630 名前:光の翼(4) 1/5 :2015/09/12(土) 23:27:37.66 ID:HJapHqQR0
数十分後、ウッソ達はサナリィ社の研究室に居た。
あの後、ウッソは知人であるサナリィの研究者オーティスに連絡を取った。
仕事中なので迷惑ではないかと思ったが――案外、簡単に許可が出た。特に仕事がなくて暇だったらしい。
「オーティスさん!」
ウッソとオーティスの付き合いはそれなりに長い。
シャクティたちと一緒に近所のボランティア活動に参加したことが縁で仲良くなり、それからは実の祖父と孫のような間柄となっている。
「おお、ウッソ。いらっしゃい。一緒にいるのは…」
「兄のシーブックです」
「ほう。"初めまして"だな、シーブック君。私はオーティスだ」
「"初めまして"、オーティスさん。ウッソの兄のシーブック・アノー・ガンダムです。
 弟がいつもお世話になっています。サナリィの製品、いつも使わせていただいています」
クロスボーンガンダムX1とX2、そしてF91はサナリィ製の機体だ。
そのパイロットであるキンケドゥ・ナウ――すなわちシーブックはサナリィの一部社員と面識があり
その中にはオーティスも含まれている。キンケドゥとして会う時はもちろん変装しているのだが、オーティスは見抜いたようだった。
「そりゃあ嬉しいな。間違っても海賊行為になんぞ使わんでくれよ?」
「もちろんですとも」
含むように笑うオーティスとシーブック。
キンケドゥ一味がサナリィ製品を愛用していることは割とよく知られている話である。
損傷などの理由で現場に残ったパーツが決まってサナリィあるいは頭領のベラ・ロナ=セシリーの祖父が経営するブッホ・コンツェルン製なのだ。
足がつく危険を冒してまでパーツを現場に残しているのは、実はスポンサーであるサナリィの要望である。
義賊キンケドゥ・ナウのファンは多く、そんな人間に対する宣伝効果を狙ったものだ。
事実、キンケドゥ人気にあやかって販売した(ということになっている)フリントは他と比べて爆発的に売れていた。

632 名前:光の翼(4) 2/5 :2015/09/12(土) 23:33:30.81 ID:HJapHqQR0
「仕事中に来るなんて珍しいじゃないか。何かあったのか?」
「…色々あって、ミノフスキードライブを乗せた機体を探してまして
 そうしたら、ここにミノフスキードライブのテストに使われた機体があるって聞いたものですから…」
「F99のことか? だいぶ前に作ったモノだが…」
「そうです、それです!」
「誰から聞いたか知らんが…あれはもうウチにはないぞ」
「え?」
「研究チームの一部の連中が試作機と研究データを持ち出して逃げたもんでな
 今のサナリィには機体はおろかデータすらないんだよ」
「ええええええ…」
「犯人に心当たりとか、ありますか?」
「そんなこと聞いてどうする。それにさっきの質問にもまだ答えてもらっていないぞ」
「う。えっと…実は…」
ウッソはこれまでのことをかいつまんで説明した。
説明を聞いていくうち、オーティスが体をどんどん震わせていることに気付いたのはシーブックだった。
そして説明を終えた瞬間。底に貯め込んでいたマグマが噴き上がり噴火するように、オーティスは叫びだした。
「犯人はGジェネかザンスカールか木星産業の連中だ!」
「え、あの…オーティスさん?」

633 名前:光の翼(4) 3/5 :2015/09/12(土) 23:37:12.96 ID:HJapHqQR0
「よりにもよってウッソにまで迷惑をかけるとは! やはり奴らに技術者としての誇りなどないのだ!」
「え、えっと…なんでGジェネ社とか…ザンスカールとか、木星産業…なんですか?」
豹変したオーティスに驚きながらウッソが聞く。
「奴らはやる! そういう連中だ! 性根の腐りきった連中だからな!」
「相当に嫌ってるんだな…」
シーブックの呟きが耳に入ったのか、オーティスは腕を振り上げて熱弁を始めた
「偉い人と交渉したかなんだか知らんが、現場が苦労して考え出したモンを勝手に作って売り出しやがる連中なんざ大ッ嫌いだ!
 ザンスカールと木星産業はカネとオンナに物を言わせてうちの技術者をどんどん引き抜きやがる! お前らそんなに女が好きか!
 おっぱいぷるんぷるんな若い女がそんなに好きか! ロメロ爺さんほどじゃないがわしも大好きだよちくしょーめ!
 だからもっと技術者の待遇上げろって言ってんのに上の連中は聞きやしねえ! ちったあネオジオン見習えってんだバーカ!」
上層部と取引して現場が考えた設計をまるまる奪っていくGジェネ社と、しょっちゅう工作を仕掛けてくるザンスカール社と木星産業。
彼らならやりかねない――ということだろうか。私怨が混じりに混じっているせいで
ただ気に入らない企業を罵っているようにしか聞こえないが。ウッソはなんとなく兄の会社のヅダ乗りを思い出した。
普段の穏やかな姿が嘘のように怒鳴り散らす姿に、オーティスの秘めたる情熱を感じたウッソだったが
このまま続けさせるのはまずい。まだまだ元気とはいえ、かなりの高齢なのだから。

