431 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 1/14 :2011/05/04(水) 08:29:31.61 ID:???
【―― 彗星】
「御協力、感謝します。ディアナ陛下、マリア女王」
「後の事はシャア社長にお任せいたします。ギンガナムが暴走しないよう、その手綱をよしなに」
「は、は、は……陛下は無理難題をおっしゃる。
それに今回のような件には、ギンガナムほどの覇気が合った方が良いと考えます」
ネオジオン社の社長室で、シャア=アズナブルは月の女王ディアナ=ソレルと
ザンスカール帝国の女王マリア=ピァ=アーモニアを相手に、モニター越しの交渉を行っていた。
「そのジャック=ヘイルという男、邪念と情念に取りつかれたのでしょう。
シャア社長、貴方が人類のあるべき姿を導いてください」
「女王、それを行うのは老人ではありません。私は、若者達の力添えをしただけです」
秘書であるナナイが現れたのを期に、シャアは王女達との通信を切り、彼女が持ってきた書類に目を通した。
それはトレーズが代表を務めるロームフェラ財団が、オーストラリアのプラント再建に関し
セツルメント国家議会に変わって参加することへの、推薦状が欲しいという内容である。
中々抜け目ない男だと、シャアは感心する。
今回の事件で、自律型AIを搭載したロボットへの風当たりは強くなるだろう。
ネオジオン社のモビルシチズンの売り上げにも影響が出ないとは言い切れない。
そこで、ロームフェラが持つMDをオーストラリア再興に従事することで、MWとの差を明確にしたいという腹積もりだろう。
もちろん、エネルギープラント完成後の利権も狙っているのだから、一石二鳥の一手と言うべきである。
「流石はトレーズ=クシュリナーダだ。戦いとは常に二手、三手先を読むものだな」
かく言うシャア自身も、プリベンター01・ヒイロ=ユイからセツルメント国家議会の企みを聞いた時
宇宙にいるジャック=ヘイル自身が、MW停止の鍵となる可能性を考え
ザンスカール帝国が所有するエンジェルハイロゥを滑走路に転用し、地球に最速で帰還するという奇策を立案した。
ただしエンジェルハイロゥを移動させるための核パルスエンジンがザンスカール本国にしかなかったために
近くに駐留していたギンガナム艦隊の協力を得る為、ムーンレイスとも交渉が必要になったのである。
ゼブラゾーンは月の裏側にあるので、ギンガナム艦隊で足りなければディアナ親衛隊を借り受けることもできる。
「しかし今回の件、手痛い出費となりましたね」
ナナイは有能な秘書の顔を崩さずに、呟いた。
実際に出した損害額だけではなく、ムーンレイスやザンスカールに借りを作った事もネオジオン社には芳しくない結果だ。
シャアはその発言の中に、ギュネイに仕事を任せるのは早すぎたのではないかという彼女の含みを感じ取った。
「幹部の養成には金がかかるものだ。これぐらいは仕方あるまい」
高級革の椅子に身体を預け、シャアはナナイから視線を外した。
ギレン=ザビからこの椅子を受け継いだ時は、社長室の華美な(それでいてジオン独特の奇抜な)装飾に辟易したものだ。
執拗に社長室だけを狙うマフティーのお陰で、自分好みの部屋に作り替えることができたことだけは彼に感謝したい。
シャアは思考の脇でそんな事を考え、瞳を閉じながら会話を続けた。
「私の失敗なのだ。私は人を使うのが上手ではない」
「そんなことはありません。現にネオジオン社の社長ではありませんか」
「育て方が下手と言うべきかな? 私自身、ラルの元を飛び出してからは人並みな親というものを知らないからな。
一人で生きてきたツケだろう。自分が誰かに育てて貰った記憶が無いのだから、どうしても手探りになる」
シャアはそこで一旦言葉を句切ると、手を胸の位置で握り合わせ、その切れ長の目でナナイを見上げた。
芝居がかった仕草だが、シャアという男はそれが妙に様になる。
この男の半生そのものが芝居であったからかも知れない。
「私を助けてくれるな? ナナイ」
「はい、社長」
その答えに満足気に頷きながら、シャアは部屋の時計を見た。
そろそろエンジェルハイロゥがギュネイの元に届くころだろうか――
432 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 2/14 :2011/05/04(水) 08:30:57.27 ID:???
