ある日の午後、ウッソがほんの少しだが思いつめた顔をして、カミーユのもとにやって
きた。カミーユ兄さんには悪いけれど、本当は他の年長の兄弟がよかったなぁ。でも、ア
ムロ兄さんやロラン兄さんは忙しそうだし、それにこういう事はカミーユ兄さんのほうが
気が利くってこともあるかもしれない。

ウッソ「カミーユ兄さん、シャクティのことでちょっと相談があるんだ。この頃今ぐらい
    の時間になると、シャクティがいつもどこかに出かけてるんだ。たいしたことな
    いかもしれないけど、僕、何だか心配で……それで今日、シャクティの後を付け
    てみようと思うんだけど、ついてきてくれないかな。」
カミーユ「心配なのは分かるけどさ、付けるなんて良くないんじゃないか。」
ウッソ「だからさ、やましい気持ちじゃないって証明のためにも、カミーユ兄さんについ
てきてほしいんだよ。」
カミーユ「うーん、まぁ、いいけどさ。今日暇だし。」
ウッソ「ありがとう。シャクティ、いったい何してるんだろ。」

 と、そこにジュドーが口を挟んだ。
ジュドー「なんか面白そうだな、俺もついてこうっと。」
ウッソ「僕は真剣なんですよ。シャクティに悪い虫がついてたらどうしようとか。」
カミーユ「いいじゃないか、ウッソ。ジュドーだってお前を手伝ってやりたいんだよ。」

 そんな会話の結果、シャクティの後を付けることになった3人は、シャクティが家を出
た後を慎重に尾行した。シャクティは20分ほど歩いたのち、ある建物の中に消えていった。
兄弟たちは建物の表札に目をやった。
ウッソ「『保育所ジュピトリス』?……ジュピター……木星……木星帰りの男!」
カミーユ「この感じ……間違いない、シロッコだ。」

 シャクティが中に消えた建物、それは「保育所ジュピトリス」という表札を掲げていた。
ウッソ「シロッコさんが保育所をやってる?そしてそこにシャクティが入っていったの?」
カミーユ「シロッコが保育所なんて普通にやってるわけがない!あんなこととか、こんな
     こととか、色々やってるんだ!」
ジュドー「色々ってなんだよ、カミーユ兄。エッチなんだからさ~」

 保育所の門の前でそんなことを兄弟達が話していると、中から子供達の声が聞こえて来
た。それは兄弟達にも聞き覚えのある声だった。
プル「プルプルプルプルプルプルプルプルプルプル~~~~」
プルツー「やめろ、プル!はずかしいだろうが!」
ジュドー「今の声はプルにプルツー!この中にいるのか?二人がシロッコのところいるって、
     なんか心配だ~~~」

 そう叫ぶやいなや、ジュドーは保育所の建物に全速力で走っていった。追いかけながら
カミーユが呟く。
カミーユ「妹っぽい女の子に弱いよな、ジュドーは。」
ウッソ「自分だって、サラさんとかレコアさんが心配なくせに。ファさんとかフォウさん
    とかのこと真面目に考えてるの?」
カミーユ「お前が言うなよ。普段は年上の女の人を追っかけまわしてるくせに、こんな時
     だけシャクティの心配しやがって。」
 結局ウチの兄弟はこんな感じなのが多いよな。気が多いんだよ。それはともかく、サラ
とレコアさんが心配だ。シロッコの奴、ふたりになにやらせてるんだ。

 ジュドー、ウッソ、カミーユが保育所の建物の中に飛び込むと、そこには幼い子供をあ
やすシャクティと、エプロンを身に着けて保母さんそのものの格好をしたサラとレコアが
いた。ふたりともやはり幼い子供の面倒を見ている。

