121ロランの商店街巡り-3 1/52017/10/22(日) 05:25:39.39ID:ARjnp5gi0
ルース商会。なかなか目立たないが、商店街の一角に存在する雑貨店だ。
「いらっしゃいませ…」
ため息などつきながら迎えたのは、娘のカテジナ・ルース。いつも店番をしている両親はどこかに出かけているらしかった。
そんなカテジナに、フランは気安い様子で声をかけた。

「不機嫌そうね、カテジナ・ルース
「あなた…フラン? フラン・ドール!?」
声の主に気付き、驚いてフランたちに向き直るカテジナ。
「そうよ、久しぶり!」
「それにロラン、あなたまで…」
「なに、二人とも知り合いなの?」
「昔馴染みなんです。僕とフラン、キースは高等部に進まなかったので、プライベートであんまり会う機会がなかったんですけど。
 最近は…たまに社交パーティの会場で見かけるくらいですね」
ソシエの問いに答えるロラン。現在もたまにソシエやキエル、ディアナの護衛役などを務めることもあるが、基本的には運転手。
会場に入ることは滅多になく顔をあわせる機会も少ない。会場に入る場合も基本的に女装姿で参加するため、カテジナには全く気付かれなかったのだ。

「…ごきげんよう、カテジナ様」
「ごきげんよう。キエル様の妹の…ソシエ様だったかしら。でも残念、今はあなたの好みそうな爆竹や花火は扱っておりませんの」
続いて、ソシエも挨拶をする。何度か社交界で会っていて知らぬ仲ではないのだが、カテジナの対応は冷たいものだった。
「買い物に来たんじゃありません!」
「そう。冷やかしならお引き取り願いたいのですけれど。大声で騒がれると困りますから」
「こンの…!」
あくまで辛辣なカテジナに、つい飛び掛かりそうになるソシエをロランが抑えた。
「落ち着いてください、お嬢様」

「…あんまり仲良くないの?」
挑発するカテジナに噛み付かんばかりのソシエを見て、フランはロランに耳打ちした。
「ソシエお嬢様は…なんというか、好戦的だから。キエル様とは仲がいいんだけど」
「なるほど」
カテジナ・ルースというのは基本的に理想論者であり平和主義者(自称)である。
不思議と気が合うフランや、理想を追うという意味で性格が一致しているロランに好感を持つ反面
行動的で何かと暴走しがちなソシエとはそりが合わないのだ。

カミ―ユの言では、カテジナも似たようなところがあるということなので同族嫌悪に似たものも感じているのかもしれない。

122ロランの商店街巡り-3 2/52017/10/22(日) 05:28:47.99ID:ARjnp5gi0
険悪な空気を払うかのように、フランが手を叩いた。
「ほら、カテジナ。後輩いじめなんかしてないで協力してよ」
「後輩いじめなんか! …協力?」
「商店街を盛り上げるために取材してるの。ルース商店だって、商店街の一部でしょ?」
フランの言葉に、カテジナはあからさまに表情を曇らせた。
家庭に問題を抱えていたこともあって、店に貢献することに対して複雑なものがあるらしい。

「あなたの頼みだし、引き受けてもいいけど…」
「条件?」
「ザンスカールのMSのデザインについてなんだけど。このデザイン、どう思う? 売れると思う?」
取り出してきたのは、MSのデザイン画。タイヤ型のSFS、アインラッドに乗ったゲドラフだ。

「わ、機械人形がタイヤにはまってる。変なの」
「あなたには聞いてないわ」
「この…むぐぐ!」
ソシエ(を含む大多数の人間が同じように感じるであろう)の率直な意見を一蹴し、カテジナはフランに聞く。
専門外ではあるが、あちらこちらを渡り歩き様々なものを目にしてきたフラン。一般の人間に比べれば確かな審美眼を持っているはずだ。

