532 名前:通常の名無しさんの3倍投稿日:04/11/02 09:36:56 ID:???
シーマ様ハゥハゥな俺としてはコウは選り好みしすぎ
533 名前:523投稿日:04/11/02 13:33:37 ID:???
532見て思いついたのでネタ投下。
「だからお前は選り好みしすぎだって」学生向けの安い居酒屋の片隅。
ラグビー部飲み会の席で悩みを話したコウに、
キースは呆れた様に言った。
「いいじゃん、年上は上手くリードしてくれるぜ」
「いや、でも…」
煮えきらないコウ。
キースが
これだからチェリーは、と大袈裟に溜め息をつく。
「お前さー、恋愛に理想持ちすぎ。始めは勢いとかノリでもいいんだよ」
「そ、そんなもんかな」
モンシアが苛ついて口を挟んだ。
「けっ。よせよせ。こんなチェリーにゃ女の事なんざわからねぇよ」
流石にコウはムッとしたが図星なので反論できず黙り込む。
落ち込む彼をよそに宴席は続いた…。
飲み会も終わり帰宅の途についたコウは、道すがらまだ酔いの残る頭でウダウダと考えていた。
ともかくチェリー扱いは卒業したい。馬鹿にされる事はなくなる。
(勢いか…)
534 名前:523投稿日:04/11/02 13:37:21 ID:???
続き
なにやら決心したらしい。
コウは来た道を戻り始めた。
翌朝。
兄弟邸の朝は珍しく静かだった。コウが戻らず朝食が余った為、取り合いがなかったせいである。
ロラン「コウ兄さんどうしたんでしょうね。…アムロ兄さん新聞読みながらはご飯はやめて下さい」
アムロ「わかったよ…友達の所に泊まったんだろう?」
シロー「無断外泊なんて珍しいけどな。あ、醤油とってくれ」
のどかな朝食の光景。そんな時、ドアの開く音がし、続けざまどすうっとが倒れる音がした。
ガロード「な、なんだあ?」
慌てて玄関に向かう兄弟。そこに倒れていたのは、なにやら真っ白になり果てたコウ。
呆然とする一家の前を車が走り去っていく。
アル「コウ兄ちゃん!」 カミーユ「今のシーマじゃないか?!」
アムロ「おい、コウ!しっかりしろ」
コウ「あ…う…」
シロー「どうした!なにがあった!」
コウ「…ニ、ニンジン…ニンジンが…」
一同「はあ?」
コウ「ニンジンが、僕のアレにいぃぃ!
うう゛あ(以下略)」
教訓。無理は禁物。
540 名前:523投稿日:04/11/04 12:40:59 ID:???
537氏のリクに答えて
コウの無断外泊は、珍しい事に、余り大騒動には繋がらなかった。
本人から事情を聞き出した家長アムロが
「取り返しのつかない事をしてしまったようだ。…が、大人へのステップでもある。そっとしてやれ」
と言った為、暗黙の内に深く詮索しない事が兄弟の間で決まったからだった。
コウは2日ほど寝込んで回復した。今はすっかり元通りだ。
寝言で「ニンジン…」と唸されていたり、黒く長い毛を見たり、チーズの匂いをかぐと、顔面蒼白になって大量の脂汗を流すのを除けばだが。
そんなある日。
コウは大学から帰る途中本屋に寄った。
お目当ては「隔月モビルスーツ」という専門誌。
数有るMS関連誌の中でも屈指の「濃さ」を誇り、自他共に認めるMS(
ガンダム)ファンのコウには必読の書である。
コアなマニア向けだけに発刊数が少なく彼が本屋で見付けた時には、一冊しか残っていなかった。
541 名前:523投稿日:04/11/04 12:45:46 ID:???
