184 名前:通常の名無しさんの3倍 :2011/04/29(金) 02:20:35.07 ID:???
長編投下します。長いので分割して連載という形にする予定です
イラネって方はお手数ですがタイトルでNGをお願いします
185 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 1/14 :2011/04/29(金) 02:21:53.90 ID:???
【―― Introduction】
「デュオ! お前はコロニーの味方なんだろ! なのに何で俺たち敵になってんだよ!!」
「ガロード! お前は言ったよな。いろんなものをみて、いろんな人にあって、未来を考えたいって!!」
二つの黒き巨人が星々の煌めきの中でぶつかりあった。
地球とコロニーを背負い、
ガンダムDXとガンダムデスサイズHの二機は両手を組み合う。
武器を使用しないのは、互いの躊躇い故だ。
「同い年の奴じゃ一番気があった! 親友だと思っていた!」
「へっ、奇遇だな。俺もだ!!」
DXの拳が、デスサイズHの蹴りが、互いの距離を引き離す。
銃爪を引く覚悟に、操縦桿を握る手が汗で滑った。
「悪いな、相棒……気が進まないよな、ガンダムを壊すってのは!」
「ジャミル……道を間違った奴には、拳を振り上げることも必要なんだよな!!」
15歳の少年達は、宇宙という黒いキャンパスに一条の線を描いていく。
186 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 2/14 :2011/04/29(金) 02:22:57.05 ID:???
【―― 発端(1)】
『申し訳ありません。本当はロウがするはずの仕事だったのですが』
「その分、報酬に色を付けてくれればOKだって」
『あ、14号機の角度は38度でお願いします』
「了解」
リーアム=ガーフィールドの指示に従い、ガロードは彼が操縦するガルスJの手に持つミラーを動かした。
作業用MAではなく、普通のMSで繊細な調整ができるのは操縦センスの高さの証明だろう。
ガルスJはリーズナブルで玄人好みのMSだ。
ネオジオン社初期に生産されたMSでは中々の人気を誇る。
ジャンクとして弄ったことはあるが、操作するのはガロードも初めてであった。
全天周モニターは宇宙空間に居るという実感を与えてくれて良いが
長時間乗り続けていると、宙に投げ出されているという感覚が心をざわめかせる……
それはきっと自分が地球育ちだからだろうとガロードはミラー――コロニーに電力を送るソーラーパネルの設置を急いだ。
× × × × ×
「……お仕事終了っと。そっちの方は?」
月の裏側のコロニー『ゼブラゾーン』の外宙から帰還したガロードは、リーアムに訊ねた。
彼らジャンク屋に依頼された仕事はゼブラゾーンの環境管理装置、特に空調関係の修理。
老朽化し、破棄されたコロニーに住む不法滞在者には政府の保証が無い為、ジャンク屋に頼むことになる。
その為、ジャンク屋は足元を見て高額な報酬を吹っ掛ける事も多い。
真空の宇宙に暮らす上で空気は必要不可欠である為に、この様なコロニーに住み着く人々は涙を呑むしかない。
では、リーアムやガロードがそのような悪徳ジャンク屋かと言われれば異なる。
そもそもゼブラゾーンの住人に彼らを斡旋したのは、本来なら彼らを取り締まるべき、トキオ=ランドール刑事であった。
これは当事者達だけの秘密であるが。ガロード達はいわば善意の繋がりによって、このコロニーに訪れている。
地球連邦政府の統治は杜撰で、廃棄されたコロニーはそのまま放置されている。
稀に業者に解体を依頼することもあるが、そのような例は政府と企業の癒着が背景にあることが殆どだ。
在野のジャンク屋も、個々で廃棄コロニーに"お宝探し"に来ることはあっても、コロニーそのものの解体は滅多に行わない。
巨大なコロニーを解体するには、数十のジャンク屋が合同で行わなければならないためだ。
個々人で逞しく生きているジャンク屋達がその単位で纏まるのは殆ど不可能である。大抵の場合、報酬の内訳で揉めるからだ。
(ジャンク屋組合の肝煎りでジャンク屋連合がコロニーを解体した事はあるにはあるが)
そうして放置されたコロニーに、難民や無戸籍者、落人、逃亡者など"訳あり"の人間が住み着くことは珍しくない。
「難しいですね。電気分解の装置は完成しましたが、除去フィルターが足りません」
「フィルターか……」
ゼブラゾーンに足を踏み入れ、管理装置を確認した時、リーアムは頭を抱えた。
彼の仲間であるロウ=ギュールがこの場にいれば「このメカの悲鳴が聞こえる」とでも言ったであろう。
耐久年数を超えて稼働し続けた管理装置は、相当ガタがきていた。
しかし、酸素タンクを含む管理装置をオーバーホールすれば、コロニーの空気を維持できなくなってしまう。
だからといって装置を稼働させながら修理を行うのは困難である、と説明した上で
リーアム達とガロードが話し合った結果、装置を停止している間、"他から酸素を持ってくる"という案を採った。
具体的に言えば、宇宙を漂っている氷隕石から水を精製し、太陽発電による電力で水を電気分解、酸素を生み出すという作戦だった。
問題は氷隕石に含まれる不純物を除去しなければ電極を長時間稼働させることが難しいということである。
187 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 3/14 :2011/04/29(金) 02:24:13.81 ID:???