あんまりな扱いにソシエは憤った様子だったが、ここでカテジナの機嫌を損ねるわけにはいかない。ロランがどうにか口をふさいだ。
「専門家じゃないから実際はどうかわからないけど…独特すぎるわね。売るつもりなら、あまり受けないと思うわ」
「そう…」
「でも、一部の人には受けがいいらしいよ」
はっきりと言われ唸るカテジナに、そう声をかけたのはロランだった。
「え?」
「ディアナ・カウンターのハリー・オード大尉がザンスカール製MSのデザインを褒めてたって、キエルお嬢様に聞いたんだけど」
「そうなの? …やっぱり、デザインが全面的にダメってわけではないのね!」
嬉しそうに声を弾ませるカテジナ。どうやら、彼女もその"一部の人間"の一人らしい。

「わかる人にはわかる…そんなデザインなんじゃないかな」
「そうよね…なじみが薄いだけで、いつかわかってくれる人もいるわよね。じっくり時間をかければ…!」
「そ、そうだと思うよ…うん。たぶん…」
しかし、なにぶんザンスカール製MSはロランから見ても奇天烈なデザインなので自信を持っては言えなかった。

123ロランの商店街巡り-3 3/52017/10/22(日) 05:33:58.28ID:ARjnp5gi0
「ところで、なんでこんなこと聞いたの?」
フランの問いに、クロノクルに良い報告が出来そうだと喜んでいたカテジナの動きが停止した。
「そ、それは…」
「ザンスカールの副社長と恋人だからでしょ」
カテジナが答えに窮している間に、先ほどからやり込められていたソシエがあっさりと言ってのけた。
「な!?」
彼女の中ではクロノクル・アシャーとの仲は絶対の秘密ということになっているのだ。実際はいつバレてもおかしくないほどに隙だらけなのだが。
「な、なん…なん…ッ…!?」
特に親密でもない、粗野で鈍感なじゃじゃ馬と侮っていたソシエに秘密を暴かれたカテジナの驚きは相当なもののようで、言葉になっていない。

「社交パーティでいっつも親密そうに話してるし。社交界でとっくに噂になってるわ。知らない人のほうが少ないくらいよ」
慌てふためくカテジナの様子に気を良くしたソシエがさらに追撃する。
「そ、そんな…」
「カテジナ、彼氏できたんだ!」
周囲にバレていたことがよほどのショックだったのか異様に落ち込むカテジナに、フランの明るい声が届いた。
「…え?」
「ね、どんな人? 今度紹介してよ! 私もジョゼフ連れてくるから!」

「ジョゼフって…まさか、フランの?」
「そう、私の彼! ねえ、カテジナの彼氏ってどんな人なの?」
「ま、まじめで優しくて…って、言わせないでよ!」
カテジナに恋人ができたことがよほどうれしかったらしく興奮した様子のフランに釣られ、カテジナの調子が戻っていく。
しかしカテジナの調子は戻ったものの、だが今度は過熱したフランを落ち着かせなければならなくなった。

「こ、こほん。失礼したわ。では、この店のアピールポイントを一つ」
数分後、落ち着いたフランが話を本題に戻す。
「この商店の良いところ…ねえ。ザンスカール製の良品を多く扱ってるわ。お値段も手ごろ」
少し悩んで、カテジナが答えた。
「…あなた、ここをザンスカールの販売店にする気じゃないでしょうね?」
「有力な選択肢の一つではあるわね」
にべもなく言い放つカテジナ。割と本気のようだった。
「………」
「何、その顔」
「まあ…いいか」
店のアピールになっていないのでは。
商店街の活性化になるのかどうか、ちょっと微妙な気はしたが。カテジナ自身はやる気らしいので放っておくことにした。

124ロランの商店街巡り-3 4/52017/10/22(日) 05:35:45.34ID:ARjnp5gi0
カテジナに礼を言って店を出て、車を走らせる。
「…フランさん、カテジナ…さんに彼氏ができたのがそんなに嬉しかったの?」
「うん。だって親友に彼氏ができたのよ。嬉しいに決まってるわ」
ソシエの問いに、今度は落ち着いた様子で答えるフラン。昔からなぜか何かと馬が合って、学校に通っていたころは良き友人として付き合っていた。

