キャプテンガンダムにアクセスしてくる者がいる。
──私はコマンダーサザビー。早速だが、私の挑戦を受けてもらおう。
「君が何者かは知らないが、私には君と争う理由がない」
──なる程、君が争うのはあくまで自衛の為か。ならばこれを見てもらおう。
1枚の画像が送られてくる。
「アル!」
柱のようなものに縛り付けられているのはアル以外の何者でもなかった。
──私の挑戦を受ける気になったかね?
「君の目的はなんだ!?」
──私と君とどちらが優れたロボットか、優劣をつけようというのだよ。こちらの指示に従わぬ場合はこうなる。
今度はリアルタイムの動画が送られてきた。
やはり柱のようなものに隣の家に住む少女が縛り付けられている。
次の瞬間少女はミンチになり、残された右腕だけがアップになった。
──町外れの採石場に余計な装備を持たずに1人できたまえ。余計な事を話せば末弟も同じ運命を辿るであろう!
「どうしたの、キャプテン?」
「ちょっと外出してくる」
「アルの帰りが遅いんだ。あんな事があって顔を合わせ辛いだろうけど、見かけたら夕食までに帰るように伝えてほしいな」
「分かった。必ず伝えよう。必ず……」
「いや、見かけたらでいいんだけど……」

「ほう、律儀に丸腰で来たか」
「貴様がコマンダーサザビーか。アルを開放してもらおう」
「君の性能を見せたまえ。アルとやらを開放するのはそれ次第だ」
「ならば行くぞっ」
多くの害虫共を粉砕してきたキャプテンの必殺の拳だったが……コマンダーは難なくこれを受け止める。
「これはどうだっ!」
今までは家計を圧迫せぬように使用を控えてきた内蔵火器を全弾発射するが……大半はかわされ、残りは弾かれてしまう。
何発かは命中したようだが、まったくダメージになっていないようだ。
「貴様の性能はそんなものではあるまい?今度はこちらの性能を見せてやろう!」

「アル!大丈夫か!?」
「バーニィ!」
「すまない、あいつがこんな事をする奴とは思わなかったんだ!クソッ!すぐに返品してやる!」

驚くべき性能とパワーだった。
コマンダーの猛攻にキャプテンは成すすべもない。
機体の損傷度が加速度的に上がってゆく。
「私の使命は家族を守る事……私の為にアルが危険な目に遭っている……なんとしても救出せねばならない……」
「機械の分際で人間を家族と呼ぶか。それもいいだろう。だが、そうは思わぬ者もいるようだが?」

「アル、戦いを止めさせるんだ!」
「どうして!あんな奴ほっとけばいいんだよ!どうせ負けやしないだろうし」
「バカ!」
頬を張られるアル。
「……!?」
「アイツはお前を助ける為に来たんだろ!そのお前がアイツを見捨てるのか!
そりゃあキャプテンはロボットだ。肉親とはいえない。家族と呼ぶのも微妙な所かもしれない。
でもな、アル。自分の知っている者が、ましてや同じ屋根の下で暮らしている者が危険な目に遭うのを黙って見過ごせるのか?
ああ、そうさ。いつもキャプテンに勝負を挑んでいる俺がこんな事を言うのは変な話さ。
コマンダーは対ロボット戦用なんだ。対人戦用の装備しかないキャプテンに勝ち目はない!」
「……えっ?」
「それが分からないキャプテンじゃない!それでも壊れるまで戦うさ!どんなに嫌われようとも認められなくとも、
お前を大事な家族と思っているからこそ戦うんだ!俺がキャプテンの立場でもそうする!
自分が何だか分からなくなっちまうからな!それが分からないのか!?伊達に何度もミンチにされた訳じゃない!」
「……ボクはキャプテンに嫌いだって言っちゃった……」
「じゃあ、なおさら急ぐぞ!そしてキャプテンに謝って、お礼の一つ位言うんだ!
俺達はミンチになってもすぐ復活するが、アイツ等は壊れたらそれっきりだ!壊れすぎたら元には戻らないぞ!
そうしたら謝る事も出来なくなる!」
「……うん!」

キャプテンの胸部が展開し、ソウルドライブが回り始める。
「出たか、ソウルドライブ。ならば私も見せねばなるまい!」
「……!」
コマンダーの胸部が展開し、漆黒の歪なソウルドライブが現れた。
「ソウルドライブは最早貴様だけのものではないのだよ!」

ALICE ALICE ALICE ALICE
キャプテン……!
ALICE ALICE ALICE ALICE
「クソッ!なんだっていうんだ!?」
リョウ・ルーツのMSA-0011スペリオルガンダムが突然操縦不能に陥った。
どうもこのMSは変だ。
時々勝手に自宅の倉庫から消え失せたと思ったら、何時の間にか帰ってくるのだ。
自動操縦の類らしいが、いつも何処に行くのか。気味の悪い事この上ない。
「俺ァ、こんな操作してねェぞッ!どうなってんだ!?」
機体が勝手に分離を始めた。
コックピットのあるGコアを切り離すと、残ったA,Bパーツが再び人型を成す。
「チョット待てよ!何処に行こうってんだ!?」
「リョウ、とうとうMSにまでフラれたか」
「うるせえッ」

【ロウ、レッドフレームを借りるぞ】
「別にいいけどよ、何処に行くんだ?」
【ヤボ用だ】

キャプテンのソウルドライブが荘厳な輝きを放つ。
「貴様のどこにこんなパワーが……!ええい、なぜ輝かぬ!私のソウルドライブ!」

「キャプテーン!ボクは無事だよ!もう闘わなくていいんだ!」

「 私 の 総 て は 家 族 の 為 に ! 」

駆けつけたアルの見たものは……

キャプテンの拳が漆黒の歪なソウルドライブ──粗悪な劣化コピーごとコマンダーの中枢を打ち砕いた。
しかしコマンダーの拳もまたキャプテンのソウルドライブ──アムロの技術と夢の結晶を打ち砕いていた。
そのまま二体は縺れ合うように崖下に転落してゆく。

