127 名前:ダンボール潜入記 1/7 :2011/11/30(水) 22:25:57.07 ID:???
結局、そんなに自営業出せなかった・・・orz
******
ガトーは箱の中にいた。
箱に入り、一人少女の背中を追っていた。
「これは任務である」
そう一言彼の上官に言われればどんな危険な地帯でも潜入する腕利きの軍人。
それがガトーであった。
「その軍服、その髪、その姿は目立ちすぎる」
「ですが閣下、私はジオンの軍人として――」
ヒタイダーのヒタイグレー、ぢ体大ラ部エース、ソロモンの悪夢、とその名を
日登町に轟かせているガトーは
町に出ればヒタイダーのファンやら、ラグビーの応援団、予期しない敵まで引き寄せてしまう。
「だがこれはドズル閣下直々の極秘任務である。存在が知れては作戦行動は失敗に終わるのだ」
「はっ」
「潜入に必要なものはこちらで用意しよう」
ガトーに手渡されたのは、少し大きめの箱だった。
「これならば繁華街でも怪しまれることはなかろう」
「さすがです閣下」
装備と聞いてどんな物を支給されるか不安であった。
以前部活の敵情視察で用意された相手校の制服は、20をすぎるガトーの年齢には合わないもので
思わず苦言を呈したが、今回は文句の付け所がない。
彼を指揮するデラーズが用意したダンボールは、日登町でもよく見るネットショッピング「solomon」であったからだ。
「きっと、閣下の望む結果を出してみせましょう」
「楽しみにしている」
茶色い箱を小脇に抱えてガトーは姿勢をただし敬礼を取った。
128 名前:ダンボール潜入記 2/7 :2011/11/30(水) 22:26:39.39 ID:???
ここで始めに戻る。
ガトーは箱の中にいた。
「solomon」という文字にニヤリと口角を上げて笑う口元がデザインされたロゴの入った箱の中にいた。
ミネバが
ザビ家を一人で出て商店街に行くのを数メートル後ろから段ボールで追いかける。
歩行者にも特に動くダンボールを気にしてはいない。
それもそうだ。
頭上にはMSが溢れ、モビルシチズンや金属生命体などといった一見ファンタジィのような住人がごまんといる日登町だ。
少し大きめのダンボールから、時折「さすが、ミネバ様・・・」などと渋く素敵な声がきこえ、それが道路の端をかさかさと移動していたからといってなんら違和感を覚えないだろう。
という具合に、ガトーは人の波を縫って、オレンジ色の髪の少女を追っていた。
ガトー「まずは・・・」
ミネバ『この小包を宅配に出さねばならぬのだな』
ガトーはミネバの行動予定表を見る。
すると、こっそり持たせたマイクからミネバの声が飛び込んできた。
ガトー「その通りです、ミネバ様。そこの過度を曲がった」
ミネバ『ブラックロー運送、ここだな!』
二人は一見会話をしているように見えるが、ガトーの声はミネバには聞こえていない。
一方的に少女を追っているガトーがその言葉ひとつひとつに合いの手を入れているだけだったのだ。
トビア『いらっしゃいませ、いつもニコニコ、ブラックロー運送です。いらっしゃいませ、お嬢ちゃん、どうしたの?』
ミネバ『これを宅配で送りたいのだ』
トビア『お母さんやお父さんは?』
ミネバ『一人でおつかいにきたのだ』
トビア『へー。それは偉いや・・・・えーっと、じゃあ、これに住所と宛先をかいてくれるかい?』
ミネバ『ふむ!』
さすがに宅配業者の敷地内に入ってしまっては集荷の荷物と間違えられてしまう。
しかし離れすぎていては、ビデオに収めることはできない。
どうすればいいものかと、運送会社の敷地のギリギリ外からガトーはミネバの背中を写すことにきめた。
ガトー「くそぅ・・・ここからではミネバ様の勇姿が見えないではないかっ!だが!これ以上の潜入は・・・!」
依頼主のためにもっと近くではっきりとした姿を収めたい。
しかし、集荷されては・・・とガトーは入り口で唸る。
ガチャリ
そんな、ガトー(の入った箱)の後ろから拳銃を構える音がした。
129 名前:ダンボール潜入記 3/7 :2011/11/30(水) 22:27:22.78 ID:???