続き
コウ(よかった~)
胸を撫で下ろし、本を掴んだ時、横合いから別の手が伸びてきた。「あっ…」
手の主は若い女性、というより、女の子だった。
今時珍しい大きな丸眼鏡をかけていて、不美人ではないが全体に地味な印象である。
女の子「ごめんなさい。それ最後ですか?」
コウ「えっ、あっ、そう、みたいだね」
女の子はひどくがっかりして、もう一度謝ると店から出ていった。
なんとなく罪悪感がした。それは次第に広がり、お人好しなコウは支払いを終えると女の子の後を追った。
すぐに追い付いた。
コウ「あのっ、これ良かったら譲るよ」
女の子「え?でも、買ったんですよね」
コウ「あ、いや、その、あの……あっ、そうだ、いらなくなったんだ」
女の子「へ?」
コウ「いや、だから、いらないんだ。こないだ同じの買っちゃってさー。僕、忘れっぽくて」
女の子「これ、今日発売…」
コウ「え…あ、大学!大学の昼休みに買ったんだよ。そうそう。アハハハ」
空笑いで誤魔化す。余りに判りやすい嘘に女の子はたまらず吹き出した。
女の子「プッ、フフフッ、フフッ…あなた…とっても好い人なのねー…フフッ」
不器用なコウは、ますます困るのだった。
542 名前:523投稿日:04/11/04 12:49:33 ID:???
続き
女の子はミリィ・チルダと名乗った。ある企業でメカニックとして働いているらしい。
類は友を呼ぶ。意気投合した二人は本屋からの帰り道、MS談義に花を咲かせた。
別れ際。
ミリィ「でも、本当に貰っちゃっていいの?なんか悪いわ」
コウ「あ~、うん。僕は今どうしてもって分けじゃないから」
ミリィ「…あなた本当に素直なのねー。顔に読みたいって出てるわよ」
コウ「えっ?」
ミリィ「フフッ。じゃあ、私が借りたって事にしましょ。それならいい?」
コウ「いや、あげたんだし、それは」
ミリィ「いいの、それで。……その方がまた会えるでしょ?」
コウ「えっ?!えっ」
ミリィ「じゃ、じゃあまたねっ」
ミリィは言うだけ言うと小走りで行ってしまった。
暫く後。
夜の町中に歓喜の雄叫びが響いた。
543 名前:523投稿日:04/11/04 12:50:56 ID:???
続き
『こちら薔薇。菊、応答願います』
『こちら菊。薔薇どうぞ』
『雄しべと予定通りに接触。問題なし』
『了解。段階2に移行せよ』
『了解。約束、お願いしますよ』
「クククッ…まどろっこしいのも、楽しいねぇ…獲物は逃がさないよ……」
げに恐ろしき者、
汝の名は女なり。
553 名前:523:ミリィ編投稿日:04/11/05 20:39:38 ID:???
本の貸借から始まったコウとミリィの関係は一ヶ月で気の合う知人から異性の友達へと進展していった。
だが、そこから先には進まなかった。
デートは週に一度、
電話は二日に一度、
相手が好意を持っているのはほぼ確定。
にも関わらず、友達以上恋人未満なのは…
「どう思う?」
「…どうって…それ聞くためだけに来たのかよ」
警察署内。08課のシローのデスク。指し向かいで身を乗り出す弟にシローは軽い頭痛を覚えた。
「シロー兄さんなら、まともな答えが聞けると思ってさ。アムロ兄さんはモテ過ぎるし、ドモン兄さんはああいう人だろ?」
問題点が違う。シローは苛ついてきた。
「あのな、仕事中なんだよ。俺」
「わかってる」
「歳末は忙しいんだ。特に」
「大変だね」
「ああ、大変なんだ…毎日残業で、休みもなしで……アイナとも会えないで、電話する時間無くて全然連絡しないから浮気じゃないかと疑われてもきちんと説明する暇が無い位に大変なんだ!分かるか分かるよな?!分かったら帰れ!!」
喋っている内に怒りが溢れでた。
「い、いや、わかってるけど家だと弟が居て落ち着いて話せないだろ?」
「知るか!とっとと帰れ!」
554 名前:523:ミリィ編投稿日:04/11/05 20:43:48 ID:???
その剣幕に押され、コウは不満そうに08課をでていった。
「……全く」
息が荒い。急に怒鳴ったせいで酸欠気味になっていた。
「隊長も大変ですね」
サンダースが気を利かせて水を持ってきてくれた。
「すまない…見苦しい所を見せた」
受け取って一気に飲み干す。喉に染みた。
「いえ。しかし良いんですか?弟さん、一杯一杯な様子でしたが」
「…………」
確かに部下の言う通りだった。
弟の中でも割りとまともなコウが、職務中と分かっていて恋愛相談に来る事がその証拠だろう。
「奥手だからなあ…。その分、思い詰め易いんだよ」
室内には夕日が差し込み、深い陰と陽が入り混じっていた。
シローはふと胸騒ぎを覚えた。
(暴走しなけりゃいいが…)
そして、その不安は的中する。
556 名前:523:ミリィ編投稿日:04/11/05 20:45:23 ID:???