【―― 流星】
エンジェルハイロゥは地球への突入角度調整の為、ゼブラゾーン宙域を離れていた。
その間、地球へ向かうパイロットは休憩を、MSは修理・整備を受け、天使の輪の中でその身を癒している。
「カタギリ! 少年達の
ガンダムの修理は終わったか!!」
「応急処置だけどね。修理は終わったよ、グラハ…今はミスターブシドーだっけ?」
そんなエンジェルハイロゥを我が物顔で闊歩するグラハ…
「私は謎の正義の味方、ミスターブシドー! 決してグラハム=エーカー警視正ではない!! ブシドーだと言った!」
「あの人なんでいるの?」
「闘争を望むサムライだからに決まってんだろぉぉがぁ!!」
「うむ。機械による戦いなど言語道断! 機械などに戦いの先にある高みを掴むことなど不可能!!」
「魂ィィィィィィ!!!!」
「げぇ、コッチにもなんか居た!?」
ギンガナム、ミスターブシドー、
呂布トールギスという
フォアグラのソテーにトルコアイスを乗せて上から麻婆豆腐をぶっかけるような組み合わせに
ガロード達は放置を決め込んだ。正しい対処法だ。
彼らに逐一ツッコミを入れるだけの力があれば、オーラロードが開けるだろう。
敢えてフォローするならば、グラハムは警察として動けないトキオの気持ちを汲んで
ミスターブシドーの仮面を被ってゼブラゾーンへ駆け付けようとしていた矢先に、ギンガナムに拾われたという事情があったりするが。
逆に呂布トールギスなどは、ジャックの依頼でオーストラリアでデュオと戦いながら
今度はデュオの味方として地球に降りてMWレイと戦おうとしている。その姿は、戦争狂としての凄味を持っているとも言える。
ギンガナムは言葉とは裏腹に、ディアナ=ソレルにお褒めの言葉を頂きたいだけの番犬である。
「うー…相棒、今回だけはその頭で我慢してくれよな」
「ガンダムにジオン系MSの頭が付けられるのはある意味、伝統かも知れませんね」
「カトル、下手なフォローは無言よりも人を傷つけるんだぜ?」
「……ダサッ」
「だからと言って真実を告げればいいという訳ではないぞ、レイラ=ラギオール」
破壊されたデスサイズHの頭は、代わりに量産型ハンマハンマの顔が付けられていた。
エンジェルハイロゥに合流したプリベンター03・トロワ=バートンとプリベンター04・カトル=ラバーバ=ウィナーの二名は
上記のサムライ三人衆に比べて遙かに常識人である。多分。きっと。おそらくは。
「アレ? ヒイロは」
「キラの手伝いをしている」
カミーユの登場によってハッキングの痕跡を消す時間を失ったキラは、
敢えてネット上を逃げ回ることで自分が特定されるのを防いでいた。
同じ頃、MW計画について探っていたヒイロは、キラが同じセツルメント国家議会について調べていた事に気付いた。
そして、セツルメント国家議会軍の諜報部が躍起になってキラを追っている間に、
自分がキラの痕跡を消すことを提案、その作業に従事している。
その為、プリベンター01であるヒイロは本作戦に不在であった。
「五飛やゼクスさんもプリベンターなんだよな? なんで居ないんだ、デュオ」
「あの面子に五飛入れたら面倒くさいだろ」
< 絶好調であぁぁぁる!!
< 武士道とは死ぬことと見つけたりぃ!!
< 魂ぃぃぃ!!!
「あぁ……うん……」
「いや、納得するなよ。ヒデェ奴だな」
433 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 3/14 :2011/05/04(水) 08:32:20.51 ID:???
「今日は
五飛と妹蘭さんの結婚記念日なんですよ。ですから、五飛にはこの件は知らせていません」
「知らせれば、妹蘭が五飛を送り出してくるだろうからな……」
「"記念日の為に正義を為さない夫など持ったつもりはない!!"とか言われてな!」
「ええ!? デュオ、トロワ、そんな風に思っていたのかい!?」
全く性格が異なるガンダムパイロット達だが、集まると軽妙な会話を繰り広げ楽しませてくれる。
それも付き合いの長さか、あるいはガンダムパイロットという職種(?)だからだろうか。
流石はヒイロの仲間だ、とガロードは変なところで感心した。
そんな事を口に出したら、「お前の兄弟の方がよっぽどだろ」とデュオはツッコミを入れるだろう。
「じゃあさ、ゼクスは?」
「子安が二人いるのも面倒だろう?」
「トロワ、時々君の事がわからないよ……」
宇宙の心がゼクス不在の理由を伝える中、ガロードに対してパイロットスーツが投げ渡される。
大気圏突入で万が一の事故があった時、パイロットスーツがあるとないとでは、生還率が異なる。
いつもの服装でガンダムに乗りこもうとしているガロードとプリベンター02~04にパイロットスーツを与えたのは
ガロードやデュオのジャンク仲間にして、ミスターブシ…グラハムの生息地である銭湯『サテリコン』の看板娘、パーラ=シスであった。
ちなみにサテリコンでのグラハムとの遭遇率はトキワの森でキャタピーorビートルと出逢う程度である。
「感謝しろよー。サテリコン放っぽり出してまで駆けつけてやったんだからな。
今頃シンのヤツ、一人でてんてこ舞いだぜ?」
「グラハム警視正がココに居るんだから、いつもより仕事楽なんじゃねーの、シン兄」
「あー…確かに」
「私はグラハムではない! ブシドーだ!!」
Gファルコンと合体することで、DXは安定して大気圏を突破する事ができる。
聞けばパーラにエンジェルハイロゥに向かうよう要請したのは、ヒイロであるらしい。
ガロードは兄弟達の心遣いに深く感謝した。
× × × × ×
「んじゃま、さっさと行きますか。なんかプリベンターと被ってる組織があるみたいだし? 負けてらんねーよな」
「素直じゃありませんね。ゼロ=ムラサメの事を助けたいんでしょう?」
「ふ……オペレーションメテオはやはりこうあるべきだ」
三機のガンダムはエンジェルハイロゥを滑走し、地球へ向かう赤い弾丸と化した。
次いで、DX・Gファルコンとシルエットガンダム改がカタパルトに足を固定する。
シルエットガンダム改はミスターハムドーが借りてきたトキオが使っているものである。無論、無許可である。
「無茶すんなよレイラ。MSでの大気圏突入なんて初めてなんだろ?
