742 名前:二人のサイクリング1投稿日:2007/07/18(水) 00:56:49 ID:???

 思い返せば、あの日も台風一過の晴天だった。


 六年ほど前――そう、十歳の頃だ。シンはキラと二人でサイクリングに行った事があった。
 と言っても、スポーツのためではない。近場にないパーツや薬品、専門書を探しに、隣町まで
行ったのだ。
 その頃は二人ともMSを持っていなかったし、自分達の買いたいものは他の兄弟達に秘密にして
おきたかった。だから他の兄弟に頼るなんて事は出来ない。大切な小遣いを電車代で使ってしまう
のももったいなかった。
 もちろん本当の目的は言えないので、気晴らしと言って家を出た。

「キラ、電話持ったか?」
「あ……うん。持ったよ」
「遅くなったり、もしものことがあったら連絡しろよ」
「分かってる」

 そんなアムロの言葉に見送られ、ロランのおにぎりをカバンにしまい、二人は元気よく自転車を
漕ぎ出していった。
 雲ひとつない、突き抜けるような青空だった。


743 名前:二人のサイクリング2投稿日:2007/07/18(水) 01:00:35 ID:???
 町と町の間は、ちゃんと整備されているとは限らない。
 綺麗なのは車道ばかりで、歩道は周りの雑草が好き放題に伸び、邪魔をしていた。二人とも
半ズボンだったので、生足にばしばしと固い茎が当たってきた。
 山にかかる大きな橋を行けば、走るたびに柔らかでくすぐったい見えない糸がかかってきた。
それが蜘蛛の糸だと知って、キラはまるで女の子のように大騒ぎをして、自分の顔や髪から糸を
つまみ落としていた。
 シンはと言えば、そこまで神経質になるのが理解できなくて、一々自転車を止めるキラに文句を
言った。実はシンはキラの後ろを走っていたせいで、あまりそんな被害には遭わなかったのだけど。
 それでも、自分だったらそんな大騒ぎはしない、とシンは確信していた。
 ゆらゆらと体を揺らしてキラをせかすシン。そのたびにシンの自転車もぎいぎいと鳴いた。
 姿の見えない小鳥たちも、陽の光と青空の下でチィチィと鳴いていた。


 隣町についた。
 知らない道、知らない店、知らない人たち。そんな中でも看板をぐるりと探せば、目的の店は
見つけられた。
 ショッピングセンター内のファーストフード店を集合場所に決め、二人は勢いよく各々の目当ての
店に散った。
 一時間ほど経ったころ、二人はファーストフード店で、そろって不機嫌な顔をしていた。
 目当ての品物が見つからなかったのだ。思えば、自分達の町にないものが、隣町にあるとは限らない。
 時計を見た。二時を指していた。
 店に流れるゆるやかな音楽の中、二人は相談して、もう一つ隣の町に行くことを決めた。もっとも、
シンがキラと相談をして合意に至ることなんて、初めから二人とも同じ意見だったときくらいしか
ないのだけど。


744 名前:二人のサイクリング3投稿日:2007/07/18(水) 01:01:59 ID:???
 もう一つ隣の町に行こうとすれば、県を越えることになる。
 ロランのおにぎりを食べて小腹の膨れた二人は、大通りを走っていった。
 もう正確な道なんて分からない。けれど要所要所には必ず標識が出ていて、目的地を指してくれている。
 二人はなるべく大きな車道を通り、標識を頼りに走っていった。
 車のための標識だから、もうその道に歩道はなかった。白線を踏み越えないよう注意して、道路の
端をこっそりと行った。車が物凄い勢いで脇を走り去っていく。耳の近くでびゅんびゅんと風が切る。
時折体を押してくる弾丸のような衝撃。ふと反対側を見れば、やけに高さの低いガードブロック越し
に、深い緑に覆われた谷底が見えた。
 針葉樹が槍のように幾本も突き立っている。
 自分達が谷にかかる橋を行っていることに気付き、シンは少しだけだけど、恐怖を感じた。
 そこに一台の車が爆音と共に脇を走り去っていき、その衝撃が二人の体を横に押した。
 慌ててハンドルを握り締めて、ペダルを強く踏む。自転車が強く、ぎいと鳴いた。前を行くキラも
少しだけよたついたけど、すぐに持ち直した。
 気を抜いてはいけないと思い、シンはひたすらに前を見る。それでも深い、針葉樹の谷は気になって、
横目でちらりちらりとそちらを見ていた。
 ふと気付けば、水色だった空が、段々と群青に染まってきていた。


