48 名前:だって女の子だもん(1/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:22:52 ID:???
 ある日、久々の休日にνガンダムの様子を見ようと格納庫に入ったアムロは、
 隅っこに置かれているSガンダムの前でアルとシュウトが何やら騒いでいるのを見つけた。
(やれやれ、また忙しい休日になりそうだな)
 内心苦笑しながら近づいていくと、アルとシュウトはSガンダムを見上げて何やら叫んでいるようである。
「ALICEー」
「いい加減機嫌直してよー」
「何やってるんだ二人とも」
 声をかけると、二人は顔を輝かせて振り返った。
「アムロ兄ちゃん、いいところに」
「ALICEを何とかしてよ」
「なにか、トラブルでもあったのか」
 Sガンダムを見上げたアムロは、奇妙なことに気がつく。いつもと外見が違うのである。
 しかも、後頭部にはリボンが巻かれ、腰のところには何やら布が巻きつけられている。
(スカート、か)
 そうらしかった。他の兵装はそのままなので、実に滑稽な眺めである。
「どうしたんだ、これ」
「いつものように、キラ兄ちゃんがメンテナンスしてたんだけど」
 アルが事情を説明し始める。
 自分の意志を持つと言っても、ALICEはあくまでもAI、つまりは機械である。
 だから、Sガンダムの整備はソフト面に強いキラに任されているのであった。
「その途中で、ALICEがたまにはオシャレとかしてみたいとか言い出したんだよ」
「オシャレ、か」

49 名前:だって女の子だもん(2/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:25:06 ID:???
 ALICEは、その名のとおり女性的な人格を持っている。
 ひょっとすると、情報収集の過程で偶然ファッションのページでも閲覧したのかもしれなかった。
「で、何故こうなったんだ」
 リボンとスカートが全く似合っていないSガンダムを見上げながら、アムロが言う。
 アルとシュウトは顔を見合わせてため息を吐いた。
「最初言われたとき、キラ兄ちゃんはラクス姉ちゃんを呼んでくるって言って出て行ったんだ」
「自分には女の子のオシャレとかがよく分からないからって言って」
「でもなかなか帰ってこないもんだから、ALICEがちょっとイライラし始めて」
「そこに通りかかったのがコウ兄ちゃんだったんだよ」
 アムロは天を仰ぐ。
 要するに、MSオタクであるコウが、MSのオシャレと聞いてやる気を出したものらしい。
 しかし、日頃からチェリーチェリーと馬鹿にされているコウのこと、女の子のオシャレなど分かるはずもない。
 結果、「女の子=スカート」「可愛い=リボン」という実に単純な図式の下にコーディネイトが施された訳だ。
これだからチェリーは
「え」
「いや、なんでもない。それで、その後は」
「完成したって言って、コウ兄ちゃんは一人勝手に帰っちゃったんだけど」
「そこにジュドー兄ちゃんとガロード兄ちゃんが通りかかって、二人して大爆笑」
 そうしてショックを受けたALICEは、呼びかけに答えず、コックピットハッチも開けずに引きこもっているらしい。
「まあ、それは大変ですわね」
 後ろから、柔らかい声が聞こえてきた。振り向くと、キラとラクスが立っていた。
「遅いよキラ兄ちゃん」
「ごめん。まさか、こんなことになっているとは思わなくて」
 抗議するアルに、キラは素直に詫びる。ラクスは二人の脇を通り抜けて、Sガンダムに近づいた。