それに、相手はMWの大軍だ。こっちにお前をフォローする余裕があるかどうか……」
「元はと言えば私が泥棒しちゃったせいでもあるし、頑張るよ。心配しないで!」
「ガロードぉ、ティファに言いつけるぞ~」
「ええっ? 何を?!」
パーラを問い糾そうとしたガロードだったが、リーアムのカウントダウンに遮られた。
彼のカウントが0になると同時に、強烈な加速Gがガロード達を襲う。
宇宙に点々と燦めく星達が、細い銀の糸になったかと思うと、次の瞬間にはその輝きすら黒と混じり合っていく。
灰色の空間の中でただ一つ、青い、青い、母なる星がガロード達の目の前に両手を拡げ待っていた。
434 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 4/14 :2011/05/04(水) 08:33:55.35 ID:???
「振り落とされるなよ」
「お前こそ突入角を間違うなよ」
ウェイブライダーの上に乗ったヤクトドーガの中で、ギュネイはふて腐れた顔を隠しもしなかった。
ヤクトドーガに大気圏突入能力がない為、ウェイブライダーをフライングアーマー代わりにして大気圏を突入することになった。
ギンガナム艦隊のMSは自前のバリュートを用意しているが、ネオジオン社のギラドーガやネオジャパンのノブッシの分までは
流石に用意されてはいなかった。しかしギュネイは黙って宇宙で待っていることもできず
その為、こういう手段をとることになったのだが、どうにもカミーユとギュネイは相性が悪い。
ギュネイにはカミーユがシャアに目をかけられていることへの嫉妬もあったし、単純に苛立ってもいた。
ジャックに良い様に騙されて、その後始末をシャアに任せてしまった事への、自身への苛立ちだ。
その不機嫌な姿を温かく見守れるような懐の広さは、カミーユにはない。このカミーユは劇場版仕様ではないらしい。
だいたい、カミーユの方もこの「自分から
強化人間に志願した」ギュネイという人間が好きにはなれないのだ。
『カウントダウン、10、9、8、7……』
「ギュネイ=ガス、出r「カミーユ、いっきまーす!!」
伝統のセリフを被せられたギュネイ。言い返そうにもGを受けている間に口を開くのは、舌を噛む危険がある為できない。
君は地味な嫌がらせから生き残ることができるか?
「次は我々だな」
「地球侵攻作戦はこぉでなくてはなぁ!!」
『侵攻ではありませんよ?』
「戦が俺を呼ぶのだぁぁぁ!!」
『君はMSに乗らなくていいのかい?』
無理矢理グラハムに連れてこられたビリー=カタギリが、明らかにスケールが違う一体に対して疑問を投げかけた。
呂布は、その3頭身の体型でMSに乗ることができるらしい。(参考Gジェネワールド)
しかし乗ってみたものの、やはり生身の方が戦の匂いを肌で感じることができると言うのは呂布の談。
それに感銘を受けた銃刀法違反のサムライモドキ二人が「自分もと」MSから降りようとしているのを
カタギリとリーアムはなんとか押し止めて、三人を地球へと飛ばした。
× × × × ×
「うわー……本当に生身で大気圏突入しているよ」
「コーディネーター以上に謎の生命体ですね……」
ギンガナムに続いてマヒロー部隊も射出し終わり、カタギリとリーアムは管制室でブレイクタイムに入っていた。
と、ビリーのドーナッツを横からメリーベルが奪う。
「あれ? 君はギンガナム隊の副将じゃなかったっけ?」
「機械の相手なんてしてらんないよ。どうしてもっていうんなら、コレ食べ終わってから出撃するけど?」
「やれやれ。これでも撲は飲まず食わずで仕事していたんだよ? 盗るなら彼のドーナッツにしてくれないかな」
「私だって無報酬で仕事してますよ。ロウといいガロードといい、全く予測が付かない人達ですね。全く、ナチュラルとは興味深い」
436 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 5/14 :2011/05/04(水) 08:57:07.25 ID:???
リーアムはコーヒーを口に含むと、モニターに映る地図を見る。
ギンガナム達を示す点滅が大気圏と重なっている。
「そういえば驚きましたよ」
「なにがだい?」
「バリュート無しでもスサノオには大気圏突入能力があるんですね」
「え?」
「え?」
ミスターグラハムのスサノオの位置を示す点滅が、大気圏の位置で一層輝いている。
「………」
「………」
「あるんですよね、大気圏突入能力?」
「メリーベル君、こっちのチョコドーナッツもお勧めだよ」
「へえ、このモッチリさ、米粉じゃないか」
「カタギリさん?」
「………」
「無いんですか?」
「………ひゅ~ひゅぅ~」
吹けない口笛を吹いて誤魔化そうとするビリー=カタギリ、三十代。
そんな大人気ない大人に、視線を送り続けるリーアム=ガーフィールド、二十代。
カタギリは観念したように、うっかりスサノオに大気圏突入能力がないままグラハムを送り出したことを認めた。
「ま、いっか。グラハムだし」
そして開き直った。Rっていったい何なんでしょうね?撲もこう、楽しみに考えていたりします。
【―― 集合】
上空から急接近する無数の物体に、MWレイと一進一退の攻防を繰り広げるシーブック達は部隊を撤退させた。
最初は警告だけのアラームが、その物体がMSであることを告げる。
すわ敵か!?とライフルを構えたシーブック達だったが、彼らはシーブック達に目もくれず、MWレイの群に着地した。
イルミナーティが現れてから、現地に残ったセツルメント国家議会のスタッフはMWレイの目標を『同軍のMS以外全て』に設定していた。
故に、MW達は降下してきた正体不明のMSに問答無用で攻撃を仕掛ける。が、その攻撃は避けられたり、効かなかったり……つまり無駄であった。
それだけでも、この謎の集団がMSパイロットとして相当の技量であると、外から観察していたシーブックには分かった。
というか、その内の一機が空中で三回転半ひねりをするという非常識っぷりだったので、彼らの正体について想像が付いた。
「あ、そうそう説明し忘れてたけど、ジャックのオッサンは簀巻きにしてDXのコクピットに置いてるから」
「いきなり何言ってんだ、ガロード」
「ちょっと三次元人に説明」
「むがっ…むがっ…」
布で猿轡を作って填めているのでジャックは喋ることもできない。
この状態で大気圏突入させられて、ジャックはちょっとチビった。
437 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 6/14 :2011/05/04(水) 08:59:50.13 ID:???