『こちら薔薇。菊、応答ねがいます』
『こちら菊。薔薇どうぞ』
『明日1200より、雄しべと接触予定』
『了解。最終段階に移行せよ』
『えっ?』
『繰り返す。最終段階に移行せよ。わかっているな?』
『…………了解』
「もうちょっと、続けたかったかな…」
557 名前:523:ミリィ編投稿日:04/11/05 20:51:27 ID:???
休日。コウはミリィを誘って、映画を見に行った。
宣伝の割りに内容は外れだったが、それはそれで会話のネタになった。
カフェで昼食をとりながら感想を話し、その後は、町中を適当に歩いて、似合いそうな服を探したり、サングラスで遊んだり、珍しい小物の用途を考えたり、ゲームセンターで景品を取ったり、道行く女性に目を引かれ不機嫌になられたりした。
デパートの屋上。
ミリィの希望で二人はベンチに座り少し休憩をとっていた。空気が本格的な冬の気配を含んで冷たい。
「ん~いい気持ちー。どこも暑いんだもの」
「そう?この時期こんなもんだと思うけど」
「月だとここまで暑くしないわ」
「ミリィ、月生まれなのかい?」
「んー、まあね」
「へぇ、どんなとこに住んでたんだ?」
一瞬、ミリィが目をふせた。
沈黙。
コウは何故黙るのか分からなかった。
558 名前:523:ミリィ編投稿日:04/11/05 20:54:34 ID:???
「俺、変な事聞いたかな?」
「………ううん。たいした事じゃないから。…私のね、私の生まれた所は古い町でね、昔は資源採掘で栄えたんだけど、子供の頃はもう全っ然ダメで。すごく寂れてた」
ミリィが席を立った。眼下の町並みに何を重ねているのか。
「でも、私は大好きだった。近所の人も優しかったし友達も一杯いたから。でも、ある日、循環酸素プラントが老朽化で壊れて。それからはもう滅茶苦茶。住めなくなっちゃたからみんな避難したの」
その話は聞いた事があった。そして、その月都市は予算の折り合いがつかず放棄されている事も。
確かめると、ミリィは知ってたの?と困りながら、笑った。
「参ったなあ、変な同情されたら嫌だからそれは内緒にしたかったんだけど…」
コウは何も言えなかった。自分を殴りたくなった。
馬鹿で。無神経で。
故郷を無くした傷を無遠慮にえぐって。
謝りたいと思った。けれど、言葉がない。
だからコウは、ミリィを背中から、抱き締めた。
「コ、コウ?」
「…ごめん」
「え?」
「…ごめん。僕は馬鹿だ…」
ミリィは、ほんの少し力を抜いてコウの手に自分の手を重ねた。
「…あなたって本当にいい人。…‥本当に」
冷たく澄んで高い空の下。
その温もりにミリィの心は揺れていた。
565 名前:523:ミリィ編・完結投稿日:04/11/06 15:35:53 ID:???
「このシーマの上前を跳ねようってのかい!」
激昂。
ピシリとあたる扇。
頬に痛み。
だが、見返す瞳は揺るがない。
「もう協力できないと言ったんです」
「ミイラとりがミイラになったからだろうが!」
「そうです。でも、私に資格はありません。報酬のお金も入りません」
「へぇ、身を引くと。でも、いいのかい。故郷の復興資金がいるんだろう?故郷のためにメカニックになったんだろう?」
「……入りません。お金で、心は騙せないから」
舌打ち。
「いい度胸だ。認めてやる。但し、ペナルティは払って貰うよ…」
邪な笑み。
しかし怯まず。
566 名前:523:ミリィ編・完結投稿日:04/11/06 15:38:35 ID:???