 ア ル ・ ・ ・ き み に あ や ま り た か っ

そして閃光が走る……

「バーニィ、キャプテンが、キャプテンが……」
「なんてこった……」
「ボクのせいだ……ボクがキャプテンを殺してしまった……」
「違う!俺がアイツを……!」
足元に金色に輝くものがある。
それはソウルドライブの破片──アムロの夢の欠片だった。
やがて輝きは薄らぎ、消えていく。
アルはそれを手にとり、そっと握りしめた……
いつしか雨が降り始めていた。

「バーニィ、キャプテンが、キャプテンが……」
「なんてこった……」
「ボクのせいだ……ボクのせいでキャプテンが……」
「違う!俺がアイツを……!」
足元に金色に輝くものがある。
それはソウルドライブの破片──アムロの夢の欠片だった。
やがて輝きは薄らぎ、消えていく。
アルはそれを手にとり、そっと握りしめた……
いつしか雨が降り始めていた。

アル達が呆然としていると、突然崖下から1体のMSが現れる。
その手にはキャプテンガンダムの残骸があった。
「あれはいつかキャプテンが連れてきた……!」
物言わぬMSはそのまま何処かに行こうとする。
「待ってよ!キャプテンをどこに連れていくの!?」
返事はない。
「アル、ザクを出すぞ!」
「こんな時にいつもの病気を出さないでよ!」
「判ってるって!アイツを止めればいいんだろ!?」
バーニィのザクウォーリアがぎこちない動きでそのMS──スペリオルガンダムに迫る。
が、突如として現れた日本刀を持ったMS──アストレイレッドフレームに一刀両断にされてしまう。
「バーニィ!」
【『彼女』の邪魔をしないでもらおう】
「だって、キャプテンがどこかに連れていかれちゃうよ!」
【『彼女』の行き先はキャプテンが望むであろう場所の筈だ】
「キャプテンが望んだ場所って……?あんたは一体誰なのさ」
【私は『8』。キャプテンの好敵手とでも言っておこう】
「ヒドイ目に遭った……」
「バーニィ……顔ズレてるよ……」

キャプテンが望むであろう行き先は、帰るべき場所──自宅だった。
ロランが夕食の準備をしていると、庭先に一体のMSが現れた。
「あれは『ALICE』さんだったっけ?キャプテンに何か用なのかな?」
降りしきる雨の中『彼女』は跪き、何かを降ろすとカメラアイの灯が消える。
ロランは傘を差して庭に出た。
「キャプテンならまだ帰ってないんだけど……うわっ、キャプテン!」
そこで見たものは物言わぬMSとキャプテンの残骸だった。
「兄さん!アムロ兄さん!キャプテンが、キャプテンが!」
雨は降り止みそうになかった。

「ソウルドライブが完全に破壊されている……一体何があったんだ?」
「分かりません。『ALICE』さんなら何か知っていると思うのだけど……カミーユ、そっちはどうですか?」
「ロラン……本当にこいつがキャプテンを運んできたのか?」
「ええ、そうだけど」
「MSA-0011には人格を持った高性能なAIが搭載されていて、これが『彼女』の正体なんだが……
このAIは機体を構成するパーツが3機揃った状態でないとまともに働かないんだ。なのにこいつは……
機体の中枢たるコアブロックを欠いた状態で、どうやって動けたんだ?」
「……!」
「メモリーに残された思いだけでここまで来たというのか……」
機能を停止し、雨に打たれる『彼女』の顔は、泣いているようにしか見えなかった……

家中大騒ぎだった。
アルが何時の間にか帰って来ていても、誰も気付かなかった。
好都合だったかもしれない。誰とも顔を合わせたくなかったから。特にアムロには。
「直るよね?兄さんなら直せるよね?」
「当たり前だ!俺が一番うまくガンダムを使えるんだ!何度も家族を亡くしてたまるか!」
「ああ、よかった」
「よし、さっそく会社のラボに運ぶぞ」
「あの……こっちの……『ALICE』さんはどうするんです?」
「ちゃんと本来の持ち主に返さなきゃな……どこの家のMSなんだ?」
「コイツZZに匹敵する性能らしいぜ……」
「いいパーツ使ってそうだな……」
「お前らは……!仮にもキャプテンの『彼女』なんだぞ!?」
【私が『彼女』を家まで送ろう】
何時の間にやら、MSが庭先にやって来ているではないか。
「ジャンク屋の……アストレイ……?」
【キャプテン、今度はもっと男前にしてもらうんだな】
「いつものジャンク屋じゃない……?コイツもAIなのか……?」
夕食はすっかり冷めていた。

キャプテンの損傷は思った以上に酷かった。
至近距離の爆発による損傷のみならず、内部も完全に破壊されていた。
フレームは捻じ曲がり、動力部は跡形もない。
「キャプテン、お前は一体何と戦っていたんだ……?」
キャプテンガンダム用の保守部品は数多く用意している。
だがここまで壊れてしまっては、最早パーツの交換でどうにかなるものではない。
「必ず直してやるぞ、必ずな……!」
その日からアムロは殆ど家に帰らなくなった。

「コマンダーよ、お前の死は無駄ではないぞ。最大の障害であるキャプテンガンダムを葬ってくれたのだからな!
これで心おきなくロランにハァハァできるというものだ」
「そうだ本当によくやってくれたよ。これでローラとイチャイチャできる」
「グエン卿!いつの間に!」
「早速手を打っておいたよ」

キャプテンが引き受けてくれていた家事は再びロランの負担となった。
かつては家事に専念できたが、今は学業も両立させねばならない。

ロランの部屋から超小型のカメラデバイスが見つかった。
否、ロランの部屋だけではない。
家中至る所からこれまでに無いほど大量に。

今までキャプテンがミンチにしてきた連中がこれ幸いとばかりに襲い掛かって来た。
以前は毎日のように繰り返されていた戦い。
一昨日はジェリドが、昨日はフロスト兄弟が、そして今日は常夏三兄弟が喧嘩を売ってきた。
いつも最後はMS戦となり、周囲に甚大な被害を出して終わる。
その度にロランは近所に頭を下げてまわった。
──フリーダムのハイマットフルバーストに押されて常夏のMS達はなんとか引き揚げた。
しかし流れ弾が隣の家を直撃。
逃げ遅れた少女が今日も巻き添えとなり、その身をバラの花びらのように鮮やかな肉片へと変える。
跡には瓦礫と携帯電話、千切れた右腕だけが残された。