635 名前:光の翼(4) 4/5 :2015/09/12(土) 23:40:05.49 ID:HJapHqQR0
「オーティスさん、落ち着いて…」
宥めようとした矢先、部屋の扉を開いてやってきたのは三人の男女だった。
「あーっ! 何してるんですか、オーティス主任!」
そのうちの一人が、部外者にオーティスが怒鳴っている状況を見て慌てて止めに入った。
胸のネームプレートにはナヴィと書かれている。
「はいはい、とりあえず落ち着きましょうや主任」
振りほどこうと暴れるオーティスを、今度は黒髪と金髪の若い男二人が押さえつける。
黒髪のネームプレートにはデフ・スタリオン、金髪のネームプレートにはシド・アンバーと書かれていた。
「三馬鹿! F90のデータ収集はどうした!」
「だから三馬鹿はやめてくださいってば。もう終わりましたよ。なに外部の人に怒鳴り散らしてんですか」
「ごめんね。いつもは穏やかな人なんだけど、怒ると性格変わっちゃって…」
「は、はぁ…」
女性に謝罪され、気の抜けた返事をするウッソ。
オーティスという男の知らぬ一面を目にして少し混乱していた。
ちなみにキンケドゥ時に同じような勢いで叱られているシーブックは割と平然としていたのだが、ウッソはそんな兄の様子には気付けなかった。
気付けば、二人の足は会社の外へと向かっていた。

「とりあえず、帰るか。カミーユ達も何か手がかりがつかめたかもしれない」
「…そーですね」
そう答えるしかない。もう夕方だったし、少年の心はすでに疲れ切っていたから。

636 名前:光の翼(4) 5/5 :2015/09/12(土) 23:42:51.51 ID:HJapHqQR0
所変わって、日登警察署

どうしたもんか――輸送船襲撃事件の特別捜査本部にて。書類だらけの机に突っ伏し、内心でシローがうめいた。
事件発生からしばらく経つというのに、有力な手がかりをほとんど掴めていなかった。
マスコミの追及も日増しに強くなってきており、シローは疲れ果てていた。
「戻りました」
サンダースの声だ。部下が戻ってきたことに気付き、シローは慌てて起き上がる。
「どうだった?」
「ダメでした。近辺の宇宙港で聞き込みをして回ったのですが、現場を見ていた人間は見つからず…」
サンダースは目撃者の証言を集めて回っていたのだが、成果はなかったらしい。
「そうか…現場は地球の近くだし、誰か見ていないかと思ったんだが…」
「地球の近くとはいえ、隕石群のただ中。近寄りたくとも近寄れないという人間が多かったようです」
隕石群に近づくものは極めて少ない。単に衝突が怖いというだけでなく、宇宙海賊などが潜んでいる可能性があるからだ。
「他に、当たれるところがあれば当たってみようかと思うのですが」
「いつになくやる気だな…うらやましいよ」
言ったのは、疲れた様子で仮眠をとっていたエレドア。皮肉を含んだ台詞だったが、サンダースは胸を張った。
「ユカさんと約束したんだ、無事にこのヤマが片付いたら交際しようと…」
「死神カップルの立てた死亡フラグとか冗談じゃねえな…」
「誰が死神だ!」
「二人とも、やめな」
「こんな状況ですし、イライラするのもわかりますけどね…」
ぼやくエレドアに噛み付くサンダース、それを鬱陶しそうに止めるカレンに、やはり疲れた様子のミケル。
体力自慢が揃う警察署だが、調べても調べても手がかりが出てこないことからくる精神的な疲労はかなりのものだ。

「大変です!」
そんな中、慌てて飛び込んできたのは新人のリディだ。本来はグラハムの部下だが
輸送船襲撃事件の調査に当たって一時的にシローの部下として配属されていた。
「リディ。どうした?」
「Gジェネ社の研究用コロニーが攻撃を受け、破壊されたと通報が!」
「なんだって!?」


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最終更新:2017年05月23日 22:45