コウが、その電話に出たのは偶然だった。
ミリィを抱き締めた興奮で寝つけず、明け方まで起きていたからだった。
泊まり込みのシローからかと思いきや、ミリィだった。
『コウ?嘘?』
「いや、寝つけなくてさ。何?」
『何でこんなに予定と違うのかなぁ。もう』
「ミリィ?」
『お別れを言おうと思って。今から月に帰るの』
「は?何で…」
『私ね…私、本当はあなたを騙す役だった。シーマに頼まれたの。あなたに近付いて、気のある素振りをして、あなたが、その気なったら思いきり傷付て、そこに彼女がつけいる筈だった。でも私、本気になっちゃった…』
「そんな…」
『本当にバカみたいよね。大間抜け』
小さな鳴咽まじりで、彼女は笑う。
それは明るさを装った懺悔の告白だった。
『もっと早く、こうしておけば良かったのにね。ごめんね。今まで楽しかったよ。本当に有難う』
「ミリィ?ミリィ!」
電話は切れていた。
コウは自室に駆け込みPCを立ち上げ、朝一番の便を確認。
あった。
AM5:35発 香港経由。
現在、午前4時40分。
搭乗は出発の30分前には始まる。
乗りこまれたらもう、会えない。
差引き25分の猶予。
そして空港までは車で飛ばして一時間以上。
「くそおっ!」
いや、まだ手はある。その力が彼にはある。
部屋を飛び出した。
567 名前:523:ミリィ編・完結投稿日:04/11/06 15:42:50 ID:???
「…何だよ~もう~。うるさいな~」 アルはドアの閉まる音で目を覚ました。
コウが騒いでいた気がする。同室としては迷惑この上ない。
抗議しようとした所で兄が居ない事に気が付いた。
「コウ兄ちゃん?」
いきなり家が揺れ出した。ガンダムを誰かが動かしているらしい。家の外見ると、そこにはGP-01が立っていた。
GP-01は数歩助走をつけて、スラスターを全開にし、白み始めた夜明けの空めがけて跳躍する。
その姿は、瞬く間に放物線を描いて消えていった。
震動が、まどろむ町を揺らす。轟音が、朝の静寂を裂く。
着地の慣性でアスファルトを削り、跳躍の反動で路面をめくり上げながらGP-01は疾風の如く駆け抜ける。
跳躍。
着地点を選択。姿勢制御。着地。
またも跳躍。
煩雑な操作に苛立ち、焦る。
移動能力で勝るGP-03を選ばなかったのには理由がある。
後方に警告。
「来た!」
568 名前:523:ミリィ編・完結投稿日:04/11/06 15:45:58 ID:???
「来た!」
この町の警察はどこであろうが追って来る。例え空の上でも。
振りきるためには小回りの利く方が有利だ。そして追いすがるのはやはり。
「止まれ、コウ!これ以上の迷惑行為は許さん!」
シローのEZ-8。
「兄さん見逃してくれ!時間がないんだ!」「無茶言うな!これだけやれば、いくら弟でも見逃せるか!」
「くっ!」
GP-01が跳ぶ。EZ-8も続く。
「仕方ない。兄さん、許してくれ!」
高度と距離を調節し、タイミングを図る。
EZ-8が手を伸ばせば届く所まで接近した。
瞬間。
ブレイクアウト。
コアファイターが分離し、制御と推力を失ったボディが空気抵抗を受けて失速。
背後にまで迫っていたEZ- 8は衝突し、もつれながら落下していった。
コウは束の間シローの身を案じたが、あれ位なら、と言い聞かせてスロットルを全開。
急激な加速に寝不足の内蔵が軋んだ。が、手は緩めない。
心の中で、ただひたすらに繰り返す。間に合え、と。
569 名前:523:ミリィ編・完結投稿日:04/11/06 15:48:25 ID:???
空港。
待ち合いロビーで、ミリィは、ぽつんと座っていた。
荷物は既にフロントに預けた。後は搭乗開始のアナウンスを待つだけだ。
服で分からないが、彼女の体にはシーマの課したペナルティの痕がいくつも残っている。痛みはないが、微かに熱い。
疲れていたが、後悔はなかった。
搭乗開始のアナウンスが流れた。
席を立つ。と、何かゲートのあたりが騒がしい。
(何かしら?)
振り返ると、警備員に追われながら走る青年がいた。
「ミリィ!」
「コウ…?コウ!」
駆け寄るコウ。立ち止まるとたちまち警備員が羽がい締めにした。
「な…何やってるの、あなた!」
「追って、来たんだ!あんな別れ方、納得いくもんか!」
「バカじゃないの!私はあなたを騙してたのよ!」
「だからなんだよ!僕が君を好きなのには関係ないだろ!」
ミリィが目を見開く。警備員は痴輪喧嘩と知って呆れたよようにコウを離した。
「君を、月になんか行かせるもんか。シーマが怖いなら僕が守る。だから…」
「…有難う。でも、いいの。どうせ、いつかは帰るつもりだったから。いい機会だったのよ」
「だったら、僕も行くよ。故郷を直すんだろう?」
ミリィの眼から涙が落ちた。
571 名前:523:ミリィ編・完結投稿日:04/11/06 15:53:17 ID:???
