722 名前:寒い時代かねぇ 1 癒しのロラン投稿日:03/03/20 03:04 ID:???
『 某日某所、限られたメンバーだけが集まった部屋である立体映像の再生が行われた。
どうやらよくある兄弟間の揉め事らしい光景が画面に展開。
カミーユ「ジュドー、お前、おれのチョコレート勝手に食べただろ!」
ジュドー「チョコのひとつやふたつでなに怒ってんだよ~」
カミーユ「勝手に人のおやつを食べて、その言葉か!そんな弟、修正してやる!」
兄弟の一方が放ったパンチはもうひとりにはかわされ、不幸にも偶然居合わせたほかの兄
弟に見事に命中
キラ「
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ」(久々に)
ロラン「なにやってるんです、二人とも!キラを泣かせて。キラも男の子なんだから
そんなにすぐ泣くもんじゃないですよ。」
泣き出した兄弟が新たに画面に登場した銀髪の少年に抱きつく。銀髪の少年は仕方ないな、
というふうに泣きじゃくる兄弟を優しく抱きしめ、そっと髪を撫でてやる。
ロラン「キラと僕は一歳違いなんだよ、そんなに甘えてちゃだめだよ。」
夕食に野菜炒めを作っている先ほどの銀髪の少年。リビングのテーブルに座っているのは、
画面には初めて出てくる兄弟達。
ガロード「あぁ~、
腹減った。ロラン兄、飯まだぁ~」
ロラン「いま作ってるでしょう。すこしは静かに待てないんですか。」
ガロード「いやぁ、ロラン兄の料理はうまいからさ、待ちわびちゃって。」
ヒイロ「同感だな。」
ロラン「嬉しいな、そういってくれると作り甲斐がありますね。」
微笑みあう三人の兄弟。銀髪の少年の顔が中心に来ている。
723 名前:寒い時代かねぇ 2 秘密の会合投稿日:03/03/20 03:06 ID:???
手に大きめのランチボックスを持っているのはこれもあの銀髪の少年。夜勤にでる兄にそ
れを手渡す。どうやらこの映像は銀髪の彼を中心に編集されているようだ。
ロラン「シロー兄さん、夜食です。多めに作っておいたから同僚の人たちと一緒に食べて
ください。」
シロー「いつもありがとな。お前の手料理は同僚の連中にも評判よくってさ。みんな喜ぶ
よ。じゃ、行ってくる。」
ロラン「はい。気を付けて。仕事が仕事だからな、何もなきゃいいんだけど。」
エプロンを付けたまま心配そうな表情を浮かべて兄をを見送る少年の姿がアップになる。
と、このシーンでこの立体映像が一旦静止。ブロンドの髪を褐色の指で優雅にかきあげ
ながら若き貴公子は嘆息した。
グエン「このシーンのローラはまさに至高と言えませんか、皆さん。兄を心配する不安な顔、それと絶妙なハーモニーを奏でるエプロン姿。私のローラの魅力が満載だ。」
ディアナ「わたくしはもっと元気一杯のロランがよい。グエン卿、静止を解いてください。
他の映像も提供してもらっているのでしょう。」
ハマーン「提供?それはともかく私は兄弟を慰めていたシーンこそ素晴らしいと思う。む
しろ巻き戻せ、俗物。」
シャア「あのシーンにはお前のお気に入りのジュドーも出てくるからな。年下の男ばかり
気にかけて……ふっ、それでは道化だな、ハマーン。」
ハマーン「ロリコンのうえマザコンの貴様に言えたことか、シャア!貴様こそどうしてこの部屋にいる。」
シャア「
ロラン君はわたしの母になってくれるかもしれない男の子だからだ。」
クロノクル「シャア、言っていることがめちゃくちゃだが。とにかくここに集まっているということは目的は同じはずだ。一名違うのもいるが。」
724 名前:寒い時代かねぇ 3 フランの記事投稿日:03/03/20 03:08 ID:???
そういうと男は埃よけのマスクの間から深いため息をはいた。それは日ごろの疲れと、
それがいま解消されていることを同時に示すものだ。
ディアナ「グエン卿、早く再生しませい。わたくしは健やかなロランの精神に癒されたい。」
シャア「父の名を次ぐのは辛いな。ロラン君のような癒しがいる。」
ハマーン「こういうベタベタしたのは嫌いだったはずなのだが……いつの間にか、な。」
クロノクル「お互いに気苦労が耐えんようだな、いろいろと。」
グエン「ローラ、私は、私はぁっ…!あ、うん、ええ、再生しますよ、皆さん。」
彼らは若干一名を除き、共通の目的を求めて集まった人々だった。日々の心身の消耗を
ある少年の姿を見ることで癒したい。それが彼らの目的である。
この目的、それは現代という時代の生んだある種の病なのではないだろうか。盗撮とい
う人道に外れる行為をしてまでも、彼らは刹那の安息を得ようとしているのだ。
さらに実は彼らの多くは社会的な地位の高い人々である。当然社会に対する責任も大き
く、その結果多大なストレスを感じるというのは理解に難くないことだ。
しかし同時に彼らのような立場にある者こそ、率先してこのような犯罪行為に対処して
いかなければならないのではないだろうか。そのはずが、彼ら自身の手によってこの卑劣
な犯罪が行われている。
そしてその動機はただ癒されたいだけ……。
皆さん、寒い時代だとは思わないだろうか。 』
725 名前:寒い時代かねぇ 4 カイのためらい投稿日:03/03/20 03:09 ID:???