745 名前:二人のサイクリング4投稿日:2007/07/18(水) 01:03:17 ID:???
 車道が一気に下り坂になり、二人はブレーキをかけながら下っていった。自分が切る風は心地よかった
けれど、相変わらず脇では車がびゅんびゅんと走り去っていき、その衝撃が谷底に自分達を突き落として
しまいそうで、心の底に恐怖を感じながら二人は橋を下っていった。
 ふと、前を行くキラが減速した。慌ててシンもブレーキを強く握り締め、なんとかぶつかる前に
止まった。
 また蜘蛛の巣でもかかったのか、と文句を言おうとしたけれど、キラは今までのように騒ぎなんか
しなかった。代わりに、この同い年の兄は振り向いて、こう言った。

「帰ろう、シン」

 確かに空は暗くなってきていた。けれどまだ濃い群青色だったし、体力にだって余裕はある。だから
シンは文句を言った。ここまで来て、何も得られずに帰るのか。
 そう言うと、キラは向こうの標識を指差した。キラの体が邪魔で見えなかったのだ。シンはひょいと
背伸びをして、向こうを見た。
 次の町まであと三十km。
 標識にははっきりと、そう書かれていた。


 二人は今しがた下ってきた道を上りはじめた。
 下るときは楽だったのに、上るとなると途端に苦しくなった。
 コーディネイターと言ったって、それなりに限界がある。そのうちペダルを踏むのも億劫になって、
二人は自転車を押して道を上った。
 脇で車は相変わらず飛ばしていたけど、そんなものより自分の息遣いの方がうるさかった。
 シンの自転車も、相変わらずぎいぎいと鳴いていた。けれども小鳥たちの声は聞こえなかった。


746 名前:二人のサイクリング5投稿日:2007/07/18(水) 01:04:22 ID:???
 すっかり夜になった。
 濃い群青が、墨を落としたような黒に移り変わるまで、そう時間は要らなかった。
 夏は陽が長い。夜の六時になっても、まだ空は明るい。それが暗くなった。
 もしやと思った。けれど時刻を確認しようとは思わなかった。
 余計な動きをするより、ただ自転車を押していたいと思った。

 橋が下りになった。二人は自転車にまたがり、一気に走り下りた。
 そのまま、脇目も振らず、標識を頼りに、一心不乱に自転車を漕いだ。
 もうキラも一々止まらなかった。蜘蛛の巣なんて気にしている余裕はなかった。
 漕いで、漕いで、漕いで、ようやくあのショッピングセンターが見えた。
 二人は何も言わずに、真っ直ぐそのきらびやかな光を目指した。
 自転車を止めて、あのファーストフード店に飛び込み、テーブルで息をついた。昼間の賑わいは
なくなっていて、がらんとしていた。ゆるやかに流れる音楽が妙に寒々しく思えた。
 時計を見れば、八時を過ぎていた。
 もう充分すぎるほど遅い。兄弟たちは心配しているだろう。携帯電話で連絡をした方がいいのでは
ないか。
 そうシンが言うと、キラは今にも泣き出しそうな目をして、首を横に振った。

「家に、置いてきたんだ」

 持っていたら、家から逐一電話がかかってくるかもしれない。それが煩わしくて、言いつけを破って
置いてきたのだと。
 もちろんそれを聞いたシンは怒った。何を考えているのか。煩わしいと思うなら、道中電源を切って
いれば済むことだろう!
 ――シンにしても、怒るポイントはアムロらとずれていたのだけど。

 シンの携帯電話は、原因不明の故障を起こしていた。どこに何度かけても近所の女の子の声しかしない
というので、修理に出している。
 頼みになるのはキラの携帯電話しかなかった。それを、この兄は置いてきてしまった。
 あとはもう、自分達で一刻も早く帰るしかない。


