412 : 光の翼番外編 降下阻止作戦 1/42016/01/12(火) 23:19:06.04 ID:N/zvbPrB0
地上のMSの蜂起と時を同じくして、
日登町のはるか上空――大気圏を超え、宇宙ではソレスタルビーイングの一同がMSを展開していた。
「仕事中にいきなり連れ出して。何のつもりだ」
ガンダムハルートのコックピットで、ソーマが不満げにこぼした。
いつものように仕事をしていたら慌てた様子のアレルヤ他ソレスタルビーイングのメンバーにMSに放り込まれ、気が付けば宇宙にいたのだ。
「今回は少し厄介なことになりそうなの。あなたの力を借りる必要があると判断したわ」
「スメラギさんが言うんだ。きっと何かよくないことが起こると…」
スメラギとアレルヤの説明を受けてもソーマは不満げだった。当然だ、具体的に何が起きるのか全く説明されていないのだから。
「私は
ソーマ・ピーリスだと言っているだろう! 何か起きると言うが、具体的には何が起きると…」
「テロリストの襲撃よ」
「は?」
「高熱源体、多数接近!」
プトレマイオス2のブリッジからフェルトが告げる。まだ遠く、ブリッジからはわずかな光が見えるのみだ。
「来たわね…ニール、何か見える?」
すでに狙撃の姿勢に入っているニールに問いかける。
「あ、ああ…見えるぜ。見えるけど…」
「しっかりして! 何が見えるの! 見えたままを報告しなさい!」
悪夢を見ながらもどこか笑っているような、なんとも形容しがたい表情をして言い淀むニールに問いかけた。
「…ック…」
「え?」
よく聞こえず聞き返すと、半ばヤケになったような大声が返ってきた。
「ズゴックだ! 白黒のズゴックが歩いてきてる!」
「ズゴックって…」
しかも歩いてくるとは、意味がわからない。もしや酒でも飲んでいたのか――スメラギがそう考えたとき、プトレマイオス2も敵の姿をとらえた。
「映像、出します! …え?」
ブリッジのモニターに映ったものを見て、フェルトが間の抜けた声をあげた。ほかのクルーも同様に困惑した表情を見せている。
一隻のファルメルと多数のムサイを背に大量のモノクロ・ズゴックが地球へ向け行進してくる、ニールが言ったとおりの光景がそこにあった。
「なんだよあれ! 水中用のマシンがなんで宇宙で活動してんだよ!」
「宇宙空間を歩くとは、器用なことを…」
「相手の意図はなんだ、僕らを困惑させて喜んでいるのか…!?」
「宇宙を飛ぶ不思議なズゴックですぅ」
「むしろ歩いてるわよ、あれ。どっちにしてもどんな都市伝説…」
「落ち着いて! 貴方たちがズゴックに見えているものは多分、RFズゴックよ。あれなら宇宙空間に適応していてもおかしくはないわ
わざわざ歩かせているのは、相手を混乱させてその隙をつく思惑があると見たわ。なんて恐ろしい…」
混乱するメンバーを一喝し、それらしい台詞で動揺する自分も落ち着かせる。声が裏返ったり震えたりしていないかかちょっと心配だった。
「本当かな…」
通信機を通じてアレルヤの呟きが聞こえてきたが、精神衛生上の観点から全員が聞こえなかったことにした。
「まあとにかくだ。宇宙飛ぶズゴックだろうが何だろうが、俺たちがとにかくやることは一つだろ? なあスメラギさん」
「そ、その通りよ。奴らを一機たりとも地球へ降下させないように!」
ニールの声にこたえ、号令を上げる。
「「了解!」」
彼らもプロである。思考を切り替え、それに応じた。
のちに一切の記録を抹消され、関係者の誰もが語ることを拒んだ幻の作戦が幕を開けた。
413 : 光の翼番外編 降下阻止作戦 2/42016/01/12(火) 23:20:14.92 ID:N/zvbPrB0
地球降下阻止作開始からしばらく経った。倒したズゴックの数はゆうに五十を超えただろう。
しかし、やってくる敵は一向に減る様子がなかった。
「数が多い! どれだけ積んでるんだ、あのムサイ!」
「一生分のズゴックを見た気がするぜ…スメラギさん、援軍は?」
「期待はできないわ。この戦力でなんとか…」
「無茶な作戦はいつものこと、だけど…」
「このままでは突破されるのも時間の問題だぞ。どうにかならないのか」