「ガロードッ!? お前までいるのか!?」
「へ……?」
「アイツ、有名なクロスボーンバンガード!」
「キンケドゥと知り合いなのか、ガロード」
うっかり弟の名前を呼んだシーブックは、海賊仲間達に咎められた。
イルミナーティが戦いに参加しているという情報は入っていたが、クロスボーンバンガードまで居るとはガロード達は予測できなかった。
それはシーブックやフリッペ達も同じである。
まさか援軍が、それもゼブラゾーンに向かった連中がギンガナム艦隊と共に現れるとはどうして予測できよう。
「い、いや、DXといえばガンダム兄弟のガロードだからな」
「俺ってもしかして有名人?」
「お前じゃなくてDXが有名なんだろ」
カミーユのΖまでいることにシーブックは更に驚いたが、
彼らから、MWレイの停止にはジャックが必要という説明を受けてシーブックは頷いた。
皆がここにやってきた経緯など後で知ればいい。今必要なことは、この戦いを終わらせる手段だ。
「了解した。DXの道を作るのに、俺達クロスボーンバンガードも協力する」
「ホントはこういうロボット相手にこそサテライトキャノンを使えたらいいんだけどな」
「せっかく設置したエネルギープラントまで巻き込んでしまうぞ」
「イルミナーティとクロスボーンの皆さんがここまで頑張ってくれたみたいですし……
僕達が尻込みするわけにはいきません! この大地に必要ないんだ、兵器なんて!!」
「俺は俺の魂が震えればそれでいいっ!!」
「このターンXの力を、機械如きが引き出せるか試してやろうというんだよ、兄弟!」
「ダメじゃないかキンケドゥ! お前はキンケドゥなんだぞ? 正体がバレそうになっちゃいけないだろぉ!!」
「ガンダムさえ手に入れれば大佐だって……っ!」
「お前ら待てよ! そんなことをするから、ツッコミが追いつかなくなるんだろ!!」
まとまりのない集団に、このオーストラリアの住人であるゼロは呆気にとられていた。
さっきまで半壊のMk-Ⅱでドの付く程シリアスにやっていた筈なのに、どうしてこうなったのか……
主に御大将とブシドー警視正のせいな気がするが、気にするな、俺は気にしない。
「こういう連中だ、気にするな」
「って、キンケドゥさんだって人のセリフ盗ってましたよね?
隙あれば自分だってボケに回りたいんじゃないんですか?」
「海賊らしく、名台詞も頂いていく!(キリッ」
「貴方はツッコミだ! ツッコミで充分だ!」
「……なんなんだ、お前達」
「愉快な連中じゃないか、HAHAHA」
軽快に言葉を交わしながらも、戦士達は次々とMWレイを刈っていく。
形勢は明らかに逆転しはじめた。それがキンケドゥですら、こんな態度を取り始めた理由かとゼロは解釈した。
真実は微妙に異なる。
仮に援軍が到着して尚、形勢に変化が無かったとしても……キンケドゥ――シーブックの態度は軟化し
こんなノリになってしまっただろう。それは、仲間が、家族が共にいるという安心感がそうさせるのだ。
ゼロが、共に暮らすレイラや子供達に戦士の面を見せずに、不器用な微笑みを向けるように。
438 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 7/14 :2011/05/04(水) 09:01:29.27 ID:???