「ジャンク屋組合に要請すると時間がかかってしまいます」
「事情を話して、どっかから借りられないかな?」
「不法居住者に手を貸してくださいって?」
ゼブラゾーンの住人、レイラ=ラギオールが鼻で笑う。
世間はコロニーの不法居住者に厳しい。それは彼らが社会の落伍者というだけではない。
月のムーンレイスや地球のサンクキングダムなどの国家は、彼ら彼女らのような難民の受け入れも行っている。
しかし彼らは望んでこの生活を送っているのだ。社会的な保証は受けられない代わりに世間の喧騒からも隔絶された空間を望む……
あるいは、たとえ見捨てられても、宇宙こそが故郷だと思っているからなのかも知れない。
兎に角、差し伸べられた手を弾いた者が、困ったときだけ頼ってくるのにいい顔をする者は居ないだろう。
そのような事情なだけに真っ当なやり方で手に入れるのは不可能な様だった。
「フィルターが余っているところとか無いかな?」
「オーストラリアはコロニー落としの影響で汚染が酷いですから、除去フィルターが生活に欠かせません。
逆を言えば、必需品なので予備もかなりの数が存在していると聞きます」
長時間の作業でリーアムも判断が鈍っていたのだろう。
普段ならば、そんな情報をガロードに教える筈がない。
なぜならこの少年は、行動力という一点では"あの"ガンダム兄弟の中でも群を抜いているからだ。
そして、それと引き替えにと言うべきか、
ルールに従うという感覚がやや欠けているきらいがあった。
有り体に言ってしまえばアウトロー精神に溢れているのである。
その夜、コロニーからガロードとレイラの姿が消えた。
188 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 4/14 :2011/04/29(金) 02:26:34.79 ID:???
【―― 発端(2)】
「ビーチャの奴、人の善意につけ込みやがって」
逃げも隠れもするが嘘はつかない男・デュオ=マックスウェルは、赤茶けた荒野が続くオーストラリアの地を踏んでいた。
彼がオーストラリアに立ったのは一人の少女の依頼によるものだった。
その少女・レイラ=レイモンドは、ビーチャ達にデュオを薦められてやってきたのだ。
ビーチャ達がデュオを薦めたのは単純な理由だ。
採算が取れない、けど見捨てるのは可哀相、義理人情で動きそうな奴に押し付けよう
そして、丁度暇をしていた義理人情で動きそうな奴――デュオに白羽の矢が立ったのだった。
それがつい先日の事である。
余談だが、後にこの事件を振り返ったデュオは、
自分とガロードが同じ"レイラ"という少女に導かれて事件に飛び込んだという、
その不思議な巡り合わせに感嘆することになる。
「お前の助けなんて不要だ。さっさと帰れ」
「その声で怪我してるとか信じられねぇよ。骨折とか自分で直せるんじゃねーの、お前って」
「ボクは"人より優れた人間(ニュータイプ)"だ。でも人間そのものを止めたつもりはない」
頭に包帯を巻き、片腕を釣っている緑髪の男、ゼロ=ムラサメに向かってデュオは軽口を叩いた。
どうにもこの男の声は、彼の仲間であり、親友の双子の兄弟でもある、どこかの自爆魔を彷彿とさせた。
「コロニー落としで更地になったオーストラリアの大地にソーラーパネルを並べる、か」
荒れ果てた大地が復活するのはまだ先の事だろう。
農産業が出来ないのであれば、エネルギープラントとして活用する、その考えは悪くない。
ただ、インフラも整ってないオーストラリアでそれをするには困難そのもので
とても効率の良いプロジェクトとは言い難かった。
それでもこのオーストラリアを人が暮らせる場所にしたいと思うのは
彼――ゼロがこの地の出身だからだろう。彼が養っている
強化人間の中にも、そういう子がいるかも知れない。
コロニー落としの記憶を利用された少年が、それでも故郷にすがる。いや、だからこそ縋る。
その感覚はデュオにも分からなくはない。
楽しかった記憶だけじゃない、辛い記憶もあってこその『故郷』なのだとデュオは思う。
「一件25%ほど完成ってところだが、実際は15%程度だな。ソーラーパネルを並べればいいってもんじゃない」
渇いた風に三つ編みを靡かせるデュオは、荒野に整然とならぶソーラーパネルから伸びる配線を撫でなでた。
