400 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(2) 1/62016/01/09(土) 20:57:53.92 ID:2oX7msNr0
セカイたちはガンダムファイト観戦のため、スタジアムを訪れていた。
二人でデートと思っていたらほかの娘も誘っていた――それを知ったガールフレンド三人は最初こそ不機嫌そうにしていたが
ファイトが始まると一転、きゃあきゃあと言いながら仲良く観戦を始めている。
それを見たセカイは三人を連れてきてよかったとしみじみ感じている――わけもなく、三人に負けない勢いで声を張って応援していた。

「うおおおおお! あぁぁぁぁにきぃぃぃぃぃぃ!」
「きゃー!」
「ドモンさん! そこよ!」
「ああっ! 避けて、ドモンさん!」
「がんばれー、ドモン兄ちゃん!」
「負けるなー!」

「どうした、ミケロ・チャリオット。動きが鈍いぞ」
「うるせえ! 今回はてめぇに勝つために、新技を編み出したんだ! 行くぜえ!
 スーパーミラクル銀色の脚サードインパクトカスタムショッキングレベル512クーポンけ――」
「待てえええい!」
技の名前を遮るようにして、男の声が響き渡った。ドモンの声でもミケロの声でもない。
何が起きたのかと困惑する観客たちの前に、天から一体のMSが降り立った。そしてあっけにとられているネロスガンダムの上半身に組み付く。
「なっ、なんだてめえ…!」
「ギギムセメントクラッシュ!」
「ま、まだ技名全部言ってねぇ…」
ミケロの悲痛な声は誰に向けてか。締め上げられた頭と腕がねじ切れ、ネロスガンダムはそのまま行動不能になった。

唐突に現れた謎のMFを見たフミナは、顎に手をやって唸った。
「あれってシャイターンよね…」
「シャイたん?」
「え、ギギムガンダムじゃないんですか?」
MSやMFのことをよく知らないミライが首を傾げる横で、セカイが言った。
「え?」
「頭は違いますけど、ネオザンスカール代表のMFですよ」
「えええええ…」
信じられないという顔をするフミナの袖をギャン子が引っ張った。
「…二人で納得してないで、私たちにもわかるよう説明していただけませんか?」
「あ、うん。…私の思い違いじゃなきゃ、あれは間違いなくMSのはず。しかも砲撃戦向けで運動性がすごく低いやつ。
 普通、あんな動きができるはずないんだけど…」
「見た目だけそっくりにしたんじゃないですか?」
「ほかに適任がいそうなものだけど…」

401 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(2) 2/62016/01/09(土) 20:59:29.76 ID:2oX7msNr0
試合会場では、ゴッドガンダムとシャイターン――ギギムが相対していた。
「貴様、ギンザエフ…!」
「よく私だとわかったな、ドモン・カッシュ」
「当たり前だ。その動き、その技。そして頭こそ変わっていても、そのマシンは間違いなくギギムガンダム。見間違えるはずがない」
「なるほど。よく覚えているものだな。だが、ガンダムの名は必要ない。これぞギギムガンダムの真の姿、ギギムMF仕様だ」
「そんなことはどうでもいい。一体なんのつもりだ!」
いきなり乱入し、ネロスガンダムを破壊してしまったのだ。スタッフも戸惑っている様子で、主催者側も想定外の出来事であることは明らかだ。
答えの代わりとばかりにギギムがぱちんと指を鳴らすと、地鳴りと共にコロシアムの周囲に白黒に塗られた多数のMSがやってきた。
「なんだ、こいつらは!?」
「こういうことだよ、ドモン・カッシュ。会場は制圧した。解放してほしければ私と戦え」
「ふざけるな!」
「ほう?」
もう一度指を鳴らすと、会場を包囲する一機がビーム・ライフルを撃つ。光線が外壁の上部を撃ちぬき、観客たちは悲鳴を上げた。