「…応援は要請しているわ。できるだけ粘って」
戦闘開始直後から要請は送っている。問題は相手からの返答が全くないことなのだが――言っても士気が下がるだけだ。
「月の状況は?」
「まだ援軍を送れるような状況ではないようです」
ここからほど近い月にも援軍の要請は送っているが、あちらでも襲撃があったらしく断られてしまったのだ。
「珍妙奇天烈なヘンテコマシンがあちこちから無数に湧いて出てきて大暴れしてるって話ですが…」
表現に何やら引っかかるものを感じたが、月を気にしていられるような状況ではないのも事実。スメラギは意識を戦場に向けるために声を張り上げた。
「そんなことより弾幕薄いわよ、何やってるの!」
「これ以上は無理です!」
ジリ貧か。そう思ったとき、レーダーに新しい反応があった。
同時に、地球に迫るズゴックが横から飛んできた銃弾に貫かれて撃墜された。
「攻撃…どこから!?」
「右舷からMSとMA…戦艦の反応! 通信が来ます!」
巨大な筆箱に例えられるフォルム。
ヨーツンヘイム社所有の戦艦、ヨーツンヘイムだった。
「こちら、戦艦ヨーツンヘイム艦長マルティン・プロノホウ。状況から貴艦の危機と判断し援護に入ったのだが…」
「ほれ見ろほれ見ろ! やはりズゴックだったではないか!」
「本当に宇宙飛んでる…というか歩いてる?」
「ズゴックをわざわざ宇宙仕様に改造するなんて、あいつら何考えてんだ?」
「元々水中用で機密性の高い機体ですし、改造は容易ですが…」
「ふはははは! やはりこの騒ぎはジオニックの陰謀だったのだ!」
「あれ作ったのMIP社なんですが」
「なに、ジオニックの陰謀にMIPが加担していたというのか!?」
「………」
「ええい、うるさい! …えー、こちらの見解に間違いはないか?」
「こちら、プトレマイオス2艦長のスメラギです。間違いありません。援護、感謝いたします」
うるさく入り込んだ通信の中に、刹那が聞きなれた声を見つけた。
「マイ兄さんか!?」
「ちょうど近くの宙域でテストをしていてね。訓練じゃなさそうだから加勢したけど…まずかったかい?」
「いや、助かる! 奴らを地球に降下させないようにしてほしい!」
「…ということらしいのですが、どうしましょう」
マイが通信をヨーツンヘイムへとつなぐと、プロノホウは大きく頷いた。
「聞かれるまでもないな。これよりヨーツンヘイム社一同は、ソレスタルビーイングの援護に入る!」
414 : 光の翼番外編 降下阻止作戦 3/42016/01/12(火) 23:21:23.07 ID:N/zvbPrB0
意外な増援に喜ぶ艦橋に、さらなる情報が舞い込んできた。
「地球からこちらに向かってくる戦艦の反応ありですぅ!」
「挟撃!?」
「――いえ、違います!」
多数のMSを連れながら戦艦がやってくる。
「アレキサンドリア…ティターンズか!」
市民と警察の有能さのせいで税金泥棒などと呼ばれる日登町警察の公安部――ティターンズの戦艦だった。
「さすがの彼らも、これは見逃せないようだな」
「アレキサンドリアからプトレマイオス2へ。こちらはティターンズ所属、アレキサンドリアのガディ・キンゼーだ。
遅れてすまなかった。これよりティターンズは侵略者の掃討作戦に移る」
「こちらプトレマイオス2のスメラギ・李・ノエリガ。援軍に感謝します」
「それにあたり、そちらへ届け物がある」
「届け物、ですか?」
アレキサンドリアのハッチが開き、そこから三機のMSが飛び出してきた。
「うわ何あれキモッ!」
「本当にきめぇ…夢に出そうだ」
「無駄口をたたくな。…チーム・トリニティ、遅ればせながら加勢する」
三種のガンダムスローネ。チーム・トリニティのメンバー達だ。
「やっほー、せっちゃん! 助けに来たよ!」
「
ネーナ・トリニティか!」
「チーム・トリニティ…何のつもりだ?」
「睨むなよ。ほら俺たちも一応ソレスタルビーイングだし?」
噛みつくティエリアにヨハンが返す。
「やめなさい、ティエリア」
「アロウズも来ている。彼らは側面から敵を叩くようだが」
「
リボンズ・アルマークとその仲間が…か?」