「ちょっとロラン!最近つきあい悪いわよ!」
放課後、ソシエがロランを呼び止めた。
「ごめんなさい、ソシエお嬢様。早く帰って買い物と食事の支度をしないといけないんです」
「あの変なロボットはどうしたのよ!アイツが代わりにやってくれてたんじゃないの?」
「キャプテンは、その、ちょっと壊れちゃって……あれ?修理中なんです……あれ?
おかしいな……あれ?」
「アンタ達の扱いが荒いから壊れたんでしょーが!」
「なんだか目が霞む……変だな……あれ……?」
意識が遠くなるのを感じながら、そのままソシエの胸に埋まるように倒れこんでいく。
「馬鹿ロラン!何考えてるのよ!ちょっと、止めなさいよ!駄目でしょー!こんな所じゃ……
あ、駄目……ロラン……ロラン……?ちょっと、ロラン、ロランってば!」

 ロ ラ ン !

「命に別状は無い。疲労から来る貧血だ」
テクスは一同にそう告げた。
「本当か!?ほんとうにそれだけなんだろうなオッサン!」
「ああ。だが暫くは休養が必要だ」
兄弟の誰もが思い出していた。
両親が倒れたあの日の事を。
──当時まだ幼かったアルを除いては。

ロランが倒れ、家事のできる者が誰も居なくなってしまった。
いや、実はもう一人だけ居るのだが……
洗濯物が溜まりに溜まって、押し入れから溢れ出した。
このままではキノコでも生えてきそうな勢いである。
それに家の中が埃っぽくなってきた。
掃除が行き届いていないせいだ。
特に深刻なのは食事だ。
交代で当番の者が作る事になったが、できるのは指を絆創膏だらけにした挙句、焦げだらけの不味い料理。
正直、病人が静養するには辛い環境になって来た。

友人達が見舞いに来た時にこの惨状を見かねたのか、食事を持ってきてくれるようになった。
ファがサンドイッチを作ってきてくれたのが始まりだ。
ごく普通の出来だが、欠食児童達にはとても美味しく感じられた。
それに対抗してフォウとロザミアも食事を持ってきた。
フォウのはサプリメント混ぜご飯、ロザミアのはサプリントを具にしたお握りだった。
どちらから口にしたら良いものか、カミーユは刻の涙を見る……
セシリーが持ってきてくれたのは特製のパンだった。
売り物のパンとは比較にならない程美味しかった。
キースもパンを持ってきてくれた。
こちらも特製で、セシリーのものにも負けない美味さだ。
ソシエも自分でパンを焼いて持ってきてくれた。
……ロランの回復が確実に遅れるような味だった。
アイナの持ってきた料理をシローは貪るように食べた。
「アイナの作る物だったら何だって美味い!」
事実、非常に美味しいのだが、万が一残したりでもしたらノリスが殴りこんで来るであろう。
ティファの持ってきたあまり美味しく無さそうな料理をガロードは貪るように食べた。
「ティファの作る物だったら何だって美味い!」
事実に反しているのだが、その目は嘘を言っていなかった。
リリーナが自ら作ったとされる料理は、異臭を放っていた。
それをヒイロは一人で全部平らげると、ウイングゼロのコックピットに飛び込んだ。
「教えてくれ、俺はあと何回リリーナの料理を食べればいい?」
そのまま自爆。差し入れを届けようとした隣の家の少女が巻き込まれて以下略。
ディアッカのチャーハンは今日もグゥレイトォ!!な出来だ。
カガリの持ってきた料理は豪華なのだが、なぜか味付けが全部チリソースだ。
部屋の気温が確実に五度は上昇した。
シーマの持ってきた料理は豪華かつ、妙にスタミナの付きそうなものばかりだ。
「この家は地獄だ……ウッ」
食しているうちにコウが鼻血を噴き出した。
……メニューはともかく、実は一番美味かった。

見舞いと称して、シャアとグエンが現れた。
「面会謝絶だ!帰れ!」
「あんたらのせいでロランは……!」
「それは誤解というものだよ」
「まぁ、折角来て下さったんだから……」
「ローラもああ言っているよ」
「クッ……!」
「丁度良かった、食事をしていきませんか?」
キラが二人に料理を出した。
「や、これはかたじけない」
「キラ……!お前……!」

しばらくして……
「しかしローラが倒れるとは思わなかったよ……ウッ!?」
「だが、床に伏せっているロランもまた……イイッ!?」
「もう少しゆっくりしていきたいのだが」
「すまないが急用を思い出した。これで失礼させてもらうよ」
二人は急に顔色を変えてそそくさと退散していった。
「やっぱり……何か入っていたみたいだね……わざわざ僕のを別個で用意していたから怪しいと思っていたんだよ……」
実はキラが二人に出した料理はフレイからの差し入れだったものだ。

「そういえば、そろそろドモン兄さんの試合が始まるな……」
TVを付けるとガンダムファイト用の特設会場が写った。
今日の対戦相手はネオポルトガルのロマニオ・モニーニの乗るジェスターガンダム。
対戦相手を研究して心理戦法を使う策士だが、ドモンのゴッドガンダムの敵ではない筈だ。
『それではガンダムファイト、レディー・ゴー!!』
試合が始まり、ゴッドガンダムが圧倒的な実力でジェスターガンダムを攻める。
ロマニオはドモンの技を真似ようとするが、本家にはまるで歯が立たない。
このままゴッドガンダムの圧勝かと思われたのだが……
突然動きがスキだらけになり、ジェスターガンダムの反撃を許してしまう。
完全に試合の流れが変わり、今度は一方的に攻撃を受ける側となってしまった。
「なんだ!?一体どうしたっていうんだよ!?」
「あんな奴にやられる兄貴じゃない筈なのに!」
……試合は終わった。
なんとか勝利を収めたものの、チャンピオンらしからぬ最低の試合だった。
「ロランを元気付けようと思ったのに、どうしたっていうんだよ……」
落胆する一同。
しかしその中にアルの姿は無い。
あの日以来、アルは兄弟の輪の中に溶け込めなくなっていた。
そして他の兄弟も構ってやる余裕など無くなっていたのである。