「わかるだろうが、今のはわざと外させた。次は観客席に当てるぞ」
「どこまでも卑劣な…! ギンザエフ、俺は貴様という男を買いかぶりすぎていたようだ!」
「過大評価など嬉しくもない。さあ、どうする! あくまで拒否するならば観客は皆殺しだぞ!」
観客を人質に取られて拒否権などあろうはずもない。ドモンは迷わず答える。
「いいだろう! そこまで戦いたいというのなら相手をしてやる! ガンダムファイト!」
「レディ!」
「「ゴー!」」
「喰らえ、千裂張手(サウザンド・プレッシャー)!」
「甘い! 分身殺法・ゴッドシャドー!」
分身を作り出して襲い掛かるギギムの攻撃を、同じく分身して受け止めるゴッドガンダム。
普通のパイロットからすればわけがわからない光景だが、MS格闘とガンダムファイトにはよくあることだ。


「やるな。ならば…内破砕衝撃波(バーニングソニック)!」
「ぐああッ!」
ギギムが放った衝撃波がゴッドガンダムに直撃する。全身を襲う強烈な衝撃に、たまらず膝をついた。
MS格闘技は元々、コロニー内でコロニーにダメージを与えないよう相手を無力化する方法として考案されたことが始まりである。
それが発展していく中で、モビルトレースシステムなしにパイロットにダメージを与える技がいくつか生み出された。これもその一つだ。
「モビルトレースシステムで機体のダメージも加わってダメージは二倍だ。もう立ち上がれまい!
 これで終わりにしてやる。超重量頭突き(ギガトンヘッドバット)!」
「なんのォ! ゴッドフィールド・ダッシュ!」
膝をついた状態で背部のエネルギー発生装置を展開させ、突進。体当たりをかける形となり、ギギムの姿勢を崩す。
「そうでなくてはな!」
愉快そうに笑うギンザエフ。二体のMFが素早く体勢を立て直し、先頭を再開した。
「うおおお!」
「ぬううう!」

402 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(2) 3/62016/01/09(土) 21:01:02.21 ID:2oX7msNr0
二人が戦っている中、観客席は突然の事態にパニックとなっていた。
「うわああああ!」
「嘘だろ、冗談だろ!?」
「大丈夫、ドモン兄ちゃんがなんとかしてくれるって…」
「は、早く逃げねえと!」
「僕たちの話を聞いてよ!」
「ね、ねえ、これってドッキリよね!? こんな…こんなことって!」
「待ってくれよみんな! パニックになっちゃだめだ!」
「うるせえ! 俺は逃げるんだよ!」
「ガキが偉そうな口をきくな!」
「あいつらが約束なんか守るものか!」
パニックになってはいけないのに。セカイ達は必死に観客をなだめようとするが、誰も聞く耳を持たない。
フミナ達も悲鳴を上げて逃げ惑うようなことこそしないものの、真っ青な顔をして震えていた。
「だ、だめ…」
「聞いてくれるわけない…こんな状況なのに」
「助けて…誰か…」
「だいいち、あいつらが同時に襲ってこないと誰が保証するんだ? あいつら全員を相手に戦ったら、ドモン・カッシュだって…」
「お、落ち着いてくれよ! いいから俺の話を…」
「うるっせえんだよ!」
激情にかられた観客の一人がセカイを殴り飛ばそうとしたが――それは二人の間から伸びてきたもう一つの手に止められた。
「いい加減にしろ!」
その手の主はアドウ・サガ。以前、セカイ達とガンプラバトルで争った男だった。
「な、なんだお前…」
「知ってるぞ…あの悪人面、ガンプラ学園のアドウ・サガ! デッドエンドのサガだ!」
「それに、絡まれてる赤い髪の奴…トライ・ファイターズのメンバーじゃなかったか?」

突然の有名人の登場に戸惑う観客たちなどお構いなしに、アドウは口を開いた。
「さっきから聞いてりゃ、お前ら何馬鹿なこと言ってんだ! よく考えてみろ!
 あんな古くせえ格ゲーから出てきたようなオッサンがドモン・カッシュに勝てるわけねえだろうが!」
「そ、そう…なのか…?」
「でもよ、スタジアムの周りにはほかのMSだっているんだぞ…いくらドモン・カッシュでも…」
「はっ、バカ言ってんじゃねえ! ドモン・カッシュがそこらの有象無象に負けるわけねえだろうが!」
「そうだ…そうだよ…な…」
「いや、でも…」
「でもでもうるせえ奴らだな! ドモン・カッシュは負けねえ!」
「そ、そうだ…」
「俺たちのドモン・カッシュが、ガンダム・ザ・ガンダムが…負けるはずないもんな…」
「いいか、お前ら! ドモンを信じろ! ドモン・カッシュを信じる、俺たちを信じろ!
 ――お前ら、第十三回ガンダムファイトの覇者は誰だ!?」
天を指差しアドウが聞く。