「昔からね…あの子、ちょっと危ういところがあって。心配してたのよ。でも、頼りにできる人に会えたって聞いたら…心配ないかなって」
「ふーん…」
わかっているのかいないのか少し微妙な様子のソシエだったが、そんな様子を察してか、ロランが助け船を出す
「ソシエお嬢さんだって、メシェーに恋人ができたら嬉しいんじゃないですか? 幸せそうにしてれば、なおさらですよ」
「あ…そうよね。そういうこと」
本当はもっと複雑な問題だったが、説明するのも難しい。とりあえずはそれで納得してもらうことにした。

「ところで、さっきハリー大尉がザンスカールのMSを褒めてたって言ってたけど…あれ、本当なの?」
「本当だよ。お茶会の給仕をしているときに、キエルお嬢様が話していらしたのを聞いたんだ」
お茶会、という言葉を聞いてソシエの体がびくりと震える。大人しくお上品にしているのが苦手なソシエにお茶会は苦行なのだ。
「そう。でもロラン、ハリー大尉のセンスって…」
「………」
ハリー・オードは日常の少しセクハラじみた言動を除けば紳士といえる男であり、親衛隊隊長の名に恥じぬ忠誠心と能力、MS操縦技術を備えた男である。
しかしそのセンスは極めて独特。過去、ディアナに扮したキエルの買い物に護衛として同行したことがあるのだが、後にキエルはそのセンスを"前衛的"と評している。

当然、カテジナはそんなことを知るはずもない。
「…まあ、嬉しそうだったから、いいんじゃないかなって」
「そうね…」
単純にゲテモノ好きがゲテモノに好感を抱いただけ、というオチ。
言わぬが花とは言うものの。少しの罪悪感を感じながら、ロラン達は次の店を目指して車を走らせた。

125ロランの商店街巡り-3 5/52017/10/22(日) 05:44:36.19ID:ARjnp5gi0
順調に車を走らせていると、ソシエがロランに聞いてきた。
「ところでさ、商店街の裏にもお店があるみたいだけど。あれって商店街のうちに入らないの?」
「入らないんじゃないですか」
ああいう裏通りにあるのは、大体が居酒屋であるとか、いわゆる"夜のお店"と呼ばれるものだ。
イメージ的にも商店街の管轄とは思えなかった。
「なに、興味あるの?」
「せっかく来たんだし、どうせならいろんなところを見て回りたいじゃない?」
「お嬢様が入るようなところじゃありませんよ!」
「何よ、私だって立派な成人よ。成人の儀だって終えてるんですからね」
日登町ではともかく、ビシニティの基準ではソシエもロランも立派な成人である。
「そ、そりゃそうかもしれないですけど…」

「でもまあ、商店街に近いところにあるのは事実よね。ついでに取り上げるのも面白いかも」
「でしょ?」
「どうかと思うけどなぁ…」
盛り上がるフランとソシエとは反対に、何が起こるかわからないと乗り気でないロラン。
ああいった場所は表通りよりもトラブルが増える傾向にあるのだから当然である。

「大丈夫よ。いざとなったらロランが守ってくれるんでしょ?」
フランが言った。恋愛とは程遠い位置にいるとはいえ、曲がりなりにも女性にこう言われては弱い。
そもそも仕事の手伝いをしているのだし、ここで拒否して二人で勝手に行かれても困る。ならば最初からロランがついていたほうがいいだろう。
「じゃあ、せめて開店前に行って店員さんに話を聞いてくるだけにしようよ。遅くだと物騒だから」
「えー、そんなのつまんないわ」

「つまらないも何も、お嬢さんやフランに何かあったら大変なんですから。嫌なら行きません。
 二人だけでも絶対に行かせないようにジョゼフさんや旦那様にも連絡します」
「ちぇ、お姉さまみたいなこと言っちゃってさ」
「まあ、いいんじゃない? 入ってお店の雰囲気だけでも楽しんでみるのも悪くないでしょ」
「…ま、行かないよりはいいけど」
「とはいえ開店前か…早めに行ったほうがいいかしら…」
少なくとも店に入れて話も聞ける。選択肢が増えて喜ぶフランとソシエを後目に、ロランは肩を落としていた。

※ 風呂敷は広げるためにあるとなァ!(書くとは言ってない)
あと今更かもしれませんが、∀キャラ中心に出てくる予定です。その時々で変わるかもしれませんが




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最終更新:2018年09月17日 11:59