あるオフィス。
カイ・シデンは前述の記事をフラン・ドールから手渡された。彼女の隣
には何故かショートカットの少女、ソシエ・ハイムが攻撃的な期待と共に寄り添っている。
カイ「おいフラン、なんだよ、この最後の一文は。」
フラン「いけませんか?まえにカイさんがぼそっと呟いた言葉ですよね。私、それ結構気
に入ったんですよ。」
カイ「お前のようなヒヨッコが軽々しく使っていい言葉じゃねぇんだよ。寒い時代っての
はな、俺がまだ今のお前みたいな駆け出しのころにある人に言われた言葉なんだ。」
フラン「偉ぶっちゃって。で、この記事どうです?」
カイ「やってることはちんけな盗撮行為だが、メンバーが面白いな。」
ソシエ「もっと徹底的に叩くべきだわ。せっかくこの私が危険を犯して潜入してきたんだ
から。そうしたら案の定
こんなことやってたのよ。」
カイ「お嬢さんの冷や水もこの程度でやめとけよ。おおかたアムロの弟に気でもあるんだ
ろ。ロランだよな、銀髪って。イヒヒヒヒヒ、微笑ましいこって。」
ソシエ「げ、下品な笑い方しないでよ。そんなんじゃないわよ、私はただ……」
カイ「とにかく今回のこの記事は載せてやる。ただし連中の実名は出さない。匿名でいく。
いいなフラン。それと最後の一文は変えろ、お前にゃまだ早い。」
フラン「匿名?なんで本名でいかないんですか。まさか怖気づいたとか。」
カイ「聞き捨てならねぇな。俺がティターンズの連中を商売相手にしてんの忘れたのかよ。
とにかく連中は匿名だ、いいな。」
ソシエ「せっかくディアナさんの株を下げるチャンスなのに……あっ!」
カイ「恋敵を倒したいならもうちょい正攻法で行くんだな、ソシエさんよ。イヒヒ。盗撮
のことなら俺からアムロに言っとくし、まあこの記事が牽制になって連中もこんな
ことはやめるだろうよ。」
726 名前:寒い時代かねぇ 5 危険な男と寒い時代投稿日:03/03/20 03:13 ID:???
カイ・シデンはそれだけ言うと黙りこくり、オフィスの窓から見える、寂れた町工場の
集まっている一画に目をやった。そして声に出さずひとりごちた。
怖気づいた、ね。その通りだよ、フラン。一見、こんな記事が実名で出たところで連中
は無視すりゃいいだけに見える。こっちの証拠だってソシエ嬢ちゃんの不法侵入で手に入
れてんだから偉そうにゃできねぇ。
だがな、こんな話題が出るだけで困るやつがいるんだよ。お前の知り合いなんじゃなかったか、
そいつ。話ぐらいしたことあんだろ。
よお、月の現体制を支えているのは
ディアナ・ソレルの聖母的なカリスマが大きい。逆
に言えばそいつが剥がれ落ちて、ディアナがただの女に戻っちまうのはまずいわけだ。
もちろんこんな記事ひとつで何があるって訳じゃない。ただ奴に反ディアナ派かって疑
われるだけさ。そしてそれほどやばいことはない。
ハリー・オード。赤眼鏡のとぼけた親衛隊長さん。施政者にも関わらずディアナが綺麗
で真っ白なお手手してられんのは、誰かが汚れ役を引き受けているからだ。ディアナ自身
にも知られずにな。
実際、奴の抱えているソレル家の闇を探ろうとして消息不明になっちまった記者、と呼
ぶのもおこがましいメンテナー家やギンガナム家の犬、は決して少なくない。
そんな奴にフランが疑いを掛けられるってのは避けなきゃならねぇ。俺と違ってあいつ
にはガキと旦那がいるからな。あまり危険な目には遭わせるわけにゃいかねぇだろうよ。
それに正直、俺自身も奴が怖い。ありゃティターンズの連中よりやばいぜ。ハリーには
迷いも保身もない。自分や他人がどうなろうと、ディアナさえ守られればそれでいいと考
えているからだ。それがやばいんだ。
しかし、真実なんて言葉を使えないほどちっぽけなことひとつ伝えるのに命の心配まで
しなくちゃなんねぇなんてよ。
ワッケインさん、結局は今も昔も、いつの時代もさ、寒い時代ってやつだよ。
727 名前:寒い時代かねぇ 6 エピソード投稿日:03/03/20 03:16 ID:???
それから数日後、フランの記事は結局、グエンたちの実名での報道を避けた形で世に出た。
当然世間の反応は乏しく、フランはそれから数週間の間、カイに対して反抗的な態度をとる
ことになる。
ロラン盗撮のその後はというと、フランの記事が牽制になったことと、カイに一部始終
を聞いたアムロの指示による一家の警備強化により、以後しばらくはグエンの元にロラン
を盗撮した映像がいきわたることはなかった。
また月までは、地球でさえほとんど話題にならなかったフランの記事が届くことはなく、
ディアナはいつも通り過ごしていた。ただ、グエンからの通信でようやく、グエン達との
会合がロランには秘密であり、映像もロランの許可無く非合法に手に入れたことを知る。
生真面目な彼女はその後ロランに謝罪に行くことに。
ソシエはちょうどディアナがロランに謝りにきた場面に遭遇してしまい、深く謝罪する
ディアナに対してパニックになってしまったロランが、
「ぼ、僕の映像なんかでよかったらいくらでも、も、持っていってください。」
と言うのを聞いてしまう。その後ソシエは後先考えずに、ロランを思いっきり引っぱたき、
ディアナを思いっきり罵ってしまう。その結果これまでのことを何もかもしゃべってしま
ったので、彼女がロランのために危険を犯したことも知られるのだが、それでもロランが
自分の想いに気付いてくれなかったため、ソシエは彼を再び思いっきり引っぱたいた。
終わり。 まあ、ハリーがとんでもなく悪い奴になってしまってるのでとにかく
パラレルで。
最終更新:2018年11月05日 10:09