宇宙から輸入しているソーラーパネルは中古の品で、さらに運搬の為にバラしてあるので地上で組み立て直す必要があった。
さらにそのソーラーパネルは中古品なので規格もバラバラであり、調整が必要なのだ
デュオはそういった組み立てや調整だけでなく、資金難で苦しむ彼らの為に四方八方手を尽くし、
パネルそのものも宇宙でかき集め、その作業をレイラに引き継いだ後、デスサイズHと共に地上に降りてきたのだった。
そのパネルの到着がもうすぐだと、デュオは空を見上げる。
いい運び屋が見つかったので、集めたパネルを地球に送る、というレイラの連絡をデュオは受けていた。
「!!」
189 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 5/14 :2011/04/29(金) 02:28:29.23 ID:???
デュオの瞳に映ったのは、火炎を吹き上げながら落下する輸送船。
さらに数機のMSがそれを追い立てている。どう見ても尋常な事態ではない。
輸送船の船体に書かれた「運び屋リ・ガズィ」の文字。それはデュオが依頼した運び屋の名前だ。
「ちくしょう! コイツが"妨害"ってわけか!!」
「くっ…やらせるか!!」
「おい、その身体でムチャすんな。俺が行くからよ!」
順調に進んでいたプロジェクトが、最近何者かの妨害を受けている。
それは単に、オーストラリア近海を生業にするシーバルチャーが略奪しているだけで、計画的なものでは無いのかも知れない。
それでも戦わなければ、夢は守れない。ゼロはMSで何度も出撃を繰り返した。
何度目かの戦闘で、修理や補給が間に合わないまま出撃したゼロは怪我を負った。
デュオが受けた仕事は、ジャンク屋としてパネルの組み立てやメンテナンスを行う他に、用心棒をするということであった。
(つーかまぁ、ザックリ言えば”ゼロを助けて!”ってことだろ! ぞっこんってヤツだ!)
デスサイズHのコクピットに乗り込んだデュオは、依頼人の少女を思い出す。
その気持ちに心動かされて仕事を受けた自分は、確かにお人好しだ。
鮮やかな青と白のコントラストを描くオーストラリアの空へ、デュオは愛機を飛ばした。
× × × × ×
「敵は……PMCイナクトが5機か!」
輸送船を狙うPMCイナクトのライフル弾の前にデスサイズHが割ってはいる。
ガンダニュウム合金の機体は、リニアレールガンを容易く弾く。
「盗賊ってんなら最悪だが、傭兵ならもっと最悪だぜ!!」
イナクトは値崩れを起こして格安で売り叩かれている機体だ。そこらのゴロツキが所持しているのは珍しくもない。
だがPMC――民間軍事会社所属の機体となると話は別だ。
雇われて輸送船を襲ったのであれば、それは何者かがオーストラリアにエネルギープラントを建てるのを良しとしてないという事になる。
「魂ィィィィィ!!!」
「おっと! ムチャな操縦しやがって! 内臓が潰れても知らねーぞ!!」
急速度、急角度の旋回を繰り返し、先頭のPMCイナクトがデスサイズHの懐に潜り込む。
だが、デュオはコクピットの中で「死神」の名前に相応しく、不敵に笑った。
「オォッ!!」
ブレイドライフルが当たるのを構わず、デスサイズHは突進する。
ガンダニュウム合金の装甲は、並の兵器では傷一つ付かない。体当たりを受け、飛ばされるのはPMCイナクトの方だ。
自機の特性を理解し尽くしたデュオの戦い方に、しかしPMCイナクトのパイロットは恐怖より歓喜した。
「いいぞ! もっと俺の血を滾らせろ!!」
「悪いがお遊びをしてる時間はないんでね!!」
PMCイナクトが体勢を立て直すよりも早く、デスサイズHのツインビームサイズがPMCイナクトの下半身を切り捨てる。
コクピットは狙ってなかったが、しかし狙っていても避けられただろう。
咄嗟のPMCイナクトの回避行動を見ながら、デュオは内心舌を巻いた。
他のPMCイナクトが援護に駆けつける。彼らはやられた味方を回収して撤退するだろう。
そうすれば自分もリ・ガズィの輸送船を助けにいける……そのデュオの予測は裏切られる。
「滾るっ! 滾るぞ、魂ィィィィ!!!!」
「何っ!?」
190 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 6/14 :2011/04/29(金) 02:30:43.88 ID:???