ウッソ「シャクティ、こんなところで何してるのさ。」
シャクティ「何って、この保育所に預けられた子供達の面倒を見てるのよ。ウッソこそいきなり飛び
      込んできてどうしたの?」
カミーユ「サラもレコアさんも、保母さんにでもなったんですか?何でこんなことやってるんです!」
レコア「カミーユ!私が保母をやってるのはシロッコが望んだからよ。資格も取ったわ。」
サラ「私はお手伝いだけどね。パプティマス様の理想を実現するためにやってるのよ。」
ジュドー「理想?何か裏でもあるのか、見たところ普通の保育所だけど。」

 そこまで話したところで、ジュドーはいきなり少女に抱きつかれた。ジュドーにとって
知っている香りがする。う、俺、これじゃあなんか変態っぽいよ。
プル「ジュド~、私と遊んでよ~!」
 そういうなりプルはジュドーにまとわりついて離れない。ジュドーのほうも困った顔は
しているものの、なんだかんだでプルとじゃれあっている。その光景をみたプルツーは唇を
尖らせた。
プルツー「よせ、プル!そんな子供っぽいの恥ずかしくないのか。」
プル「だって子供だも~ん。ね、ジュドー。」
ジュドー「ああ、そうだな。でもそろそろ離れなさい、プル。」 
プル「え~、もっとジュドーと遊ぶ~」

プルツーは、じゃれあっているジュドーとプルを恨めしそうに一瞥すると、部屋の外に
出ようとした。するとそこにちょうどシロッコがやってきた。手にはチェスの道具を抱えている。
シロッコ「どうした、プルツー。怒ったような顔をしているが。」
プルツー「あんたには関係ないよ、パプティマス・シロッコ。」
シロッコ「そうか。ところで退屈しているようだが、チェスでもやらないか?」
プルツー「チェスなんてつまらない遊びだろ。」
シロッコ「そうだな。そして相手がいないとできない遊びだ。お前とやりたいと思っているのだが、嫌か?」
プルツー「……あんたがそんなに頼むんなら相手してやってもいいよ。ありがたく思うんだな。」
シロッコ「ああ、感謝しているよ、プルツー。」

 そう言うとシロッコはチェスの準備をし始めた。プルツーは表情こそ怒ったままだが、
先ほどの言葉とは裏腹に、瞳を輝かせてチェスの駒を並べている。と、そこにヴァイオリ
ンを抱えた少女がやってきた。
ミネバ「パプティマス・シロッコ。わらわのヴァイオリンを聴いておくれ。」
プルツー「今チェスを始めるとこなんだよ。あっち行ってろ。」
ミネバ「パプティマスはわらわに忠誠を誓ったのだから、わらわのヴァイオリンを聴くの
だ。お前こそどこかに行くがよい。」
シロッコ「ふたりとも仲良くしてほしいものだな。チェスをやりながらでもヴァイオリン
は聴けるだろう。ミネバ様、プルツーにも聞かせて上げればよいのでは。」
ミネバ「パプティマスがそう言うから、特別にお前にも聞かせてやる。」
プルツー「えらそーに。おい始めるぞ、パプティマス。」

 カミーユはシロッコがこの部屋に入ってきたときからずっと、彼のことを観察していた。
カミーユ「……シロッコだよな、あれ。何か企んでるのか。それに何でプルやミネバがこ
こにいるんだよ。」
サラ「パプティマス様はお優しい方。それに理想を実現なさろうとしているだけよ。」
 理想?シロッコの奴、真性のロリコンにでもなったのか?カミーユにはシロッコの考え
がさっぱり分からなかった。

 カミーユは直接シロッコに問いただすことにした。チェスをやりながらヴァイオリンを
聴いているところに乱入すると、当然プルツーとミネバから非難の声が上がる。それを抑えてシロッコはカミーユの話にも耳を傾けた。

シロッコ「なんだ、カミーユ。いきなり私の保育所に乗り込んでくるとは、相変わらず品性の
ないやつだ。ほお、プルツー、なかなかいい手だな。」
プルツー「へん、どうだ。返せるものなら返してみな。」
カミーユ「何を企んでいるんだ、シロッコ。お前が保育所なんておかしいんだよ!」
シロッコ「私は何も企んでいないよ。私はただ自らの理想に基づいて行動しているだけだ。」
カミーユ「理想だと?」
シロッコ「そう、私は常々言っているはずだ。これからの世界を動かしていくのは女性だ
と。それはディアナ・ソレルが月を治めていることや、リリ・ボルジャーノの
活躍によって証明されている。」