「…本当に…お人好し…あんな作り話…信じて…バカ…。あなたには家族がいる、のよ…学校も…それを…私なんかの為に捨てて…どうするのよぉ…」
作り話というのは嘘だとコウは思った。
自分の為についてくれた彼女の嘘。痛ましい位に優しい嘘だと。
愛しくてコウはミリィを抱き締めた。
「…わかった。でも諦めないよ。卒業したら君に会いに行く。それなら、いいだろう?」
「…本当にバカね」
重なる瞳。
次第に距離は近付いていき。
ロビーは冷やかしと喝采の巷となった。
「全く…」
ボロボロになって追い付いたシローは、歓声の中心で抱き合う弟を、苦笑いで見守っていた。
今回は、見逃してやるか。でも説教はしておかないとな。
それが兄というものだろう。
余談だがこの後、一家の電話代が二桁ほど上がり騒動になるのだがそれはまた、別の話。
590 名前:523投稿日:04/11/07 16:22:58 ID:Hys7oQvl
523です。
ちょっと今、エライ事になってまして
予告していたシーマ編の完成が大幅に遅れそうです。
下手したら一ヶ月後とかになりそうなので、出来てる部分のみ投下します。
期待してくれていた方、もし居ましたら深くお詫びします。
注意事項。
本編は>>543からの
パラレル展開です。
ミリィ編に納得された方はスルーした方が良いかも
591 名前:523:シーマ編投稿日:04/11/07 16:27:21 ID:???
本の貸借から始まったコウとミリィの関係は一ヶ月で気の合う知人から異性の友達へと進展していった。
だが、そこから先には進まなかった。
デートは週に一度、
電話は二日に一度、
相手が好意を持っているのはほぼ確定。
にも関わらず、友達以上恋人未満なのは…
「…そりゃあ、待ってるんだろうな」
「待つって?」
「お前から告白されるのをさ。女の子はそういう所がある」
たちどころにコウが赤面する。
アムロはいい加減、馬鹿らしくなってきていた。まるで中学生だ。
コウは長兄アムロに相談した。もっとも経験豊富だし、弟達相手にするのはささやかなプライドが許さなかった。
深夜、部屋に入れたがらない所を泣き付き、今に至っている。
雑然とPC機器に埋もれた部屋。縞柄トランクスにランニングというだらしないスタイル。ベルトーチカと別れる一因であった部分を弟に見せるのが苦痛なアムロだったが、コウは全く気にしていない様だった。
(この鈍さが最大の原因だな)
「そうか、そういうモンなんだ…」
コウはしきりに感心しているが、OKサインを見逃しタイミングを外す可能性が高いとアムロは思う。
ここを読み切れるかどうかが重要なのだが、敢えて何も言わなかった。
教えてどうにかなる物ではないし、失敗にせよ、成功にせよ、経験を積めばそれが人生に活かせる。
「有難う、兄さん。やってみるよ」
「ああ、頑張れ。それと気取るなよ。伝わらないと意味がないからな」
「分かった。じゃあ、お休み」
「ん……ああ、一度家に連れて来るといい。メカニックなんだろ?喜んでもらえる」
「ああ!そうするよ」
コウは勇んで
アムロの部屋からでて行った。
(さて、どうなるか)
アムロは当面は静観する事に決めた。
それが兄というものだろう。
592 名前:523:シーマ編投稿日:04/11/07 16:28:46 ID:???
『こちら薔薇。菊、応答ねがいます』
『こちら菊。薔薇どうぞ』
『明日1200より、雄しべと接触予定』
『了解。最終段階に移行せよ』
『えっ?』
『繰り返す。最終段階に移行せよ。わかっているな?』
『…………了解』
「もうちょっと、続けたかったかな……』
593 名前:523:シーマ編投稿日:04/11/07 16:30:27 ID:???