50 名前:だって女の子だもん(3/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:26:20 ID:???
「ALICEさん、少しお話いたしませんか」
 すると、Sガンダムの頭部がわずかに動き、バイザーがラクスの方に向けられた。
 やっと反応を示したと喜ぶアルとシュウトの横で、しかしアムロは危惧を抱く。
 その予感は的中し、Sガンダムのカメラ・アイが徐々に赤色に光り始めた。ALICEの機嫌が悪くなった印である。
「ラクス、危ない」
 叫びながら、キラがラクスを抱えて飛ぶ。
 次の瞬間、Sガンダムの頭部から発射されたバルカンが格納庫の床を抉った。
 アルとシュウトも、悲鳴を上げながら近くにあるガンダムの影に隠れた。
「二人とも、こっちだ」
 キラとラクスを引っ張り上げ、アムロは寝かせてあるνガンダムの影に退避する。
 Sガンダムはゆっくりと動き始め、こちらに向かってくるところだった。
「怪我はないか、二人とも」
「はい。あの、アムロさん。ALICEさんは一体どうなさったのですか」
 あんな目に遭ったというのに、ラクスはあまり動揺した様子を見せていない。
 そのことに少々驚きながら、アムロはSガンダムに注意を払ったまま答えた。
「多分、嫉妬したんだろうな」
「嫉妬、ですか」
「そうか、自分がオシャレして笑われたところに、ラクスのような子が現れたから」
 納得したように言うキラに、アムロは頷き返す。ラクスは責任を感じている様子で、目を伏せた。
「では、私のせいなのでしょうか」
「いや、どちらかと言うとウチの愚弟どもの不始末だ。巻き込んでしまってすまないね」
「いえ。ですが、一体どうしたら」
 問いかけるラクスに答えず、アムロはこちらに近づいてくるSガンダムを見やった。

51 名前:だって女の子だもん(4/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:27:13 ID:???
 怒りに我を忘れたALICEが、νガンダムの影に隠れていたキラとラクスにバルカンの銃口を向けたとき、間一髪で起動したνガンダムが、シールドで二人をかばった。
「ALICE、落ち着いて話を聞くんだ」
 コックピットの中で、アムロはALICEに話しかける。しかし返答はなく、代わりにバルカンが飛んできた。
 アムロは舌打ちしつつ、機体を立ち上がらせる。キラとラクスを踏み潰さないように、最新の注意を払いながら。
「弟以外を相手に躾する羽目になるとはな」
 呟きながら、アムロはSガンダムが反応するよりも早く体当たりし、まずは距離を取った。
 問題は、Sガンダムが強力な火器を搭載しているという点だろう。こんな狭い格納庫でビームなど使われてはたまらない。となると、どうしても接近戦に持ち込む必要があった。
 アムロは素早く機体を移動させ、Sガンダムに肉薄しようとする。それよりも早くSガンダムが構えたビームスマートガンは、他方向から飛んできたビームに吹き飛ばされた。アムロがちらりとモニターで確認すると、その方向に青い翼を広げたフリーダムガンダムが立っている。
「よくやった、キラ」
 微笑を浮かべて呟きながら、アムロは怯むSガンダムのコックピットハッチに、νガンダムの指先を伸ばす。Sガンダムは背後に退こうとしたが、その前にフリーダムが素早く回り込んで、退路を塞いでいた。
 そうやってひとまずSガンダムを押さえたアムロは、無理矢理コックピットハッチを引き剥がし、素早くSガンダムのコックピットに飛び乗った。
「ALICE」
 話しかけると、モニターが薄らと赤く染まった。
(いじけてるな)
 さてどう説得したものかとアムロが頭を掻いたとき、不意に後ろから声が聞こえてきた。

52 名前:だって女の子だもん(5/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:29:12 ID:???
「ALICEさん」
 柔らかい声音である。驚いて振り向くと、フリーダムの手の平に乗ったラクスが、微笑を浮かべてコックピットを覗き込んでいる。
 モニターが真っ赤に染まる。激怒の印である。アムロはラクスに警告を発しようとしたが、それよりも早く、彼女は口を開いた。
「私も、同じような体験をしたことがありますわ」
 モニターの赤が、一時的に薄くなる。それに気付いているのかいないのか、ラクスはゆっくりとコックピットの中に足を踏み入れてきた。
「何年前のことか、もう忘れてしまいましたけれど。まだ、私のお母様が生きていらっしゃった頃のことですわ」
 アムロは自然にラクスをシートに導き、身体を避けていた。ALICEがラクスの話に興味を持ったらしいと悟ったからだ。ラクスはシートに腰掛けながら、ゆっくりとALICEに語りかける。
「お母様はとても綺麗な方で、私はいつもお母様のようになりたいと思っていました。それで、あるときこっそりお母様とお父様の寝室に忍び込んで、勝手に化粧箱を開いてお化粧を始めましたのよ」
 そのときのことを思い出したように、ラクスは小さく笑った。
「もちろん初めてで、お化粧のことなんか全然知りませんでしたから、口紅ははみ出すし顔は真っ白になるしで散々でしたわ。
 そのときにお父様が部屋に入ってきて、『何してるんだいラクス』と仰いましたの。それで振り向いたら、お父様は私の顔を見て大笑いなさいましたわ」
 そのとき、小さな単語が、薄らと浮かび上がるようにモニターに表示された。
『本当?』
「本当ですわ。お父様に笑われたのがとてもショックで、私はその場で泣き出してしまいました。そうしたらお母様が私を抱き上げて、頭を撫でながら話してくださいましたの。
 『お化粧が似合う年頃というのがあるから、そのときがきたらちゃんと教えてあげる。やり方さえ間違えなければ、女の子はもっと綺麗になれるのよ』って」
 ラクスは撫でるような手つきでモニターに触れながら、ALICEに微笑みかけた。
「大丈夫。ALICEさんも、きっともっと綺麗になれますわ」