カミーユ「それとお前が保育所をやってることと何の関わりがあるんだ。」
シロッコ「女性は今まで家事や子供の世話に追われてきた。しかし今、家庭の外で働きた
がっている女性がたくさんいる。時代は変わったのだよ。そしてここで問題が
起こった。女性達に変わって家事や育児をするものがいないということだ。共
働きの家庭も多く、シングルマザーの女性も少なくない。ならば、世界を女性
が導く手助けとして、このパプティマス・シロッコがせめて彼女たちの育児の
負担を減らすために、保育所を開いているということだ。」

ミネバ「ハマーンも仕事が忙しいからわらわを預けていったのだ。ヴァイオリン、聴いて
くれる雰囲気ではないではないか。」
シロッコ「すみません、ミネバ様。あとでゆっくり聴かせていただきたく存じます。」
ミネバ「そうか、絶対だぞ。それとパプティマス、わらわはお前が気に入ったから敬語を
使わずともよい。他の子供達の示しもあろう。」

 ミネバに微笑みかけながら、シロッコはふっと部屋の奥にある時計を見やった。
シロッコ「もうこんな時間か、奴が来るな。サラ、レコア、警戒しておけよ。シャクティ、
     君は隠れていろ。奴の狙いは君の可能性が高い。」

 シロッコがカミーユに対して、保育所を開いた理由を偉そうに開陳している間、ウッソ
はシャクティに何故ここで働いているのか尋ねていた。

ウッソ「シャクティ、何でこんなところで働いてるんだよ。」
シャクティ「ウッソ。だって生活費が必要だし、たまにはまともにお金を稼ぐことにした
      のよ。」
ウッソ「それは立派な心がけだけど、シャクティはまだ小さいじゃないか。働くなんてお
    かしいよ!労働基準法違反とかそういうやつだよ。」
シャクティ「そうよ、だからどこも私を雇ってくれないのよ。ここでお手伝いしてるのが
      一番なの。シロッコさんは色々優しいの。ご飯奢ってくれるから食費が浮く
      し、服だってプレゼントしてくれるからお金がかからないし。お給料だって
      ちゃんとくれるのよ。」
ウッソ「ご飯ぐらいウチで食べればいいだろ。それに僕だってなんかプレゼントするよ。」
シャクティ「ウッソのおうちだって苦しいでしょ。ギンガナムさんだって居ついちゃって。
      それにウッソがプレゼントする相手は、綺麗なお姉さんでしょ。綺麗な女の
      人を見るとすぐ幸せになるじゃない。」
ウッソ「それはそうだけど、いや、そうじゃなくて……」

 ウッソとシャクティがそうやって痴話げんかをしていると、シロッコのシャクティは隠れ
ていろという指示が飛び込んできた。
ウッソ「どうしてかくれてなきゃならないのさ、シャクティ?」
シャクティ「あの人が来たのよ、通常の三倍ロリコンでマザコンのあの人が。」

 保育所か、盲点だったな。そうして幼女と母性本能豊かな女性を集めればよかったのか。
しかしレコアは向いてないからな、こういうことは。よほどストレスをためているだろう。
もしかしたら幼女に当り散らしているかもしれん。それは許せんな、む、出てきたなシロッコ。
わざわざ庭で待ち構えているのはわけがあるのだよ。 

シロッコ「もうどうしようもないほど道を誤ったな、シャア!貴様のような大人の成り損な
     いは粛清される運命なのだよ!」
 言ってくれる。相変わらずムカつく男だ。しかしそれも今日までだ。まだ幼いのに私の母
になってくれるかもしれない女性、シャクティを頂き、ついでにプルもプルツーもミネバも、
お前のお気に入りのサラももらっていってやる。レコアは要らん。新しい時代をつくるのは
老人ではないからな。