747 名前:二人のサイクリング6投稿日:2007/07/18(水) 01:06:16 ID:???
 気まずい空気の中で腹ごしらえをし、二人は自転車にまたがった。
 油分の多いファーストフードは疲れた胃袋には重かったけど、空腹のまま走るよりはマシに思えた。
 もう住宅地も真っ暗で、街灯の白い光が列を作っていた。夏のはずなのに、吹きぬける風が薄ら寒い。
時折見かける、知らない家の窓辺の明かりが暖かく見えた。うらやましかった。
 夜の道は、昼と同じ場所でもなんだか違うような錯覚をさせる。本当にこっちでいいのか、シンの
心にはずっと疑念があった。それでも前を行くキラには迷いがなく、どんどんとペダルを漕ぎ、前に
突き進んでいった。だからシンは何も言わなかった。住宅地を抜け、またあの本道に出て、悪路を
走りぬけ、散々雑草に足を叩かれながら、二人は走った。
 そうして、幾度目かの段差を踏んだとき。


 ばちん、と音がして、シンは空中に投げ出された。


 車が来ていないときだったのが幸いだった。
 シンはアスファルトに叩きつけられ、自転車は乗り手を失って雑草に突っ込んで倒れた。からから
と車輪が虚しく回り、それもやがて止まった。
 前を走っていたキラが慌てて引き返してくる。兄から差し伸べられた手を、シンは掴まずに、自分
で起き上がった。
 シンの怪我は大したことはなかった。ちょっと腕をすりむき、口を切っただけだ。しかし自転車は
そうはいかなかった。
 チェーンが切れていた。
 整備不良だった。ぎいぎいという音は、これの前触れだったのだろう。
 どうすればいいのか分からなくなって、シンは呆然と立ち尽くした。目頭が熱くなり、鼻の奥がつんと
痛くなってきた。車が一台、脇を走り去り、眩い光がシンの影を伸ばしたかと思えば縮めて、消えた。
 と、シンの自転車を診ていたキラが立ち上がって、一つ提案をした。
 二人乗りをしよう、と。


748 名前:二人のサイクリング7投稿日:2007/07/18(水) 01:07:39 ID:???
 よたよたとしたキラの運転は、渋々同乗しているシンには不安しか与えなかった。
 ただでさえ上り坂なのに、いきなり体重が二人分に増えたのだ。それでもさすがにコーディネイター
というところか、徐々に慣れてきたらしく、よろめきは大分消えてきた。
 それでも、やはりたまにはぐらついて、シンはそのたびに寿命の縮む思いをした。
 車が脇を走り去っていく。
 ヘッドライトの光が後ろから前へと飛ぶように過ぎ去っていき、二人の影を滑らかに動かして
消えていく。いくつもの光と風と音が、二人を撫ぜて、時に押しのけ、闇の夜道に置いてけぼりに
していく。
 そうして、自分達が完全に夜道に取り残されたとき、初めてシンはそれに気付いた。
 シンは、自分達の間に言葉はないと思っていた。自分からキラに話しかけることはなくなっていたし、
キラにしてもこちらを振り向くなんて事はなかった。
 だから、キラがぼそぼそと何かを呟いているのに気付いたときは、驚いたと同時に心底から憤った。
 また泣き言を言っているのか。誰のせいだと思ってる。
 シンは思い切り文句を言ってやろうと思った。口を開き、大きく息を吸い込んだ。
 そのとき、キラの声が聞き取れた。

「守らなきゃ」

 シンは口を開いたまま、止まった。
 キラはずっと呟き続けていた。守らなきゃ。僕が守らなきゃ。シンは僕が守る。絶対家まで連れて帰る。
 荒い息の合間に、ぼそぼそと。呪文のように。自分に言い聞かせるかのように。