一方その頃、ダイクン社の総帥と投資家が、それぞれの邸宅で悶絶していた。
下痢が止まらない。
あの時、格好を付けて兄弟一家のトイレを借りずに立ち去ったのが幸いした。
そのままトイレの住人となるところだったのである……

「クソッ!ロランとキャプテンが倒れただなんて!レイン!お前は知っていたのか!」
「え、ええ」
あの時、自分の技が通用しない事を悟ったロマニオは次の手に打って出た。
ドモンの弱みに付け込むために、あらかじめ家族の事まで調べぬいていたのだ。
そしてキャプテンガンダムが大破し、ロランが過労で倒れた事を知った。
その事を試合中にドモンに告げたのである。
それを聞いたドモンは激しく動揺してしまったのだ。
アムロはこの事をドモンに知らせぬようにレインに釘を刺していた。
総ては試合にベストの状態で望めるようにとの配慮だったのだが……
「どうして黙っていたんだ!こうしてはいられない!すぐに帰るぞ!」
「ちょっと!明日の試合はどうするのよ!」
「知るか!家族の事の方が大事だ!」
「このままじゃ試合放棄で不戦敗になっちゃうわよ!?全勝の誓いはどうしたのよ!?」
「うるさい!黙っていたお前が悪いんだ!」
「そ、そんな……」
取り付く島もない。
「ふははははははははは!レインに八つ当たりとは情けないぞドモン!」
「シュバルツ・ブルーダー!」
「明日は私との対戦だった筈だが……わざわざ勝ちを譲ってくれるとはな!」
「なんだと!」
「この間のリベンジができないのが少々心残りだがな!ふははははははははは!」
シュバルツは突然現れ、言いたいだけ言って去っていった。
「クソッ、シュバルツめ……」
(どうしよう、ドモンは帰るって聞かないし、仮に試合になったとしてもこんな状態じゃシュバルツには勝てないわ……)

「……アムロ兄さん?今日は帰ってこれたんですね?」
アムロが美味い物と不味い物を交互に食べさせられてげんなりしているロランに、自分で作ったお粥を持ってきた。
「すまない、こんな時は俺が側に居てやるべきなのにな……」
「そんな……悪いですよ。兄さんは兄さんの仕事に専念してください……キャプテンは……まだ直らないんですね?」
「ああ……」
「大事な家族なんです。一刻も早く直してあげてください」
「分かっている、分かっているさ……」
「僕は時々思うんですよ。僕達はキャプテンに頼りすぎていた。だからこれはそのツケが回ってきたんじゃないかって」
「ロラン……」
「キャプテンは壊れちゃったけど、これはキャプテンにとってのお休みじゃないかって」
「……」
「だからね、兄さん。キャプテンが直っても、暫くはお休みをあげましょうね……」
「……お粥が冷めるぞ、早く食べるといい」
「そうだね……あはっ、やっぱりアムロ母さんの料理が一番おいしいや……」
今では一家でアムロ父親役、ロランが母親役というのが板に付いているが、ロランが小さかった頃、一家の母親役はアムロだった。
赤ん坊のアルを背負い、家事をこなすアムロの姿はロランにとって母親そのものであった……
「そういえば兄さん」
「なんだ?」
「キャプテンが壊れちゃったあの日から、アルの様子がおかしいんだ。どうしたのかな……」

キャプテンガンダムの修理は困難を極めた。
修理を諦め、再生産するしか道はないように思われた。
しかし限られた予算の中ではそれは不可能に近い。
おまけにキャプテンの超AIに未だアクセスできずにいるのだ。
「アムロ……ガンイーグルとガンダイバーの開発が止まったままだ。いくら私でもこれ以上役員達を抑えてはおけないぞ」
「すまないブライト……だが何度も家族を失う事がどれだけ悲しい事か判るか?」
「……」
「クソッ……俺が一番うまくガンダムを使えるんだ……これしきの事で……」
スクラップ同然の試作機を前に奮闘を続けるアムロ。
アムロと二人で立ち上げたこのラーカイラム社。
会社の運営はブライトが、商品の開発はアムロが担ってきた。
幾度も昇進の話があったにもかかわらず、アムロはそれを蹴り続けた。
重役の椅子よりも技術者であり続ける事を望んだのだ。
その商品開発力により、今や業界最大手のダイクン社の牙城を脅かす存在となりつつある。
そしてついに次世代ロボットの企画策定においては、ラーカイラム社の、アムロの提唱した企画が採用された。
しかし技術者である事にこだわり続けた結果、今のアムロには大した権限はないのだ。
ならば経営者としてブライトに出来ることは──
「アムロ……来期の予算を今期に回す」
「……!」
「役員連中には新型機の開発を前倒ししたと伝えておく」

「ドモン!本当に帰る気なの?」
「家族を守れるのはもう俺しかいないんだ!」
荷物をまとめる為にホテルに戻ってきたドモン。
自室に戻ると……一通の手紙があった。
「ファンレターか。もう俺は帰るというのに……」
そのまま丸めて屑篭へ……投げ込もうとしたが、なんとなく気が向いて広げて封を切ってみる。

  お前のファイトはいつも観ている。
  今回は拳に迷いがあったようだが、お前の事だ、
  家族の事で何かあったんだろう。
  お前の兄を、アムロを信じろ。
  きっと何とかしてくれる。
  私にも色々あって、お前の前に姿を表す機会が無いのが残念だ。
  次のファイトには期待しているぞ。

                     キョウジ

「キョウジ兄さん!キョウジ兄さんだ!いつも俺のファイトを観てくれていたんだ!
……ああ、なのに俺は!あんな無様なファイトをしてしまった……
あんなに会いたかったのに、今は会わす顔がない……
……流石はキョウジ兄さんだ。俺の家族の事まで察しているなんて……
アムロ兄さんを信じろか……そうだ!アムロ兄さんは最高の技術者だ!
キャプテンを修理する事位朝飯前のはずだ!何を迷っていたんだ俺は!」
勢いよく部屋の外に飛び出す。
「ちょっとドモン!どこへ行く気なの!?」
「決まっているだろう!試合に行くぞ!」
「さっきまでは帰るって……んもう!いつも勝手なんだから!それにしてもえらいやる気のようね……
これならシュバルツ相手でもいけるかも……一体何があったのかしら?」