 それにしてもまだか、カツが行動を起こすのは。私と同時に動けといってあるはずだが。
む、あの無性に苛立つ声はカツのものか。
カツ「サラ、君はシロッコに騙されているんだよ!僕と一緒においでよ!さぁ、ハァハァ」

 相変わらず気持ち悪い口説き方をする。あれでは落ちるものも落ちんな。第一サラはお前
にはやらないのだが。せいぜいタダ働きしてくれよ、ジャガイモ。
サラ「私はあなたより先にパプティマス様に出会ったのよ。それにパプティマス様は優しい
   わ。……色々と。」
 色々と、か。やはり侮れん男だ、パプティマス・シロッコ。

カツ「僕だって優しいさ。それに本やビデオなんかで勉強もしたよ。さぁ、サラ僕と一緒に、
   一緒にィイイーーハァハァハァアア」
 最低だ、どうして私はあんな奴を協力者に選んだのだろう。認めたくないものだな、自分自身
の若さゆえの過ちというものを。

シロッコ「シャア、小ざかしい真似を!サラ、大丈夫か!?」
シャア「よし、隙が出来たなシロッコ!NTとしての力の差が、戦力の決定的差ではないことを
    教えてやる!」

 叫ぶなりシャアは懐から携帯用催眠ガスボンベを取り出し、シロッコの顔に躊躇なく
吹き付けた。
シロッコ「シャ、シャア、貴様……」
シロッコは呻きと共に昏倒した。満足げな表情でそれを見下すシャア。
シャア「ふっ、戦いは非情さ。これぐらいのことは考えてある。」

 シャアがわざわざシロッコを庭におびき出したのは、何かが間違って、彼の愛する少女
や幼女に被害が及ばないようにするためだった。一気に保育所の中に飛び込む。ここまで
は計画どおりだ。一番の強敵はすでに眠りの世界へ旅立っている。

 しかし順調だったシャアの潜入はいきなり頓挫した。カミーユ、ジュドー、ウッソ。アムロ
の弟たちが保育所の中にいたからだ。いきなり飛び込んできたシャアに懐疑の視線を
向けている。ええぃ、一芝居打たなくてはな。幸い兄弟の連中はこの事態を上手く飲み込めて
いない。
シャア「カミーユ、カツを取り押さえろ!様子がおかしいから後を追ってきてみればこれ
    だ!」
カツ「そんな、あんたから話を持ちかけてきたんじゃないか!」
カミーユ「黙れ、この変態!サラから離れろ!ジュドー、ウッソも手伝え!」

 シャアの計略にはまり、カツに飛びつく兄弟達。サラ、カツ、3人の兄弟が揉みくちゃ
になっている。その隙にシャアはシャクティの姿を捜し求めた。あの兄弟がいるという予
想外の事態にあえば、連れ出すのは彼女だけにするほうが懸命だ。すばやくあたりを見回
すが見当たらない。どこだ、シロッコめ、隠したな。その時、シャアの前に因縁浅からぬ
女性が立ちふさがった。

レコア「シャクティを探しているのでしょう、シャア。あなたには渡せないわね。」
シャア「レコア、幼いうえに男を包んでくれる大いなる母性を持ったシャクティこそ、我
    が父ジオンの言った人類の核心、本当のニュータイプなのだ!私はただそれを誤
    った方向に持っていきたくないだけだ!」
レコア「都合のいいことを!それは単にあなたの趣味でしょう!」

シャア「ええぃ、レコア、そこをどけ!」
 シャアは素早くレコアの後ろに回りこみ、彼女の延髄に手刀を打ち込んだ。少々手荒だが
時間がないのだ。崩れ落ちるレコアは完全に視界から除外して、シャアの鋭い眼はシャク
ティの居場所だけを追いかけた。