上半身だけになりながらも、PMCイナクトはブレイドライフルを突き立ててきたのだ。
それも機体の脆い部分、メインカメラに向かって。
コクピットの映像が一瞬ブラックアウトする。
サブカメラの映像に移り変わる刹那、並のパイロットは動きを止める。
だが、デュオは並のパイロットではない。
「なろぉ!!」
「おおっ?!」
暗闇の中で行動するのは慣れている……
視覚を失いながらも反撃に出、今度はPMCイナクトの上半身を裂いたその動きは
デュオの天性の勘と、長年の経験によるものだった。
「水被って頭冷やしてこい!!」
ツインビームサイズの柄でコクピットブロックを叩き落とすと、他のPMCイナクトに対して殺気を向ける。
それはこのまま戦い続けるか、リーダーを回収して終わりにするか、その選択肢を突き付けたのと同意だった。
「奉先を回収する」
敵は後者を選んだらしい。高度を下げるPMCイナクト達は、デュオを警戒しながら戦域から撤退していく。
デュオもまた、サイズのビームを切り、輸送船の落下地点へと踵を返した。
【―― 渦動(1)】
ギュネイ=ガスは苛立っていた。
オーストラリアのプロジェクトは個人で行えるものではない。
発起人はゼロ=ムラサメであるが、それに賛同した者や企業がそれを助けている。
シャア=アズナブルが社長を務めるネオジオン社もその一つだ。
コロニー落としに関してはネオジオン社の前身であるジオン社が引き起こした事でもある。
よってシャアは腹心であるギュネイをオーストラリアに派遣したのだが
本人はこれを左遷と受け取ったらしい。
これが現地で存分に手腕を発揮できるとしたら、そうは思わなかったかも知れない
だが、このプロジェクトの中心人物であるゼロと彼は相性が悪かった。
だけでなく、例えばシーバルチャーの撃退などは各自が協力して行うベキであるのに
西地区担当のゼロが北地区担当のギュネイに行うのはシーバルチャー撃退の「事後報告」だけであった。
それでいて、ゼロは現在そのシーバルチャーとの戦いで怪我を負ったと言う。
素直に援軍要請をしていれば、そんなことはなかっただろう。
資金面、技術面ともに苦労しているゼロの西地区と違って、
大企業であるネオジオン社が担当している北地区は順調にプロジェクトが進んでいた。
しかしゼロは自分の担当地区だけはジオン系列の協力を受けるのが嫌らしく、頑なに自力での完遂を目指していた。
さて、このまま順調に仕事が進んだとして、自分の担当を終えて仕事を成功させたとのだから……とギュネイは本社に帰る事ができるだろうか?
そんなことをすれば、ネオジオン社はやれ冷血だの、機械的だのとバッシングを受けるに違いない。
また別の支部に飛ばされる、なんて事にギュネイは成りかねない。
かといって、北地区は終わったから手伝うよ、と手を差し伸べても、あの強化人間は手を握り返しはしないだろうとギュネイは歯噛みする。
では自分はゼロの仕事が終わるまでここに拘束されるのか……そう思うと彼の苛立ちは止まらないのであった。
191 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 7/14 :2011/04/29(金) 02:32:24.55 ID:???