???「何をしている、ヒタイグレー・・・いや、今はソロモンの悪夢・アナベル・ガトーといったほうがいいか」
ミネバに気を取られていたせいで背後に忍び寄る気配を察知できずにガトーは奥歯を噛み締めた。
後ろからかかるプレッシャーはひどく重いが、かけられた声はまだ少年のように細かった。
そして、その声の主をガトーは知っていた。
ライバル校のルーキー・エースの弟だ。
ガトー「よく私の潜入を見破ったな、
ヒイロ・ユイ・ガンダム」
ヒイロ「知っている気配がした。それだけだ。貴様は何をしている」
ガトー「任務だ」
ヒイロ「任務?」
一言「任務」とだけ告げれば背後のピリピリしていた気配が消えた。
ガトー「ああ、任務だ。あの少女の行動を監視している」
ヒイロ「そうか」
ブラックロー運送の中では、社員らしき少年とミネバが楽しそうに話をしながら小包を送る手はずをとっている。
ガトーは後ろのヒイロの気配を気にしながらカメラのレンズを覗き込みミネバの背中を見つめていた。
次は確か・・・
商店街の店を男件か周る予定だ。
それまでにガトーの正体に気づいた後ろの少年をまいておかなくてはならない。
しかし、ガトーの思惑もマイペースで任務厨な少年には通じることはなかった。
ヒイロ「ならば俺も参加しよう」
ガトー「貴様・・・ひよっこが何を言うか!」
ヒイロ「幾度か潜入任務はやっている。ジオンの潜入の技を見たい・・・それだけだ」
ついてこい、とは言わなかった。
来るなといってもおそらくついてくるだろうという予想ができたから、ただ少し諦めの含んだ声色で「そうか」とつぶやけば
その硬い無表情の仮面の奥で、ヒイロのテンションが少し上がったのがわかった。
ミネバ『ちゃんと、運ぶのだぞ!』
トビア『早い、安い、丁寧、ブラックロー運送にお任せ下さい!』
ミネバ『よろしく頼むのだ!』
トビア『ありがとうございまーす!またのご利用をー!』
ミネバがブラックロー運送をあとにした時、solomonと書かれたダンボールの後ろに一回り小さなブラックロー運送――黒猫の書かれたダンボールがついてきていた。
130 名前:ダンボール潜入記 4/7 :2011/11/30(水) 22:28:15.16 ID:???
ミネバと段ボール×2(ガトー、ヒイロ)は絶妙な距離感を保ちつつ、日登町商店街へと着ていた。
商店街の小売店を何件か訪れミネバは問題なく買い物を続け、
行動表の最後・・・荒熊精肉店へとたどり着いていた。
ヒイロ「これが最後か。ダンボールにキズ等異常なし」
ガトー「買い物は最後だが、ミネバ様がご自宅へご帰還するまでが我々の任務だ、気を抜くな」
ヒイロ「わかっている」
立ち寄った
カロッゾパンでは食パンを1斤、トレーズ歯科医院では入れ歯用軟膏を、
銭湯サテリコンで入浴剤。
そして予定にはなかったがロアビルフラワーショップに立ち寄って花を購入したミネバの小さな両手には沢山の荷物がぶら下がっていた。
小さな体躯に大きな荷物を抱えるミネバは精肉店の列で時折よろけそうになり、ガトーをヒヤヒヤさせた。
ガトー「健気に荷物をお持ちになる姿こそ、ジオンのりs(ry」
ヒイロ「何を言っている、ミネバ・ラオ・ザビの順番になったぞ」
ガトー「ああ」
今すぐ段ボールを脱ぎ捨ててミネバのもとに駆け寄りその重い荷物を代わりに持って差し上げたい。
だが、それはミネバのためにはならない。
ガトーの中で2つの感情が駆け巡る。
眉間には普段の二割増しのシワが寄り、その葛藤の激しさを物語っていた。
午後の買い物時、人気店の荒熊精肉店は繁盛していた。
主婦たちが買い物を済ませたあとに一人カウンターより小さなミネバだけが店の前に残っていた。
ミネバ『すまない、豚もも肉を200gくれぬか』
ソーマ『?・・・あ、ああ、気づかずにすまない。豚もも200だな』
ミネバの頭2つうえの高さのカウンターから白銀の髪のソーマが顔を出した。
ちょうど視覚に入っていたのかはじめは訝しげな顔をしていたソーマだったが、
ミネバが見えたあとは、わざわざ会計をするにもカウンターの外まで出てカウンターに手の届かないミネバに心づかいを忘れはしなかった。
ソーマ『1000円だな、今お釣りを用意する。』
ミネバ『済まない、細かいのがなかったのだ』
ソーマ『気にしなくていい。ところで、一人で買い物なのか?』
ミネバ『そうなのだ!父上と母上に頼まれて買い物をしておったのだ!』
パンは明日の朝、入れ歯用軟膏はおじい様、入浴剤は今日の夜と嬉しそうに買い物の様子を説明するミネバに
無表情のソーマの顔もわずかだが優しく微笑まれた。
131 名前:ダンボール潜入記 5/7 :2011/11/30(水) 22:29:23.10 ID:???