シャア「私とてニュータイプのはずだ。シャクティの気配を感じ取れれば……そこか!」

 手近にあるクローゼットを思いきり押し開く。するとそこには怯えるプルやプルツー
庇いながら震えているシャクティの姿があった。恐怖に身をすくませている少女ふたり、
そしてそれを健気に庇っている少女もまだ幼い。
 そのような彼にとって素晴らしすぎる光景を見たシャアは、一瞬事態を忘れて、生まれて
初めて神とこの地上のありとあらゆる生命に感謝した。

 おっと、感激している場合ではないな。ここからはスマートかつジェントルに行かなけ
ればな。そうなるとあの言葉しかあるまい。
シャア「シャクティ……来るかい?」

 幾多の障害を乗り越えてついにシャクティのもとにたどり着いたシャアは、必殺の口説
き文句(自称)、来るかい?をシャクティの可憐な耳に投げかけた。これでシャクティは私
の母になってくれる。冷静を装うシャアの胸は、柄にもなく高鳴っていた。

 やがてシャクティは意を決したように顔を上げた。その瞬間、シャアは自らの勝利を確
信した。心臓の鼓動が一段と大きくなる。
シャクティ「来るかいって、私にあなたと一緒に来てくれってことですか?」
シャア「ああ、そうしてくれると嬉しい。」
シャクティ「では、いくつか聞かせてほしいことがあるのですが。」
シャア「今は時間がないのでな。後でいくらでも答えてあげるよ。」
シャクティ「いいえ、今じゃないと駄目なんです。手短にまとめましたから大丈夫です。
      まず、貯金はどれくらいあるんですか?
      それと資産総額はおいくらですか?
      ギャンブルとかで浪費してしまう癖はありませんよね?
      大口の生命保険に入ってらっしゃいますか?これから入るおつもりですよね?
      私があなたについていった場合は生命保険の受取人はもちろん私でしょう?
      これぐらいです。時間がないのでしたら、早くお答えください。」

 ええぃ、私にプレッシャーをかけるこの少女はいったい何者なんだ?先ほどまでの胸の
高鳴りは消え、シャアは背中に冷たい汗を感じた。あの可愛らしい唇からこんな恐ろしい
質問が飛び出してくるとは……冗談ではない!

 シャアがシャクティの言葉に戸惑っているその時、そこには確かな隙が生まれていた。
プルとプルツーは目ざとくそれを見抜くと、瞳を見合わせて頷き、二人同時に思いっきり
シャアに体をぶつけた。予期していなかった二人の阿吽の呼吸による反撃に、シャアの体
が大きくよろめく。

 プルとプルツーはシャアがよろめいた間隙を縫って、シャクティを引っ張って狭いクロ
ーゼットから抜け出した。それをカミーユやジュドーたちが迎える。カミーユ、ジュドー、
ウッソは顔を怒りに染めてシャアと向き合った。
カミーユ「クワトロ、いやシャア・アズナブル、これはいったいどういうことなんです!」
ジュドー「ぜ~んぶそこのジャガイモ君から聞いちゃったもんね~」
ウッソ「シャクティがあなたの母親をやってくれるって考えるのは、おかしいんだよ!」

 シャアから見て兄弟達の向こう側に、カツのはずだった物体が転がっている。相当修正
されたようだ。よってたかって殴られてしまったものだから、顔面がまるでいびつな小惑
星みたいになってしまっている。ルナツーだな、あれは。今度からカツじゃなくてルナツ
ーと呼ぼう。もともとジャガイモ顔だしピッタリだな。しかし、このままでは私の端正な
顔立ちも小惑星にされてしまう。それだけは避けなければならん。シャアの心臓は今や、
先ほどとは違った理由で大きな鼓動を刻んでいた。

 私は今追いつめられている。それは認めよう。だがこの私を簡単に捕らえられると思って
もらっては困る。必ずここを無傷で脱出してみせる。
シャア「まだだ、まだ終わらんよ!」