【―― 我道】
クロスボーンガンダム1号機と2号機が、螺旋状の軌道を描きながらMWレイ部隊を蹴散らしていく。
「キンケドゥ、コンビネーションでケリをつけるぞ。DXに道を造らなければいけないからなぁ!」
「ザビーネ、お前とコンビネーションとはな!」
「ミュージックに合わせて戦うんだ!」
< ふたりはっ♪ プリキュッア♪ プリティでっ♪ キュアキュッア♪
「……どうしてもやらなきゃダメなのか!?」
× × × × ×
シンクロした動きでMWレイを撃破していく白黒のクロスボーンガンダムに対し
他人のフリをしようと心に決めた3号機・トビアはガンダムサンドロック改と並び立つ。
マントを靡かせる二体のガンダムは、共に鉄壁と突破力を誇る機体だ。
脅威の耐久力のABCマントや装甲で、向かい来る敵の銃弾をモノともせずに直進する。
「ずりゃあっ!!」
「はあっ!!」
ビームザンバーとヒートショーテルで豪快に敵を切り裂いていく。
こんな戦法をとっているのが、優しさと賢明さを形にしたような少年達だとは誰も思わないだろう。
「いくよゼロ!」
「機械共、ボクが恐怖を教えてやるよ!!」
X3号機とサンドロックの背後から、Mk-Ⅱに肩を貸したシルエット改が飛び出す。
両機はMWレイにビームライフルの照準を定め、次々に撃ち落としていった。
堅牢な二機を盾にした有効な戦術だ。そしてこの戦い方こそ、トビアとカトルの本質である。
ただ一途に、守るべきモノの為に傷つくことを恐れずに進める強さ、
同じように自機の損傷を気にせずに進むことができても、この少年達とMWとはその一歩の重さが全く違う。
× × × × ×
機械には思念がない。その為にファンネルの狙いを定めるのがいつもより難しく感じる。
ギュネイは戦いの中で、ファンネルで相手を撃破することよりも、
自分の周りに待機させて弾幕を張る砲台として使う戦術を選んだ。
「ハッ……どうやら俺はファンネルに頼りすぎていたみたいだな」
「便利すぎる機械は人間から想像を奪う。しかし機械とは本来、人間の動作の延長に存在するものだ」
足の代わりに車という
移動手段が生まれたように、目と脳の代わりにカメラという記録手段が生まれたように。
その最たるものが人型の機械・MSである。
故に……MWレイは(やや奇形ではあるが)人型から脱することができてない時点で
人を越えた兵器を作るというMW計画は達成されることはないのだ。
「ジャック=ヘイルのような男ではMWを使いこなすことはできない。
だが、それを使いこなすことができるような人間はMWを選ばない」
439 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 8/14 :2011/05/04(水) 09:02:35.32 ID:???
トロワはガンダムヘビーアームズ改のミサイルをばらまいた。
彼の重厚な闘志を顕すように、朱色のガンダムは火薬の匂いを漂わせながら鉄屑を作っていく。
× × × × ×
急上昇するウェイブライダーを3機のMWレイが追跡している。
そのまま他の味方機と連携してウェイブライダーを追いつめる作戦だ。
ウェイブライダーは別方向から接近するMWレイの攻撃から逃れる為に旋回する。
速度を落としたウェイブライダーにMWレイは接近し、有効射程距離からライフルを放つ。
それでこのミッションは終わる筈だった。
しかしMWレイのカメラが捕らえたのは、ライフルの銃口が輝くより早く回避行動を取るウェイブライダーの姿だ。
そしてそれが最後の映像になる。
真上からフリッペがビームライフルで彼らを撃ち抜いたからだ。
「大した操縦テクだ。イルミナーティにスカウトしたいくらいだな!」
MWレイは味方がやられたことにも、敵が強襲してきたことにも動揺せず、ただフィリッペのイリュージョンに向かって攻撃する。
しかしいくら機械による正確無比な射撃とはいえ、単調な正面攻撃では歴戦の兵であるフィリッペに当てることはできない。
ましてイリュージョンは、そういった精鋭に支給される軽量化を極めたMSだ。
紙のような装甲と引き替えに圧倒的な機動力を手に入れ、敵の攻撃を回避するという設計思想で製造された。
その機動力は人型の状態でウェイブライダーに並走するほどだ。
華麗にステップを踏んで攻撃を回避し続けるフィリッペに気を取られたMWレイ達は、今度はカミーユによって撃破された。
「もしかしてボクのアドバイスも要らなかったかい?」
「いえ、助かりました」
フィリッペのイリュージョンは五体満足で戦場に残っているとはいえ、
MWレイの正確な攻撃と圧倒的な物量の前に、イルミナーティのイリュージョン部隊も何機か落とされている。
落とされたからこそ、MWレイのパターンを見つけ、先手を取ることができる。
それがMWレイと初めて戦うカミーユであっても、彼に"伝える"ことができる。
血の通わないデータではなく、体感を通して整理された経験を継承することができるのは人間の特権だ。
「カミーユ、君の腕を見込んで試したいことがあるんだ。頭でっかちのMWを転ばせてやるのさ」
「これが終わったらガロードに説教してやらないといけないんです。
その分の体力を残してくれる作戦なら、喜んで参加しますよ!」
最速の二機はMW達を手玉に取って翻弄し続ける。
× × × × ×
レーダーに敵機の反応がある。それに従い、MWレイは銃口を向ける。
しかしそこにあるのはクィンマンサの残骸だ。シナプスが搭乗していたクィンマンサは、ブグと同じく味方機として登録されている。
と、レーダーから反応が消えた。機体の故障かとチェックを行うが、レーダーは正常に稼働している。
機械は機械を疑うことはしない。今、レーダーに反応が無いのであれば先程の反応の方が誤作動であったのだ。
MWレイはそう結論づけ、ライフルを落とした。自分たちのデータの元であるシナプスに何の感慨も持っていないらしい。
「死ぬぜぇ……俺の姿を見た奴は、みんな死んじまうぜぇ!」
440 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 9/14 :2011/05/04(水) 09:05:09.32 ID:???