53 名前:だって女の子だもん(6/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:30:51 ID:???
 長い長い沈黙のあと、躊躇うような薄い文字が、モニターに浮かび上がった。
『本当にそう思う?』
「ええ、もちろん。それに」
 と、ラクスは嬉しそうに笑う。
「私、今のALICEさんもとっても可愛らしいと思いますわ。リボンがよくお似合いですもの」
『嘘』
「あら。私、こういうことで嘘を吐いたことは一度もありませんわ」
 表情を見る限り、実際ラクスは本当のことを言っているらしかった。
(キラ。美的感覚はともかくとして、なかなかいい恋人を持ったじゃないか)
 ALICEのモニターに浮かぶ色は、赤と青の間で揺れ動いていた。
『でも、ジュドーとガロードは私を見て笑ったわ』
 戸惑っているらしかった。もう一押しだな、と心の中で頷いて、アムロはモニターの正面に顔を出した。
「二人が笑ったのは、照れ隠しだったんだ」
 瞬きするような間があった。
『どういうこと?』
「ALICEがチャーミングすぎるからさ」
 女を口説くときの表情と声を最大限に使って、アムロはそう言ってやった。これで落とした女は数知れずである。
 一瞬、モニターが真っ白になった。
 ホワイトアウトか、とアムロが疑った瞬間、コックピットを地震のような揺れが襲う。ラクスが小さく悲鳴を上げた。
「なんだ、一体何が」
 アムロはぎょっとした。モニターに意味不明の文字の羅列が現れ、赤く染まった背景が激しく点滅している。
 こんな反応を見るのは初めてである。そして、同時に気付く。この揺れは、ALICEがSガンダムの機体をよじっているのが原因だと。
(そうか、この反応は)
 あまりに強い揺れに、アムロはコックピットの外に投げ出される。遠ざかっていくSガンダムの頭部を見上げながら、アムロは苦笑した。
(羞恥心、か)
 その瞬間背中を激しい衝撃が襲い、アムロの意識は闇に飲み込まれていった。


54 名前:だって女の子だもん(7/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:33:02 ID:???
 この後、奇跡的に一命を取り留めたアムロは、当然ながら病院に運び込まれた。
 なお、そのとき機体を縮こまらせて謝罪するALICEに対して、
「女の子はちょっとじゃじゃ馬過ぎるぐらいが一番可愛いのさ」
 と返答したことで、撃墜王白い流星の伝説にまた新たなエピソードを刻むことになった。
 また、この騒動に完全に巻き込まれた形となったラクス・クラインは、
「あのぐらいは慣れっこですわ」
 と微笑みながらコメントし、彼女の芸能生活の過激さをより一層印象強くすることとなったのであった。

 あれから一週間後。
 キラは修復されたSガンダムのコックピットハッチに腰掛けて、つまらなそうに頬杖をついていた。
 後ろからは、シートに座ったラクスの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
 あれ以来、ALICEとラクスは大の仲良しになっていた。
 ラクスも忙しい芸能生活の合間のいいストレス解消になるということで、今や暇を見つけてはSガンダムのコックピットを訪れるようになっている。
 それはいいのだが。
(最近、僕とあまり話してくれてないような気がする)
 なんとなく、面白くないキラである。二人の会話に参加しようとしても、
「女の子同士の間に入るのは無粋というものですわ、キラ」
『無粋だわ』
 とやんわり拒絶されるので、尚更面白くない。
(いや、そんな風に思っちゃいけないな。ラクスが笑ってくれてるんだ、喜ばしいことじゃないか)
 そんな風に、無理矢理自分を納得させようとするキラである。