 カミーユはシャアの行動を注意深く見守っていた。何をする気なんだ。この人の逃げ足
は、いや、逃げ足だけは侮れないからな。ん、動いた!
シャア「悪く思うなよ、カミーユ!」
 そういうなりシャアは懐に手をやったが、それきり服の内ポケットを必死でまさぐって
いる。もしやと思い、カミーユがシャアから右に3メートルほど離れたところの床に目を
やると、案の定、携帯用の催眠ガスボンベが転がっている。さっきのプルたちの体当たり
で落としたようだ。自分達の中でボンベに最も近いのはサラだ。カミーユは叫んだ。

カミーユ「サラ、そのボンベを拾うんだ、はやく!」
シャア「そこか、やらせん!私のほうが近い!」
 しかしシャアとサラがボンベに飛びつこうとしたその時、シャアの行動は無邪気な小さ
な手によって阻害された。
ミネバ「シャア・アズナブルだろ。遊んでくれたの、おぼえているよ。」
 ジュドーとウッソが、危ないというように慌ててミネバを引き寄せる。しかしこのミネバ
の行動こそが、彼らの勝敗を決めた。

 シャアはミネバに気を取られたほんの少しの間、動きを止めてしまった。そのため彼が
手に出来るはずだったボンベは今、サラによって拾い上げられようとしている。焦ったシ
ャアが目を見開きながら手を伸ばしたその瞬間、サラはすばやくボンベを持ち替え、シャ
アの顔面に思いっきり吹き付けた。
サラ「パプティマス様の仇!」

 至近距離から思いっきりガスを浴びせられたシャアは呻き声ひとつ立てずに突っ伏した。
そんなシャアを見てカミーユは先ほどまでの怒りよりも、哀れみを感じていた。保育所に
侵入してきた挙句、自分の持ってきたガスで捕まえられてしまうなんて。やっぱりシャア・
アズナブルは馬鹿な人なんだな。

 カミーユはシャアに哀れみを感じたが、今回の行動を許すかどうかは、また別の話だ。
ジュドーの提案により、シャアはアムロの勤めている会社の正面玄関に全裸で吊るされる
ことになった。
 これはライバルが全裸で吊るされていたら、アムロやブライトがどんな顔をするか見て
みたいという、ジュドーやカミーユのいたずら心がもたらした結論だった。
カミーユ「どうせこのまま寝続けるんだろうし、深夜になったら計画実行だな。」
ジュドー「やっぱりついてきてよかったな。面白くなってきた~」
プル「ねぇ、ジュドー、私も仲間にいれてよ~」
ジュドー「だめ、子供は帰って寝なさい。グレミーが迎えに来るんだろ。」
プルツー「よく言うよ、自分だって子供の癖にさ。」

 サラは眠ってしまっているシロッコに膝枕をしてやっている。それをみたカミーユは胸
のうちに苦々しいものを感じた。嫉妬しているというより、基本的にシロッコがいい目に
会っているのが気に食わないのだ。つい、サラに対して嫌なことを言ってしまう。
カミーユ「カツじゃないけどさ、サラは騙されているんだよ。」

 それには答えず、サラはシロッコの髪をなでながら、カミーユを見つめて言った。
サラ「パプティマス様はいつも自信に満ちている様に見えるけど、それなりに傷つくこと
   だってあるのよ。今日だってそうなると思う。シャアにやられてしまったから。」
カミーユ「ほっとけばいいだろ、そんな奴。」
サラ「そうはいかないわ。レコアは基本的にパプティマス様に依存してるだけだし、私が
   支えてあげなきゃならないのよ。」

 サラの言葉を聞きながら、正直カミーユはこりゃ重症だな、と思った。俺がシロッコの
ことを嫌いだからそう思うのかもしれない。サラはシロッコを理解しているのかもしれな
い。でも俺には騙されて泥沼にはまっているようにしか見えないよ。
 カミーユはさすがにそこまでは口に出さなかった。鮮やかな夕日を眺めながら、胸のも
やもやを吹き飛ばすため、ルナツーになってしまったカツもシャアの横に全裸で吊るすこ
とに決めた。

終わり。アムロやブライトのリアクションはご想像におまかせします。



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最終更新:2018年11月05日 10:23