「いっそ、西地区のプロジェクトリーダーが代わればいいのですがな」
ギュネイよりも歳を取った部下が、彼の顔を見ずに言った。
気まぐれで現場を視察しているギュネイに、用もないのに付いてきた男だ。
いや、ギュネイにゴマをするという目的が彼にはあるのかも知れないが。
「怪我程度ではなく……何か大きな失敗でもすれば……」
「そういうやり方は好かないんだよ!」
「若いですな」
「老人の知恵が正しいとは思わないな!」
現地の部下がこのレベルであるという事も、ギュネイには自分が左遷を受けたと思いこんでいる一つの原因だった。
と、彼の目に黒煙が天に昇っていく姿がとまる。
「事故か?」
「すぐ部下を調査に向かわせましょう」
「いや、俺がMSでいく。お前は会社に戻って待機していろ」
MSに乗ることで僅かでもストレス発散になれば……この時のギュネイの頭にあったのはそれだけだった。
後に、彼は自分のその判断を後悔することになる。
【―― 渦動(2)】
「なにか騒がしいね」
「へへっ、なんだか知らないけど忍び込むチャンスだってね」
ガロードはレイラを手招きしながら、物陰を移動していった。
本来ならガロードはレイラには外で待機してもらう予定であった。
彼にはデュオのような突出したセキュリティー解除の技能はない。
しかし施設に忍び込むだけなら、他に幾らでも方法はある。トラックの底に張り付くとか。
だがそれは逞しく生きているとはいえ、少女のレイラには少々荷が重いように思われた。
故にレイラには外で待機して貰い、自分が逃げる時に外から掻き回して隙を作ってもらおうと考えていたのだ。
だが、今ネオジオン社には何事かが起こり、警備が緩んでいる。
それなら一人より二人の方がいい。二人は警備員の視線をかいくぐりながら、倉庫へ向かって駆け出した。
× × × × ×
「あった、あった。ここだ」
排気口を押し外し、煤だらけのガロードが倉庫の床に飛び降りる。
深閑とした倉庫内の空間に、ガロードの足音が波紋のように広がった。
続いて飛び出たレイラが、その場に並べられたフィルターの列を確認する。
工業用のフィルターは一枚がゆうにMS一機分の高さがある。
「あるところにはあるもんだね」
「これだけあるなら、ちょっとくらい失敬しても大丈夫だよな?」
ガロードは頭の後ろで手を組みながら、兄(誰とは言わないが)のおやつをこっそり頂くのと同じ調子で言った。
192 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 8/14 :2011/04/29(金) 02:33:40.25 ID:???
問題はこんな巨大なモノをどうやって持ち出すか、だ。レイラはガロードを見返した。
「んじゃ、ちゃっちゃとやりますか」
ガロードはどこからか作業用のプチモビ・ゲゼと運搬用の大型トレーラーを調達していた。
レイラは唖然とするしかない。
「向こうにソーラーパネルもあったぜ」
「ソーラーパネルか……電気は幾らあっても困らないよね」
「了ー解っ」
言った頃にはガロードは既に荷積みを終わっている。
レイラは驚きや感心よりも、呆れた。一体どんな生活をしていれば、そんなに抜け目なく行動できるのか……
廃棄コロニーに隠れ住むレイラですら、ガロードの鼬のような敏捷さは持ってない。
そんな事を思っていたからだろう、レイラは背後の気配に気づけなかった。
「お前達、そこで何をしている!?」
「ヤバッ!! レイラ、こっちだ!!」
「ま、待てーー!!」
「悪いね、後でお菓子持って返しに行くから許してよ!!」
ガロードは閃光弾を床に叩きつけるのと同時に、トレーラーの運転席へと乗り込む。
トレーラーのハンドルをきりながら、逃げるのにワンテンポ遅れたレイラの腕を掴み、席へと引き上げる。
「いただき、そしてさらば!ってね!!」
"レイラを抱きかかえながら"、ガロードは軽快に叫んだ。
× × × × ×
「――はっ!!」
「どうしたんだ、ティファ?」
マクダニエルバーガーの制服に身を包んだカミーユは
同僚にして、弟の彼女であるティファ=アディールの様子に疑問を持った。
基本的におっとりというか、穏やかな性格ではあるが、仕事はキチンとする彼女が
見ればフライドポテトを揚げすぎている。
心ここにあらずといったティファに代わってカミーユはフライの油を切った。
「……今、とても厭な予感がしました」
「ん?」
「おいカミーユ、ティファ、もうすぐ上がりだからって、手休めるんじゃない」
「分かってますよ、ヘンケン店長!」
彼女が不安になることといえば、まずガロード絡みだろう。
カミーユは帰ったらガロードを掴まえて一言アドバイスでもしておくか、等と気楽に考えていた。
その時彼は、従業員入口でロザミアが出待ちしているなんて思いもしていなかったのである。
さらに家にファが遊びに来ており、ロランと一緒に夕飯を作っているなどと全く予測もしていなかったのである。
流石のNTもそこまで便利ではないのだ。修羅場が見えるぜ。
193 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 9/14 :2011/04/29(金) 02:35:15.88 ID:???