55 名前:だって女の子だもん(8/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:35:24 ID:???
 アムロの回復は順調なようだった。あんな高さから落ちたというのに、一週間後には病院を出てくるらしい。
「とりあえず今回の騒動の原因になったコウとジュドーとガロードには重い罰を与えてやる。シーマとハマーンに偽の告白メールを送信しろ。
 あと、ティファに事の顛末を話して『女の子のこと笑うなんて最低』と冷たい声で言ってもらうように頼んでおくんだ」
 そういう内容のメールをキラに送ってくる辺り、特に後遺症も残っていないらしい。
(まあ、とりあえずいい方向に解決してよかった)
 内心、キラはほっと息を吐いている。
 今回の騒動は、どうやらこれで何事もなく終わりそうだった。
 ただ、あの騒動以来、Sガンダムが唐突に妙な反応を示すことがあって、それが不安といえば不安なのだが。
「キラ」
 不意にラクスに呼ばれて、キラは振り返った。久しぶりにラクスと話せる、と自然と顔が綻んでくる。
 ラクスの手招きに応じてシートに近づくと、彼女はモニターを手で示した。
「ALICEさんが、キラにお尋ねしたいことがあるそうですわ」
 なんだそういうことか、と少しがっかりしながら、キラはモニターに向き直る。
「どうしたの、ALICE。どこか調子の悪いところでもあるの」
 聞いたが、モニターが青く点滅するばかりで、なかなか答えが返ってこない。
 もしかして戸惑っているのか、とキラが勘ぐったとき、不意にモニターに文字が表示された。
『あのね』
「うん」
『アムロって』
「アムロ兄さんがどうかしたの」
 少し驚いて問い返すと、モニターが赤く染まった。怒りのときとは微妙に色合いが違う。羞恥心の印である。
『アムロって、どんな女の子が好きなの』
 その文字が表示されたのは、一瞬であった。モニターはすぐに真っ赤に染まった。
 キラは目を丸くして、ラクスと顔を見合わせる。ラクスもキラと同じぐらい驚いている様子だったが、すぐに満面の笑顔を浮かべてモニターに向き直った。

56 名前:だって女の子だもん(9/9)投稿日:2006/08/16(水) 22:37:12 ID:???
「ALICEさん、アムロさんのことが気になりますのね」
『わかんない。アムロのこと考えると変になるの』
 最近の妙な反応の原因はそれか、とキラはようやく納得した。
「素敵ですわ」
 目を輝かせているラクスの肩を、キラはおそるおそる叩く。
「あの、ラクス」
「なんでしょう」
「もしかして、協力するつもりじゃ」
「まあ、キラはALICEさんの手助けをなさいませんの」
 ほんの少し、非難するような調子である。キラは慌てて首を振った。
「いや、まさか。もちろん協力させてもらうよ」
「ありがとうございます。心強いですわ」
 にっこりと笑ったあと、ラクスはまたモニターに向き直る。
 モニターには、ALICE自身が考案したあと思しき、様々なSガンダムの外装が表示されている。 フリルのついたスカートを履いてみたり全身にリボンを巻いてみたりとなかなか面白い画像ばかりである。
「まあ可愛らしい」
『本当?』
「ええ、もちろん。でも、きっともう少しアレンジできると思いますわ」
『お願い。こういうの、まだよくわからないの』
「二人でちょっとずつ考えていきましょう。そうですわ、私のお友達にも協力して頂きましょう」
 ラクスははしゃいだ声を上げているが、キラは少しも愉快な気分になれなかった。
(アムロ兄さん。まさか、AIまで虜にするなんて)
 このことが原因で、一体どれだけの騒動が巻き起こるだろう。
 もしも修羅場になったら、一体どれ程の地獄絵図が展開されることか。
 後ろから聞こえてくる楽しげな笑い声とは裏腹に、キラは激しく身震いするのであった。



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最終更新:2019年03月19日 17:56