144ロランの商店街巡り-5 1/42017/10/27(金) 13:35:22.91ID:1v9SaGKg0
"酒楽"に到着したロラン達は早速、扉を叩いた。
開店前で誰もいないかもしれないと思っていたが、ほどなくして中から店長代理のジュンコ・ジェンコが現れた。
「いらっしゃい。悪いけど、まだ開店前なのよ。もう少し遅くに来て…あら、ロランじゃない。どうしたの?」
定型文でお引き取り願おうとしたジュンコだったが、客の中にロランの姿を確認して態度を変えた。

「すみません、ジュンコさん…僕の知り合いがどうしてもお話を聞きたいというので…」
「ロランって本当に顔が広いのね…」
「…ひょっとして、来たことあるの?」
「何度かありますよ」
ソシエとフランの問いにロランが何のこともないように答えると、ソシエとフランの顔色が変わった。

「不潔! ロラン不潔! サイテー!」
「ソシエさん落ち着いて。…そんな顔してたってロランも男の子だもんね…でも意外。そういう度胸ないかと思ってた」
ロランは顔を真っ赤にしてぽかぽかと胸を叩いてくるソシエにも、それをなだめるフランにも困惑したが、すぐ自分がとんでもないことを言い放ったことに気が付いた。
「ち、違うよ! そういう意味じゃなくて!」
否定するも、二人は全く信じていない顔である。変質者を見るような目で距離をとられる。
その様子を見たジュンコが、笑いながらフォローを入れた。

「残念ながら、ロランの言う通りさ。酔っぱらったお兄さんを回収してもらったり、身内の不始末を謝りに来たりしてるんだよ」
「本当ですか?」
「本当だよ。取ったりつまみ食いなんかしないから安心してよ、可愛いお嬢ちゃん」

「あ、安心って――!」
また顔を真っ赤にして言い返そうとしたソシエだったが、店の奥から物音が聞こえてそちらに意識を向けた。すると。
「…なに、お客?」
「こんな時間に客なんか来ないだろ。さっさと掃除…を…」
そう言いながら店の奥から現れた二人を見て、場が凍り付いた。

145ロランの商店街巡り-5 2/42017/10/27(金) 13:36:04.36ID:1v9SaGKg0
「「………」」
「「「何してんの?」」」
踵を返して戻ろうとする二人を、見事に揃った三人の言葉が止めた。
それもそのはず、この場に似つかわしくない人間が二人もいたのだ。しかも女装した姿で。

シン・アスカ・ガンダムキラ・ヤマト・ガンダムである。カツラやメガネ、化粧などしているが、知人や身内の眼は欺けない。
「ななな、何のことかしら!? お…あたしシンディっていう名前があるの!」
「そそそ、そうよ人違いよ! 私もキララって名前が…」
カシャ、と音がした。フランのカメラのシャッター音だ。
「やめて撮らないで!」
「さ、撮影は禁止ですわ名も知らぬお客様!?」

「二人とも、もうバレてるから繕わなくていいよ…」
慌てて必死にごまかそうとする二人に、ロランは冷めた目で言った。
「で、その恰好は趣味?」
「まさか!」
「無理やり着せられてるんだよ!」
続けてフランの問い。諦めたらしく口調を元に戻した二人は手を振って否定する。

「無理やりって、なんで…」
その問いに、背後のジュンコが答える。
「また性懲りもなくうちの店壊したから働かせてんのさ。こうした方がお客の受けもいいし。…あ、保護者の許可はちゃんともらってるよ
「あ、そうなんですね。それなら…」
アムロ兄さんがこんな方法を許すなんて珍しいなぁと思いつつも、彼が了承しているのなら問題はないだろう。
ジュンコが半ば脅しに近い方法で許可を取ったことなど知らないロランはそう判断した。

「すぐ怒るシンが悪い!」
「キラ兄が俺の飯を食わなきゃこうならなかったろ!?」
「うるさいよ、二人とも! 喧嘩すんならおさわりOKにするよ!?」
「「ヒェッ!?」」
醜い兄弟げんかを始めようとした二人を、騒ぎを聞きつけた従業員のコニーが黙らせた。