「信じられないか。まあそうだろう。私だって信じられん」
信じられないとばかりに言う刹那に対して、ミハエルは同感とばかりに頷いた。
しかし先ほどから敵の攻撃が緩んでいるということは、そういうことなのだろう。
「ふはははは! これで二十機! 軟弱この上ない! やはりジオニックよりツィマッドということが証明されたな!」
ヒートホークでズゴックを切り裂き、デュバルが歓喜の声を上げる。
「だからズゴックはMIP社製…」
「そりゃ、それで負けたらデュバルさんの腕かヅダの設計のどっちかが絶望的ってことになりますし…」
デュバルの乗っているヅダはただのヅダではない。一番機をベースにチューニングと改造を施したデュバル専用ヅダとでも言える代物だ。
一般に流通させているヅダと違って各パーツも高品質・高級なものに取り換え、エンジンを全開にしても
空中分解しない"理想のヅダ"である。
全体的な性能も大きく向上し、もはやゲルググと比肩する性能を手にしている。しかしコストもゲルググに匹敵するので販売は行われていない。
「性能は普通のズゴックと同じかそれ以下…でも数が多い!」
415 : 光の翼番外編 降下阻止作戦 4/42016/01/12(火) 23:24:27.12 ID:N/zvbPrB0
「モニクさん、ワシヤ! 休みながら戦ってください!」
マイはビグ・ラングとそれに搭載されたMDオッゴによる援護役なのだが、トラブルの絶えない環境のもとに培われた能力は目立たないながらも一級品。
三人がカバーできない位置にいる敵や隙を狙う敵を落とすなどして、ひっそりと撃墜数を増やしていた。
刹那のコックピット内に、けたたましい警告音が鳴り響いた。高速でこちらに接近する機体を感知していた。
「刹那、気を付けろ。何か来てるぞ!」
本来は
ネオジオン社の水中用MS。ビグロもかくやと言うスピードで迫ってくる、その機体は。
「ゾックか…!」
ゾックだった。本来水陸両用のはずだが、そんなことはお構いなしに突進してくる。
「でも突進しかしないみたいですぅ」
ミサイルなどが積まれているはずだが、それを撃つこともなくただ機械的な突進を繰り返すだけ。
「………」
突っ込んでくるゾックに向けて、ダブルオーライザーもGNソードを向けながら突進を始めた。
両者はスピードを緩めることなく激突、ビームなどで守られていたわけでもないゾックはそのまま真っ二つになって爆散した。
「…ゾックを撃墜。ズゴックの掃討任務に戻る」
それだけ言って、刹那はズゴックの掃討に戻った。ワンオフだったらしいゾックはそれ以降、出てこなかった。
なんのために出てきたのか、そもそもなんであんなものを作ったのか。誰もが気になったが、考える気は起きなかった。
味方がぐんと増えて、戦闘もだいぶ楽になってきている。
しかし多数のズゴックによる人海戦術とひっきりなしに飛んでくる強力なミサイルを前に、なかなか攻勢に転じることができないでいた。
終わらない防戦、特にずっと戦い続けているソレスタルビーイングのマイスター達の集中力は限界に近かった。
「またレーダーに反応! 何か近づいてきます!」
「今度は何!?」
今度は刹那が最初に気が付いた。見覚えのあるMSだったからだ。
「青いF91、ハリソン・マディンか! それに…」
そしてその青いF91に連れられるようにやってくる三つの機影。そのうちの一つから通信が入った。
「こちらはクロスボーン・バンガードのキンケドゥ・ナウ。助太刀するから、撃たないでくれよ」
「何のつもりだ」
「あの町は我々にとっても思い入れがあるから、今回は君らと共闘する。それだけじゃいけないかな?」
刹那が聞くと、キンケドゥはそう返事した。
「なら、いい」
「意図はわかりませんが…そういうことならば」
刹那と、それに続いてスメラギが返答する。状況を好転させるため、まだまだ戦力が欲しかった。
敵の数もわずかずつではあるが落ち着いてきている。このまま進めば勝利を掴めるだろう。
警察、海賊、ボランティア(?)団体、企業。様々な組織が入り乱れた混沌極まる戦闘の終息は、近い。
最終更新:2017年05月24日 20:56