「いいファイトになりそうだな、フフフ……」

ALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALAL
LALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALA
ALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALAL
LALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALA
ALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALAL
LALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALA
ALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALAL
LALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALA
ALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALAL
LALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALA
ALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALALAL

遂にキャプテンの超AIにアクセスする事に成功したアムロ。
しかし返って来た応答は……
「AL……アル?」

家の方でも動きがあった。
「だ、誰だよ!アンタ達は!」
年齢も、性別もバラバラの集団が一家を訪れた。
どうやらケンカを売りに来た訳ではないらしい。
一行のリーダー格とみられるサングラスの男が告げる。
「我々は警備会社サーペントテール。この家を守るよう依頼を受けた」
「警備会社って……ウチにはそんなモン雇う余裕はないぜ?」
「依頼人から報酬は前金で貰っている」
「依頼人は誰なんです……?」
「それは明かせないが……伝言を頼まれている」
「……?」
「ふはははは!小生はまだ忙しい!ロランの作った朝食が恋しいのであーる!
今回の事態を聞いて助っ人を雇っておいた!ふははははは!
……だそうだ」
「……」
「ギンガナムさんだ!」
「ギンガナムだな……」
「以外に義理堅いんだなアイツ」
「なにも口調まで正確に伝えなくても……」
一行のリーダー──叢雲劾が告げた。
「この家の守護者が戻るまでが期日だ」

サーペントテールは非常に有能だった。
招かれざる客は劾とイライジャが追い返すか、ミンチにして萌えないゴミに出してしまった。
不法侵入してくる輩はロレッタの仕掛けたトラップで一網打尽。
最大の招かれざる客であるシャアとグエンの動向はリードが常に監視。
そして風花が不甲斐ない男達(主にコウとキラ)に渇を入れた。

「今日は転校生を紹介します」
マリューが告げるとイライジャが教室に入ってくる。
「イライジャ・キールです。よろしく」
その容姿にクラス中の女子がどよめく。
(うっわー、美形……)
(顔のキズがなんか怪しいカンジだわ……)
(ウホッ、いい男……)
「えーと、イライジャ君の席はっと……」
「俺はあの場所を希望する」
イライジャが指定したのはロランの隣だった。
「イライジャ君!どうしてここに?」
「君が一番狙われやすいから専属でガードせよとの指示だ」
(あの二人知り合いかしら?)
(何か見詰め合ってるわよ)
(二人並ぶとアヤシイわ……)
「な、何だか注目されているんですけど……」

カメラがすべて破壊され、砂の嵐のみが写るモニタールームで二人の懲りない変態が唸っていた。
「サーペントテールだと!?ええい!これでは迂闊に手が出せんではないか!」
「彼らにそんな経済的余裕があるとは思わなかった。作戦を変えねばならないようだ」
「おのれ、風花たんに守ってもらえるとは、なんとうらやましい」
「イライジャ君といったか、彼もなかなかの美形だねぇ」
「…………」
「…………」
二人の変態はまたよからぬ事と企み始めた……

放課後、アルが校門をくぐるとクリスが待っていた。
「クリス……?どうしたの?」
「アムロ主任が──お兄さんが呼んでいるわ。それで迎えにきたの」
「アムロ兄ちゃんが?」
「ちょっと会社につきあってくれるかな?」
「うん……」
「どうしたの?お兄さんの会社に行くのがいやなの?」
「そんなんじゃないけど……」

クリスはアルを「白い部屋」と呼ばれるアムロ専用の開発室に通した。
「主任、弟さんをお連れしました」
「ご苦労だったクリス。しばらく二人きりにさせてくれ。やあ、よく来たなアル」
久しぶりに見るアムロの顔は心なしかやつれていた。
「俺がどうしてお前をここに呼んだか判るか?」
……おこられる!
アルは身を硬くした。が、予想は外れた。
「キャプテンがお前を呼んでいるんだ」
アムロは部屋の奥にアルを連れて行く。
さまざまな開発用機材の向こうに彼は横たわっていた。
「キャプテン……?」
台の上に横たわっているのはおそらくキャプテンガンダムだが、大幅に外観が変わっている。
デザインがゼフィランサス型のものに変更されていた。
新しいソウルドライブが胸部に収まってはいるが……それはフェイズシフト・ダウンしたような灰色をしていた。
「直ったの?」
「ボディーの方はな。だが、どうしても再起動できない」
「え、それじゃあ……」
「起動よりも先に超AIがお前の事を探しているんだ。そしてそのまま無限ループに陥っている」
「そんな……」
「新しいソウルドライブもなじんでいない……そろそろ話してくれないか。あの日、何が起こったのかを」
「……うん……」
アルとうとう観念して話し始めた。あの日起こった出来事を。
コマンダーザザビーに人質にとられた事。
キャプテンが不利な条件で戦った事。
バーニィに助けられた事。
キャプテンはそれを知らぬまま相打ちになってしまった事。
「そうか……」
今度こそおこられる!だが、今度も予想は外れた。
「アル、キャプテンはずっとお前の事を気にかけていたんだ。壊れる直前までな。だからお前が無事でいる事を伝えるんだ。
そうすれば心のつかえが取れて再起動できるはずだ」
「でもどうやって?」
「このVRシステムで直接キャプテンの超AIにアクセスするんだ。キャプテンが探しているのはお前だ。
だから俺じゃうまくいかなかった」
「な、なんだか怖いよ!」
「こちらでモニターしている。万が一の時はすぐにリンクを外せるから大丈夫だ」
その時、それまで灰色だったソウルドライブが輝き始めた。
同時にアルのポケットの中の物も輝き始める。
「な、何だ!なにが起こった!?」
「アムロ兄ちゃん、これ……」
それはあの日以来、お守り代わりのように持っていたソウルドライブの欠片だった。
「ソウルドライブの欠片が共鳴しているというのか!よし、こっちのデータを新しいソウルドライブに移植する!」