749 名前:二人のサイクリング8投稿日:2007/07/18(水) 01:08:41 ID:???
 思えば、それは自分の勝手な考えで携帯電話を置いてきてしまったことへの罪悪感かもしれない。
 もしくは、同い年の兄弟という微妙な関係において、兄としてのプライドを保とうとしていたのかも
しれない。
 それでも、そのときのキラの様子は、いつも下らないことでケンカをしている泣き虫の馬鹿とは違った。
 キラは荒い息をしながらも、ずっと呟き続けていた。自分の声が後ろの弟に聞こえていることなど、
全く気にしていないかのように。ひょっとしたら気付いていなかったのかもしれない。
 自転車は夜道を走り続けた。ずっと、ずっと。
 そのうち、ようやく見覚えのある道路に出た。シンは思わず、くしゃくしゃに顔を歪めた。キラの
足にも力が篭った。速度が上がった。夜道の光景が飛ぶように流れ去っていった。呪文のような呟きも
更に早口に、更に強くなっていき――


 時刻は夜十時二十分。
 二人は、家に着いた。


 玄関先で腕組みをして待っていたアムロに、二人は徹底的に絞られた。
 特に携帯電話をわざと置いていったキラには特大の雷が落ちた。
 そうこうしている間に、ロランが他の兄達に電話をかけていた。二人の捜索をしていたらしい。
 アムロの説教の最中にも、続々と戻ってくる兄達。コウとシーブックは二人を見て脱力していた。
シローとドモンとカミーユは怒気を満面に表していた。
 弟達は、柱の陰からひょこんと首を覗かせていて、アムロとキラとシンを心配そうに見ていた。
 キラとシンは大泣きしていた。叱られたのが嫌だったとか、アムロを初めとした兄達の顔が怖かった
からとか、そんなことのためではなかった。
 そんなことのためでは、決してなかった。




750 名前:二人のサイクリング9投稿日:2007/07/18(水) 01:10:37 ID:???

 それから六年経ち、シンは食卓から、玄関先のアルとシュウトを見やっている。
 二人とも自分のカバンを肩にかけ、わんぱくな笑顔を見せていた。
 台風一過の今日、二人はサイクリングに出かけるのだ。
 ロランが自作のおにぎりを二人に渡している。アムロはアルに自分の携帯電話の一つを持たせていた。
 はしゃぐ二人の姿が懐かしく思えて、何故かシンは気恥ずかしくなった。
 と、玄関にキラがやってきて、アルに何事か耳打ちした。言い終わって、耳元から口を離した。
 アル、分かったかい? そう確認するように問いかけると、アルはにかっと笑った。
 そうして、がっちりと携帯電話を握って、大声で言ったのだ。

「うん、分かった! ちゃんと遅くなったら電話するし、シュウトは僕が守る!」

 思わず、シンはキラをまじまじと見てしまった。
 キラの顔色は見る見るうちに赤くなっていく。アムロも、ロランも、目を丸くしてキラを見ていた。
 真っ赤になったキラが、慌てたのか台所を振り向く。かっちりシンと目が合った。
 そのとき、シン自身も何を言おうとしたのかは分からない。気がつけばシンは口を開いていて、
そこから言葉が発せられる前にキラは階段を駆け上がってしまっていた。
 がちゃ、ばたん、と扉の音が上の階から聞こえてきた。
 玄関には、アルとシュウトがきょとんとして立っていた。


751 名前:二人のサイクリング10投稿日:2007/07/18(水) 01:11:57 ID:???
 一体どういう風の吹き回しか。自分でもよく分からない。
 だがシンは今、キラの部屋の前に来ている。
 六年前に壊れた自転車は、後から回収して直したけれど、もうシンには小さくなってしまって、
今ではシュウトのものになっている。
 六年前に欲しかった薬や専門書は、もう通販や友達のツテで手に入ってしまった。そのほかのものも、
大抵は家にいながら手に入る。
 六年前にあれほど寒く思えた夜道は、今ではすっかり不気味さを失ってしまって、もう昼の道と
変わりがない。
 何より、六年前と違って、自分達にはMSがある。
 それでも。
 台風一過の今日は、余程運が悪くない限り晴れが続くだろう。風が全てを吹き流した今日であれば、
外には清々しい空気があるだろう。
 シンは声をかけながら、部屋の扉をノックする。
 用件は一つだけだ。

 上の階から聞こえてくるのは、弟達の会話の欠片。
 ロランは台所で、もう二人分、おにぎりを握っていた。
 にこにこ笑いながら。同じく上機嫌のアムロと昔話をしながら。