146ロランの商店街巡り-5 3/42017/10/27(金) 13:38:36.84ID:1v9SaGKg0
「…あの、家族がいつも大変なご迷惑を…」
その光景を見て深々と頭を下げるロランに、ジュンコは苦笑した。
「別にあんたが謝る必要はないよ。謝って痛い目見るのは当人でいいんだ」
「…せめて、目いっぱいこき使ってあげてください」
「おいィ!?」
「ちょっと兄さん、勘弁してよ!」
「さァて、何が聞きたいんだっけ?」
「ええと、ですね」
シンたちを無視しつつ、ロラン達は事情を説明する。


「なるほど、商店街の振興のついでにね…」
事情を説明されると、ジュンコは納得した風に頷いた。
「近いところにありましたから、せっかくだということで」
「そうだね。一言、アピールポイントでも言えばいいのかい?」
「そんな感じでお願いします」
「可愛い女の子(独身)が集まる大人のお店、酒楽。日常に疲れた時は、ぜひお越しください…ってところかな?」
「大人のお店って…」
「はは、そういうやらしい意味じゃないよ。お客に酒出して、愚痴聞いて…接待してやるだけさ」
大人はつらいのよとうなずきながら語る。ロランはそのしぐさにどことなく哀愁を感じた
「ああ、それともう一つ。たまに期待の新人が働いてるってのもよろしく。おさわり厳禁だけど」
最後にウィンクなどして、ジュンコがそう付け加えた。
「了解です」
「ちょっと、何メモしてるの!?」
「うんうん。これで客が増えそうだ」
「「待って!」」
止めようとするシンとキラの声は届かず。
ロランは少し可哀想だと思いつつも、面白い記事が書けそうだと喜ぶフランの後を追って店を出て行った。

147ロランの商店街巡り-5 4/42017/10/27(金) 13:41:09.33ID:1v9SaGKg0
一方、日登町の裏手にあるマウンテンサイクルにはバンデッドとマヒロー、そしてターンXが控えていた。
「…ヒマだねー、ギム」
ターンXトップを抱えたバンデッドのコックピットに寝転がりながら、メリーベルが言った。

「まったくだ。ディアナ・ソレルと町の護衛だかなんだか知らないが。山の上で街を見渡すだけの仕事。シミュレーションでもやっていたほうがよほど面白い」
同じくターンXトップのコックピットに寝転がっているのはギンガナムである。彼はディアナ・カウンターの頼みで警戒任務にあたっていた。
「だーッ! もう我慢ならねェ! ギンガナム、俺ァ町に行くぜ!」
我慢がきかなくなったか、スエッソンがマヒローの調整をしていたシッキネンを叩き落して飛び乗った。
「待てスエッソン、命令は――」
「マニュアル通りにやるのは阿呆だっつったのはお前だろうが!」
ギンガナムの言葉も待たず、スエッソンを乗せたマヒローは町へと降りていった。

「行っちゃったね」
「…マニュアル通りにやるというのは阿呆のやることだが、マニュアルを無視するというのはだ。その阿呆すらやらん愚行だ…!」
ギンガナムが忌々しげに吐き捨てた。どうせサボってケーキ屋だか菓子屋にでも行くつもりだろう。
「まーたディアナから苦情来るんじゃないのー?」
「知恵の足らぬ奴と思ってはいたが、あそこまで愚かとはな…ふむ?」
「なになに、なんか面白いことでも思いついたの?」
「いや。今は何もない。任務に戻るぞ。なお、スエッソンは放置。連れ戻すほうが面倒だ」
「見放されちゃった。あーあ、かわいそーなスエッソン・ステロ」
ぜんぜん可哀想と思っていない口調で、メリーベルはつまらなそうに町の監視に戻るのだった。


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最終更新:2018年09月17日 12:11