403 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(2) 4/62016/01/09(土) 21:03:01.81 ID:2oX7msNr0
「ど、ドモン…」
観客の一人が自信なさげに答えた。ざわめきが少しずつ収まっていく
「一年前! デビルガンダムなんて意味のわかんねえもんに殺されそうになってた俺たちに希望をくれた奴は誰だ!?」
もう一度、アドウが聞いた。
「「ドモン」」
答える人間が一人、また一人と増えていく。
「全世界中継で熱いプロポーズを決めてあのバケモンをぶっ倒した、漢の中の漢は誰だ!?」
さらに、聞く。いつの間にかざわめきは掻き消え、普段のガンダムファイトと同様かそれ以上の熱気がスタジアムを支配していた。
「「ドモン!」」
「この試合の勝者は、誰だ!?」
最後のひと押し。特別大きな声で、アドウが聞いた。
「「ドモン・カッシュ!!」」
観客全員が大きな声で答える。その熱気にあてられた客が放った歓声とドモンへの声援が会場の至るところから巻き上がった。

「あんた…」
「俺たちをぶっ倒した奴が、この程度で何ビビッてやがんだ」
アドウがセカイに声をかけた。
「は、はは…なんか、怖くて仕方ないんだ。あんな巨人が俺たちを殺そうとするんだから」
セカイも心の底ではあの巨人に恐怖を感じていたのだ。MSというのはあれほどまでに恐ろしい存在だったのかと。
「…ま、怖いのは俺も一緒だがな。
 今まで散々猫目だ狐目だって笑ってきたザンスカールのMSがいざ俺たちの命を狙ってるって考えると…急に怖くなりやがる」
「ごめん、みんな…頼りになんなくて」
ドモンが帰ってきて、さらに強くなったつもりだったのに恐怖してしまった自分に不甲斐なさを感じて、謝罪を口にする。
「そんなことないわ。本当は年長の私がしっかりしなきゃいけなかったのに。
 むしろ全力で怯えて、お姉ちゃんの胸に飛び込むのが普通なのよ」
「部長の私が怯えてちゃ、セカイくんだって怖いよね。こっちこそごめんね。でも、もう大丈夫」
「こ、この程度で怯えては…お兄さまに笑われてしまいます。弱い私が悪いのです」
「頼りにならないなんて嘘だよ。あの中でみんなをなだめようとしたセカイ兄ちゃん、すごくかっこよかったよ」
「ここで怖がるのが一番だめなんだ。そうだよね、キャプテン」
「その通りだ」
「みんな…」

「大した人気だな」
ギンザエフにドモンが自信に満ちた顔で返す。
「テロリストでは一生かかっても得られないものだ。俺を信じるみんなのためにも、負けるわけにはいかない! 行くぞ、ギンザエフ!」
「来い、ドモン!」

404 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(2) 5/62016/01/09(土) 21:04:02.29 ID:2oX7msNr0
「俺のこの手が真っ赤に燃えるッ!」
ゴッドガンダムの各部が展開し、エネルギー発生装置から日輪のような光が現れる。
拳と機体のエネルギーマルチプライヤーに浮かび上がるキング・オブ・ハートの紋章。ゴッドガンダムの拳が赤く燃え上がる。
「勝利を掴めと轟き叫ぶ!」
それに答えながら、ゴッドガンダムに組み付かんと突進するギギム。
「ばぁぁぁぁく熱! ゴッド・フィンガァァァァ!」
「ギギム・セメントクラァァァァッシュ!」
二つの機体が激突し、激しい爆発が巻き起こる。激しく巻き上げられる煙が会場を包み込んだ