MWレイのモニターにデスサイズHの姿が映る。しかし、レーダーにはMSの反応が無いままだ。
信頼する機械が相反するデータを提示する。その異常事態に、MWは対処することができない。
棒立ちのまま、MWレイはデスサイズHのツインビームサイズに細切れにされた。
「飛べ! ガロード!!」
ハイパージャマーによって計器を狂わせるデスサイズHは、MWの天敵であった。
死神とは思えない身軽さで続け様にMWを斬り捨てていくデュオは
オーストラリア南地区にあるセツルメント国家議会の基地へと飛ぶDXへ、エールを送った。
仲間が切り開いてくれる道、それがガロードの走る道だ。
【―― 大鋼】
Gファルコンのミサイルが地上のMWレイを、DXのビームライフルが空中のMWレイを狙う。
合体MSの利点を最大に生かし、ガロードとパーラは無数に群がる敵を切り抜け、
セツルメント国家議会の基地を眼下に捉えた。
「MWレイだけじゃなく、普通のMSブグも守ってやがるのか! 流石に本陣の守りは堅いってやつ!?」
だけでなく、基地の固定砲台もDX向かって火を噴く。
その牙城を崩すには、DX一機では困難だ。
ガロードが回避運動に徹しながら、パーラが拡散ビーム砲で砲台を潰していくが状況の打開には至らない。
「ガロード、後ろから追っかけてくるぜ。挟み撃ちにされちまう!」
「くそっ……」
「げ、なんだアレ!?」
セツルメント国家議会の基地の地下から迫り上がってきたのは
大型拠点防衛ユニットである『ガーダー(Lv8)』だ。
砲台の癖に拡散メガ粒子砲とビット兵器を持ち、その数多くの戦艦・MSを沈めてきたという
安心と信頼の実績から、Gジェネウォーズで復活したときは「ガーダーさん! ガーダーさんじゃないか!」とまで
プレイヤーに言わしめた、「コロニーレーザーだけは勘弁な!」な究極兵器である。
「反則だろ、ソレ!?」
合体したままのDXは小回りが効かず、ガーダーさんのクルージングビットに被弾してしまう。
さらに一欠片の容赦もなく、スプレービームシャワーを降らせるガーダーさん。
Gファルコンの翼が欠け、DXのフロントスカートが焼けきれる。
たまらずガロードとパーラは、ドッキングを解除した。
「パーラ、お前はここから離脱しろ。戦闘機じゃ無理だ」
「何言ってんだガロード! DXだけでここに残って何ができるんだよ!!」
「だけど……うっ!?」
DXにMWレイが組み付く。そうして身動きが取れなくなった所に、ガーダーのメガハイスコアが牙を剥く。
機械であるが故に、MWは自己を犠牲にする戦法がとれるのだ。
「くっ……そうぉ!! マイクロウェーブ!!」
ガロードはGコンでサテライトシステムを起動した。
月の送電施設から送られてくるエネルギーによって発生する力場が、DXに組み付いたMWレイを吹き飛ばす。
間一髪、DXはバーニアを吹かせ、ガーダーの攻撃を回避する。
高出力のビーム砲を使ったガーダーは冷却の為に一時機能が停止し、無防備になる。
しかしブグの相手をするガロードには、その隙を見つけても攻撃する手段がなかった。
「ここまできて、通行止めかよ!」
442 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 10/14 :2011/05/04(水) 09:17:52.82 ID:???
「ならばその道、私がこじ開ける!!」
「何ッ!?」
「斬り捨てぇぇぇ御免ンン!!」
ガーダーの砲身に白刃が突き刺さる。
紅色に燃えさかる機体に跨り、戦野に降り立つその男の名は!男の名は!男の名は!(今川マジンガー風)
「あえて言わせて貰おう、ミスターブシドー推参であるとッ!!」
「赤い!?」
「トランザムじゃないのに赤い!?」
説明しよう!
大気圏突入能力がないスサノオは、そのまま燃え尽きる筈であった!
しかしこのスサノオ、元はフラッグであるのが
デビルガンダム細胞によって進化した機体だ!
デビルガンダム細胞とは、自己進化、自己再生、自己増殖の三大理論を備えた金属である!
そう、自己進化だ! 生命の危機は進化を促す起点となりうる!
かつてこの地球で、猛毒であった酸素に適合し、生命が進化したように!
死の危機に瀕したスサノオと、このままでは死にきれないというグラハムの暑苦しさが混じり合った結果
スサノオは大気圏突入能力と同時に、大気圏の熱を吸収してパワーアップしたのだ!!
その結果、外見も黒から赤へと変化した。
「まさに、烈火スサノオである!!」
仮面をしているのにドヤ顔しているのが伝わってくる男に、しかし今回ばかりは感謝だ。
「少年、ここは私に任せて進みたまえ!」
「おっさん一人でかよ」
「いや、おっさんだけじゃないみたいだぜ、ガロード」
パーラが示した先では、ギャグ時空の如く大地が剔れ、MWレイが五体満足で吹き飛ばされていく。
その原因は二つの白い暴走機関車によるものだ。
「これが、シャイニングフィンガーというものかぁぁぁぁ!!」
「旋風爆裂衝ォォォォォォォォォ!!!」
ガロードは頷き、ジャックを連れて基地の中へと降り立った。
443 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 11/14 :2011/05/04(水) 09:18:44.16 ID:???