 窓の外は雲ひとつない、突き抜けるような青空だった。



                           おわり

752 名前:二人のサイクリング 注釈投稿日:2007/07/18(水) 01:14:30 ID:???
自転車の二人乗りは犯罪です。マジです。真似しないで下さい。
それから自転車はあくまで軽車両なので、基本的に車道を通るべし……らしいのですが、
どうやら歩道も通ってOKらしいです。でも車道に近い端っこを通ること、だそうです。
それから良い子は門限守らないとダメです。本気で家の人は心配します。
少なくとも明るいうちに家に帰りましょう。

それから… くどいようですがパラレルでお願いします。

755 名前:勝手に後日談投稿日:2007/07/18(水) 03:21:12 ID:???
「シロー兄さーーん!みっけたぜぇ!!」
ジュドーの元気な声に、シローとガロードが集まる。
三人は打ち棄てられたシンの自転車を回収しに来たのだった。
ちなみに当事者であるキラとシンは昨夜の疲労からか泥のように眠っている。
「これぐらいなら直せば使えるじゃん」
ガロードが指を弾く。
流石に兄弟が二桁に至るガンダム兄弟の家計では、新品の自転車を買うような余裕は無い。
シローが壊れた自転車を引き起こすと、ガロードとジュドーは兄に並んで歩いた。
シンの自転車はチェーンが切れてる他に所々錆びや剥げが出来てるようだった。
「なぁシロー兄、この自転車直していい?」
ガロードが聞くと、ジュドーも「俺も、俺も」と自転車の修理を買って出た。
この二人はそういう方面に興味があるらしい。彼らは基本的に自分で工夫するコトが好きだし、
家で機械いじりをする長兄・アムロの背中を見て育ったからかも知れない。
「ん、心意気だけ貰っておくぞ」
「え~なんでだよぉ……」
何でと言われれば、シローとしては兄弟の次兄として一つ存念がある。
「そりゃお前、これはシンの自転車なんだからシンに直させるべきだろ」
自分の持ち物に対して愛着と責任を……ついでに言えば、その作業をキラが手伝えば二人にとって一番いい。
「それに、お前達に任せたらどんな魔改造になることやら……」
以前にジュドーがカスタマイズした、アナハイム社制のZモデルバイク(マウンテン)にジオニック社制のザクモデル(ママチャリ)
を強引にくっつけた自転車には、そのセンスを流石に頭を抱えたざるおえなかった。


「兄さん、見つけたきたよ」
玄関をくぐると、アムロがつなぎ姿にスパナを持ってやる気満々で自転車を直す準備をしていた。
この人は時々、自分の趣味が絡むと長兄の立場を忘れてしまうから困る。シローは頭を抱えた。
何が哀しくて五つも年上の兄に弟達の教育方針を説かなければならないのか。
と、流石にアムロも言われてわからない人ではないので、シローの意見に頷くとヒイロにキラとシンを呼ばせに行かせた。
ヒイロのズボンのピケットにはスパナが入っていたのはここだけの秘密だ。
「あの二人で大丈夫なのか?」
と聞いてきたのは、偶々空手部から帰ってきたカミーユで、彼もプチモビなどをやる手前、
この手の組み立て作業は人並み以上にこなせると理由で、シローによって二人の監督に半ば無理矢理任命されたのであった。
その横ではアムロが「僕が一番上手に自転車を組み立てられるんだ……」とかなんとか親指を噛みながら呟いていたが、
アムロが口を挟むと、変に凝りはじめて終わらないだろうと、シローの無言の訴えにカミーユは頷くしかなかった。


シンはこういうコトは普通の10歳児並だが、キラは酷い。こういう現場作業に向かないというのは重々承知で二人にやらせている。
結果、どうにもキラがシンの足を引っ張る形になり、「貸せよ!」だの「俺がやるから!」だの、シンの声が高くなる一方だ。
が、「ヘタクソ」とか「一人でやる」とか言い出さない辺り、シンもキラとの共同作業をどこかで楽しんでいるようだった。
途中、二人の進行速度に見てられず外野から口を出すガロードとジュドーがカミーユの拳骨を食らっていた。
その日、ペンキだらけになった二人が修理した自転車は、何度か整備を繰り返しながらガンダム家に共にある。



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最終更新:2019年04月18日 15:56