休日。
コウはミリィを自宅に招いた。
アムロの助言のままに行動してしまう所が、いかにも素直な彼らしい。
「どうなの。いい感じか?」
「MSの話ばっかりしてる。おかしいですよ、兄さんは」
ジュドーの問いに、ウッソはノートのモニタを見ながら歯痒そうに答えた。
格納庫に居るコウ達を例によって盗撮しているのだ。
594 名前:523:シーマ編投稿日:04/11/07 16:35:34 ID:???
「はあ~。なにやってんだ。コウ兄は」
とガロード。
「よっしゃ、兄貴の為だ。一肌ぬいでやろうぜ」
ジュドーが威勢良く言うと、ガロードもニマリと笑い応じる。
「兄弟の為だ。当然だよな」
(これ危険だよね)
利に悟いのが弟。何しろ今日は、よりにもよって悪ガキコンビとウッソしかいない。
ちょっかい出した事がアムロにバレた事を考えて、コッソリ逃げだそうとしたが、兄二人が許す筈もなく。
「どーこ行くんだよ」
ジュドーが肩を掴み。
「おっと、今更遅いぜ。もう共犯」
と、ガロードが上着の裾を引っ張る。
こういう時のコンビプレイは抜群である。
「に、兄さん達、やめとかない?ほら、後が怖いし」
「大丈夫、大丈夫。俺にまっかせなさーい」
「コウ兄の為だぜー。協力しろよー」
嘘だ。二人とも目が笑っている。
「ほうコウの為か」
悪ガキ二人の頭上から突然声が降ってきた。「げっ…」
595 名前:523:シーマ編投稿日:04/11/07 16:37:48 ID:???
「…ドモン兄」
脱兎の如く逃げだそうとする悪ガキコンビ。しかし、ドモンの手はそれより速く、二人の弟の頭をがっしりと掴んでいた。
「いでっ?!痛たたたっ!」
「んがっ!な、なんで兄貴がいるんだよっ!放せって、痛えよ!」
叫ぶガロード。抗うジュドー。
「ふん。アムロ兄さんに言われてな。黙って見てりゃこの様だ」
「隠れてたのかよ。大人の癖に汚ねぇぞ!」あがくジュドーに大喝一声、
「うるさい!隠し撮りするお前らよりもはるかにいい!!行くぞぉっ!!」
「あ、ヤベ…」
「ちょ、ちょっとタイム!」
聞く耳を持つ分けががない。
「俺のこの手が光って唸る。躾の為だと輝き叫ぶ!必殺!シャァァイニングッ、フィンガァー!!」
「なにかしら?悲鳴みたい…」
格納庫。RX-78を眺めていたミリィは視線を上に向けた。
「さあ?またケンカかなぁ。」
コウも同じく天井に目をやる。あまり関心ないのは、この家では日常だからだ。
「それよりも、次、何がみたい?」
「う~ん。そうねぇ…」
ミリィが思案していると陳入者が飛込んできた。猛スピードで彼らの前を横切っていく。
596 名前:523:シーマ編投稿日:04/11/07 16:41:18 ID:???
「ごっ、ごめんなさいっ」
「黙れ!性懲りもなく盗撮なんぞ!その性根叩き直してやる!」
逃げるウッソと、なぜか竹馬に乗り追うドモン。
「盗撮?」
突如始まった珍事にも関わらずミリィは耳聡く反応した。
(やばい…)
なんとなく、騒動の原因が想像できた。広がる不安。そして。
それは起きた。
「兄の恋路を邪魔する奴は!馬に蹴られて悔い改めろぉ!!」
言葉通り竹馬で蹴り飛ばされるウッソ。
しかし重要なのはそこではなく。
「兄の恋路?盗撮?」
コウの背中を冷や汗が伝う。とにかく話をそらさないと…。
「あ~、ミリィ。フリーダムなんて、どう?まだ新しいよ」
「…そう。…そういう事」
途端に彼女の目が冷たいものに変わる。
「いい弟さんをお持ちで。私、帰る」
言い捨てて、さっさと歩き出す。
「ま、待って。誤解してないか?違うんだ」
「何が違うの?盗撮させたんでしょ。最っっ低」
「いや、それが誤解…帰るなら送ってくよ」
「結構よ!」
コウを振り切りミリィは肩を怒らせて格納庫を出ていった。
「ミリィ?ミリィィィィ!」
追い掛けるコウ。
直後、乾いた音が響いた。
最終更新:2018年12月25日 22:39