【―― 走!】
冷たいコンクリートの壁に身を預けながら、ガロードはポケットのガムを噛んだ。
隣のジャックにガムを差し出すが、彼は受け取ろうともしない。
BGMとして流れている銃弾の音は、未だ止む気配がなかった。
「ふっはははは……」
「あんだよオッサン、いきなり笑い出して」
「まさか私が切り捨てられる側になるとはな!」
ジャックを人質に基地を進んでいたガロードだったが、
目的地のMWのコントロール室を目前としたところで銃撃を受けた。
セツルメント国家議会の兵士は、ジャックごとガロードを葬りさるつもりらしい。
もしMWがこのまま勝利するならば、停止権限をもつジャックは弱点にしかならず
逆にイルミナーティらによってMWが破れるならば、責任は全てジャックに押しつける
そのどちらの結果になるにしろ、ジャックは用済みとセツルメント国家議会は――彼の上司のガーノーは判断したのだ。
「どうした? 殺せよ!」
「アンタが居ないとMWを停止できないだろ」
「指紋と眼球なら生きていなくても問題ないだろうさ! 声紋だって録音すればいい!
キーワードはネクストレイブンだ! どうだ、これでお前に俺を生かす理由はない!」
曲がり角に隠れてガロードは様子を伺っていたが、隣のジャックは見捨てられて自棄を起こしている。
そんな大人の態度に、ガロードは胸ぐらを掴んで答えた。
「理由ならある。アンタにはレイラやゼロに謝ってもらわなきゃいけないんだからな!
アンタが生きるつもりがなくても、俺は絶対アンタを殺させやしない! わかったか!」
自分より一回り以上も年下の男に気圧され、ジャックは口を噤んだ。
時を同じくして、銃撃に間が空く。弾切れだ。
ガロードはすかさず角からグレネードを投げ込んだ。
「走れよ、オッサン! アンタのやったこと、これっぽっちも理解できないし、許せねえけど
こんな形で止めるんじゃねえ! 最後まで走りきってもらうからな」
「軍事裁判の椅子が私のゴールだと言うのか……」
のっそりとジャックは立ちあがると、ガロードに続いて黒煙で溢れる廊下へと飛びこんだ。
× × × × ×
ガロードは長兄に技術者を持ち、自身もジャンク屋を営むだけに、メカには多少自信があった。
しかし、流石に一国家の最高軍事機密を扱うスーパーコンピューターは対象外だ。
これを扱えるのは自分の兄弟の中ではヒイロかキラぐらいなものだろうと、突入したコンピューター管制室を眺め、彼は思った。
ジャックの方は勝手知ったるなんとやらというもので、メインコンピューターのコンソロールを認めると、認証システムを作動させた。
眼球、指紋、声紋を確認したコンピューターは、MWレイへの最上級命令権のロックを解除する。
モニターに映るMWレイの戦闘プログラムの設定画面を確認し、ガロードは管制室にいた人間を縛りながら指示した。
「MWレイの活動を停止、オッケー?」
「了解だ。オーバー」
諦めたように、ジャックはコンピューターのキーボードを叩く。
別画面の戦場カメラの中で、MWレイは糸の切れた操り人形のように力なく停止した。
「やったぜ!」
MWレイ停止に喜ぶガロードは、ジャックが隠れて別のボタンを動かしていることに気付いていなかった。
444 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 12/14 :2011/05/04(水) 09:20:38.43 ID:???
「問題はここからの脱出か。管制室に籠もって、デュオ達が来るのを待つってのは……」
ロックされたドアが熱を持っている。外から壁をレーザーバーナーで切断しているのだろう。
ガロードは籠城案をすぐさま放棄した。だが、それに変わる名案が浮かぶわけではない。
彼は戦闘のプロフェッショナルではないのだ。
「あーもう! ヤバいって! こんな銃一個じゃハチの巣にされちまう! どうにかしないと……」
「バカかお前は」
「なんだよオッサン、良い案があるっての?」
「武器なら連中のよりも良い物が、ここにあるだろう」
「へ?」
首を傾げるガロードと、管制室の重たい扉がぶち抜かれたのは同時だった。
セツルメント国家議会の兵士が、隊列を整えてマシンガンをガロード達へ向ける。
「ファイエル!」と指揮官らしき男が斉射を指示する。火を噴いた銃口に、ガロードは思わず目を瞑ったが……
「あれ? 生きてる……」
ガロードとジャックは巨大な鉄の腕に守られていた。
ジャックの命令で、基地に残っていたMWレイが、管制室の壁を破壊して腕を伸ばしたのだ。
MWレイは肩部機関砲で、歩兵部隊に攻撃を行う。
機関砲は対MSにも使える武器であり、人に向けるには凶悪すぎた。
「おい、オッサンやりすぎじゃ……ぐえっ!?」
咎めようとしたガロードの鳩尾に、ジャックの拳がめり込む。
ガロードは瓦礫と共に、管制室の床に崩れ落ちた。
「一つ良いことを教えておこうか、ガロード。
レイは無人機のMWとは別に有人機、つまりMSとして設計されたバージョンが存在する。
MWを統率するための指揮官機としてのMSレイがな!!」
ジャックを回収するようプログラムされたMWレイが、彼を手のひらに乗せる。
「残っていたMWレイに私のMSレイに随伴するようにプログラムを入れた。
これを手土産に、私は亡命するよ。MWの技術を欲しがるところは少なくないからな!
ありがとう、ガロード。確かに大切だなぁ、諦めずに走るということは!!」
「く……まだ、プログラムなら変更すれば……」
MWレイの機関砲が管制室のコンピューターに向けられる。
その場にいた兵士やガロードは耳を劈くような轟音に思わず顔を顰め、瓦礫から身を守るように頭を抱える。
砲声が止み、顔を見上げた時にはMWレイの姿はなく、コンピューターの残骸が火花を散らしていた。
446 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 13/14 :2011/05/04(水) 09:22:20.97 ID:???