【―― 渦動(3)】
「なんだよ。アイツの関係者かよ」
ギュネイは黒いガンダムのパイロットから説明を受けて、毒突いた。
煙を上げていたのは輸送船で、それの中身はゼロの依頼したソーラーパネル。
そうと知っていれば自ら出撃なんてしなかった……ギュネイは思いつつも部下に指示をだす。
「お前達はそのPMCイナクトが現れた海域に向かえ」
「おいおい待てよ、まずは輸送船の消火と中身の運び出しが先だろ」
「その中身と同じだけのパネルを呉れてやる。デュオ=マックスウェルだったな。それでいいだろ?」
「随分太っ腹じゃねえか」
「嫌がらせなんだよ、これでも」
地力で建設することに拘るゼロも、デュオの顔を立ててパネルを受け取らざるを得ないだろう。
中古を組み立て直すより、新型のパネルを設置するだけの方が作業も楽だ。
つまり、ゼロを不快にさせるのと、時間の短縮と、ギュネイにとっては一石二鳥なのだ。
社長であるシャアからは、プロジェクトには好きなだけ予算を使ってよいと言われている。
エネルギープラント完成後、エネルギーの利権を一部握ることでペイできるから、というよりも
ネオジオン社がオーストラリア復興に惜しみなく尽力したという評判を得るための参加であるからだ。
しかし、ギュネイの意趣返しは部下の通信によってあっけなく断たれる事になる。
「……盗まれただと!?」
「も、申し訳ありません!」
「いい。ソイツが逃げた方向を教えろ。俺が直々に捕まえてやる」
ギュネイの元に入った、ガロード達によるフィルターとパネルの強奪事件であるが
彼らが盗み出した量は全体からすれば微々たるもので、ギュネイがゼロに貸し出しても
ネオジオン社の担当区でプロジェクトを進めるに支障をきたすことはない。
ただ、このタイミングで盗まれたという事実が、ギュネイのプライドを刺激した。
「恩返しだ、協力するぜ」
「ふん、頭が潰れた機体がいても足手まといだ」
そう言われてはデュオも引き下がるしかない。
「人を貸してやるからMSも輸送船も修理していけ」
「ひゅー♪ ホントに太っ腹だぜ、大将」
デュオは満面の笑顔で、ギュネイのヤクトドーガがドダイ改に跨るのを運び屋リ・ガズィと共に見送った。
194 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 10/14 :2011/04/29(金) 03:00:13.89 ID:???
【―― 幕間】
海上に出たギラドーガのパイロットは戦慄していた。
ギラドーガは単独飛行が不可能でドダイ改に乗っており、目の前の未確認MSは単騎飛行可能という差はあっても
こうも為す術もなく撃墜されるのは、パイロットの差と言うほかない。
「っ!!」
彼らがこの場所にやってきた時、報告にあったPMCイナクトの姿は無かった。
代わりに現れたのは正体不明のMS――…
それは異様なMSだった。
二つ目だが、ガンダムのようなゴーグル基調のデュアルアイではない。
クロスボーンバンガードやザンスカールのものとも違う。
ジオン系のモノアイが二つあるような……それは生物的であるのに、酷く嫌悪感を抱かせた。
顔のフォルムのせいもある。
楕円形の頭部から銀杏の葉のように広がった頭部は、一言で表現するならエイリアン。
肩部から先細っていく腕のラインや、酷く開いた股関節が虫を想起させた。
「ふっ…」
肩部から機関砲を撒き散らしながら、ビームサーベルを抜いたその機体は
すれ違い様にギラドーガの腕を切り捨てていく。
その呼吸は、戦闘に楽しみを見いだしているような傲慢さがあった。
あるいは、ギラドーガのパイロットが抱いた嫌悪感とは、MSのフォルムではなく
そのMSを通して出るパイロットの意志であったかも知れない。
緑の閃光がギラドーガのバックパックを撃ち抜き、
ネオジオン社が他社に誇る名機ギラドーガは、無惨にも海へと落下していった。
195 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 11/14 :2011/04/29(金) 03:02:32.59 ID:???