ソーマ『幼いのによくやるな』
ミネバ『いやわらわはまだ未熟だ。これからもっと父上やハマーンのように立派な大人にならねばと思っておる』
ガトー「さすがミネバ様です、向上心もお忘れになってないとは。ザビ家に仕えるジオンの軍人としてミネバ様の将来が楽しみでなりません・・・」
ヒイロ「・・・・・まだ任務は終わってないぞ」
ソーマとミネバの会話に涙を堪えることに必死なのはガトーである。
ミネバの目線まで屈みお釣りを渡しながら頭を撫でる様子にぎゅっと目頭を押さえる。
そんな様子にヒイロは無感情のまま声をかける。
確かにほっこり来るエピゾードではある。
だがまだ泣くには早い。
家に帰り、玄関先で両親に「おかえり」と抱きしめられる所で涙を頂戴するのがコンセプトだ・・・とゼロは告げていたからだ。
ソーマ『そうか、これはおまけだ』
ミネバ『これはなんなのだ?』
ソーマ『コロッケだ、見たことはないか』
小学生なのに、しっかりとしたミネバにソーマも感心したのかお釣りの他に湯気の立ち上る包をミネバに渡す。
荒熊精肉店自慢のコロッケだ。
揚げたてはとても人気で、一日に最大1000個もうれるという主力商品である。
ミネバ『それは知っているが・・・箸やフォークがないぞ?』
ソーマ『そんなモノいらない。揚げたてはそのまま食べるのが一番だ』
ミネバ『そのまま?』
ザビ家の嫡子であり、幼い頃からマナーや勉強を叩きこまれたミネバである。
ファストフード、ジャンクフード、B級グルメなどという庶民の味など知るはずもない。
自分用にと持っていたコロッケにソーマがそのままかぶりつくのを興味深そうに眺めると、
「いただきます」と一口まだ湯気のたつコロッケにかぶりついた。
ミネバ『!!』
ソーマ『どうだ?』
ミネバ『おいしいぞ!こんなにアツアツでおいしいコロッケは初めてなのじゃ!』
ソーマ『そうだろう、中佐が心を込めて作るコロッケはこの街随意一のものだ』
ミネバ『そのようだ!今度、ハマーンに言って皆で来るとしよう』
ソーマと共にコロッケを食べきると
おまけにと3つ新たにもらったコロッケを肉と共にもってまたミネバは歩き出した。
132 名前:ダンボール潜入記 6/7 :2011/11/30(水) 22:34:59.99 ID:???