【―― 奪還】
MWレイが停止したことによって、デュオ達の仕事は僅かに抵抗をつづけるMSブグを掃討することになっていた。
デュオがカミーユにガロードの応援に向かうよう提案していた所で、戦闘区域を離脱しようとする集団を見つけた。
それがブグであれば逃げるに任せていたかも知れない。しかし、その機体は先程まで戦っていたレイであった。
「どういう事だ? MWは停止したんじゃないのか!」
機動力に優れたイリュージョンが、警戒しながらレイを追跡する。
刹那、追跡されたと気付いたレイがミサイルランチャーで応戦した。
「ちっ……目敏い連中だ」
「その声、ジャックか!」
急旋回とホバリングを織り交ぜて、ミサイルをかわしたフィリッペ。
元凶を掴まえない限り、この戦いが未だ終わっていない……彼は気を引き締め直し、スロットルを踏んだ。
それにカミーユのウェイブライダーも続く。
「逃がさないぞ、ジャック!」
「お前がこの戦いの元凶か!!」
「ええい、人のケツを追いかけるんじゃない! そういう趣味はないんだよ!」
藍色のビームサーベルをかわしたジャックは、そのままイリュージョンを殴りつけ海へと叩き落とした。
ジャック自身も手練れである上に、長時間の戦闘でフィリッペも疲労していたこともある。
あえなく攻撃を受けたイリュージョンは、その装甲の薄さ故に一撃で大ダメージを受けてしまった。
「このぉぉぉ!!」
空中で変形したZガンダムは、落下速度を利用して大上段からレイに斬りかかった。
ジャックはビームサーベルを引き抜くと、Ζガンダムと鍔迫り合いを繰り広げる。
一対一であれば、カミーユはジャックに勝ち得たかも知れない。
だがフィリッペは破れ、他のイリュージョン部隊もΖガンダムと連携を取れない位置にいた。
反対にジャックの周りにはMWレイがいる。
スタビライザーにミサイルが被弾し、カミーユは姿勢を崩す。
MS形態で飛行能力を持たないΖは、レイにとってはよいカモだ。
落下するΖに二次方向からレイがビームライフルを発射する。
「カミーユっ!!」
絶体絶命のカミーユを、シーブックのクロスボーンガンダムが助けた。
クロスボーンガンダムに抱きかかえられながらも、カミーユは腕のグレネードランチャーの照準をジャックに向ける。
だが、遠い。
447 名前:TOWARD THE COUNTRY (ep.04) 14/14 :2011/05/04(水) 09:23:48.61 ID:???
「誰かスナイパーライフルを持っている奴はいないのか!」
「無茶いうなよ。プリベンターもクロスボーンもイルミナーティも
基本的にゃ少数精鋭で強襲戦法をとるための集団だ。狙撃兵なんて持ち合わせちゃいねーよ」
ゼロの叫びに、苦虫を潰したような顔をしながらも、重い雰囲気を払拭しようと
手を挙げ、首を竦めるアクションを加えてデュオが答える。
だがトロワは、ゼロの狙撃案を捨てきれずにいた。
「高出力のビーム砲なら、代用になるかも知れないな」
実弾ではなくビームの場合、射程に限界があるのはビームが空気中で減衰してしまう為だ。
ならば、ビームそのものの質量が大きければ射程も大きくなる(但し威力は
反比例するが)
「ヒイロがここにいりゃあな……」
ウイング、あるいはウイングゼロのバスターライフルはこの条件に適っていた。
他に高出力のビームといえば、DXのツインサテライトキャノンであろうが、
ガロードは未だセツルメント国家議会軍の基地で地上戦をしていて、DXに乗り込むのは不可能だ。
DXの操縦桿兼サテライトキャノンの使用許可証であるGコンをガロードが所持している為、
他の人間がDXに乗り込んでもサテライトキャノンを放つことはできない。
「八方塞がりなの!?」
レイラがシルエットガンダムのコクピットを叩く。
散々利用され、故郷を攻撃された。痛惜の念が込み上げ、堪えきれずに嗚咽が漏れる。
「……啼イテイルノカ?」
× × × × ×
女の泣き声にシナプスは目を覚ました。
ノイズに塗れた電子の視界と、痛みを感じないセラミックとコードの肉体……
それに疑問を持つ程には、シナプスの中のアンドルは目覚めていない。
ただ漠然と、『思い出』が過ぎる。
女が泣いていた。
「……君ラ…シク無イ…ナ……」
女が何者かは思い出せない。
だがその女は、少し抜けていて、直情的で、なんというか……シリアスが似合わない女だった。
そんな彼女が泣いているのはよほどの事で、恋人である彼女のそんな姿は見たくなくて……
シナプスはそんな混濁した意識の中で、空を見上げた。
「アレノ…セイ…ナノカ……」
MSレイが飛んでいる。
オーストラリアから逃走するそれは、モニターの中でどんどん小さくなっていく。
シナプスは、半壊したクィンマンサのメガ粒子の照準をMSレイに合わせた。
「……レイチェル」
震える機械の腕で弾かれた銃爪は、光を放ってMSレイを飲み込んだ。
その煌めきは、彼の最愛の人の髪を思わせる黄金だった。
最終更新:2015年02月21日 21:19