【―― 挫折】
ギュネイは青と黄色のコントラストが鮮やかな自身の愛機・ヤクトドーガの中で、
レーダーの範囲を最大に拡げながらも、トレーラーの足取りを掴めないことに歯ぎしりをした。
「まさかネオジオン社の管轄を抜けたんじゃないだろうな?」
自分の失態を他の人間に知られたくない。
そういう矮小な自尊心の為に近視眼的になるのは彼の悪い癖であり、シャアが改善を望むものである。
尤も、シャア自身もアムロに拘りすぎていたりするのだが。
「捉えた!」
針葉樹林帯を爆走するトレーラーは、東のネオジャパン管轄の地区に入り込もうとしていた。
警備のノブッシに警告を受けている。が、そんな警告を受けるような相手なら、初めから盗みなどしないだろう。
ギュネイはネオジャパンの回線に割り込んだ。
「そいつはこちらで処分する」
『処分? 処分とはどういう意味だ?』
「いけ、ファンネル!!」
ネオジャパン兵の疑問を無視し、ファンネルを飛ばす。
トレーラー一台にファンネルを使う必要などどこにもないのだが、頭に血の上ったギュネイは省みない。
× × × × ×
「きゃあっ」
「くっそぉぉ!!」
流石のガロードも、背後にファンネルを背負って車の運転はできない。
一瞬、目の前のノブッシを強奪できないかと考えたが、それを実行する余裕はなかった。
「どうするの、ガロード!?」
「積み荷は捨てる! 命あっての物種だ!」
ガロードは懐から茶筒ほどの缶を取り出すと、先端のピンを口で引き抜いた。
窓から流れ込む風に緑髪を揺らしながら、彼は自分を追いかける一つ目の巨人に向かい投げた。
それはヤクトドーガからすれば、人に羽虫がぶつかった程度の衝撃だ。
だがその瞬間、ヤクトドーガのコクピットのモニターは、一面灰色に塗りつぶされた。
「うっひょー、シュウトの奴スゲーもんつくるな!!」
MSのモニターは、カメラは映した光景をそのまま流しているのではない。
爆煙や小型の隕石、デブリを処理したCGが映し出されているのだ。
だから、ガロードが投げた煙幕弾は普通の煙ではなく、チャフ等のコンピューター対策をした煙なのだ。
196 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 12/14 :2011/04/29(金) 03:04:43.48 ID:???
「ガロード、このまま逃げられるんじゃない?」
想像していたよりも煙幕の広がりが大きい。
ヤクトドーガどころか、トレーラーまで包むほどだ。
「ここは命を賭けるステージじゃないってね!
向こうがココまで必死になってくるんじゃ、俺達も木が引けるしな。
余りモンちょっと失敬しようってのに、最後までやりあって怪我するのは割りに合わなねえ」
トレーラーのブレーキを踏み、レイラと共に森林の中に身一つで飛び出すガロード。
この様な地形に紛れた人をMSで捜すのは非常に困難だ。
まずはココをやり過ごした後で、バイクなりエレカなりを調達した方がよい
トレーラーはとかく大型過ぎた。
「ハッ、ハッ……」
木を陰にしながら、走るガロードとレイラは何度目かの背後確認をした。
ヤクトドーガは自分たちに気づいてない……運動で激しくなる鼓動とは裏腹に、心には安堵が広がっていく。
「え?」
煙が晴れる頃、後ろを振り返る二人の瞳にオレンジ色の光が映る。
それはトレーラーの燃料に火が付き、フィルターやパネルを巻き込んで爆発を起こした光だった。
「なんだよ、結局要らないのかぁ~?!」
必死に追ってくるから返却したというのに、敵はトレーラーごと積み荷を爆発させたらしい。
停止しているトレーラーに人が乗っていないのを確認するのは容易いであろうに、爆発させるのは
腑に落ちない行動ではあったが、逃走を最優先にしているガロードは、それ以上は考えないことにした。
× × × × ×
「くっ……逃げ切れないとみるやトレーラーを爆発させるとはな。腹立たしいヤツらだ!」
ギュネイは眉間に皺を寄せて、煙を上げるトレーラーの残骸を見下ろした。
だが、彼の今日最大の不幸はこの後に起こる。
支部からの緊急通信。慌てて要領を得ない報告をする部下を怒鳴りつけ、内容を耳にしたギュネイは言葉を失った。
「ミサイル攻撃を受けただと……!」
197 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 13/14 :2011/04/29(金) 03:06:41.29 ID:???
【―― 汚名(1)】
ネオジャパンのカラト委員長、そして偶々居合わせたデュオがゼロの代理として
ネオジオン社の支部の一室でギュネイの報告を聞いていた。
攻撃を受けたのは倉庫の方であり、事務仕事を行うビルは全くの無事であった。
「おそらく、あのトレーラーは陽動だったんだろう。トレーラーを追って手薄になった支部に攻撃を仕掛ける、そんな作戦だろう」
「掠奪ではなく破壊というのが気になるが?」
「エネルギープラント計画自体を潰したいんだろう。プラントが完成すれば、治安も回復するし、駐留するMSも増える。
シーバルチャーの活動は難しくなるって訳だ。やつら、傭兵まで雇って本気かもな」
「でもよ、ホントにトレーラーは陽動だったのか?
