278 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 八の一投稿日:2006/12/23(土) 02:58:16 ID:???
「ザビーネ…脱出に失敗したか」
宇宙空間にて。メルクリウスのコクピットで、ヒイロは呟いた。
目の前にいるのは黒い
ガンダム、クロスボーンガンダムX2。乗っているのはザビーネ=シャル。
通信回線を開いてみたが、X2からは笑い声が届くだけである。頭痛がするので即座に切った。
「どうする、ヒイロ」
接触回線で問いかけてくるのは、ヴァイエイトのトロワだ。二人とも愛機が派手なので、サブ機体であるこちらを使っている。
「破壊する」
「分かった」
意思確認は短い。一瞬の後、三機は激突した。
セシリーは携帯電話でドレルと話していた。
『ベラ、本気か!? それは犯罪なんだぞ!』
「分かってるわ、兄さん。だけどもう見てられないのよ! パンで勝負するのでなく、こんな情報戦で私達を潰そうというなら…!」
『そうだ、情報戦ならプリベンターがやってくれるじゃないか。うちはMSは持っていても、一介のパン屋だ。パン屋ならパン屋としての勝負をするのが…!』
「だからアレが必要なのよ! ジュピターの本社は宇宙にあるのよ!? 民間のMSじゃ大気圏の突破は出来ない、だったら!」
『キンケドゥ疑惑が深まるだけじゃないか!』
「っ! けど…!」
「セシリー、僕に話させてくれ」
「シーブック!?」
「いいから」
少し迷ってから、セシリーはシーブックに電話を手渡した。
279 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 八の二投稿日:2006/12/23(土) 03:00:34 ID:???
「もしもし」
『ん? …君は
シーブック君か』
「ええ、そうです。キンケドゥのことなんですが」
『君からも言ってやってくれ! 君なら妹を説得できるだろ』
「いえ、僕もセシリーと同意見です」
『な… 落ち着いてくれ! これもキンケドゥの策略かもしれないだろう!?』
「…………」
『罪もない僕らに容疑を被せて、自分達はのうのうと暮らしているんだ。きっと!』
「それは…違います」
『確かに証拠はない。でもあり得る話じゃないか』
「ありえません」
『……言い切れるのか? どうして?』
「僕がキンケドゥだからです」
空気が凍りついた。
ゴォゴォと、ストーブの炎が低く唸る。
セシリーは目を丸くして、息を呑んでいた。
『…今、何て言った?』
「ですから、僕がキンケドゥなんです。正確には主犯ってことですが」
『…………』
「だけど、セシリーもカロッゾさんも関係ありません。
カロッゾパンが隠れ蓑ってのも大嘘です。ただ、僕の正体を黙ってもらってたってだけで」
『…………』
「ザビーネも僕の仲間です。黒い
ガンダムに乗ってるのが、ザビーネです」
『…………どうして』
「自分達のやっていることが犯罪だって、知ってます。僕らの活動で色々な人に迷惑がかかっていることも、今回のことで再確認しました。だけど僕は今、キンケドゥをやめるわけにはいきません。助けなきゃいけない人がいますから」
『…………』
「だけど今は、ただ宇宙に行きたいだけなんです。キンケドゥとしてじゃなく、シーブック=アノーとして」
『疑惑があるのは、変わらないんだぞ』
「変わります。そのためにもアレが必要なんです」
『どういうことだ?』
「大丈夫。信じてください。セシリーの手を汚させはしません」
『本当か』
「僕の兄弟にかけて誓います」
『…………』
たっぷり三呼吸。
『……分かった。信じよう。妹に代わってくれ』
「はい」
シーブックはセシリーに携帯を返した。セシリーはまだ目を丸くしていたが、我に返ると、すぐにドレルとの会話に戻った。
シーブックは天井を仰ぎ、一つ深呼吸をした。
初めてのケースだった。セシリーやカロッゾには『見つけられた』のだし、いつぞやのユウ=カジマには『感じられた』のだ。
初めて自分から告白をした。本当のことを言うと決意した後は、考えずとも言葉が出てきた。
もう一つ、深呼吸をする。
「シーブック、終わったわ」
「ありがとう、セシリー」
二人は
カロッゾパンの地下に降りていく。
280 名前:怪盗キンケドゥ・クリスマス決戦編 八の三投稿日:2006/12/23(土) 03:02:23 ID:???
その日、08署にキンケドゥの予告状が届いた。
場所はラインフォード邸。目標は銀色ドレスとアクセサリ一式。
何のためのものなのかは、グエンの性癖を知る者ならば予想が付く。
無駄に高級なのも、シローには想像できた。
「ロラン、今日は帰りが遅くなる。パン屋の意地をかけた勝負をしなきゃならないんだ」
『
カロッゾパンのことですか?』
「ああ」
『分かりました。でも無茶しないでくださいね』
「分かってるよ。それじゃ」
携帯電話を切ると、シーブックは機体を操作した。白い巨人がゆっくり歩いていく。
「シーブック!? 何をしている!?」
「ごめん、キャプテン! 行かせてくれ!」
足元のキャプテンに叫んで、シーブックはカタパルトに乗った。
(アムロ兄さん、ごめんなさい。兄さんの言いつけを破ります)
バイオコンピュータ適性S。まるで自分用にあつらえたかのように、この機体は動いてくれる。
(だけど今回は攻めに行くんじゃない。盗みに行くのでもない)
リィズを犠牲に続けられたモニカの研究は、周りまわって自分を助けてくれている。
(俺は一介のパン職人見習いとして、勝負に行く!)
ハッチが開く。
厚い雲の切れ目から、一条の光が差し込んでいるのが見える。
「
ガンダムF91は! シーブック=アノーで行きます!!」
最終更新:2019年03月22日 21:18