目を開けると、そこは見慣れた筈の町内だった。
違和感を感じるのは、それらがCGで描かれたような不自然な質感を持っている事。
一見ザラザラに見えるコンクリートの塀も、良く見るとテクスチャが張られただけでツルツルている。
中にはワイヤーフレームだけで描かれた部分も存在する。
「これがキャプテンの心の中?アムロ兄ちゃん、どうすればいいの!?」
──ちょっと待っていろ。今データを転送する。
するとアルの前にソウルドライブの欠片が現れる。
──そいつがキャプテンの深層意識にお前を導いてくれる筈だ。
「深層意識って!?」
──ここでキャプテンに逢うんだ。それが深層意識なんだ。
「でもこれ、あっちに行ったり、こっちに行ったり……本当にキャプテンの所に連れて行ってくれるの?」
──うーん……データの修復が優先されているみたいだな……見てみろアル。
よくみると欠片が通過した箇所は本物の質感を持つものに変わっていた。
ワーヤーフレームだけだった箇所もキチンと修復されている。
「これじゃいつまでたってもキャプテンに逢えないよ!」
──アル、キャプテンがいそうな場所は判るか?
「えっ?」
──ソウルドライブの欠片をキャプテンの所に直接導くんだ。
 キャプテンが再起動できれば、データの自己修復機能が働く筈だ。
欠片をつかんでアルは駆け出した。
──心当たりがあるのかアル!
「キャプテンがボクを呼び続けているのなら、きっとまだあそこにいるハズなんだ……!」

それは町外れの、いや町外れだと思われる場所にある。
データの破損がひどく、荒いワイヤーフレームだけで描かれた決戦の地・採石場。
殆ど暗黒の空間と化した場所にキャプテンはいた。
[ALALALALALALALALALALALALアルアルアルアルあるあるアルアルアル……]
「キャプテン!」
[どコに居ルンダある……無事なノか……今イくぞ……スマナい……
君ニ……アルアルALALALALALALALALALALAL……]
コマンダーとの戦いで大破したままの無残な姿で、闇の中を這いずり回っていた。
「キャプテン……ボクは……ココにいるよ……」
アルは空洞になってしまったキャプテンの胸部にソウルドライブの欠片をそっと収めた。
[……アル?]
「キャプテン!」
[無事……だったのか……]
「うん、バーニィが助けてくれたんだ」
[私は……間に合わなかったのか?]
「ううん、そんな事ないよ!キャプテンがアイツと戦ってなかったら、
ボクはおとなりさんみたいにミンチになってたんだ」
[私は君に謝らなければならない。コマンダーの標的はこの私だったのに君を巻き込んでしまった。
私の存在意義は君達を守る事なのにだ]
「謝るのはボクのほうさ!それに助けに来てくれたじゃないか!」
[本来ならば、君がコマンダーに誘拐されるのを未然に防ぐ事だってできた筈だ。私は欠陥品なのだ]
「どうしてそんな事を言うのさ!失敗なんて誰だってするじゃないか!」
[私が良かれと考えてした事は、かえって君を傷つけてしまった。私は機械だ。ミスは許されない。
それに君好みのデザインでもない]
「そりゃあ人間は失敗ばかりするよ。でもキャプテンもそうなら、ただの機械じゃないって証拠なんだよきっと!
アムロ兄ちゃんが欠陥品なんかつくるもんか!ガンダムだってザクほどじゃないけど充分カッコいいよ!」
[この私を認めてくれるのか?最早ガラクタにすぎないこの私を]
「ガラクタなんかじゃない!アムロ兄ちゃんが必死に直してくれたよ!さあ自分の姿を見るんだ!」
ソウルドライブの欠片が輝きを放ち、元の形へと再生されてゆく。
キャプテンの姿も大破した部分が修復されると同時に、強化されたものへと変わってゆく。
[これが今の私か]
「そうだよ!もう誰にも負けないよ!またボクたちを守ってよ!」
[私を必要としてくれるのだな?]
「ボク達は家族なんだ、当たり前じゃないか!」
[帰るか、私達の家へ]
「帰ろう、ボク達の家へ」
暗黒の空間でしかなかった採石場が、現実の姿へと修復されてゆく。
キャプテンの姿は光り輝くソウルドライブに変わり、自宅の方向に飛んで行く。
アルはそれを追いかけた。

街並は完全に修復されていた。
途中で様々な人々の影のようなものとすれ違った。
0と1で構成された二重螺旋が描く人の輪郭をした影。
それはキャプテンのAIの思考パターン・人格といったものを構成するために参考とされた人々のデータであった。
やがて自宅にたどり着き、ドアを開けると一組の男女の影がいた。
それが誰なのか、アルには判った。
それは写真でしか逢った事のない、両親であった。
アムロはキャプテンガンダムの超AIの基幹部分のデータの一部に、両親のデータをイメージして入力していたのである。
完璧な心を持って家族を守る為に……
家中にソウルドライブの光が溢れた。

──アル、アル!
「ん……」
「やっと戻ってきたか」
「キャプテンは?」
「いま再起動するところだ」

Guadian of
Universal
New-Generation
Defensive
Artificial-Intelligence
Module

「キャプテン!」
「……私は長いこと悪夢をみていた。ようやくそれから開放された。君のおかげだ、アル」
「ごめんよキャプテン、ヒドイ事言っちゃって」
「過ぎた事をいつまでも思い悩んでも仕方の無い事だぞ、アル」
「ようやく目覚めたか、キャプテン。いや
 ハ イ パ ー キ ャ プ テ ン ガ ン ダ ム !
ボクガイチバンウマクガンダムヲツカエルンダ」
「ア、アムロ兄ちゃん……?」
「いかん!思わず魂を重力に引かれる所だった」
その時内線が入った。
「こちらアムロ。クリスか、どうした」
──アムロ主任、弟さんからお電話です。
「よし、こちらに繋げ」
受話器の向こうから切羽詰ったロランの声と銃声が聞こえてきた。
──兄さん!アムロ兄さん!
「どうしたロラン!何が起きた!?」
──うちにコーディネーターの特殊部隊が!