盗まれたもんって、パネルより除去フィルターの方が多かったんだろ?」
「盗むものは何だってよかったのさ」
デュオは自分の目でトレーラーの残骸を確かめてみたいと考えた。
もし、この思案を実行に映していれば、トレーラーを爆破させたのは設置型の爆弾
つまり、トレーラーの搭乗者ではなく、外部からのビームライフルの狙撃だと判明しただろう。
それもヤクトドーガやノブッシとは逆の、しかも支部からみてもミサイルが飛んできた方向から放たれたものだと。
しかしそれは、革靴の音を立てて乱入してきた男によって、結果的に阻まれてしまう。
「おいおい、あまり私を除け者にしないで欲しいな」
「ジャック=ヘイル……」
「流石にネオジオン社は自由な社風だ。私もギュネイ=ガス"君"ではなくギュネイ=ガスと呼び捨てようか?」
南地区担当のセツルメント国家議会の代表は、図々しく空いていた椅子に音を立てて座った。
その屈強な身体に似合わずお喋りだと、嫌味を続ける男をデュオは盗み見た。
「ま、お茶会の招待状が届かないのはいいんだ。こう見えておしゃべりは苦手でな。
しかしプロジェクトの進行が滞るのは迷惑というものだろう? なあ、カラト委員長?」
「そういう事はキミ達の進行状況がネオジオン社を超えてから言うべきではないかね?」
「ハッハッハ、無能な部下をもって苦労している。
しかしまあ、ソーラーパネルの数が足りないということはない」
「ぐっ……」
倉庫に襲撃を受けたネオジオン社は、ソーラーパネルの数が不足していた。
言葉に詰まるギュネイの代わりに、デュオはジャックに駄目元で交渉する。
「譲ってくれたりは……」
「コチラにも予算がある」
「だと思ったぜ」
「だが、無いならばあるところから持ってくればいいのではないかな?」
簡単に言ってくれる……デュオは呆れた。
自分がジャンク屋のツテで中古市場を探し回って集めたパネルがついさっき駄目になったばかりだ。
そう説明する少年に、ジャックは犬歯を剥き出しにして答えた。
「買うのではなく拾えばいい。捨ててあるものをなぁ?」
「はあ? ソーラーパネルなんてそう簡単に落ちてるもんじゃないだろ」
「廃棄されたコロニーは誰のものでもないだろ?」
198 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.01) 14/14 :2011/04/29(金) 03:09:15.05 ID:???
鼻と鼻が触れあいそうになるような距離で、臭い息を吐きながら、ジャックはデュオに語る。
確かに、廃棄コロニーならば使えるソーラーパネルは大量に残っているだろう。
ゼネコンと癒着した政府が、無計画に新造コロニーを建設するに及んで、廃棄されるコロニーの数は増え続けている。
余談ではあるが、乱造されるコロニーは、建設すること自体が目的になっているために、居住環境が必ずしも良いとは言えない。
「その廃棄コロニーにアテはあるのか?」
「そこまで面倒みきれんな。自分で捜せ」
「ちっ……」
「だが悪くない案ではないかね?」
カラドの言葉に、ギュネイも逡巡する。
ネオジオン社の大型輸送船を使えば、輸送コストも低く抑えられるだろう。
少なくとも、本社に予算の追加を申請するよりはよい。
「失礼します!」
入室したネオジオン社の若い社員は、ジャックの視線に些か竦んだが、ギュネイに促されて報告を続けた。
「デスサイズHの修理は完了しました」
「悪ぃな。やっぱ代金払おうか?」
「要らん。……どうした、まだ報告があるか?」
社員が下がらないのを見て、ギュネイが顎で続きを促す。
「あ、はい。侵入者の姿が監視カメラに写っていたようです」
「見せろ」
備え付けのモニターに映像記録メディアを挿入すると、あまり鮮明とは言い難い映像が映し出される。
そこには黒髪の強気そうな顔立ちをした少女と、同じぐらいの歳の少年の後ろ姿があった。
「ッ!?」
気のないフリでモニターを眺める演技をしながら、デュオは心の底で親友の名前を叫んだ。
赤いジャケットの少年なんて世の中には何千、何万といるだろう。
彼と同じジャンク屋仲間であるジュドーもそうだ。
だから他の人間には、その少年の正体はわかるまい。
ただデュオだけが、身のこなしや雰囲気が良く知っている親友のものであると気づいたのだ。
(何やってんだ、ガロード!?)
最終更新:2015年02月17日 22:42