ミネバが立ち寄ったのはザビ家と荒熊精肉店の丁度真ん中に位置する公園であった。
さして大きくもなく、しかし綺麗に整えられた花壇を持つこの公園は
ミネバの大好きな場所であるのはガトーもよく知っていた。
ヒイロ「この公園に何かあるのか?」
ガトー「予定はない。だがここはミネバ様のお気に入りの場所だ」
ヒイロ「そうか」
ガトー「我々は気付かれないよう、ミネバ様から距離をとって公園内で待機だ。
人はいないが、ミネバ様を拐かす変質者が出た時のための対策だ」
ヒイロ「任務、了解」
ミネバは公園の中ほどにあるつるバラ棚に設けられたベンチに腰をかけた。
品物でいっぱいになった荷物を置くとまたミネバは立ち上がる。
ヒイロ「ミネバ・ラオ・ザビ・・・ここで休憩を取るようだな」
ガトー「ああ、ミネバ様もまだ幼い。こうも続けてなれない買い物をすればお疲れになっただろうからな」
財布を持ったミネバは公園内の自販機へと向かっていた。
背伸びをしながらコインを入れ、ボタンを押す。
その健気な姿にガトーは目を細めてレンズを回し続けた。
ヒイロ「しかし、一人分にしては買う量が多い」
ガトー「そうだな、だが問題はないだろう。怪しい人影はない」
ヒイロ「ああ」
コインを入れて、ボタンを押すという行為を3回繰り返し、ようやくミネバは自販機の前を離れる。
しかし、そのあとの向かった先は荷物をおいたベンチではなかった。
ヒイロ「まずいぞ、アナベル・ガトー!」
ガトー「どうしたんだ!」
133 名前:ダンボール潜入記 7/7 :2011/11/30(水) 22:37:04.89 ID:???
ミネバ「もうよいぞ、ふたりとも」
自販機から離れたミネバがガトーの構えるカメラに近づいてくるのは、レンズに映る姿が段々と大きくなることでわかっていた。
ガトー「ミネバ様・・・」
ヒイロ「任務、失敗・・・」
ガトー「自爆なら自重してもらうぞ、少年。ミネバ様の午前である」
ヒイロ「・・・」
ミネバの声にガトーとヒイロはダンボールからゆっくりと顔を出した。
任務失敗と自爆スイッチをおそうとするヒイロを、鋭い眼光で制し、ミネバの前に膝をつく。
ミネバ「そうかしこまらずともよい。声をかけてしまったのは笑わの責任じゃ」
ガトー「ですが、」
ミネバ「ふたりがついてくれたおかげで、買い物も寂しくはなかった!
もう家までは少しだ、ここで終わりにしても父上も怒らないだろう」
ヒイロ「ミネバ・ラオ・ザビ、なぜ任務内容を知っている」
ミネバ「父上のことだからな。はじめは父上がついてくるのではないかと思ったが違ったのでな」
ガトー「いつから我々のことをお気づきになられていたのです?」
ガトーはミネバの丸い瞳を見つめながら問う。
ミネバは年齢に見合わず聡い子供である。
しかし、あとを追っていたのも潜入のプロとも言えるガトー・ヒイロ両氏である。
ミネバ「そうだな、カロッゾパンに付く前には誰か居るとはわかっておった」
ヒイロ「なんとぉ!」
ガトー「まさかこんなにも早くにお気づきになられるとは」
ミネバ「ヒタイグレーと級友の兄の気配じゃ、わからぬはずがない。
ふたりとも、任務ご苦労。父に変わりわらわが褒めて使わす」
花がさくように満面の笑みを浮かべたミネバは、手にした缶コーヒーをヒイロとガトーの前に差し出した。
ガトー「ミネバ様にそうおっしゃっていただけるとは、アナベル・ガトーありがたく頂戴いたす」
ミネバ「うむ。 ほれ、そちも・・・」
ヒイロ「ヒイロ・ユイ・
ガンダムだ」
ミネバ「ヒイロ、いつもシュウトとアルには世話になっておる。」
ヒイロ「すまない、いただこう」
寒い冬の中で差し出された缶コーヒーはミネバの心遣いのおかげもあり任務後の冷えた体にはとてもありがたいものだった。
未だにダンボールの傍を離れようとしない二人の手を取りミネバはベンチへと誘う。
ミネバ「ソーマから絶品のコロッケももらったのだ!早くしないと覚めてしまうではないか!」
ガトー「それはいけませんな、あの店のコロッケは揚げたてが一番なのです」
ヒイロ「ああ、そうだ」
ビデオの録画はまだ回ったままだ。
テープの最後にはミネバの満面の笑みと、それにつられて普段よりも少し穏やかな二人の男の顔が写っていた。
最終更新:2015年05月03日 23:25