新:2018年10月31日 21:21