話はすこし前の時刻に遡る。
兄弟宅の警備をしているサーペントテールのメンバーの1人、リード・ウェラーがグエン側の動きをキャッチした。
「あの変態御曹司、とうとう手段を選ばなくなったな。俺達に対抗して向こうもプロを雇いやがった。
全員屈強のコーディネーターからなる特殊部隊だ。間もなく此処は戦場になる。今のうちに逃げる事を勧めるぞ」
「よし、脱出の準備を始めろ。その間俺達が敵を引き付ける」
その叢雲劾の提案にロランは反対した。
「待って下さい!まだ帰って来ていない人がいるんです!僕達が逃げ出したら、彼らの帰る所が無くなってしまいます!」
「奴らのターゲットはお前だ。それでも残るというのか?」
「その為に彼方達が来て下さったんでしょう?」
「分かった。どの道ここで奴らを潰さなければお前は永遠に逃亡生活を余儀なくされる。
だが此処に残りたいのなら、お前達にも少々手伝ってもらうぞ」
兄弟達は頷いた。
しかし敵の数は予想していたよりもはるかに多く、サーペントテールは防戦一方となってしまった。
数々のトラップを人海戦術で突破し、次々と敷地内に進入して来る。
隣の家の少女が(ry
MSの格納庫も抑えられてしまった。
そんな中、ガロード、ジュドー、ウッソらは賊を翻弄し、引っ掻き回した。
シローとヒイロは動きを乱した賊に銃弾を叩き込んだ。
コウはラグビーで鍛えたタックルで賊に突進、そこへカミーユが鉄拳を叩き込む。
シーブックは海賊のような荒っぽい戦い方を披露した。
キラは逃げ回るだけ……
「ゲンガナム竜巻投げ!」
ロランは賊の1人を投げ飛ばすとアムロに連絡を取った。
「兄さん!アムロ兄さん!」

ロランの悲痛な声は大きな雑音の後に聞こえなくなってしまった。
「キャプテン再起動したばかりで悪いが、早速一仕事してくれないか。オプションFの使い方は分かるな?」
「肯定だ」
「よし!行け!ハイパーキャプテンガンダム!我が家から害虫を駆逐し、家族を守れ!」
「了解だアムロ」
ブーストポッドを展開し、空へ飛び立つ。
「アル、俺達も家に戻るぞ!社用機のZプラスに乗れ!」

賊の一部をサーペントテールのイライジャが引き付けていた。
というより、賊の一部は明らかにイライジャを狙っていた。
「クソッ!奴らなんで俺まで狙うんだ!?」
──サーペントテールのイライザとかいったか。彼もなかなかの美形だねぇ。ドレスを着せてみたいので連れて来てくれないか?
まさかそのような指示が出ているとは、思ってもみなかったイライジャであった。
ロランも賊に囲まれてしまった。
一人一人ならなんとか投げ飛ばして応戦できるものの、こう数が多くてはそれもままならない。
兄弟やサーペントテールの疲労もピークに達していた。
「ロラン!」
「うわっ!」
ロランに特殊部隊員の魔の手が伸びたその時、天空より飛来した何者かがその手を遮り、賊をミンチに変えた。
(BGM:ttp://knumh.omzig.net/srwmidi/srw/gundam_seed_meteor.mid)
「あれはまさか、キャプテンガンダム!?」
「工工エエエエエ(´Д`)エエエエエ工工」
隊長とおぼしき男が素っ頓狂な悲鳴をあげた。
「キャプテン!直ったんだね!」
「大丈夫かロラン、心配をかけたな」
ハイパーキャプテンガンダムの全身の武装が火を噴き、屈強なはずの特殊部隊員をミンチに変えてゆく。
剣は再び舞い降りた。

アムロとアルが自宅に戻った時には賊はすべてミンチになっていた。
「こりゃまた派手にやったな」
「おかえりアムロ兄さん、おかえりアル」
叢雲劾がアムロに告げた。
「この家の守護者が復活したので、ミッション・コンプリート……といいたい所だが、もう一仕事あるようだ」
「今度は赤い大将が動いたぞ!アクシズ社のラボから何者かがこちらに向かっている!こいつは人間じゃないぞ!」
「まさか!」
「どうしたアル」
「きっとまたアイツだよ!コマンダーとかいう奴!」
「大丈夫だアル。私は強化されている。もう他社のロボットに遅れをとるような事はない」
「来たぞ!」
アルの予見した通り、コマンダーサザビー現れた。
しかも一体だけではなく、ヤクト・ドーガタイプの機体を4体も引き連れている。
「あいつがコマンダーか!この雰囲気、まるでシャアじゃないか!」
「新型まで連れて来ているよ!」
「ほう、貴様まで復活しているとは思わなかったぞキャプテン。貴様も強化されているようだが、私も以前とは違うぞ!
行け!ドーガ四天王よ!ターゲットを捕獲するのだ!」
「貴様の相手は私のはずだ!」
「貴様自身の相手はな。守れるかな?フフフ」
「守ってみせる!行くぞ!」
両者のソウルドライブが展開する。
「なんだあれは!?シャアめ!ソウルドライブをコピーしたつもりなのか!」
激闘が始まった。
キャプテンとコマンダーの戦闘力は互角のようだ。
しかしキャプテンはドーガ四天王の相手もせねばならなかった。
兄弟達とサーペントテールが応戦しているが、相手がロボットでは歯が立たない。
3体がロランを狙い、残る1体はなぜか風花を襲った。
「何でアタシまで襲うのよ!?」
──ついでに風花たんと専属の個人契約を結びたいので、連れて来てくれたまえ……ハァハァ
シャアの悪い病気が出ていた。
キャプテンはコマンダーとの戦いだけに集中することができず、非常に不利だ。

「みんな、キャプテンを応援するんだ!」
「アムロ兄さん?」
「応援したくらいでこの状況が覆るなら世話ないって!」
「いいから応援するんだ!」
アムロらしからぬ言動であった。
「キャプテーン!がんばれー!」
「アル!?」
「みんなも応援してよ!キャプテーン!がんばれー!」
「応援ったって」
「アンタ達!キャプテンは家族なんでしょ!?応援くらいしてあげなさいよ!」
風花が怒鳴る。
「キャプテーン!がんばれー!」
「キャプテーン!がんばれー!」
サーペントテールも加わる。
「キャプテーン!がんばれー!」
「キャプテーン!がんばれー!」
いつしかそれは大合唱となった。
「キャプテーン!がんばれー!」
「キャプテーン!がんばれー!」
 が ん ば れ !
キャプテンのソウルドライブから光が溢れ出す。
「ええい、またか!この輝きは一体なんだというのだ!?私のソウルドライブと何が違うというのだ!?
ソウルドライブとは一体何なのだ!?」
困惑するコマンダーをキャプテンが圧倒し始める。
「シャア、貴様はソウルドライブが何なのか分かっていない!ソウルドライブは……
 人 の 思 い を 力 に 換 え る 装 置 な ん だ ! 」
「キャプテーン!がんばれー!」
「キャプテーン!がんばれー!」
ソウルドライブが太陽の輝きを放つ。
「私が再び敗れるだと!?何故だ……!?」
キャプテンの拳がコマンダーサザビードーガ四天王を完全に粉砕した。
光り輝くソウルドライブは沈まない太陽のようだった。

