305 名前:マリーダ先生の授業風景 :2010/08/15(日) 00:17:11 ID:???
キーンコーンカーンコーン

始業のチャイムがなり、一時間目が始まった。
一時間目は教育実習生のマリーダが担当する数学の授業である。

「……それでは、授業の前に昨日出した宿題を回収する。
 各自、机の上にノートを出すように」
「(ヤバッ、すっかり忘れてた……仕方ない、忘れたことにしよう)
 すみませんマリーダさん、実は家に忘れてきちゃって……」

それを聞いたマリーダは愛想笑いを浮かべるバナージの肩を掴み、
表情のない蒼い瞳でバナージの顔を注視する。
それはまるで、暗い洞窟のような眼だった。
吸い込まれてしまいそうなほど綺麗だと感じる一方、
わけもなく肌が粟立ち、背筋にヒヤリとした悪寒が走った。
大した力ではないはずだが、身じろぎひとつできない。
無理に振りほどこうとすれば即座に引き倒されるという予感が先立ち、
ここ数日の間に身体に刻み込まれた関節の痛みがぶり返してくる。
声を出そうにも腹に力が入らない。
ただ行き場のない視線を、マリーダの蒼い瞳に注がねばならなかった。

「ご……ごめんなさい」
「何が?」

ようやく喉から絞り出した謝罪も一蹴され、言い訳の効く相手ではないと
改めて思い知らされる。

「し、宿題……本当は、やるのを忘れてて、それで……」
「そう」

不意に肩を掴んでいる手が離れ、強張ったバナージの身体が
糸の切れた操り人形のように椅子に沈み込む。
バナージは呆然とマリーダの顔を見上げるだけだったが、
マリーダはオレンジがかった栗色の髪をわずかにそよがせて、

「放課後まで待つから、指定の範囲をちゃんとやってくるように」

と、そっけなく言うに留めた。


306 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/15(日) 00:17:51 ID:???
まるで聞きたいことだけ聞き出したら、もうバナージのことなど
眼中にないという振る舞いだった。
そんなマリーダの姿に自尊心をチクリと刺激される。だが言い訳や
負け惜しみを言い募れるほどの元気も湧いては来なかった。
そこに、隣の席から耳慣れた声が上がる。

「マリーダ、いいかしら。私も宿題を忘れてきてしまったのだけれど」

オードリー・バーンが
あのオードリーが宿題を忘れるなんて、と意外に感じるより、
無謀だと思う気持ちの方が強かった。
さっきのやり取りを見ていなかったのだろうか。それとも、情けない
自分に失望するあまりにこんな行動に出るのか?

「オードリー……!」

バナージが悲鳴じみた声を上げるより、マリーダがオードリーの前に
立つのが先だった。オードリー自身が言った通り、彼女の机の上には
ノートは置かれていない。宿題を忘れたというのは事実なようだ。

だがしかし、次の瞬間にマリーダの唇から紡がれた言葉は、
教室にいる全員を脱力させるに足るものだった。


307 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/15(日) 00:19:32 ID:???
マリーダの細くしなやかな指が、オードリーの額を軽く叩き、
反射的にオードリーは目をつぶる。


「姫様。めっ、ですよ」

マリーダの横顔を覗き見ていた人間が漏れなく意外に思わされたのは、
彼女がいつもの冷たい無表情ではなく、どこか穏やかな雰囲気を
漂わせていたことだった。
まるで良く出来た姉が妹を叱るような光景だが、納得がいかないのは
先程腰が抜けるかと思うほど脅かされたバナージである。

「マリーダさん! そんな露骨なえこひいき、許されるんですか!?」
「姉さんから一番効果的な叱り方というのを聞いたから、実践しただけだ」
「だったら俺にもそれを実践してくださ……あいたたたたたたたたた!
 やめてオードリー、俺の肘はそっち向きには曲がらないから!」
「私はミネバ・ラオ・ザビである。オードリーではない」
「そんな言い方……がああああああ! それ以上いけない!」

エメラルドの瞳を冷え切らせたオードリーがバナージにアームロックを
極め、マリーダはそんな二人に背を向けて黒板の前の教卓に戻る。

それはここ数日、割とよくある授業風景だった。

308 名前:通常の名無しさんの3倍 :2010/08/15(日) 00:21:27 ID:???
バナージ「匂いフェチにだって、クンカクンカできないシチュエーションは……ある……」

そんなお話です

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最終更新:2014年09月23日 23:15