「どっちだ!」
「どっちが勝ったんだ!?」
観客たちに緊張が走る。誰かがごくりとつばを呑む。
煙が晴れた先には――頭を失ったギギムが、ゴッドガンダムの肩にわずかに触れた状態で硬直していた。

「ガンダムファイト国際条約第一条」
一同が沈黙する中、ドモンが静かに読み上げる。
「頭部を失った者は、失格となる。…お前の負けだ、ギンザエフ」
「ああ…私の負けだ」
交わされた二人の言葉が引き金となり。会場を割れんばかりの歓声が包み込んだ。

スタジアムを包囲していたMSの様子を確認すると、一機残らずスタジアムを去っていく姿が見えた。
「MSが去っていく…」
「当然だ。私がそう命じたのだからな。私が負ければ、観客に手を出すなと…」
「ギンザエフ…なぜこんなことをした?」
ドモンとギンザエフは何度か面識がある。責任感が強く、温厚で家族思いな気持ちのいい男だと思っていた。
それがなぜこのような凶行に及んだのか、ドモンは知りたかった。
「それは敗者が語るものではないな。すべて言い訳になってしまう」
「勝者の要求に敗者は従うものだ。俺の質問にすべて、正直に答えろ」
こういう手段は好きではないが、武人であるギンザエフにはもっともよく効く方法だろう。
「そう言われては、答えぬわけにはいかんか…率直に言えばただの我儘だよ。
 外道に落ちる前に、せめてこの戦いだけは一人の武道家として在りたかった。それだけの話だ」
「そんなお前が何故こんなことをした。こんなテロ行為に加担せざるを得ない、理由があったんじゃないのか」
「…家族の安全を保障すると言われたからだ」
「なんだと…!?」
黒幕はこの男ではない。家族を人質に取られ、この悪事に加担したというのだ。
これが自分だったらどうか。兄弟を人質に取られたら、自分はどうするだろうか。
――わからない。ドモンの中で、黒幕に対する強い怒りが沸き上がる。
「それに…」
ぼそりと、ギンザエフが付け足すようにつぶやいた。

405 : 光の翼番外編 日登町防衛戦(2) 6/62016/01/09(土) 21:05:39.90 ID:2oX7msNr0
「ん?」
「この世に生を受けた以上は、誰かの記憶に残りたい…そう思うのは、おかしなことかな?」
「このままファイトで名を上げていれば、こんなことをせずともいずれお前の名は歴史に残ったはずだ。わざわざ悪名を上げる必要など…」
「そうだな。君はそう思うだろう。だが、私たちが求めるものは――いや、やめよう。時間が惜しい」
自嘲するような笑みを浮かべた彼が何を言いたかったのか、ドモンにはよくわからなかった。
「もういいだろう。行け、ドモン…今頃、街の至るところで同じようなことが起きているはず。お前の力が必要だ」
ドモンはまだ追及したかったが、彼の言う通りここで時間を食っている場合ではない。
町のいたるところで煙が上がっているのが見える。ここと同じようなことがほかの場所でも起きているのだろう。
「ああ…いいファイトだったぞ、ギンザエフ。今度はこんな形ではなく、お互い万全の状態で戦おう」
「………ああ。そうなったらいいな」
ドモンはすぐにスタジアムの運営に連絡し最寄りのシェルターに観客を避難させるように要請すると、自身は町へと飛び立った。

「…いいファイトだった、か。外道には過ぎた言葉だよ。ドモン・カッシュ」
本来、まっとうなファイターにかけるべき言葉だ。それをこんな外道にかけるとは。
機能停止したギギムの中で、ギンザエフの頬を涙が伝う。涙の理由はギンザエフ本人にもわからなかった。

同時刻、警察署。
直撃するはずのビームは届かなかった。――クラスターガンダムがビーム・シールドで受け止めていたからだ。
「クラスターガンダム…ウォルフ巡査か!」
『おう。でもシールドにエネルギー全部使っちゃって動けないんだわ。あと頼むよ』
「任せろ!」
「警察署にカチコミたあ、やってくれんじゃねえか!」
どうやら町の至るところでMSが暴れているようだ。シローたちはさっそく、事態の収拾へと動き出した。


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最終更新:2017年05月24日 20:53