「さて今日の議題は会長の処分についてだが……」
ここはダイクン社本社ビルの会議室。
会長秘書にして副会長のナナイを始めとして、マハラジャ・カーン、アポリー、ロベルト、ドレンといった
ダイクン社グル-プの重役達が集まっている。
しかし皆鬼のような表情をしており、中央には会長であるシャアが吊るされていた。
「我々はコマンダーサザビーの良心回路欠陥による危険性を何度も訴えてきました!
アレはまだ表に出せるような機体ではありません!」
「再三の忠告にも関わらず、コマンダーの運用を強行。しかも人を襲わせるとは言語道断であります!」
「この事がマスコミに知られでもしたら、グループ存亡の危機ですぞ!」
「AIベースとなった会長の人格自体に問題あり!」
「クェスにプレゼントする予定だったドーガを勝手に持ち出してあんな事に使うなんて!」
「火あぶりだ!」
ミンチにしろ!」
「流星拳では手ぬるい。彗星拳を叩き込め!」
とても会長相手とは思えない恐ろしい制裁案が次々と挙がる。
「私からの提案も聞いていただきたい」
「ナナイ女史、いい案があるのかね?」
「今現在吊るされている会長をそのまま最大出力のサウナ室に放り込もうと思う」
「手ぬるい!」
「貴方は会長を庇いだてするとでもいうのか!?」
次々と不満の声が挙がるが、ナナイは続けた。
「お静かに!火あぶりやミンチ、光速の拳を叩き込むのは確かに良い制裁だった。
しかしこの男はその都度復活し、何度も過ちを繰り返してきたではないか!
最大出力のサウナ室に放置する事で、長時間にわたって精神的・肉体的苦痛を与えるだけではなく、
脱水症状を通り越して全身の水分を完全に奪い、乾物とする事が可能である!
乾物となってしまえば水で戻さぬ限り復活する事は不可能ッ!そのまま未来永劫会長室で標本となっていただくのだ!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオオ!』
「ララァ、私を導いてくれ……」
──イヤですわ、会長
がんばれナナイ。
ダイクン社の未来は君の双肩にかかっている。

グエンの屋敷は突如現れた日本刀を持ったアストレイと、Z顔の重MSに襲撃された。
「なにをするきさまらー!」
MSからの応答はなく、只々破壊活動をするのみ。
そして屋敷の地下室から今まで収集してきたロランに関するデータベースが収められたPCが引きずり出された。
「止めろ!止めてくれ!」
しかし無常にも聞く耳持たぬZ顔の重MSはそれを握り潰した。
「うあああああああああああああああ!!!!」
やがて屋敷は炎上し、ロランの写真も、着せようとしていたドレスも、株も、土地の権利書も、すべてが燃えてゆく。
「わたしは……あきらめないぞ……ロォォォォォォォラァァァァァァァ!!」
グエンの叫びも虚しく、財産はすべて灰燼に帰してしまった。

目撃者による通報もあり、屋敷を襲撃した2体のMSの所有者とされる人物が割り出され、事情徴収を受けたが、
「オレはその時は作業中だったな」
「なにも知らねェよ!」
事実関係を否認。
関係者の証言から、アリバイが成立。
結局この事件はあっさりと迷宮入りになった。
もっとも捜査を担当した08署の捜査はかなりおざなりだったかもしれないが……
事の一部始終をフランはカメラに収めていたが、この事件が報道される事は無かった。
フランの先輩のカイ曰く、
「真実を伝える事が常に正しいとは限らないのさ」

日常が戻ってきた。
サーペントテールは引き上げ、ドモンが遠征試合を全戦全勝で凱旋した。
途中でスランプも見られたものの、対シュバルツ戦で完全復活。
最終戦の対マスターアジア戦などは久しぶりの師弟対決ともあって大いに盛り上がり、近年まれにみる名勝負となった。
ギンガナムも仕事が一段落し、再び顔をだすようになった。
ロランはサーペントテールの件でお礼を言ったが、ギンガナムは照れくさそうにとぼけるばかり。
「(そのほうがカッコいいではないか!)」
今日は久しぶりの全員揃っての朝食。
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ…」
「また今日からキラの泣きっ面を毎朝拝むのか……」
「あれ?久しぶりにいつもの顔ぶれがそろったから、ちゃんとギンガナムさんの分まで用意していたんだけど……
変ですよねキャプテン?」
「私はここだが」
「って、何だよコイツ!?」
ギンガナムの隣に、武者タイプのガンダムが座ってキラの分の朝食を食べているではないか。
「紹介しよう!小生の新パートナーであーる!」
「爆熱丸だ!宜しく!」
「うわっ……ロボットがご飯食べてる……!」
「ボクガイチバンウマクガンダムヲツカエルンダ……うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ…」
「ああっ!アムロ兄さんが!」

「……という事があったのさブライト」
「他社の技術、侮り難しだな」
「ガンイーグルとガンダイバーの遅れを取り戻さなくっちゃな」
「無理はするなよアムロ」
「やれやれ、こいつは当分お蔵入りだな……」
アムロは持っていたディスクを引き出しに収め、鍵をかけた。

……深夜、静まりかえったラボに何者かが潜入した。
ミラージュコロイドで姿を消し、センサー類を突破、開発室に忍び込む。
引き出しの鍵を開け、収められていたディスクを手にする。
 GP-04 MADNUG
来期に開発されるはずだった新型機の設計案である。
侵入者はそれを手にすると再び外へ……


  ─ 了 ─


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最終更新:2019年11月07日 20:47